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ID.4905
 
■投稿者:Ryuto  HOME MAIL
■投稿日:2018/02/24(土) 00:00


グッド・オールド・フューチャー 5/襲撃
「反応が遅い! 今のはもっと早く動けたはずだぞ!」
「ぐっ……」
「それから春子! どうして敵が視認できない場所に立っているんだ! 説明してみろ!」
「えっ、あっ、すみません!」
 年末が近づいてきたある日、ジェームズがリリスモンの地下倉庫に向かうと、既に春子とドーベルモンは汗だくなっていた。
 アスタモンによる春子とドーベルモンの訓練は、日が経つに連れ高度に、そして過酷なものになっている。今日はわざわざミノタルモンを地下倉庫まで連れて模擬戦闘をさせ、自分はそのようすを眺めながら、一戦終わるごとに厳しい指導を加えていた。
 案外、彼はこんな裏社会で生きずとも、教師としてやっていけるのかもしれない……いや、こういう指導方法は今の時代は求められていないか。
「ドーベルモン……?」
 顔を曇らせながら、春子が声を掛ける。
「大丈夫だ」
「……分かった! アスタモンさん、もう一回お願いします!」
 このスパルタ指導にもめげず、食らいつくように訓練を続ける春子とドーベルモンの熱意も相当なものだ。彼女らには確かに、選ばれし子どもとしての経験もセンスもない。ただ、ジェームズはこの熱意自体が彼女たちの特別な力なのではと思い始めていた。



 ほとんど収穫のなかったジョーダンとの会合後、ジェームズは一人で手塚のオフィスを訪れ、今後の捜査方針について話し合った。
「最後の殺人から今日まで、動きが何もない」
 手塚はそう言った。ハンスが死亡して以降、同一犯と思われる殺人は起きていない。既に手塚もジェームズも、今後選ばれし子どもとパートナーが殺されることはないのではと思い始めていた。
「全く、例の勇気の紋章のヒーロー騒ぎがようやく収まったかと思えば」
 ヒーロー騒ぎ、とは言うまでもなく、ジェームズと出会う前に春子とドーベルモンが行っていた自警行為だ。ジェームズはそのことについて、手塚に何も話さなかった。今回の事件に関連がないこともあるが、自分と出会う前の彼女たちの行動自体も、あまり言いふらすべきものではない。特に現役の警官である彼の前では。
「だが、これで終わりにはしない。既に敵はあまりにも殺し過ぎている。そのツケを必ず払わせてやる」
 手塚はそう言っていた。ジェームズとてその思いは同じだったが、その一方でこの捜査に対する限界も感じ始めている。自分ひとりでは、これ以上の進展は望めないかもしれない。つくづく選ばれし子どもという人種は、パートナーデジモンがいなければ何もできない存在だ。
 しかし、もし仮に、この捜査が進展したとして。それは好ましいことなのか。
 これまで考えることを止めていた「何か」が、犯人と一緒に姿を現すのではないか?
 そんな予感が、ジェームズの頭の片隅に巣食っていた。



「ぬおぁっ?」
 野太い嬌声と、ズシンという何かが倒れる大きな音で、ジェームズは我に返った。
「嘘? やった! やった! すごいよドーベルモン! やったぁぁぁぁ!」
 春子が膝を折ってドーベルモンに抱きつき、彼の頭をわしゃわしゃと撫でる。そんな光景が、うつ伏せになったミノタルモンの胴体の上で行われていた。この訓練で初めて、ドーベルモンがミノタルモンを下したのだ。決定的瞬間を見逃してしまった。
「よ〜しよしよしよし! 偉いぞドーベルモン! さっすが私のパートナー!」
「あ、あぁ……ありがとうハルコ……少し苦しい……」
「いつまで俺に乗ってる気だ! どけ小娘!」
「ジェームズさん! 私やりました! 見ましたか?」
「聞いてるのかオイ!」
 ぶんぶんと大きくこちらに手を振る春子には、すぐ下から聞こえてるはずのミノタルモンの声が届いてないらしい。ようやくミノタルモンの背から降り、アスタモンのいつもと変わらぬ手厳しい評価を受けている時でさえ、彼女の頬は緩みっぱなしだった。隣のドーベルモンでさえ、耳や尾の動きがいつもよりせわしない。
 彼女らにとっては、初めて成長を実感できた瞬間だったのだろう。

「えへへへへ、ドーベルモン最高〜」
「こ、こら……」
 懐中時計で時間を確認しようとした時、春子の猫撫で声とパートナーの慌てる声が聞こえてきた。
 顔を上げたジェームズの視界に入ってきたのは、またしてもドーベルモンに抱きつき、彼の顔に頬ずりしている春子の姿だった。彼女はそのまま、ドーベルモンの額に軽くキスをして、ドーベルモンにまた嫌がられていた。
 反射的に、ジェームズは彼女たちから目を逸らした。まるで見てはいけないものを見てしまったかのように。それからふいに、何故そんなことを自分がしたのかを考えた。
 反射的に思い出したのだ。
 蓋をしていた記憶を。



 二〇三七年の春、まだ寒さが抜けきらない頃。
 デジタルワールドのホストコンピュータ・イグドラシルが、リアルワールドから移住してきた人類へ宣戦布告した。
 この数年前から、デジタルワールドにおけるデジモンと人類の緊張関係が誰の目にも明らかになり、人類の居住エリアで暴動やテロ事件が続発し始めていたが、本格的な戦争状態となったのはこの年だった。
 イグドラシルの側に付くデジモンは数多くいた。リリスモンの一派は静観、アンドロモンのように人類に協力的なデジモンもいた。彼らに対するデジモンたちからの風当たりも強くなった。そして、誰よりもデジモンとの絆を深めていた私たち選ばれし子どもも、どちらの側に付くのか判断を強要された。
 人類の側に立つことを表明すると、すぐに私たちは戦場に送り込まれることになった。
 デジモンとの戦いをよく知る兵士として。

「ガブモン、準備はいいか?」
「うん」
 私とガブモンが戦場へ発つ日だった。どんな環境が待っているか分からなかったので、普段よりも厚着をしていたのを覚えている。首から下げた友情の紋章が刻まれているタグ、腰のベルトに装着したデジヴァイスを確認し、自宅を出ようとした時だった。
「やっぱり僕だけで行くよ。タツキはリアルワールドに戻って」
「それは駄目」
 リビングから聞こえてくる会話が気になり、ジェームズは足を止めた。ガブモンに掌を見せるジェスチャーをして、ゆっくりと玄関を戻る。
 タツキが、自分と同じようにデジヴァイスを準備していた。

 この当時、私とタツキは既に夫婦となっていた――公にはしていなかったが――こともあり、彼女自身には政府からの要請はなかった。しかし、それでも彼女はアグモンとともに行くことを決めていた。
 戦いでデジモンも人間も苦しんでる、私はみんなを見捨てられない。
 みんなを助けるために私は行く。
 彼女は度々そう話していて、私は既に彼女を止めることを諦めていた。
 だが、タツキのパートナーであるアグモンだけは違い、最後まで彼女に反対していた。
「僕ひとりでも大丈夫だよ。タツキを危険には晒したくない……」
「ありがと、アグモン。でもそれなら、私だってあなただけを行かせるわけにはいかないよ」
 タツキが膝をついて、視線をアグモンと合わせる。皺のある顔を緩ませながら彼女は手を伸ばして、アグモンの手を握った。
「私ももう若くないけどね。でも、アグモンと一緒なら、私だってまだ戦えるよ。ひとりでここで待ってる方が、私にとってはよっぽど辛いもの」
「……タツキ」
 アグモンが自分のものよりもずっと小さなタツキの手を握り返す。私はふたりの間に入ることができず、かと言って彼らに黙って出発することもできず、ただ廊下からふたりのようすを眺め続けるだけだった。
「分かった。僕がタツキを守るよ」
 タツキの表情が明るくなる。ここ数年、私が見たどんな表情よりも明るく、生き生きとした表情だった。
「ありがとう、アグモン」
 それからタツキはアグモンに抱きつき、彼の顔に頬ずりをしてから、額に口づけした。
 アグモンは照れ臭そうに笑った。

 気づくと、私はふたりから視線を外して、廊下の壁に背中を預けて項垂れていた。心配そうに自分を見つめるガブモンのことすら気に留めずに、頭の中を支配した表現しがたい感情と相対していた。
 混乱した。別に変わったことなど何ひとつ起きていないのに。

 どうして今の私は、アグモンのことを快く思っていないのだろうか?



「てーてーてーてーてーてててー♪ てーてーてーてーてーてててー♪」
 上機嫌な春子の鼻歌が後部座席から聞こえてくる。かつて、まだデジモンのことが知られてない頃によくテレビで流されていた曲だ。目に見える成果を初めて得た春子は、リリスモンの地下室を出てからこの曲をずっと歌っていた。余程のお気に入りらしい。
 ドーベルモンはパートナーと対照的だった。春子の膝の上に顎を乗せ、すっかりまどろんでいる。丸一日近く戦闘訓練をし続けていたので、こうなるのは当然だろう。春子の体力が異常なのだ。
 春子の鼻歌のボリュームが大きくなり、左手がマイクを握るジェスチャーをして口元に近づける。
「逃げ――」
「いつもの場所でいいのか?」
「あ、はい、大丈夫です!」

 ただでさえ治安の悪い地域の夜だ。
 ドーベルモンがいるとはいえ、春子を一人で帰らせるわけにはいかない。このところ、彼女の送迎はすっかりジェームズの日常の一部になっていた。
 春子が住むアンドロモンの孤児院の場所は知っていたものの、彼女を降ろすのはいつもそこから数百メートル離れた場所だった。
 春子とドーベルモンはアンドロモンにさえ、自分たちが選ばれし子どもになったことや、ここ数日ジェームズのもとで訓練を受けていることを秘密にしていた。理由を尋ねると、「話しちゃったら、アンドロモンさんに止められるに決まってるじゃないですか!」と彼女は即答した。
 その通りだ。こんなことを彼が許すはずがない。
 アンドロモンに対して秘密を持つことは癪だったが、春子の想いを無碍にすることもできず、結局ジェームズは彼女の隠し事に付き合い続けていた。これも、事件が解決するまでの僅かな期間の辛抱だと考えて。

 シトロエンは大通りの脇道に入り、古いアパートの並ぶ旧市街を走る。
 この辺りは二十年ほど前までは居住者が多かったものの、戦争の間にその多くがこの地域から避難し、現在もそのほとんどが戻っていない。立ち並ぶ街灯はすっかり老朽化している。しかもその半分くらいは消灯しており、もう半分も点滅を繰り返すばかりだ。光が地面に積もり始めた雪によって反射されるので、周囲は突然明るくなったかと思えば、次の瞬間には辺り一帯が暗闇に包まれる。ジェームズはシトロエンのライトをハイビームにして速度を落とした。
 いつも彼女を降ろす場所の目印にしている赤いポストが見えてくる。昼間から降っている雪が少しずつ勢いを増し、視界を悪くしていたので、ジェームズは少し目を細めた。
 そして違和感を覚えた。
 何か異常なものが見えているわけではない。ただ、何者かに遠くから見られている気がする。この感覚は五十年前から先の戦争に至るまで何度も体験したことのあるものだったが、少なくともここ数年は感じなかった。
「ジェームズさん、今日もありがとうございます!」
 天気とは対照的な晴れやかな笑顔で礼を言う春子。その膝元で休息していたドーベルモンの耳が突然ピンと立ち上がり、彼が顔を上げる。
 ドーベルモンも感じたのか。
 ならば、やはり自分の思い違いではない。
 シトロエンは少しずつスピードを落とす。目印のポストが近づいてくる。
 停車はできない。ジェームズはそう判断した。
「春子」
「はい?」
「掴まれ」
 車内に、巨大な物体が猛スピードで激突したかのような衝撃。座席が揺さぶられ、ジェームズの目の前からはエアバッグが飛び出す。そのままの勢いでシトロエンはスピンし、街灯に激突して停止した。



「う……」
「ハルコ! 起きろ! 早く!」
 全身に纏わりつく雪の冷たさと、パートナーの叫びで覚醒する。身体にズキズキと走る痛みは、日中の訓練でつけた傷だけが原因ではない。目の前で煙を上げて大破している車がそれを示している。
「ハルコ! 立て!」
「待って、ジェームズさんが……」
 ボロボロになったパーカーがドーベルモンの顎の力で引っ張られ、春子は半ば強制的に立ち上がった。目を凝らしてガラスの割れた車の中を見つめても、運転席に人影はいない。車の中に倒れているのか? それとも――。
「お前か?」
 低く、冷たい声が響く。ジェームズの声ではない。
 ドーベルモンの唸り声が聞こえる。
 春子が振り返ると、両脇にボロボロのアパートが並ぶ暗い雪道の中心に、黒い影が見えた。
 その威圧的な声にはなぜか聞き覚えがあった。どこかで聞いたことがある。
 それまで消えていた街灯のひとつがまた光を取り戻し、その真下を通過しようとする黒い影を照らした。

 成人男性よりも一回り以上大きな身体を纏う金属の鎧。両腕の先にあるのは三本の巨大な爪。頭部は角のある兜に覆われ、そこから見える瞳と、襟首に見える髪はともに黄色い。だが、肌と鎧の大部分は黒く染まっていた。
 春子はこの竜人型デジモンを知っている。
 ただ、彼はこんな場所にいるはずもなければ、身体の色も違った。
 まして、彼がその巨大な爪を、自分たち人間に向けるなんて。
「動くな」
 今度は別の小さな声と、金属がスライドして擦れる音が春子の背後から聞こえた。
振り返らなくとも声で分かる、ジェームズさんだ。やっぱり生きていたんだ。
「ドーベルモン、春子を連れて逃げるんだ」
「ジェームズ……?」
 それまでゆっくりと春子に近づいていた黒いデジモンは立ち止まり、春子の背後を少し驚いたような目で見つめていた。このデジモンは、彼を知っている。

「なぜお前がいる?」
「私も君に同じことを聞きたい」
 降雪がますます激しくなる。街灯が一瞬光り、再度影を照らす。
 ジェームズが言った。
「やはり君だったのか、ウォーグレイモン」
 体色が変わろうとも、その姿を忘れるはずがない。

 身体中が痛むが、幸いにして動けないほどではない。受け身を取って頭部を守れたこと、手足の骨が折れなかったことは幸いだった。
 ジェームズはコートから取り出した小銃を右手で構えた。もうかなり長い期間実戦からは遠ざかっているが、外さない自信はある。だが、そうだとしても、ジェームズはウォーグレイモンに銃を向けたくはなかった。
「そんな小さな銃で俺を殺せると思っているのか?」
「戦争中、人間がデジモンを殺すために造ったものだよ。君だって当たり所が悪ければ命はないぞ」
 目の前の春子はまだ動かない。彼女を避難させずに、彼女の背後でこれを撃つことは避けたい事態だった。だが、どこまでこのデジモンに対して時間稼ぎができるのか?
「俺は死なない。既に死んでいるからな」
 ウォーグレイモンの声がより一層低くなる。
「十一年前、タツキのパートナーのアグモンは死んだんだ。今、お前の目の前にいるのはその亡霊だ」
 そう言いながら、ウォーグレイモンは巨大な三本爪を水平に構える。ドーベルモンの声が聞こえた。
「逃げろ、ハルコ!」
 次の瞬間、ウォーグレイモンは腕を振るった。三本の爪から放たれた衝撃が炎を纏い、一直線に春子とドーベルモン、そしてその後ろにいるジェームズに向かって飛んでくる。ジェームズが身体を捩じり、春子はドーベルモンに引っ張られて倒れる。
 次の瞬間、潰れているシトロエンが爆破し、火の粉がそこら中に飛び散った。

 ジェームズは建物と建物の間に走り、無造作に積まれた木箱の影に隠れた。シトロエンの炎に照らされ、周囲を見渡しながらゆっくりと歩くウォーグレイモンが見える。ざく、ざくという新雪を踏み鳴らす音。春子とドーベルモンは隠れたらしい。
「どこだ! ジェームズ! 出てくるんだ!」
 ジェームズは小銃を確認してから、ゆっくりと冷たい空気を吸い込んだ。考えなしに出ていけば、間違いなく殺される。
 実際のところ、この拳銃の威力では一発で殺すことなど不可能だろう。二発目を打ち込む前に彼の攻撃が飛んでくるに違いない。だが、出ていかなくてもどうせすぐに見つかる。
 いや、それはまだいい。自分が標的になれば、春子とドーベルモンは逃げるチャンスが与えられるからだ。最悪のパターンは、自分よりも先に春子たちが見つかることだ。
 相手は一九九九年の選ばれし子どものパートナーデジモンだ。彼女らが勝てる見込みはない。自分から出ていくべきだ。一か八かの攻撃を試みて、逃げられる隙をつくる。
 この目論見は、いとも簡単に崩れ去った。
「ウォーグレイモンさん! やめてください! どうしてこんなことをするんですか?」

 橘春子は目の前の光景が信じられなかった。
 選ばれし子ども・草薙タツキのパートナーデジモンであり、勇気の紋章を背負った最強のグレイモン系デジモン。ジェームズ・テイラーソンのパートナーだったメタルガルルモンと双璧を成す存在。
 そのデジモンが全身を黒く染め、他ならぬジェームズを襲っている。かつての相棒のパートナーなのに。
「ハルコ……!」
 ドーベルモンは慌てふためき、春子自身もパートナーの動揺を感じ取っていた。それでも、また身を隠して事の成り行きを黙って見ていることなどできない。そんなことは選ばれし子どもならしない。
 あたりを見渡していた黄色い瞳が、再び自分を捕らえるのを感じた。
「なぜ隠れない?」
「それは……」
 身体が震えるのは寒さのせいではない。ジェームズにも、リリスモンにも、ジョーダンの前でさえこんな恐怖は感じなかった。声と瞳から伝わってくる威圧感。彼は自分に明確な殺意を向けている。
「あ、あなたを、あなたたちを尊敬してるからです……」
 デジヴァイスを強く握り、彼の前に掲げてみせる。
「私、橘春子って言います! 新しい選ばれし子どもです! その……選ばれし子どもとして、あなたを尊敬してるんです! あなたに会いたいと思ってました!」
 声が震え、裏返った。それでもデジヴァイスを彼に示すことで、何かが伝わるはず、変わるはずと思った。ウォーグレイモンの瞳が微かに揺れた。
「覚えてますか? 私、戦争の時――」
 だが、それでは不十分だった。
「俺たちを選んだホメオスタシスは、これを通じて俺に言った」
 ウォーグレイモンは右腕を傾け、そこを覆っている装具の内側にあるものを春子に見せた。
 水色の小さな楕円形。春子が握るものと同じ形のデジヴァイス。
 まさか。
「……そ、それ……」
 だが、春子の視界の中にデジヴァイスがあったのはそこまでだった。
 ウォーグレイモンは右手を胸の高さに上げ、掌を上に向ける。するとそれだけで、小さな火球が生まれた。
 ウォーグレイモンの必殺の火球ガイアフォース。かつてリリスモンを倒した技だ。
「選ばれし子どもは間違いだった、と」
 ウォーグレイモンが腕をさらに高く掲げる。
「ひッ……?」
「さらばだ、新しい選ばれし子ども」
 その時、ウォーグレイモンの腕を這うように影が纏わりつき、唸り声が大きく響き渡った。春子の隣にいたドーベルモンが地面を蹴り、一瞬で彼に飛びかかったのだ。掌の上で生成していた火球が暴発し、近くにあった街灯が根元から吹き飛んだ。
「ドーベルモン!」
 名を呼んでも何も変わらない。ウォーグレイモンが無表情で腕を振るい、ドーベルモンが地面に激突して、雪と砕けたアスファルトが宙を舞う。それでもまたドーベルモンは立ち上がり、再びウォーグレイモンに攻撃を仕掛けた。彼は鎧と鎧の間から露出する皮膚に何度も噛みつこうとしている。
 対して、春子の頭は真っ白になっていた。
 ついさっきまでやっていた訓練のことも思い出せない。パートナーとしてどう指示すればいいのか分からない。そもそも、この状況をどうすれば打開できるのかも分からない。
 再び、ドーベルモンが背中から地面に叩きつけられる。足をばたつかせて再び立ち上がったものの、今度は衝撃で頭も打ったのか、ふらついてまともに戦う姿勢に移ることができない。
 ウォーグレイモンが腕を大きく振りかぶる。再び街灯が灯り、三本の爪が光を反射した。
「やめて!」
 一閃。
 衝撃波とともにドーベルモンの身体が舞い、赤い液体が春子の目の前で飛び散った。


スレッド記事表示 No.4861 グッド・オールド・フューチャー 3/七大魔王Ryuto2018/02/11(日) 00:00
       No.4862 グッド・オールド・フューチャー 4/捜査Ryuto2018/02/11(日) 00:01
       No.4863 あとがきRyuto2018/02/11(日) 00:02
       No.4869 感想浅羽オミ2018/02/11(日) 18:22
       No.4890 何がQだry夏P(ナッピー)2018/02/17(土) 17:47
       No.4904 3・4話感想返信Ryuto2018/02/23(金) 22:58
       No.4905 グッド・オールド・フューチャー 5/襲撃Ryuto2018/02/24(土) 00:00
       No.4906 グッド・オールド・フューチャー 6/真実Ryuto2018/02/24(土) 00:01
       No.4907 5・6話あとがきRyuto2018/02/24(土) 00:02
       No.4908 まさか時空が発端だったとは夏P(ナッピー)2018/02/24(土) 06:46
       No.4913 おのれイグドラシル!tonakai2018/02/28(水) 00:43
       No.4923 5・6話感想返信Ryuto2018/03/10(土) 23:09