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ID.4968
 
■投稿者:パラレル 
■投稿日:2018/04/22(日) 20:35


X-Traveler Episode.3 Part.B
 地に落ちた巨体には既に意識はない。後に待つのは勝者の餌となる未来。勝者である三体のモンスターも地上に降り立ち、思うがままに報酬を貪る。一段階上ということもあり、喧嘩にならないほどには十分な質と量だった。
 契約相手が食事に勤しんでいる間、渡達は肉体労働と作業に励んでいた。その内容は死体の処理とささやかな墓の用意。オオクワモンの犠牲になった遺体は一度渡達の世界に戻そうとも思ったが、新たな面倒事に巻き込まれる可能性が高い。そのため薄情な人間なりにできる弔いをしようと考えたわけだ。それが終わって、ようやく身の上話と情報交換に移ることができる。
「本当に助かった。まさか将吾もトラベラーになってたとは」
「それはこっちの台詞だ。危なっかしい奴だとは思っていたが、こんなところにまで来るのか」
 渡が部活を止めてからはクラスも違うこともあってか少し疎遠になっていたが、言葉を交わす雰囲気は渡の知るそれと変わらない。それほどに互いの性格と事情は理解していた。だからこの場での再会に驚きはしたがその一方で納得もしていた。
「……大野オオノか」
「まあな」
 無論、将吾がトラベラーとして動く目的とそれを掲げることになった経緯も。それほどに彼の身に起こった事件は当時の渡にとっても衝撃だった。
「あらら、これは部外者は聞かない方がいいかな」
「渡の口が固いことは知ってるが別に隠すものでもない。俺が望むことなんて訳あり連中でもベターな方だろうからな」
 重く感じないように言い回しを選んでいるようだったが、言葉とは裏腹に掲げる願いがけして譲れないものであることは明らかだ。
「渡が世話になってるみたいだな。あんたも八塚の人間か?」
「違うよ。けれどその二駅隣の夏根市に住んでいる。そういえば名乗るのが遅れたね。私は逢坂鈴音だ。よろしく、将吾君」
「地元民なら二年前に起きた通り魔事件を知っているな。それに深く関係があるって言えば、だいたい予想はつくだろ?」
「大野……大野オオノ大河タイガか。うん、事情は察したよ」
 将吾の言う通り、事件を思い出した段階で鈴音が彼の願いを推測することは容易だった。それほどにあの事件は夏根市周辺の人間には青天の霹靂で、会話の中で渡が口にした単語ですぐ手繰れるほどにその被害者のことも強く印象に残っていた。
 二年前の夏、陽の光が強い夏根市の大通りですれ違った通行人に次々の刃物を刺していった通り魔。五人の被害者の中で最も若い、唯一の死亡者の名字が大野だった。そして、彼女が生きていれば渡や将吾と同い年の女子高生になれたはずだった。……この時まで鈴音が一度も信じたことのなかった噂だが、彼女は同い年の少年とのデート中に事件に巻き込まれ、少年を庇って代わりに刺されたらしい。
「死んだ彼女を助けたい。捻りのない女々しい話だと思うか? でも俺はそうしなければ前に進めなかった。だから都市伝説でも聞いた瞬間に飛びついた……いきなり何を話してるんだろうな、俺は」
「気にするな。別に俺も鈴音もお前の動機についてどうこう言うつもりはないし」
「優しいな。いや、あっさりしてるだけか」
 渡や鈴音が詮索したわけでもないにも関わらず自ら語ってしまった辺り、将吾もトラベラーとして心が磨り減るような経験をしてきたのだろう。今までそれを共有できる相手が居なかった状況で渡と巡りあったのなら口が滑ったのも仕方ないといえる。
「俺の経緯も話せばフェアになるか」
「変な気を回さなくても……いや、聞かせてくれ」
 渡が話す理由は将吾を気遣ってのものではない。ただ状況をフェアにしようとしたことと別段隠しておくほどたいした事実がなかっただけ。動機ではなく経緯と言ったのがその証拠。
「……なるほど。渡は成り行きでなったのか。でも報酬で叶えたいことくらいあるだろ」
「いや、今のところはない。まあ考え中だな」
 そもそも渡には将吾のような動機がなかった。トラベラーになった時もカインの命を助けたくて衝動的に契約しただけで願いも目的もありはしない。強いて言うなら、カインとともに生き残ることが現状の目的のようなものだ。
「考え中? 渡、お前が?」
「あ、ああ。成り行きだと言っただろ。そこまで驚くことか」
 だが、その答えこそが将吾にとっては想定外の事実だった。渡が将吾の過去を知っているように、当然将吾も渡の過去を知っている。そこに刻まれた六年前の事件は自分がここに立つ理由と同等以上のものだと思っていた。だから、その事件を忘れたかのような返答に反応するなという方が無理だった。
「驚くも何も……お前には戦う目的として十分なものがあるだろうが。忘れてるなんてことも言わせないからな」
「別に何も重要なことは忘れてない。確かに俺の短い人生にも色々あった」
「お前の親父がしでかしたことを色々で済ませられるのか」
「あ……悪い。これは被害者の方に失礼だな。でも正直言うと、俺は今の生活にも人生にも不満や後悔はないんだ。すべてを賭けてまで取り戻したいことも消してしまいたいものも特にはない」
 言葉を重ねても渡の姿勢は変わらない。それは目的がないという発言が真であることの証明。望んだ返答が得られないと理解する度に将吾は苛立ちを募らせていった。その理由は将吾自身にも分からない。いや、分かっていないと自分を誤魔化していた。
 過去の痛みを清算できる可能性を手にしながらその手段を選ぼうとしない。似た立場に居ながら真逆の選択肢を取る渡の姿勢が自分を批判しているように感じていた。
「だから、こんな場所でも目的と信念をちゃんと持って自分から飛び込んだ将吾は正直すごいと思う」
 その言葉は紛れもないトドメ。もし渡が本心で口にした称賛だったとしても、今の将吾には真逆の嘲笑として受け取ることしかできない。
「俺を馬鹿にしてるのか!」
 吠えるような言葉とともに将吾が渡の胸倉を掴む。そのまま地面に叩きつけそうになるが、言葉の意味を理解していないような渡の顔を見ると逆にその気すら失せてきた。行動の理由がここまでのやり取りにあることすら渡は分かっていない。
「急にどうした? 別に俺はお前を馬鹿には」
「してるだろうが。『こっちは過去を克服したのに、お前はまだ過去に縛られているのか』って言いたいんだろ。本来なら称賛されるべきは前を向いてるお前の方なんだよ!」
 どれだけ丁寧に言葉を選んで重ねても、渡には意味もそれを口にした理由も理解できないだろう。それを薄々分かっていても将吾は抑えられなかった。現実と過去を受け入れたように前を見ている渡が少し羨ましかった。
「買いかぶり過ぎだ。俺だって六年前のことには今でも思うところはある。散々やらかした挙げ句、一家心中の真似事なんて本当にふざけてる」
 六年前、渡の両親は死んだ。正確には父親の凶行に母親が道連れになったと言った方がいい。
 事件発生から一週間ほど前、渡の父親は仕事である致命的な失敗を犯したことで周囲から完全に孤立した。ただ孤立しただけならまだよかっただろう。そこで発生した被害をすべて押しつけられ、蜥蜴の尻尾のように切り捨てられた彼は社会的にも精神的にも追い詰められていき、そして遂には壊れた。
 母親を刺し殺し、自分をその手で絞め殺そうとした姿を渡は今でも思えている。後で同じような真似を自分自身にもするだろうと感じたことも。事実、渡が一度手放した意識を取り戻した時には父親も母親の後を追っていた。紆余曲折を経て母方の実家に世話になるようになってからも、カインと出会うあの日まで何度も夢に見ていたほどに強く記憶に刻まれている。
「今も俺はあの人は許せない。母さん殺して自分も妙な死に方して、残された身にもなってくれって思う。あんなのは二度とごめんだ」
「だったらなんで失ったものを取り戻そうとしない。父親……はともかく、母親を生き返らせたいとか考えないのか」
「確かに……正直考えてなかったな。奇跡と言われても、具体的に報酬で何ができるのかも正確に理解してないし」
「それは俺だって同じだ。でもその曖昧な何かに縋らなきゃやってられない奴だって居るんだよ」
 渡の過去を知っていたから将吾は彼を自分の同類だと思っていた。成り行きでなったとしても、心の片隅で似たようなことを一度は考えるはずだ。それが自分と同じ人間の弱さだと信じていた。
 だから渡の態度は将吾の感情を著しく逆撫でした。言葉を交わすたびに得られるのは共感とは程遠い不信感と強烈なカーブで抉る批判だった。
「そこまでにしておきなよ。君と渡君では過去の受け止め方が違う。今はそういう結論で十分だろう」
「それで矛を収められないくらい今は機嫌が悪いんだ。あんたが口を挟むことはお勧めしない」
「自分から語っておいてその態度とはつれないね。ここに来るまでどれだけ戦ったのかは知らないけれど、あまり張りつめるのも良くない」
 この状況で話を止められるのは鈴音しかいない。だが、その彼女自身が一癖ある人物だ。口を挟んでみて棘を持った態度で返されたのなら煽るような言葉と態度を含ませながら応える。半ばわざとそういう対応を取る辺り、鈴音は事態を収束させることに真剣になっていないらしい。
「俺は渡よりずっと真剣に賭けてるんだよ。あんたも曖昧な希望に縋る身なら気持ちは分かるだろう。……いや付き合いきれてるならあんたも渡の側か」
「そうだね。報酬がどんなものかは気になるけれど、その過程でこの世界の秘密を知ることの方が重要かな」
「とんだ物好きだな」
 だが、わざとらしい煽りは寧ろ将吾の熱を冷めさせることに一役買った。矛先が苛立ちの根源から外れたことで現状を再認識する余白が生まれたのだろう。この場では自分の方が少数派であるということに気づいた途端、鈴音の対応に乗ることがあほらしいと思えるほどには冷静になることができた。
「そんなマッドサイエンティストみたいな考えしてりゃ、好奇心のために人を食わせててもおかしくないか」
 だからこの言葉はそのパフォーマンスに対する少しばかりの感謝と嫌味を籠めた軽いジャブ。ジョークにしては少し毒の強いその言葉の意味を正確に理解できたのは発言者とその言葉を向けられた相手だけ。
「将吾、それは冗談でも悪質だ。逢坂さんは変な人でもアハトに人を食わせるような人じゃない」
 つまり渡には正確に理解できなかったということ。彼が割って入ったのも事実無根の中傷だと考えた当然の行動だった。だが一方で指摘しなかった事実に対しては否定する材料を持ちえなかった。
「いやあのモンスターは確実に人を一人食ってるぞ」
「将吾はさっき会ったばかりだろ。何を根拠に言ってるんだ」
「根拠ならある。……あいつ、日本語話しただろ」
「それがどうした?」
 疑問の体で返しながらも渡は将吾の言わんとすることが薄々分かっていた。いや、ここまで来れば分からない方がおかしいだろう。人を食っているという推測。その引き合いに出した人の言葉を話す能力。この二つを紐づける事実を渡自身が先ほど見ていたはずだ。
「渡は知らないのか。モンスターは本来人の言葉は話せない。――人の精神や記憶でも食ってないとな」
 それはトラベラーとして戦っていればいずれ辿り着く事実。人を殺して食ったオオクワモンの言動がその一端。明らかに語彙が増えて言葉使いが流暢になった姿を思い出すと将吾の推論を否定することは難しい。
 そうなれば必然的に目を瞑れなくなる事実と直面することになる。アハトもオオクワモンと同じように人の言葉を話すことができる。ならばその術はどのようにして手に入れたのか。
「どうなんだ、飼い主さん?」
 真正面からの追い打ちに対して鈴音は表情を変えることはない。ただ一度渡の方を見て、感情が失せたような声で答えを口にする。
「そうだね。アハトには食人の経験があるとみて間違いないよ」
 白状したというにはあまりに淡々とした口調と振る舞い。それはタブーを誤魔化しきれないことへの諦観によるものか。
「ただ私の指示で人を食わせたことはない。……信じるかどうかは君次第だけれど」
 諦観は諦観でも後に続く言葉の信憑性が無くなることに対するものだろう。鈴音に向けられた問いかけの返答は、人を食したモンスターを連れている自分とこれからも行動をともにするのかという問いかけ。その矛先は将吾ではなく渡に向けられていた。
「俺は信じるよ」
「本気か、渡?」
「俺がここで冗談言うと思うか。せめて奢ってもらった分は働かないといけないからな」
 あっさりとした渡の答えに将吾は驚いた後に頭を抱え、鈴音は溜息一つ吐いて笑みを返す。そこに共通するのは渡がこういう人間だという再確認。後に続く冗談みたいな言葉を本気で口にするような人間には何を言ったところでその信念を曲げることは不可能だ。
「それに邪魔が入っただけで、逢坂さんも元々隠すつもりはなかったんだろ」
「覚えていたとは意外だ。――ありがとう。ますます君のことを気に入ったよ」
 言い訳じみたことになるから口にはしなかったが、鈴音も話すつもりだったし実際口にしようとした。ただそこにオオクワモンという乱入者兼実例が現れてそれどころではなくなった。それは確かに事実ではあったが触れられることのないものだと思っていた。
 愚直でずれている割に妙なところは覚えているものだ。ならば鈴音としても興味本位でからかうだけの対象としては見れなくなる。
「あほくさ。……いろいろ変なこと言って本当に悪かったな。この通りだ」
 渡の態度に感化されたのは将吾も同じ。張りつめて暴言を吐いていた自分を冷静に見つめさせられ、頭を下げないと渡を直視できないほどに惨めになってくる。渡相手に何を言ったところでこっちの言葉は通じず、鈴音との不和を招こうとたところでその思惑を受け流すことは最初から分かっていた。分かっていたから弱く情けない部分を晒してしまったのかもしれない。ただあまりに情けない姿を見せてしまったため、これ以上は渡達の前に立っていられなくなった。
「俺は行く。邪魔したな」
「待てよ。置いていく気か」
「んん? まさかついてくるつもりか」
「当然だろ。助けてもらった借りをまだ返していない」
 その思惑を遮ったのは渡の機械的とも思える言葉。これも渡の性格を知っていれば真っ先に予想できる展開だったはず。だがそれができないほどに数分前の将吾は冷静さを欠いていたようだ。確かに手を貸してほしいと思わないと言ったら嘘になる。だが、今さらそれを望むことはできないと諦めていた。
「渡、お前は本当に……」
「いや名案だ。仲間は多い方がいい」
「あんたも正気か?」
「少し前の君よりかは正気だよ。明確に願いを掲げてるのも一人だけだから、もし報酬を巡って争うことになったとしても対立することはない。君にとっても徳しかないと思うのだけれど」
「そうだな。……分かったよ。白状すると、限界を感じていたからありがたい」
 しかし、それは諦めた方が精神的に楽だっただけ。その資格がないと自責の念に駆られるのが怖かった。それでも本当は自分の痛みを許容してくれる仲間が欲しかった。
「改めてよろしく頼む、将吾」
「こっちこそ」
 和解を果たして共闘体制を得る。その証として伸ばされた渡の手を掴もうと将吾も逆側の手を伸ばす。知り合いの身で今更握手をするのも変な気もするがこれはこれで悪くはない。
「――にぎゃあああ! 止まって止まってああ無理だこれどいてどいてえええ!!」
 蟠りのなくなったいい雰囲気に割り込む甲高い悲鳴。それに疑問を抱く前に渡と将吾の間に突風が走り、それが通り過ぎた方向に二人が首を向けるとその発生源が地面を跳ねて転がっているのが見えた。
「ぎにゃんっ」
 跳ねること三度。転がること六回。そのイベントを経て止まった乱入者はやはりモンスターとトラベラーのタッグだった。
 モンスターの方は灰と白の毛並みの猫のような生物。ただその体躯は小学生程度なら背中に乗せられるほどに大きく、その背中には一対の翼が生えていた。翼と尾に描かれたチェッカーフラッグのせいか、その出で立ちは物騒なこの世界には不釣り合いに見えた。
「いったーい。もうやだこんなの」
 トラベラーの方はそのモンスターに跨がれる――実際に背に跨って滑空した結果無様に転んだのだろう――程度に小柄な少女。白とピンクのパーカーも薄紫のスカートも砂にまみれているが怪我はないらしい。茶色いショートカットから跳ねている二束の毛を何と言っただろうか。特に意図も意味もないが、渡と鈴音はまったく同じ疑問を抱いた。
「もしかして――寧子ネコちゃんか?」
 ただ一人将吾だけは別の反応を見せていた。理由は単純。その少女のことをよく知っていたからだ。二年間会っておらずその間に成長していたとしても、将吾が忘れるはずも分からないはずもない。
「あ! 将吾さん。お久しぶりです。……って、あああこんなとこ見ないでくださーい!!」
「冗談だろ……」
 失った恋人の妹――大野オオノ寧子ネコ。こんな場所で彼女と再会することを将吾は望んでなどいなかった。




 


スレッド記事表示 No.4967 X-Traveler Episode.3 Part.Aパラレル2018/04/22(日) 20:34
       No.4968 X-Traveler Episode.3 Part.Bパラレル2018/04/22(日) 20:35
       No.4969 あとがきパラレル2018/04/22(日) 20:37
       No.4971 Henな格好で走るFu運な槍兵を思い出す夏P(ナッピー)2018/04/23(月) 23:23
       No.4979 おっさんが死んだ! ←この人でなし!パラレル2018/04/29(日) 18:07