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ID.4754
 
■投稿者:パラレル 
■投稿日:2017/07/16(日) 14:12


What is the cage? 3-8
 8.





 あれから半年経った。
 アースガルズ社の非人道的な実験を原因とした事故。
 一連の事件は表向きにはそう片づけられた。当然、首魁ということにされたアースガルズ社の株は大暴落。信用とともに実績も大赤字確定で、地下都市アングラにちょっかいを出すような地力もごっそりと削られた。関係者は否定に走ろうとしたものの、ヴァルハラ計画プロジェクトの情報が拡散され、その証拠を提出されたことでその声を上げることすらできない状況に追い込まれた。情報に「一般市民にも危険が及ぶ」という虚飾を凝らした効果が一番大きかったのだろう。人間、危機意識を煽られればより必要になる平常心を失いがちになるもの。日頃から蓄積していた鬱憤や嫉妬もあり、アースガルズ社は暴言をぶつける格好の的になった。
 無論、この状況を仕立て上げたのはギルドの面々とアスク・エムブラによる事後処理の賜物。おかげさまで騒がしいことになっている上層社会トップとは違い、地下都市アングラの情勢は比較的落ち着いている。だが、それは比較対象が異常値で基準値がそもそもおかしいという前提があっての話。地下都市アングラ地下都市アングラでギルドの組織再編もあり、寧ろ一連の事件が起こるよりも慌ただしいことになっていた。
「その仕事ビズは仕込み含めて8人日で対応しろ。メンバーはお前が決めればいい。ただし、半分は50位未満だ。次、今日申請のあった入会希望者は何人だ? ……分かった。面会の日程の候補を送っておいてくれ。次、師匠がまた機材を壊した? 代表が何してるんだ。減給だ減給」
 それはケイジも例外ではない。彼は先代の長ジュリ・アスタを殺した責任を取るかのように、ギルドの運営に駆り出されてエナジードリンクが手放せない日々を送っている。悲しいかな。自分より上の面々は問題児なため、ケイジが必然的に実質的なトップとしてこき使われている。新たに与えられた二つ名――「獅子王シシオウ」に「王」という文字が入っているのも最早皮肉にしか思えない。
『お疲れ様、ケイジ君』
「意図的に多めに割り振ったりしていないよな、アスク・エムブラ」
 ありがたくない二つ名をくれたのはいつかの依頼者。行く当てがあると聞いて別れたのたが、まさか1日も経たないうちにギルドで再開するとは思っていなかった。それもヴァルハラ計画プロジェクトの犠牲者をぞろぞろ引き連れてだから、再会当初は驚くあまり強い眩暈を催した。

 ――檻は定義の大小はあれどどこにでもあるものだよ。ただ、それを選ぶ自由くらいは欲しかった

 自由を求めて飛び立ったはずなのにわざわざ地下牢に自ら囚われるとはどんなマゾヒストなのか。思わずそう訊ねたところ、夢があるのか無いのかよく分からない返答をされた。
 何であれ、ギルドとしては来るものは拒まないスタンスなので受け入れるしかない。彼らはギルドの基幹システムに住み着いてジュリ・アスタの抜け穴を塞いでくれている。過程はどうあれ今となっては重要なギルドメンバーだ。
仕事ビズは適量で割り振っているよ。ほら、今日中にして欲しい追加の仕事ビズだ』
「くたばれ、鳥野郎」
 思わず汚い言葉が飛び出すのも仲間だと認めているから。認めていない時にも同じレベルの言葉が飛び交うこともあるが、そこはケイジなりに線引きをしているつもりだ。あの事件以降ギルドメンバーも増えた、その面々で一線を超えている者は数少ない。
「不審人物の調査ねえ。依頼者はフユキ・ミサ。……お、俺とリオンをご指名か」
「チェンジで」
「指名された側は使えないぞ」
 モリイ・リオンはその1人。違法な改造を加えたスキルの反動で意識を失った彼女はケイジの判断でギルドで保護された。目覚めたのはちょうど1か月前でリハビリがてら仕事ビズを受けている内に破竹の勢いで実績を上げ、「黒血姫エルジェーベト」なる二つ名を与えられる期待の新人ニューカマーとなっていた。
『とりあえず行ってきたらどうかな。期限は厳守だ』
「手厳しいな。分かった分かった」
 ギルドの実質的なトップと期待の新人ニューカマーが出張れば大抵の依頼もたいしたことはないだろう。逆を言えば、そこまでの面々を指名する程にその不審者が厄介だということだろうか。




 出現場所は露店や屋台が雑多に連なる裏路地。不審人物の調査依頼が1件だけ出るにしては人が多い。店員も客も不審人物のような姿をしているが、そのせいで全員感覚が麻痺しているという訳ではないだろう。
 どうにも妙な依頼だ。1番不審なのは調査対象の人物ではなくこの依頼そのものに思えてきた。
「……ケイジ、あれ」
 疑心による思索を打ち切り、リオンの指差す方向に意識を向ける。不審人物ががやがやと騒ぐ中でも、そいつの姿はやけに鮮明に映った。
 合成肉の揚げ物の屋台の前で立ちつくす長身の男。黒いコートでシルエットを風にはためかせ、帽子で頭を隠している。コートから覗く両手両足は機械義肢サイバーウェア。いや、全機械義体フルボーグか。
 列挙した事柄は依頼者から与えられた情報と完全に一致している。1番の特徴である、胸の焦げついたような跡も確かに存在している。つまり、この男が調査対象の不審人物ということは明白だ。――だが、ケイジとリオンにとってその男には別の定義が真っ先に浮かんでいた。
 ケイジにとっては旧友の相棒にして、苦難をともにした仲間。リオンにとっては命の恩人にして、命を賭しても構わないとさえ思った主。
「お前なのか――アーミテジ」
 それは心労が招いた幻影だったのか。思わず彼の名を口にした瞬間、大柄な身体は煙のように世界に滲んで消える。後に残るのは、屋台の屋根に引っ掛かっている使い古されたコートと、そのポケットの中には押し込められたぐしゃぐしゃの紙だけ。そこに書いてある内容は取り立てる程でもない事務報告と数行のメッセージ。

 ケイジ。テイマーの我儘に手を貸してくれたことを心から感謝する。直接礼を言わずに去ることを許してほしい。
 リオン。もう俺はお前の主ではない。お前なら俺が居なくてもやっていける。客観的に見てお前は随分人間らしく変わったから。……使い魔サーヴァント風情が言っても説得力はないだろうが。

 メッセージの中身もささやかなながら悪くないものだ。ただ、紙の隅にやたら写実的な猫の絵が描かれているおかげで無駄にそちらに注意が向いてしまう。
「お前はどこかに居るんだな」
 最後に残すものにしては突っ込みどころのある代物だ。だが、それでもあの事件の後も存在していたことは確か。もし、いつかギルドの戸を叩くときがあるのなら、そのときは快く迎えてやろう。
「帰るぞ、リオン」
「良いの?」
「ああ、多分この依頼は報告する必要も無いからな」
 こうして今日も騒がしい一日を終える。秩序の内に渦巻く混沌が、異常に満ちた日常を作る。この一幕もその異常の一端に過ぎないだけの話。




 


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