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ID.5009
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/06/20(水) 00:10


それは悪魔の様に黒く 九話 三
そしてベンチで少し喋りながら話し、じゃあそろそろという時にそれは来た。

「行こうか、こっちから行こう」

潤理はそこから離れようとそう世莉に声をかけ、世莉は立ち上がる。しかし、それだけしかできなかった。

「……正義、どうしてここに?」

砂を巻き上げながら走って来たのだろうジャスティモンに、それと一体となっているだろう正義に潤理は冷静を装って問いかけた。

「……あの日以降携帯のGPSは僕が閲覧できる設定にしていたの忘れたか?」

「そうだったね、君と藤音さんだけが見れるように設定したんだった。でも今聞いてるのはそこじゃない、見てわかるだろう?デートなんだ、そう物騒な感じで来られると困るよ」

「心当たりがないとは言わせないぞ、潤理。死ぬ可能性だってあったそうだ」

「……そうか、正直驚いたよ。まさかそれほどとは思わなかった」

潤理はポツポツとそう返し、一歩二歩とベンチから離れた。

「まさか正義にチクる程プライドも何もあったもんじゃない奴等だとは思わなかった。自分が襲おうとした相手にも関わらずチクるだなんてね」

「潤理!」

「で、どうするんだよ。私はたしかに死んでもいいと思って彼等を傷つけた。正当防衛だなんて言う気はないさ、君の基準では確か、未遂で済めば最初は警告のみ、二回目を行ったり計画したらそのデジモンを殺すんだったか」

私はすでに二回目だなと言った潤理に合わせてスプラッシュモンは姿を現わす。

世莉の耳には水音が周囲から集まって来ているのが聞こえ出した。

「……私としては身内だからともう一回ぐらい見逃してくれることを期待してる。君は私の味方だと信じたい」

信じたい。その言葉が既に正義は見逃さないだろうと思っていることを告げていたし、実際それは間違っていなかった。

ジャスティモンの右肩のコードが切り替えられ、右腕はあからさまに重量のある形へと変わる。それは純粋な腕の機能の強化、格闘戦をする時に好んで使う腕だった。

「例え潤理でも変えたら公平じゃなくなる……」

本当に君がそういうやつからと潤理は呟いた。

スプラッシュモンの指先がジャスティモンに向けられる。指の向けられた先を避ける様にしながらジャスティモンは接近し、拳を握ってスプラッシュモンの腹を貫いた。

「……痛いな、姿は瞬時に変えられても思考は咄嗟に追いつかない。貫かれてないとわかっているのに貫かれた様な気になって痛みを感じるんだろうな」

腹を貫かれたままにスプラッシュモンがそう口にし、両手の指をジャスティモンの鳩尾に突き立てた。

指から噴き出した水はあっという間にジャスティモンの肉を抉り、ジャスティモンは即座に離れたにも関わらず砂を熊手で掻いた様にはっきりと傷跡を残した。

「姿のない痛みに君も苛まされた事があるだろう。胸が痛むというやつだ。肉体は万全なのに何かが足りなくてそこから血が流れ続けてる様な痛みがするんだ」

潤理がそう喋る間にもジャスティモンの脇腹の傷は埋まっていく。

「君はそうだ、そういう能力を持っていたっけ。羨ましいよ、傷跡が残らない。私達の能力なんてこの程度のものだからね。姿は自由になるのに私達の心はずっとあそこに囚われたままだ」

スプラッシュモンの右腕が十数本に枝分かれしていく。その全ての先端に手が形作られ、その指先がジャスティモンに向けられる。

「……結局君のそれも君の体力を消費するもので無限にできるわけじゃない」

高圧水流が数十本、指の角度、手首の角度で細かく調節しながらジャスティモンに降り注ぐ。その殆どをジャスティモンはその身体能力で避けるなり、腕で受けるならしたが、それでも数本が肉を抉った。

「……醜いよな、こういう格好は。醜いんだよ、でもとても綺麗じゃいられなかった!」

ふとジャスティモンは足を止めた。止められた。

放出されていた液体でできた水溜りはゴムの様に粘性のものに変わってその足を絡め取っていた。

最早高圧水流を避ける事は叶わず、全身を貫いた。

「……まるでゲームのヒーローみたいだよ正義。大抵ゲームのヒーローはそうだ、悪役は殆どが一度やられたらおしまいなのにヒーローは何度でもコンティニューしてくる」

全身を貫いた傷も瞬く間に埋まり、ジャスティモンは少し転んだだけかの様に立ち上がり、肩のコードを付け替えた。

潤理はジャスティモンというデジモンの戦闘を何度も何度もドリッピンで見ていた。だからその腕に変えた時には勝ったと思った。このまま勝ち目はないのだと諦めて話し合おうとしてくるのだと思った。

その腕は外見的には取り立てて特徴のない腕だった。少なくとも潤理の知る限りはジャスティモンがその腕で戦闘をしたのは見たことがなかった。純粋な格闘の為の巨大な腕アクセルアームと、なにかを切り裂く為の光る刃を出力するクリティカルアーム。この二つが潤理の知るジャスティモンの主な武器だった。

バチッ、という音が鳴り辺りから湯気が上がりだした事で潤理は自分の勘違いに気づいた。

それは単に今まで使う機会がないだけだった。潤理の言うように使えるエネルギーは通常寄生先の人間に依存する。だから潤理は辺りにドリッピンをばらまいてエネルギーストックを用意したわけだし、ザミエールモンがレディーデビモンと戦った時もなるべく小さなサイズで事を済ませようとした。

ジャスティモンもそれは同じだった。拳で殴る方が消費は少なく、何かを排除する必要があるならば不用意に傷つけすぎない刃物がいい。電撃を扱うブリッツアームはなにもしていなければ一番消費が少なかったが電撃を扱えばどの腕よりもエネルギーを消費した。

「……正義!スプラッシュモンを殺すということは私を殺すのも同然だぞ!」

自分の肉体に電気を流して熱することで纏わりついていたドリッピンを蒸発させたジャスティモンは潤理の言葉など意に介さずに歩き始めた。

焦ったスプラッシュモンの背のチャックが開き、巨大な水でできた獣の姿になる。地面に散ったドリッピンを回収し、先程から集めていた公園に散らせてあるドリッピンも取り込んで、スプラッシュモンは絶対に近づかせない様にと水で竜巻の様なものを起こした。

放り込まれれば水圧と流れに体が引きちぎられる様になり、巻き込まれた石も研磨されて矢じりとなって突き刺さる。ただの肉の塊を入れたならば瞬く間にミンチになったことだろう。

でも相手はジャスティモンである。

確かに竜巻はジャスティモンを呑み込んだ。しかし呑み込んだ端から光が瞬き、湯気を上げて小さく小さくなっていき、後には体表が少し焦げ付いたジャスティモンだけが残った。

これで自滅していてくれたならばというスプラッシュモンと潤理の思いも虚しく、ジャスティモンの体表はすぐにつるりと元のなんでもない様な状態を取り戻した。

「潤理、もうおしまいだ。僕だって苦しいさ。戦いたくないし倒したくもない。でもきっとスプラッシュモンと一緒だと君はこの暴力をもっと多くの人に向ける。その人達の為なら僕は君を切り捨てるよ」

手のひらいっぱいに砂を受けたならば、きっと全ては受け止められない。指の間から落ちた砂を拾って戻そうとすれば全ての砂がこぼれ落ちるかもしれない。だから零れ落ちた砂は零れ落ちたまま。

「……ッ、そうだよな、そうだ。君はあの時もそうだった。私が苦しんでいる中で君は私を放り出し!これからの被害が起こらない様に怒りに狂って暴れまわったんだものな!」

救われないままになった人間は救われぬままになり、そして道を誤れば今度は排除すべきものとして扱われる。全体を第一としたならばそうなるのは必定だ。

「藤音さんだけが私の話を聞いてくれていた!藤音さんが居なくなって誰にも話せなくなった!何も私を救うことに繋がらないとはいえ私がそうして被害に遭ったことで戦いだした君に私はとても相談なんてできなかった!」

まして、正義は零れ落ちた砂粒まで拾おうとした人を知っている。全てを助けようとして自分の命も含めた全てを取りこぼした人を知っている。

「でも考えなかったか!?私は一体誰にこの苦しみを打ち明ければよかった!デジモンを知らない相手にどう打ち明けられる!?藤音さんがいなくなったら私が頼れるのは君しかいなかった!君しかいなかったが君は私を救わなかった!!」

ならば何かを切り捨てないといけない。

「……ごめん。でもだからってやっちゃいけないことはやっちゃいけないんだ」

ただ、それは正義の理屈であり、そこにいたのは潤理とスプラッシュモン、正義とジャスティモンだけではない。

ジャスティモンの前に立ちはだかったのはレディーデビモンだった。

スプラッシュモンの体に向けて潤理の手をしっかりと掴んで飛びついたのは世莉だった。

思わずスプラッシュモンが人型に戻り世莉を受け止めると、世莉はその腕にしっかりとしがみついた。

「もし、スプラッシュモンを殺そうとすれば世莉も潤理も殺す事になる」

レディーデビモンは止まれとジャスティモンの胸を軽く押した。

それにジャスティモンは引きもしなかったが進みもしなかった。

「……なんで黒木さんはそうするんだ」

その正義の言葉に世莉は答えなかった。代わりに答えるのは立ちはだかっているレディーデビモンの役目だった。

「私の為。探偵稼業に手を貸すには情報源がいるの」

その答えに正義は拳を強く握りしめた。

「……嘘だ。そう言いながら黒木さんの行動は明らかに自分を勘定に入れてない!」

「リスクを受け入れてその先のメリットを見てるだけよ」

「だとしても僕はこうする!一度そうしたからには貫かなきゃいけない!」

ジャスティモンがレディーデビモンを押しのけてスプラッシュモンに近づこうとし、レディーデビモンは当然それを阻もうと組み付く。

なんで、なんでと声を荒らげながら引き剥がそうとするジャスティモンが不意に吹き飛んだ。

組みついていたレディーデビモンも引っ張られ転びそうになったが肩を掴まれて引き戻された。

一体何がとレディーデビモンが見ると引き戻した手はザミエールモンのものだった。

「占いってやつは便利だよな、その場にいなくても危機かどうかまで占うなんてことができるらしい」

右腕にスパーダモンが姿を変えた馬上槍を持ちザミエールモンは尖った歯を剥き出しにして笑った。

その大きさは既にジャスティモンより二回りも大きく、世莉達が見た中で最も大きかった。

立ち上がったジャスティモンは既に腕をアクセルアームに切り替えており、ザミエールモンに向けて先ほどまでのどの動きよりも速く動きだしたがザミエールモンはより速かった。

突き出される拳を槍で受け弾き、泳いだ体に回し蹴りを打ち込んだかと思えばその動きのまま残された足を尻尾の先についた手で払う。

そしてその場で頭から転んだジャスティモンの右肩に深々と体重をかけて槍を突き刺した。

「体調が悪いのかいスーパーマン。ヴィランはここだぜ?と、言えって真田がうるさいらしい。まぁでも悪役なのは確かだな」

右肩に刺された槍を抜こうと伸ばした左腕をザミエールモンは踏みつけた。

「お前が喫茶店乗り込んで言ってた危うく黒木も殺すかもしれなかったデジモンは私だ。生憎当分改心する予定はないが、悪役らしいことをする予定もない」

こうピンと張った耳だからわりと遠くから既に話は聞こえてたとザミエールモンは言いながら腕の弓からジャスティモンの左腕に矢を放ち、軽く突き刺さったそれを地面につくまで深く刺さるように踏みつけた。

「まぁ聞いてる限りは正しいさ。でも知ってたか?スーパーマン、石でも人は殺せるんだぜ?」

一瞬でもジャスティモンの上から姿を消したザミエールモンは瞬きする内にまた同じ場所に立った。その両手と尻尾の手には公園の中にあったのだろう拳大の石が握られていた。

「お前はさ、デジモンさえいなければ犯罪をしないと思ってるかも知れないが……なッ!」

なんとか足を跳ねあげて抜け出そうとしていたらしいその脚をザミエールモンは石で打ち付けた。ぐしゃりと折れたその脚にさらに何度も石を打ち付ける。

「……そもそも、そういうことする前に家族として接してやらなきゃなんねーんじゃねぇのかよ」

急に話し出したザミエールモンに正義が感じた疑問を見透かしてかザミエールモンは顔面を踏みつけた。

抵抗はもうできなかった。

ザミエールモンが槍を引き抜くと槍はスパーダモンに姿を変え、ザミエールモンは指先はどのサイズまで小さくなるとスパーダモンのたてがみの中に潜った。

「あ、とりあえずいつもの喫茶店までな。スパーダモンはスパーダモンで目立つし」

また一瞬だけ顔を出したザミエールモンに言われ、世莉はスパーダモンをトートバッグの中に入れてこれはぬいぐるみだと自己暗示をかけながら抱えた。遠目ならば誤魔化せるだろうが近くで見れば当然何かおかしいとは思われるだろう。

ただ、世莉はすぐに歩き出しはしなかった。

「……レディーデビモン、お願い」

「えぇ、わかってる」

ジャスティモンの左腕に刺さった矢を抜き、レディーデビモンは右手を差し出した。

ただ、その手は掴まれなかった。傷はすでに塞がり、外見上は取り立てて問題はなかったが正義の心中はぐちゃぐちゃだった。

思えば潤理が酷く人を傷つけたと聞いた時からすでに冷静ではなかったのだろう。義務感と、人と会うと言っていた事からもしかして今日もと思って急いで来た。

そこで世莉といたのを見て正義はもしかして世莉を傷つけようとしているのではと早とちりもした。実際は違ったが、だからよかったではなく、そう考えてしまったことが正義を追い詰めていた。

ああも感情的な潤理を正義は今日初めて見た。

逆に言えば潤理は襲われたその日でさえ正義に弱く見える様な振る舞いはしなかった。だからこそ正義は潤理をフォローするのではなく襲った相手をどうにかしようと奔走した。

家族一人救えずに、むしろ取り返しのつかない様な事をしていたと。そう気づいたらもう立ち上がれなかった。

レディーデビモンの手を取れなかったし、取る資格もないと思った。

「……多分だけど、正しくはあったんじゃない?」

レディーデビモンの左手がジャスティモンの腕を掴んで立ち上がらせた。

「とりあえず、そこのベンチで頭冷やしたら?潤理の事は今は私達に任せて、話し合う時には立会人ぐらいはするから」

ジャスティモンが立ち上がったのを見届けて世莉は歩き出した。潤理は少し、ついて行くのを躊躇ったが世莉が振り向いて来ないのと聞いたので後ろに続いた。

「あー……そうだ。嘉田さんはともかく他の人には誰かわからない様席外してもらう?」

「……いや、いい。大丈夫。スプラッシュモンは出さないでドリッピン通じて話させれば、私はドリッピンの本体に派遣されたメッセンジャー風を装えると思う。元からそれは少し考えてたんだ」

「……あと、みんなの前ではどう扱えばいい?そう性別の話題が出るとも思えないけど、隠してるなら……」

「うん、そうしてくれると嬉しい」

軽快とは言い難い足取りの潤理に、世莉はスパーダモンに耳元で少し服に掴まる様にと言って鞄を片手で抱える様に持ち替えて片手を自由にした。

「……デート、なんでしょ?」

そうして差し出した手を潤理は小さく頷いて掴んだ。世莉はしっかりと握り返した。


スレッド記事表示 No.5007 それは悪魔の様に黒く 九話 一ぱろっともん2018/06/20(水) 00:07
       No.5008 それは悪魔の様に黒く 九話 二ぱろっともん2018/06/20(水) 00:09
       No.5009 それは悪魔の様に黒く 九話 三ぱろっともん2018/06/20(水) 00:10
       No.5010 それは悪魔の様に黒く 九話 あとがきぱろっともん2018/06/20(水) 00:33
       No.5027 ウルトラマンより全力出せる時間短いんかザミエールモン!夏P(ナッピー)2018/07/09(月) 22:51