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ID.4815
 
■投稿者:マダラマゼラン一号 
■投稿日:2018/01/20(土) 15:10


六月の龍が眠る街 10-3
 夏目秀が目を開けると、鉤爪のついた自分の手が目に入った。自分はルーチェモンにめがけて飛んでいるのだと彼は自覚する。上も下もない空間でも、自分の進んでる方向が正しいことはなぜか分かった。
「これが、〈スピリット・エヴォリューション〉?」彼は呟く。北館達から伝え聞いていたものとは随分違う。自分自身がデジモンになったような感覚は少ない。むしろ誰かに、自分の体を預けているような…。

 あら、気づいた?

 自分の体の中から聞こえた声に、彼は目を大きく開いた。やはり自分は、他の誰かと一緒に一つのデジモンとなったのだ。百川梢が、ナイトモンとやって見せたように。
 彼がしたのは〈スピリット・エヴォリューション〉だ。じゃあそこにいる他者は、自分のスピリットなのか? そんな存在とは、一体何者だ?

 うっそ、まだ分かんないわけ?

 分かっている。気づいている。自分にとってそんな存在は一人しかいないことなど。彼は呟いた。



「テイルモン…」



 何よ、そんなに驚くことないじゃない。



「俺を、恨んでないのか?」



 私はステファンのこと、恨んだりしないわ。



「また一緒に…戦ってくれるのか?」



 当然よ、パートナーじゃない。



「…ありがとう」



 何よ、泣くことないじゃないの。
 それより見てみて、ステファンが猫は嫌いだっていうから、龍になってみたの。どう? 私、キレイ?



「ああ、とってもキレイだ」



…それじゃあ、行くわよ。



「ああ」



 桃色の龍ーーホーリードラモンはその身をしなやかにくねらせ、闇の満たす空間を切り開いていった。

          *****

「ヒトミ! 大丈夫か?」
 僕は握ったままの手を引っ張って尋ねた。すぐ側から声が返ってくる。
「…うん、ここはどこなの?」
「さあな。でも…」僕は目の前を指差した。

 暗闇の中、光源もないはずなのに僕達ははっきりとその姿を見ることができた。
まるで胎児のような姿だが、大人の男ほどもある背丈とぎょろりと動く目がそれが普通ではないことを告げている。
 その尾の先は鋭い棘になっていて、背中からはえる天使の翼が、辛うじてそれが何であったのかを伝えていた。
「これが…ルーチェモン?」ヒトミが呟く。

 その言葉に応えるように、胎児が奇声を発した。一体体のどこから出しているのか分からないその声は甲高く。耳障りに僕達の耳をついた。頭が割れんばかりに痛む。
「くそっ! なんてやつだ」僕は痛みにうめきながら、ルーチェモンに向けて一歩進んだ。
「でも、これがルーチェモンなんだね。シュウさんなんだ!」ヒトミもその小さな足で、少しづつ歩みだした。
「目の前には目指した敵、僕達には何の武器もない」僕が言う。一歩胎児に近づくたびに頭の痛みはひどくなる。自分達はこのままおかしくなってしまうのかもしれない。
「やることは…一つしかないよ」ヒトミが言った。
 ヒトミが生まれてからずっと、僕と彼女は仲良しだったのだ。互いの考えることくらい見当がつく。
 胎児は奇声をあげ続けている。こないで、こないでとでも言うかのように。
 それでも僕達は少しづつ歩み続け、ついにそれに触れることのできる位置にまで近づいた。ヒトミと顔を見合わせ、頷く。



 僕達は、その胎児をきつく抱き締めた。

           *****

「なんだ…これは」
 ホーリードラモンは呟いた。心の中に暖かいものが流れ込んでくる。それが何かはすぐ分かった。

「…辻さん達、来てくれたんだ」



 当然でしょ。あいつらはくるわよ。



「これが、俺が本当に欲しかったもの」



 ずーっと昔に、ステファンは憎まれて殺されたんでしょう? でも、あいつらがそんなことすると思う?



「ずっとあったのに、俺はなんてバカだ」



 そうよそうよ。私のアプローチにもいつまでたっても気づかないフリして!



「なあテイルモン」



 何?



「この気持ちを、アイツにも届けてあげたい」



 ほんっとお人好しね、ステファンは。酷い嘘を吐かれたけど、お人好しなのは本当だって知れて、嬉しいわ。



「行こう、テイルモン」



「勿論」


          *****

 桃色の聖龍の牙を前に、ルーチェモンは何もできなかった。
 〈グランドクロス〉も、かつて弟子に伝授した〈セブンヘブンズ〉や〈セフィロートクリスタル〉、〈ヘブンズ・ジャッジメント〉も通用しなかった。
「畜生! なんでだ!」彼の言葉に聖龍が応える。

「お前にはまだ分からないのか? 今の俺が、負けるはずないのさ」

「俺は神だぞ? どうしてその力がお前には通用しない!」

「お前がいつまでも傲慢なままだから教えてやるけど、誰もお前のことを神なんて言ってる奴はいないぞ?」

「何を言ってる?」

「お前、自分の肩書きを忘れたのか? 〈最も人間に近いデジモン〉、それがお前だ。人間らしさを持っていた頃のお前は確かに最強だったが、神なんてものに憧れちゃあおしまいだよ」

「黙れ! 黙れ! 黙れ!」

「分かったよ。言葉はいらない。これで分からせてやる!」

 〈ホーリーフレイム〉


 光り輝く炎が、ルーチェモンを貫いた。

       *****

「やったわ! ステファ…」
 自らの意識の中で叫んだテイルモンの言葉は、途中で途切れた。

 そこにもう、夏目秀はいなかった。聖なる桃色の龍の姿もなく、テイルモンはただの、猫のふりをした無力な鼠だった。

 猫だの鼠だの龍だの。こうなると、自分が何者かも分からないわね。

「それもこれも全部、ステファンのせいよ。最後は私を置いていって、本当にバカね」

 そう呟くと、彼女は前に目を向ける。自分が憧れた美少年と同じ顔が目の前にはあったが、傲慢に歪んだその顔に、彼女は不思議と少しも心惹かれなかった。
「あんたも、そのくらいバカだったら良かったんじゃない?」
 その言葉に抗議するかのように、ルーチェモンの体が輝きだす。最後の抵抗だ。それはテイルモンへのものか、あるいはどこかで同じようにルーチェモンと対峙している辻玲一と神原ヒトミへのものか。

「どっちにしろ、そうはさせないわ」

 テイルモンは拳を握りしめ、また開くと、自分の手をまじまじと見つめた。手にはめられた、毛糸のグローブ。

「高視のやつ。やっぱり、趣味悪いわね」

 拳を振り上げると、テイルモンは地面を蹴った。

          *****

 〈黙示録の龍〉の咆哮に、北館は空を見上げた。その声は今までのどれよりも大きく、空気がびりびりと震えるのがわかる。とっさにメギドラモンがその手で彼のいる地面を覆った。
「サンキュー、ギギモン」
 耳を塞いでそう叫び、隣に目を向けると、百川も同じようにしていた。ナイトモンの兜は両手に抱えたままだが、茫然自失とした様子の加納に代わってヒュプノスと連絡を取っている。
 加納の様子に首を振ると、彼は再び空を見上げた。闇のスピリットの力で常人よりも多少夜目が効く北館は、闇の中でもルーチェモンの様子がおかしいことを見逃さなかった。
 身体のあちこちに走るノイズ、最初は細かかったそれは、すぐに大きくなり、最後にはその巨体自体が点滅するように不規則に現れたり消えたりした。
 消えてから現れるまでの間隔がだんだん大きくなり、そしてついに、ルーチェモンは再び現れなかった。
 言葉を失いながらそれを見つめていた北館の頭上で、熱風が吹いた。
「ギギモン!」
 そう叫んで龍を見送った北館の目の前に、光る何かが落下した。大して見なくても分かる。ディースキャナだ。
「帰ってきたな、えらいえらい」
 そう言いながら彼は持ち慣れた端末を拾い上げる。その顔に怪訝そうな色が浮かんだ。
「これ…」
 彼は空を見上げる。
「なんでだろ、あったかいや…」




     *****




 頬に吹き付ける冷たい風で、少女は目を覚ました。

 いつもの夢かな、彼女は目を開けようとする。その瞼が、妙に重かった。わたし、疲れちゃったみたい。なんだか体が動かなくて、すぐにも眠ってしまいそう。変ね。夢の中なのに眠ってしまいそうだなんて。
 いつもの夢とは違って、少女を乗せて飛ぶ龍はいなかった。代わりに彼女は、きりりと冷たい風の中をいつまでも落ち続けている。
 わたし、またあの砂漠に行こうとしてるんだ。少女は思う。お父さんとお母さんがいる、あの砂漠に。前にあそこに行った時には二人の見えなかったけど、今度はちゃんと会うことができる、そんな気がする。

「−−−! −−−!」

 なあに? 近くで声が聞こえ、少女は腹立たしげに呟く。わたし眠いんだから、静かにして欲しいのに。

「−−、−−−−−!」

 うるさいなぁ。黙っててよ。

「−−ミ! ヒ−−!」

 邪魔しないで、わたし、やっと父さんと母さんに…

『違うだろ?』

 彼女の頭の中で、不意に声がこだました。なに、今度はだあれ?

『君には−−−−−がいるじゃないか。俺にテイルモンがいたように』

 何を言ってるの?

『目を開けて、耳を澄ますんだ。なあ、頼むよ。元気でいてくれ』

 声がそう言い終わると同時に、聞きなれた掠れ声が、耳に飛び込んだ。




    *****




「ヒトミ!」
 何度目だろうか、僕の叫びにようやくヒトミが目を開いた。〈地獄〉から投げ出された僕達は、地面に向けて高速で落下をしていた。
 不思議と恐怖と混乱はない。頭はすっきりして、色んなものが見えすぎるくらいに見える。
 だから、迷わず、手を伸ばした。ヒトミの小さい手を、しっかりと掴む。

 不意に、周囲が暖かくなったように感じられた。それがはっきりと熱だと分かる頃には、僕達の落下の速度は幾分緩やかになっていた。

「上昇気流か?」
 どうして急にそんなものが、そう眉をひそめた僕に、ヒトミが叫ぶ。
「おじさん! 下!」
 彼女の声に従うままに下を見た僕の目に、巨大な紅い龍が映った。
「ギギモン…」
 龍は大きく雄叫びをあげてそれに返すと、その大きな手で、僕達を優しく受け止めた。

 ギギモンの手の上で、僕は荒く呼吸をした。恐怖はないと言ったが、だいぶ長いこと落下していたのだ。心臓は早鐘を打ち、足は小刻みに震えていてどうにもまだ立ち上がれそうにない。

 隣のヒトミに目をやると、彼女はあらぬ方向を見つめていた。その目から流れる一筋の涙が夜の闇の中で光った。

 涙の理由は分からない。それでも、手は動いた。伸ばした指で、その熱く澄んだ涙をそっと拭う。その指を小さな手で包み、ヒトミがこちらに目を向けた。
「おじさん…」
「どうした?」
「お父さんと、お母さんね。また、見えなくなっちゃった」
「そうか」僕はそれだけ言って、ヒトミと同じ方角を見つめた。
「でも、いるんだな。明久と咲は」
「うん」ヒトミが強く頷く。
「いるよ。ちゃんと見てくれてる。わたしの、おじさんの、みんなの未来を」

 一瞬、どこかのビルの上に懐かしい二人の笑顔が見えた気がした。

 頬に熱いものが当てられる。驚いて下を向くと、いつの間にか流れていた僕の涙を指で拭ったヒトミが、笑顔を浮かべていた。






     *****






「ほら、こっちだよ!」
 初詣で賑わう神社で、着物姿の一条秋穂が北館祐と三浦真理に声をかけた。
「わっ、すごい行列!」同じく着物を着た真理がはしゃいだ声を出す。
「本当にこれ、並ぶのか?」北館がうんざりしたように言った。
「ユウ、そんなこと言ってると神様に見放されるよ」
「真理ちゃん、すっかり呼び捨てが板についてきたじゃないの」
「や、やっぱり変かな?」
「変じゃないよ。好きに呼んでくれ」
「私はユウじゃなくて秋穂ちゃんに聞いてるの!」
 真理に怒られ北館はやれやれと肩をすくめる。
「しかしあんなことがあってから一週間も経ってないっていうのに、みんないつもと変わらないな」
「真夜中の出来事だったからね」
「それにしたって、何人死んだと思ってるんだ。オニスモンの時の比じゃないだろう」
「あの山についた引っ掻き傷については、いろんな都市伝説が生まれてるらしいけどね」真理が悪戯っぽく笑った。
「夜中に突如街を覆うほどの大きさの龍が現れ、山を引っ掻いたとか?」
「ユウ。それ、当たってるからー」
「ねえねえユウくん、明日もいつもみたいに新年の挨拶に行っていいよね」
「勿論だよ。秋穂のお母さんの作る伊達巻、美味しいんだよな」
「えっ、何。二人して新年から会うの?」北館と秋穂の会話に真理が驚いた声を上げた。
「幼馴染だからね。昔からユウくんの家には新年の挨拶に伺ってるのよ。勿論真理ちゃんも来るよね?」
「いや、行きたいけど。ユウの家ってどこなの?」
「え? 私の家の二軒隣」
「すぐ近くじゃん! 私知らなかったよ? 秋穂ちゃんの家に住んで三ヶ月になるのに! ユウと付き合って三ヶ月になるのに!」
「真理、落ち着いて。周りの人が見てる」
「これが落ち着いてられるわけないよ!」
「えっ何、二人とも恋人を家に呼んでどうのみたいなの済ませてないわけ?」
「秋穂、何を言い出すんだ」
「それがまだなの! 私が何回オーケーサイン出したと思う? ユウも気づいてるの、鈍感なんじゃなくてたんにヘタレなのこいつは!」
「真理、ひょっとして酔ったのか? さっきの甘酒で?」
「…ユウくん、来年の目標は決まったね」
「そんな目で見るんじゃない、秋穂」
「別にぃ? どんな目でもみてないよ」
「…ところで、話は変わるんだけどさ」北館が言った。
「何?」
「今度みんなでまた、夏目の家に行かないか?」
「…」
「そろそろ整理しないといけないだろ。高視さんに、夏目に、テイルモンのものを」
「…私はユウに賛成」真理が言った。
「そうね、私もそうするべきだと思う」秋穂も言った。
「ごめんな。こんなこと言うのは良くないって分かってるんだけど、あそこには、まだ残ってる気がするんだ。ぼくと真理、秋穂にシュウ、それにテイルモンの五人で話した、クリスマスパーティの帰り道がさ」
「…ユウくん」
「分かってるよ」
 北館は冬の夜空を見上げ、呟いた。

 前に、進まなきゃ。

          *****

「大晦日まで出勤かい? ヒュプノスのオペレータは忙しいんだね」
 フィルターから滴り落ちるコーヒーのしずくをみつめながら、百川梢が千鶴に声をかけた。
「…誰かさんがヒュプノスに対する背信行為の責めを負って大晦日までここに拘束されて、暇つぶしに豆からコーヒーを淹れてるのを気の毒に思ってここにいてあげてるんですけど」
「実家には帰省しないのをなんて説明したの? 彼氏と一緒に初詣?」
「…そんなこと言うと、作ってきた栗きんとんあげませんから」
「…ごめんよ」
 百川が謝ると千鶴は満足げにパソコンを叩いた。それを見て百川が問いかける。
「それはそうと、今は何の仕事してるの?」
「クラヴィスエンジェモンさんの捜索ですよ」 千鶴はモニターから顔を上げずに応えた。
「…そう。加納はどうしてる?」
「無理に元気作ってますよ。今日も一人で捜索に出てます」
 ルーチェモンによって廃墟と化した街の一角から、白い鎧の破片が見つかった。それ以来、加納満は必死でパートナーを探している。
「百川さんも、後で何か言って上げてください」千鶴が言った。
「そうだな」パートナーを失った悲しみは、痛いほどよくわかる。しかし、彼女は言葉を重ねた。
「でも、千鶴ちゃんの言葉が一番効くと思うよ。私は」
「…気休めはいいですよ」
「気休めじゃないよ。君はずっと、加納のことをみてきたじゃないか。誰よりも、何を言うべきかわかるはずだよ」
「そうだといいんですけどねー」
 千鶴は机に突っ伏してあーやだやだと声を上げた。その側に百川がコーヒーを注いだマグカップを置く。
「…あ、ありがとうございます」
「千鶴ちゃんみたいな子にこんなに想われて、加納が羨ましいよ。本当に」
 その時、彼女達を青い光が照らし出した。部屋の中にあるパソコンが一斉に起動したのだ。千鶴が慌てて立ち上がり、百川も起動したパソコンの一つに駆け寄った。
「まさかハッキング?」
「ルーチェモンとの戦いで疲弊したところを狙われたのかな」百川がパソコンを覗き込んだ。
「とにかく、エージェントに連絡を」
「…あ、待って! 千鶴ちゃん!」百川が受話器を取った千鶴を呼び止めた。
「何ですか?」
「こっちきて、見て」彼女は目の前のパソコンのモニターを指差す。
 怪訝な顔をして駆け寄り、モニターを覗き込んだ千鶴の顔が輝いた。
「これは…」
「私もそうだと思うよ」
「加納さんに連絡しなきゃ、今すぐ!」
「あ、ちょっと待ってくれよ」
 電話の方に向かった二人が覗き込んでいたモニターには、青い画面に白地でメッセージが映されていた。

  Happy New Year My Master.

           *****

 僕はバーのカウンターで御節料理を作っていた。考えてみれば妙な取り合わせだ。ヒトミはもう奥の部屋で眠ってしまっている。ギギモンが、甘く煮付けた黒豆を不思議そうに眺めた。その大きな口に豆を放り込んでやる。

「…ちょっと、作りすぎたかな?」僕はギギモンに話しかけた。相変わらず返事はない。あんな戦いを乗り越えた後でも僕には冷たいままだ。

「でもいいさ、どうせ最後には色んな奴等が食べにきて、これだけじゃ足りないってことになるんだ」僕は構わず語り続けた。
「しかし色んなことがあった一年だったな。お前がこの店にやってきて、この店にもたくさんの常連ができて…」ギギモンはちゃんと話を聞いている、と僕は思った。ただ何となくである。

「お前には何度ヒトミを守ってもらったかな? ムルムクスモンの件にしたって、お前のおかげで死体を見つけられなかったら手遅れになるところだった」
 作りたてのなますの酸の匂いは胸に蘇ったあの死体の映像をかき消すのに役立った。

「お前は突然やってきたのに、あっという間にうちに馴染んだよな。まるで、僕やヒトミのことを昔から知ってるみたいに」
 そこまで言って、僕は顔を上げた。ある想像が脳裏をよぎったのだ。

 幼年期は生まれたばかりのデジモンだという。それなのにギギモンは、どんな状況にも動じず、上手く立ち回って見せた。特に青森の街で、四ノ倉正敏の死体を見つけた時なんかそうだった。まるで僕達を導くみたいに−−。そして、ヒトミを守ろうとする強い想い。パートナーとはいえ、そんな気持ちがすぐに芽生えるものだろうか?

「なあ、お前、僕やヒトミのことを昔から知ってたのか?」

 ギギモンが尻尾を振った。

「僕はお前のことを、ずっと昔から知ってたのかな?」

 ギギモンが尻尾を振った。

「なあ、お前ひょっとして−−」



 それはほんの想像。
 ある時インターネットに放り出された男から剥がれたデータがネットの海を巡り巡り、一つの卵になった。そういう夢の物語。

 その卵から孵った幼い龍が、かつて彼が人間だった頃の友人達の元に引き寄せられた。そんな希望の物語。









「お前ひょっとして、明久か?」










 ギギモンはころりと転がって、顔を僕に向けた。その目は閉じられ、かすかな寝息が聞こえる。

「え…?」

 僕は拍子抜けした。ギギモンはずっと眠っていて、さっき尻尾で返事をしたように見えたのも、気のせいだったのだ。

「…なんだよ」

 それでも。

「さっきの話、やっぱり僕はそう思うんだ。どうだろう?」






 辻の問いかけなど聞こえないかのように、龍はゆっくりと眠っていた。


スレッド記事表示 No.4813 六月の龍が眠る街 10-1マダラマゼラン一号2018/01/20(土) 15:06
       No.4814 六月の龍が眠る街 10-2マダラマゼラン一号2018/01/20(土) 15:08
       No.4815 六月の龍が眠る街 10-3マダラマゼラン一号2018/01/20(土) 15:10
       No.4816 六月の龍が眠る街 エピローグマダラマゼラン一号2018/01/20(土) 15:12
       No.4817 あとがきマダラマゼラン一号2018/01/20(土) 15:15