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ID.4986
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/05/02(水) 18:16


それは悪魔の様に黒く 七話 下
彼女は上機嫌だった。センター試験も手応えがあって、つい昨日行われた試験も手応えがあった。それに先生にも努力が認められた。

二年の夏休みより前には考えられない成績に少し有頂天にすらなっていたが、ふと踏切に差し掛かってその足取りが重くなった。

実に嫌なことを思い出していた。

彼女には少し前まで不思議な友達がいた。それはデジモンと呼ばれる存在だったがそれを知る機械すらないままに彼女はその存在と別れる事になった。

二年の夏休みの前は髪の色も染めていた、スカートの丈も弄っていたし、授業中は寝ていた。それである夏の日、補習で来た学校でそのデジモンと出会った。

豚の着ぐるみを着たスクール水着の子供みたいなそのデジモンを見て彼女はひどく笑った。笑われているそのデジモンも何故か笑った。名前はチョ・ハッカイモンというらしかった。

気のいい友達の様なチョ・ハッカイモンと家ではひたすら喋ったし、授業中にはスマホの画面を使って文字で喋り、放課後も彼氏を放置する程になっていた。

その彼氏がまさかあんな行動に出るとは彼女は思っていなかった。

最初は普通に放課後に呼び出されただけだった。放置しすぎていた気はしていたし、遊びたいのかなと彼女はそこに顔を出しに行った。なんならまだその時はその彼氏のこともそれなりに好きだったので少し普段より丁寧に化粧したぐらいだった。

そこで彼は彼女を犯そうとした。チョ・ハッカイモンが止めようと姿を表すと彼の方からも黒い獣人の姿のデジモンが現れてチョ・ハッカイモンと戦う事になった。

それを助けてくれたのは同級生の女子だった。

いつもは目立たない女子だった。真面目で堅くて友達も少ない様に見えたし、陰で彼女はその女子を超合金メガネだなんて呼んだりもしていた。

覆い被さる彼氏の腹を蹴り上げたその女子と、その女子の背後から現れた黒い鎧武者のデジモンは彼女をあっという間に助けた。圧倒的だった。

ありがとうと、礼を言って数日後、その女子は死んだ。死因はどうやら電車に轢かれた事のようだった。持病の発作のせいで踏切の内側で立ち止まってしまったのではないかという話だった。

その二日後、彼女は帰り道の踏切で背中を押された。押したのは黒い獣人、そしてそれを助けようとチョ・ハッカイモンは電車に轢かれ、彼女の前に戻ってこなくなった。

もしかしてその女子もそうだったのではと思うと彼女はもうやっていられなくなり、彼からは可能な限り距離を取った。彼はもう彼女にちょっかいを出して来なかった。

噂で聞いたところによると、彼は一年下の男子生徒になにかが殺されたと呟いていたらしく彼女は少しだけ安堵した。ただ、二人とももう戻ってこない、
そもそも自分が付き合ってなかったらと思うととてもやりきれなかった。

その女子の葬式に行ったクラスメイトも少なくて、母親に挨拶したらカウンセラーになって悩む人を助けたいと言っていた事を知った。

酒田に彼女はどうしたらカウンセラーになれるかを聞き、調べ方を教えてもらい、その女子の成績には到底及ばなかったがなんとかカウンセラーになれるかもしれない大学を狙える学力にこぎつけた。

ゴーと目の前を電車が通り過ぎていく。

彼女は家帰ったら英語やらなきゃなと思いながら一歩踏み出そうとして、何かに襟首を掴まれて尻餅をついた。

「にーちゃんがさぁ……あんたにフラれてからメソメソしてめんどいんだわ……」

殺しに行っても失敗して、しかもデジモンそのあとやられちゃうしさぁと、だるそうに話す声はとても聞いた覚えのある声に似ていた。

後ろを振り向くとそこには兄が連れていたのと同じ様な姿の黒い獣人。ただより凶悪に見えた。

右腕にはチェーンソー、左腕も何か機械で固められていて、一息に握りつぶされそうな程だった。

「俺もさぁ、嫌なんだよこんなの。でも隣の部屋からにーちゃんのすすり泣く声が聞こえてきて嫌なんだよ、だから復縁するか死ぬかしてくんない?」

どっちがいい?と聞いてくるその男子に彼女は震えて声すら出ない。犯されそうになった時もそうだった。恐怖は声をなくさせる。

「た、助けて……誰か……」

小さな小さな呟きに、その男子は今どっちって言った?と首を傾げる。

「ねぇ、どっちって?よく聞こえなかったからさぁもう一回言って欲しいんだけど……」

フーッフーッと荒い息をしているそのデジモンの頬をその男子はぺしっと叩いた。

「マッドレオモンがうっせーから聞こえねーんだよ!脳みそ空っぽかよ!」

「だとしたらそれはお前も空っぽって事だな、グフ、グフフッ」

「あ?」

言い争いを始める二人に彼女がどうにか逃げられないかとキョロキョロしだすと、目の前にマッドレオモンが左腕をドンと下ろした。

「で、それが答え?」

なんだよもう一回聞かなきゃよかったと言いながらぽりぽりと頭をかくその男子の前でマッドレオモンがチェーンソーを振り上げた。

そして振り下ろす前にその体がふわりと宙に浮いて地面に叩きつけられた。

銀色の仮面をつけたそのデジモン、ジャスティモンがいつのまにか近寄って投げていた。

「はっ?」

その男子があっけにとられている前でジャスティモンが右腕を捻り上げ、肘を軽く殴る様にするとぼきりと鈍い音がし、さらに肩を力強く踏みつけるとまた鈍い折れた音がした。

淡々とジャスティモンはもう片方の腕と肩も折り、立ち上がれずにいるマッドレオモンの片足さえも踏みつけて破壊した。

その男子がテンパって彼女に手を伸ばすもその手は蝙蝠の群れに阻まれた。

彼女が訳がわからないままそこに座り込んでいると、大丈夫ですかと世莉が隣に座り話しかけた。

「え、あ、まぁ……」

「立てます?」

世莉が肩を貸して彼女を立ち上がらせると少しそこから歩いて離れた。

「……えと、今のはあなたの?」

違う違うと世莉は首を横に振って手で示した先で委員長がヤケクソで向かっていった男子の足を払って投げていた。

「……でもなんで」

「……助けてって聞こえたので」

もう大分人通りのピークを過ぎてしまっていた。それでも街中は後に溢れているが、世莉の耳なら聞き取れた。

事情も概ね聞こえていたし、ジャスティモンが飛び出していくのに躊躇いはなかった。

彼女が安心からか、何か急に足の力が抜けてもう一度座り込もうとするのをレディーデビモンが右手で支える。

「……一旦、どこかで休みましょうか」

静かに頷いた彼女を連れて世莉と委員長が喫茶店に戻ると、その出口付近で竜美と蘭が少し不安げにしていた。

世莉がそれを聞きつけたのは喫茶店から帰ろうという時だった。ある程度宿題をやった後、遅くなる前にと蘭と竜美と一緒に帰ろうと駅に向かって少し歩いていたらそれを聞きつけたのだ。

「あとは私がいるから二人は先に帰ってて」

世莉に言われて蘭は最初帰ろうとしたが、竜美が帰ろうとしないのを見て立ち止まった。

竜美は、やっぱりと思っていた。今さっきも話したばかりだ。話したばかりだがそれでも世莉は行ってしまった。

委員長が行けばそれで大丈夫だろうと竜美は動かなかった。話を聞いて走り出した委員長に続かなかった。

本当ならばもう一度改めて言いたかったが、ここで言うべきではないだろうと竜美は呑み込んで蘭と駅に向かう事にした。

喫茶店のカウンター席に座った彼女に嘉田が水を持ってくると彼女は弱々しくありがとうと呟いた。

「コーヒーはお好きかな?」

「カフェオレとかなら……」

なら甘いのにしようとマスターが入れたコーヒーを飲んで彼女は一息ついた。

ある程度落ち着いてくると今度は怒りが湧き上がってきたらしく、付き合ってた時から云々と彼女は愚痴を始めた。

世莉が話に興味があるのか少しずつ距離を詰めてくる真田を見て見ぬ振りしながら、委員長と一緒に彼女の愚痴を聞いていると、ふと店に入ってきた人に気づいた。

「……酒田先生」

「へ?」

彼女が入り口の方を見ると、その姿に気づいた酒田は髭で覆われた顎を少しさすりながら微笑んだ。

「たまたま姿が見えたからね」

「酒田くんは私の中学の同級生でもあって時々来るんだよ」

マスターの言葉にちらりと真田の方を世莉が見るとそういえば見たかもというような曖昧な表情をした。

「……少し、奥の席で話をしようか。お説教ではないよ、黒木さんにも清水君にも井上さんにもきっと大切なモンスターの話だ」

ボックス席は一つ空いていた。片側にはまだ嘉田と一緒に帰るつもりらしい縁がいたが、もう片方は空だった。

真田君、君もだと酒田に手招きされて真田も一緒に多少窮屈に座ると酒田はゆっくりと話し始めた。

「黒木 藤音という子を井上さんは知ってるね?」

彼女、井上はその名前を聞いて神妙に頷いた。

「私は彼女からデジモンという存在を知らされた。どうすればいいだろうと、どうしたら、それで争う人達を止められるだろうとそう相談された。私は自分の安全を優先しなさいと言ったが彼女は事あるごとに首を突っ込みとにかく手当たり次第遭遇した誰かを助けに行った。彼女がいうにはその耳は誰かの助けを遠くからでも聴きつけられた、小さくても紛れていても聞き分けられた。それで、見捨てて置けなかったんだと」

世莉は少なからず驚いていた。その名前に聞き覚えこそなかったから親戚なんかではないだろうだが同じ名字に近い能力、親近感を覚えずにはいられなかった。

だからか、委員長がひどい顔をしているのに気づいたのは酒田と真田だけだった。

「彼女の両親は優しい子になるようにと優しさという花言葉を持つ藤の花を名前に入れたそうだ、彼女はその通りに優しくなりすぎた。彼女を殺したものの前に彼女に会ったのは私だ。すでに深い傷を受けているようだった。救急車を呼ぼうとしたが携帯は電源が付いても即座に切られてしまうようにウィルスが仕込まれていた。おそらくその時その近くにいた全員がそうだった。彼女は最期に私に何人かの生徒の名前を挙げた。私は半ばパニックになってすぐ近くの開業医のとこまで走って行き、戻るともうそこには誰もおらず、踏切で彼女が事故にあったという話が翌日聞かされた」

言うまでもなく、偽装だよと酒田は今にも誰かを殺しそうな顔をした。それは普段の温厚で生徒思いで優しい先生の顔ではなかった。

「……その時挙げられた複数の生徒というのは……」

真田が遠慮がちにそう聞くと酒田は悲しそうに微笑んだ。

「彼女は優しすぎた。彼女が挙げた名前は今後再度被害に遭うかもしれないという生徒だった。自分と同じように正しいことをしようとしてという後輩の名前も挙げたし、恨まれているという生徒や、井上の様なトラブルでという生徒の名前も挙げた。犯人の名前よりもこっちが優先だと……」

犯人は結局わからなかったと酒田は言った。

「そして先生は、デジモンもいない自分の手には余ると同じように正しいことをしようとして恨まれているという後輩……つまり、僕にその事を話した。僕は、それらが緊急の案件だと思ったから、加害者側の人間についてるデジモンをみんな倒した」

委員長がうつむきながら酒田の言葉を引き継いだ。

「……その通り。そしてそのあと君は多くの上級生に狙われてその悉くを返り討ちにした。君のおかげで今安定しているのは確かだ。でも私は君達には彼女の様になって欲しくはない、人が人を傷つけるのは簡単で、手段を選ばないものも多くいるのだとわかって欲しい」

「わかってます。僕は排除しないだけはしない、排除するべき時は排除します。赦して大丈夫だろうという時だけしか赦しません。先輩は誰にでも情けをかけた、誰にでも情けをかけたから恨みを残したし、最後に誰に狙われたかもわからなくなった……」

「そうじゃない、そうじゃないんだ清水君。そもそもそういうことにあまり頭を突っ込んではいけないと言っているんだ。正直これからどうなるかはわからない……でもいずれ君達の手には負えなくなってくる。それは明日かもしれない。それをわかって欲しい」

世莉は私にはあまり関係ないかなと思った。正義を守ろうとしていたり、正義の味方に憧れていたり、委員長に対して言われるのはわかるが、すでに自分は自分の為だけに動いている。

ただ、利益を取ろうという行動だ。人付き合いのためのやむを得ないもので決して誰かのためなんかじゃない。






委員長、そのあだ名が清水 正義は嫌いだった。それは彼の行動が委員長らしいと言われることに由来するものだからだ。

誰かが誰かを傷つけるのを注意する行動をからかう言葉。誰かが傷つくかもしれないのを見て見ぬ振りしていい程度の事だと軽んじる言葉。それがどれだけ傷つけるかわからない、人の心は外からわからない。

そのあだ名で呼ばれることに抵抗がなくなったのはその先輩に出会ったからだ。

最初に会ったのは、従姉妹が襲われた時だった。

デジモンの存在は知らなかった。従姉妹が携帯で彼に助けを求めたのは最後に電話したのが彼だったから、警察にかけられなかったためだった。

彼が急いで走って行ったその場所にいたのは自分の夏用のベストを従姉妹にかけるその先輩だった。地面に飛び散ったシャツのボタンが何が起きたかを容易にわからせた。

その時に現れたのが彼のジャスティモンとの出会いだった。もっとも当時はサイバードラモンという名前だったのだが。

サイバードラモンは獰猛で手がつけられない悪を許さない獣だった。それを彼は容認した。

彼は赦してはいけないと思った。絶対に赦してはいけないと誓った。

どんな事情であれ誰かを傷つける様ならばいなくなるべきだと、サイバードラモンと倒して回った。再起不可能になるまで破壊してそのデータを食らった。

その中で彼は二つの事を知った。一つはデジモンを食らう事でサイバードラモンが力を増す事。そして、人を喰らったたデジモンを喰らう事で取り込まれた人間を残し、その人間と関わったデジモンの諸々を記憶からなかったことにもできる。

人を食らったらしいデジモンも片っ端から食らった。そうして恨みを買い、袋叩きにされそうになった時にその人はまた現れた。

鬼神の如き強さでもって蹴散らし、彼にも注意をし、それでいて自分はどこにでも首を突っ込んだ。

決して鞘から刀は抜かず、決して殺さない。必ずそこにいる全員を救おうとした。それは嫉妬や悲しみ怒りからの行動で危害を加えていた加害者側も例外ではなく、その姿にかつて自分を勇気付けてくれた子を重ねた。

それ故に、その死はショックだった。どれだけ食べても究極体にまでは辿り着かなかったサイバードラモンが究極体に至るほどに。彼の中に何かを起こした。

故に彼は正義を貫くことに決める。

理屈で考える、常に社会における最大利益を考える。

基準は単純、誰かを社会から失わせる様な行動を取る相手は消す。そこまででないならば一度は注意や殴り倒すだけで済ませる。失わせることは社会に対して必ず不利益になる。でもそうでないならば更生させた方が社会のためだ。

もし、そこに世莉がいなければ今日も一体のデジモンを葬っていただろう。稲荷も嘉田も社会から人を失わせる、ひょっとすると葵もやり過ぎていたならば、委員長が容赦をすることはなかっただろう。

彼はふーと一つ深く息を吐いた。先生にその名前を出されて後悔が胸を占めたが、それはもう終わったことだと、自分を納得させたかった。

黒木 藤音がいなくなった途端やりたい放題始めたやつらによって善良と言えたデジモン達は皆やられてしまった。彼女の気にした被害者リストの全員も含んだ。

結果的に彼はその学年の残り全部を狩った。人死にが彼女の他に出なかったとはいえ怪我人はいくらか出た。心に傷を負った人も出た。今年の三年、つまりはその学年は同じ人数を入学させた彼等の学年と比べて十二人も少ない。引きこもったり入院したりで進学できずに留年したのが四人、学校を辞めたのが二人、関係なく留年したのも一応一人。

彼は犯人だと自称する相手には出会わなかった。犯人が誰だという証拠も見つけられなかった。でもその時他に同じ学年にいた完全体またはそれに準ずるデジモンを連れた人間は白河 聖しかいなかった。彼女が犯人でない限りは他に容疑者はいないはずだった。

ただ、心が晴れないのは疑惑はあるからだ。

潜伏していたかもしれない。じっと誰にも見られずに潜み機を伺って彼女を死に至らしめてまた顔を出す機会を伺っていた誰かがいたかもしれない。

彼が、自警団を作りたいと思ったのはだからだ。

一人の限界を思い知った。それは嘘ではない、一人では気づかなかった誰かがいるかもしれない。殺した犯人が、今もまだ誰かを殺そうと潜んでいるかもしれない。

あと一月、三年生であるなら顔を出すのは卒業の前だろう。そのまま潜伏して卒業していく危険ももちろんある、というかおそらくはそうするだろう。

結局抑えることなどできなかったその気持ちを胸に彼は自分の指をひねって折った。

痛みが頭に響いて怒りや憎しみに染まりそうになった思考を中断させる。

その折った指もズレないように元の位置に置き直せばすぐに繋がる。この回復力が彼の能力だった。

何のために鍛えてきたのか、何のために戦おうと決めたのか、怒りだけではなかったはずだ。

彼は自省し、少しの間目を閉じていた。


スレッド記事表示 No.4985 それは悪魔の様に黒く 七話 上ぱろっともん2018/05/02(水) 18:14
       No.4986 それは悪魔の様に黒く 七話 下ぱろっともん2018/05/02(水) 18:16
       No.4987 それは悪魔の様に黒く 七話 あとがきぱろっともん2018/05/02(水) 19:33
       No.4990 ガチで殺しに来られると流石に恐怖夏P(ナッピー)2018/05/04(金) 23:26