オリジナルデジモンストーリー掲示板NEXT
 

小説とその感想の掲示板です。小説を投稿される方は小説投稿規約を必ずお読みください。

         


ID.4938
 
■投稿者:Ryuto  HOME MAIL
■投稿日:2018/03/26(月) 00:00


エピローグ/2049年の選ばれし子ども
 その日、ジェームズ・テイラーソンはスクルドターミナル市警の留置場にいた。窓口で手続きを済ませ、しばらくの間古びた革製のソファに座っていると、名前を呼ばれて別の部屋に案内される。
 係の警官に指し示された席に座ると、分厚いガラスの奥に手塚琢磨がいた。少し痩せたようだった。
「まさか君が会いに来るとはな」
 その言葉に、ジェームズは曖昧に頷いた。手塚と話すのはずいぶんと久しぶりに思えたし、何より彼が逮捕されたその瞬間を自分は見ていないのだ。リリモンが何を言っていても、正直なところ気まずい。
 ひとまず、先に伝えるべきことを話そうと思った。
「ミスティモンは起訴されなかった」
 それだけ言って、ジェームズは手塚の反応を待ったが、彼は俯いたまま何も言わなかった。
「彼は君やジョーダンの計画のことを知らず、伝えてもいなかったとジョーダンが証言した。通信記録やゲート・タワーの監視映像からもそれは証明されたよ」
 ジェームズにとっても、これは意外なことだった。ミスティモンは彼の傍にいたものの、今回の一件に関する会話や準備に彼は一切関わっていなかった。何かが起きていることには気づいていたのかもしれないが、彼は何もせず、何も知らなかったのだ。それが良いことだとは必ずしも思わなかったが、今の彼を責める気にはなれなかった。
「ジョーダンがパートナーを庇ったのか」
「彼は事実を述べただけだ」
 そう言いながらも、ジェームズは手塚の言ったこともある意味では正しいのかもしれないと感じていた。
 手塚は力なく笑った。
「結局、あいつも選ばれし子どもの性分が抜けきってなかったんだな。あいつを使ったのが間違いだった」
 面会時間は限られている。これ以上この話をする意味はないような気がしたので、ジェームズは本題に移ることにした。
「手塚、ひとつ聞いてもいいか?」
 何も返答はなかったが、ジェームズはそれをイエスと受け取った。
「今回の事件に、どうして私の協力を求めた? なぜウォーグレイモンが不利になるようなことをした?」
 しばらくの間沈黙が続いたが、やがて手塚は口を開いた。
「ジェームズ、どうか許してほしい。君を危険に晒すつもりはなかった」
 ぼそぼそとした喋り方は、とてもかつての刑事部長とは思えなかった。
「罪を背負うのはウォーグレイモンだけだった。かつて英雄と呼ばれたデジモンが、同じ英雄の選ばれし子どもたちを殺す。人類がこれ以上、過ちを犯さないための犠牲として」
「デジモンとの共生か」
 手塚は頷いた。
「君はかつての妻のパートナーを犯人だと特定し、俺がウォーグレイモンを捕らえる。これ以上完璧な配置があるか? そうすれば、市民はデジモンの危険性を今度こそ理解できた」
 実際、彼の狙いはほとんど成功していたのだ。デジモンは、英雄ですら人類の脅威と化す。その背後に別の人間の意図があったことが露呈しなければ、ヒトとデジモンの間の溝は修復不能なほど深まっただろう。
 だが、そうはならなかった。
「どうして君がそこまでする必要があったんだ。誰かの指示があったのか?」
「君だって分かっているだろう」
 手塚はようやく顔を上げた。
 疲れた表情だが、目だけはまるで今も警官であるかのように鋭い。
「ヒトがデジモンと遭遇して半世紀、こちらの世界に移住を始めてから四十年近く経つんだぞ? なのに我々は衰退する一方だ。俺たちはあの作り物の命に法も秩序も、文明も与えてやったのに、奴らは恩を返すどころか、何度も反逆を繰り返す! もうたくさんだ!」
 手塚が机を叩いたのを見て、後ろに立っていた警官が彼を押さえようとしたが、ジェームズは彼を手で制した。
「そういう話は今まで何度も聞いた」
 まさか手塚の口から聞くことになるとは思わなかったが。
「君がそこまでデジモンを憎んでいるとはな」
「憎んでなどいないさ。必要なことをやっただけだ」
「君がやるべきことだったか?」
「俺には君らと違って、英雄になる覚悟がある」
 いつの間にか手塚の目から、あの鋭い光は消えていた。先程までの言葉で全てを吐き出してしまったようだ。
 ジェームズは手塚から視線を外した。そうしないと、自分の考えていることも顔に出ると思ったからだ。
 ジェームズは、自分がこの男を心底軽蔑していることに気づいた。
 なんて浅薄な、なんてつまらない男だ。こんな奴のために多くの選ばれし子どもとパートナーが死ななければならなかったのか。
 だが一度溜め息をつくと、そんな感情もどこかに消えてしまった。手塚が今の考えに至ったことに、自分が一切関わっていないとは思えなかった。
「妻を失った君なら扱いやすいと思っていた」
「確かに、君の思っていた通りかもしれない」
 あの子どもと関わるまでは。
 今はもう違う。
 手塚は潤んだ目でジェームズを見つめていた。まるで懐かしい何かを見ているようだ。
「あの新しい選ばれし子ども、橘春子だったか」
「あぁ」
「あの子だってきっと同じようになるぞ。俺には分かる。五十年後が楽しみだな」
 ジェームズは小さく首を振ってから、ゆっくりと立ち上がった。面会時間もそろそろ終わりだろう。
 パイプ椅子を元の位置に戻すと、強化ガラスの奥でまだ自分のことを見つめている手塚に向かって、ジェームズは言った。
「私にはもう、とてもそんな確信は持てないよ」



 警察署を出たジェームズには、自宅に戻る前に寄る場所があった。
 花と掃除道具を持ち、公営霊園に向かう。タツキとガブモンに、事の顛末を伝えるべきだと思っていた。
 墓の前には先客がいた。二つの影……少なくともフローラモンではない。
 だが、よく知った顔だ。
「ジェームズさん、お久しぶりです!」
 以前とは柄が違うものの、相変わらず生地の安そうなパーカーを着て、橘春子はそこにいた。隣にいるドーベルモンとともに、既にタツキとガブモンの墓を綺麗に掃除していた。
「ドーベルモン。もう包帯はいらないのか」
「治った」
 ドーベルモンはそんなことも分からないのかと言わんばかりの表情を浮かべている。あの戦いの時は彼を援護したのだが、どうやらそれは彼の中でそれほどプラス評価にはなっていないようだ。
「ジェームズさんはもう大丈夫なんですか?」
「君らほど治りは早くない。もう若くはないからな」
「そんなこと言わないでください! ジェームズさんは全然元気そうですよ!」
 あまり返答になっていないような気がするが、それはまぁ、いい。
 春子には聞きたいことがあった。
「リリスモンから聞いたが、あの話は本当か」
「はい」
 春子は頷く。
「私、スクルドターミナルを出ます。ウォーグレイモンさんを探しに行きます」
 ウォーグレイモンはデジタルゲートの暴走に巻き込まれ、消えた。
 その後間もなくゲートのエネルギーは収束したが、彼がどこに飛ばされたのかは結局分からなかった。
 デジタルワールドなのか、リアルワールドなのか、それともまた別のどこかなのか。追跡は不可能と思われ、警察も被疑者行方不明のままこの事件を処理しようとしている。
 それを春子とドーベルモンは探そうというのだ。
「はっきり言って、無茶だぞ」
「それ、リリスモンさんにも言われました」
 その割には、春子は全くめげていないようだった。
「でも私、やっぱりもう一度会いたいんです。もう会えないかもしれないし、会ってもどうなるか分かりませんけど……でも、ジェームズさんと同じように、ウォーグレイモンさんも私の先輩ですから」
 春子は両手をぐっと握り、笑いを浮かべた。
 全く、この娘の無茶は果てしない。自分のやろうとしていることが、どれだけ大変なことか分かっていない。
 ジェームズは、自分の事務所の住所や連絡先が書かれた名刺を彼女に渡した。
「何かあったら、連絡しなさい。連絡できるような場所に行くのか分からないが」
「ありがとうございます!」
「きっと後悔するし、挫折するぞ」
「はい、私もそう思います! でも私、まだ後悔してないので!」
 満面の笑みで、実にハキハキとそんなことを言う。
「気をつけなさい」
「ジェームズさんもお元気で! 行こう、ドーベルモン!」
 頭を勢い良く下げてから、パートナーに声をかけ、春子はジェームズの脇を抜けて走り出す。
 そのまま霊園の出入り口に向かうかと思いきや、彼女は振り返ってまたジェームズに声を掛けてきた。
「あの、ジェームズさん!」
「何だ」
「私って、選ばれし子どもになれてますか?」
 それを聞いて、ジェームズは少し考えた。
 考えたが、結局答えは出そうになかったので、肩をすくめながらこう答えた。
「もしかするとな」
 春子は歯を見せながら笑った。



 二〇五〇年、デジタルワールド・スクルドターミナル。

 市警に勤める女性型デジモンの刑事は、新調した眼鏡を誇らしげに掛けながら、次の仕事に向かった。
 郊外にある教会では、サイボーグ型のデジモンがこの日も祭儀を執り行い、その隣に建つ孤児院ではブロンドの少女が幼年期のデジモンたちをあやしていた。
 中心街の雑居ビルでは、新調した車椅子に座る魔王型デジモンが、側近のデジモンとともに雪の降る外の景色を眺めていた。
 ある拘置所では、かつてこの都市の大企業をまとめていた男が、強化ガラスの奥に座るパートナーデジモンに寂しげな笑みを浮かべていた。
 ある病院では、元・選ばれし子どものパートナーデジモンが、看護師として復帰していた。


 郊外にある小さな探偵事務所では、妻と二体のデジモンが写る写真を眺めていた初老の探偵が、依頼人と約束した時間が近づいていることに気づいて部屋を出た。

 そして、そこから遠く離れた場所では、ひとりの少女とそのパートナーデジモンが、スクルドターミナルとはまるで違う新しい世界の景色を眺めていた。
 新しい冒険が始まった。


















スレッド記事表示 No.4937 グッド・オールド・フューチャー 9/また会おうRyuto2018/03/26(月) 00:00
       No.4938 エピローグ/2049年の選ばれし子どもRyuto2018/03/26(月) 00:00
       No.4939 あとがきRyuto2018/03/26(月) 00:01
       No.4946 よ、よ〜し、一番乗りだぁtonakai2018/03/26(月) 21:11
       No.4958 英雄ってのは英雄になろうとした瞬間に失格なのよね夏P(ナッピー)2018/04/07(土) 04:03
       No.4989 古き良き?感想ut2018/05/03(木) 19:17
       No.5011 感想ですアナ銀スカイウォーカー2018/06/20(水) 10:40
       No.5012 エンドロールの続きの続きマダラマゼラン一号2018/06/20(水) 13:42