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ID.4865
 
■投稿者:マダラマゼラン一号 
■投稿日:2018/02/11(日) 13:35


木乃伊は甘い珈琲がお好き 2-1
 一九三〇年、ダシール・ハメットが『マルタの鷹』を著し、ハードボイルド・ミステリという推理小説の新たな道を切り開いた。私立探偵サム・スペードが相棒の死をきっかけに中世の宝をめぐる悪党どもの抗争に巻き込まれていく物語。それはシャーロック・ホームズ、エルキュール・ポワロと言った伝統的な名探偵の形にともすれば唾を吐きかけるようなものだった。トリックとも言えないようなトリック、そして謎の多くが拳と睡眠薬の飛び交う中で雑に処理されるそのストーリーには、かの江戸川乱歩翁も難色を示したという。

 ハードボイルド・ミステリが既存の探偵小説よりも前進した点の一つに、警察の無能さというものがある。コナン・ドイル以来、探偵小説の警察には碌なのがいないが、ハードボイルド・ミステリにおける彼らは、それよりももっとひどい。横暴で、深夜三時に無断の家捜しをして探偵の見つけた証拠をかっさらい、無実の容疑者を撃ち殺すものと決まっている。
 遠野古書店での事件の夜、行き慣れない警察署に向かいながら、僕は恐怖に慄いていた。警官達はパトカーが駆けつける前に事件の現場にいたというだけで僕のことを三日は拘留するだろう。負けてなるものか。不当な扱いをしてくる警官どもに、僕はフィリップ・マーロウを引用してやるつもりだった。「法律書を読んでる奴は、本の中に書いてある事が法律だと思ってるんだ」と。

 そんなわけで、警察署での金沢警部と伊藤巡査の対応がとても丁寧だったことは、僕をかえって拍子抜けさせた。金沢警部は高校生の僕に対しても礼儀正しかったし、若い伊藤巡査は寡黙で実直な人物だった。もちろんお役所的な手続きは面倒の一言に尽きたが、現代日本の警察はそれなりにまともな所らしい。
 しかしそれでも、うっかりしてデスメラモンの事を話してしまわないように気をぬくことはできなかった。犯人らしき人物を目撃していないという嘘は吐き通さなければいけない。ありがたい事に、金沢警部ももうその事に拘ってはいないようだった。

 はっきりとはしないものの、現在判明している中では僕が事件の前に遠野老人と言葉を交わした最後の人物であるという事になり、金沢警部は正確にその時の会話を繰り返すよう僕に三度求めた。これには流石に辟易したものの、僕は聞かれるたびに大人しくそれに答えた。ついでにその時の僕の所感、老人にいつもの元気さがなく顔色も悪いようだったこと、それは事件が起こった今だからそう思うのではなく、事件の前から喫茶店のマスターにその話をしていたことなどを話した。

 警部がもっとも興味を示したのは坂本についての話だった。当然と言えば当然だろう。ガラの悪い店員を首にした翌日に、その店主が頭をかち割られたのだ。関連を疑わない方がおかしいというものだ。
 坂本についての僕の証言が終わると、金沢警部は満足そうに唸った。このままでは警察は坂本を逮捕してしまうだろう。もっとも、彼等の無能を責めることはできない。デスメラモンの事を知っているのは、僕とマミーモンだけなのだから。



     *****



 結局、僕はその夜を、マミーモンと二人で住んでいる学生向けアパートのベッドで過ごす事ができた。

−−それで? これからどうするんだ?

 ベッドに仰向けに寝転がりながら「愛書家の死」を読み始めた僕に、マミーモンが話しかけた。彼とデスメラモンの戦いの話の大まかなところは聞いている。マミーモンのやつ、妙に気が立っていたようだったが、何かあったのだろうか。

「どうするって?」

−−あの爺さんがぶん殴られたことさ。警察に説明して、それで終わりか?

「まさか」僕は気のない調子で呟いた。

−−おい、しっかりしてくれ。探偵さんの出番じゃねえか。お前が動かないと…

「分かってるよ」僕は少し強い口調でマミーモンを遮った。
「今回の事件で、ちゃんと何があったのかを把握できる立場にいるのは僕達だけだ。警察がどれだけ優秀だったとしても、デジタル・モンスターのことは分からない。僕たちがなんとかしなきゃ、遠野さんを殺そうとしたやつは永遠に野放しで、多分坂本のやつが捕まる」

−−それだけじゃねえ。俺はお前に着いていけば“欲しいもの”が手に入ると思って、こうしてここにいるんだ。やっと面白そうな事件が起こったっていうのに、お前に尻込みされちゃたまったもんじゃねえ。

「ああ。でも…」
 それはあまりに唐突だった。夢見ていた状況が、目の前にある。自分が探偵で、事件を解決するという使命を背負った状況。突如与えられた目の前の使命に、僕は困惑を隠せなかった。

「とりあえず、今日は眠ろう。頭を落ち着けたい」僕は本を放り出し、電気を消した。暗闇の中で、マミーモンに話しかける。

「なあ、マミーモン」

−−どうした?

 僕の不安げな声に、マミーモンは怪訝な様子だ。

「捜査しなくちゃいけないし、明日は学校休んでいいかな…?」

−−行けよ。

 はぁい、と声をあげ、僕は目を閉じた。



     *****



 学校では、昨日の事件のことは殆ど話題になっていなかった。聞いた話では夕方の地域のニュースでは取り上げられたらしいが、あのボロボロの古書店に通っている高校生が何人もいるわけでなし、仕方のないことなのかもしれない。
 滅多にないことに(自分でも驚いたのだけれど)、その日の僕は全七コマの一日の授業の中で一睡もしなかった。もっとも、真面目に授業を受けていたわけではなく、マミーモンと筆談で事件の捜査方法について話し合っていたのだ。

−−それで? 手始めに何から始めるんだ?

 背後から問いかけてくる声への返答を、僕はノートの端に書き付ける。
『我々には、特別な力がある』

−−特別な力? ああ、“死霊使い”の事か。

 僕はかすかに首を縦に振る。マミーモンからもらったこの力があれば、本来取り憑かれた“狐憑き”本人にしか視認できない霊体の時のデジタル・モンスターを見る事ができる。

 これは大きなアドバンテージになり得る。僕達以外誰も、この力の存在を知らないのだから。“狐憑き”の誰もが−−おそらくデスメラモンの依代である人間も−−霊体にさえなっていればパートナーのモンスターを隠す事が出来ると思い込んで、いつも自分の側に置いている。

−−なるほどな、意外と頭いいじゃねえか。

 マミーモンの賞賛に、今度は周りの目も気にせず大きく頷き、再びシャープ・ペンシルを走らせる。
『犯人はそう遠い所に住む人物とは思えない。おそらく市内の、もっと言えば鰆町商店街の近隣の人間だ。我々はあの近辺をひたすら歩き回って、デスメラモンを頭の上に浮かべた人間を探せばいいのだよ。 簡単なことだよ、ワトソン君 エレメンタリー・マイ・ディア

−−おお! さすがは探偵というだけあるぜ。

『でも、それじゃあんまり探偵っぽくない』

−−は、はぁ?

『やっぱり、聞き込みとかそういう事をしなければいけない気がする』

−−いや、何言ってんだ。

『とりあえず放課後になったら、〈ダネイ・アンド・リー〉で聞き込み計画を立てよう』

−−いや、待てって。さっきのやり方で良いじゃねえか。おい、早苗! 聞いてんのか!

 会話を一方的に打ち切ると、僕は黒板に目を向けた。勢いで引用してしまったが、結局のところ僕はシャーロック・ホームズ型の探偵ではないのだ。



      *****



 放課後、その日の僕は珍しく図書室には立ち寄らなかった。すぐに〈ダネイ・アンド・リー〉に向かわなくてはいけない。

「あ、早苗くん」

 下駄箱に立った僕に、珍しく話しかける影があった。ギターケースを背負ったその少女に、僕は目を向けた。

「…奈由さん」
「ちょっといい?」

 快活な笑顔を向けてくる初瀬奈由(ハツセ・ナユ)の言葉に、僕は下を向きながら頷いた。夏の間は見慣れたポニー・テールだった筈だが、いつの間に切ったのだろう、ショート・ヘアが廊下に差し込む西日の光に揺れていた。

「どうしたの?」僕はうつむきがちに口を開く。顔を上げれば他人の目をまっすぐ見つめる彼女の瞳に捉えられてしまうからだ。 高校一年生で同じクラスだった時から、僕は彼女の真っ黒な目が苦手だった。しかもその目を携えて、教室の端っこの僕の小さなテリトリーに気軽に入ってくるのだからたまらない。

−−なんというか、俺は、この女と話してる時の早苗が一番好きだよ。素直で。

 何処からか茶々が入った気がしたが、僕は無視を決め込む。奈由は、珍しくおずおずとした動作でポケットから封筒を出した。
「今週末、軽音部で組んでるバンドで、ライブをやるんだ。来ない? 大通りのライブハウス」

 僕は思わず彼女の背中のギターケースに目を向けた。ああ、なるほど、そういうことね。

「チケット代とか、いくら?」
「高校生向けだから、五百円」
 それくらいなら払ってもいいかなと思った矢先、彼女が俯いて、小さく素早く言った。
「…プラス、入場の時のドリンク代が五百円で、千円」
「ドリンクって、それ、強制?」
「…うん」

 おお、キビシイ。俯く彼女の手の封筒に目を向ける。ライブハウスの人の筆跡だろうか、結構な金額の数字がそこに走り書きされていた。ライブハウスのノルマは厳しいと聞く。

「他に誰か誘う人とかいなかったの? 一年で同じクラスだった人とか」

−−お前、惚れた女と話してる時にちょっとでも他人の話出すかよ。そういうとこだぞ、そういうとこ。

 マミーモンが背後で喚く。失敬な。彼女に惚れてるなんて、一度も口に出しては言ってない。
 奈由は僕の問いにますます項垂れた。封筒の中身には、まだずっしりと重みと厚みがあるようだ。今日は木曜日、ライブのある土曜は明後日。同性、異性問わず友人のほとんどに断られ、僕のところにやってくるほどに困窮しているらしい。

「女の子にはだいたい当たってみたんだけど、ダメ。男子は…」彼女は思案するように目を上に向ける。
「昴くんが、買ってくれたっけ」

 僕は心の中で舌打ちをした。富田昴(トミタ・スバル)、彼も高校一年生の頃同じクラスだった。誰からも好かれる爽やかな男前に、市議会議員の息子だという噂もある上品な所作の為に、彼は学年中の女子の憧れの的だ。先月、部活にも所属せず昔からやっていたという合気道で全国大会に出場したことで、後輩にもファンが増えたということだった。彼の事を話す時の奈由がどんな顔をしているか、みるのも嫌だ。

−−だから他所の男の話なんかするんじゃねえって行ったじゃねえか。いいから買えよ、ここで良い印象を売るんだ。どうせ珈琲に消える金だろ。

 初心な相棒を使って遊ぶ気満々のミイラは気に入らなかったが、僕は彼の言葉に従うことにした。羽織ったウインド・ブレーカーのポケットから五百円玉を取り出し、指で弾いて奈由に渡してやると彼女は目を輝かせてこちらを見上げてきた。慌てて目をそらし、チケットを受け取る。自分のバンド名だと言って彼女が指し示した記号とアルファベットの羅列に、思わずこれはなんと読むのだと言いかけ、慌ててその問いを飲み込む。
「本当にありがとう!」
「行けるかどうかは分かんないよ。それじゃ、頑張って」

 ぱたぱたと部室に向けて駆け出す奈由を見送る。その小柄な体は、ギターケースに隠れてほとんど見えなかった。



−−いいのか? ライブなんて、今週は捜査で忙しいんだろ。

 彼女が去ると、背後のミイラが再び話しかけてきた。
「チケットだけ買って、行かなきゃいいのさ。酒を飲むわけじゃなし、流石にドリンクに五百円はね」

−−なるほど、じゃあお前は、あの女の笑顔が見たいが為だけに五百円を払ったというわけだ。

「しつこいぞ」僕はそう吐き捨てて、昇降口に乱暴に転がした靴に足を差し入れる。

−−念のため言っとくが、もしお前が将来あの女なり、他の女なりに呼び出されて、泣きながら壺とか英会話教材とか買わされそうになっても……

 僕はマミーモンによく聞こえるように舌打ちをすると、秋風の吹く昇降口に飛び出した。このミイラの一番気に入らないのは、妙にこの世界の事情に詳しいことだ。



      *****



「おお、来たか。探偵クン」
 〈ダネイ・アンド・リー〉に入った僕を、髪の毛をオールバックにした髭面のマスターが出迎えた。
「こんにちは、今日はご老人方はいないんですか?」店内を見回し、僕は首をかしげる。
「今日は君と話したいことが沢山あるからね。店は臨時休業だ。closedって札を出しといたはずだけど」
「ほんとですか、全然気づかなかった」
「…全然気づかないで、ずかずか入ってきたのかい」
 いつもの席に座る僕にマスターは呆れたような目を向けたが、その目はすぐに深刻になった。

「先程市警の金沢警部から電話があってね、遠野さん、搬送先の病院で亡くなったそうだ」
 僕は言葉を失った。
「だって、救急車で運ばれる時もあんなに元気そうに…」
「ああ、私も驚いた」
「やっぱり頭を殴られたのが原因なんですか?」
「検死結果で別の結果が出ない限りはその仮定のもとに捜査すると警部は言っていたよ」
「そうですか」
 僕はそれだけ言って、椅子に深くかけ直す。頭を殴られて倒れているのに居合わせたとはいえ、あの赤ら顔の遠野古書店の主が死んだという事実は容易には受け入れ難かった。マスターはそんな僕をしばらく見つめ、そして口火を切った。

「探偵クンは、今回のことを捜査するのかい?」
「え?」
「殺人事件だ。探偵の出番のように思えるけどね」

 なんと答えればいいのか、分からなかった。捜査をすると決めてはいたものの、不謹慎だ、ごっこ遊びではないんだと叱りつけられる気もした。

「…やります」

 マスターはううむと唸った。
「本気で言っているのか? これは現実だ。推理小説とは違う。推理小説はあくまで知的な遊びだというのは、誰の言葉だったかな」
「…綾辻行人の『十角館の殺人』の一節です。多分彼の言うことは正しいんだと思います」

 それでも。

「やります。警察じゃダメだ。多分、僕にしか出来ません」
「…あの怪物のことを言っているのか」
「はい、彼は今もここにいます」

−−そうとも、俺はいつでもいるぜ。

 店内に一陣の風が吹き、気がつくと隣の席に背の高いミイラが座っていた。彼を実体化させるコツはよく分からないが、今の所はうまくいっているようだ。

 マスターは彼のことをしばし眺め、それから大きく息を吐いた。
「最初から、説明してくれ」



     *****



「成る程ね…」
 僕がデジタル・モンスターについて、遠野老人がデスメラモンに殴られたこと、その背後には人間がいることなどを語り終えると、マスターは一つため息をついた。僕は彼の目を見据え、決意を込めて語る。
「ご存知の通り、僕は探偵に憧れています。でも、今回の件はそれとは関係ない。僕達にしか、犯人を捕まえることはできないんです」
 マミーモンも頷く。
「そういうことだ。俺たちのことは、黙っててくれるよな?」

「…少し待っていてくれ」
 マスターはしばらく唇を噛みながら黙っていたが、やがてそれだけ言って店の奥に消えた。それからどれだけ経っても出てこないので、隣でマミーモンが不安げな顔を向けてくる。

「おい、大丈夫だよな、あのおっさん、警察に通報したりしてないよな」
「た、多分大丈夫だよ。もし万が一警察が来ても、お前は霊体に戻ればいい」
「そ、そうだな」

「おい、二人とも」
 そんな話をしていた矢先、再びマスターが出て来たので僕たち二人は椅子の上で飛び上がった。
「何驚いてるんだ。ほら、これ」
 彼は、僕に小さな茶色の革の肩掛け鞄を手渡して来た。かなりの年代物だが、長いこと使われていないらしい。
「何ですか? これ」
「中を見てみろ」
 僕は金具を外し、鞄の中を覗いてみた。一番大きなポケットは空だったが、小物入れには様々なものが入っている。
「これは…」
 一つ一つ取り出して見てみる。レンズの周りが銀色に縁取られた小さな虫眼鏡、柄に貝殻があしらわれたよく手入れされた折りたたみナイフにペンライト。小さな革の手帳をめくると、最初の数ページに細かい字でオーソドックスな暗号の解読法がいくつか書きつけられていた。その他にも雑多な、古いがよく手入れされた品物が詰め込まれている。

「その鞄の中には、探偵稼業に必要なものが一式詰まっている」
 マスターはそう言って、真剣な顔で僕達二人を交互に見た。

「遠野古書店は私にとっても思い出深い店だ。店主の遠野老人もね。それに、私の店に来るご老人達は、皆あの人の古い友人だ。彼が殺されたことに、みんな悲しみを感じている。私もみんなも、この事件の解決を望んでいるんだ。だから、仮に君達の捜査とやらが遊び半分でも、私は君達に協力をするよ。でも…」

 彼は、僕の持つ鞄を指さす。

「君達に覚悟があろうと無かろうと、君は沢山の人の思いを背負って走ることになる。それは時々、とても辛いことだ。小説の探偵がそうするように、自分とは無関係な深い悲しみの中に飛び込んで足掻かなくてはいけないんだ。もし君にそれを背負って真摯に事件に向き合う覚悟があるなら、春川早苗くん、その鞄を背負いたまえ」



 僕はしばらく、自分の持つ革の鞄を見つめていた。そして黙って頷くと、それを肩にかける。大して重いものは入っていないはずなのに、その鞄はずっしりと重かった。不意にマミーモンが、僕の肩を叩く。

「おっさん、こいつは昨日にも一度、腹括ってるんだ。今更迷うこたねえよ。それに、もしこいつが逃げ出しそうになったら、俺が縛り付けてでも引き摺っていく。こいつには、俺の為にたっぷり働いてもらわないといけないんでね」

 マスターは強く頷いた。
「うん、いい友人を持ったみたいだ。そんな君にもプレゼントがある」

 マスターはそう言うと、また店の奥に引っ込み、今度は大きな服を取り出して来た。フィリップ・マーロウものの映画の中でハンフリー・ボガートが着ていたようなトレンチコートと帽子だ。

「マミーモン、と言ったかな? 霊体になれるとは言ったけど、やはりその体の方が色々と便利なこともあるだろう。君はちょうど私と同じくらいの背格好だ。これがよく似合うんじゃないかな」
「いや、俺は別に、ちょっと、おい、早苗、助けろ!」
 僕が呆気にとられている間に、マスターはマミーモンにあっという間にコートを着せてしまった。
「うん、思った通りだ。包帯を巻いた顔だと、ウェルズの透明人間を思い出すけどね」上機嫌でマスターが言う。

「…早苗、なんとか言ってやれ」
「マミーモンの方が探偵っぽくてずるい」
「そういう問題じゃねえよ!」
「だって」
 トレンチコートに帽子で渋く決めたマミーモンと比べて、学生服にウインド・ブレーカーを羽織り、その上で肩掛け鞄を下げた僕はどう見ても探偵には見えない。良くて ベイカー街不正規連隊 ベイカーストリート・ボーイズ、場合によっては何処からか「ぼっぼっぼくらは少年探偵団!」という歌が聞こえて来そうだ。

「ところで」顔を上げてマスターを見る。

「これ、マスターの名前ですか?」
 僕は鞄を持ち上げ、その下に筆記体で書かれた名前を指し示す。
「そうだとも。それはどれも私の少年時代の品さ。…探偵クン、君にそんな目を向けられる筋合いはないぞ」
 照れたようにしどろもどろで言った彼を見て、僕とマミーモンは顔を見合わせる。

「やっぱり厨二病同士気が合ったんじゃないか?」
「…否定できないのが悔しいね」

「そ、そんなことはどうでもいいだろう」
 心なしか顔を赤くしながら、マスターが取り繕うように言う。

「よし、二人とも」
「何もよしじゃないです」
「私としても君達に探偵なんて危険な真似はさせたくない」
「全く説得力がねえな」

 半ばやけになったのか、マスターは声を張り上げた。

「だがしかし、君達に事件に挑む覚悟と身を守る力があるとわかった今、こちらからお願いしよう。遠野さんを殺害した犯人を見つけ出してくれ」

 マスターの言葉に、僕はマミーモンの方を向く。
「マミーモン、初依頼だ。頼んだよ」
「おう」
 付き合わせた拳は、ミイラの割には重くて暖かかった。


スレッド記事表示 No.4832 木乃伊は甘い珈琲がお好き プロローグマダラマゼラン一号2018/02/02(金) 19:06
       No.4833 木乃伊は甘い珈琲がお好き 1-1マダラマゼラン一号2018/02/02(金) 19:14
       No.4834 木乃伊は甘い珈琲がお好き 1-2マダラマゼラン一号2018/02/02(金) 19:20
       No.4836 あとがきマダラマゼラン一号2018/02/02(金) 22:15
       No.4838 私は酸味の少ないブラックがお好きShot-A2018/02/04(日) 12:50
       No.4849 私は木乃伊さんがお好き羽化石2018/02/06(火) 17:36
       No.4865 木乃伊は甘い珈琲がお好き 2-1マダラマゼラン一号2018/02/11(日) 13:35
       No.4866 木乃伊は甘い珈琲がお好き 2-2マダラマゼラン一号2018/02/11(日) 13:38
       No.4867 木乃伊は甘い珈琲がお好き 2-あとがきマダラマゼラン一号2018/02/11(日) 13:40
       No.4874 私はそういうとこがお好きパラ峰2018/02/12(月) 16:54
       No.4878 私が好きなのはお寿司夏P(ナッピー)2018/02/13(火) 22:51
       No.4880 私は知的なおねーさまが好きパラレル2018/02/13(火) 23:00
       No.4881 感想返信マダラマゼラン一号2018/02/14(水) 18:52
       No.4884 私はマスターが好きぱろっともん2018/02/15(木) 16:54