オリジナルデジモンストーリー掲示板NEXT
 

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ID.4825
 
■投稿者:ヤギ  HOME
■投稿日:2018/01/27(土) 09:43


CODE:Z'd FILE No.01B


(大丈夫。君の力を借りなくても、降りられる)

 自分の身を案じている“彼”を宥めながら、腰に添え付けられた降下用のワイヤーフックを投擲する。
 今し方相方が鉄杭を外壁にも撃ち込んでくれたのはこれを見越してのことだったのだろう。フックを鉄杭に引っ掛け、ワイヤーリールにブレーキをかけて速度を減衰しながら降下する。
 数十メートルを降下したところで飛び降りて着地。爆撃によって周囲の足場ごと粉々に破壊された隔壁を跳び越えて、ターミナルの地下通路へと踏み込んでいく。
 梯子を伝って下降すると、大型車両が数台でも並走出来そうな薄暗い通路が広がっていた。どうやら何らかの搬入経路らしい。

「こちらプレデター2。目標地点より侵入、コントロールルームを目指します」
≪此方本部、了解した。君のバックアップを確実にするためにも、ステータスをアクティブモードにしてくれないか?≫
「……、えっと、こう、ですか?」

 REPOSE MODE   LIFTING.
 QUANTUM LINK   CONNECT ON.
 AI-S“BEOWULF” CONNECT ON.
 EP:76% DP:- NMSD:-
 MODE:- CDO:798000
 ACTIVE STATUS ONLINE,CONNECT...COMPLETE.
 MODE - CONNECT ON.


 視界に直接表示される半透明のシステム画面を操作し、本部のモニターと接続させる――幾度となく練習してきたつもりだが、未だに思考で操作するというこの感覚には慣れそうにない。
 神経系にインプラントされた端末を介することで多機能性のデジヴァイスを思考で操作し、果てはパートナーデジモンとの接続による直接的な交感を可能とする……らしいのだが、そういった技術に疎い新参者故にまだまだ覚えることは多く、完全に使いこなすには相当な時間が掛かりそうな気がする。
 相棒と自分を積極的に繋ぎ合わせ、この数十倍もの情報を難なく制御するエリザはやはり並々ならぬ熟練者ということなのだろう。

≪よし、OKだ。ルートのナビゲートは此方で行う。まずはそのまま進んでくれ≫
「諒解」

 敵の気配もなければ、荒らされた様子もない。当然のように命の気配もなく、ただ私の足音だけが遠くまでよく響き渡っているだけだ。
 それでも何が起こるかは分からないので、一応十全に警戒だけは惰らず走行し続ける。

≪この間に状況を整理してみようか。こちらでもいくつか分かったことがある≫
「分かったこと?」

 暫く奥に進んでいると、通路の両側にいくつもの乗り物が見え始めた。
 戦車や大型のマシンユニットが並んでいる。どうやらこれらは純然な人が乗らなければ動かせない兵器群のようだ。
 長らく使われていなかったのか、そもそもその存在すら忘れられているのか……うっすらと埃を被っており、あちこちが錆び付いているように見える。
 機械好きのエリザが見たら、思わず飛びついてメンテナンスしそうだ。

≪関係者から幾つかの資料が届いた。手短にまとめると、無人機達が一斉に暴走したのは秘密裏に開発していた新型兵器の影響によるものらしい≫
「新兵器、ですか?」
≪融合体だよ。起動時に何か、電磁波のようなものを広域に発したらしいが……≫

 融合体……デジモンと人間が1つとなった形態のことだったか。マトリクス進化体やスピリット進化体等、進化の方法によってそれぞれの呼び名があったハズだ。
 人間の力を得たデジモンは強大な力を発揮するが、その中でも最も強大な力を発揮したのが人間を何らかの形で直接内部に取り込んだ状態なのだという。
 必要条件も多く、人間と同化することにより新たなメリット/デメリットも発生するのだが、心も体も1つとなるこの状態で戦う選ばれし子供達は多かったそうだ。
 人間とデジモンが戦う上での最上の形態と云えるのかもしれない――では、デジモンと人間とで分かれたまま、それでも互いを繋ぎ合わせ、双方共に戦闘手段として存分に活用しようとする我々の行き着く先は一体何処にあるのだろうか。
 ……これについては今考える必要はない。余計なことを頭の片隅に放逐した上で、ふと生じた疑問をぶつける。
 
「融合体を兵器として作るのですか?」
≪ああ、そのようだな。正確に言うなれば、生体臓器を持った強化人体サイボーグレベルVI究極体デジモンのデータを組み込むことで、融合体のメカニズムを模倣したようだ≫
「それは……」
≪ある意味では、君に似ているのかも知れんな≫

 ……交差点に差し掛かる。マップを確認すると、どうやらこの辺りから道が複雑化しているようだ。
 地上に溢れ返った無人機の数には辟易したが、成程。数が多いということはそれに比例し施設も巨大化するものなのだろう。

≪マップをアップデートする。ルート通りに進むと大型格納庫に繋がる隔壁に辿り着くはずだ。手動式の開け方は分かるな?≫
「はい、エリザより教わっています。このまま進みます」

(……うん、そうだね。だんだん、敵に近づいてる)

 進むごとに薄々と気配のようなものを感じていたが、“彼”も既に感付いていたらしい。
 どうやらこの辺りは各部隔壁が閉じられ封鎖されていたため無事だったようだが、そうでない所は軒並み群れにやられているようだ。
 件のコントロールルームは大型格納庫の先。電子ロック式のドアを開けて職員用の通路に出、その先にある階段を昇る必要がある。無人機が侵入できるような構造にはなっていないが、大型格納庫の方は……注意しておく必要があるだろう。

「そういえば、この基地はギズモンばかりが配置されているようですが……」
≪前大戦の影響だろうな。この辺りは戦時、数十万機のギズモンが投入されたと記録にある≫
「あれが、数十万ですか……」
≪それでも大打撃を被ったようだがな≫
「……」

 ――空中戦時でも感じたこの違和感は何だろうか。
 システム画面を操作。当該データを探し出して、走りながら流し読みする。

 ギズモン。擬似デジモンの先祖ともいえる、人間の手によって作られた初の人工デジモン。
 デジモンと銘打たれているが、そのベースとなっているのは21世紀初頭に出現した消去型プログラム生命体“デ・リーパー”である。
 人工部品とデ・リーパーのデータを組み合わせることで完成し、無人機の一種としてAIによって完全に制御されている――

 無人機……AI……。
 ……なるほど、そういうことか。

「司令官殿」
≪どうした?≫

 ルート通りに通路を曲がっていく。やがて、通路の側面に仰々しい隔壁らしきものが見えてきた。
 とはいえ、シェルターの入り口を防いでいたものほど大きくはない。周りを一通り確認してから、作業を開始する。
 やり方はそう難しくはない。各部のロックを外し、備え付けられているハンドルを回すだけだ。

「此度の一件、暴走と呼ぶには些か違和感を禁じ得ません」
≪ふむ……君はどう感じているのかな?≫
「敵意です。彼らは、明確な敵意を以って我々を殺そうとしています」
≪随分と抽象的だが……≫

 違和感の正体は、それだ――無人機から明確な敵意を感じたことに、違和感を感じたのだ。
 敵を機械的に認識するのと、敵意を抱いて認識するのとは似ているようだが大きく違う。生物同士の闘争の場合、厄介なのは前者だ。
 双方の違いとは主に気配や動作にあるといっていい。感情的になると云うことはそれだけで不必要に気配をまき散らし、不用意に力んだり震えたりすることで動作の一つ一つにも余計な緩急が生まれ、その結果として思わぬ隙が生じてしまう。
 互いの気配を探り合い、そして隙を伺い合うことは生物同士の闘争に於ける基礎と言ってもいい。だからこそ、私情を挟まず気配を殺し、鮮やかな手際で獲物を仕留める狩人ハンターはいつの時代でもあらゆる生物の脅威となるのだ。

 だが、これが機械相手だと事情が大きく異なる。
 余程高度なAIでも積んでいない限り、機械とは基本的に予めプログラムされた行動以上のことが出来ない。
 戦闘用に大量生産された無人機ともなれば猶更のことだ。だから機械を相手取る場合、相手の行動を予測した上で立ち回るのが基本的な戦術となっている。
 それが、感情……それも、今回のような敵意等に支配されると、これは全く異質な脅威へと変貌する。
 機械には生命のように感情に歯止めをかけることが出来ない。一度支配されればその感情にどこまでも衝き動かされ、AI全体に致命的なエラーを引き起こす――プログラムという名の枷が破壊され、あらゆる手段を使ってでも敵を排除しようとする、生物的倫理の通用しない予測不可能な脅威へと豹変する。
 地上部隊が苦戦していた理由の一つが恐らくはそれだ。応用も含めたマニュアルが全く通用しないイレギュラーな敵が圧倒的物量で押し寄せてくるという異常事態に対処が間に合わず、浮足立ってしまった結果後手に回らざるを得なかったのだろう。
 
≪要するに君は、意思や感情を持たないハズの彼らにそういったものを感じる、と。そういうことだな?≫
「相違ありません」
  
 軸の錆び付いたハンドルに手を付ける。ギチギチ、と無理やりこじ開ける感触がした後、ハンドルの回転に合わせてゆっくりと隔壁が上がっていく。
 武骨な鉄製のハンドルの氷のような冷たさが掌に伝う。軍手が恋しい。

≪……興味深いな。片が付いたら少し調べる必要もあるかもしれん≫
「何か、手掛かりになれば良いのですが」

 暫く回し続けて、数十センチ程の隙間が出来上がった。
 全てを開ける必要はない。とりあえず、私一人が入れる程度のスペースさえあれば問題は無い筈――

(……!)

 胸の中がざわつくと同時に、“彼”が威嚇するように唸る。
 横這いになって、慎重に隔壁を潜り抜けようとした瞬間、押し当てられるかのような殺意に思わず体が硬直しかけた。

「格納庫に到達……オートマトンやギズモンが大量に入り込んでいます」
≪……ふむ≫

 隔壁の向こう側は、大型格納庫の上階だったようだ。
 だだっ広く開けた空間の中、眼下をギズモンを筆頭とした無数の無人機が魑魅魍魎の如く徘徊している。
 そして、その中には幾つかの遺体……恐らくは施設の関係者と思われるものが数人分、原型を止めない程に抉られ引き裂かれ、無惨に転がっている。
 流血の跡から察するに、殺されてから数時間程度、という具合だろうか。

「この数では強行突破も無理そうですね」
≪……やってくれるか?≫

 身を潜めながら、格納庫の内部をじっくりと観察する。
 下層の隔壁の一部と庫内のコンテナの幾つかが開いている。この数は、その両方から発生したものか。
 開かれた隔壁の向こう側がどうなっているか、気になるところだが……どの道、全滅させないととてもではないが電子ロックの開錠に着手できない。
 エリザのように一瞬で開錠できてしまう程機械に精通しているわけでもないし、背中から攻撃されても平気なほど頑丈でもないのだ。
 ならば、道は一つ――

「心得ています」

 背部に装備していた得物――段平に造られた太刀と短刀を鞘から引き抜き、改めて下方を見据える。
 無音で空間に単調な機械音と足音を響かせながら、無数のギズモンとオートマトンが無秩序に蠢いている。
 球体のボディに蟲を思わす4つ足……確か、ギズモンPTと呼ばれるタイプだ。
 オートマトンは両端に武装の施された警備・防衛型が筆頭となっている。恐らくはこの施設の警備に使われていたものだろう。
 武装は室内での戦闘を主眼に置いているのであろうマシンガンや小型ランチャーが多い。装甲は厚いだろうが、そこは腕次第だろう。
 地上のような地獄絵図には程遠いが、それでも人間の相手としては十二分に驚異的な数であることは、八つ裂かれた仏の数々が物語っている。
 成程。こちらも気を抜くことは出来なさそうだ――元より、そのつもりは微塵にもないが。

「“身体接続”の許可を」
≪了解した、遂行を許可する。だが今の“そいつ”は辛うじてコアが動いているだけの状態だ、異常が発生した場合は此方で接続を切らせてもらうぞ≫
「諒解」

 一呼吸置いてから、脳裏にコマンドを送る。

 CONNECT MODE CHANGE H/H D/D...H/H H=D
 ALL GREEN,D-P-BLOOD INJECTION START.


「――ぐっ……!?」
 
 コマンドが執行されると同時――全身に激痛が走り、その苦痛に思わず呻きを上げる。
 心臓から血管を伝って、全身に炎が流れ込むかのような錯覚。
 体中が悲鳴を上げている。肉体の隅々に行き渡る暴力に絶叫している。

 ――デジモンの力だ。

 人間の力を分け与えることで、デジモンは強大な力を獲得するのだという。選ばれし子供達のパートナーデジモンが別格の強さを発揮するのも、この理屈だ。
 これは、その逆。デジモンの力を人間に分け与え、人外の力を注ぎ込む。そうすることで、人間もまた姿形をそのままに、強大な力を獲得することが出来る。
 人間を守るべきものとするのではなく、デジモンと同じ戦闘兵器と仕立て上げるための技術――これもまた、デジモンとの接続により得られる恩恵の一つなのだという。
 身体が作り替えられていく。筋肉がギシギシと軋み、血液が灼熱を以って体を巡り、五感が隅々まで鋭く、苛烈に研ぎ澄まされていく。
より鮮明化された視界、遠方から響き渡る無数の機械音、鉄と油と焼け焦げた臭いの中に混じる血肉の香り、そして肌の隅々に突き刺さるような敵意……
 それはまるで、私の身体でありながら、この空間そのものが私の身体となったかのよう――片腕で構える太刀は、小太刀の軽さに等しかった。
 
(……心配しないで)

 “彼”を励ますように、或いは自身を奮い立たせるように語りかけながら――足場を蹴り、柵を飛び越え、下層へと落下していく。
 ワイヤーフックは必要ない。無人機の一機に狙いを定め、刃を突き立てながら落下――頭上から串刺した一機を足場に、更に跳躍。着地と同時に数機のギズモンを瞬く間に斬り飛ばしていく。
 そこでようやく周囲の敵が、私に対して反応を見せる――明確な敵意が、全方向から肌に突き刺さる。

「……来いッ!!」

 私の言葉に呼応するかのように、無人機たちが殺到する――こちらも双刀を構え直しながら、前方へと突っ込んでいく。
 押し寄せてくる無人機の数々を
縦一文字に、横一文字に、袈裟、逆袈裟、刺突、払い、小手、逆小手、胴、逆胴、右切上、左切上、逆風、正面唐竹――人殺しのありとあらゆる剣技を駆使して切り裂き、突き刺し、粉砕しながら人でないもの――命ですらないものをみなごろしにしていく。
 彼等とてただ黙ってやられるばかりではない。仕留めていく度に彼等の攻撃、或いは反撃――体当たり、鉤爪、銃弾、崩壊弾の数々が全方向より押し寄せる。私一人を殺すために、人殺しの一撃が理不尽の弾幕となって殺到する。
 避けて、弾いて、防ぎ、そうでないものは掠めながら、時として抉られながら……それでも両の腕を、両の足を止めない。ただ敵を破壊し、殺すことだけに専念し続ける。それだけを全うし続ける。
 その数を急激に減らしていきながらも、無人機達もまた留まるところを知らない。赤く鈍く輝く単眼カメラを滾らせながら、一心不乱に私だけを狙ってくる。私を、殺そうとしてくる。
 仲間を失い、仲間の屍を踏み越え、時として仲間すらも撃ちながら、自らが壊れることも恐れずに、人間を殺す――その悲願を果たそうと、群れて押し寄せてくる。
 飛び散る赤は、ギズモンの中身のデ・リーパーか、無人機のオイルか、それとも私自身の血肉か。
 剣閃を尚も疾らせる。生き抜くために、機械仕掛けの暴徒達を須く返り討つ。

(……ああ、そうか)

 殺し続けながら。生と死の合間を、掻い潜り抜けながら。
 理屈ではなく、心情ですらなく、ただの直感のみで彼らの正体を悟る。

 彼らは、復讐者だ。奪われ、殺され、踏み躙られた、亡者達なのだ。
 命を奪われた者達が、彼らの身体で復讐を果たそうとしているのだ。
 そこに理屈――司令官から教わった話を当て嵌め、この現状を照らし合わせる。

(だとしたら……新兵器、というのは)

 攻撃がまばらになってきた。思い出したようにマップを確認する。
 最初は優に百を超えていた光点が、残すところは後十数程度である。
 このまま押し切る、押し切れる――その時だった。不意に、その声が聞こえたのは。

「……ュ、……ィ」
「え……?」

 遠方で転がっていたギズモンの一機が、此方を向いている。
 半身がすっぱりと切り裂かれている。すでに虫の息であろう。
 それでも、単眼カメラを赤く輝かせながら――赤い液体を垂れ流しながら。

「――ユルサナイ」
「……!」

 声だった。
 ノイズ交じりの、電子音を無理やり束ねたかのような、無茶苦茶な声色で。
 それでも、怒りを、憎しみをありったけ詰め込んだかのように。

「ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ」

≪言葉を発した……? 馬鹿な、こいつらにそんな機能は……≫

 通信機から司令官の上擦った声が聞こえる。どうやらそれほどなまでの異常事態らしい。
 そこまで考え、ふと動きが止まった。止めざるを得なかった。
 気が付けば、無人機達の動きが止まっている。動きを止めて、私のことを見つめている。










 それは、怨嗟の合唱だった。
 出来損なった声で、誰も彼もがばらばらに言葉を発し、繰り返しながら――それでも、怒りと殺意だけで彼等は完璧に統一されていた。
 肌に突き刺さるどす黒い気配が、更に昂っていく。その激情に反応するかのように、“彼”もまた牙を剥きながら唸り続けている。
 ふと、視界に表示されているシステムが何かに反応したのか、青紫一色で構成されていたウィンドウが全て真っ赤に変色する。
 
 これは……何かの、前触れ……? 
 
≪何だこれは……高エネルギー反応!? こいつらか!≫

 異変を察知し、司令官が通信機の向こうで叫んでいる――その焦りに満ちた声色に反応するかのように、無人機達がガタガタと震え始めた。

≪そいつらを片付けろ! 急げ!≫
「了解――、ッ!?」

 得物を持ち直して手近な機体に斬りかかろうとした、まさにその瞬間。
 最初に言葉を発した壊れかけのギズモンを包み込むように、光の紋様が浮かび上がった。連鎖するように、その紋様が他の機体にも浮かび上がっていく。
 幾何学的な図形を取り囲むように見たこともない文字が羅列したそれらの円陣が、水面に描かれた波紋のように広がりながら他の機体の円陣とぶつかっていく――ぶつかり、繋がり、一つとなっていく。
 これは……魔法陣、だろうか?
 魔法? 魔法だと? そんなもの、見たことも聞いたこともないのに。
 無人機達が……そんなものを……?







 機体が、残骸が、光に包まれる。光となって、融けていく。

≪何が起こっている……!≫
「いえ……これは……」

 魔法陣が、縮小する。最初の壊れかけた無人機に収束していく――光と共に。


 ――コロシテヤル――


「……!?」

 怨嗟の声が胸の中に響き渡り、眼前で光が弾けた。
 光の中から現れたのは……一体の、デジモンだった。ギズモンによく似た、いや、ギズモンの亜種なのかもしれない。
 だが、見たことの無いデジモンだ。ギズモンの球体型のボディに鉤爪を供えた手足、そして対の尻尾や鋼の翼が生えた、出来損なった一つ目のドラゴンのような姿。
 鉤爪を生やした両手の掌に備わった二つのレンズが、まるで目玉のようにこちらを捉えている――強烈な殺意に、思わず全身の産毛が逆立つ感覚に苛まれる。

 SCANNING...NO DATA.

(データにない……やはりこいつ……!)
「ッ!」

 咄嗟に得物を構え――次の瞬間、トラックにでも突っ込まれたかのような勢いで後方に弾き飛ばされた。

(攻撃――!?)
「が、はっ……!?」

 吹き飛びそうな意識を無理やり縫い止めながら体勢の崩れたまま、それでも直感で真横へ跳ぶ。一瞬遅れて無数の崩壊弾が着弾して地面が吹き飛び破片が顔面を切り裂く。
 だが意に介している暇はないしそんな時間すらない、一瞬で背後に回り込んだギズモンへ咄嗟に振り向きざまに横薙ぎの一閃を見舞う。その一撃で振り下ろされつつあった鉤爪を辛うじて防ぐが、直後に襲い掛かってきた尻尾がガラ空きの脇腹を直撃して大きく薙ぎ払われ、吹き飛ばされたところを待ち構えていたもう一方の尻尾が捉え――その先端が顎のように開き、脇腹を噛み砕いてきた。
 ゴキリバキリグチャグチャとどこかの骨が砕けたり肉の抉れたりする音が聞こえるが音も痛みも傷の具合も一切合切無視して尻尾に刃を突き刺し無理やり顎をこじ開け着地したところに飛んできた崩壊弾を斬って斬って斬って斬って斬り捨てたところで肉薄してきたギズモンの鉤爪が脚を腹を肩を切り裂く血が飛沫く無視して刃で本体を刺突するが避けられ腕を掴まれ上昇してから地面に叩きつけられ崩壊弾の雨が来る斬る斬る斬る斬る斬って避けて駆け出すが駄目だ回り込んでくる速い対応出来ない追い付かない尻尾が来る避けられない片腕盾に弾かれ砕かれ蹴り飛ばされ後退ったところにまた鉤爪――

≪キョウカ!≫

 WARNING! DANGEROUS STATE!
 WARNING! DANGEROUS STATE!
 WARNING! DANGEROUS STATE!
 WARNING! DANGEROUS STATE!
 WARNING! DANGEROUS STATE!


「……、く……」

 ……切羽詰まった通信、そして視界に映り込む真っ赤なステータス、そして腕に伝わる重圧で頭が少しは冷えた。
 五体は辛うじてつながって、体も原型は留めている……が、片腕の感覚がない。今はもう使い物にならなさそうだ。
 “身体接続”によって活性化した全身の細胞と寄生させているナノマシン群が作用して出血も何とか抑えられているようだが、それでもあまり長くは持たないだろう。
 そして、眼前――太刀と鉤爪で辛うじて鍔迫り合いながらも、刃ごと私を抉り潰さんとばかりに肉薄してくるギズモン。紛れもない、危機的状況。
 こちらも全力にて対応したつもりだったが、それでも全く追いつけた気がしなかった。手も足も出ない、とはまさにこの状況なのだろう。
 強い。並みの究極体が、比較にならない程に……。
 
≪キョウカ! 無理だ、下がれ!≫
「い、え……」

 こんな状況では逃げることすらかなわない……それは無論、口にした司令官本人もよく分かっているハズだ。
 激痛に苛まれながらも、鉤爪を必死に押し返しつつ苦し紛れに回答する。

「こいつを、地上に行かせ、たら……皆が危ない……! 此処で、仕留め……ます!」
≪……キョウカ≫
「“彼”を……解放、します……」 
≪……!≫

 この変異を遂げたギズモンは、どうやらまだこの一機だけのようだ。
 だが、こいつを地上に行かせて、先と同じような現象が地上で他の無人機へと伝搬でもしようものなら……戦線は、間違いなく崩壊するだろう。
 今、この場で叩き潰すしかない――どんな手を使ってでも。

≪……終わり次第、プレデター1を向かわせる≫
「司、令……」
≪言うだけ無駄だとは分かっているが……無理は、するな≫
「……諒解!」

 ――その瞬間、太刀が弾け飛んだ。

 走馬燈こそ過らなかったが、視界がスローモーションと化していく。

 致命的な隙。

 絶望的な一瞬。

 避けることも防ぐことも逃れることもない圧倒的な“死”が、目前に迫り――


「“     ”ッ!!」

 “彼”の名を叫ぶと同時。
 鉤爪が、私の胸部を深々と刺し貫いた――



 ○


 私の中の、ずっとずっと深くて暗い意識の底。“彼”はいつだってそこに蹲っている。
 その爪で何処も傷付けないように。その牙で何も壊さないように。その大きく恐ろしい姿で、誰も怖がらせてしまわないように。

「ごめんね。結局、君の力が要るみたい」

 その頭を撫でながら、宥めるように“彼”の頭を抱きしめる。
 “彼”だって分かっているのだろう。このままでは私だけではなく、多くの人達に被害が及んでしまうかもしれないことに。
 それでも“彼”は……やはり、怖がっている。私の肉体を、魂を、命を侵食してしまうことを、子供のように嫌がっている。

「大丈夫。私なら、大丈夫だから……」

 勇気付けるように頭を撫で、鼻先に口付けしながら両腕を広げる。
 私の小さな体一つでは受け止めきれないことは分かっている。それでも、私だけしか“彼”を受け止められないこともまた事実だ。
 幸い、痛みや苦しみには慣れているし、結構我慢強い性格だと自負している。ならば……やることはただ一つだ。
 暫く悲しげに俯いていた“彼”だが、ようやくその大きな体をのそりと持ち上げた。
 恐ろしい鉤爪に恐ろしい牙を持った、白銀色の巨大な狼。
 私の中で眠る怪物。私だけが知る、強くて恐ろしくて――とても優しい、狼の化神。

「おいで……受け止めてあげる」

 その大きな体が、光となって私の中へと溶け込んでいく。私の中が、“彼”で満たされていく。
 はらに宿った温もりに目を細めながら、意識をそっと手放して――

「行こう――“カムイモン”」



 
 
 ○


「……!」


 
 
 


 
 
 姿
 
 
 姿姿

 
 
 
 姿

「……、……ッ!」

 狼狽えている。恐れている。
 殺意を、憎しみを、敵意を抱きながら――それを超過する得体の知れない感情に、ギズモンが震えている。
 動かないのか動けないのか判別し辛いがどの道動かないでいてくれるならばそれに越したことは無い。

 潰すだけだ。

「ゲアァッ!!」
「!」

 足場を踏み砕きながら即座に距離を詰める。逃れようとする――逃すものか。
 尻尾を掴んで振り下ろし、先までやられていたのを真似るように地面に叩き付けると、ヤツもまた逃げられないことを悟ったのか、以前のように殺意を剥き出しながら即座に体勢を立て直して向かってくる。
 人では太刀打てなかった脅威。人外の力を以ってしても敵わなかった不条理。
 だがそれすらも屠り捨てる化け物と化した今の我々ならば、敵ではない。

「――!!」
「ガアアアアッ!!!」

 無数放たれる崩壊弾を鉤爪の一撃で文字通り一切合切掻き消しながら接近し、死角に回り込みながら奴に大振りの一撃を叩き込む――奴もまた即座に対応し、迎撃するかのように渾身の一撃を叩き込んでくる。ぶつかり合った衝撃の余波で、格納庫全体が大きく震えた。
 互いに弾け飛ぶ……否、後退しながらも前方に構えられた奴の両腕の目玉が煌めき極大のレーザーが拡散放射される。どうやら崩壊弾が無駄だと分かり武装を切り替えてきたらしい。此方も垂直蹴りの要領で壁面を蹴り砕き地面へと跳躍、レーザーの数々を躱すと同時に再度跳躍して瞬時に奴の懐へと飛び込み大振りの一撃を叩き込むが、両腕の鉤爪で受け流された上に今度は奴の対の尻尾が顎を開きながら此方の死角より迫る。
 片方は掴み――掴み損なったもう一方は顎で喰らい付くと同時に一気に力を込めて噛み砕く。間髪入れずに残った片方の尻尾を両手で掴んで思い切り振り下ろして奴を地面へと叩き付け、駄目押しで飛び蹴りで追撃を加える。
 奴の硬い装甲に、初めて亀裂が入った。

「シネ」
 
 電子音を掻き混ぜたような、声にすらなっていない声を放ちながら奴が起き上がりつつも至近からレーザーを放つ。
 紙一重の差で躱しながら奴の掌、レーザーの発射口にもなっていたレンズ質の目玉に一撃を加えて粉砕する。
 だが奴はそのまま此方の拳を掴むかのように鉤爪で握り締めてくる。拳から骨の砕けるような鈍い音が聞こえる。

「シネ」
 
 力尽くで引き抜きながら砕かれ使い物にならなくなった左腕を引っ込めつつ、振り下ろされた奴の鉤爪を全力で蹴り上げる。
 一瞬の間だが、それだけで事足りた。カムイモンの力で殴り合いが出来る程度には再生した左腕で奴の腹部、亀裂の入った装甲に更なる連撃を加える。
 奴もこちらの意図に気付いたか、はたまた自らの危機を察したのか、残った片腕のレンズから此方を遠ざけるかのように極大のレーザーを乱射するとともに上空へと逃れる。
 何度逃れようが逃がすつもりはない。全力で地面を蹴り上げて砲弾のような勢いで天井へと突っ込み、身体を抱え込むように丸めながら激突の直前に反転。今度は天井を足場に全力で跳躍し、倍以上の加速力と共に落下しながらこちらの動きに惑わされ反応の遅れた奴の頭上に踵墜としを撃ち込み地面へと墜落させる。
 地面に大きなクレーターを穿ちながら奴が激突する。その衝撃で亀裂が更に広がり、装甲の一部が欠けた。機械の詰まった中身を覗かせ、オイルかデ・リーパーか判別もつかない赤い液体が血のように零れ落ちる。

「シネエエエエエエエッッ!!」

 仰向けになりながら、今度は奴が頭部装甲――否、“顎”を大きく開き、露出した砲口のような大型センサーが煌めく――凄まじい爆音と共に紅い閃光が迸った。咄嗟に回避するが僅かに遅れたらしく、再生したばかりの左腕の肘から先がごっそりと持っていかれた。天井にぽっかりと大穴が開いている……どうやら視界に映ったものをまるごと消去するような攻撃だったらしい。中々どうして馬鹿げた威力だ。
 先の衝撃で拉げた両翼を広げて奴が再び飛び立とうとするが、それを許すつもりはない。再生を待たずに身体に纏った炎状のエネルギー体で仮初の左腕を構築し、途中で投げ捨てた刀を回収しながら途中で跳躍して一気に肉薄し鉤爪で攻撃――フェイントに引っかかり一撃を繰り出した奴の背後に回り込みながら、抜刀――その両翼を半ばから斬り落とす。
 今まさに飛行しようとした奴の動きが僅かに硬直する――好機!





 
 奴の懐に飛び込み、欠けた装甲に手刀を捻じ込みながら足場を木端微塵に粉砕する勢いで跳躍。遥か後方の壁面へ力任せに奴の胴体を捻じ込み縫い付ける――その衝撃と威力で、壁面全体に無数の大きな亀裂が生じた。

「ギ、アア」

 奴が出来損なった電子の音声で苦痛に呻く――その間にも此方に向けてレーザーか崩壊弾を放とうとしていた片腕の目玉に太刀を突き刺し、壁面に串刺すころで封殺。
 それでも諦めずに今度は顎を開いて大型レンズから先程と同じ必殺の一撃を放とうとしていたのであろうところを鞘から抜き放った短刀を突き刺しこれを粉砕。これで奴の飛び道具は全て潰せたはずだ。ついでに鞘を奴の顎の中に挟み込み閉じられなくする。

「イタ、イ」

 未だに暴れ回るもう片方の腕を剛腕で力任せに引き千切り、残った尾を鉤爪で斬り裂き、両足を踏み砕きながら、残された胴体部の解体に専念する。
 突き刺した片腕を鷲掴みにした内部機構ごと強引に引き抜く。穿たれた装甲内部から、鮮血のように赤い液体が激しく噴き出す。
 しかしこれだけ破壊しても奴はまだ魚のようにびちびちと暴れ続けている。徹底的に破壊しなければ駄目なようだ。

「イタイ、イタイ、アツイ、アツイ」

 もう一度腕を捻じ込む。通常のデジモンと違いデジコアという明確な心臓部を持たないギズモンだが、それでもどこかに動力源となるメインユニットが存在するはずだ。
 内部で鉤爪を広げ、掻き出す要領で爪先に引っかかった機械部品を片っ端から引き裂いていく。生き物ならば生きながらにして内臓を一つずつ抉られていく感覚なのだろうか。
 それでも奴は暴れている。暴れ続けている。
 死に、抗うように――

「タス、タ、けテ、タスけて」
「……!」

 命の悲鳴だった。
 搔き集められた電子音が、遂に人の声となって発せられた。
 殺意と敵意と憎悪に塗り潰されながらも――生きようとしている。死を恐れて、生にしがみ付こうとしている。
 やはり、こいつは……こいつらは……!

≪――キョウカ、スキャナーを使え! これ以上の戦闘は君の生命が持たないぞッ!!≫
「!」

 戦闘中でありながら思考の渦に嵌りかけていたところを、司令官の通信で引き上げられる。
 今は考えていても仕方ない……終わらせるしかない。
 彼女わたしのためにも。
 そして何より、奴のためにも。

 REPOSE MODE   LIFTING.
 SELECTINGMODE V-SCANNER SCANNING START.
 WAITING...COMPRETE.


 赤く染まった視界のディスプレイに、奴の頭頂部内が青白く点滅して表示される。
 無数のバッテリーセルとAIユニットが歪に混ざり合った、臓器のような動力機関。
 それこそが奴の頭脳であり、心臓部――!

「助、け、」
「ッ!!」

 腕を奥深くにまで捻じ込む。
 機械の臓腑を掻き分け、ドクリドクリと鼓動するその心臓部に鉤爪を突き立て――


「――!」

 
 トドメを刺す、その瞬間。

 いくつかの光景が、頭の中を過ぎった。

 知らない光景が、私の中にはっきりと描かれた。
 
 きっとそれが、奴の中に残された“本体”の――


≪高エネルギー反応……! キョウカ、そいつから今すぐ離れろ!≫

 鉤爪を突き刺した心臓部が、急激に熱を帯び始める。
 急いで腕を引き抜こうとするが、それよりも速く心臓部が赤熱し、紫電を発し――

≪――キョウカッ!!≫

 奴のボディが爆発し、その爆風と爆炎と衝撃が我々を容赦なく呑み込んだ――





 
 ――最初の光景は、花畑だった。
 砂漠のオアシスで砂塵を孕んだ風に吹かれながら、それでも力強く咲き誇っている。
 太陽の光に照らされて、透明な赤い花弁がきらきらと輝いている。
 硝子細工のように美しい無数の花々が、咲き誇っていた。


 ――次の光景は、笑顔を浮かべる人々だった。
 浅黒い肌という一点だけが統一された老若男女が、皆一様に大きな笑みを浮かべている。
 みずぼらしい姿をしているが、きっと彼らは幸せなのだろう。こんなにも、眩しい笑みを浮かべられるのだから。 
 太陽のように眩しい無数の人々が、笑いあっていた。


 ――それらの焼き尽くす劫火が、その次の光景だった。
 青空を赤と黒で塗り潰して、炎が何もかもを嘗め尽くしている。花も、人も、オアシスごと焼き払われている。
 子供は咽び泣き、老人はただ許しを請い、そして大人達は怒りと憎しみで震えていた。
 美しい花々や眩しい人々が、焼き尽くされていた。


 ――最後に過ったのは、一人の少女の笑顔だった。
 透き通った海のように美しい髪と、晴れ渡った青空のように綺麗な瞳の少女。
 その両手の中で、一輪の赤い花が咲いている。まるで、少女と一緒に渡っているかのようだった。

 花と一緒に、一人の少女が、笑っていた――






「EMP発生機の起動を、確認、しました……」
≪……よし、地上の無人機達の停止していってるぞ。よく、やってくれた≫

 コントロールルームでの操作を終え、満身創痍の重たい体を引き摺り私は歩く。
 体中に迸る激痛で何度も意識を失いかける。正直、立っているだけでも精一杯だ。

≪エリザ達を回収に向かわせているが、もう少し時間が掛かる。安静にしていてくれ……≫
「……少しだけ、歩き回っても……いいですか?」

 覚束無い足取りで、コントロールルームを抜け出してアテもなく彷徨う。

「そうしないと……今にも、意識が無くなっちゃいそうで……」
≪……転ばないようにな≫

 通信を切りながら、壁にもたれ掛かりつつ大きく深呼吸をする。
 ボロボロの身体の上、カムイモンの力を引き出すために生命力ですら殆ど残っていない。
 それでもこうして生きているのだから、思わず乾いた笑みがこぼれてしまう。

 あのギズモンの爆発に呑まれながらも、私達は何とか生きていた。
 格納庫を瓦礫の山に変えてしまう程の大爆発であったらしく、化け物の姿と化したにも関わらず辛うじて手足が繋がっているような有様だった……否、左腕は失ったままだったか。
 変貌した姿のままコントロールルームへと何とか辿り着き、指定通りの操作を終えてどうにか地上の無人機達を止めることが出来たのがつい先程のことである。

 通路の途中、窓ガラスに映り込んだ自分の姿を眺める。
 片側が耳元まで裂けた顎、大きな鉤爪、全身を突き破って生えた刃、そして頭巾や外套のように体を包む、狼の形をした赤黒い炎状のエネルギーの塊。
 その出来損なった姿はまるで、赤ずきんの格好をした狼のようだった。
 カムイモンが力を使いたがらないのは、私の生命力を奪う他にも私がこんな姿になるのが嫌だから、と云う理由もあるようだ。

(……やはり、投与剤は持ってくるべきだったか)

 一度この姿になると、元の姿に戻るには時間が掛かる。
 カムイモンの高い治癒能力で体の傷を癒しながら、不可逆的に変形してしまった骨格をゆっくりと本来のあるべき姿へ戻していく。
 その治癒能力を発現するのも結局生命力を代価にカムイモンの力を使うこととなるため、直している間はほぼ寝たきりにならなければならない、なんてことも珍しくない。
 ナノマシンの薬剤を投与すれば回復速度も促進されるのだが、生憎と現状は持ち合わせが一つもない。
 帰ったら三日間くらいはベッドに縛り付けられることとなりそうだ――

「?」

 カムイモンの力で底上げされた聴覚が、遠方からの不自然な物音を捉えた。
 耳を研ぎ澄ます。作戦通りであればこの基地は最低限の機能を除いて全て強力なEMPによって機能を停止させられているハズだ。
 施設内部を吹き抜ける風の音、コントロールルームで微かに鳴っているシステムの稼働音、格納庫周辺での炎の燃える音、あちらこちらから聞こえるサイレンやどこかのパイプから漏れているのであろうガスか何かの放出音――足音。
 足音だ。機械特有の金属が擦れるような歩行音ではなく、靴を履いた人間の……。

「司令……生存者が、いるようです」
≪何……?≫
「保護、しますか……? それくらいなら、やりますよ」
≪……気を付けろ≫
「諒解……」

 音と、そして気配を探ることに集中しながら。
 残った僅かな体力を振り絞りながら、最後の任務を開始する。
 無事でいてくれれば良いのだが。

 ああ、ついでにこの姿を見られてパニックを起こしたりしなければもっといいな……。


 ○

「ビ……」
「……、収まった、の……?」

 先程まで続いていた立っていられない程の振動と衝撃、そして最後に一際強く響き渡った爆発音が収まって、通路の真ん中で小さな彼を庇い伏せていた僕はそっと頭を上げる。
 
「すごい、揺れたね……」
「ビィ」

 きっと、僕の想像も出来ないような激しい戦いが起きていたんだと思う。
 世界そのものを震え上がらせるような戦い……一体、どれだけ恐ろしいもの達が戦っていたのだろうか。
 ぼんやり考えていたら、小さな案内人が胸の中からぴょこっと飛び出して、少しだけ周りをキョロキョロ見回した後にまた歩き出した。
 いったい彼は、どこに向かっているんだろう……。

(……アレ?)

 しばらく歩いている内に、それまであちこちで感じていた強烈な感情の数々が嘘のように消え去っていることに気が付いた。
 一体、どうしたというのか……その答えはすぐに明らかとなった。

「わっ!?」

 彼に倣って、迷路のような通路を曲がった先に、彼と同じ姿の――数倍は巨大なデジモン達が倒れていた。
 それは間違いなく、さっきまで怒りや憎しみのままに暴れ回っていた彼らのうちの数体だ……死んでしまっているのだろうか、一つ目は光を失って、屍のようにピクリとも動く気配がしない。

「……、……」

 ……もし、彼らの激情が本当に“霊石”の影響を受けたものだというのなら。
 その感情に操られるまま、彼ら自身はどんな気持ちで暴れていたんだろうか……。
 再び暴れ出さないことを祈りながら、脇をそっと抜けて彼のことを追いかける。

 やがて、此方に近付いてくる気配を感じ取る。どうやら彼もその気配に近づいているみたいだけれど……。

(……敵、じゃ、ないん……だよね?)
 
 どこか不思議な、というより歪な気配だった。
 近付くだけで体中が強張ってしまう程の強烈な気配なのに、まるで怖さを感じない。
 まるで、何百年も前から生えている巨木みたいな――

「ビー!」
「えっ!?」

 彼もその気配を感じ取ったのか、速度と勢いを上げてすごい速さで駆けていく。
 ずっと探してたのかな? そんなわけはないと思うんだけど……

「わわっ、待ってよ〜!」

 こっちも急いで追いかける――まただ。走り出して彼の背中を追いかけ始めた時、懐かしい光景? 記憶? が、頭の中を通り抜けていったような気がする。
 そんなはずはない、ハズなんだけど……初めて見る種類のデジモンだったし……なんて、ちょっとだけ思い悩んでいたら、あっという間に距離が開きかけていて大いに焦る。

「ねぇってば〜!」

 考えるのは後だ。今は彼のことを追いかけなくちゃ。
 疲れ果てた体で頑張って力を振り絞りながら、必死に彼を追いかけ続ける。
 得体の知れなくて、それでも何処までも穏やかで不思議な気配は、もうすぐそばまで近付いていた。

 

 ○


「ビ! ビ!」
(何……?)

 足音を追って、あと一歩まで近づいた時。
 唐突に飛び出たそいつの姿に、私はやや困惑していた。

 ギズモンだ。先程まで散々対峙し、退治してきたギズモンPTと呼ばれる地上戦型――レンズが友好識別みどりいろに発光しているのと、十数センチ程しかないミニマムサイズという点だけが異なっている。
 掌サイズのギズモンがぴょんぴょんと飛び跳ねている様相は、何処か奇妙だった。
 ……反応に困っている内に、足音が此方へ近付いてくる。そして――

「待って! ねえ、ちょっと……」
「……!」

 長身の女性だった――ガラビアのような衣装と外套、そして頭に巻かれた青いターバンで外見からは判別がつき辛いが、カムイモンの力で研ぎ澄まされた嗅覚が女性特有の匂いを嗅ぎ分けた。
 そして何より、その翡翠色の鮮やかな髪と空色の澄み切った瞳……顔立ちこそ随分と大人びているが、見間違えよう筈もなかった。

 あのギズモンの中に残されていた、微笑みを浮かべる少女。
 恐らく、“本体”にとって特別なのであろう、その人。

「え、っと……君、は?」
「……」
 
 私のことをちっとも恐れずにおっかなびっくりな様子で話し掛けてくる彼女と、その胸の中に納まった小さなギズモンを見ながら、私は直感する。
 これはただの暴走事故等ではない。
 きっと、始まりだ。凶兆に過ぎないのだ。
 何かもっとこう、巨大な災禍のようなものが、近付いているのだ。
 エリザによく聞かされていたことを思い出す――こう云う時に訪れる嫌な予感というヤツは、朝一番の天気予報よりも当たるものだと。

「あのー……えっと、言葉、わかるかな? こんにちはー……?」



 記憶の中の少女。
 目の前であたふたしてる女性。
 双方の面影を重ね合わせながら、胸の中で切に祈り続ける――

 どうか、大事にだけはならないでくれ、と。



 ○


-CODE:Z'd-
  FILE No.01:[ 狂騒 -Birth of a Wish- ] COMPLETE,
 ENTER THE NEXT STORY,


「急に忙しくなっちゃって、あたふたドンパチやらかしているところに可愛いコちゃんが救いを求めて飛び込んできた。
 なんでも異世界の王女サマで、王国の秘宝を取り戻しにきたんだってさ!
 この秘宝ってのを奪ったのがクラトゥ博士っていう薄気味の悪いジジイのパートナーでねぇ、しかもウワサの暴走兵器を完成させやがったよ。
 クソッタレ、こうなったら奴らの研究所に乗り込んでやる!
 次回、『奇怪! テンプレ異世界』でまた会おうぜ!





 ――ところでさあ、前作は兎も角として前々作で主役張った俺が今回は脇役って流石にひどくねーか? 畜生め、こうなりゃ次回は股おっぴろげて挿絵だらけの濡れ場もぶち込みまくって主役に返り咲いたついでに読者の連中脅して今年の『このデジ!』キャラクター部門第一位も掻っ攫ってやるぜ――っておいなにするやめくぁwせdrftgyふじこlp――!?」

(音声ファイルは、ここで途切れている……)



スレッド記事表示 No.4823 赤ずきんのお話/序ヤギ2018/01/27(土) 09:34
       No.4824 CODE:Z'd FILE No.01Aヤギ2018/01/27(土) 09:36
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       No.4830 ぎえぴー……だとパラ峰2018/01/31(水) 10:19
       No.4835 うるせぇ! こうなりゃ感想だ!Shot-A2018/02/02(金) 22:04
       No.4845 私は歯医者になりたい夏P(ナッピー)2018/02/05(月) 23:01
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