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ID.4753
 
■投稿者:パラレル 
■投稿日:2017/07/16(日) 14:12


What is the cage? 3-7
 7.





『なんてことだ』
 電脳空間サイバースペースの中に居ても現実の惨状は手に取るように分かる。アスク・エムブラ改め歪曲特異点アルティメットカオスは恐るべき速度で上層社会トップ中の使い魔サーヴァントを支配し、出鱈目な命令を送っては自身の暴走を拡散させていた。ある者は主の意識を奪い、ある者は入り込んだシステムにサポート範囲外の動作をさせている。
 使い魔サーヴァントというAIによる人間への叛逆。そう断じることができればどれだけマシだったか。叛逆には必ずそこに至る理由と目的が存在する。しかし、中核となる歪曲特異点アルティメットカオスには理由も目的も存在しない。ただ使い魔サーヴァントを暴走させるという現象に過ぎないのだ。
 理由があるとすれば現象そのものが発生した経緯か。それはマスターコールを受けたアスク・エムブラの暴走。或いはヒラタ・ヒデオがそのマスターコールを強引に発動させたこと。そもそもそのマスターコールなどという状況にケイジ達自身が追い込んだこと。
 誰が悪いかと問われればきっと誰もが大なり小なり悪いのだろう。そして、先に上げたいくつかの原因の内その責任を取っていないのは誰だろうか。
『誰かに恨まれるようなことばかりしてきた自覚はあるが……』
 ――こんなことになるなんて思わなかった。
 そう言って逃げ出せばひとまず自分は助かる。ポートを閉じて一切の通信を断ち、地下都市アングラの片隅で泥をすすっていればいい。そうすれば、今まさに上層社会トップ全土を呑み込む電脳の獣デジタルモンスターの脅威に身を滅ぼされることはないだろう。
 自分の罪を自覚していたとしても、それを甘んじて受け入れられるほど高尚な潔さを持ち合わせてはいない。どう取り繕ってもまだ死にたくはないし、仮に死ぬとしてもせめて楽に死にたいと思う。それが人間として、生物として当たり前の感情だ。
『結局、俺達は馬鹿だったってことか』
 数多の事実、自身に蠢く感情すべてを飲み込んだ上で、ケイジは自身の意識を現実に戻さなかった。
 逃げなかった理由は3つ。
 1つ目は生存と生活のため。仮に逃げ延びたとしてもいずれ被害は地下都市アングラまで広がるだろう。危害を恐れてどこかの僻地に隠れ住んだとしても、そこで怯えて生きることはケイジにとって死んだに等しい。そもそも混乱パニックの最中にある上層社会トップを移動して地下都市アングラまで逃げ延びることも難しいだろう。使い魔サーヴァントが暴走している以上、ネットワークを切断することも容易ではない。
 2つ目はまだ依頼を達成していないため。暴走状態にあるとはいえ、依頼者は依頼者。暴走自体も意図したものでないとしたら被害者とも言える。ギルドのテイマーとしてのプライドの問題ではあるが、より個人的で感情的な理由が後に控えているのでましな方だろう。
 問題の3つ目。それは使い魔サーヴァントを奪われたままだということ。取り戻せれば多少なりとも戦力になる。だが、本音はもっと単純だ。ただ自分の大事なものを盗られたままでは我慢ならないということだけ。
『さて、返してもらうぞ。――そいつは俺のものだ』
 反撃開始。相対するは毎ミリ秒ごとに肥大化する混沌カオス。目標はおそらくその中核コアに居る。周りに付着している有象無象はあくまで支配している状況がそう電脳空間サイバースペースで表現されているだけで、実際は強制的な命令によってこき使われているに過ぎない。ケイジの大事な使い魔サーヴァントがそれらと違うのは、ヴァルハラサーバまで引き摺りだされて同化させられている点だ。
 つまり有象無象は各自の電脳ローカルだけの問題で済むが、ケイジはわざわざ災禍の中心に斬りこまなくてはいけないということ。

 ./alter_attribute

 生憎と打てる手は少ない。だが手が無い訳でもない。手持ちの攻性防壁や防護壁プロテクトをすべて展開。その上で自身を使い魔サーヴァントと誤認させるためのツールを起動。特にお気に入りの使い魔サーヴァントの匂いが染みついているのだ。あちらからすればまさしく極上の餌だろう。
『来いよ、化け物モンスター。手下なんか捨ててかかってこい』
 ケイジの挑発に乗るかのように伸びる多種多様な触手。触手と形容したのはあくまでその機能を形容するのに適切であっただけで、その実体は獣や竜などの頭を先端に持つ帯。形状シルエットに法則性の無い頭部は、おそらく支配した使い魔サーヴァント名残りイメージだろう。数は多く、迫り来る圧力もなかなか。だが、2本の豪腕が飛んでこないだけまだマシだろう。あれに凪ぎ払われでもしたら、何重に重ねた攻性防壁や防護壁プロテクトも紙切れ同然だ。
 圧倒的な情報量の差であってもつけ入る隙は存在する。命を繋げる道は確かにある。糸で綱渡りをするような無謀な真似も、一つ一つ焦らずに且つ一度の瞬巡も無くこなせばまだ生きていられる。全てのマスが地雷源の地雷処理マインスイーパでも、マスとマスの間の線を歩けば起爆しない。そんな馬鹿げた真似が出来なければ即死。結局のところ、最も馬鹿げているのは目の前の現状だ。
『本当、何してるんだろうな』
 次に馬鹿げているのは馬鹿げた真似を実践しているケイジ自身。その馬鹿さ加減には自分でも笑えてくる。
 無謀な真似は無理が祟るからこそ無謀。我ながら奇跡的なほどに上手くやっているというのに、自分を守る壁の大半が剥がれている。目標に辿り着くまで自分が持ってくれるか。
『なあ、憶えてるか、アスク・エムブラ。――結局、どう取り繕っても道具という意識は拭えないって、言ったこと』
 返答は期待していない。半ば独り言のようなその言葉は滅入りそうな気を晴らすために発したに過ぎないのだから。議題テーマがヴァルハラサーバでアスク・エムブラとの問答だっただけの話。

 ――使い魔サーヴァントは道具という意識は拭えない。

 我ながら、アスク・エムブラやコータに喧嘩を売っているような答えだ。だが、彼らにとって最悪な答えではなかったのも事実。ただ、それは今回の主題ではない。単純な話だ。ケイジ自身がその答えに対して思うところがあったということ。答え自体が曖昧なものになったのもそれが理由。
『改めて言い直す。――俺は俺含めてすべての物が道具だと思っているんだ』
 ハードウェアもソフトウェアも、生物も非生物も、そして人間も使い魔サーヴァントも、自分にとっては等しく道具。フィクションの悪役さながらの大言壮語だ。他にそんな台詞を吐くのは哀れなヒラタ・ヒデオくらいだろう。
 違う点はその道具を力づくに扱うか、特性や在り方を受け入れて1番身近な道具――「自分」で辻褄を合わせるか。
『俺はあくまでしがない下層市民だ。荒事に躊躇いもない屑だ。他人の血を啜ってでも生きたいし、不幸を腹の底から笑ってやったこともある。でもな。悲しいことに屑にだって屑なりの意地があるんだ』
 楽して楽しんで生きる。端的に言えばケイジの願いなんてそんなもの。だが、そこに必要な道具ものを奪われたのなら黙ってはいられない。その決断は非合理的かもしれないが、間違いなく人間的だ。
『知ってるか? 人間は道具を使ってるとその道具に愛着が湧くんだよ。――だから、そいつだけは譲れない』
 もうこれ以上言葉を続ける必要はない。死に掛けた精神には熱が宿り、目標とそれに至るまでのタスクは最適化されている。これで護りが万全であれば文句なしだが、ここまで来て贅沢は言えない。
 思考をすべて2マイクロ秒後の生存へと費やし、脇目も振らずにただひたすら突き進む。護りはとうに崩れた。新たに張ってもその度に砕け、一時的に首の皮を繋いでいるに過ぎない。だが今はそれで十分。既に目標そいつを射程内に捉えた。内に収めることができずに曝け出している2つの球体コア。その一方に子猫が囚われている。
 あと一手で届く。それから後は裸一つで逃げなければならないが、ここまで来た以上何も果たせずには死ねない。
 最後の壁が砕ける。ケイジはそれに動じることなく、新たな壁を張るより先に手を伸ばす。
『あ』
 壁が砕けた先、伸ばした手が触れたのは獣が眠るコアではなく、竜の頭を持つ触手ワームだった。その顎はケイジの腕を噛み砕こうと大きく開かれている。
 一瞬の焦りが産んだ凡ミス。だが、この触手は今までしのいでいた凡百とは明らかに違う。仮に護りに入っても突き抜けて喰らっていただろう。
 死を目前にして走る思考は他人事のように冷静。それは結論がどうあれ現実を変えることはないと理解していたため。それでも思考を止めないのは、ただ苦しんで死にたくないがための独りよがりエゴだ。
『――前をよく見ろ、ケイジ』
 不意に割り込んだメッセージが無駄な思考を中断させる。その送り主ホストが誰かは確認しなくても分かった。だが、メッセージが割り込んできた事実はケイジを驚かせるには充分だった。そのメッセージが今まさに自分を食おうとした竜から送られてきたものだったから。
『コータ! なんでお前が?』
『手放すなよ、なんだから』
 大きく開いた竜の口はケイジの目前で止まっていた。他との違いが敵意の有無だと理解したところで、その口の中に自分の使い魔サーヴァントが転がっていることに気づく。歪曲特異点アルティメットカオスとの繋がりリンクも切れている。確かに自分に1番必要な道具パートナーはここに戻ってきた。
『ついでに内側から家主の尻拭いしてた成果を受け取れ。サービスでアーミテジも貸してやる。4分の2もあれば十分だろう』
 安堵した直後に受け渡される即興台本スクリプト。それはケイジの知らない戦いの軌跡。コータらヴァルハラ計画の犠牲者が積み立てた意地の結晶。災厄の中心に近い場所に居たから組み立てられた逆転へと至る正解ロジック
『だから、これで俺達の依頼を果たせ』
『当然だ』
 ケイジには彼らがどんな苦境で戦いを強いられたのかは知らない。せいぜいできるのは、状況から推測にも満たない想像を組み立てることだけ。アスク・エムブラから近い場所に居たため、危険度は現在の自分にも負けていないだろう。
 だが一つだけはっきりと分かることがある。それは、どんな思いでこの即興台本スクリプトを託したかということ。ろくでもない連中の顔が浮かべれば、1人も例外なく無茶な激励を送ってきた。――ギルドの意地とプライドに掛けて、可能な依頼は必ず達成しろ、と。
『再生終了。――テイマーの命により、俺のすべてをお前に貸し与える』
『そうか。……勝手な奴だな、あいつは』
『それには同意する』
『もう居ないから本音を吐いたか』
 どうやらこれは置き土産だったらしい。まったく、相変わらず人の都合も考えずに一方的に話を進めてくれる。だが、その筋書シナリオをなぞると決めたのはいつも自分自身だ。ならばお望み通りに舞台の主演を演じ切ってみせよう。
『おい起きろ、リチャード』
『起きてるよ。……で、リチャードって何?』
『お前の名前。ほら、呼びにくいだろ。だから今即興で考えた』
『ふーん……そうか』
 正直寝ぼけて流してくれればよかったのだが、どうにもその辺りは必要以上に優秀だったようだ。おかげで適当な言い訳をする羽目になったが、効果が如何ほどか判断に苦しむ反応を返された。
『何でもいい。リチャード、アーミテジ、手を貸せ。――手始めに依頼者を助けるぞ』

 call Liollmon

 Evolve level_Y

 call Darkdramon

 ./joint_progress.ds Bancholeomon Darkdramon

 合体ジョイント進歩プログレス
 あらゆる使い魔サーヴァントを吸収・支配する歪曲特異点アルティメットカオス。その最も近い場所で組み立てた成果スクリプトは必然、使い魔サーヴァント同士を結合させて新たな存在へと昇華するものとなる。
 それは2つの使い魔サーヴァントを1つに束ねた存在だった。白亜の身体に緑の帯を羽衣のように纏った人型。素材ベースとなった2体の使い魔サーヴァントの頭部がそのまま両手となり、獅子の口からは彼の愛刀が抜身の状態で飛び出していた。
 特異点イレギュラーから産まれた特異点イレギュラー歪曲特異点アルティメットカオスから産まれた特異体カオスモン。その存在は親と同じく不安定で、素材ベース中核コアも完全に結合することなくそれぞれ独立して残っている。
『これが切り札か』
 確かに戦況は大きく改善した。目の前には心強い味方も居る。だが、未だ数の差は圧倒的で蟻と象くらいの質量差は存在している。
『充分いけるな』
 それでも絶対に勝てないという道理は無い。古来ある国の遊戯ゲームでは蟻は象に勝つと定義ルールづけられていた。たかが遊戯ゲーム定義ルール。しかし、それは現実にサンプルケースがあったから作られた定義ルールなのだ。圧倒的な質量差であっても勝ち目は十分に存在する。それも手負い・・・の象が相手ならば。

 use-skill "Dark Prominence"

 今までとは桁違いの数と速度で迫る触手の群れ。数分前のケイジなら成す術なくそれらに食い尽くされただろう。だが、特異体カオスモンが居るならば、左手の竜の頭から放つ黒色の気弾1発で十分だ。自身の細胞ウィルスを埋め込んだそれは着弾の際に遺伝子DNAを火種にして触手内部で爆発。爆発は他の触手へと拡散し、これ以降の侵入を阻む壁となる。
 歪曲特異点アルティメットカオスは確かに強大だ。だが、特異体カオスモンが現れる前より著しく弱くなっている。理由は明白だ。奴の右肩にあるはずのものが無いから。つまり、中核コアとなる使い魔サーヴァントが抜き出されたため。有象無象が集まろうと、それを統率する中核コアが貧弱であれば全体の力量が落ちるのも当然だ。
 コータが教えてくれた中核コアの数は4分の2。リチャードとアーミテジを指しているならば、残る2つの内1つに必ず依頼者が居る。ならば、今度はこちらからその1つも掻っ攫う。
『斬り込め』

 use-skill "Haouryoudanken"

 獅子の頭が持つ刀に熱が燈る。刀身に刻まれた文字が明滅し、周囲に熱気オーラが渦巻く。これなるは無双の一振りにして、すべてを穿つ最硬の槍。一息に飛び出す白銀の閃光がすべての触手を斬り裂きながら歪曲特異点アルティメットカオスの中腹へと疾走する。 
『上出来だ』
 切り取るのは残った左側の中核コア。反撃が来るより早くに奴とのリンクを断ち切り退散。中核コアの4分の3――しかもその内1つは最も重要な中核コア――を失ったおかげであちらもまともに追っ手を送ることすらできない。
『いやはや助かったよ、ケイジ君。悪いがああなった以上私にもどうしようもなくてね』
『依頼だからな。だが、迷惑掛けた分協力はしてもらうぞ』
『もちろん。アスク・エムブラとして、その開発者フユキ・ミサとして、そしてその使い魔サーヴァントのミュートとして、責任は取らせてもらうよ』
 依頼者の目覚めが早いのは僥倖。起きて早速だが事態の収拾に手を貸してもらう。幸いか、元から想定していたのか、コータの即興台本スクリプトは拡張性が高いものだった。文字通り手となって働いてもらおう。

 ./partition.ds Chaosmon

 ./joint_progress.ds Bancholeomon Valdurmon

 分割パーティション合体ジョイント進歩プログレス
 一度結合を解き、リチャードとアスク・エムブラで再結合。先ほどまでとの差異は一点のみ。左手が竜の頭から聖鳥の頭へとすげ変わっていること。
 新たな特異体カオスモンはその左手を歪曲特異点アルティメットカオスの残滓に向け、内に隠された新兵器を起動させる。聖鳥の頭は砲身に、その嘴は砲口に。喉の奥に充填するは全てをあるべき姿に戻す浄化の力。始まりの力が今この一撃で混沌カオスを終わらせる。

 use-skill "Aurora Blaster"

 すべての入力インプットを塗りつぶす白色の光。それは歪みを否定する絶対命令マスターコール。光が晴れる頃には特異点イレギュラーは消滅し、我を失っていた使い魔サーヴァントもすぐに正常な動作を取り戻すだろう。
『悪いな。――あんたは俺には必要ないから』
 だが、唯一残った4分の1の中核コア――ヒラタ・ヒデオとその使い魔サーヴァントの機能は完全に停止。ケイジはただ一言だけ告げて彼らに背を向ける。事象は既に収束に向かっている以上、興味の失せた相手に語る言葉は無い。これから口にすることは過去ではなく、未来なのだから。
『これで依頼は達成したってことでいいのか?』
『そうだね。かなり強引な流れではあったけれど、これで私は晴れて自由の身だ』
『そうか。これからどうするつもりだ』
『大丈夫。飛ぶ先はとうに決めてある』
『なら、いい。事後処理だけ手伝ってくれれば好きなところに渡れ』
 依頼が達成された以上、過度に詮索する必要もない。ただ不用意に騒ぎにならない程度に今後の活躍を祈るだけの話。
 むしろ問題なのは自分達の方だろう。さっさと退散して適切な事後処理をしなくては地下都市アングラに新たな火種が撒かれることになる。もう、この場に長居してはいられない
『リオンを起こして退散するぞ、アーミテジ。……アーミテジ?』
 たとえ旧友の忘れ形見サーヴァントが忽然と姿を消していたとしても。




 


スレッド記事表示 No.4747 What is the cage? 3-1パラレル2017/07/16(日) 14:06
       No.4748 What is the cage? 3-2パラレル2017/07/16(日) 14:06
       No.4749 What is the cage? 3-3パラレル2017/07/16(日) 14:07
       No.4750 What is the cage? 3-4パラレル2017/07/16(日) 14:08
       No.4751 What is the cage? 3-5パラレル2017/07/16(日) 14:09
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       No.4754 What is the cage? 3-8パラレル2017/07/16(日) 14:12
       No.4755 あとがきパラレル2017/07/16(日) 14:13