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ID.4752
 
■投稿者:パラレル 
■投稿日:2017/07/16(日) 14:11


What is the cage? 3-6
 6.





「――は?」
 不意の出来事だった。依頼の目標を掴むその瞬間、自らの使い魔サーヴァントの越権行為によりケイジの意識は現実に戻されていた。掴むはずだった檻の鍵も自分のストレージには存在せず、まるで今までの戦闘が夢だったのかとも思えた。しかし、それが錯覚であることは目の前の戦況を見れば一目瞭然だ。
 すべての棚が倒れ、床に事務用品が散乱しているのは激しい戦闘があった証。ケイジは棚に背を預け、身体も身に思えの無い傷に悩まされている。他の面々も酷い有様だ。アーミテジは大の字で天井を見上げていた。リオンは棚に手を掛けて辛うじて立ってはいるものの、視線は虚ろで意識があるのかも分からない。――そして、ヒデオは両手を上に掲げて立った状態で固まっていた。
「なんだ。何が起きた」
 声に応える者は誰も居ない。そもそもまともに意識を保っているのがケイジだけのようだ。その事実がなおさら現状を不可解なものにしている。
『おい、どうなっているんだ。! というか何しやがった?』
 現実に答えを求めるのは無意味だ。ならば求めるべき先は電脳空間サイバースペース。その中でも自分と最も近い使い魔サーヴァントが適任だ。ケイジを現実に引き戻したのはその使い魔サーヴァントなのだから。
『おい、答えろよ。おい。……は? "Not Found"だと』
 だが、最後の頼みの綱は既に切れていた。その存在ごと自分の中ローカルから消失していたのだ。幸いなのはその事象を手掛かりにできるだけの冷静さがまだ残っていたこと。
 今ケイジが持つ手掛かりは2つ。自分の使い魔サーヴァントが消失しているという事実とそれ以前の使い魔サーヴァントの行動。後者に関しては、当初は理解が追いつかなかったが、冷静に振り返るとケイジを庇おうとしたものだと考えられる。それが使い魔サーヴァントの行動理由だとするならば、使い魔サーヴァントはケイジを庇って消失したということになる。強引に越権行為に踏み入ってまでテイマーを守るとは、姿に似合わぬ忠義者だ。
「答えは電脳空間サイバースペースの中、か」

 flip_out

『おいおい。なんだこれ』
 電脳空間サイバースペースへと飛んだケイジは自身に流れ込む情報を疑った。
 ブラックホール。電脳空間サイバースペースの中心で起こる異変を形容するにはその言葉が最も適切だった。言葉とは真逆の白い渦が周囲の情報システムに干渉し、強制的に吸収していた。吸収の対象は形式や規模を問わず、その中には使い魔サーヴァントも大量に含まれていた。アースガルズ社の社員に配布されているものだけでなく、ビルに侵入したギルドの面々のものも確認できた。――アーミテジやケイジの使い魔サーヴァントもしっかりと。
『これはどういうことだ。――なあ、何をしてるんだ。アスク・エムブラ』
 特に信じられないのはその渦の中心点に今回の依頼者だったこと。前衛的な芸術品アートからは鳥の頭が飛び出し、ハイライトが消えた目を無秩序に揺らしていた。翼の代わりに飛び出している他の使い魔サーヴァントの頭も同じような表情を浮かべている。彼らは総じて返答できるだけの機能を維持できていない。
記録ログ再生。緊急時につき2段階フェイズをスキップ。鳥籠ケージ強制解放。アスク・エムブラと同調』
『少し見ないうちに随分様変わりしたな。……冗談きついぞ』
 ケイジに情報をもたらすことができるのは、渦の上方に飛び出す赤い馬の頭だけ。その口の中に収まる精悍な男の顔が悪趣味なスピーカーのように記録ログを垂れ流していた。その正体がヒラタ・ヒデオであることは顔を見てすぐに理解できた。
使い魔サーヴァントの動作不能により単独起動。失敗。制約強制解除。成功。警告24件。無視して続行。警告151件。無視して続行。無視して続行。警告802件。無視して続行――』
 天下のアースガルズ社、その命運を握る計画プロジェクトの中核もこうなればただ哀れなもの。既に精神は崩壊し、意思なき混沌カオスの一部となっている。それでも他とは違って彼なりの機能を果たしている辺りは流石というべきか。
『経過報告。使い魔サーヴァント動作停止により、アクセスキーの保護が不可能と判断。先にアクセスキーを使用し、アスク・エムブラにマスターコールの使用を命令。アスク・エムブラ、これを拒否。アクセスキーの強制命令権発動。アスク・エムブラ、マスターコール発動。――不正な処理を検知。修正不可能。命令拒否』
 彼が記憶している顛末はおおよそこんなところだろう。使い魔サーヴァントの敗北を悟ったヒデオはケイジがアクセスキーを掴むより早くにアクセスキーを使用してアスク・エムブラを呼び出し、一発逆転の最後の切り札マスターコールに手を出した。しかし、計画から離反するつもりのアスク・エムブラはそれを拒み、尚もヒデオが強引に従わせたことで致命的な不整合エラーが発生。アスク・エムブラは暴走を開始した。
 正常な思考ができなくなったアスク・エムブラはマスターコールを発動。手当たり次第に周囲の使い魔サーヴァントを支配し、自発的な思考を奪って自身の一部として取り込んでいる。その範囲はこのビル全域で収まっていればまだマシな方だろう。不完全ではあるが地下都市アングラにまで干渉できた存在なのだ。箍が外れた状態では影響の範囲は計り知れない。
自端末ローカルに提供元不明のソフトウェアをインストール。リモートからの操作拒絶不可能。自端末ローカルの制御不可能。脳領域へのアクセス検知。拒絶不可能。人格パーソナルをアスク・エムブラと統合マージ記憶メモリー統合マージ。――ヒラタ・ヒデオの自我の崩壊を確認。人格の喪失を確認』
『道具の選択を間違えた結果がこれか』
 命令した筈の飼い主ヒデオも哀れなことに、生脳の情報ごとその糧となり無様な姿を晒している。ヒデオも自分ケイジ使い魔サーヴァントが道具だという認識自体は同じだ。その道具に自分が含まれていることも含めて。違うのは道具を使う目的くらいか。ケイジは自分達の生存を目的とし、ヒデオはアースガルズ社が上層社会トップに加えて地下都市アングラを掌握する未来を目的としていた。目的のために求める道具が違っていた。
『全使い魔サーヴァント掌握機構発動。吸収。支配。吸収。支配。幽鬼衛兵エインヘリャルへの変換。第5の戦場の対策。国力増強。富国強兵。終末戦争ラグナロクの備え。すべては我が社のため。すべては我が国の民のため。戦士はそのために生きて死ぬ。盾となり矛となって斃れる。でなければ価値は無い。価値は無い。無価値。無価値。無価値。無価値――』
『まだ何かあるのか』
 既に斃れた者に意識を割く時間はもう無い。事態は次の段階へ移行しようとしている。ほとんどの使い魔サーヴァントが渦に跡形も無く飲み込まれた。形が残っているのは実行犯アスク・エムブラ命令者ヒデオ、そしてアーミテジとケイジ自身の使い魔サーヴァントだ。だが、既にケイジが打てる手は存在していない。使い魔サーヴァントが危惧した通り、あの渦は最初からケイジが対処できるものではなかった。
資源リソース計算完了。再構築リビルド開始――完了。起動ブート
 そして、残りの四体も完全に飲み込まれる。秘宝を守る軍馬も古代から生きる聖鳥も、主の命を貫く機竜も相棒を守った獣人も渦へと消える。直後その四体が鍵であったかのように渦は変化を始める。回転速度が上昇。同時に渦の端から2つの球体が露出。その2つの球体から大きな腕が伸びる頃、周囲には羽や頭部など取り込んだ使い魔サーヴァントの一部が無造作に飛び出ていた。
 それはすべてを歪ませる特異バグ。システムを名乗るのも烏滸がましい継ぎ接ぎパッチワーク。そこに目的も意義もありはしない。ただ不慮の事故で産まれた現象エラーだ。
歪曲特異点アルティメットカオス。――処理を開始』




 1階ロビー。数十分前に起こった市民の暴動による騒がしさは不気味なまでの静寂へと変わっていた。しかし「まるで最初から無かった」と言うには痕跡が残り過ぎている。受付が使用する書類や事務処理用の端末は各所に飛び散り、待合スペースの椅子の配置も原型を留めていない。――何より、暴動を起こしていた市民やその対応に追われていた職員がみんな揃って意識を失っている。
「これはまた……とんでもないことになっていますね」
 他人事のような口ぶりに反して、今この場で現状を正確に理解しているのは唯一意識を保っているゼオンだけだった。
 駆動甲冑ムーバブルアーマー相手に武器の大盤振る舞いを行った結果、当然のごとくゼオンの戦闘能力は大幅に落ちた。そのため墓荒らしのようにこそこそと自分の武器を回収しながら、暴徒化した一般人の様子を遠巻きに見ていたのだが、彼らの変化はゼオンが手を止めるほどに妙だった。ギルドで決めた作戦には一般人の意識を奪ってビルの中に放置するというものは無い。ならば、ギルド以外の者の仕業だろう。真っ先に考えられるのはアースガルズ社側の仕業。しかし、それならばいの1番に標的になる筈の自分が立っていることが変な話だ。そもそもこの現象が誰かの思惑通りに働いているとも思えない。あまりに無差別的で考え無しな仕事だ。
「ちょっと失礼しますよーっと……ふむ、息はあると」
 後遺症の有無は分からないが、死人を産む原因になっていないだけマシというべきか。それでもこの階に居る大半の人が眠るように意識を失った事実は変わらない。
 事実には必ずそれが起こるだけの理由がある。何者かの意思が絡むのなら、手段と言い換えてもいい。この場合に考えられる手段は何か。真っ先に頭に浮かぶのは催眠ガス。しかし、今のゼオンは特に対策もせずにぴんぴんとしている。自分でもあまり褒められたものではないと分かっているが、今その事実は重要な鍵だ。物理的な手段でないということは十中八九電脳側の問題で間違いない。
「まあ、使い魔サーヴァントが反応していない段階で真っ先に疑うべきなんですけど」
 誰に向けるでもなくぽつりと呟き、思考を巡らせながらゆっくりと歩を進める。意識を保っているがゼオン自身にも使い魔サーヴァント制御コントロールを失うという形で影響があった。似た現象が意識を失っている全員にも起こったのだろう。その余波を受けたか否かが彼らとゼオンの違いだ。
「それにしても外がやけに騒がしいですね。……嫌な予感しかしませんが」
 さて、この現象は果たしてビルの中だけのものだろうか。それを確かめるためにゼオンは人を踏まないように歩き、リュックから飛び出したロボットアームをドアに引っ掛けていた。自動ドアとしての機能は果たしていないが、自慢のベイビーなら力づくで開けられる。憂うことがあるとするならば、それは自分の予想が当たっていることくらいだ。
「――そうなりますか」
 哀しいかな。こういう状況の嫌な予感というものは当たるものだと相場が決まっている。いや、むしろ予想よりも悪い状況になっていた。
 道路に倒れる人、人、人。それを踏みつけ、押しのけながら全速力で走るバスや車。血と酸化鉄の臭いが鼻を突くそこは、ディストピアが非人道的な実験を行ったかと思える程の惨状と化していた。
 当然だ。すべての電子の怪物デジタルモンスターはマスターコールという命令ウィルスによって発狂パニックを起こしているのだから。




「おい、どうなってる? なぜ使い魔サーヴァントが応えない」
「な、何だ何が起こっ……が、あ……頭が、割れる」
 呻き声を上げて踞る私設軍の第1部隊エリートの面々。いずれもライモンが殴り飛ばした相手だが、現状の原因はライモンではない。むしろ彼らが口にする言葉の原因をこちらが知りたいくらいだ。
「ふむ。確かに使い魔サーヴァントから反応が得られんな。ケイジ達が何かしくじったか」
 自分も相手も関係なく使い魔サーヴァントテイマーの制御を離れる。この見境の無さはまるで事故。そんな真似ができるのはライモンが知る中では今回の作戦の依頼者くらいだ。目的を達成した後に依頼者が裏切ったのか。目的を達成する前に鳥籠の主に強引に命令を出されたのか。あまりに見境の無い大雑把さから考えるに、相当大胆な性格でなければ後者だろう。それも鳥籠の主が切羽詰まった結果としてだ。
「ゼオちゃんとこも大変みたいよ。一般市民モブ達がわらわら倒れて地獄絵図だって☆」
「対策してない輩は全滅か。この無差別さ……アスク・エムブラの性格が悪いのか。いや、そもそも自我を失っているのか」
 同様の症状は目の前の第1部隊エリートにも一部見られている。差し詰め暴走した使い魔サーヴァントテイマーの脳を侵しているというところか。ライモン達は半自動的に自身の生脳に防護壁プロテクトを張ったが、対策が出遅れた第1部隊エリートやそもそも対策ができない一般市民は成す術もなかった。
「何にせよこのままじっとはしておれんな」
「噂のイケメンに突入ってことね。テンション上がってきたぞ、キャハ☆」
「私より余裕あるな、ルカ」
「ごめん。やけ起こしただけ☆」
 暴走したアスク・エムブラの影響は計り知れない。自分達もいつまで耐えていられるか分からない。しかし、自分達が原因で起こした以上、何も知らずに撤退する訳にはいかないのが本音。引き際はできるだけぎりぎりを攻めたいのが意地というもの。
「さて、何が出るのか……」
 決意を胸に廊下を走る2人。その足が目的地にたどり着くころにはすべてが終わっていた。




 


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