オリジナルデジモンストーリー掲示板NEXT
 

小説とその感想の掲示板です。小説を投稿される方は小説投稿規約を必ずお読みください。

         


ID.4942
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/03/26(月) 20:20


*The End of Prayers*  16話 A
◆  ◆  ◆



『なんて軽率な!』

 地下牢にウィッチモンの声が響く。
 チューモンは耳を塞いでいた。

「なんだよ! お前らの仲間つれてきてやったのに、なんでそんな声上げられなきゃいけないのさ!」
『貴女にではありまセン。ワタクシはそこのユキアグモンに言っているのデス』

 ユキアグモンは誠司との感動の再会を果たしていた所だった。誠司は泣きながら、鉄格子ごとユキアグモンを抱きしめている。

『それより、ユキアグモンが中に入ってない……のは、なんで?』
「こいつの大きさじゃ牢の中に繋がるダクトは抜けられない。だから別のルートで来たのさ。檻の外から繋がってる排水溝からだ。
 どうせここにはこいつらしかいないんだ。フーガモンが来たときは、別の牢の陰に隠れてればバレないさ」

 ウィッチモンの表情には未だ怒りが浮かんでいる。ユキアグモンは、頑なに使い魔から目をそらしていた。

『ユキアグモン。ワタクシの、使い魔の方を見なサイ』
「……ぎー」
「ゆ、ユキアグモンを怒らないで!」

 誠司がかばう。

「オレを探しに来てくれたんだ! 何が悪いのさ!」
『運良くチューモンと出会えたから良かったものの、そうじゃなければ城のデジモンに見つかッテいたかもしれない。
 そうすればユキアグモン、貴方の命が危なかッタ!!』

 自身の命を軽率に扱ったことに対する怒り。ユキアグモンは、そっと使い魔の方を向く。

「……ごめんなざい。でも、おで、早くなんとがしないどって。鍵が、見づからないなら……試してみようっで、思っで」
「こいつなりに考えがあるみたいだよ。ダメ元でもやらせてやろうじゃないのさ。どうせ、ろくな打開策なんてないんだから」

 ウィッチモンは少し考えて、深く息を吐く。彼女も落ち着いたようだった。

『……その考えとは?』
「! お、おでの……氷で、型をとる、んだ。鍵の型……。作れれば、ここを、開けられるがもしれない。
 そーだと、かなは、出ないどいげないし、開げないと、リアライズゲートも、開がないんでしょう? 他の場所の子も、合流しないといげない」
「……やっぱり、花那ちゃんと矢車くんは……」
 
 言いかけた手鞠を遮るように、ウィッチモンの言葉がかぶさる。

『確かに。鍵を開けて子供達を、二人を外に出さないといけまセン』
「だから、やっでみる。……見でで」

 ユキアグモンは誠司から離れた。鍵穴に爪を入れ、内部を奥から凍らせていく。
 パキパキと音を立てて、やがて南京錠は凍りついた。
 穴の中も、すっかり氷で埋まっている。

「ぎい。あど少し」

 ユキアグモンは爪を立てて、まずは穴の周囲の氷を剥ぎ落とした。
 埋まった氷を取り出そうとする。

 ──しかし、何度試みても中の氷が取り出せない。

「……ぎ……」

 爪でつついて、隙間に差し込んで、やがて氷はへこむように削れてしまい、とうとう取り出せない状態になってしまった。

 ユキアグモンは呆然と、もうどうしようもなくなってしまった鍵穴を見つめた。
 やがてその場に座りこみ、ひどく落ち込む。こんなはずじゃなかったのに──と。

「……ユキアグモン」

 誠司は慰めるように声をかける。
 
「また後でやってみようよ! もしかしたら今度はできるかもしれないよ……!」
「……ぎい」

 ユキアグモンは申し訳なさそうに使い魔に目をやる。ウィッチモンは、ユキアグモンを責めることはしなかった。

『氷の外し方を、ワタクシ達もどうするか考えておきまショウ。成功すれば当たりの子供達の牢も開けられマス。
 ひとまずフーガモンはすぐには戻らないでショウから、焦らずに』
「……ぎぎー。怒らない、の?」
『ウィッチモンが怒ってたのは、ユキアグモンを心配したからだよ』
『ねえ、中に油ぬったらヌルヌルで外れるんじゃない?』
『それは……油も凍るんじゃないですか……?』
『むー。じゃあ鉛筆の芯を削って入れる!』
『どこから鉛筆持ってくるんですか!』

 亜空間の様子に、ユキアグモンは胸を撫で下ろした。誠司が鉄格子から腕を伸ばし、「良かったなあ」と白い頭を優しく撫でる。
 ウィッチモンは困ったように微笑みながら、その光景を眺めていた。



◆  ◆  ◆



 ブギーモンの部屋は静まりかえっていた。

 コロナモンの傷は深くなっていくばかりだ。食料は最低限しか与えられず、もちろん手当てなどしてもらえない。

「……前に、ユキアグモンや……ウィッチモンも言ってたっけ……? その、言ってたことが、気になるんだ」

 天井を見上げながら、ガルルモンに語りかける。

「パートナーがいると、強くなれるって……。……もしかして、怪我とかも……治ったりするのかな、なんて」
「……どうだろう。……でも、確かに僕らは……リアルワールドに来て、あの子達に……不思議なくらい助けられた」
「……なんか……こう言うと、二人を道具みたいに思ってるみたいで、嫌なんだけど……」
「大丈夫。……大丈夫だ。ちゃんと、わかってるから」
「……ウィッチモンが度々、使い魔を送ってくれるから……二人とユキアグモンの様子がわかるのは、安心するね」

 使い魔による定時連絡──もちろん、ブギーモンのいない隙を狙ってではあるが──によって、地下牢の状況はある程度把握できていた。

 蒼太と花那はお腹を空かせているが無事だということ。食事はもう与えられないこと。戻ったユキアグモンが、氷の鍵を作ることに何度も挑戦しているということ。

 コロナモン達の傷の様子は報告されなかった。余計な心配をかけて焦らせたくないと考えたからだ。
 とは言え、停滞した状況にどうしても焦燥を抱かずにはいられないのだが────その中で、子供達を安堵させる朗報もあった。

「あとは俺たちがうまくこの部屋から抜け出して……あの腕輪を渡せれば……」

 コロナモンが目を向けるのは、ブギーモンの部屋の奥、乱雑に積まれた荷物の山の裏側。
 リアライズゲートを開くための腕輪が、隠される様子もなく置かれていた。

 役目を終えた腕輪を、ブギーモンはあまり重要視していない様子であった。まさか自分がいたぶっているデジモン達が、その価値を知っているとは考えもしないのだろう。

「……ガルルモン、それにしても……ブギーモンも帰ってこないし、ウィッチモンの連絡もないね」
「……何もないのなら一番だし、奴は帰ってこない方がいいよ。少し休憩だ。
 ……ああ、もう外がすっかり暗いな」

 僅かに差し込んでいた薄暗い光は消え、灯りのない部屋の中は暗闇に溶け込む。

 彼らにとっての、二度目の夜がやって来た。



◆  ◆  ◆



 アタリの牢の食事は実に充実している。

 ──と言っても、ハズレの方に最後に与えた食事の内容とあまり変わらないのだが。
 しかし子供達は誰も倒れておらず、フーガモンに怯えることもなく、どうして自分達が捕らえられているか疑問に思うことも減り、ただ生き延びる為だけに笑顔を浮かべるようになっていた。

 フーガモンはそんな子供達の様子を、いよいよ気がふれたのだろうと思っている。
 そのまま舌でも噛まれて死なれると困るので、「今はこんな扱いだが、城主が戻ればより良い環境に身を置くことができる」と定期的に伝え、子供達の心身をなんとか保とうと努めていた。
 
「実際、死なれると困るしな」

 頭をボリボリと掻く。

「いや、いやいやーでもさ?? こんなに人数必要? と思わねえ?」

 野太さが裏返ったような気味の悪い声を出すブギーモンは、美しい宝石が飾られた手袋を指で揺らしている。
 水晶のようなその宝石は、以前に地下牢で行われた“選定”で使われたものと同じものだ。

 アタリの牢では定期的に選定が行われていた。反応が無くなった者はハズレに移す予定であったが、幸い全員がその危機を逃れた。
 ──また、より反応が強く出た数名には、特別に一品多く食事が与えられていた。

「確かに多いけどよ。減らせねえだろ。そんなことしたらマジで俺らが殺されるって」
「あとさ、逆にさ、ハズレがアタリに変わったりとか? って、俺様は思ってみるんだが」
「流石にそりゃねえだろ。適性アリなら初めからそう出るだろうさ」
「やってみたらどうだ? もし、もしだ、フェレスモン様が帰ってきて、ハズレにアタリがいて、死んでたらまずいたろ?」
「もう行きたくねえよ。あの場所、くせえし」
「これ貸してあげるからさ、な、ほら、行ってみて、やってみよろ、な? な? やらないなら俺様、もしハズレにアタリがいても、お前のせいにするから」

 フーガモンは心底不愉快そうな顔で舌打ちする。
 ブギーモンから手袋を奪い取り、苛立ちを露にしながら地下牢へ向かった。



◆  ◆  ◆




 それは、あまりに想定外の事だった。
 もう、ここには来ないと誰もが思っていたからだ。

 フーガモンの気配に最初に気付いたのはウィッチモンであった。使い魔の熱源探知能力が、巨体から発せられる体温を感知した。

『……ユキアグモン、すぐに移動を。奥に角が見えマス。そこに身を潜めていテ』
「おいおい。この前の飯が最後じゃなかったのか? 今更デザートでもくれるっていうの?」
「チューモン、わたしの服に隠れてて……!」

 ユキアグモンは走り、ウィッチモンに言われた通りに隠れる。誠司は心配そうに、その様子を見守っていた。

『まだフェレスモンは帰還していない筈。下手に動かなければ危害は加えられない──と、思いマスが……。
 使い魔からの音声は一度落としマス。我々の声がそちらに漏れないように』

 直後、使い魔の猫からの音声が途絶える。
 子供達はなるべく壁際に寄った。

 ──金属の扉が開く音がした。
 金棒が石を叩く音が響く。段々と大きくなる。

 戻ってきたフーガモンはため息をつきながら牢の中を見回す。片手には金棒、もう片手には、何かの宝石が飾られた手袋──どちらも以前は持っていなかった物が握られていた。

「……ああ、飯はもう無いのか。まあいい。器とカスさえあればな。
 ところで──今からここを開けるが、前と同じだ。逃げようとしたり俺より前に出たら、足を潰すからな」

 誠司と手鞠は、その言動が以前に聞いたものと同じだと気付く。牢の場所を移動させられた、あの時だ。
 手鞠は花那に、そして花那の背後に隠れている使い魔に耳打ちした。

「……多分、わたしたちが他の子と分けられたのと、同じだと思う。……ちゃんとしてれば、大丈夫。怒られないよ」
「…………うん。わかった」

 一瞬、手鞠や誠司と離れる可能性を危惧したが──全員にパートナーが存在している以上、少なくともこの四人の結果は変わらないだろう。
 子供達は、速やかに選定のやり直しが終わることを願った。

 フーガモンは鍵を取り出す。腰を落とし、鍵穴に差し込もうとした。



「────何で、こんなに濡れてるんだ?」



 鍵穴には、ユキアグモンが何度も、鍵を作ろうとした跡が

「……これは、氷か?」

 爪で削り取っても剥がれずに、こびりついてしまった氷が、穴をふさいで鍵が入らない。

「────」

 子供達の顔が青ざめる。

 どうしよう。聞かれたら何て言えばいい。言い訳が思い付かない。しようにも声が出ない。
 鼓動が早くなり、指先が震える。貴重な水分は冷や汗となって垂れる。

「……誰か……いたのか? いや……。……いるのか? ……おい。
 ────おいッ!!」

 金棒で鉄格子を殴る。

 格子がひしゃげた。子供が通れるくらいの隙間が空いた。皮肉なことに、もう、鍵は必要なくなったのだ。

 牢の子供達は──衰弱した者でさえもその怒声と金属音には気が付き、恐怖する。
 さっきご飯をくれた筈の、怖い鬼が怒っている。どうしてなのか、飢餓により思考することができなくなった子供達には理解できない。

「……蒼太……」
「……ッ」
 
 蒼太と花那はひたすら、コロナモンとガルルモンのことを考えていた。──助けに来てほしいと、思った。また頼ってしまうなどと思う前に、あまりに絶望的な状況に命の危険を感じ取っていた。

 フーガモンは周囲を見回す。ふと、何かに気付いたのか────地下室の奥に目を向けた。

 散らばった氷が溶けた跡。
 足跡のように、ユキアグモンへの道標となっていた。

 誠司がそのことに気付く。何かを言おうとして、蒼太が止める。
 フーガモンは二人の様子になど目もくれず奥へ進んだ。そして────

「───お前か?」

 ただ一言。壁の向こうに隠れていたユキアグモンに、言い放つ。

「なあ。どうやって、忍び込んだ」

 ユキアグモンは答えられなかった。声を出せなかった。
 フーガモンは、犯人が成長期であったことに拍子抜けした様子だったが──すぐに瞳に殺意を宿す。

「まあ、いいか。聞かなくても。どんな目的でも関係ねえ。侵入者は、殺してやる」

 静まり返った地下牢にその声は響く。誠司が蒼太を振りきろうとした。

「や、やだ。やめて。オレのユキアグモン……」

 這うように牢から出ようとする誠司を、蒼太は泣きながら、彼の服を掴んで止める。 

「い、いま、行ったら……誠司、殺される……」
「でも、でも、でもユキアグモン、ユキアグモンが、あのままじゃ、あいつが死んじゃう」
「でも……でも……」
「ユキアグモン……ユキアグモン……逃げてよ……」

 目の前に立ちはだかる巨体の視線を浴びたユキアグモンは、逃げることなど出来なかった。逃げても追い付かれるとわかっていた。
 ──戦っても、自分では到底敵わないことも、わかっていた。

 それでも辛うじて彼が出来た“抵抗”は──

「…………ぎ、ぎい…………」

 輝く腕輪をはめた、片腕を掲げること。

「……て……」
「……!? ホーリーリング……!? どうしてお前が……」
「てんし、さま……」

 腕は震えていた。腕輪は鈍く光っている。 

「これ、つけでれば……守っで、ぐれる……」

 声も震えていた。その発言に、フーガモンは目を見開く。

「…………は?」
「てんし、さまが……守っで、ぐれるっで、言ってだ……」

 その発言の意味を理解するまで時間がかかったのだろう。少しして、意図に気付いて、フーガモンはこらえるように笑い出す。

「おい……おいおい。おいおいおいおい……。ハハッ! マジかよ! おい! 本気で言ってんのか!?
 俺がウィルス種だからか!? だから言ってんのか!? 信じらんねえ本当にそれで助かると思ってんのかよ!
 そもそも……お前みたいな種族がそんなもん持って、ろくに使えるわけねえだろうが! なあ!!」
「ぎゃっ!」

 笑いながら、金棒でユキアグモンをなぎはらう。──小さな体は勢いよく鉄格子に打ちつけられた。

「はー。腹いてぇ。ほら見ろ、その大事な腕輪は何もしてくれねえぞ。……それか残念ながら偽物なんだろうさ。
 ──もっとも、初めからそんな物を頼りにしてる時点でよ、なんて言うか、もう、アウトだろ。お前」

 ユキアグモンはそれでも起き上がり、震えながら腕輪を掲げている。
 フーガモンは再び笑った。ひとしきり笑った後で、ユキアグモンの頭上に、金棒を振り上げる。

「お祈りとやらは済んだかよ。それじゃあ……データの塵になって、天使様の所に帰んな」

 ───ユキアグモンの瞳に、腕輪越しの金棒が焼き付く。
 時間が止まったような感覚に襲われた。それでもユキアグモンは、最後まで腕輪を掲げていた。



◆  ◆  ◆


スレッド記事表示 No.4940 *The End of Prayers*  15話:感想返信組実2018/03/26(月) 20:15
       No.4941 *The End of Prayers*  16話 @組実2018/03/26(月) 20:19
       No.4942 *The End of Prayers*  16話 A組実2018/03/26(月) 20:20
       No.4943 *The End of Prayers*  16話 B組実2018/03/26(月) 20:26
       No.4944 *The End of Prayers*  16話 C組実2018/03/26(月) 20:31
       No.4945 *The End of Prayers*  16話:あとがき組実2018/03/26(月) 20:32
       No.4948 物語の切り札はやはり『彼』なのか?tonakai2018/03/29(木) 06:40
       No.4957 これは大変なことやとry夏P(ナッピー)2018/04/06(金) 20:25