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ID.5030
 
■投稿者:パラレル 
■投稿日:2018/07/10(火) 22:20


X-Traveler Episode.4 Part.B
 様々な出会いが会ったトラベルから戻って一日明けた。渡、将吾、鈴音は寧子に連れられて八塚町にある一軒の洋菓子店を訪れていた。現在、午後三時を少し過ぎたところだが、もちろん中学生にお菓子を奢ってもらいに来たのではない。
 洋菓子店パトリモワーヌ。それが恭介に指定された会合場所だ。八塚駅から徒歩十分の立地に佇むその店には気負わせるようなお洒落さは薄く、何度も塗り重ねられてムラが目立つ白壁は住民の往来を眺めてきた年季を感じる。一階を乗り越えるほどに威勢良く伸びる観葉植物のアーチを抜けて白い扉を潜った先で渡達を迎え入れたのは、甘い匂いが優しく誘う安らぎの場だった。
「いらっしゃいませ。いや、お待ちしておりましたの方が良いかな」
 迎え入れる声はオーナーである巽恭介のもの。お客様を迎え入れるには些かラフな言葉と丁寧な接客態度で最も入り口に近いテーブルに案内される。
「こちらはサービスのアイスティーとガレットです」
「あ、どうも……あれ」
 そのタイミングに合わせて配られる紅茶とガレット。流れるようなやり取りに思わず頭を下げた渡だったが、顔を上げた時に向き合った顔に思わず目を丸くした。
「確か昨日……」
「気づいたんなら接客は無しで。あそこに居た一人で、名前は小川オガワ真魚マオ
「真魚……ああ、昨日はありがとう。俺は」
「そっちのお姉さんが言ってたでしょ。お互い様って。自己紹介もどうせ後でやるだろうし今はいい」
 昨日の一件で仲間と合流した寧子に真っ先に声をかけた少女にして、自分達の窮地を契約相手の歌声で助けてくれたトラベラー。それが彼女が渡の真正面に立っている店員の正体だった。
「ここでバイトしてるようだけど、他の店員もトラベラーなのか」
「今日居るのは全員そういうこと。事情知ってる者同士都合がいいから」
 ガレットの食感と上品な甘さを味わいながら他のテーブルを見れば、確かに昨日の合流場所に居た面々も店員と客に別れてそれぞれのロールをこなしているのが見えた。正道とかいうあの威圧感が洒落にならなかった男が店員側なのはどうかと思うが。
 逆に昨日の場に居なかった新顔も居る。奥の方のテーブルで神父らしき黒づくめの服装の男性が、糸目を一ミリも開けることなく熱の籠った弁を奮っているのがまず目に入った。彼と話している店員は真魚と同い年くらいの赤毛の少女で、世間知らずのお嬢様のような笑みと死んだ魚のような表情を入れ換えながら生返事を返している。二人とも何とも無駄に器用なことだ。
 その他昨日見た者見ていない者含めて合計二十名。小さな店のイートインスペースは満席。店員もエプロンを外しだしたということは、既に面子は揃って世間話をする時間は終わったということ。
「そろそろ始めようか」
 恭介の一声で談話が止まる。やはり単純に最年長という理由だけでこの場をまとめているだけではないらしい。
「今日集まってもらったのは新たな仲間……になるかもしれない、寧子ちゃんの恩人の紹介のため。あと今後の活動についても」
 そう言って恭介は寧子に視線を向けて渡達の紹介を促す。
「鶴見将吾。寧子ちゃんとはまあ……昔から付き合いがあって助けた。それだけだ」
 それを遮るように将吾が口を開く。自ら切り出した割にはぶっきらぼうで干渉を拒むような自己紹介。
「弟切渡。将吾と同じ学校だけど別口でトラベラーになった感じ」
 渡もそれにつられて自分でもよく分からない情報を話す始末。いや別に味気ない自己紹介でも一切問題はないのだが。
「逢坂鈴音。噂をかねがね聞いていたパトリモワーヌにこういうかたちで来ることになるとは思いませんでした。いやはや渡君にナンパされてついてきて良かった」
「この人の話は聞き流してくれて問題ないです」
 少なくともこんな冗談を口走る必要はない。巻き込まれたようで渡の首筋に嫌な汗が落ちる。恐る恐る他の席に目を向ければ困惑や不快感、憐憫や嘲笑が籠った視線が刺さる刺さる。とりわけ真魚からは親でも殺されたのかというほど憎悪に満ちた目で睨みつけられていた。
「俺らのコミュニティにようこそ。俺は射場イバ正道マサミチ。よろしくしようや」
 気まずい空気を断ってくれた正道に対しては第一印象から大きく上方修正しなくてはいけない。少し顔が怖いだけで根は真っ直ぐで気配りのできる男性のようだ。お陰で向けられる視線も少し柔らかになった。自己紹介や質問のやり取りも何人かと交わすことができた。
「渡さん、一つ尋ねてもよろしいでしょうか」
「ああ」
「貴方は『デクス』と似たモンスターを連れていると伺いましたが本当ですか」
 だが、その柔らかな雰囲気もある質問によって断たれる。渡を名指しした質問者は神父と華麗な二面相を見せていた赤毛の店員——綿貫ワタヌキ椎奈シイナ。お嬢様モードの表情と丁寧な口調を重ねてはいるが、質問内容は渡に関する情報で彼女らが最重要視しているであろうこと。聞きなれない単語でもデクスが何を指しているかは分かる。覚悟はしていた。どうせ話せることは限られているのだから正直に語るまで。
「『デクス』ってのは足が千切れても身体が崩れても動いていたあの化け物か。初めて見たけど、確かにあれは俺の契約相手と似た姿をしていた。正直驚いたし、あれが何なのかこっちが教えてほしいくらいだ」
「似ている理由を知らない以前に、『デクス』のことも知らなかったということですか」
「ああ。X-Passのボットに珍しいと言われてたのに、あんなゲテモノのそっくりさんがうじゃうじゃ居るなんて思ってもなかった」
 正直に話したつもりだがあまり反応は芳しくない。だがそれも仕方ないだろうし、元からやりにくい雰囲気で反論を受けても堂々と受け止めるつもりだった。だが、実際に渡に向けられた反論は彼の予想していた方向とは違った。
「X-Passのボットが? あれはそんなに饒舌なものではなかったと思いますが」
「いやいやそれこそ冗談だろ。俺のはうるさかったし、終始俺をコケにしてきてたから」
 それは最初のトラベルにおいてチュートリアルと称して終始渡を煽ってきたボット。あれが饒舌でなくて何だというのか。
「私達の知るボットの応答は事務的な敬語ばかりですが」
「人違いというか個体差というかそういうものがあるのかも」
「このコミュニティに居る全員が事務的な敬語のボットしか知りません」
「そう言われてもな……」
 とうの昔に沈黙しているために証明手段もなく、かといってこのままなかったことにできるほど印象が薄いなんてことはあり得ない。そもそも話の方向自体が想定していたものとはずれているため、このまま突き詰められたところで渡には意地を張ることしかできそうにない。それは双方にとって印象を悪くすることにしかならないだろう。
「そこまでで良いのでは。どうやらデクスの件は彼自身も受け身で何も知らないようですし。それにもう一つ議題があるのでしょう」
 嫌な空気を断ったのは十分ほど前まで椎奈相手に熱弁を奮っていた神父――天城アマギ晴彦ハルヒコ。先程のギャップのせいか少し薄ら寒いものを感じてしまうが、穏やかに場を収めようとしてくれるのはありがたい。熱い芯を持っているだけで理性的な振る舞いを出来るほどには余裕のある大人で良かった。
「そうだね。会話も弾んだのなら次のトラベルについての話に移ろうか。弟切君、悪かったね。『デクス』についてはこちらも詳しいことは分かっていないんだ」
「そうですか」
「『デクス』についても『X』についても分からないことが多くてね。私達は分担して調査を進めているんだ。次の調査には君達にも是非参加してほしい」
「そうでしたか。俺個人としては良いですけど」
「寧子ちゃんも行くんだろ。なら放っておけない」
「場所を決めているということは有益な目標があるということ。ぜひ便乗させてもらいます」
 それぞれ思惑はあれど、この誘いを断る理由がないのは三人とも同じ。こういう情報や共同作戦こそがコミュニティという繋がりに参加するメリットだ。
「昨日逢坂さん達が『デクス』と遭遇した場所に例の建造物の成れの果てがあった。先日発見した二か所と合わせて三か所。それぞれ分かれて調査したいと思う」
 昨日のトラベルで見た建造物。もしコミュニティに合流することがなければ調べようとしていたものを盛り込む辺り、最初からこちらを取り込んだ上で次の方針を立てていたらしい。
「分担や細かい日取りはまた追って相談する。それまでの間はいつも通り好きに過ごしてくれ。以上。解散」
「あれ、終わりですか」
「メインはあくまで君たちの顔見せだからね。場合によっては話さないつもりだった」
 渡と椎奈のやり取りが無ければ、それこそ顔見せだけで終わらせるつもりだったようだ。見切り発車での情報交換や自由行動など、活動方針や集会のようなものがあってもあくまで寄り合いコミュニティということか。
 だがこういうゆるい集まりの方が動きやすく居心地が良い。正直なところ、渡達三人は初めて訪れた洋菓子店の雰囲気を早い段階で好ましく思っていた。だから、今日残された時間をすべて情報交換と雑談で浪費してしまうのも仕方のないことだ。
 天宮アマミヤ悠翔ハルト黒羽クロハという名の契約相手が白い梟のモンスターに進化してしまったと語り、雑?サイザキ草介ソウスケは特異点で見つけた食べられる雑草を教えてくれた。とあるトラベラーを探している星埜ホシノ静流シズルはアハトが人語を介することを知ると鈴音の意思で食わせていないことをしつこく確認し、とあるモンスターを探しているという羽賀ハガ関奈セキナは恩のあるそのモンスターが片言でも人の言葉を話したことを気にしていた。昨日の逃亡を雷雲の目くらましで手助けしてくれた斑目マダラメランに感謝すると、優木ユウキ朝陽アサヒ峰原ミネハラ烈司レイジが「危ないときは守ってやるからこのコミュニティに居ろ」と熱く迫ってきた。
 それぞれの事情と願いを持つトラベラー達が行動と情報を共有するコミュニティ。洋菓子店に隠されたその裏の姿を知れたこと、そしてそこに参加できることは幸運だった。
「ありがとうございます。また来ます」
「気に入ってくれて何より。いつでも歓迎するよ」
 渡達三人がパトリモワーヌから出たのは入店から二時間後のこと。次の調査には当然参加するが、八塚町内ならコミュニティにも結構な頻度で顔を出すこともできる。そう考えるほどに前向きな気持ちで店を後にすることができた。
「寧子ちゃんの恩人というだけあって、中々曲者揃いでしたね」
「どういう意味ですかそれー」
 三人と相対したコミュニティの面々も同じような印象を抱いていた。曲者と言った椎奈の声にも嫌悪感が籠らない程度には、新顔が去った後の店内の雰囲気も悪くなかった。
「でもいいんですか。あのこと誰にも言わせなくて」
「今日言う必要はないだけだよ。いずれは分かること。それこそ次のトラベルで彼らも気づくだろうからね」
「私は他人の口からでも、早めに知っておいた方がいいと思いますが」
「百聞は一見に如かず。自分の身体で感じてから頭で理解した方が早いよ」
 だが良い印象を持っていれば必ず情報を共有するというものではない。ましてやその真実がショッキングであるのならば。




 渡達がパトリモワーヌから出て三時間後の午後九時。貸し切りを解いての通常営業も終わり、既に店内には人一人居ない。
「っかー、負けた負けた! 今日は見事に負けたよ、くそったれ」
 同時刻、とあるパチンコ店の前では灰色のアロハシャツを着た男が一日で七万円ほど溶かした悲劇を前に、やけくそとも取れる大笑いで精神を保とうとしていた。
「ん、メール? 何だあいつか。……ハッ、そう来たか」
 だがその抵抗の必要もすぐになくなる、カーゴパンツのポケットのバイブレーションが知らせるのは、一人の少年が自分との戦いの後に辿った足跡と次の展開。
「いいねえいいねえ。これは俺も一枚噛まないと勿体ない」
 現代日本で公に認められている賭け事ではけして味わえないスリル。それを楽しむような自分から見てもおもしろいほどにおかしな相手。奴ともう一度相まみえる機会が目の前に転がっている。それだけで今日の手痛い出費にも耐えられるというもの。
「再会が楽しみだ。——なあ、渡」




 


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       No.5031 あとがきパラレル2018/07/10(火) 22:23