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ID.4820
 
■投稿者:Ryuto  HOME MAIL
■投稿日:2018/01/25(木) 23:01


グッド・オールド・フューチャー 1/依頼
 二〇四九年、十二月。
 デジタルワールド・スクルドターミナル。

 歪んだ窓枠からガラス片が飛び散り、緑色の鱗を持つデジモンが外に投げ出される。
 既に満身創痍となっている彼は、身体に纏わりついたマントを払って着地態勢を整えることもできず、雪が積もり始めているコンクリートの路上へ叩きつけられた。白い舗道に、口から赤が垂れ落ちる。
 それでもまだ彼は意識を手放さなかった。
 自分は「選ばれし子ども」のパートナーデジモンだ。今までだって危機は何度も乗り越えてきた。
 三日月型の刃が付いた杖――降妖杖と呼ばれる――で身体を支え、河童のような姿をした魔人型のデジモン・シャウジンモンは立ち上がり、正面を見る。
 洗練されたデザインの建築物と華美なネオンサインで溢れる中心街とは違い、自分たちの住むこの住宅街にしっかりと機能している防犯灯はほとんどなく、目の前にその敵が現れたことにも一瞬、気づくのが遅れた。
 黒い外套を身に纏った敵は既に腕を振りかぶっていた。シャウジンモンはその攻撃をどうにか杖で受け止めたが、続けて放たれたもう一方の腕の攻撃は防げなかった。杖は砕け、右肩から左の脇腹にかけてとても熱い感触が奔った。
 シャウジンモンはもう長い間戦場に立ってはいなかったが、あの現役時代でさえ、ここまで強烈な攻撃を浴びたことはなかった。
 どうしてか、身体が重くなっていく。膝を地面に着くともう立ち上がれなくなった。足元に血だまりが見えた。
 またしても重い一撃、今度は頭。この攻撃でシャウジンモンは完全に動けなくなり、雪の中に沈んだ。視界が揺れ、どの方向が上なのかも判別できない。
「老いたな、シャウジンモン」
 シャウジンモンは、この時初めて襲撃者の声を聞いた。ほんの数分前にこの敵が突然、パートナーと静かに住んでいた家を訪ねてきた時も、扉を破壊して攻撃を始めた時も、この声は聞いていなかった。
 何故か、この声の主を知っている気がした。遠い昔、どこかで聞いていたはずだ。だが、それがいつ、誰のものだったのかは思い出せない。
 駄目だ、まだ駄目だ。ここで自分が死んだら、次はパートナーの番だ。
 ハンスは殺させない。選ばれし子どものパートナーにそんなことは許されない。
 だから……。
「終わりだ」
 そこから先は、何も考えられなくなった。



 人類が入植して長い時間が経つとはいえ、スクルドターミナルの郊外は、未だに無機質な古いマンションや木造住宅に溢れた味気ない景色のままだ。
 先ほどまで降っていた雨が数日前に積もった雪を溶かし、アスファルトの上に小さな湖をいくつも作り上げていたので、冬用ブーツを履いていてもなお足元は酷く冷えた。
 玄関前の階段を上ると、ドアのガラスに酷く疲れている初老の男が映る。
 黒縁の眼鏡の位置を直すと、ジェームズは溜め息を尽きながらドアの取っ手を引いた。

 帰宅するのが遅くなってしまった。
 依頼人であるマックレイグ夫人に事のいきさつを説明するのに三十分、次に旦那の浮気相手が人間ではなくデジモンであることを説明するのに三十分、この件で裁判を起こしたいのなら自分ではなく専門の弁護士に依頼するべきだと説明するのにもう三十分、それから彼女の旦那が如何に問題のある人物なのか、彼女がどれほど苦労して家庭を維持しているのかを聞くことに一時間を費やす必要があった。
 傘では防げなかった雨を浴びたコートを脱ぎ、事務所の中央に鎮座する安楽椅子に腰掛ける。体重を背中に預け、テレビを点けながら溜め息をつく。いつも通り夕方の報道番組が流れていたが、情報過多な画面を見つめる気力は起きず、ジェームズは流れてくる女性キャスターの声だけを聞いていた。
“次のニュースです。スクルドターミナルにおけるデジモンの失業率が十五パーセントを超えたことを受け、政府は新たな支援策として――”
 疲れた。
 まだ風呂にも入っていないが、このまま眠ってしまおうか。
 そんなことを考え始めた時、ノックの音が部屋に鳴り響いたことで、ジェームズは瞼を閉じるのを止めた。
 また眼鏡の位置を修正してから何とか腰を起こして、何度も鳴り響くくぐもった音の発信源に向かう。
「今いくよ」

 ドアノブを握る前に一瞬だけ考えた。
 もし、ドアの向こうにいる相手が依頼人で、その内容がまたしても浮気調査の依頼だったら、いっそこの仕事から足を洗うのはどうだろう?
 警察を辞めた後、友人の個人的な依頼を何度か受けているうちに、なし崩し的にこの仕事を始めて十年ほど経つ。お世辞にもやりがいを感じているとは言えない。
 しかもほとんどの依頼は失せ物探しか、赤の他人のふしだらな私生活を暴く作業で、老体には肉体的にも精神的にも辛い。
 問題は、今辞めたとして、蓄えと自分の寿命のどちらが先に尽きるかだが……。
 ひとまず、相手を確認するのが先か。
 ドアノブを回し、ニ十センチほど戸を開ける。
「……はい?」
 ドアの向こう側では。
 背中に四枚の葉をつけた、ピンク色の花のような服を纏った妖精型デジモンが、アーモンドそっくりの形の黒い大きな瞳をこちらに向けていた。
「お久しぶりです。ジェームズ・テイラーソンさん」
 彼女は赤い縁の眼鏡を右手でくいっと上げながら、ジェームズに微笑んだ。
 ジェームズはほんの数秒間だけ彼女の顔を眺めていたが、やがて表情を変えないまま、握っているドアノブを逆の方向に動かそうとした。
「ちょ、ちょっちょっちょっちょっ! ちょっと待ってくださいよ、テイラーソンさん!」
 ドアが閉じる寸前、花柄のブーツが隙間に入りこみ、ドアの動きを阻止した。
「いくらなんでも、そんな追い払い方ありますか? 話を聞いてください!」
「君の依頼は今まで散々聞いてきたじゃないか」
 ジェームズは構わずドアを閉じようとするが、彼女のブーツは右に左に動き、どうにか脛より先を玄関に侵入させようと四苦八苦している。このガッツだけは大したものだ。
「まだ昼間ですよ? 戸締りには早くないですか?」
「生憎だが、廃業を決めたんでね」
「そんなの聞いてません! いつ決めたんですか?」
 もちろん、今この瞬間だ。
 彼女の恋愛遍歴が凄まじいことは既に知っていたし、これ以上それに関わるのはご免被る。
 この想定は彼女にも伝わっていたらしい。
「違います、今日はそういう個人的な依頼じゃありません! 浮気調査とかそういうのでもないです!」
「ここで嘘をついても意味はないぞ」
 ドアノブを捻る力を少しずつ強めていく。壁越しに聞こえる「ぐえーっ」という声がやや大きくなった。
「遣いで来たんです! 刑事部長があなたに会いたがっています!」
 ジェームズの手がピタリと止まる。
「何?」
「て……テヅカ刑事部長です……」
 しばらく考えてから、ようやくジェームズは事務所の扉を開いた。荒い呼吸で自分のことを見返す、スクルドターミナル市警の刑事としてのリリモンがそこにいた。



「……あぁ、そうだ。俺も残念だがね。この件はくれぐれも内密に。それから……」
 頻繁に怒鳴り声が響く待合所や、捜査員が常にあわただしく出入りし続けているガレージ。
 それらとは違い、手塚琢磨てづかたくま刑事部長のオフィスは極めて整然としていた。
 リリモンに連れられて入室したジェームズに気づくと手塚は顔を綻ばせ、電話口の相手に謝り始めた。
「すまない、大事な客が来た……詳しい話はまた今度。では」
 通話を切り上げると、手塚はそれまで座っていたレザー製の大きな椅子からすぐに立ち上がり、部屋を横切ってジェームズに手を差し伸べてきた。
「ジム! 久しぶりだな!」
「元気そうだな、手塚」、
 ジェームズは数年ぶりに彼の顔を見たが、いくつか年上のはずなのに、彼は自分より十歳は若く見えた。十一年前と比べても、皺が少し増えたくらいで、髪の毛の量も変わっていないし、背筋も相変わらずピンと伸びている。
 ジェームズは快活な笑い声を上げる手塚と握手を交わした。
 一見すると警察官に見えないような彼の表情は、彼と初めて出会うほとんどの人間の警戒心を解く力がある。
 初めて出会ったのはまだジェームズが警察官だった二〇代の頃、刑事部に配属された時だ。彼はジェームズよりも、他の誰よりも早く出世し、今の地位に就いた。

「変わってないな! いや、少し老けたか? まぁいい、とにかく座ってくれ」
 勧められるがままテーブルの前の椅子に座ると、すぐに手塚は机を挟んだ反対側に腰掛けた。
 彼は相変わらず笑顔だったが、ジェームズは不自然にならない範囲で、握手の時に浮かべた笑みを消した。
「突然すまないね。君の仕事の邪魔はしたくなかったんだが、大事な話でね……君のことだから、俺が電話したところであっさり断られるのが関の山だと思ったんだ。そこでリリモンのやつを迎えに行かせた。俺よりは君に信用されているはずだからね」
「……そうか」
 頭を出入り口の方に向けると、リリモンは慌てて顔を逸らし、口笛でも吹き始めそうな表情を浮かべたまま目を泳がせた。
 どうやら手塚は、今まで彼女が個人的に何を依頼してきたのかまでは知らないらしい。
「彼女からは依頼とだけ聞いたが」
「あぁ、うん。依頼、ね」
 ようやく手塚の表情から、ジェームズが部屋に入ってから張り付いたままだった笑みが消えた。
「まぁ、半分は依頼だ」
 そう言いながら、手塚は手元に置いていたファイルをジェームズの前に滑らせた。
 ファイル自体はそれほど汚れはなく新品に近いが、相当な量の書類が綴じられているのか、既に厚みで膨らんでいた。
「そのクソな書類を見てくれ」
 ファイルを握った時点で嫌な予感はしたが、それを表情には出さずにジェームズはファイルを開いた。
 想像通り、その資料にはつい最近起きたと思われる殺人……それに、デジモンがデリートされた痕跡の記録が残されていた。
「選ばれし子ども……ハンス・ファスベンダーと、彼のパートナーのカメモンが殺された」
 即座には言葉が出てこなかった。
 十一年前、自分とともにイグドラシルと戦った仲間たち。
 あの過酷な戦争を生き延びた後、ハンスは作家として成功し、カメモンとともに静かに暮らしていたはずだった。
「ハンスは自宅で、カメモンは付近の路上で殺されたらしい。おそらく単独犯だ」
 デジタルワールドでの殺傷事件は調査が難しい。
 被害者が死亡した場合、その死体は不要なデータとしてこの世界から抹消されるからだ。したがって、こうした事件が起きた場合に「殺害された」と判断できないこともある。だが、今回の場合はジェームズから見ても、彼らが殺されたことは明白だった。
「まぁ、選ばれし子どもに恨みを持っている者など山ほどいるが。問題は、その中に単独であのシャウジンモンを殺せる者がいるかどうかだ」
「この犯人探しが依頼か?」
 眉をひそめながらジェームズが聞くと、手塚は頷きながら付け加えた。
「もう半分は忠告だ」
「忠告?」
「この事件だけではないんだ」
 手塚がさらに二冊のファイルを差し出してきたのを見て、ジェームズは眩暈を感じた。
「イリーナ・イェルチンとペンモン、それにサルマ・ルナとミケモンも殺された。非常に似た形跡だ」
「彼女たちもか……」
「何者かが、一九九九年の選ばれし子どもとそのパートナーを殺して回っている」
 大きく溜め息をつく手塚を見て、ようやくジェームズは、彼の顔に年齢相当の疲れを見た。
「だから私を呼び出したんだな」
 手塚が頷くのを見て、ジェームズは静かに立ち上がり、大きな溜め息をついた。
「私は既にリタイアした身だよ。君も知っての通り」
「今のところ、この件を表に出すことは本庁から止められているんだよ。かつての英雄がこうして殺されてしまうのはショックが大き過ぎるという理由でね。だがマスコミが嗅ぎつけるのも時間の問題だ。おまけに、俺たちも人手不足で十分な捜査をすることができない」
 手塚は背もたれに体重を預け、元の笑顔に戻ってジェームズを見上げた。
「これは君たちの世代の宿題だ。今は外部の人間である君が調べるのが、一番理に適ってると思わないか? それに……」
「?」
「同じ選ばれし子どもの君なら、犯人の見当もつくんじゃないかと思ってな」
 あっさりと、さも思いつきで出たかのような一言。ジェームズはこの言葉を、即座に否定することはできなかった。



「お待たせしました、テイラーソンさん」
 市警本部のロビーで待っていると、彼の送迎を頼まれていたらしいリリモンが現れた。
「どうかされましたか?」
「あぁ――」
 ジェームズは彼女の問いに少し戸惑ったが、リリスンは彼の視線の先にあるものを見て合点がいったようだった。そこには透明なガラスケースに覆われた道具が二つ飾られている。
「あ、タツキさんのデジヴァイスとタグですね」
 選ばれし子どもの証である二つの小さな道具。薄い楕円形をした、中央に液晶画面のあるものがデジヴァイス、そしてその隣にある金色の板――中心に半透明のプレートが嵌められている――がタグだ。
 どちらも、ジェームズが持っているものと同じもの。
「これは……」
「もちろん、レプリカですよ。本物は見つかってませんから」
「……あぁ、そうだな」
 分かっている、というようにジェームズは頷く。
 リリモンが明るい声で、手を出入り口の方に向けた。
「さ、行きましょう」

「そういえば」
 警察本部の出口まで案内されている最中、前を黙って歩いていたリリモンが、唐突に声を掛けてくる。
「ガブモンが亡くなられたそうですね」
 さりげない一言だが、この言葉はジェームズにとってはボディブローのように効いた。
「私、仕事があって葬儀に出席できなくて……休みの日にお墓参りには行ったんですけどね。ご病気だったとは聞いてましたが、それでも驚きました。テイラーソンさんは……」
「出席してない」
 ありのまま、答える。
「え?」
「私も、彼の葬儀には出なかったんだ」
 リリモンは驚いて立ち止まり、信じられないというような表情を浮かべてジェームズを見返した。
 それから口を動かそうとして逡巡してから止め、また口を開こうとして……という動作を二、三回繰り返した。
「……いえ、あの……そうでしたか、すみません……」
「いいんだ」
「まさか、その、パートナーだったテイラーソンさんなら、お別れを伝えるために出席してるとばかり……」
「パートナーといっても、十一年も前に関係を解消したからな。彼とはそれっきりだった」
 そう、それっきり……それっきりだ。
 彼は確かに長い冒険や戦いを生き抜いた戦友。かけがえのない、とても重要な存在だった。
 当時は。

 一九九九年の選ばれし子どもは八人。
 ジェームズ・テイラーソンはそのうちのひとりで、かつてはパートナーのガブモンとともに世界を救った英雄と呼ばれた。
 ガブモンとのパートナー関係は二〇三八年のイグドラシル戦争後に解消し、現在はスクルドターミナル郊外で小さな私立探偵業を営んでいる。
 この街に住む多くの人々はそれを知らないし、選ばれし子どもに興味を抱く者も、今はいない。
 彼にとっては、それで良かった。



 デジタルワールドとはいえ、リアルワールド同様に天候はある。もちろん、場所によってはだが。
 その点では、このスクルドターミナルは、他のエリアに比べれば人間にとって過ごしやすい。暑さにせよ寒さにせよ、衣服を調整すればどうにか耐え凌げるレベルだ。
 それでも、この季節にもなると、野外を長時間歩くのは楽ではない。
「はぁ〜……心も世間も寒いねぇ、本当……」
 サイドデールで結んだ黒髪を揺らしながら、橘春子たちばなはるこは浮かない顔で言った。隣を歩く長いブロンドのシーラ・ワトソンもそれに頷く。老朽化したオフィスビルの間を走る道路は、中途半端に溶けてぐちゃぐちゃになった雪に覆われている。
 このせいで、いつもなら三十分程度で辿り着ける孤児院までの道のりは、普段の数倍険しいものになっていた。おまけにボロボロのブーツの中に水が染み込み、足先が酷く冷たい。保温性に優れた学校の制服を着ているだけましだが、動きやすいとはいえず、早く帰宅して着替えたいと春子は思っていた。
「仕方ないよ、春子。もう十二月だし……」
「まぁ、天気のことはもう我慢するよ。けどさ……テストの成績、どーにかしてアンドロモンさんに隠せないかな……」
「無理でしょ……もしかしてまた成績悪かったの、春子……?」
「……いや? まぁ、何て言うか、ホラ、アンドロモンさんも無理に全員の成績見る必要ないじゃん? 大変そうだしさ……」
 シーラの冷たい視線が春子に突き刺さる。なまじ整った顔つきな分、余計にダメージが大きい。
「はぁ……駄目だよ春子。大体、最近ドーベルモンと一緒に夜中に出歩いてるでしょ? アンドロモンさんには黙ってるけど、あれ怒られるよ?」
「あー……さっすがシーラ、ちゃんと黙っててくれたんだ! やっぱり持つべきものは友達だね!」
「……あのさ」
「はい、ごめんなさい」
 乗り切れなかったことを実感し、春子は顔の前で両手を合わせて彼女に謝る。
「私は怒ってないよ? 怒ってないけど……一体何してたの、あれ?」
「それはー、えーと……」
 シーラに問い詰められ、春子は困惑した顔で視線を彷徨わせた。
 どうしよう、そろそろ隠しておくのも限界かな? いや、でもな……。
 そんな時、背後から聞き覚えのある音が聞こえてきた。この時間にいつもやっている、報道番組のオープニング映像で流れる音だ。
「あ」
 通りに面したオフィスビルの一角に備えつけられた大型ビジョン。いつもならリアルワールド再開発に向けた求人広告が頻繁に流れているが、今日はタイミングが良かった。
 今日はこれを見るつもりだったんだ。
「シーラ! ニュース見よう、ニュース!」
「え、え?」
「社会勉強! 世の中のことは知っておかなきゃ!」
 春子の声が弾む。シーラの驚いた顔を無視して、春子は彼女の学生服の袖を掴み、そのままビジョンの真下へと彼女を連れていく。
「あ、あの、何か気になってるニュースでもあるの?」
「え? ないよ? いいからいいから」
 ビジョンの中に移る女性キャスターは一礼してから、まずはスクルドターミナルの失業率について話し始めた。デジモンの失業率が十五パーセントを上回ったこと……政府が新たな雇用を生むために、ランプライト社が行っているリアルワールド再開発事業へ大規模な資金援助を行うこと……。
 このニュースが流れている間、春子はしばらくの間、次のニュースがいつ始まるのか期待して待った。ちらちらとシーラが自分を盗み見ているのも気づかなかった。
 続いて、ウルドターミナルで続いている内戦のニュースが流れ始めた。春子は若干がっかりした表情を浮かべながらも、まだしっかりと番組を見た。
 次だ、次。
 それから、数日前に報道された政治家のスキャンダルについての続報が始まった。集中力が途切れたのか、春子の表情は露骨に曇り、靴で足元の雪に適当な記号を書き始めた。シーラが寒さに震えているのが分かる。
「春子、そろそろ帰る……?」
「うーん、もうちょっと……」
 次かな、次にきっと……。
「ごめん、春子……私、寒いから先に……」
 シーラのその一言は、春子の耳には入らなかった。彼女の耳に入ってきたのは、女性キャスターがビジョンの奥でついに読み上げた、そのニュース。
“昨夜のニュースです。今朝、スクルドターミナル市街地のコンビニエンスストア前に、ゴブリモンが数体拘束されているのが発見されました。警察の調べによると、このゴブリモンたちは以前にも別の店舗に押し入り、売上金を奪い取っていた疑いから指名手配され……”
 春子の心臓が大きく跳ねた。そして次に切り替わった映像に、彼女の視線は釘付けになった。
“また、現場の壁にはオレンジ色の塗料で描かれた、太陽のような形のマークも残されており、警察では他の事件との関連も含めて捜査を……”
 その画面には、確かにその印が映っていた。多分、公に姿を現したのは十一年ぶりの、その記号。
 誰もが忘れてしまっているらしい形。
 勇気の紋章、と呼ばれていたもの。
「っしゃあっ!」
 春子はそう叫んで、シーラをまたしても驚かせた。


スレッド記事表示 No.4819 グッド・オールド・フューチャー 0/1999年の選ばれし子どもRyuto2018/01/25(木) 23:00
       No.4820 グッド・オールド・フューチャー 1/依頼Ryuto2018/01/25(木) 23:01
       No.4821 グッド・オールド・フューチャー 2/出会いRyuto2018/01/25(木) 23:02
       No.4822 あとがきRyuto2018/01/25(木) 23:35
       No.4844 に、20年……だと夏P(ナッピー)2018/02/05(月) 22:35
       No.4864 感想返信Ryuto2018/02/11(日) 01:20