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ID.4941
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/03/26(月) 20:19


*The End of Prayers*  16話 @
◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆





 腰布につけたままの鍵が、歩く度に音を立ててうるさい。

 落とさないよう普段は部屋に置けと言われていたが、一度持っていくのを忘れてからはずっと持ち歩くようにしている。

 そういえば、最近はアタリの方にしか行っていない。地下牢へ行くのが面倒で、ついサボってしまう。あそこの人間達はまだ生きているだろうかと、たまに思う。

 ……死んでしまったら、フェレスモン様に起こられるだろうか。
 しかしアタリはともかく、ハズレには回路としての価値がない。価値のない者に、自分達の限られた食料を渡すのは惜しい。物資もそうだ。無限にあるわけじゃない。

 一体いつまでこの籠城生活を続けられるのだろうか。食料を外へ探しに行った者達はことごとく毒に飲まれてしまった。せめて、フェレスモン様の遠征で変化があればいいのだが。

 そろそろ帰還の日程のはずだ。お迎えしたらまずはアタリの人間を見せ、ブギーモン共々お褒めの言葉を頂こうじゃないか。

 ……しかし、やはりハズレが全滅してしまっているのはマズいだろうか……?

「よし、飯は今日で最後にしよう」

 閃いた。そうしよう。ある程度まともな食事の痕跡を残しておけば、もし全滅していてもそこまでお咎めはないだろう。最後の晩餐というやつだ。

 フーガモンは意気揚々と厨房へ向かった。……そういえば、ハズレの人間は何人いたんだっけ?





*The End of Prayers* 第十六話 「古城の夜は激しく」






◆  ◆  ◆





 フーガモンが地下牢へやってきたのは二日ぶりであった。

 蒼太と花那は初めて出会う。城の外で見たミノタルモンとはまた違った異様な風貌に、思わず息を飲んだ。檻の中でじっとしていれば危害は加えられないと聞いている。それを信じて、事が終わるのを待つ。

 フーガモンは子供達に声をかけることなく食事を置いていく。蒼太と花那が加わったことには気が付いていない様子だった。人間の顔など、いちいち覚えていないのだ。

「……?」

 誠司は、フーガモンが持ってきた食器がいつもより大きく、数も多いことに気が付いた。
 いつもは乾いたパンのようなものが人数分も無い状態だったのに、今日は数も十分あり、豆のようなものが入ったスープまで付いている。

「あ、あの」
「…………あ?」
「ご、ごめんなさい。でも……いっぱい、ご飯があるから、びっくりして……」
「なんだ。まだ声出せる奴もいるんじゃねえか」

 噛み合わない返答に、誠司は困惑する。

「でも結構ダメになってんなあ。あー。まあ仕方ねえか。
 良かったなお前。食えねえ奴の分まで腹一杯食えるぞ。あと二日くらいその状態でいてくれりゃ、助かるんだけどな」
 
 笑いながらフーガモンは鍵を開け、食事を中に入れた。

「まあ、とは言えこれで最後だ。ゆっくり食えよ。じゃあな」

 いつもよりどこか優しい、その言葉の意味を理解できないまま──目の前に置かれた豪華な食事に、子供達はただ目を丸くさせるだけだった。


『最後って……どういうこと……?』

 その光景は、花那に隠れた使い魔を通して異空間の柚子達にも見えていた。

『今日は随分と豪華デスね。栄養価としては問題だらけデスけども』
『そこの問題はいいよ! ……今までだって、全然もらえてなかったのに……。これが最後なんて、餓死しろって言ってるようなもんだよ……!』
『……良くも悪くもデスが、フェレスモンの帰還まで時間がありまセン。それまでに子供達を帰還させる必要がありマスわ。飢えて死ぬより、その時が来る方がずっと早い筈。
 ──ああ、皆様、ワタクシ達のことは気にせず、まずは召し上がって下さいネ。けれどもソウタとカナ以外は飢餓状態にありマスので、一気に食べると逆に危険デス。スープは動けない子供へ優先して与えてくだサイ』
「皆には私と蒼太であげるから、手鞠と海棠くんは先に食べてて」
「……ありがとう、花那ちゃん」

『ウィッちゃーん、蒼太くんたち着いたんだって?』

 最後の食事を堪能していると、電話の向こうから雰囲気に合わない陽気な声が聞こえてきた。

 今度は誰? と、誠司と手鞠の視線を浴びる。

『やっほーハローハロー蒼太くん。生きてた?』 
「……みちるさん。……なんだか、久しぶり……ですか?」
『おうよ! 最近ずっと隣に引きこもりで寂しかったよ!』

 襖を開けて出てきたみちるは、興味津々といった様子でモニターを覗く。

『それより丁度よかった。二人ともさ、今ごはんあげてる子達の顔、ネコちゃんによく見せてくれない? 誰がいるか確認したいんだよね』

 ウィッチモンに頼まれリストアップしていた──誘拐被害に遭ったとされる子供達の情報と、実際に牢にいる子供の顔とを照らし合わせている。

『進捗、如何デスか?』
『バッチリさ! 少なくともちゃんと情報があった子はね! それ以外はダメです!』
『まあそれは、仕方の無い事デスので』
『おっ、なんか思ったより良いご飯たべてるじゃないのー。水しかもらえないのかと思ってた! 結構、気前がよろしいの? ここの人たち』

 ニヤニヤと画面を眺めるみちるに、柚子は少しだけ不愉快な気持ちになった。
 そんな楽観的な状況じゃないことは、目で見てわかるはずなのに。

『……このご飯も二日ぶりなんですよ。もうこれで最後みたいだし……』
『やだ世知辛い! どうりで皆げっそりしてるわけだ!
 ところでさ、キッズの数が情報と全然合わないんですけども』
『そういえばお伝えしていまセンでシタね。残りは別の場所にいるようデス』
『まじでか! ほとんどいないじゃないの!』
『……なんとか合流しないとリアライズゲートは開けない。何せ腕輪が使えるのはあと一回デスから』
『……ん? ここ、ブギーモンのおうちなんでしょ? 他の奴がつけてた腕輪、見つけて使えばいいじゃん』

 きょとんとするみちるに、ウィッチモンも柚子も、押し入れのブギーモンでさえ呆気に取られていた。

『そ、そっか……そうだ! その手があった……!』
『おやおや灯台もと暗しってやつかい! みちるちゃんナイスアイディアってやつかい!』
『今ブギーモンに一番接近できていルのはコロナモンとガルルモン……使い魔をそちらに向かわせて指示を伝えマスわ。
 ……もっとも、二人を見つけるのに時間がかかる可能性がありマスが』
『チューモンもまだ戻ってこないし……。手鞠ちゃん、チューモンはどうやって城の中を移動してるの?』
「えっと、たしか、換気扇の穴みたいな所から行ってるって……」
『ダクトの中デスね。わかりまシタ。使い魔も同様に走らせまショウ。運が良ければチューモンと会えるかもしれまセン。
 ミチル、ありがとうございマス。その案はワタクシも盲点でシタわ』

 花那の傍らの猫が、その胴体を影のように伸ばしていく。

「わっ! ……この猫、バレないで行けるの?」
『行くだけなら問題ありまセンが……知っている匂いしか追えない、そのままの状態では何かに触れて持ち歩くことも出来ない。難点ばかりデス。監視や連絡には便利デスが、そのせいでチューモンには負担をかけてしまッテいマス。……ワタクシがそちら側にいればもっと出来る事も多かったのデスが……』

 魔女や魔法使い、魔導師などをモチーフに生まれたデジモンは、そのモチーフ通り、魔法や呪文、使い魔といったものを使役することができる。

 しかし本体と末端との距離が離れすぎている場合、使役できる能力に制限がかかることがある。術者である本体への負担を軽減する為だ。
 特に今回のように──本体と末端たる使い魔とが次元さえ隔てている場合、周囲が考えている以上に本体への負担が大きい。
 コロナモンやガルルモンがデジタルワールドからリアルワールドへ渡った際に身体にダメージを負ったが、それが微々ながらも常にかかっている状態である。

「……ウィッチモン、俺、二人が心配なんだ。コロナモンが、さっき来た時……すごく傷だらけだったんだ。ひどいことされてるのかもしれない」
『ありゃあ厄介なブギーに当たっちまったなぁ。俺も他の奴のことは言えねえが、アイツは自分より下だと思った奴は死ぬまでいたぶる奴だよ。
 単純に趣味だけで言うなら、フェレスモン様が一番まともなんだぜ』
『それは良い事を聞きまシタ。まともな思考をお持ちならば、むしろフェレスモンとの交渉は安心して行えそうデスね』
『ま、あのデカブツは成熟期だからともかく……チビはキツいだろうなあ』
「そんな……」

 蒼太の顔が青ざめた。

「ウィッチモン、なるべく早くコロナモンたちの所に向かわせて……!」
『行って助けられるかは別デスが、急ぎまショウ』
『ハハッ。急ぎすぎてバレねぇようになあ』
「……か、花那ちゃん。さっきから聞こえる変な声……誰……?」

 およそ仲間とは思えないいやらしい声に、手鞠は怪訝な表情を浮かべる。

「えっと……何というか、これは……」
『ブギーモンの声デスよ。一体だけ、捕獲に成功しまシテ』
「え、え……!?」
『お互い囚われの身ってやつだなあ! 不憫同士、仲良くしようぜ』
『このように喋る元気だけはあるようデスが、大丈夫。ワタクシ達がしっかりと拘束し監視シテおりマスので』

 背後で汚い笑い声が響く。

「……そーちゃんたち、凄いことしてるんだな……」
「凄いというか……俺たちもこうなるなんて思わなかったし……。
 ……でも全部、コロナモンとガルルモンのおかけなんだよ。俺と花那は……助けてもらってばっかりだ」
「そ、そんなことないよ! 花那ちゃんも矢車くんもここまで助けに来てくれて……本当にすごいよ!」
「そうだよ! オレたちのヒーローだよ!」

 真っ直な瞳に二人は苦笑する。本当に、そんなことないのに。

「だから……! ……だから、一緒に帰ろう。そーちゃんも、村崎も……」

 真っ直ぐな瞳の中にある不安は、誠司の直感的なものであったが──自分達とはどこか違う立ち位置にいる二人は、このまま一緒に帰ってはくれないのではないか。そう感じていた。

 蒼太と花那は答えずに、申し訳なさそうに目を伏せることしかできなかった。



◆  ◆  ◆



 異空間の部屋で、ウィッチモンは険しい表情でパソコンの画面を凝視している。

「コロナモンたち、見つかりそう?」
「幸い、ダクトの空気の流れがこちらに向かっておりマスので……匂いは追いやすいデスね。今の所は順調デス。……しかしチューモンとすれ違いまセン。違う道を帰ッテ来ているのでショウか……」
「……ウィッチモン、汗、凄いよ。顔色も……」
「……ええ、思った以上の体力の消耗デス。今までカナの連絡機器を一時的な媒介にシテいましたガ、それから離れての移動がこんなに大変とは……」
「村崎さんのケータイにくっついてたの!?」
「ええ。彼女にも言ッタように、ガルルモンが主な移動手段であるなら……そのパートナーの一部を媒介するのが良いと考えまシテ。
 しかしそれにしても、ワタクシが出来る事は限られていマス。せめてこのくらいはやらなけれバ、命を懸けてる彼らにも申し訳ありまセン……」
「……私に、何かできることはある?」

 ウィッチモンは目線をパソコンに向けたまま、柚子に手を差し出した。

「では、手を握ッテくだサイ。……いえ、手でなくとも、服などでも良いのデスが。貴女との接触がワタクシの支えとなる」
「……それだけでいいの?」

 柚子は手を握る。ピリピリとした感触が伝わる。……これがデジモンとの絆を、力を強くさせていくのだとウィッチモンは言っていた。
 ──自分は、彼女に触れることしか出来ないのだろうか。他には、何も出来ないのだろうか。

「……残酷なことかもしれまセンが、ユズコ。人間には、出来る事があまりに限られている」
「……え?」
「貴女も、ソウタもカナも、デジモン達に比べて出来る事が少ないのは当然の事。
 例えば貴女が子供でなく、筋骨隆々の格闘家だったとしまショウか」
「……想像したくないなあ、それ」
「うふふ。ワタクシもデス。
 ……さて、格闘家と仮定した貴女は、デジモンを相手に何が出来るでショウ。あんな、牙も鋭くて、炎やら光線やらを出してくるモンスター達に。
 少なくとも──どんなに強くあれ、人間である以上デジモンと対等に戦うことはできない。デジモンと渡り合うのはデジモンでなければならないのデスよ」

 人間にできることは少ない。──ハッキリと言われて、柚子は俯いた。

「……私ができるのは、こうやって、ウィッチモンに触れあうことだけ?」
「そう。こうしてパートナーを強化していく事こそが、そして戦うデジモン達の心身を支えていく事こそが、貴女の、人間の、とても大切な役割。それをどうか胸に刻んで欲しい」
「……でも、その、もし格闘家とかじゃなくてもさ、とっても凄いプログラマーだったり、頭が良くて作戦とかもすぐ浮かんだりしたら……」
「まあ! それはやめて頂きたい。ワタクシの役割が取られテしまいマスわ!」

 ウィッチモンのオーバーなリアクションに、柚子は思わず笑ってしまった。ウィッチモンも微笑んでいた。

 しかし、すぐに真剣な表情に戻る。

「────使い魔の察知する匂いが強くなりまシタ。……だいぶ遠いデスね」
「……チューモンとは、結局会わなかったね」
「ええ。後で地下牢に戻ッテいるか確認しまショウ」
「! ウィッチモン! コロナモンとガルルモンだ!」

 パソコンの画面──使い魔の視界に、コロナモンとガルルモンが映り込んだ。

 二人とも、ひどく傷だらけだ。
 
「……ひどい……」
「付近に熱源は……ブギーモンは……いまセンね。よかった。
 ──コロナモン、ガルルモン、聞こえマスか?」

 ガルルモンの耳が動く。直後、目を丸くさせ上体を起こした。

『ウィッチモンか!?』
「ええ。お二人に緊急でお伝えしたいことがございましテ。
 ……コロナモン、傷が酷いデスね。大丈夫デスか?」
『……大丈夫。見た目より深くないよ。それより蒼太たちは……』
「彼らも問題ありまセン。ご安心下さい。それよりも、二人にはブギーモンがいない間に、今いる部屋を探索して頂きたいのデス」
「もしかしたら、その部屋にブギーモンの腕輪があるかもしれないの! それを探して欲しくて……」

 ガルルモンとコロナモンは状況をある程度察したようだった。今のうちに探しておくと、使い魔を通して声が届く。

「時間もありまセン。頼みまシタよ。流石に三人で探せば────」

 ────画面をよく見る。

 リュックサックが空いている。中身がない。けれど部屋には、二体しかいない。

「…………これは、どういう」
「ウィッチモン! ユキアグモンが……」
「ええ、ええ。見てわかりマス。ユキアグモンが」
「ユキアグモンが地下牢に着いたって、手鞠ちゃんから連絡が……」

 画面の二体は気まずそうな顔をしていた。柚子は、ウィッチモンの顔が一瞬でやつれていくのを見て、思わず両手で彼女の手を握りしめた。



◆  ◆  ◆


スレッド記事表示 No.4940 *The End of Prayers*  15話:感想返信組実2018/03/26(月) 20:15
       No.4941 *The End of Prayers*  16話 @組実2018/03/26(月) 20:19
       No.4942 *The End of Prayers*  16話 A組実2018/03/26(月) 20:20
       No.4943 *The End of Prayers*  16話 B組実2018/03/26(月) 20:26
       No.4944 *The End of Prayers*  16話 C組実2018/03/26(月) 20:31
       No.4945 *The End of Prayers*  16話:あとがき組実2018/03/26(月) 20:32
       No.4948 物語の切り札はやはり『彼』なのか?tonakai2018/03/29(木) 06:40
       No.4957 これは大変なことやとry夏P(ナッピー)2018/04/06(金) 20:25