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ID.5022
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/07/07(土) 15:16


*The End of Prayers*  第17話 C
◆  ◆  ◆



 大広間にたどり着いたブギーモン達は、すぐに子供達の存在を確認する。
 ──が、その様子を見て、「今すぐ捕獲する必要はない」と判断した。矛先は未だ抗うデジモン達へと向けられた。

 最早ブギーモン達の相手にされることもなく、氷の壁の中で、子供達はひたすらに泣き叫んでいる。

「蒼太っ……蒼太……コロナモンが! 来たら、もう、こうなってて……!」
「コロナモン! コロナモン!! ああああっ……! なんで!! コロナモン!!!」
「刺さってるの取れないよ……! どうしよう! このままじゃ死んじゃうよぉ!」
「だ、誰か……そうだ、救急車……! 」
「繋がらないよ!! 何で!? 手鞠たちと電話できたのに何で出来ないの!?」

 ヒステリックに叫ぶ。電池がほとんど残ってない画面には、“圏外”の二文字が無情に表示されていた。

「何で! 何でよ! 誰かコロナモンを助けてよ! お願いだから……っ!
 ……ガルルモン!! ガルルモン助けて!」
「コロナモンが死んじゃうよ! ガルルモン!!」
「……ガルルモン、ねえ……!!」

 ガルルモンは戦っている。
 何体ものブギーモンを相手に戦っている。
 爪で裂き、牙で砕き、既にブギーモンを何体も殺して。
 ミノタルモンの砲撃を必死に避けながら、炎を吐き、氷の壁を作り、攻めて守って、傷だらけになって。

 ガルルモンは視線だけをこちらに寄越した。
 目が真っ赤に腫れていたのは、決して、顔に攻撃を受けたからなどではないのだろう。

 ──目の前でコロナモンが貫かれて。
 戦いの中で辛うじてガルルモンが出来たことは、瓦礫や攻撃から守るために、小さな体を氷の壁で覆うこと。
 止血も試みた。しかし、迫り来る数多の攻撃に間に合わない。

 ウィッチモンの使い魔はガルルモンを必死に守っていた。通信がきちんと繋がらなかったのは、ウィッチモンへのダメージの負荷に依るものだ。

「…………誰も……」

 蒼太は絶望した。

「いない、のか……」

 ここに、コロナモンを助けてくれる誰かは、いない。

 槍が刺さった身体が僅かに動く。口から乾いた空気が漏れる。

「…………た……」
「!? コロナモン! 私だよ! わかる!?」

 コロナモンの手を握り締める。握り返されることは、なかった。

「……ま、た……。……れ……か……」
「……え……?」
「お……れ…………──モン……を……」

 言葉と共に血がこぼれる。

「や、やだ……! やだ……!」
「喋っちゃだめだよ!」

 もう一方の手を、蒼太は強く握り締めた。──肌を伝う電気の感覚が、いつもよりも強く思えた。

「……そ……た……?」
「……! そうだよ! 俺だよ! 俺たちここにいるよ……!」
「迎えに来たんだよ! 一緒に帰ろうよ!」

 体温がひどく下がった手を、蒼太は必死に握る。コロナモンは虚ろな表情だったが、それでも二人に微笑もうとしていた。

「……あ……がと……。……お……、は……い……。……が……がる……と…………け、て……」

 “俺はいいからガルルモンと逃げて。”

「……何、言ってんだよ……」

 蒼太には、そう言ったのだとわかった。

「そんなことできるわけないよ!」
「こ、コロナモン、何て、言ったの……?」
「置いて行くなんて嫌だ! 絶対嫌だ……!」

 コロナモンから手を離し、立ち上がる。

「ちくしょう……!! ちくしょう!! よくもコロナモンにこんな事……!」

 叫びながら、リュックサックの中身をがむしゃらに投げ飛ばした。
 周囲にあらゆる煙が立ち込める。ガルルモンの周囲を、ウィッチモンの使い魔が風で覆う。

『コロナモンを連れて逃げなサイ!』

 風と煙に声が混ざる。

『早く行きなサイ!!』

 蒼太は聞かなかった。泣き叫びながら、ありったけの武器を投げつけていく。

「あのガキィ……!!」

 ブギーモンの一体が蒼太に矛先を変える。──その背後から、ガルルモンが首筋を噛み砕く。

 蒼太は自分のリュックサックの中身も、花那から剥ぎ取ったそれの中身も、全て辺りに投げ尽くした。

「……ああっ……ああ……もう……なくなっちゃった……」

 膝が崩れる。最後にナイフが手に残る。

「……もう、これしか……。……俺が……」
「…………そ、た」

 その後ろ姿を、今にも閉じそうな瞳で見守っていた、コロナモンが呼び掛けた。

「ど……して……。……そ……な、も……」
「だ、大丈夫。大丈夫だから。待っててよコロナモン。俺が……俺が、コロナモン守って、連れて帰るよ。だってこれは、凄いんだ、あの時だって、フーガモンだって、こ、殺せて」
「……き……み、が……?」
「……ち、ちがう、それはチューモンが……」
「…………よ、か……た……」

 よかった。
 殺したのが君じゃなくてよかった。

「……」

 ──コロナモンの途切れた言葉を汲み取って、蒼太は言葉を失った。コロナモンはこの状況でさえ、自分達に誰かを殺めさせたくなかったのだ。

「どうして……。……コロナモン……。…………どうして!!」

 手の力が抜け、ナイフを落とす。
 カラン、と、むなしい音が氷の壁に反響した。

「……わかったよ。もう、こんなこと、しないから……。だから帰ろうよ……。誠司も、宮古も、ふたりに、会いたいって……」
「……っ! ねえ! 謝るから! 逃げたの謝るから……! ガルルモンにもう酷いことしないで! 攻撃しないで! コロナモンを……助けてよ……」
「コロナモン……お願いだよ……」

 コロナモンへと歩み寄る。
 途中で、何かを落とす。カランと音が鳴った。蒼太は虚ろな目で床を見る。

「……」

 服に取り付けていたものだ。
 アンドロモンがくれた、最後の何か。手のひらに収まりそうな大きさの機械。

 これは何だった?
 アンドロモンは、何と言っていた?

「…………これは……」

 ───『これは、デジヴァイス。デジモンとパートナーとを結びつける……』────

「……」

 ────ああ、それなら。
 お願いだから、自分とパートナーを結んでくれ。
 お腹が空いても、パートナーが食べていれば死なないというのなら……今だって似たようなものじゃないか。

「コロナモン」

 横たわるコロナモンの手を取る。
 落としたデジヴァイスを握らせる。
 その上から、自身の手を覆い被せ──離れないように、しっかりと握り締めて。

「……お願いだから……」

 お願いだから、神様。

 自分と彼を結び付けてくれ。
 命を結びつけてくれ。
 どんなことでもするから。彼の言うことだって、これからもっとちゃんと聞くから。だから、どうか彼を死なせないで。
 小さな体で戦った、守り抜こうとしてくれた、この勇敢な友達を──

「コロナモンを……助けてよ!!」


 ────直後。

 蒼太の指の隙間から、七色の光が飛散した。



◆  ◆  ◆



 全身を衝撃が走る。

 それは、初めて出会ったあの時のような。
 けれどあの時よりもずっと強い。熱くて、痛くて、胸が苦しくなって。

 ────何が起きたのかわからない。

 眩しくてたまらない。
 目が開けられない。
 握っていた手の感覚が無い。

 涙でぼやけた視界。
 コロナモンがいない。
 刺さっていた槍が砕けている。
 けれど、何故だか胸に哀しみは湧かなくて。
 ──涙を拭いて、立ち上がる。

 そして一面の光の中、何かが空へ翔るのを見た。
 


◆  ◆  ◆



 小さな体の自分が嫌いだった。
 弱かったから嫌いだった。

 いつも庇われて。いつも守られて。
 守りたいものひとつ守れない。

 せめて力があったならば。
 せめて君と同じくらいに。

 そうすればきっと、いつの日か。
 いつかの日のように肩を並べて、戦うことができるのに。



◆  ◆  ◆



 灰色の空を獅子が翔る。

 朱色の毛並みに黄金のたてがみ。毛並みと同じ色をした翼。
 その姿は、夜明けの太陽を思わせた。

 獅子は咆哮を上げる。
 そして全身に炎を纏った。ガルルモンを狙う者達めがけ急降下する。槍を構えたブギーモン達が、炎と衝撃にのたうち回る。

 蒼太は目を離せなかった。
 初めて見る獅子の姿に。その眩しさに。

 放たれた炎は他のデジモン達を寄せ付けない。獅子は、広間を焼き付くさんばかりに暴れ回る。 

「……ねえ、蒼太……。……火事になってる……」
「……うん……」
「コロナモン……どこ行ったの……?」

 炎の壁につつまれる。
 氷の壁が、溶けていく。
 それは二人を守るように円を描いて燃え上がる。不思議と、熱さは感じなかった。

 ブギーモン達は攻撃の手を止めた。このままでは城が焼失しかねないと、消火活動にあたり始めたのだ。

 周囲に敵がいなくなったことを確認すると、獅子はガルルモンの側へと降り立った。

「……」

 獅子の目には不安の色が見えた。しかしガルルモンは躊躇う事なく、自身より少しだけ小さな獅子の頬に寄り添う。

「生きていてくれてありがとう」

 その言動に獅子は驚く。わずかに瞳を濡らして、瞼を伏せた。

「どうして……俺だって」
「お前しかいないだろう。それに……どんな姿になったって、わかるよ。お前のことは」
「…………ガルルモン、俺は……」
「すぐ離脱しよう。今ならきっと行ける。……今の、名前は?」
「……ファイラ……ファイラモンだ。今は……」
「ファイラモン。……頼む。僕に退路を作ってくれ。今、君にしか出来ないことだ」

 頼む、と。
 戦闘でここまで背中を預けてもらえたことは、初めてだったか、それとも覚えていない程に過去の事だったか。
 その言葉はあまりにも嬉しくて、胸が苦しくなる。

「…………ああ、わかった……!」

 ファイラモンとガルルモンは、蒼太と花那の元へ急いだ。
 炎の壁を抜けて、彼らの目の前に。

 先程までファイラモンがいた血溜まりは黒く錆びている。刺さっていた槍は砕けている。大事に持っていた腕輪も落ちている。

「……」

 蒼太は、見知らぬ獅子と目線を交わせた。怖くはなかったが、ひどく困惑した。コロナモンはどこに行ったのか。何故、この獅子は自分達の元へと来たのか。

「二人とも……!」
 
 傷だらけのガルルモンが、蒼太と花那を鼻で撫でた。

「すぐに助けに行けなくて、ごめん。怖かったよね。本当に……無事でよかった……」
「……ねえガルルモン。コロナモンが……さっきまでいたのに、いないの……」
「……花那、それは……」
「そのデジモンは……? コロナモン、どこに行ったの……?」

「もう、大丈夫だよ」

 獅子から、聞き覚えのある声が漏れた。

「助けてくれてありがとう。花那、……蒼太」

 ────名前を呼ばれた途端、二人は目の前の存在が、あの小さな友人であることを理解する。
 姿が変わっている事への理解は出来ていない。しかし、生きている。生きていてくれた。身体を貫かれていた彼は、生きて名前を呼んでくれた。
 
 二人は堰を切ったように涙をこぼした。花那は足の力が抜け、膝をついた。そのまま声を上げて泣いた。

 蒼太は、泣きながら獅子へと駆け寄った。

「……コロナモン……!!」

 手のひらにデジヴァイスを握りしめたまま、姿を変えたパートナーの元へと。



◆  ◆  ◆


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