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ID.4765
 
■投稿者:マダラマゼラン一号 
■投稿日:2017/08/07(月) 19:51


六月の龍が眠る街 第四章 後編
「俺がヒュプノスのS級エージェントに選ばれたのは高校生の頃、高視と並んで最年少記録だ」加納の話の語り出しから僕は驚いてしまい話の腰を折った。
「お前ら、そんなすごいやつだったのか」
「まあな」彼は誇らしげにふふんと鼻を鳴らしたが、すぐに真剣な顔に戻った。
「でもそのことは、仙台支部ではあまり騒がれなかった。高校生の頃にもっとしんどい任務についていたエージェントがいたからさ」それが神原明久で、その任務とは〈選ばれし子ども〉である工藤咲−−後の神原咲−−の護衛だったというわけだ。
「俺は最初、明久さんをライバルだと思ってた。あの人よりもっと凄いことをしてやるって、若かったんだな」
そうやってライバルとして関わっていくうちに、加納はすぐに明久に懐いた。そこは明久の実力と懐の深さ−−ここは僕はあまり認めたくないけれど−−の賜物といったところだろう。
「咲さんのパートナーデジモンは、明久さんの訓練でどんどん強くなっていた。完全体まで育った〈選ばれし子ども〉のパートナーはほかに例がない」
先とそのパートナーは優秀なエージェントである明久とともに全国の注目を受けていた。
ところが。
「そのデジモンが二年前、突然進化して暴走したんだ」

          *****

息を荒くしながら膝をついたダスクモンをメルキューレモンは嘲笑うように見下ろした。
「その妙な剣も、君悪い目玉の催眠術も、私の〈イロニーの盾〉には敵わないみたいね」
ダスクモンは今起こっていることが信じられなかった。自分の力は一般的な〈十闘士〉のそれを遥かに凌駕するもののはずだ。しかし、腕の妖刀から放つ〈エアオーベルング〉は跳ね返され、鎧の目玉を用いた催眠術〈ガイストアーベント〉は鏡の盾に写された目玉で自分自身をフラつかせる始末だった。この二年間で、膝をついたのは初めてのことだ。
「さっ、貴方のムカつく声がどんなお顔から出ているのか拝見するとしましょうか」
ダスクモンは目の前に立つ美しい声の主が自分の天敵であることを悟ったのだった。

          *****

「二年前に暴走した咲のパートナーは、世界的にも稀なレベルの〈デジタルハザード〉を引き起こした。不謹慎かもしれないが、ネットワーク界のチェルノブイリって呼ばれてる」加納は言った。咲のパートナーが遂げた進化は全く意味不明の、突然の出来事だったらしい。愛らしい鳥の姿をしていたそのデジモンは禍々しい色の翼と空を覆うほどの巨体を手に入れた。そして我を失い暴走したのだ。
「俺たちエージェントも事態の収拾に必死になったさ、無視できない事態に十闘士も出て来た。でも俺たちはバカだったし、多分向こうもバカだったんだろう。俺と明久は、二体の闘士と戦った。奴らが事態の元凶だと思ったんだ」加納の声が震えている。僕は彼の方を見ずに、ただギギモンの歩みだけに目を向けていた。
「暴走を引き起こした〈アイツ〉が現れて誤解が解けた時には、事態は取り返しのつかないことになっていた。二人の闘士は〈アイツ〉を引き止め、俺たちは暴走したパートナーを必死で説得してる咲さんのとこに向かったけど、その時にはもう遅かった。俺たち三人は戦いに敗れ、三人一緒に死ぬところだった」
それなのに。と彼は言う。
「二人は、俺だけこっち側に突き飛ばしたんだ」
加納は今や声をあげて泣いていた。その肩を抱く。
「俺はあの時死んでたはずだ。終わった人間なんだよ」
「馬鹿言うな」しかし、彼の言い分を強く否定できない。この二年間、僕も似たような思いを抱き続けてきたのだ。
「そして、二人は自分達ごと、バケモノになった昔のパートナーをインターネット内に転送した。ネット転送に人間の体が耐えられるわけがない。二人はズタボロにされて、身体中が燃えたひどい状態で現実世界−−ヒトミちゃんの家の玄関に吐き出されたんだ」
その後、暴走したデジモンのデータは無害化され、今でもその質量はそのままにヒュプノス管理のもとでインターネットに置かれているのだという。その事件で凍結されてもいいはずだった〈選ばれし子ども〉計画は本部によって続行され、一度は加納達と協力した二人の闘士、闇と鋼は本部のその方針に衝撃を受けて対ヒュプノス強硬派となってしまったのだ。
「事件を引き起こした、〈アイツ〉ってのはどうなったんだ?」僕が尋ねた。
「死んだらしい、自分の暴走させたデジモンに殺されたんだ」
ギギモンが立ち止まり、ここだ、と言いたげに僕たちの方を向いた。
そこは町の郊外にある。古い廃屋だった。思えば随分歩いたものだ。ヒトミと秋穂はどうしているかなと僕は思った。

          *****

「お前達は…」高視聡はメルキューレモンとダスクモンをみて声を失った。思わずメモしておいた目的地の住所を見る。間違いなくここだ。
「オーケー、エージェントさん。詳しい説明は省くけど、この場合の味方は私よ」メルキューレモンが言った。
「この場に味方になれる二人がいるかよ」苦しそうな声でダスクモンが皮肉を飛ばす。
「おいサトル、こいつはどうなってるんだ?」グランクワガーモンが現れ、横の高視に尋ねた。
「ねえ聞いて、エージェントさん。私はもうあなた達が守る〈選ばれし子ども〉に手を出す気は無いわ。私が今したいことを教えてあげる。このクソ野郎を倒したいの」メルキューレモンの声を自分はどこかで聞いたことがあったかな、と高視は思ったが、すぐに現実に意識を戻す。
「その言葉、信じていいんだな?」信用の程度においては二人のどちらも限りなくゼロに近いが、ダスクモンには実際に殺されかけているのだから、味方をするとしたらメルキューレモンだろう。
「おいおいマジかよ」ダスクモンはひどく苦しそうに咳き込んだ。
と、その顔がひどく歪み、ダスクモンは突然むくりと立ち上がった。
「ちょっと、どこにそんな力が残ってたの?」驚いた声で叫ぶメルキューレモンを尻目に、ダスクモンは恐ろしいまでのスピードで逃走を図った。
「グラン!」高視が命じるより早くグランクワガーモンが電気の弾丸をいくつも放つ。一発はダスクモンの左腕に当たり、もう一発はその仮面の左半分を砕いた。よろめき、一瞬歩みを止めたダスクモンが振り返る。
「女の子…?」メルキューレモンが呆然として呟いた頃には、その影はもう形もなかった。
「何してるんですか! って、ええ?」立ち尽くす高視とメルキューレモンの前に夏目が現れ、素っ頓狂な声をあげた。
          *****
私は痛む腕を押さえてフラつきながら歩いていた。この有様ということは私はきっと戦いに敗れたのだろう。この二年間で初めてのことだった。
ポケットの携帯電話が鳴り出す。私は目を瞑った。相手が誰か分かっていたのでよっぽど無視してやりたかったが、出ないわけにはいかない。私は携帯電話を耳に当てた。
「やあ、私が力を注いだおかげで無事逃げきれたね、感謝したまえよ」いつもよりも間近にあの男の声を聞き、私の耳は腐り落ちてしまいそうだ。
「もう二度と、私の身体に触らないでほしいわ」
「実際に触れてはいないさ、そうしたいのはやまやまだけどね。君はひどいヘマをやった。今回の戦いをきっかけにヒュプノスと二人の闘士は合同の道を辿るだろう。それぞれが持つ情報を合わせた時に、奴らがなにが起こっているかを知るのは時間の問題だ。急がなくてはいけない」
「そう、それで、私にどんなことで埋め合わせをさせようってわけ?」
「そちらから聞いてくれるのを待っていたよ」男は甘ったるい声でその指令を告げた。
「闇の闘士を殺し、スピリットのもう半身を奪え」
私は目を瞑る。「殺したい時にレーベモンが向こうから出てきてくれるわけじゃないわよ」
男は声を立てて笑った。「馬鹿言っちゃいけない。君は闇の闘士の正体にきっと気づいているはずだ」
ああ、神様。「なんでそう思うわけ?」
「私がレーベモンを殺すよう言うたびに、君が適当なことを言って誤魔化してきたことに、私が気がついていないとでも思ったのか? 君にそんなことをする理由があるとしたら一つだけだ。君は闇の闘士である人物を知っていて、そいつに特別な思い入れがあるんだ。闇の闘士君に嫉妬してしまうよ」
「やめて」それ以上私の気持ちに踏み込まないでよ。
「やめて、とは随分勝手な言い草だね。さっきも言った通り、私は今まで君のその裏切りを見逃してきたんだ。しかし今回ばかりはどうしても闇の闘士君に死んでもらう必要がある。君は断れないはずだ」
その通り、私は断れないのだ。もう来るところまで来てしまったから。
「…少し考えさせて」
「ダメだ、今から二時間以内に殺せ。そうしないと、君の命も無い」男の声が急にきつくなった。それは悪魔の声そのもので、鳥肌が立つのを感じる。
「…分かったわ」男が大好きだよ、と言ってくる前に私は電話を切った。
私の目にはちゃんと涙が溢れている。大丈夫だ。私にはまだあの人を救うことができる。
「安心して、北館祐くん」

          *****

「これは…」僕は目をそらした。
「おいおい、勘弁してくれ」
ギギモンに導かれて入った廃屋の中で、僕と加納は吐き気と戦っていた。
焼け焦げた死体、しかし完全に黒く焦げたわけではなく、一部肉が残っていて、そこはひどく腐乱していた。白い骨がその顔から見え隠れする。
加納が鼻をつまみ、死体に顔を近づける。
「おい、よくやるなそんなこと」
「似たような死体は仕事で見たことがある。軽い検視もできるぜ」もっとも、こんなひどいのを見たのは初めてだけどなという加納に僕は舌を巻いた。全く人生経験豊富なやつだ。全部彼に任せて僕は外の空気を吸いに行こう。
「おい、待て」加納が僕を緊張した声で呼び止めた。
「なんだ、何も役に立てることはないよ」
「いや、もう終わったんだ」
「それで、何かわかったのか?」
「死者の身許、免許証が焼け残ってた」加納は死人のかつては服だったらしい炭の下からそれを慎重に持ち上げた。なるほど、ビニールのカバーが溶けているものの、免許証だ。
「それで、誰なんだ?」
「四ノ倉正敏」
「え?」
「ヒュプノスの仙台支部長だよ。俺が一時間前まで電話してた」
「それは」
「確かかって? いや、俺は死体の懐にあった免許証の名前を読み上げただけだ。きっとこの死体は別人で、たまたま死ぬときに後生大事に他人の免許証を抱えてたんだろうな」加納が冗談まじりにいうが、彼も僕も笑わなかった。
「じゃあ、やっぱりこれは」
「ああ、四ノ倉本人だろう。それじゃあ、俺が今日話した相手は誰なんだ? ご本人がこんなに腐乱するほどの時間眠ってる間、四ノ倉のふりをしてきたやつは? あいつ、俺が家系のことについて尋ねたら慌てて誤魔化したな、やはり別人なんだろう」
僕はすっかり混乱していた。「とにかく、警察を」
「待て!」加納が大声で静止する。「馬鹿を言うんじゃない。報告するのはヒュプノスの新宿本部だ。室長に直接話す。この辺に公衆電話ってないか? こうなったら、電話の盗聴も疑った方がいい」
そうやって僕らは行動を開始した。その最中、僕と加納は一瞬目を見合わせ、ギギモンを見た。
「お前、なんでここが分かったんだ?」
加納の問いに、六月の龍は無邪気に尻尾を振った。

          *****

「なあ、シュウ、僕に一から説明してくれないか?」ユースホステルの部屋の隅に立ち、電話に向かって間の抜けた声で話しかけた北館を夏目の硬い声が遮った。
「そんな時間はないんだ。いいか、一回だけ言ってやる。いまこっちにいるのは俺とテイルモン、ヒュプノスの高視さんとグランクワガーモン、ヒトミちゃんに鋼の闘士メルキューレモンこと一条さんだ。みんな勢揃い、誤解は解けて仲良く話し合ったところ、えらいことが明らかになった。というわけで俺が代表して、ロマンスを楽しんでるユウに電話してるってわけだ」
「なんて言い方をするんだ」北館はそう言って机についたままレポートをまとめている真理の方に目を向けた。彼女もこちらを見て、驚いたことにウィンクを飛ばしてきた。腰を抜かしてしまいそうになるが、なんとか耐えて電話に耳を傾ける。
「分かった、続けてくれ」
「いいか、一条さんと高視さん達は、今日の昼間ダスクモンと戦った」
「何だって?」
「黙って聞け、その戦闘の結果、ダスクモンは僕らと同じくらいの年齢の女の子が進化したものだと分かったんだ」
「そうか、それで?」あれが女の子か、北館は予想もしていなかった。
「俺たちは一つの仮説として、ダスクモンは仙台在住の高校生程度の年齢の少女だと考えた。ところで前に奴と会ったのはいつだ?」
「二週間前の〈デジタルハザード〉の時だよ、一緒にいたじゃないか」
「そうだ、その時、一条さんやヒュプノスのおかげで我が校の生徒は俺とユウ以外は無事避難をしていたはずだな? だが現場にいた高視さんによると、どうも違うらしい。もう一人、行方不明だった人物がいる。その人物は騒ぎの収拾がついた頃にいつの間にか戻ってきていたそうだ」
北館は顔をしかめた。彼は何を言いたいんだ?
「その人物が、もしかしたらダスクモンかもしれない。俺たちはその人物の正体を知るため、ヒュプノスの通信ログにアクセスした。高視さんと、オペレーターの鳥谷って人との会話だ」

          *****

ヒトミを含め、その場にいたメンバー全員が録音された音声に耳を傾けた。音声の最初は、行方不明者として報告された北館の特徴を高視が丁寧に報告しているだけだった。
「ここからだ」高視がいった。

『鳥谷さん、今の聞いてた?』
『はい、すぐに近辺のエージェントに共有します』
『ありがとう』
『それと、もう一つ行方不明の報告が来ています。二年生の女子生徒で名前は−−』


          *****

北館は唇を震わせて電話を切った。青い顔のまま真理の待つ席に戻る。
「夏目くんからの電話?」真理が尋ねた。
「そうだ」
「顔色悪いよ、夏目くんに何か悪いことでもあったの?」
北館は課外学習での話し合いの時、テイルモンがみんなに聞こえるように喋ってしまった時のことを思い出した。突然の声に呆然とする美嘉と絵里に対して、僕と夏目はその声が聞こえないふりをして誤魔化した。では真理は?




『私もなにも聞こえなかった。二人して空耳でも聞いたんじゃない?』




北館は堪えきれなくなったかのように大きな音を立てて立ち上がり身を乗り出すと、彼女のカーディガンの左の袖をまくった。そこに昨日まではなかった大きな紫色の痣がある。真理が痛みに顔を歪めた。




『グランクワガーモンがダスクモンの左腕に一発入れた。それで確かめてくれ』




「急に何するの、北館くん」彼女は驚いた声で言ったが、北館の泣きそうな顔を見て、同じくらい泣きそうな顔になって言った。
「そっか」




『それと、もう一つ行方不明の報告が来ています。二年生の女子生徒で名前は−−三浦真理』




「バレちゃったんだね」
「何で!」なんでなんだ、と北館は叫んだ。真理は哀しい顔のまま、ぽつりぽつりと語りだす。

「ねえ北館くん、私、あなたの事を高校で出会う前から知ってたんだよ」

自分があてがわれた闇のスピリット、その本来の持ち主がどんな人なのか、その人は自分が持つことになったもののために苦しんではいないだろうか。気になったから。

「北館くんは私が君から奪ったもののせいでとっても落ち込んでるみたいだった」

それなのに気丈に振る舞って、皮肉っぽい喋り方をして。

「高一の春、北館くんから好きだって言われて、私すごく幸せだった」

断ってごめんね。私は、君の敵だから。

「ねえ北館くん、私昨日、君も日光で頭痛を起こすんだって知ってすごく嬉しかった。生理なんて、ばっかみたい。私の痛み止めも、日光を見たときの頭痛のためよ」

真理は目からとめどなく涙を流していた。

「泣いたりしてごめんね。私の涙は、汚れた涙。夜の闇に溶けてくれないの。夜の闇は北館くんには優しいかもしれないけど、紛い物の私は駄目みたい」

最後に話せて、嬉しかったよ。

「このスピリットは一度発動したら私の手には負えないけど、使うかどうか選ぶのは私。誓ってあなたを傷つけはしない」
だから。

「ここで消えるね。最後に話せて、嬉しかった」



さよなら。大好きだよ。



夕暮れの光が差し込んだ部屋に、泣き崩れる北館だけが残された。彼の涙は夜と昼の狭間で行き場を失い、ただただ頬を伝うばかりだった。




            *****

「千鶴ちゃん、そこに支部長はいないね?」
加納が公衆電話から尋ねた。
家に帰った僕と加納、ギギモンは高視から何が起きているかを聞くこととなった。ダスクモンのことについては十闘士のメンバーに任せるとして(秋穂ちゃんがそうだったとは、やれやれ)、僕たちは今仙台でヒュプノスの支部長をしている四ノ倉を装った誰かを罠にはめなければいけない。ヒュプノスの新宿本部には既に加納が話を通し、極秘に援軍を送ると言う確約を取り付けた。今は盗聴の危険がないであろう秋穂の携帯から、加納が自分の担当オペレータの私物の携帯に電話をかけているのだ。
「問題ないですよ。逆探知も盗聴も有りません」
「頼んだことは、やってくれたね?」
「勿論です。とりあえず支部のファイアウォールを…」千鶴の声が止まった。
「どうした?」
「嘘でしょ、ここ、私の家なのに」その言葉は途中で悲鳴に変わった。




「千鶴! おい千鶴!」受話器からはやめて、
痛い、痛い、という悲痛な叫びが漏れ続けている。やがて、何か濡れた雑巾が床に落ちるような落ちるような音がして、悲鳴は聞こえなくなった。受話器から前に僕も漏れ聞いた、あの声が聞こえてくる。




「やあ、ミチルちゃん。調子はどうだい?」




「てめえ、千鶴に何をした!」加納が怒声を上げる。
「千鶴くんも天狗になっていたようだね。確かにネットのセキュリティは文句なしの鉄壁だったけど、そんなのは自宅のドアを蹴破れば関係のない話さ」
「何者だ、お前」




「覚えてないのかい? 二年前にも会ったじゃないか?」




「まさか…」加納が声を失う。
「あのくらいで私が死ぬはずないだろう? まったく、君が懐いていたあの夫婦のお陰で、計画の遂行が二年遅れたよ。しかしそれでも二年だ。命を無駄にしたものだね」
僕と加納の顔が声にならない怒りに白んだ。そのことを知ってか知らずか、声は甘ったるい調子を崩さない。
「あの死んだ女のパートナー、君たちが一生懸命育てていたあのデラモン、私が〈暗黒の種〉で進化させたら簡単に暴走して、全くお笑い草だったね。私はあれに用がある」
「デラモンを、これ以上どうしようっていうんだ」加納が受話器を持つ手が震えている。「あいつのデータは無害化された。ヒュプノスが厳重に保管してるはずだ」
「無害化だって? 馬鹿言っちゃいけない。復活は簡単さ。ヒュプノスはたっぷり時間と金をくれた。私が今扮しているこの四ノ倉という男が作っていた〈シャッガイ〉を馬鹿馬鹿しいデリートプログラムからあのデジモンを復活させるためのものに書き換えるのに、〈選ばれし子ども〉を口実に取り付けた予算がとても役立ったよ。それに、あの時奪い取った闇のスピリットの半身は私の手先としてよく働いてくれた」
「もう一度聞くぞ、お前、何者だ」加納がゆっくりと問う。




「私はムルムクスモン、二年前に暴走した『オニスモン』を復活させ、もう一度大規模な〈デジタルハザード〉を起こそうと思うんだ」
仙台と青森に、同じ夜の帳が下りようとしていた。


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