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ID.4906
 
■投稿者:Ryuto  HOME MAIL
■投稿日:2018/02/24(土) 00:01


グッド・オールド・フューチャー 6/真実
 その人たちのことを知ったのは、いつかのテレビ番組を家族で見てた時だった。
 私が生まれるよりもずっと昔、まだヒトがデジタルワールドに移住する前に、世界を救った人たち。
 パートナーデジモンと絆で繋がれたヒーロー。
 すごくカッコいいと思った。
 パパやママにこの話をすると、二人ともあまり嬉しそうな顔はしなかったけど、そんなこと私は気にしなかった。

 それから戦争が始まって、だんだん周りに住んでいる人やデジモンがいなくなって。
 ある日、突然家が崩れて、パパもママも姿が見えなくなって。
 どこにも行き場所が無くて、誰もいないボロボロになった街を歩いている時に、そのおばさんは私に声をかけてくれた。
「大丈夫? 名前は? 痛いところはない?」
 その時はとても疲れてて、歩き過ぎて足が痛くて、しかもお腹を空かしてて、何があったのかはよく覚えていないけど、この一言だけはよく覚えてる。腰に付けたデジヴァイスは、よくテレビで見ていたものと同じ。長い髪と優しそうな瞳も、テレビで見たままだった。
 その人のパートナーデジモン、黄色くてゴツゴツした鎧を着たデジモンの腕に抱かれて、病院に運ばれたのを覚えてる。その後のことは覚えてないし、その人たちにお礼も何も言えなかったけど。

 選ばれし子どもになりたいと思った。
 いつか私も、パートナーデジモンを見つけて、デジタルワールドを冒険するんだ。悪いデジモンをやっつけて、世界を平和にするんだ。
 そう思ってた。 



 ドーベルモンの身体が宙を舞って、目の前に落ちる。飛び散ってきた赤い滴が少しだけ頬に付く。目の前にいる黒い竜人型デジモンの爪も同じ色が付いている。
 春子には何が起きたのか理解できず、景色は酷くゆっくりと動いているように見えた。それから背中に何か鋭くて冷たいものが走ったように感じて、口の中の唾が変な味に変わった。
 膝を折って、ドーベルモンのお腹を押さえる。掌に生温かい感覚。ドーベルモンは真上を向いて口を大きく開けているものの、いつもの声は出てこない。くぐもった音しか聞こえない。
 掌がみるみるうちに赤く染まって、両手の指と指の間から赤い液体が流れ出てくる。押さえようとしても押さえられない。
「ぁ……ぁ、ぁああ……」
 何が起きてるんだろう。分からない。こんなはずじゃない。
 ほんの数時間前、私はドーベルモンと一緒にミノタルモンを倒したんだ。私たちは成長してるんだ。まだ進化したり、悪いデジモンを倒したりはできないけど、きっといつかタツキさんやジェームズさんのように……。
「心配する必要はない」
 気づいたら、すぐ頭上でタツキさんのパートナーデジモンが鋭い爪をこちらに向けていた。
 どうして……。
「お前もすぐ同じようになる」

 パン、という空気が破裂するような音とともに、ウォーグレイモンの右肘を何かが掠める。竜人型デジモンは急に右手の重さが増したかのように腕を降ろし、左手で右肘を覆った。
 春子はドーベルモンの腹部から流れる液体と同じものが、ウォーグレイモンの腕を滑り落ちるのを見た。
「お前に俺が撃てたのか」
 ウォーグレイモンは春子に背を向けて言う。その視線の先に、小さなピストルを構えたジェームズの姿があった。
「その娘から離れろ」
「どうする気だ? 俺をそれで殺す気か?」
「離れろと言ったんだ」
 この状況にあっても、ジェームズはとても落ち着いているように春子には見えた。しかし、持っているのは小さな拳銃のみ。目の前にいる究極体は、人間の身体よりも大きな火球を作り出せる力を持つ伝説の戦士だ。
 勝てるわけがない。ジェームズさんも殺される。
 私のせいで。
 ウォーグレイモンは腕を押さえることを止め、弾丸が掠めた後の傷痕をしばらくの間見つめていた。それからジェームズの方を向き、再び左手を高く上げる。
「そうか、こんな感じだったのか」
 ジェームズは身動きひとつしない。瞬きもせず、竜人の姿を見つめている。
「こうやってタツキを殺したんだな」
 その言葉の意味を、春子はよく理解できなかった。

 ウォーグレイモンの足元に幾つものライトの光が当てられ、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。大破したシトロエンから上がる火と煙のせいか、もしくは誰かが通報したのか。やがて、スピーカーを通した大きな甲高い声が聞こえてきた。
「そこにいるデジタルモンスター! 動かないでください!」
竜人が動きを止めた。
「ここで殺しておいた方が身のためだと思うが……」
「ここは五十年前のデジタルワールドではない。君が死ぬにせよ刑務所に入るにせよ、正当な手続きを経る必要がある」
「タツキは違ったのにか?」
 ジェームズの言葉に、ウォーグレイモンは小さな笑い声を上げたが、眼だけは全く笑っていなかった。
「聞こえてるの? そこのあなた……ッ⁉」
 今度は拡声器を通さない怒声。視界の隅に入ってきたのは数名の警官と、両手の花弁を銃口に変形させて構えているリリモンだった。彼女もまた、ウォーグレイモンの姿を見て表情を変えたが、すぐにまた仕事の顔に戻る。
 ジェームズの自宅を訪れる時はともかく、この表情の彼女は信頼できる。
「ウォーグレイモン、あなたを連行します……大人しく従ってください!」
 ウォーグレイモンはリリモンを一瞥すらしなかった。
「邪魔が入った。また会おうか、ジェームズ」
「あっ……⁉」
 地面を蹴り、高くジャンプする。そのまま古アパートの屋上に辿り着くと、更にウォーグレイモンは飛び、数秒後には暗い夜景の中に消えてしまっていた。
 リリモンは舌打ちをし、逃げ出した竜人を追おうと植物の羽根を広げる。くぐもった春子の声が、彼女の動きを止めた。
「助けてください! ジェームズさん! 助けて!」
 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして座り込んでいる橘春子の両手と服は血だらけだったが、彼女自身が怪我をしているわけではない。あの血液は、彼女の足元で微動だにしないドーベルモンのものだ。
 ジェームズは彼の傷が、生死を左右するほど大きいことに気づいた。
「ドーベルモンが死んじゃう! 助けて!」



 ドーベルモンはすぐに救急病院へと運ばれて治療を受けることとなった。手術室の赤いランプが消え、春子が彼との面会を許されたのは既に午前三時だったが、それまで彼女は一睡もせず、病院のロビーにある椅子の上で体育座りになって顔を埋めていた。リリモンの連絡により、間もなく手塚も病院へと到着したものの、春子は彼と会話できる状態とは到底思えなかった。
 ジェームズに促されるまま、ドーベルモンが移された個人用の病室へと入った春子は、ベッドの中で目を瞑っているドーベルモンの前で蹲り、また動かなくなってしまった。ドーベルモンには何本かの輸血用ケーブルが繋げられ、口元の呼吸器の音と曇り方で息をしていることは分かった。ただし意識は今も戻らず、医師も助かる確率は五分だと彼らに伝えてきた。
 デジモンの医学は、人類のものほど進んでいるとは言えない。
「春子」
 あまり意味がないとは分かりつつも、ジェームズは彼女に声を掛けた。
「そろそろ帰ろう。アンドロモンが迎えに来るそうだ」
 春子はその場から動こうとはしなかった。ぼそぼそと小さく何かを呟いている。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
 ドーベルモンに向けてか、ジェームズに向けてか、その両方か。
 病室の入り口でリリモンが手招きしているのに気づくと、ジェームズは春子の頭を撫でて部屋を出た。



「なぜ私に言わなかったのですか⁉ 彼女のことを!」
 警察からの報せを受けて病院に到着したアンドロモンは、普段は滅多に出さない大声を出しながらジェームズに詰め寄った。
「春子自身に止められていたんだ。選ばれし子どもになったということを、君に言うなと」
「そんな……」
「自分の活動が知られれば止められるからと言っていた……すまない」
 項垂れるアンドロモンの隣に、つい先程までどこかに連絡を取っていた手塚が戻ってきた。彼もまた、普段はあまり見せない硬い表情をしている。それにかなり疲れているようだ。
「残念だが、ウォーグレイモンには逃げられたようだ。手がかりすら掴めん」
 ジェームズはこの報告にも特に驚かなかった。彼のことだ、自分たちを襲った時点で、現場からどう逃げるかの算段もつけていたに違いない。手塚は明らかに苛立っているようで、悪態をつきながらロビーを歩き回り始めた。リリモンが不安げな表情を浮かべながら、二人の人間の姿を交互に見ている。
「今夜の死人がまた増えなかっただけマシだが……」
「死人? どういうことだ」
「この事件は二件目だということだ」
 足を止めた手塚がジェームズを睨みつける。リリモンが小さく何かを言おうとしたが、手塚の視線に気づくと彼女はまた黙り込んでしまった。
「ジャン・ウーピン、キム・ミヨン、コカブテリモン、フローラモン」
「……まさか」
 よく知る名前が四つ上がる。静かに、ジェームズの背筋に冷たい感触が走った。
 知識の紋章に選ばれたジャンとパートナーのコカブテリモン。純真の紋章を持つキムと、彼女のパートナーのフローラモン。ジャンとキムは私とタツキよりも少し後に結婚し、戦後は引退していたはずだった。
「私が到着した頃には誰もおらず、自宅に争った跡があるだけだったよ」
 これで五組。タツキも含めれば、一九九九年の選ばれし子どもで生きているのはもう、自分とジョーダンだけになってしまった。
「こんなタイミングで新しい選ばれし子どもが見つかるなんて、ブラックジョークにも程がある」
 アンドロモンが非難するような視線を投げかけていることに手塚は気づき、咳払いをしてからリリモンに指示を出した。
「ウォーグレイモンを指名手配しろ。マスコミにも公表する」
「分かりました」
「かつての英雄は連続殺人犯になった。必ずあのデジモンを捕らえてやる。それから……ジェームズ」
 手塚がジェームズの方を向いた。
「君の仕事はもう終わりだ」
 即座に返事はできなかった。その前に、手塚が言葉を続ける。
「犯人の正体は分かった。ここから先は我々が仕事をする。助かったよ、ありがとう」
「まだ彼がどこにいるのか分からない。私もウォーグレイモンを――」
「ジェームズ」
 手塚はジェームズの肩をポンポンと叩き、不安げな表情で彼の目を見た。
「もう十分だ。これ以上は君の命も危険に晒すことになる。もし君まで失われてしまっては、我々……いや、人類にとって大きな損害だ。分かってくれ、ジェームズ」



 微かにアルコール除菌液の香りが漂う誰もいない病院のロビーで、ジェームズはしばらくの間、長椅子に座っていた。幼年期デジモンたちが起き始める前に孤児院へ戻ったアンドロモンに代わって、春子を連れて帰るために残っていたのだ。
 疲れでまどろみ始めた頃、個室病棟から幽霊のようなふらふらした足取りで春子が戻ってきて、ジェームズの隣に座った。
「……私、何であんなことしちゃったんでしょうね」
 長い沈黙の後、春子は顔を上げないまま小さな声で言う。外の雨音がやけに大きく聞こえる。
「せめて、ウォーグレイモンさんを説得しようなんて思わなければ、こんなことにならなかったのに。そういうこと、なんで私、想像できなかったんだろ……」
 ジェームズは答えない。
 確かに、あの場で春子が自ら出ていったことで、ドーベルモンは傷を負った。だがそれは、直前に自分もやろうとしていたことだ。ドーベルモンは春子のパートナーであるが故に、生命の危機を肩代わりした。そういう場面は、自分も何度も体験している。
「ウォーグレイモンとは、何を話した?」
「……何を……」
 独り言のようなか細い声。
「デジヴァイスを……持ってました」
「……」
「ホメオスタシスから……聞いたって……選ばれし子どもが、間違いだ、って……」
「ホメオスタシス……」
 ジェームズの中で、何か引っかかるものがあった。だが続けて質問する前に、春子の方が先に口を開く。
「ジェームズさん、教えてください」
 今度の声には後悔の念が籠められているようには聞こえず、むしろ感情そのものが入っていないようにすら思えた。
「……タツキさんが殺されたって、あなたが殺したって、ウォーグレイモンさんが言ってました」
 春子は顔を上げない。
「嘘ですよね? 嘘って言ってくださいよ、ジェームズさん。だって私……選ばれし子どもが、そんな……」
「顔を上げなさい、春子」
 病院に来てから、ジェームズは初めて春子の顔を見た。瞼は腫れ上がり、頬には透明な線がいくつも走っている。普段の彼女からは想像もつかないような、やりきれない感情が彼女の思考を支配しているのが分かった。
 これ以上、彼女に幻想を見せ続けることはできない。
 もう、夢から目を覚ましてやるべきだ。
 そう思って、ジェームズは静かに口を開いた。
「二〇三八年の八月だ」



 一年近くに及んだイグドラシルとの戦争は、人類側が優位に立ちつつあった。
 既に戦地の多くを人類が掌握し、デジタルワールドを二分したこの戦いもようやく終わると誰もが考えていた頃、イグドラシルは最後の攻撃を開始した。
 人類側の拠点であったスクルドターミナルの中心市街地、その官公庁ビル街にイグドラシルの化身体「7D6」が出現。中心市街地は占拠され、イグドラシルは人類に降伏を迫った。
 そこで私たち、元・選ばれし子どもに命令が下った。私たちだけで敵の懐に飛び込み、7D6を破壊しろ、と。勝ち目の薄い、特攻のような作戦だった。
 誰も何も言わなかったが、そんな作戦が持ち上がった理由も分かる。この戦争が起きる寸前まで、我々はデジモンと人間が共生する方法を探し、多くの仲間たちへ戦争の回避を呼びかけていた。戦いが始まった後、「人類をこんな状況に追い込んだのは選ばれし子どもたちだ」という声がそこかしこから聞こえてきた。
 連日の戦闘と昼夜のない生活で、私たちの体力も気力も限界だった。仲間たちとの間にも、そのパートナーデジモンとの間にも、もう昔のような和やかな空気は流れていなかった。
 それでも私は作戦を承諾した。タツキが行くと言ったからだ。

 とても暑い日だった。
 他のパートナーデジモンたちの協力を得て、イグドラシルの攻撃を掻い潜りながら都市の中心地に突入する。先頭を行くのはタツキを背に乗せたウォーグレイモン、その後ろに私とメタルガルルモンが続いた。目指すは7D6の装甲の奥にある本体だ。破壊すれば7D6は崩壊し、イグドラシルは活動を停止する。
 結晶体の攻撃を受けながらも、傷だらけのウォーグレイモンが振るった竜殺しの爪ドラモンキラーが本体を両断した。勝ったと思ったよ。
 だが、違った。

 イグドラシルは7D6が破壊されることを確信した途端、その依代を別のものに替えることを選んだ。
 その新たな依代は、草薙タツキ。
 眼の前で彼女は心を失い、感情のない瞳が私を見つめてきた。
そしてこう聞かれた。
「あなたたちは、デジタルワールドをどうする気?」
 ウォーグレイモンもメタルガルルモンも傷つき、もう戦えない。一方のイグドラシルも戦闘能力を持つ化身体を失った。
 このまま放置しておけば、数時間後には最後の殲滅作戦――軍隊によるイグドラシルへの爆撃――が始まることになっている。
 どうにかできるのは私だけだった。



「それから……どうしたんですか……?」
 春子はまだジェームズのことを見つめていた。ジェームズは背もたれに背中を預けたまましばらく黙っていたが、やがて思い出したかのように背中を上げる。
 ふと、春子はジェームズのようすが普段と違うことに気づいた。彼には暗い病院のロビーではなく、何か別のものが見えている。それに私に対して話しているというよりも、まるで彼自身に言い聞かせているようだ。
「説得しようとした」
 眼鏡の奥の眼は、彼にしか見えていない何かに怯えているようだっだ。春子にはそれが、当時の彼の表情そのままなのではないかと思えた。自分が聞いたにも関わらず、その先が聞きたくなくなった。
「こんな抵抗は無意味だ、今すぐタツキの身体を解放して人類に降伏しろと。それがデジモンのため、大義のためだろう、と」
 嫌だ、知りたくない。
 どうして右手が、何かを握っているような形になっているの?
「私は同じことを、言い方を変えて伝え続けたよ。何度も何度も、デジモンのため、平和のため、君が守りたいもののためだと。まるで彼が、私と同じ立場でこの場にいるかのように」
 それからまた、長い沈黙が流れた。その間にジェームズの口が開きかけて、また閉じてしまうことが二、三度あった。
「だが、彼は……彼女の中身は、デジタルワールドのホストコンピュータで、デジモンの神だった。私たちに跪くことを選ばなかった。最初からそんな選択肢はなかったのかもしれない」
 やがて、ジェームズはまた背中を倒し、深く椅子に座り直した。
「そして私は、彼女を撃った」
「……」
「イグドラシルを殺した後、彼女の命だけは救おうとしたよ。だが、無理だった。戦争は終わり、ウォーグレイモンも姿を消した」

「……嘘だ」
 違う、と思った。
 こんな話、知らない。私の読んだ本にも、インターネットにある映像にも、そんな話はどこにもなかった。
 きっと、ジェームズさんが嘘をついてるんだ。私が間違ったことをしたから、私を怖がらせて反省させるために言っているだけなんだ。きっとタツキさんはまだ生きてて、どこか別の場所にいるに違いないんだ。
 でも、ジェームズさんの表情が、今の話が嘘ではないと言っている。
「君の知ってる物語は、五十年前の平和だった時代に私たちがしてきたことを、君たち子どもでも楽しめるように脚色したものに過ぎない。実際の選ばれし子どもとは違う」
「違う、違う。そんなはずない……」
「妻を殺したなど、嘘で言えるはずがない」
 妻。
 タツキさんが、ジェームズさんの。
 気づけば、ジェームズは最初に彼の家で会話した時と同じ冷たい表情に戻って、春子のことを見つめていた。顔の半分は影に隠れ、もう半分もまるで他人のようだ。
 寒気がして、春子の身体は震えた。それにとても気持ちが悪い。椅子に座っているのに、上半身がバランスを崩して転んでしまいそうになる。
「君の見ていた古き良き未来は存在しない」
 私が信じてたこと、全部間違ってた。
「……ッ!」
 耐えられなくなって立ち上がり、春子はジェームズの傍を離れる。
 そしてそのまま、病院を出ていってしまった。



「あれはどういうことだ?」
 ウォーグレイモンの声が薄暗い室内に響き渡った。不満と、いくらかの不信が籠められた声だ。
「ジェームズ・テイラーソンがいたぞ。タツキを殺した奴が。なぜそれを説明しなかった?」
 その質問に別の声が答える。こちらもまた苛立っていた。
「もし言っていたら、君はどうした?」
「当たり前だ。奴を殺す」
「それでは困る」
 大袈裟な溜め息が暗がりの向こうから聞こえてきたものの、ウォーグレイモンは表情を変えない。
「君のリストに彼の名前は入っていない。君が処理するのはあの新しい子どもだ」
「本当にそれに意味があるのか?」
「ホメオスタシスの遺志だよ、分かるだろう。彼女の形見が示したように」
 掌にある、かつてパートナーが所有していた選ばれし子どもの証を眺めながらも、ウォーグレイモンの中に渦巻く感情は変わらない。
「自分の仕事はやる。だが、ジェームズもだ」
「余計なことをすると、我々も君を庇いきれなくなるぞ」
「知ったことか」
 それきり、ウォーグレイモンはもう何も言わず、暗い部屋にはまた大きな溜め息が響くだけだった。


スレッド記事表示 No.4861 グッド・オールド・フューチャー 3/七大魔王Ryuto2018/02/11(日) 00:00
       No.4862 グッド・オールド・フューチャー 4/捜査Ryuto2018/02/11(日) 00:01
       No.4863 あとがきRyuto2018/02/11(日) 00:02
       No.4869 感想浅羽オミ2018/02/11(日) 18:22
       No.4890 何がQだry夏P(ナッピー)2018/02/17(土) 17:47
       No.4904 3・4話感想返信Ryuto2018/02/23(金) 22:58
       No.4905 グッド・オールド・フューチャー 5/襲撃Ryuto2018/02/24(土) 00:00
       No.4906 グッド・オールド・フューチャー 6/真実Ryuto2018/02/24(土) 00:01
       No.4907 5・6話あとがきRyuto2018/02/24(土) 00:02
       No.4908 まさか時空が発端だったとは夏P(ナッピー)2018/02/24(土) 06:46
       No.4913 おのれイグドラシル!tonakai2018/02/28(水) 00:43
       No.4923 5・6話感想返信Ryuto2018/03/10(土) 23:09