オリジナルデジモンストーリー掲示板NEXT
 

小説とその感想の掲示板です。小説を投稿される方は小説投稿規約を必ずお読みください。

         


ID.4962
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/04/18(水) 22:27


それは悪魔の様に黒く 六話 二
縁に世莉達が付いて行くと縁はよく言えばレトロな悪く言えば古臭い個人経営らしい喫茶店に入った。

本当は世莉は亜里沙には来て欲しくなかったが亜里沙は当然とばかりに付いて来ていたし縁の反応からも亜里沙が必要に思えた。断るにしてもそもそも話を聞くことすらままならない。

「……いらっしゃい、縁ちゃん。いつもの奥の席かな?」

こくこくと縁は頷いて喫茶店の奥の区切られた一角に向かう。それぞれの間もきっちり区切られた二つあるボックス席の片方に縁は入って行く。ちらりともう片方の席に帽子に包帯、コートを着た大柄にも程があるだろうという男がいたが世莉は無視した。

壁に貼ってあるチラシに当店のキャラクターとしてその包帯男が書いてあり、探偵であるという事を示すいくつかの設定と簡単なお悩みなら本当に乗りますという文言があった。

レディーデビモン達はそれがデジモンであると気づいたが互いに一瞥するだけにした。

「えっと、その……あの、その、隣の席の人達は……」

世莉がよく耳を澄ますと隣の席でコーヒーをすする音が二つ聞こえてきた。見えないのに人達と言っている辺り縁が使う時にもいつもいるのだろう。

「さ、最初は、その、向こうに、お願いしようと……えと、思ったんですけど、男子だし、スパーダモンよりすごく強いみたいで、それで……話しかける勇気もなくて、もじもじしてたら、ゆうちゃんが白河さんに相談して……」

ゆうちゃんはとてもいい子で二学期のはじめの席替えで隣になってとか、隣の席の人達も悪い人ではないんだと思うんですけど歯がギザギザしててとか要領の得ない説明を聞きながら世莉は手紙に目を通す。

人の話を聞く時に目を合わせるのは基本だと言うが目を合わせない方が気が楽な事もある。木のテーブルだがよく磨かれていることもあり反射で世莉には表情もわかるし、聞き逃すこともない。

この喫茶店は喫煙席もないらしくコーヒーの香りと木の香りばかりで世莉にも落ち着けた。

手紙の内容もあまり要領を得たものではなく、話すことも簡潔にまとめることも苦手なんだなと思ったが、それでもざっくりと世莉は把握した。

「クラスの中でデジモンを使ったいじめが行われているようなされていないようなよくわからない状況であると」

世莉が言うとこくこくと縁は頷いて一つの動画を見せて来た。どうやら廊下で前を歩く人を撮ったものらしい。

前を歩く男子は見るからに暗かった。猫背で世の中を呪っている様な雰囲気があった。その背中には紫色のどこかアゲハチョウの蛹の様にも見える形をしたデジモンがいた。

その男子が前から歩いてくる男子とすれ違う時にそれは起きた。

その男子は確かに避けた。すれ違う相手も確かに避けた。ただそのどちらもが見えない何かにぶつかった様な反応をした。

次の動画ではその男子が何もない場所で突然何か見えないものに躓いて転びかけた。

その次の動画では机の上に置いてあったはずの消しゴムが一瞬で消えた。

体育祭の時らしい動画では障害物走でハードルは飛び越えているのに宙で脚が何かに引っかかりそのまま落ちてハードルにも引っかかって転んでいた。

「五浦くん……あの、私の、前の席で、スパーダモンが、何かおかしいって気づいて……」

瞬間移動とか、見えないデジモンとか、そういうのがいて嫌がらせをしているんじゃないかと思ってと言う縁に世莉は頷いた。

亜里沙にも縁にも見えていなかったが世莉にはその動画の中の一つに一瞬緑色の影が映り込むのを見つけた。

「レディーデビモン、この廊下の動画を……なん引っかかる前後のところを……なんていうの?一枚ずつ見せて」

レディーデビモンが縁の携帯に指先を入れて一枚ずつ見ていくと、ぼやけてはいたが緑色の影は確かに映っていた。

「……誰かからの嫌がらせなのは間違いないんじゃない?不自然だし」

しかしこの緑色の影の正体がなんなのかも誰に付いているデジモンの仕業かもわからない。

一瞬世莉の頭に蘭とエカキモンなら割り出せるんだろうななんて考えが過ったがすぐに打ち消す。

代わりに画像からその姿を切り取って聖に送ることにした。

「さて、この嫌がらせを止められるかはまだわからないけど……縁さんはそもそもどうしたいの?」

世莉達が聞いたのはまだ嫌がらせを受けている生徒がいるというだけの話でしかない。それに世莉はまだ聖がこれを世莉に投げてきた理由がわからなかった。デジモンに関わりその力で嫌がらせをしているらしいというだけならば委員長に言ってしまえばいい。

そもそも気になるとか怪しい動きをしているとかそもそも話も聞き出せなかったかの様な話だったわけで、何かをやらせる為のでっち上げだった様な気すらしていた。

「え、と……それは……その、先に私の鼻の話をしなくちゃいけなくて…?えと、それよりスパーダモンの話……?スパーダモンは武器で、使うデジモンが……あ、でもそれはその、強くなって何かしたいとかじゃなくて……怖いから身を守りたくて……」

実に要領が悪い話し方に世莉がどこから書こうかと考えていると、亜里沙がそっと机の上に置かれた縁の手に手を重ねた。

「……大丈夫、大丈夫だから、落ち着いて一つずつ、ね?」

亜里沙はそう言って鞄からルーズリーフを取り出すと、鼻、スパーダモン、武器、と書いて世莉の方にペンと一緒においてまた縁の手の上に手を重ねた。

「まず、鼻の話から教えてもらっていい?」

「えと、私の鼻は、人の匂いを……その、普通の人の匂いじゃなくて、その人の……多分内面とかそういう感じの、そういう匂いを感じられるんです……その、ここのマスターだと砂糖をたっぷり入れたコーヒーみたいな匂いで、英語の窪村先生だと……悪口みたいなんですけど、その、フルーツ系の芳香剤とかそんな感じのを生ゴミにかけたみたいな匂いがして……えと、黒木さんだと……」

すんと縁が一つ息を鼻で吸い、少し考える。

「ミルクココア……みたいな」

当然世莉からそんな匂いはしていない。

「えと、私が良い匂いだと思う人は、どうやら、その、私にとって、あ、相性がいいというかなんというか……」

話された能力は聖の能力に近いものだった。相手に対して抱いた印象や情報を総合して嗅覚で感じる能力。視界に数値やグラフで出る聖に比べればその精度はかなり低いが。

亜里沙はだからかと心の中で頷いた。

聖が世莉に任せたのは聖と相性が悪いせいだ。もしかしたら自分とユノモンを利用する為の布石なのではと勘ぐって危険を見たわけでもないのに付いて来たが、なんてことはない。

縁は日陰者を自覚する日陰者だ。小市民で、臆病で、聖のようなキラキラと光る人間達とは関わることから苦手。もしゆっくりと話す時間があればおそらく懐柔する事もできたのだろうが、事前に抱いた印象から苦手だと見ていたならばそもそも会うことが得策ではない。そもそも話も聞けていない。

しかし、何故世莉にという点は亜里沙にもまだわからないので気は抜かない。

「そうなんだ、ありがとう。次はスパーダモンについて教えて?」

そう言われて縁が片手を頭に置いて少しブツブツと独り言を呟くと、白い猫の様な、世莉が聖から写真で送られてきたままの外見のデジモンが縁の頭から出て隣に座り、そそっと縁の影に隠れた。

「えと、あの、スパーダモンは私に、住んでるデジモンで……その、本人は弱いけど、強い武器になる、らしくて……」

どういう事かと世莉が首を傾げるとレディーデビモンが世莉の背後に現れる。縁には見えない様にしているがスパーダモンには見えているらしくびくっと反応する。

「あのスパーダモンってデジモン、エカキモンみたいに少し特殊な区分みたいだから……」

一芸に特化してて何が起こってもおかしくないのではと言外に言われて世莉も頷く。エカキモンの例を見てしまうともう、何が起きても驚く事もできない気さえする。

とりあえずざっくりとさっきの言葉の意味は世莉にもわかった。

安全の為にスパーダモンを武器として使ってくれる相手を鼻を使って探していた。という事だ。

それでもまだ目の前の席の相手には繋がらないが、なんとなくは想像できてくる。

「えと、話したことはないんだけど……五浦くんは、嫌な臭いとかは、しなくて……すでに、完全体だったりとかする人達と違ってそういうの、話したってその、怖い目に遭わないんじゃないかって……」

世莉は、話したことない相手を迂闊に信用していいのだろうかとも思うし、聖に聞いた方がいいのではとも思ったがとりあえず飲み込んだ。

素行調査とか頼んだら聖がどんな違法手段を使うかわからないし、縁の場合はおそらくそもそも友達らしい友達がほとんどいないのだろう。

そしてその中で頼ったりしたら今までの関係がなんて事も考えたかもしれない。話した事もないということは壊れる関係もないということだ。

「あ、あの、でも、その、本当はおかしいなっていうのはわかってて……いきなり守って下さいなんて言っても……変なやつで……しかも、強くなるぐらいしか、わ、私達から出せるメリットもなくて……」

結局のところ半分は自分の為。守ってくれる存在が欲しい、互いにメリットがある様な。

悪い臭いがしないという表現はつまり相性が特別良いとも言えないということ。でも、誰かから嫌がらせを受けている。それをはねのける力を欲しがるかもしれないから助けたい。

そうしたらひょっとするとひょっとするかもしれないから。

やはり聖に任せた方がいいかもしれないとも思ったが、待てよと思い直す。

聖との関係悪化を避ける為には聞くだけで終わるよりも当然解決した方がいいだろう。

それに、亜里沙が助けたいと思って動いてしまう可能性もあると、世莉は考える。

「……ねぇ、世莉さん、その、方法はどうしよっか?」

悪質な嫌がらせなのは間違いないとして、どう助かるか。

相手がわかれば委員長にチクってしまうのが一番早い。でもどうやって見つけるかという問題がある。

世莉は蘭を巻き込むことを良しとしないだろうと亜里沙は考えたし実際そうだった。蘭を頼れば何か奇天烈な絵を描いてそれによって突き止めることは難しくないだろうと思う。

でもそれが当たり前になることは蘭の存在が知れ渡る原因にもなり得る。

知れ渡ってしまえば狙われるだろうし、ユノモンでないと対処できない状態が発生する事もあり得ないわけではない。ユノモンは運命の神で女性を守る神、守る事には向いているがそれは亜里沙が今まで見せていた亜里沙が終わる事と引き換えになる。

「……私がそのデジモンを見られれば、レディーデビモンがそれを画像として携帯に送れる。そうしたらまず白河さんに見せて知らないか確認する」

知ってたら終わり、知らなくてもとりあえず委員長に見せておくだけでも意味はあるし、世莉はそもそも把握してないから知らなくても当然なのだが聖が存在すら知らないデジモンというだけで学校のデジモンを連れている生徒のほとんどは候補から除かれる。

定期的に嫌がらせできる近い距離と嫌がらせの起きたタイミングを合わせて考えたならば多く見ても十人以内に絞り込むことは難しくない。

「あ、あの……それって、その、五浦くんは黒木さんがそれを見るまで、見てからも捕まえるまでは……」

嫌がらせを受け続ける事になるのではと言おうとして縁は口を噤んだ。

協力を頼んでおいてあまりに失礼な言い草だ。まるで咎めているみたいじゃないか、自分だって、嫌がらせかもわからないからとカメラだけ回すなんて事をしてたのにと自分を責めた。

その手を亜里沙は改めて大丈夫大丈夫と言い聞かせながら撫でた。

「……先に伝えちゃってからそれでものこのこ嫌がらせにやってくるやつを見つけるでいいんじゃない?」

世莉は当然という様にそう言った。知られてしまってそれが顔に出たならば嫌がらせしている側に伝わる可能性もある。

伝わってしまったら姿をくらます可能性は当然ある。

くらまし方も簡単だ。外にデジモンを出さなければいい。

亀の様に閉じこもりほとぼりが冷めるまで待つ。普通に見積もって卒業までは数年以内。デジモンは日常に不可欠な存在でもないのだから隠れられたら見つけるのは難しい。

難しい。難しいが、難しいだけだ。捕まえなきゃいけない理由がない。

捕まえなければいけない理由があるとすれば思わぬ報復が無いようにという程度。それを考えるのは当然の保身。

縁に答えてからあぁ確かにそういう不安もあるのかと世莉は慌てて取り消す様な仕草をする。

「……えと、委員長達にこういうことがあったって、そう伝えておけば伝えても、その、大丈夫じゃないかな?その、仕返しが、されるかもって、そう伝えておけば、委員長が何か起こらないように目を光らせておけるだろうし……」

だから大丈夫。あなたは嫌なやつではないと亜里沙は言外に込めるがそれは伝わらない。縁は罪悪感に苛まれる。

そして同時に亜里沙もまた苛まれる。自分も保身を考えるよりも自分以外の安全を考えるべきなのに、亜里沙とはそうであるべきなのに、と。

「……とりあえず、今日できることはもうなさそうだし帰ろっか?」

ふと、世莉の目に探偵のチラシが改めて目に入る。世莉の耳にはちょこちょこと聞き耳を立てていた包帯のデジモンと人間の会話が聞こえていた。犯人探しとかまさに探偵の仕事だろうに、というような依頼をして欲しいらしい内容だったが世莉は無視した。

無視して帰ろうとして、止まった。もし写真の一部から鮮明な人相を手に入れられる様な能力があれば人探しは随分楽になる。もしかしてそういう能力を持っているのではと。

「……少し、探偵の話だけ聞いてみてもいい?依頼するかはともかくどんなことができるかだけ……すぐ特定できる様な能力があったら……」

そう世莉が亜里沙と縁に言うと、ひょこっと仕切りの上から帽子を被った包帯男が顔を出した。

「あー……悪いんだが、僕達にはそういう類の能力はちょっとなくてな……」

まぁ泥臭いやり方でもいいならいくらでもやれるし、やる気はもちろんあるし、と取り繕う様にアピールするその包帯男に世莉は一つ頷いた。

「……人手が要りそうだったらお願いするかも」

多分頼まないと思うけどという言葉を世莉は呑み込んだ。今回、人手が足りないというところはない。

「あ……」

思い直して世莉はもう一度立ち止まる。


スレッド記事表示 No.4961 それは悪魔の様に黒く 六話 一ぱろっともん2018/04/18(水) 22:22
       No.4962 それは悪魔の様に黒く 六話 二ぱろっともん2018/04/18(水) 22:27
       No.4963 それは悪魔の様に黒く 六話 三ぱろっともん2018/04/18(水) 22:28
       No.4964 それは悪魔の様に黒く 六話 四ぱろっともん2018/04/18(水) 22:31
       No.4965 それは悪魔の様に黒く 六話 五ぱろっともん2018/04/18(水) 22:37
       No.4966 それは悪魔の様に黒く 六話 あとがきぱろっともん2018/04/18(水) 23:12
       No.4970 た、探偵だと……!?夏P(ナッピー)2018/04/22(日) 23:18
       No.4972 かんそうマダラマゼラン一号2018/04/24(火) 01:18
       No.4988 感想偏心ぱろっともん2018/05/02(水) 21:22