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ID.4854
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2018/02/07(水) 22:26


大蛇足『Without the HERO』







 前世紀末から急速に発展した秋葉原。所謂オタクの聖地としてニュースやワイドショーで頻繁に取り上げられるようになってから早半世紀、相変わらず駅前の交差点にはメイドやコスプレイヤーの姿が多数見受けられ、平日だというのに歩行者天国は人混みでごった返している。
 そんな場所に一人、一風変わった人物の姿がある。

「うへェ……相変わらず混みすぎだろ、何度来ても慣れねェもんだな……」

 甲高い声でうんざりしたように呟くのは果たして少年か、それとも少女なのか。
 如何にも生意気そうな光を湛えた切れ長の瞳と目鼻立ちが整った繊細な顔立ち。乱雑に切り揃えられた黒髪はサラサラと風に靡いている。厚手のサマーセーターとホットパンツを纏いつつも体付きが華奢であることは容易に見て取れるが、一見して性別や年齢を判別できない。
 さて、そんな彼だか彼女だかの何が一風変わっているかと言えば、それは。

「お前も相変わらず口が悪い奴だな。お母さんはそんな娘に育てた覚えはありませんよ!」
「やかましいわ。……ていうか、誰がお母さんで誰が娘だ」
「俺が母親でお前が娘で」
「懐かしいドラマのタイトルを思い出しました。……って、違うだろ馬鹿! そもそもなメイス、オレだって暇じゃねェんだよ。こんな場所に呼び出して何をしようってんだ」
「お前に用事……? ああ、彼氏とデートの約束でもあったのか。……で、どこにいるんだその彼氏は。俺がブチのめしてやる」
「違うわ! オレは男だよ!」
「ハッハッハ、ご冗談を。お前みたいに可愛い奴が男なわけないじゃないか」
「テメエ次それ言ったら殺すからな!」

 隣に立つ姦しい恐竜のような奇怪な生物が原因であろう。
 メイスと呼ばれたその小竜はニヤリと意地悪く笑って質問に答えようとはしない。生まれた時より傍にいるから既に十五年の付き合いになるわけだが、この珍妙な存在は鏡花が物心付いた時から全く変わらず最高に嫌味な野郎だとうんざりさせられる。こんな奴でも今から半世紀前には、あちらの世界で英雄と崇められた存在だというから驚きだ。
 こんな奴が英雄なんてどうなってんだよ、あっちの世界は。そう思ってしまうのも無理はない。

「しかし鏡花、今日お前を呼び出したのは他でもない」
「やっと本題に入ったか……遅ェんだよ、全く」
「あと半年で16歳だろ? 俺の嫁になってくれ、婚姻届は用意してある!」
「……目を閉じて三秒待ってろ。役所の前にあの世へ送ってやるから」
「ぎゃあ!? ま、待て! 冗談だ冗談!」

 どこからともなく身の丈ほどもあろう巨大な剣を取り出した相棒を前に流石のメイスも慌てふためいた様子を見せる。
 メイスはともかく、隣を歩く中性的な人物は紛れもなく人間である。埼玉県の中学校に通う15歳。本人は男だと言い張っているが、華奢で繊細な外見の所為もあり数多の人間に女性として扱われており実質的に性別は不明。兄弟は無く両親との三人暮らしながら口は悪く素行も然程良くないため不良のレッテルを張られている。
 今日もまた平日に授業をエスケープして秋葉原などに来ている辺り、十分に不良である。

「相変わらず冗談の通じない奴だなぁ。そんなんじゃ将来苦労するぞ、絶対」
「お前の冗談は笑えん……」
「まあ俺とお前の仲だ、いざという時は俺が嫁に貰ってやるって……やめんかぁ!」

 一閃された剣を間一髪で避けるメイスを前に露骨にチッと舌打ちする。
 下手をすれば鮮血沙汰になろう光景だが、往来する人々はそんな物騒な二人の姿を気にも留めない。大方、コスプレイヤーと着ぐるみの絡み程度にしか思っていないのだろう。だからこそ都合が良く、特に人間とは異なる生物であるメイスにとってこの街はなかなか居心地が良かった。

「……で、本題は」
「まあ待てよ。久々に顔を合わせたんだし、少しはデートと洒落込もうぜ」
「何がデートだよ……」

 呆れたような表情で空を振り仰ぐ相棒の横顔を見つめ、メイスは何を思ったか。

「……ふむ」
「なんだよメイス」
「いや、改めて見ても似てんなって思ってな」
「誰に」
「お前のバアさんにだよ」

 懐かしむように、愛おしむように、メイスは静かにそう口にする。

「へえ……オレは会ったことねェからわかんねェな」

 そう答える彼または彼女の名前は鳳鏡花おおとり きょうか。この時代を逞しく生きる者である。






大蛇足:Without the HERO〜2064〜








 屍の山の中、対峙する男と女。
 その肢体を覆う衣装は共に黒、容姿に似通った面が無くとも向き合う二人が纏う空気は寸分の狂いもなく闇そのもの。まるで熱が感じさせない生気の失せた表情は、まるで親子か双子の姉弟のように瓜二つだった。
 事実、二人はある意味で母と息子であった。

「……一つ、聞きたいのだが」

 男が静かに口を開く。少女にも見える中性的な容姿に反して、その声はどこか重々しく虚空に響いた。

「何の為だ?」
「……言いたいことがわからないのだけれど」

 笑う。質問を聞くまでもない、その答えはお前が一番知っているはずだと女、不知火咲夜は突き付ける。

「黒田勘太郎、そう言ったか。つい数日前、偶然捕らえたその男を最後の空席である雷の闘士として人体実験に掛けたことで無事に十人揃った。それにより十闘士は晴れて完成、アンタは自らの研究成果を過去のデジタルワールドに送り込んだというわけだ」
「そこまで知っていたの? まあ当然か、あなたはそのなれの果てだものね……」

 不知火咲夜はそう言って微笑んだ。
 目の前に立つ少年は自分が手掛けた最高の芸術品。神も悪魔も聖騎士も全てを討ち滅ぼすために作り上げた、人の形を纏った破壊神。なればこそその存在に理由はなく、その戦いに意味はない。如何なる時代もただそこに超然と君臨し、生者に等しく恵みと災いをもたらす、言わば全てを手にしたと豪語した父が唯一手に入れられなかった“太陽”そのもの。
 彼を作り上げるために咲夜は全てを投げ打ち、そして全てを失った。
 振り返ることなどない、思い出すこともない、後悔などあるはずもない。それでもこの五十年、自分は一体どれだけのものを捨ててきただろう……?

「……なるほどな、確かにアンタは俺の母上殿というわけだ」

 だから男も笑う。得心が行った、そう言いたげな邪悪な笑みで。

十闘士おれたちを作る過程でアンタはあの世界が一度滅び、再生したことに気付いた。だから俺にこのような姿形を与えたのだろう? 世界を滅ぼし、今在る世界の基盤を創り上げた原初の英雄、紛れもなく最強と謳われた破壊神と同じ姿を」

 それは正しい。恐らく菊池隆二も気付かなかった事実だ。
 デジタルワールドは一度人の手によって滅び、そして再生を遂げた。父とその仲間達は恐らく自分達だけの手であの世界を作り上げたと思っていたかもしれないが、正確には違う。彼らはその原初の英雄が世界を滅ぼした空間に、自分達の築いた世界をただ“置いた”にすぎない。
 ならば元より存在した世界とは何か、そしてその世界を滅ぼした英雄とは何者なのか。
 その答えを求め、不知火咲夜は数多の選ばれし子供達の殺戮を行ってきた。だが半世紀以上に渡る殺戮の末、遂にその英雄本人を見出すことはできなかった。気付かぬ内に手にかけてしまっていたのか、それとも既に人間界に存在し得ない者となっているのか。どちらにせよ、その英雄が人の理を外れていないのであれば、人としての死を迎えていたとしても不思議ではない時が経ってしまった。
 故に次に求めたのは魔王。世界の全てを知る賢人、そう謳われた魔王にして咲夜の父、バグラモン。父が自らの写し身として生み出した彼の魔王も所詮はデジタルモンスター、世界の理からは逃れられず、父の知り得ないことにまで知識が及んでいるのは自明の理だった。
 そして土井垣旭騎の犠牲の末、打ち倒した魔王の肉体から抽出した過去の世界のデータ、その中に残された最後の、そして最初の英雄を元に、目の前の男は構成されている。

「そしてアンタは俺を、俺達を過去の世界に送り込んだ。……そこの男達の技術を盗用してな」

 男が顎でしゃくった先、鮮血に塗れたテレビでは華やかなパーティ模様が映し出されている。
 タイムマシン。かつて夢物語と嘲り笑われたそれの基礎技術を提唱し、その開発に一部成功した男達、谷川壬琴と米川智也。日本人として久方ぶりのノーベル賞を受賞した彼らの技術は、デジタルワールドを一から創り直さんとする咲夜にとって都合が良かった。

「今世紀初頭、送信したメールやデータが過去に飛ぶ奇怪な事件があったと聞くが、それを半ば形にして俺達は過去の世界に飛ばされたというわけだ。なるほど、現実の世界ではまだ実用化に至らなくとも、データにすぎないあの世界ならそれも幾分か容易い……大した技術力だよ、母上殿」
「……ええ、あなた達なら世界を正しい形へ修正してくれると思ったのだけれど」

 結果は失敗だった。彼がこうして目の前に立っているのがその証拠だ。過去に送り込んだ彼が咲夜の想定した通りの姿で目の前に現れたのは、世界が何ら変わっていないという証左に他ならない。だから抱いたのは失望、自らの人生を賭けた芸術品は咲夜の定めた基準には満たない失敗作でしかなかったのだ。
 それに対して息子は嘲笑する。クククと乾いた音を漏らす口の端は、まるで鏡写しかのように母と同じ曲線を形作る。

「そうだ母上殿、アンタは一つだけ失敗した。確かにアンタの作り出した英雄おれたちは完璧だ、単純な強さだけでも有象無象とは一切が異なる。腕を振るえば紙より簡単に雑魚は死に絶え、技を放てば完全体でも耐えられる者はそうはいまい……」

 それでも負けたのだ。創世記の世界に降り立った彼らは、その強大な力を以ってしても、光と闇を併せ持つ傲慢の魔王を倒すことができなかった。
 そして奪われた。彼は、彼らは、その力の大半を。

「だが敗北した英雄に何の意味がある? その器のみを残し力を失った救世主に何の価値がある?」

 その問いに咲夜は答えない。彼に向ける言葉があるとすれば、それは一つだけ。

「……役立たず」

 次の瞬間、重い衝撃と共に世界が朱に染まる。
 咲夜の背中から鈍色の刃が生えている。目の前のむすこの手に握られ、咲夜の細身を刺し貫いた竜殺しの剣は、紛れもなく咲夜が見出した破壊神が持ち得た幻の神具と同等の力を持つ。九頭龍の魂が込められたそれは、同じく有するはずの他の二つの神具と共に彼を金色の究極武神へと高め得る、世界最高峰の聖剣に他ならない。
 不知火咲夜の口の端から鮮血が滴る。それでも女は笑顔だった。奇しくもそれは、目の前の男と同じように。

「翠月……」
「……それが、俺の名か」

 互いにそれが無為なものだと知っている。それでも翠の瞳を持つ男むすこへの手向けとして、不知火咲夜が与えられるものはそれだけだった。

「傲慢の魔王に敗れて以来幾星霜、ただ空虚な器として存在することは俺にとって屈辱でしかなかった。何度現実世界を訪れてアンタの首を撥ねてやろうと思ったかわからない。だが……今まで生かしておいた価値はあったのかもな、母上殿」

 引き抜いた剣の先、女の細身が倒れ伏す様を返り血に頬を染めながら笑う。そう、確かに正解だった。
 創世記の世界に送り込まれ、既に全ての魂を奪われた抜け殻として目覚めて以降、その胸には憤怒と憎悪しかなかった。だからただ、あの電脳世界から人の生きるこの世界を見つめ続けた。自らの創造主となるべき女を見つけるまで、そう時間はかからなかった。
 何度殺そうと思ったかわからない。自分達のような無能な英雄を生み出そうとしているこの女を。

「翠月、不知火翠月しらぬい すいげつか……なるほど、名を持つというのは存外に心地良いものだな。生きているという実感がある、自らが電脳の幻ではないと確信できる……」

 だが今、男の胸中を締めるのは歓喜だ。自らの存在証明、それを手に入れたことは電脳世界で生きた数万年以上の価値があった。

「故に感謝するよ母上殿、今まで俺にとってアンタは憎しみの対象でしかなかったが、そんなアンタが本気で俺を英雄と信じていたというのなら、そして本当に俺の生みの親ははおやだというのなら」

 一瞥する。既に事切れた愚かな女の屍を。

「……いずれアンタの墓前に捧げると誓おう。アンタが打倒したいと願った魔王どもの首級をな。彼奴らとて俺と同じく世界にとっては歪み、間違った存在……ならば異物同士、存分に殺し合うのも悪くあるまい」

 本来の歴史において十闘士じぶんたちはそもそも存在していない。事実、傲慢の魔王に敗れた十闘士が台頭せぬ以上、あの世界の歴史は前と同じ道を辿っている。それ故に本格的に十闘士が世界の理へと関わることになった際、果たして歴史がどのように動くかは男にもわからない。
 だが一つだけ確信していることがある。

「なに、急くことはないだろうさ。本来あの世界に存在し得ない十闘士と魔王おれたちが相見えるのは世界の終末、再び俺の“兄弟”が世界へ現れた時に他ならない。俺のモデルとなった男がそうであったように、崩壊する世界の中で存分に死合うのもまた道理」

 恐らく自分の“兄弟”が再び現れた時、あの世界は再び崩壊の危機を迎えることになるだろう。
 崩れ行く世界の中で自分と立ち会うことになるのは、果たして本来の歴史通りの傲慢と暴食の魔王か、他でもない自分の“兄弟”なのか、それともまだ見ぬ第三者か。その光景を想像するだけで心が充足していくのがわかる。自分の中で持ち得ないはずの活力が満ちていくのを実感する。
 なるほど、これが生きるということ。これが“個”として認められるということ。

「いずれ終わる世界だ……英雄など要らない、あの世界に救世主など必要無い、長らく俺はそう思ってきたが……」

 今の自分には究極武神としての力はない。全てのスピリットは傲慢の魔王によって奪われ、この身は炎と光の神具を有するだけの抜け殻でしかない。恐らくその力は自分の分身達にすら劣るだろう。

「なればこそ、存分に力を蓄えておけよ魔王ども、そして我が“兄弟”……嘘偽りは要らぬ、ただ己の猛る心力と武力で心行くまで立ち会おう」

 それでも不知火翠月はこの瞬間、英雄にならねばならなくなった。
 きっとそれが、自分を生み出した母親に対する最低限の礼儀だと思うから。








 不知火咲夜は倒れ、その息子は翠月なる名を得た。
 だが咲夜のコンピュータに眠る存在、最後の人工種は未だ完成を見ていない。
 数多の犠牲の果てに人工種として生み出されたスカルナイトモン、グレイモン、シャウトモンの三体に続く第四号。如何なるデジモンとのデジクロスを可能とし、無限の可能性を秘めた、世界を救う英雄にも世界を破滅へと導く最終兵器にもなり得る存在。主が果てて尚、作業を続けるコンピュータがいずれ生み出すであろう最後の人工種の名前は。






 アレスタードラモン。








 そこに広がるのは凄惨な光景だった。
 果たして何人死んだかもわからない。飛び散った鮮血と恐らく人間だったであろうその場に多数転がる“モノ”が織り成すコントラスト。すぐ上で平和な人々が謳歌しているはずの秋葉原の地下に広がる不気味な研究室は、まさに血の海と言って差し支えない様相を呈してそこに在る。

「……笑えねェ」

 見慣れたもの。そう言いたげに先を行く相棒の背を追いながら、鏡花はそう呟いた。
 まるで闘技場だ。少なくとも鏡花の目にはそう見えた。しかも人間が使うものとしては些か大きすぎると思える。だから自然と理解している、きっとこれは狂気の実験場。我らこそ全てを制する者と嘯き、命を命とも思わぬマッドサイエンティストどもが繰り広げた殺戮と惨劇の空間。無残に散った者達の怨嗟の声が蠢いているかのようだった。

「趣味の悪い連中は、どこにでもいるもんだ……」

 無言で先を行くメイスに続きながら呻いた。
 不思議と嫌悪感はなかった。そもそも鏡花にとってあの世界は関わり合いになりたくもないものであるし、何より興味さえ湧かない。だからこそ狂人達が如何様な手段に身を染めようと、それを糾弾する気は無い。それが外道であるのなら、是非は問わずただ黙って叩き潰すだけのことだ。
 正義と悪、この世にはその二つしか存在しないと鳳鏡花は信じている。
 正義とは高潔な信念の下に他者を守り、幸福にする力。
 悪とは外法や非道を以って、弱者を踏み付け、苦しめる力。
 正義は悪を滅ぼし、悪は正義に滅ぼされる。そんな単純な二元論で世界は回っている、少なくとも鏡花の周りの世界はそうだったし、鏡花自身そうであって欲しいと思っている。正しい奴が馬鹿を見る世界なんて認めないし、悪い奴がのさばる世界もまた御免被る。だから自分は正しいはずなのに虐げられる人達を助け、悪行を重ねておきながらのうのうと過ごしている輩を断罪する、そんな存在になりたかった。
 そしてそんな鏡花にとって、目の前の光景は紛れもなく悪であった。

「しかし中学生をまた物騒なとこに連れ込むよな、メイス」
「ホテルに連れ込むよかマシだろ?」
「テメエ後で絶対ブッ飛ばすからな……」

 頬を染めつつ薄暗い研究室を行く。程なくして標的は見つかった。

「……テメエか? この趣味のいい舞踏会の主賓は」

 立ち並んだ大型コンピュータの前、立ち尽くす一人の男の姿。躊躇い無く鏡花は声をかけた。
 その足下には胸元を鮮血で汚した細い女の遺体だけが転がっている。恐らく女を刺し貫いたのであろう剣はダラリと下げられ、刃の先から赤い滴を滴らせていた。惨劇を経て血に塗れた大剣は、その龍の如き装飾も相俟って、本来であれば見る者を唸らせる優美かつ清爽な刀身だったのだろう。
 それはまるで、鏡花自身が持つ剣と同じように。

「……ほう?」

 振り返った青年の顔は、どこかで見たことがある気がした。
 しかし気に食わない。曖昧な記憶より、そんな感情が先に来た。全てお見通しだと言わんばかりの超然とした表情は、鏡花にとって何よりも腹立たしいものに他ならない。傍らに立つメイスが、どこか感慨深げに「……やっぱりな」と呟いていたが、そんなことは気にもならない。
 悪だ、そう理解する。この男は自分にとって、紛れもなく悪であろう。

「ハッ……」

 薄い胸元がキュッと締め付けられるような感覚。苛立ちと心地良さが同時に来る。油断すれば死ぬ、手を抜けば殺される、それだけの力を持つ相手だということがわかる。それなのに笑みを止められない。ビンビンと突き付けられる殺気、それに身を晒す感覚は芳醇以外の何者でもない。
 なればこそ、鳳鏡花もまたこの世界において紛れもなく破綻者であった。

「また面白い乱入者が来たな。……男か? 女か?」

 翠の瞳を妖しく光らせ、青年は笑う。

「抜かせ、化け物モンスター

 吐き捨てるように返すも、口の端は一向に下がらない。
 元より言葉を交わす気はない。殺すか殺されるか、鏡花が身を置くのはそんな世界。退屈な日常の中にあって、自分が唯一ワクワクとドキドキを得られる血と饗宴の園。悪い奴をブチのめし、自らの正義を執行する断罪の場。
 こんな世界に自分を引きずり込んだ彼には、感謝している。

「……なあ、メイスよォ」
「こんな時に愛の告白かよ、困るな今の時期は式場が取れないぞ」
「殺すぞ」

 勇ましい姿に変化しつつも、微塵も態度を変えないメイス。そんな彼と軽口を叩く時間さえ不思議と愛おしい。

「ま、言いたいことはわかってるけど一応聞くぞ。……なんだよ?」
「オレはお前のこたァ全く以って気に食わねェけどさ」

 嫌味で。

 陰険で。

 適当で。

 乱暴で。

 卑屈だけど、それでも。

「一つだけ感謝してやってもいいぜ」

 彼といると楽しいのだ。ワクワクドキドキが止まらない。それだけで十分だ。
 鳳鏡花の端整な顔がニヤリと醜く歪む。この生死の境目にいるというゾクゾクした実感が堪らない。この飽和して停滞した何の面白味も無い世界でも、彼といれば非日常が次々と舞い込んでくる。これなら退屈な毎日も悪くないと思える。
 だから戦う、それだけだ。

「……珍しいものを見たな、これが音に聞こえた聖騎士様という奴か」

 姿を変えた――本人曰く“進化”と呼ぶらしい――メイスを前に、翠の瞳の男が感心したように笑うが、そんなことは知らない。
 元よりメイスの出自にも、過去にも、正体にも、そして彼が生きてきたという世界にも、鏡花は何ら興味がなかった。ただ、彼とは生まれた時から傍にいて家族のように育ったということだけ。そして同じ人間であるところの両親や同級生よりも、ある意味で親しみを抱いているということだけ。
 鳳鏡花にとっては、退屈な学園生活よりもメイスと肩を並べて戦う時こそが日常だった。

「母上殿よりは楽しませてくれそうだな……陽炎、幻影」

 呼びかけるように笑う翠の男の背後に、いつしか二体の人型が現れている。
 太陽と月、相反する二つの属性を備えたそれらは、あの世界でも最高位と称えられる神人。片や無限の熱気を身に纏い、片や絶対の冷気を操る世界最高峰の存在。
 面白い。本当にそう思う。

「聖騎士が相手というのなら肩慣らしとしては十分かな?」
「……言ってくれるぜ、スケコマシが」

 掛け合いと共に鏡花と男が剣を構える。
 モンスター同士の戦いだけでは終わらない。この男は自分の手で直接斬り倒さなければ終わらないという直感にも似た感覚がある。自分と男の握る剣がまるで鏡写しのように同じであるということなど、今となってはどうでもいい。

「行くぜ、相棒――!」

 自分が敵を倒す光景、敵に自分が倒される光景。
 どちらもが同時に脳裏を過ぎるこの瞬間が、鳳鏡花はとても好きだった。








 時は2064年、英雄が死に絶えた世界。
 それでも生きている。
 龍の魂を宿す剣を受け継いだ最後の戦士と、電脳の守護者たる真紅の騎士が、生きている。




This is the Only Begining

to be continued 『With the HERO』...
















1.不知火 翠月(しらぬい すいげつ)
外見年齢17歳。不知火咲夜が長い年月を費やして生み出した太陽の闘士
完成と同時に創世記のDWに送られるも、飽くまでも「世界を守る英雄で在れ」という願いを込めた器でしかないため“個”を持ち得ず、やがて空虚な存在としての自分を哀れみ、己を生み出した咲夜を憎むことで存在してきた。
咲夜を殺害すると同時に不知火翠月の名を与えられ、その名に込められた彼女の願いを理解した。以降は自身を生み出した母親の願いに沿う形で行動していくことになる。炎と闇の神人と共に行動している。
ある人物に瓜二つの外見を持つが、母親の影響からか迂遠な言い回しを好む。


2.鳳 鏡花(おおとり きょうか)
15歳。2064年を生きる性別不明の中学生。
幼い頃より強い正義感から「正義は悪を討つもの」「悪は正義に滅ぼされるもの」という単純な二元論を信念として持っており、折に触れて相棒のメイスと共に闇の世界に首を突っ込んでいる。
この半世紀でDWと関わった者の殆どは咲夜の手で討ち取られたため、この時代に残った最後の戦士である。
○○に通ずる好戦的な性格の持ち主で、
××と同じ名前のパートナーを持ち、
△△が持つものと似通った剣を有する。




 というわけで、物語は絶賛停滞中の拙作『With the HERO』へと連なって参ります。
 細かな部分は筆者の過去作のネタなども含まれておりますが、気付いて頂ける方がいたら非常に嬉しいです。また最後の〆は筆者の大好きな、しかしこう〆られながら25年以上続きが来ない作品のオマージュです!
 では、今度こそ必ずノンストップで完結まで行きます『With the HERO』でお会いしましょう!









スレッド記事表示 No.4852 Memento Mori〜最終章〜(前)夏P(ナッピー)2018/02/07(水) 22:07
       No.4853 Memento Mori〜最終章〜(後)夏P(ナッピー)2018/02/07(水) 22:19
       No.4854 大蛇足『Without the HERO』夏P(ナッピー)2018/02/07(水) 22:26
       No.4902 屍を超えてキターーーtonakai2018/02/21(水) 01:44
       No.4914 ご感想を頂きまして誠にありがとうございます。夏P(ナッピー)2018/02/28(水) 20:41