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ID.4929
 
■投稿者:アナ銀スカイウォーカー 
■投稿日:2018/03/17(土) 16:35


短編『愛と狂気と』 後
***

 『色狂いの天使』

 かつてデジタルワールドに存在した、初代選ばれし子供とそのパートナーとの間で発生した実際に発生した『事件』である。
 自身のパートナーの人間に対して『恋愛感情』を抱き、それが異常なまでに膨らんだ天使型デジモンが最終的には正気を失い、その人間を殺そうとしたとされるもので、そのデジモンの心に発生した「バグ」が原因による突発的な犯行と考えられている。
 結果として間一髪で駆け付けた他の選ばれし子供のパートナーデジモンによって犯行は未遂で終わったが、天使型デジモンはその後姿を眩ましたままである。(一部界隈では、とある魔王型デジモンと化し、ダークエリアの奥底で今も生きているという噂もあるが、定かではない)
 選ばれし子供、というこの世界で英雄と称された集団の中で発生した事件、そして犯行を起こしたのがあろうことか天使型デジモンであった、ということから、この事件は長い間デジタルワールドで童話の如く語り継がれている。

***

 闇の十闘士の襲撃から幾らか月日が経った。城の改修は完了し、(スカルナイトモンの意見により)リリスモンの城にいるデジモンたちの強化、再編成が進められた。
 リリスモンの城が闇の十闘士により大きな打撃を受けたニュースは、デジタルワールドでもそれなりに広がったようで、突如現れた闇の十闘士の存在と、七大魔王リリスモンの今後の進退が一時期大きな話題となった。
 そしてその後すぐ、事件は起きた。

 「このダークナイトモン、我が主リリスモン様には指一本触れさせ―――」

 ダークナイトモン、リリスモンの家臣であったスカルナイトモンが闇の十闘士との戦いを経て、自らをさらに強化させた姿である。話によると相棒を見つけ、そこからデジタルワールドに伝わる力、デジクロスとやらを使って、その相棒と合体することによってこの姿を得たという。その姿は以前の可愛らしい球体とは大きく異なり、名の通りまさしく闇の騎士。リリスモンよりも大きな体を得た彼は、彼女を守る絶対の騎士となるはずだった。
 ただその騎士は今、より大きな『神』によって、頭からで地面に叩き伏せられた。地面にめり込んだその巨躯は、ピクリとも動かない。

 「デジタルワールドの神が、随分派手な夜這いを繰り広げてくれるじゃないか」

 これは、リリスモンの寝室にて繰り広げられている。修復されたはずの城は大破し、魔王の寝室は外にむき出しの状態になっている。再編成した軍隊は、目の前にいるそれの前では、結局誰一匹として機能しなかった。現在リリスモンを守るのは、その裸身を包む白いバスローブのみである。
 彼女の前に君臨するのは、デジタルワールドの神と称される『スサノオモン』。元々はこのデジモンの力が10に分かれ、戦士となったものが伝説の十闘士である。

 「あんた、中身はこの前の『闇の十闘士』だね」

 リリスモンは普段ニュースや噂話に興味はないが、闇の十闘士の件のあと、またとある大きな事件が起き、リリスモンは珍しく関心を向けていた。何者かによる『スピリット狩り』である。
 世界各地に封印されていた伝説の十闘士のスピリットが、封印されていた地域ごと襲撃され、スピリットを強奪されたというものである。回数を重ねるごとにその襲撃の勢いは大きくなっていき、つい2、3日ほど前に、最後の風のスピリットが奪われたというニュースを聞いた。
 このニュースの面白い点はいくつかあり、まず、スピリット狩りが行われる際、死者が一切発生しないこと、そして、10個あるスピリットの中で闇のスピリットのみは、一連のスピリット狩りが発生する大分前に、何者かの手により捕られていたこと、である。リリスモンはそのニュースを聞いたとき、久々に笑い転げた。

 「世界を荒らしまわって神の力を手に入れてリベンジマッチ……いや、まさか本当に『私』目当てかい?どちらにしても大したもんだね」

 リリスモンがベッドから飛び降り、その右指で魔方陣を描こうとした。

 「待って」

 そう一言つぶやくと、スサノオモンは間合いを詰め、リリスモンが魔方陣を描き切る前にその手を掴んだ。その間、一瞬である。
 その手は力強く、リリスモンがいくら力を込めても振りほどくことが出来ない。そしてリリスモンはさらに気づいた。スサノオモンが彼女の右手を掴んでいるということ、それは、彼女の魔爪「ナザルネイル」に触れていることでもある。しかし、その手が溶けることなく、そこにあるということである。
 残された左手で描くこともかなわず、その手すらも掴まれ、リリスモンはなすすべもなく壁に磔にされるような形で押し付けられた。

 「まだまだ」

 魔方陣を描かなければ一切の攻撃が出来ないというわけではない。聞き取れるかギリギリの小さな声でいくつもの呪文を詠唱すると、スサノオモンを包むように、頭上からは雷、足元からは灼熱の火柱、側方からは暴風や吹雪が発生した。しかし、スサノオモンは動くことなく、無傷である。これが神の力なのだろうか。
 長年強いられなかった苦戦に彼女が息を切らせ始めたころ、スサノオモンは問いかけた。

 「念のため確認する。『色狂いの天使』、というのは、君のことで合っているね?」

 放たれた一言。
 圧倒的劣勢に立たされた上で、尚且つリリスモンにとって『最も屈辱的な』問い。

 「だったらなんだって言うんだい!?」

 リリスモンはとうとう声を荒げた。裏返り、掠れるほどに。髪は乱れ、唇を噛み、怒りの形相を浮かべるそれは、普段妖艶な彼女からはかけ離れた、まさに恐ろしき魔王のそれである。いくら首を狙いに来られようが、軽くあしらってきた。特に気に留めたこともなかった。ただ、彼女はこの質問をされるのを、何より嫌っていた。
 ただし、リリスモンが息を整え、次の呪文を詠唱しようとした途端、異変は起きた。
 
 これまで無傷で君臨していた神が、彼女の前に崩れ落ちたのだ。

 「そうか」

 膝を付き、その神々しい姿からは考えられないほど弱弱しい声でそう呟いていた。声が震えている。顔を手で押さえているが、もしかしたら、泣いているのかもしれない。
 

 「な、一体何を……」

 拘束が解かれ、目の前にいるスサノオモンが大きな隙を見せているが、あまりに唐突すぎる展開に、リリスモンはとても攻撃をする気にはなれなかった。
 そしてスサノオモンは息を整えると、どこからか取り出してきたものを、リリスモンの前に見せつけてきた。

 「これ、覚えているかな?」

 震える手で突き付けてきたのは、楕円形の小さな携帯機器。その中心についている小さな液晶画面が、驚くリリスモンの顔を映していた。この機械は、彼女にとって見覚えのあるものだった。

 「デジヴァイス……まさか、お前――――」

 リリスモンの問いを遮り、スサノオモンはリリスモンを包み込むように抱きしめた。

―――
―― 


 選ばれし子供としてこの世界に来て、仲間たちと旅を始めてからしばらくの期間が経った。多くの敵を倒し、困難を乗り越えていく最中、ある日、私のデジモンはこれまでの可愛らしい子猫の姿から、眩い天使に姿を変えた。
 これまでも私とパートナーはとても仲睦まじかったが、天使に姿を変えてからはより、その絆は深まったように思えた。ただ、どこか違和感を感じていた。これまで動物と戯れるように何も考えず和気あいあいとじゃれていたが、天使の姿に変わってからはそうすることをどこか「恥ずかしく」感じるようになったのだ。
 というのも、私のパートナーの姿は、顔は鉄仮面で隠され、天使の翼ももちろん持っているが、基本的なフォルムは人間の大人の女性のそれだった。そのためか、触られたり、抱きしめられたりすると、心臓がきゅっと引き締まり、全身が熱を持ったような感覚に襲われるようになった。これまで通りに接していたいが、喋ろうとしても、なんとなく言葉が詰まる。じれったい感覚を覚えた。まだ本当に幼かった私は、その気持ちが何なのかも、よく分かっていなかった。今思うと、これが『初恋』だったのかもしれない。
 そして『事件』が起こったのは、私たち選ばれし子供がその使命を終え、元の世界へと帰る前夜、盛大な宴会を行った後のことである。パートナーに連れられ、会場から少し離れた森の中へ入った。

 「用って何?」
 「あきら……」

 私の名を呼ぶ声が、いつもより、しっとり、儚げだった。最後の別れ、募る話も色々あるのだろう。暗い森の中、月の光で映る彼女はとても美しかったのを今でも覚えている。
 そして彼女は何も言わずに歩み寄り、私をそっと抱きしめた。

 「えっ」
 「あきら……あきら……」

 いきなりの行動だったこと、そして、耳元でかすかに響く彼女のすすり泣く声が、この抱擁がいつもと違う意味合いを持つことを、幼い私に気づかせた。私はただ、その柔らかい背中を、ただなでてやることしか出来なかった。その温かさに触れながら、私は彼女とのこれまでの冒険を思い返し、私もまた、涙を流した。離れる寂しさはきっと、同じなのだろうと思っていた。
 随分長い間、同じ姿勢だった気がする。背の小さい私の体を抱きしめる、彼女の腰の様子が心配になり始めたころ、彼女は私に向き直り、あの一言を放ったのだ。

 「あきら、あなたと離れたくない。私と、永遠に一緒に暮らしましょう」

 頭が真っ白になった。話のスケールの大きさに、思考が追い付かない。私はただ、あ、いや、その、と、たどたどしい返事でその場をやり過ごすしかできなかった。
 私には帰る家がある。家族に会いたい。学校にも行かなければならない。戻ってやらなければならないことが、沢山あったはずだ。そして、私はここに初めて来た頃、家に帰りたいと泣きじゃくったではないじゃないか。
 私は混乱していた。私の中でこれほど「帰りたくない」という気持ちが大きくなっていたことに、彼女の一言を聞くまで気づかなかったからだ。そしてその気持ちになった原因である彼女は、あの行動に出た。

 唇から、全身を稲妻が走る感覚。

 何が起こったか分からなかった。気づけば、彼女の顔が、私のすぐ目の前にあった。彼女の冷たい鉄仮面が、私の額に当たっている。ただ、その冷たさを感じさせぬほど、全身が炎の如く熱くなった。
 そのまま彼女が私を抱きしめる。私の短い髪を撫でる手が、いつもより激しい。彼女の息遣いが直に伝わるのとともに、彼女の力が段々と強くなってくるのを感じた。それに対して、私の体は芯を失い、どろどろに溶けていくように、全身の力が抜けていった。
 これまで考えていたいろいろなことが、真っ白に塗りつぶされていきそうになる。もう、どうにでもなってしまいたい。このまま、身を任せてしまおうか。ただ、ここから先の行為は、子供の私には分からない世界だというのも、感じてはいた。
 ただ、溶けかけていく思考の片隅で一つ、何かが瞬いていた。それは大きく輝き、私の意識を叩き起こした。

 ここから先の、まだ未知の世界に対する『恐怖』である。

 「イヤ」

 私は咄嗟に彼女を突き放してしまった。反射的に手が動いていた。
 思考をなんとか整理させながら、息を整えながら、そして彼女の唇が触れていた私の唇に触れながら、彼女の方を見た。
 突き放された彼女は、こちらを見ることはなく、俯いていた。ここで私は焦った。彼女を傷つけてしまったのではないか。
 違う。これは、拒絶ではない。一度、冷静に考える時間が欲しかっただけ。彼女から伝わってくる愛情は本当に嬉しかった。ただ、今の私には早すぎる、そう感じたのだ。
 私は必死に何か彼女に言おうとするが、言葉が詰まって声が出ない。

 「おい!エンジェウーモン!お前、何をしている!!」

 聞き覚えのある声が背後から聞こえたと同時に、一つの影が私を過り、目の前のエンジェウーモンに激突した。それが上空に舞い上がったのを見上げた時、それが仲間のデジモンの一匹であるウォーグレイモンだと気づいた。

 「ずっと前から様子はおかしいと思っていたがとうとう血迷ったか!自分のパートナーを食らおうとするなど!!!」

 食らう?違う。もしかして私たちの行動の一部始終を見ていたのだろうか。ただ、私のパートナーの行動は、決してそんな恐ろしいものではなかった。当時幼い私もドラマで見た程度ではあったが意味は分かる。前に聞いたことがある。デジモンは雌雄を持たず、個体同士での繁殖をしない、または家族も持たないと。もしかして、ウォーグレイモンは何も知らず、彼女の行為を誤解しているのではないか。

 私はそれを必死に否定しようとした。ただし彼らが空高くで対峙していること、そして私の動揺がまだ醒めず、うまく声が出せていないことから、その声が彼らに届くことはなかった。

 「俺は見たぞ!メカノリモン、予定変更だが先にあきらを返せ!ターミナルから列車は出せるように手配してある!」

 ウォーグレイモンの声に応じて、私の背後から現れた機械兵メカノリモンが、私の服の襟を掴み、無理やり頭上にある操縦席に私を押し込めた、颯爽とその場から走り出した。私の声は届くことはなく、段々と離れていく彼女の姿を、ただ泣きながら見ることしか出来なかった。

 そして私は何も応えることが出来ぬまま、無理やり帰りの列車に乗せられ、ほかの子供たちよりも先にデジタルワールドを去ることになった。
 のちに、後にウォーグレイモンの行動は、彼の独断に基づいた実に無知で愚かな行動であったことが判明した。ほかの選ばれし子供は、私やパートナーのことを、どう思っていたのだろう。元々世界各地から集まったメンバーであったし、連絡先を聞いていなかったため、その後誰に会うことも無かった。
私はただ、彼女との再会を誓った。

―――
――


 神の抱擁はその巨躯に反し、リリスモンを傷つけぬよう、優しいものであった。
 しばらくの静寂。リリスモンは一瞬手放しかけていた意識を戻し、とっさにスサノオモンを突き放す。

 「嘘だ、そんな、そんなはずは」
 「なら、証明する」

 スサノオモンの巨大な体が、一呼吸ののち、眩い光に包まれた。その光が粒子となって弾けると、中からリリスモンよりも小さい人影が現れた。
 長く黒い髪に、すっと芯の通った細身の体、黒いスーツとその細見を包むトレンチコートから、凛々しい大人の女性に見えるが、その顔から垣間見える面影は、リリスモンの遠い過去の記憶を呼び起こそうとする。そして

 「っ……」

 リリスモンに駆け寄った美女は、リリスモンの顎を取り、瞬時にその唇を奪った。その接点から伝わってくる稲妻のような感触で、リリスモンは目の前にいる存在が一体何者かを、認識せざるを得なかった。

 「あきら……?」
 「久しぶり、私のパートナー。エンジェウーモン、いや、今はリリスモンね」

 優しく微笑むかつてのパートナー、あきら。ただ、リリスモンは簡単に彼女を認めるわけにはいかなかった。

「あんたは、私を、拒絶したはずだ!!今更、何を!!」

 過去の記憶を穿り返された辱めや苛立ち、そしてかつて愛した存在が目の前にいることの戸惑い、もうどんな態度をとればいいか分からない。それがただ怒号に変わって、目の前のパートナーに叩きつけられる。

 「会いに来た。君の愛を、受け止めに来たんだ」

 躊躇いもなく発せられた言葉。リリスモンのごちゃごちゃになった感情はその一言で全て消し飛ばされた。

 「あ…?」
 「残されたデジヴァイスを改造して、私が自力でゲートを開けるように改造したんだ。最後に別れてから今まで、20年も掛かっちゃったけど。正直、ダメ元だった」

 デジタルワールドと人間の住む世界は時間の流れが異なっている。デジタルワールドの方が人間界に比べ、遥かに早い。デジタルワールドで経つ一か月が、人間界でのたったの1時間、といった具合である。
 あきら達の旅が終わり、人間界では20年の月日が経過していた。ただそれは、リリスモンがリリスモンと成り、この場所に住み始めてからそれより遥かに長い月日が経ったことを意味している。
 最初は、悲しみに暮れていた。自分の極めて衝動的な行動に後悔もしていた。(もっとも、彼女の行為のもととなるものは、ほかの選ばれし子供の男グループが隠し見ていたあるDVDに映っていたものを偶然目撃し、『人の愛し方のひとつ』として盗み見て知ったものであるのだが)
 最愛の人に拒絶された悲しみや、仲間から拒絶され彼女の愛を『バグ』だと嘲笑われた苦しみや怒りが、いつしか彼女の姿を闇に堕としていた。
 寿命が尽きるまで、ひっそりと暮らして死のうかとも思った。しかし、魔王と化したことで、そう簡単に尽きぬ寿命と、他を寄せ付けぬ強さを得てしまった。ある種の呪いかとも思った。
 数え切れないほどの月日が経ち、幾度となく訪れる彼女の首を狙うものを追い払っているうちに、付きまとってきたこれまでの感情を、無理やり記憶の片隅に押し込め、封をして、忘れるようになった。
 そして今、その蓋を無理やりこじ開けられようとしている。

 「あのとき、嫌、と言ったよな?」
 「咄嗟に出た言葉なんだ。許してほしい。私もまだ、子供だったから。でも、拒絶したつもりはなかった」

 あきらは本当に後悔している、と言わんばかりに俯き、唇を噛んだ。

 「一度来た闇の十闘士、あれもお前だろう?なぜあの時正体を現さなかった?」
 「まだ、力が足りなかったと思ったんだ。今の君に触れて、愛し合えるほどの力が欲しかった」

 リリスモンは自分の右手を見る。あの時ダスクモンだったあきらが放った『まだ、足りない』は、そういう意味だったのか。
 
 「研究が成功してこっちに来た時、『色狂いの天使』の話を聞いて、噂話をたどっていくうちに、君が姿を変えて、まだ生きているんじゃないか、そう思えてきたら嬉しかった」

 闇の十闘士としてリリスモンの前に現れた時と同じように、あきらはリリスモンの頬にそっと手を触れた。

 「君の心に闇を落としてしまったのは私。だから、私は、その君の闇、悲しみをも包み込める、大きく、静かな、温かい闇になろうと、そう思った。そしたら、闇のスピリットが応えてくれたんだよ」

 あきらの手は、リリスモンの首筋、胸元へとおりていく。あの時と同じように。

 「あとは、たぶん、君の知っているとおり」

 リリスモンは感じた。彼女は私を愛するために、デジタルワールドを荒らしまわり、神の力までも手に入れたのだ。
 幼いころの面影をどこかに残しつつも、大人の顔になったあきら。ただ、どこかやつれているようにも見える。そして笑ってはいるものの、彼女の目の下には少し顔を近づけば分かるほどの大きな隈があった。そして彼女の瞳は、ただ一つのことを見つめる。そして彼女が見つめるのは、リリスモンただ一人。

 狂っている。普通ならあきらのことをそう思うかもしれない。ただ、リリスモンはその狂気を孕んだ瞳を見た瞬間、心が躍った。心が繋がった。愛し合える。そう思ったのだ。もう、過去のことなどどうでもよくなっていた。

 「あきら……あきら……!!」
 「永遠に一緒に暮らそう、リリスモン」

***

 そのあとリリスモンとあきらは、人間界での20年分、いろいろな話をし、互いの愛を確かめ合った。神の力というものはあきらの人間としての姿にも影響を及ぼすらしく、スサノオモンとしての姿になっていなくとも、リリスモンの右手の影響を受けることはなかった。

 「少し、冷えるね」
 「あんたが城の屋根吹き飛ばすからでしょうよ」

 リリスモンは自分の乱れたバスローブを整えながら、枕元にあるキセルを手に取った。
キセルから出る煙が風に乗り、遠くへ流れていく。

 「そういえば、よくウォーグレイモンから逃げきれたね。私たちの中でも一番強かったでしょ」
 「なんとかねぇ。まあそのあと、この姿になってから血祭に上げてやったけどさ」
 「上出来」

 そもそも、あきらとリリスモンの間に起きた話を『色狂いの天使』として世の中に流したのもウォーグレイモンの仕業だと聞く。

 「これから、どうするんだい?ずっと人間界には帰らないつもりかい?」
 「ああ。特にあっちに未練はない。一緒に暮らそう、っていったでしょ?」

 遠くをみているあきらの白く細い背中が、やけに寂し気に映った。ここにくるまでどんなことが彼女にあったのだろうか。リリスモンはあえて聞かなかった。

 「君と一緒に居れれば、もう、何もいらないから」

 黒と赤が混ざる闇の世界の空の下、二人は肩を寄せ合い、笑った。

 おわり


スレッド記事表示 No.4928 短編『愛と狂気と』 前アナ銀スカイウォーカー2018/03/17(土) 16:23
       No.4929 短編『愛と狂気と』 後アナ銀スカイウォーカー2018/03/17(土) 16:35
       No.4931 獣の王と書いて狂う夏P(ナッピー)2018/03/17(土) 22:16
       No.4933 感想返信アナ銀スカイウォーカー2018/03/22(木) 08:53
       No.4947 狂気の中に驚喜をみたtonakai2018/03/28(水) 00:22