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ID.4943
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/03/26(月) 20:26


*The End of Prayers*  16話 B
◆  ◆  ◆



 脳裏に浮かんだのは、清らかで美しい故郷の風景。

 外の世界で死にそうになっていた自分を助けてくれたデジモン達。
 部外者の自分を迎え入れ、同胞の一人として扱ってくれたデジモン達。

 使命を与えられた自分に、お守りだと腕輪を渡してくれた、大事な “天使様” ──。

 もう一度、彼らに会いたかった。
 こんな自分にもパートナーができたと伝えたかった。使命を果たしたと、誉めてもらいたかった。

 そして最後にもう一度、誠司と彼の部屋で、穏やかな時間を過ごしたかった────。


 ───。

 ─────。


 ────────?


 いつまでも自分の頭が潰されないことに、ユキアグモンは疑問を抱く。

 フーガモンは金棒を振り下ろしていない。かざしたまま動かない。フーガモンの表情は固まっていた。────金棒が、振り下ろせない。

「…………は?」

 そしてフーガモンは、自らの腕が──縄のようなもので固定されていることに気付く。

「……何だ……? この……黒いのは何だ……!? どこから湧いてんだ!?」

 黒く、細長く、柔軟な何か。それは人間を幽閉している牢の中から伸びていた。花那の傍らに寄り添う、黒い影の猫が叫ぶ。

『“ バルルーナゲイル ”……!!』

 地下室に風が舞う。つむじ風となりフーガモンを襲った。巨体を影に絡めたまま鉄格子に押し付け、暴風で金棒を強引に引き剥がす。

「!? クソが……」
『ユキアグモン早く! 広い場所へ走ッテ!!』

 今までに聞いたことのないようなウィッチモンの声。蒼太も花那も、隣にいる柚子さえ、その声色に驚愕した。

『足止めならバ! わずかな、間なら! 同じ成熟期のワタクシが……!!』
「クソが!! 成熟期だあ!? どこにいやがる! どこからやりやがった!」
『ユキアグモン! 早くしなサイ!!』

 悲痛とまで言える声。
 その声に、言葉に、ユキアグモンの鼓動が早くなった。下がっていた体温が上昇した。……だが、まだ恐怖が上回り体を動かせないでいる。

「クソが! ──“ イビルハリケーン ”!!!」

 フーガモンは拾い上げた金棒を回転させる。ウィッチモンの風に引けを取らない竜巻が、使い魔とユキアグモンを薙ぎ払った。

『ぐっ……』
『ウィッチモン!』

 ──亜空間から次元を越えて、使い魔を使役することは決して容易ではない。

 普段は花那に寄り添い観察・発言をするだけの使役とは違う。長距離の移動とも異なる。
 物に触れる為に実体化し、あろうことか自身の代わりに戦闘をさせるという行為は──操作者であるウィッチモンにあまりに大きな負荷をかけた。

 ウィッチモンはモニターの周囲に複雑な光の輪を描き、両腕で操っている。
 指先は皮膚のテクスチャーが剥がれ落ちていた。腕の、首の、額の、眼球の血管をひどく浮き立たせ、歯を食いしばり、本人にしかわからない動きで光の輪を浮かべては動かし、動かしては改変する。

『指が……! 大丈夫!?』
『……なんて……情けない事!!
 この場所からでは演算が追いつかナイ魔力も足りナイ不完全ナニモカモ! 嗚呼もし此処がウィッチェルニーであればこんなことには……!!』
『! ウィッチモン! ユキアグモンが動いた! 出口の方に!』

 竜巻で運良く通路側へ飛ばされたユキアグモンは、よろめきながらも走り出していた。
 誠司がひしゃげた格子の隙間を抜けようとする。蒼太と花那は、まだ駄目だと引き留める。

 誠司の代わりに駆け寄ったのは、ウィッチモンの使い魔であった。

『広い場所なら……!
 ユキアグモン、ワタクシの指示で動くように! 幸い貴方の能力とワタクシの魔法は相性が良い!』
「ぎ……でも……」
『ここで殺されればセイジも死にマスよ!
 使い魔の水の魔法を貴方の息吹で凍らせテ。奴の四肢の腱を切り落とすマデ!!』

 フーガモンが金棒を振り上げ走ってくる。周囲には電気をまとった球体が浮かんでいた。

『 “ アクエリープレッシャー ”!!』
「 “ リトルブリザード ”!!」

 使い魔の口から高圧の水が発射される。その水はユキアグモンの息吹で凍りつき、氷柱の矢となりフーガモンに襲いかかる。

 フーガモンは金棒でその氷柱を砕き落とす。浮かべていた電気の球体が、ユキアグモンめがけて放たれた。

「ダンプ……クラウド!!」
『!! 使い魔を狙うのは非効率的と判断シタ……けれど!』

 つむじ風が壁のように広がり球体を巻き込む。水分と空気と電気が混ざり合い、つむじ風の中は嵐のようになった。

 フーガモンは怯む様子など見せずに嵐の中を突進してきた。自身の電流を帯びた巨大でユキアグモンを蹴飛ばし、使い魔の猫を捕まえ、胴体を握り締める。握り潰す。

「ぎゃんっ!」
「クソ! クソ! やっぱりだ! 本体と全然繋がってねえ! どこに……」
『 “アクエリープレッシャー ”!!』
「……いやがる!!」

 発射された水はフーガモンの頬を切り裂いた。使い魔は握り潰されたまま。
 フーガモンはそのまま使い魔を食いちぎった。

『…………ッ!!』

 ウィッチモンはすぐさま使い魔の再生をはかる。テクスチャーが剥がれた指先からは、なにやら焦げ臭い煙が漂っていた。 

『ウィッちゃん指こげてない!?』
『問題ありまセン!!』

 ちぎれた使い魔の口から様々な声が聞こえてくることをフーガモンは不審に思った。同時に、このよくわからない──影のような生き物を扱うデジモンが、一体だけではないことを察する。
 見えない所に、まだ複数の敵ないし侵入者がいる。

 だが、何故だ? こんな大人数、どこからどうやって侵入した?
 いや、そもそも……

「…………なんで、この地下牢に侵入した?」

 牢の中の子供達に目をやる。

「まさかとは思うが……お前ら……誰かつるんでやがるな!?」

 ────まずい。
 まずい。非常にまずい。直感した。子供達は、疑いが自分達にかけられたことに気が付いた。敵意が、殺意が向けられたことを。

 ユキアグモンは目の色を変えた。氷の塊を投げつけ、フーガモンの注意を引く。
 振り向いたフーガモンの足をめがけて吹雪を吐き、足元を凍らせる。

 フーガモンはすぐに金棒で足元の氷を砕く。ユキアグモンは、誠司たちがいる牢へ行かせまいと必死だった。
 ちぎれた使い魔は、まだ再生しきっていないが──それでもユキアグモンに応戦する。圧が落ちた水を放ち、フーガモンの行く手を阻む。
 フーガモンの竜巻と、ウィッチモンの水と風がぶつかり合い、周囲は暴風雨に飲まれたような状態になった。

 牢の中から叫び声が響き出した。
 状況が理解できていない子供達が、それでも恐ろしい状態にあると察し、ただひたすらに恐怖し悲鳴をあげ始めたのだ。

 パニックの中、唯一、状況を把握できている四人は呆然とする。

「……わ、わたしたちは……どうしたら……」
 
 手鞠は服に隠れたチューモンに目線を送る。──チューモンは、申し訳なさそうに目を伏せた。

「……戦局は……最悪だ。ユキアグモンじゃ勝てない。ウチも無理だ。……頼みのウィッチモンも、ちゃんと力は出せてないみたいだしな……」
「……わたしたち、死んじゃうの……?」
「…………。……大丈夫だ。いざとなったら、ウチが焚き付けたことにすればいい」
「そんな……!」
「ユキアグモンはまだ、まだ負けない……諦めないでよ……!」
「どう見ても絶望的じゃないかこんなの。見なよ。もう中も外も収拾つかないよ。
 ……まあ、気持ちはわかるけどさ……」
「……」

 蒼太は胸に抱いたリュックサックを強く握りしめ、考えていた。
 どうする。一体、どうすればいい?
 このままじゃ全滅だ。コロナモンもガルルモンも助けには来られない状況で、何が出来ると言うのか。

 ──そんな蒼太の姿を見て、花那はあることを思い出す。

「……! そっ、そうだ、武器……何か武器!!
 アンドロモンさんがくれたやつは!? 何かないの!?」

 メトロポリスを発つ前夜、アンドロモンから受け取った二つの麻袋。
 
「! そうか!!」

 その存在を蒼太も思い出した。急いで取り出し中を漁る。
 
「えっと、えっと……!」

 蒼太の袋の中には、ゴロゴロとした黒いボールのようなものがいくつも入っていた。どれも少しずつ、形が異なっている。

 ────“ これは非常灯、発煙弾と閃光弾と催涙弾だ。小さいがなかなかに使えるしかし使い方には十分に気をつけることだ。場所と時を、見誤ってはならない。
 それと────……

「……灯りは、今いらないし……煙は目隠しに使えるかもしれないけど……」
「けど、こんな狭い場所で使ったらウチらも巻き添えだ」
「……これは……使えない……」
「そんな……!」
「花那のは! 何が入ってる!?」
「わ、私のは……」

 ────“ そしてこれは……×××。とても強固な、デジタルワールドにしか存在しない素材で作ってある。手を切らないよう気を付けなさい。きちんと鞘にしっかりとしまうことだ。”

「…………ナイフが……」

 恐る恐る鞘から抜く。
 短い刃渡り。藍色に反射する鈍い光がひどく不気味だ。

 こんなものを使って、一体何を、誰をどうしろというのだろう。

「…………それは、メトロポリスの奴がよこしたの?」
「そ、そうだけど、私、こんなの……こんなの、どうやって」
「……」

 チューモンは鈍く光る刃先を睨む。

「…………それ、貸しな」
「え……?」
「え? じゃない。早く貸せ! そのサイズなら持てる!」
「でも、これで何を……」
「いいから! もう、やってみるしかないんだよ!」

 チューモンは花那からナイフを奪い取る。

「手鞠、その紐も借りるよ」
「チューモン、何するの……?」
「体に結んどかないと落としそうだからね」

 チューモンは手鞠の服のリボンを抜き取り、自身の等身以上あるナイフを背中にくくりつける。

 そして、走り出した。

 ユキアグモンが張った氷の上を滑るように、フーガモンの足元へ向かっていく。
 全身の至る所が焦げたユキアグモンは、チューモンがやってくることに気が付いた。

「……お、おでを! 見ろ! フーガモン!」

 叫んだ。注意を、自分に向けさせる為に。

「散々ダンプクラウドぶち当てたのに、まだ生きてやがんのか!
 ……クソ、この氷のせいか……!!」

 床や壁一面に広がる、不純物をいくらか含んだ氷。それに少なからずフーガモンの電気が分散され、威力が減少していた。

 それは再生した影の生き物に対しても同様だと気付く。やはり、潰さなければきちんとは殺せない。ならば──

「今度こそ潰してやる!!」

 ゴルフクラブのように金棒を構え、ユキアグモンの頭に標準を合わせた──その時だった。

 足に衝撃が走る。

「…………あ?」

 フーガモンは、自身の股の間を何かがすり抜けていくことに気が付く。
 そして

「……!? ああああ!? 痛えええええ!!!!」

 足首が、深く切り裂かれていることに気が付いた。

「なっ……。何だ。何だ!! 今度は……」
「よし! よし! 成功だ!」

 チューモンは身体を傾け、ナイフの刃先をを氷に引っ掻け静止する。

「しかしやけに滑りやすいな! ありがたいけどさ!」

 フーガモンの電流と氷の抵抗が相まって、僅かに溶けた氷はひどく滑りやすい。それがチューモンの作戦に功を奏した。
 チューモンは滑りながら素早く逃げる。

「ウィッチモン聞こえる!?」
『ええ! 聞こえて……マスとも!』
「よし! 囮になってくれ!」
『勿論デス! 後で貴方の作戦を称賛しまショウ!』
「生き残れたらな!」

 チューモンはフーガモンの足元めがけて滑走する。今度は、反対の足を狙う。

「ゴミがァ!!」

 フーガモンは金棒で薙ぎ払おうとした──が、フーガモンに対してチューモンが小さすぎる。照準が、合わない。

 チューモンは再び身体を傾けた。
 今度は、フーガモンの反対の足の──指を、切り落とした。

「ぎゃああっ!!」

 ──恐ろしい刃物だ。チューモンも、ウィッチモンもそう思った。フーガモンの身体をいとも簡単に切り裂いていく。

 フーガモンは膝をつく。これで自由に身動きできなくなった。
 その姿に、チューモンがあることを思い付く。

「……ウィッチモン!
 ウチの位置をしっかり見ておきな。奴の近く……というより上だ。そこまで行ったらユキアグモンに指示を出してくれ。────って。いいな?」
『……い、いでショウ! なるべく急いでくだサイ。ワタクシの力に限界が……もうあまり彼をサポートできナイ……!』

 言葉が終わる前にチューモンは駆け出した。氷を滑り、まだ凍っていない壁へと向かった。
 そしてナイフを背負ったまま、いとも簡単に石の壁を登っていく。

「…………」

 フーガモンの位置が上から確認できる位置まで、登る。

 フーガモンは足を押さえながら必死にチューモンを探している。だが、彼女が壁を伝い、天井付近にまで移動していることには気付かない。

「……よし」

 ────息を潜める。

 ここで、竜巻を起こす技を使われたら終わりだ。流石に振り落とされる。──急がなければ。

 少しずつ距離を詰めていく。
 静かに、決して存在を気付かれないように。

 それは、今まで殺されない為に培ってきた技術だ。
 自分のように城にまぎれたデジモン達が、次々と見つかっては殺されていく中で……自分だけでも逃れ、生き延びる為の卑怯な技術だった。

『……ユキアグモン、奴の腕と足元を狙ッテ。少しでいい。完全に動きを止めマス』
「ぎぃっ……」
『……今デス! “ アクエリープレッシャー ”!!』
「“ リトルブリザード ”!!」

 フーガモンの足先から膝までが凍る。腕が凍る。
 身動きを、完全に奪われる。

「足止めか!? こんな氷なんかすぐに────」

 ────その隙を、決して逃しはしなかった。

 チューモンは飛び出す。

 刃先が下に向くように身体を傾けながら重力に身を委ねながら────フーガモンの脳天めがけて落下した。




◆  ◆  ◆




 ────何が起きたのか理解できなかった。

 ただ、自分の顔の上に、見たことのない汚いネズミがいることだけはわかった。

「……」

 声は出なかった。

 汚いネズミがいなくなる。眼球が動かせないから、どこに行ったのかはわからなかった。

「…………ぉぁ」

 ────ああ、やっと声が出た。良かった。




 ─────────ぁぁ。



◆  ◆  ◆


スレッド記事表示 No.4940 *The End of Prayers*  15話:感想返信組実2018/03/26(月) 20:15
       No.4941 *The End of Prayers*  16話 @組実2018/03/26(月) 20:19
       No.4942 *The End of Prayers*  16話 A組実2018/03/26(月) 20:20
       No.4943 *The End of Prayers*  16話 B組実2018/03/26(月) 20:26
       No.4944 *The End of Prayers*  16話 C組実2018/03/26(月) 20:31
       No.4945 *The End of Prayers*  16話:あとがき組実2018/03/26(月) 20:32
       No.4948 物語の切り札はやはり『彼』なのか?tonakai2018/03/29(木) 06:40
       No.4957 これは大変なことやとry夏P(ナッピー)2018/04/06(金) 20:25