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ID.4944
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/03/26(月) 20:31


*The End of Prayers*  16話 C
◆  ◆  ◆



 人間やその周囲の生き物が、致命傷を負えばそのまま命を落とすように。
 データであるデジモンも、一定以上のダメージは核となるデジコアへの損傷に繋がる。
 
 頭部を──生命維持活動の根幹となる脳を穿たれたフーガモンは、あっけなくその生命を終わらせた。



 フーガモンの体は光を帯び、飛散して消えていった。アンドロモンから授かったナイフが、落下し床に突き刺さる。

『…………クロンデジゾイドのナイフ……。
 ……ああ、アンドロモン。まさかこんな物騒な物を子供達に持たせていたなんテ……』

 使い魔の猫から、ひどく憔悴した息が声が漏れる。

「……どうするのさ。なんていうか、その……つい殺しちまったじゃないか。バレたら大騒ぎだぞ?」
『ええ、そうデス。本当にその通りデス。…………もう、何ていう事……。仕方がなかッタとは言えこんな……ピーコックモンからあれだけ忠告されていタというのに……』

 ウィッチモンはひどく動揺していた。

 フーガモンが殺されたことに気付かれるのは時間の問題だ。そうなれば間違いないなく──ここにいる子供達もろとも全滅する。

『時間が許せば休息し回復をはかりたい所デスが……まず子供達を此処から解放させまショウ。最優先デス。今すぐに』
『でも、アタリの子たちは……』
『あちらの方が人数としては大多数デスが、合流する時間すら最早ありまセン』

 ボロボロになった使い魔の猫は、下半身を伸ばし子供達のもとへ戻った。

 ひしゃげた格子から抜け出した誠司がすれ違う。彼は泣きながらユキアグモンのもとへ走っていった。
 チューモンはナイフを引き摺り、地面をガリガリと削りながら戻った。手鞠にリボンを返す。手鞠は、安堵したのかその場でボロボロと涙をこぼした。
 衰弱した子供達は、一体何が起きたのか、と……怖かった化け物がいつの間にかいなくなっていることも、なにやら見知らぬ生き物が増えていることも、よく理解できずにいる。

 ──その一方で、蒼太と花那はひどく青い顔をしていた。

 フーガモンを殺した。
 わかっている。そうしなければここにいる全員が死んだことも。──けれど、騒ぎを起こすなとあんなに言われていたのに。
 ……ああ、コロナモンとガルルモンに何て言えばいい。このままでは、これがバレたらブギーモンといる二人が危ない。

「……ウィッチモン、柚子さん、私たちどうしたら……」
『今すぐ他の子供達を起こして下サイ。彼らをリアルワールドへ帰します』
「え、今すぐ……!?」
『ゆっくりしてられない……みたい。騒ぎに気付かれる前に、皆を帰さなきゃ。
 動ける子はどのくらいいる? 動けない子を運ぶの、手伝ってもらわないと』
「わ……わかりました!」

 花那は立ち上がる。手鞠は、どういうことかわからない、といった様子だった。

『手鞠ちゃんと海棠くんも手伝って! 動けない子たちに手を貸してあげて!』
「は、はい! ……花那ちゃん、わたしたち、帰れるの……?」
「……うん。今すぐね」
「皆! もう大丈夫だ! 家に帰ろう! 悪い奴は……その、もう来ない!」

 蒼太が叫ぶ。衰弱した子供達は、その言葉も理解できない。

「ほら、大丈夫!? 帰るんだ! 家に帰るんだよ!」
「…………か、え……」
「そう! 帰るんだ! 今すぐだ!」
「蒼太、リアライズゲート出さなきゃ。……でも、今度はちゃんと開けるかな……」
「……そうだ……あの時、俺じゃ使えなかったんだ……」
「……最初にデジタルゲートを開いた時は大丈夫だったのに、あの時はどうして出来なかったんだろう」
『ねえねえ、来たときってさ、腕輪ばひゅーんって使ったの、誰がどうやってたんだっけ?』

 みちるの一言に、柚子が気付く。
 
『……そっか。あの時は、コロナモンがゲートを開いたんだ! もしかしたらデジモンじゃないと使えないの……? 元々ブギーモン用だったし……』
「! そっか、それで俺じゃだめだったんだ……」
『チューモン、ユキアグモン、どっちかでいいんだけど……矢車くんの腕輪を使ってゲートを開けて欲しいの。いいかな……?』
「開けるって、どうしたらいいのさ」
『リアライズゲートオープン! ……って言えば、開くと思う!』

 チューモンは、それだけ? と怪訝な顔で腕輪を眺める。

「わかった。それくらいならウチがやるよ。ユキアグモンもボロボロだし。準備は出来てるの?」
「あとは……開いて、誠司や皆を帰すだけだから……」
「動けない奴は? こいつら全員、運ぶのは無理だろ」
「……それは……」
「おでが、道を、凍らせで……滑らぜるよ」

 ユキアグモンが誠司に抱かれて戻ってきた。

「ずっと、滑っでいげるが、わがらないげど……」
『ま、ゲートってそんな長距離移動じゃなさそうだし、とりあえず滑ってツルっと入っちゃえばこっちのものなんじゃない?』
『……そうデスね。あと心配なのはリアライズ時の座標デスが……ある程度こちらで調整できないか試みマス』
『百人力だね! というわけで入れちゃえばオッケーだからいつでもオープンしちゃっていいよ!』

 蒼太と花那は頷いた。
 腕輪をチューモンに渡す。はめることはできないが、両手でしっかりと握っていた。

「……チューモン、あとで、わたしの家で……お菓子たべようね。今度は、隠れないで。……お母さんも話せばきっと……」
「ユキアグモンも、今度はちゃんと母ちゃんに紹介するよ! 命の恩人だ!」

 帰れるとわかり嬉しそうな二人。
 チューモンは苦笑した。手鞠にはその意図が、わからなかった。

「……とりあえず、やってみるか。『リアライズゲート・オープン』!」




◆  ◆  ◆



 腕輪は光を帯びる。

 この場の全員が見覚えのある、オーロラのような光。
 石の壁に大きな円を描く。デジタルワールドに来た時とは異なる演出だ。

 円の中には光の道が繋がっていた。
 ユキアグモンは、牢の中から光の道までを凍らせる。

「……よかった……開いた……!
 皆! 早くこの中に行くんだ! 早くしないとまた怖い奴が来るぞ!!」

 蒼太は動けない子供を起こそうとする。──ひどい臭いに一瞬顔が歪んでしまったが、我慢した。

「ユキアグモン、だめだ。動かせない! こっちにも氷をちょうだい!」

 ユキアグモンは牢の奥からゲートまで、道のように氷を張った。水瓶の中から水を撒き、滑りやすくする。

『急いで滑らせて下サイ。ずっと置いておくと凍傷になってしまいマスわ』
「私は真ん中から押すよ! 手鞠と海棠くんも手伝って!」
「この中に入れればいいんだな!? その後はどうするの!? 入れても進めないよ!」
『だいじょーび! あとはウィッちゃんが何とかしてくれるからね!』
「わ、わかりました! ところで……どなたですか……?」 
『爆裂ミステリアスガールみちるちゃんです! よろしくね!』
「は、はあ……」
「海棠くん、早く!」

 一人ずつ、氷の道を滑らせ光の道に導いていく。辛うじて動ける一人が、ゲートの入り口にいる花那に問う。

「……ぼく、たちは、どこ、に、いくの?」
「……大丈夫だよ。家に帰るんだよ」
「……おかあ、さんに……」
「会えるよ! でもその前に病院いかなきゃ。他の皆も連れてってね」
「…………」

 半ば信じられないという表情。
 警察どころか大人でもない、自分と同じくらいの小学生が、自分達を助けようとしているのだから。

 その子も含め、押し込むようにゲートの中へと送り出す。ゲートの中は思ったより広いのか、しばらくして全員が収まった。
 地下牢と違って暗くない、暖かな光の中へと移動した子供達は、その何人かが安堵で泣き出した。
 
「……さあ、あとは……誠司と宮古だけだね」

 蒼太の一言に、誠司はやっぱりという顔をする。

「……そーちゃんは……そーちゃんと村崎は、やっぱり帰らないの……?」
「……花那ちゃん……」

 蒼太と花那は、もう隠せないと──いっそ清々しい気持ちになり、強く頷いた。

「俺と花那のパートナーがいるんだ。この城の中に、まだ」
「……それに、守らなきゃいけない約束もあるの。
 ……後で、ちゃんと私たちも帰るから……」
「そんな……花那ちゃん……! 帰ろうよ! 危ないよ……!」
「……せーじ」

 ユキアグモンが、誠司をゲートの方へ押そうとする。

「……ユキアグモン?」
「そーだ、と、かなは、おでが守るよ」
「……え……?」
「……ウチも残るよ。さっきのナイフ使えば、ウチも戦力になるかもしれないし」
「チューモン……!」

 ゲートの幅が先程よりも小さくなる。──閉まるのも、時間の問題だ。

 誠司と手鞠は、ゲートと地下牢を交互に見合う。

 光の向こうには、家がある。家族が待っている。温かいご飯がある。お風呂がある。布団がある。
 そして地下牢には。──地下牢の先には、恐らく、更に悲惨な状況が待っている。

「……ごめんなユキアグモン。……そーちゃんも……」
「……誠司も宮古も、誰も、悪くないよ」
「……オレ、やっぱり……。……ユキアグモンと帰るよ」

 誠司はユキアグモンを抱きしめた。そのまま、動こうとしなかった。
 手鞠は涙ぐみながら、スカートの裾を強く握りしめていた。彼女も、その場から動こうとしなかった。

 ウィッチモンは止めなかった。

 ゲートは少しずつ小さくなっていく。こちらを見ている子供の何人かと、目が合った。


 そして、閉ざされる。
 誠司と手鞠は、大声をあげて泣き出した。これで良かったのか本人達にもわからないまま──仲間を見捨てなかった良心の反面、もう帰れないかもしれない事が、ただ、悲しかったのだ。




◆  ◆  ◆



 モニター画面には、光の道でさ迷う子供達の姿が写っている。

 本来ならば地下牢の子供達に声をかけ、今後についてをすぐに話し合うべきなのだが──あいにくこちらも時間がない。ゲート内の子供達を放置しておくわけにはいかない。

「……元々、彼らの街の付近に座標は設定されている筈デスが……。ブギーモン、誤差はどの程度デス?」
「細かいこたぁ知らねえよ。とりあえず全員あの街のどっかに降りたと思うが……。俺も城で誰が戻ってきてるのか確認したわけじゃないからな。もしかしたら『はぐれ』もいたかもしれねぇし」
「街のどっかって言ってもさ、商店街とかのど真ん中にでちゃったらやばくない? 大騒ぎになっちゃうね」
「じゃあ、なるべく人のいない……山とかに近い方がいいのかな……。みちるさん、さっきワトソンさんと警察のサーバーに入ってたんですよね。そのまま連絡とかもできますか?」 
「よゆーだね! おそらく!」
「では座標はなるべく……どこかの敷地の裏山か林あたりとしまショウ」

 ウィッチモンはボロボロになった指で、再びモニターの周囲に光の輪を描く。輪の中では、ゼロとイチの数字の羅列がぐるぐると回っている。

「……ウィッチモン、つらくない?」
「指の感覚がなくなってきまシタね。
 しかし先程の戦闘よりもずっと楽デスよ。これは弄るだけデスから……」

 モニター内のゲートの形状を図式化する。なにやら難しそうな数式も並んでいたが、柚子には理解することなど到底できなかった。

 ウィッチモンはしばらく光の輪と数式を弄ると、ホッとしたように息をつく。

「…………ある程度は、これで……」

 
 ────そして、リアライズゲートは開かれる。

 子供達はゲートの中をほとんど移動することなく済んだ。ゲート全体が球体のように彼らを包み、風船が割れるように溶けたのだ。

 光の先は林の中。

 子供達は困惑している様子だ。今度はどこに連れて来られたのだろう。

「よかった! 成功した……! あとは警察に連絡……」
「ボクがやるよ。今ちょうど繋げてるから、そこの住所教えてくれる?」

 奥の襖の中を開けて、ワトソンが挙手をする。どうやら、先程からこちらの様子を伺っていたらしい。

「いや、なんか、落ち着くまで野次とか入れない方がいいかなって」

 ウィッチモンはすぐに住所の解析をした。──そこは子供達がさらわれた街の外れにある、神社の中の林であった。

 ワトソンが警察に連絡をする。若干、演技じみた声色で。神社の方から叫び声が聞こえたと嘘をついた。
 まさか警察も、数日前に誘拐された子供達が、そこに横たわってるとは夢にも思わないだろう。

 連絡を終える。ワトソンはこちらに親指を立ててサインを送った。

 ウィッチモンは大きく息をつくと、モニターの画面を地下牢に切り替える。
 そのまま、床の上に崩れ落ちた。



◆  ◆  ◆



「ウィッチモン!!」

 ウィッチモンは全身に冷や汗をかき、呼吸はひどく荒かった。柚子は、テクスチャーが剥がれ落ちた手をとり握る。

「……申し訳、ございまセン。……先程の戦闘が思った以上の消費で……」
「わ、私は……ウィッチモンに、触る以外で何かできないの……!?」
「残念ながらそれがベストなのデス……。いえ失礼。残念などではない。ワタクシにとっては必要不可欠……。
 ……こんなことをしている場合でもありまセン。すぐにコロナモンとガルルモンに伝えなけれバ……。子供達とも話さなけれバ……。
 ああ、その前に時間稼ぎが必要デスね。ワタクシもユキアグモンもすぐに動けない……。……ささやかでは、ありマスが……デジモン除けの結界を張りまショウ。不用意には近付かれないように……。選別の儀式が長引いていると、周囲が勘違いしてくれればいいのデスが……」

 這ってモニターの前に戻ろうとする。

「これ以上無理したらウィッチモンが死んじゃうよ!」
「……しかし休んでいる間にデジタルワールドの皆さんが死にマス」
「でも……!」
「でもウィッちゃんが倒れちゃったらこのお部屋なくなっちゃわない? なくなりはしないか! 元に戻るだけで」

 ウィッチモンのそばに体育座りしたみちるは、困ったと眉をひそませた。

「フル稼働して死なれると困るから、ひとまず休憩だ! 十五分くらい!」
「……いいえ、五分で……」
「じゃあ五分! ウィッちゃんってご飯たべてなくない? いくら柚子ちゃんが食べてるとはいえエネルギーもたないぜ! というわけで何か食べようぜ!」
「……いえ、ワタクシは……実はそこまで食事は必要なくて……」
「へい! シェフ!」

 みちるは指を鳴らす。襖の隙間から、ワトソンがゆっくりと出てくる。大きく背伸びし、そのまま冷蔵庫に向かった。

「シェフ! 今日のメニューは!」
「過酷な残業を強いられても志を高く持って頑張るサラリーマン達に送るスペシャルディナーです。ボクらも御用達です」
「…………それ、ただの栄養ゼリーとドリンクじゃないですか……」
「柚子ちゃんは十五歳になってないから飲んじゃダメだよ」

 ワトソンは倒れたウィッチモンに栄養剤を揺らして見せる。

「まあ、少しは栄養つけた方がいいよ。ボロボロなんだし。キミの故郷のご飯じゃないけどさ。
 さあもう一息。というかここから山場だよ。熱い夜になりそうだ。そういうわけで頑張って、ウィッチモン」

 ワトソンはウィッチモンの腕を自身の肩に回し、椅子に座らせる。

「…………お気遣い、感謝しマスわ」
「ボクとみちるはパートナーですらないからね。キミに栄養剤ぶちこむのが精一杯なんだ」
「…………」

 ウィッチモンは机に並べられた栄養剤を飲み干していく。よし、と気合いを入れて、再び光の輪を描く。そして、モニターの向こうで青い顔をしている蒼太と花那に声をかけた。


「…………想像以上にスパルタじゃねえか。よかったなぁ、せめてパートナーのお前は優しくてよ」
「……あんたに言われても、あんまり嬉しくない……」

 同情の言葉を投げるブギーモンに、柚子は複雑な気持ちになった。



◆  ◆  ◆



 ────リアルワールドにて。

 街の外れの神社を、男性の警察官が二人、懐中電灯を片手に歩いている。
 というのも、先程この付近で叫び声が聞こえたと通報があったからだ。

「またイタズラじゃないんですか」

 まだ二十代後半だろう。若い警察官はあくびをしながら愚痴をこぼす。

「このところ、中学生のイタズラ電話が多かったですから」
「……まあ、イタズラならいいんだよ」

 答えたのは初老の警察官だった。

「何もないのが一番だ。それか、馬鹿な子供が肝試しや花火でもしてた……とか」
「事件じゃないだけマシですけど、補導も大変じゃないですか。最近は理不尽な保護者が多くて……」
「……待て。静かに。何だ今の」
「へ?」

 初老の警察官は足を止める。

「何か聞こえるぞ」

 林の方角を睨んだ。
 恐る恐る、懐中電灯で周囲を照らしながら林の中へと向かって行く。若手の警察官は急いで後を追う。

 そして──

「何だ……これ……!?」

 声を上げた。
 初老の警察官は既に署への連絡をし始めていた。

 ────そこには、ひどく衰弱した小学生ほどの子供達が、放置されたように横たわっていた。

 この事態は翌日、ニュースで大きく取り上げられる事となる。









第十六話  終



スレッド記事表示 No.4940 *The End of Prayers*  15話:感想返信組実2018/03/26(月) 20:15
       No.4941 *The End of Prayers*  16話 @組実2018/03/26(月) 20:19
       No.4942 *The End of Prayers*  16話 A組実2018/03/26(月) 20:20
       No.4943 *The End of Prayers*  16話 B組実2018/03/26(月) 20:26
       No.4944 *The End of Prayers*  16話 C組実2018/03/26(月) 20:31
       No.4945 *The End of Prayers*  16話:あとがき組実2018/03/26(月) 20:32
       No.4948 物語の切り札はやはり『彼』なのか?tonakai2018/03/29(木) 06:40
       No.4957 これは大変なことやとry夏P(ナッピー)2018/04/06(金) 20:25