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ID.4953
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/04/03(火) 20:58


それは悪魔の様に黒く 五話 後
放課後になり、聖は世莉と図書室に入る亜利沙の画像を受け取って一つ頷いた。

世莉の目のことを亜里沙は知らないという事になっているから、トイレに行った時に亜里沙の頭から出ていくだけでも世莉にはただ頭の中に引きこもったように見え、ユノモンが抜け出したことは気づかれない。

ユノモンが待ち合わせの場所に行くと既に聖と平岡はいた。

聖の手の中には移動教室のタイミングで机に入れられていた手紙があり、便箋を開いたり閉じたりしながら鼻を近づけていた。

「開くと甘い香りがするんだけど……一度嗅いだライラモンの香りと同じだから幻惑されるやつかな?ライラモンついてる小森さんはあれの近所に住んでるし確か好意も持ってたから……洗脳されてるのか自主的なのかは怪しいところだけどね」

蘭ちゃんのやつだとひょっとすると範囲外かもと聖は言いながらその手紙を胸ポケットに入れた。

「もし戦闘になりそうなら任せていいって話だけど信用して大丈夫?」

平岡は不満そうにそう聖に聞く。すぐ側に人間には見えないように姿を消しているユノモンが来ているのはわかった上でそう言っている。

「信じてもし見捨てるような行動を取られたってセイバーハックモンがいるから大丈夫。そうだよね?」

聖が平岡にそう微笑みかけると平岡はまぁと返す。言葉にも顔にもほとんど出ていなくても聖にはそれだけで機嫌が直ったのがわかった。

ユノモンの案内でキツネ顔が既にいるはずのその部屋に行き、扉を開けて聖は一瞬目を疑った。

部屋の至る所から爆発的な勢いで目が出て木が伸び壁を覆い床は下草で覆われて、ほんの一回り教室が狭くなる。

稲荷とそれについているネズミの他にいたのは女子二人と完全体二体。

その二体を聖は知っていた。花の妖精と老木の化身、前者ライラモンは腕っ節の強いデジモンではないが幻惑や誘惑に長けていて全体的に見ればバランスの良いエンジェウーモンと同じような万能タイプ。後者ジュレイモンは万能というほどできることが多いわけではないがやはり幻惑する能力を持ち、ライラモンよりは戦闘に向いたデジモンと言える。

ただどちらも幻惑という能力を使わずには戦闘に特化した完全体を倒せるほどの実力はなく、戦闘に特化している中でも今聖が確認している中では完全体で最強だと言い切ってもいいセイバーハックモンならば二体がかりでも幻惑なしでは負ける心配は要らない。

増援さえ呼ばれなければと聖は一瞬視線を木と壁の向こうにあるだろう隣の教室に向けたが、すぐにその心配が今はないのだと思い直す。

ユノモンから少しだけ説明は受けている。その時が来たら相手の連絡手段は全て断ち、外部からの応援も遮断すると。それがこの神域なのだろうと聖が理解するのにそう時間はいらなかった。

平岡も聖に肩を叩かれて大丈夫と一言声をかけられれば平静を取り戻す。聖が大丈夫というならば大丈夫だと平岡は信じていた。

「……いや、驚いた。白河さんが来るとは思ってなかったよ」

「それは残念だったね。ところで前々から言ってるんだけども写真の処分する準備はできた?」

稲荷の言葉に、聖は温かく微笑みながらそう返す。

稲荷の右袖をライラモンのすぐ側にいた女子が掴んでなにかを懇願するような視線を向けたが、稲荷はその手を払いのけてジュレイモンとジュレイモンの側にいた女子の方を向く。

その時ふと稲荷は気づいてしまった。その女子はもう自分の洗脳下にはいなかった。

洗脳できている時と単に脅している時では自分に向けられる視線が違って来る。稲荷はそれを知っている。

その女子の目は自分がこれからどうなるのかこの男に握られているのだという怯えを纏っていた。

それがこの空間が人の力、神の力でない力の及ばない領域となった事でチューチューモンの能力が解除された事によるものとは気づきようもなく、稲荷は大いに動揺した。

「もう怯えなくて大丈夫だよ、美野里ちゃん。辛かったね、怖かったね、でももう大丈夫。何もしなくていいからね」

聖はそう少しだけ低めの落ち着いた声で語りかけた。

聖には見えていた。入った時点でジュレイモンの側にいる、今聖が美野里と呼んだ女子のみが洗脳されている事がわかっていた。

裏を返せばもう片方の女子小森は素で稲荷に協力している事になる。

急に洗脳が解けてパニックに近い状態にある彼女を味方にするよりも落ち着かせて関わらせないほうが無難だと判断した。

「投降するか力づくか、どっちか選べるけどどっちがいいかな?」

稲荷は絶望的な状況なのに妙に冷静だった。むしろ頭がスッキリしたように感じていた。

その袖を小森がもう一度引く。

「もう、やめようよ……ね?」

もう一度袖を振り払う事は稲荷にはできず、稲荷は頷いて両手を挙げた。

自分がやって来た事すらも他人事のようで、写真のありかについても何故だか思い出せないのを不思議だと感じる余裕すら稲荷とチューチューモンにはあった。

「……じゃあ後は私達で大体なんとかする気だけども完全に処理するまではここにいてもらうからね」

聖は最初に稲荷が手を出したらしかった小森とライラモンから話を聞き、平岡に伝言させて待機させていた仲間を動かし始めた。

稲荷はほとんど隠し場所を知らず、写真の現物の隠し場所は全て小森のロッカーや自室で、稲荷はそれ以外に現物がないということだけ把握していた。

小森に付いているライラモンの幻惑能力で写真を自分が見たり撮ったりしたのだという風に錯覚させて稲荷に見せる事なく小森が保管していたらしかった。

「……僕はなんでこんなことを本当にしてしまったんだろう」

ふと呟いた稲荷を聖は少しだけ見て、さぁどうしてだろうねとだけ返してデータの消去や被害者の洗脳の解除作業を進める方にまた意識を戻した。

被害者は部屋の中に招き入れるだけで洗脳が解けていったが数が多く、放課後には残っていない生徒もいた為後でエンジェウーモンが出向く必要もあり、既に聞き出すことを聞き出した稲荷の事に構っていられなかった。

聖の目で見てもほんの少しも嘘をついている様子も嘘をつかないように隠している様子もなかった。

大体一時間ほどで聖達は全ての写真を処分しデータも消し、学校に残っていた洗脳されている生徒達の洗脳を解き終わった。

聖と平岡はまだ洗脳を解く為に色々と出向く必要があったが写真が処分できた以上ユノモンの力はもう必要なかった。

「明日から色々と今回の事の余波が出てくるだろうから気を付けて。二人にもよろしくね」

ユノモンを通じて伝言を受け取った亜里沙は問題に頭を悩ませる世莉の隣で軽くシャーペンの頭を齧りながら考える。

委員長はあくまで人の枠で学校の秩序を維持している。聖は人の法を守る気はないがかといって誰かを食い物にするようなのを無視するタイプでもない。

ただ少額の盗みや盗撮、錯乱させての強姦の様などちらにもそうそう気づくことのできない犯罪行為をするデジモン達がそう少ないわけでないのを亜里沙は知っている。

キツネ顔は聖曰く聖に次ぐ勢力だった。そして聖と違って能力で好き放題やろうという側の存在だった。ひそかな支持層はきっといただろう。

そう考えると聖が小森を見逃したのは正しかったのかもしれないと考えながら亜里沙は世莉の描きかけの計算式に向けてシャーペンを伸ばす。

「あの、そこは、えと、その公式じゃないよ」

こっちの公式を使うのと公式をそこに書きつつ亜里沙はまた今後の事に思考を巡らせる。

小森にはライラモンがいる。幻惑し良心のタガを外させるのは難しくなかった。

動機は恋心なのかなんなのか、最低の行為をしているのに傍にいる唯一の味方である演出だったのだろう。

だから聖が動いても特別策を巡らせもしなかったし彼を庇いもしなかった。解決してしまった方が稲荷は孤立するし小森の存在は稲荷にとって大きくなる。

周りを巻き込んだとんだ茶番だった。

しかし、下手に小森を咎めて稲荷が小森と距離を取ったりすると小森が聖に対して敵対する行動をとる可能性がある。聖や委員長といったある程度秩序を維持しようとするものに反する勢力を創るといった動きを見せたかもしれない。

実際稲荷がそういう事情であれ実際に行動にしてそれなりの人数を相手に下衆な行為をそのまま行わせたのは間違いない。幻惑する能力は人を扇動することに長けた能力だ。

人をまとめて行動を起こそうという人間はそう多くはない。しかしその能力は容易く大それた行動をさせられる。見逃したことも時間稼ぎにすぎない可能性もあるが、このまま他に出てくる事なくまとまることなく委員長一強で聖の勢力が最大のまま卒業を迎える可能性もある。

それが亜里沙の最も望む最も平穏な終わり方だ。

例えそうだとしても寄生させた大元の存在というのが動いてくるかもしれないことに関しては警戒し続けないといけないが、現状把握し得る中では最も平穏だろう。

どれだけ想像したとしても結局後手後手で予知頼りでいくしかないかと不本意な結論を下した亜里沙がふと顔を起こすと正面の席で蘭がノートに突っ伏していた。

隣に座る竜美は数学は得意だからかよどみなくシャーペンが動いていて珍しくよく集中できているらしかった。

亜里沙が蘭の肩まで手を伸ばしてトントンと叩くと蘭が飛び起きた拍子にノートが見えた。

究極完全態グレート斉藤さんという文字と共になんだかすごい気合いの入った落書きが描かれていたが、亜里沙は見なかった事にしてもう少し頑張ろうと声をかけた。ただこうしていられるのが亜里沙にとっても心地よかった。


スレッド記事表示 No.4952 それは悪魔の様に黒く 五話 前ぱろっともん2018/04/03(火) 20:57
       No.4953 それは悪魔の様に黒く 五話 後ぱろっともん2018/04/03(火) 20:58
       No.4954 それは悪魔の様に黒く 五話 後書きぱろっともん2018/04/03(火) 21:27
       No.4959 これはもっと愛を込めて夏P(ナッピー)2018/04/07(土) 04:56
       No.4960 感想返信ぱろっともん2018/04/15(日) 18:48