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ID.4751
 
■投稿者:パラレル 
■投稿日:2017/07/16(日) 14:09


What is the cage? 3-5
 5.




 1年前のあの瞬間まで、産まれてから一度も自分の意思で決めたことは何一つ無かった。ただ状況に流され、誰かの意思に従い、組織の一部として盲従していた。いつしか生きるためには仕方ないと言い訳していたことも忘れ、ただ柔らかい脳があるだけの機械へとなり果てていた。
 自分が思考する人間だと思い出したのは、盲目的に従っていた組織に殺されかけた瞬間。それが恐怖という感情によるものだと気づいた時、不思議とそのことに安堵している自分が居た。まだ自分は人間なのだと理解できたことが何より嬉しかった。

 ――テイマーの言う奴隷根性は無いのか。……なら、一緒に来るか。

 偶然から自分の命を助け、打算からその問いを投げ掛けた相手がただの使い魔サーヴァントだということはすぐに分かった。それでも構わない。あの時の自分にとっては初めて選択肢を与えてくれた事実だけで、差し伸べられた手を掴む理由に十分なり得た。――その瞬間から、モリイ・リオンは自分の命の使い道を決めていた。




 本来の目的はアースガルズ社の壊滅ではなく、奴らが所持する複合知性ハイブリッド――アスク・エムブラの解放と、それに伴うヴァルハラ計画の瓦解。その実現に必要となるのが、任意でアスク・エムブラの存在するサーバへ行くためのアクセスキーだ。
「ネズミにしては騒がしいと思えば――やはりあなた達でしたか」
 鳥籠の鍵とでも言うべきそれを所持しているのは当然、飼い主である計画の統括者――ヒラタ・ヒデオだ。

 ――あの人なら必ず手元に置く

 アーミテジがアクセスキーの存在を話し、リオンが1番可能性の高い場所として彼の電脳を示した時は流石に彼女の頭を疑った。そんな重要なものを金庫にも隠して隔離しないのか。いくら心配だからといって、社内の極秘資料をいつも持ち歩くだろうか。

 ――あの人は自分以外信じていないから

 自分しか信じていない。だからこそ、前回の潜入においてもわざわざ自ら侵入者に接触するほどの現場主義なのだ。だからこそ、計画の核と繋がるアクセスキーを常に手元に置いているのだ。企業において、社会において、その独りよがりは致命的な欠陥で歪みだ。だが、その歪みすらも強引に押さえつけられる男なのだと、リオンは語る。
 彼の電脳に宿る使い魔サーヴァントも同じ。自ら弱点を晒すような真似をしていても、不用意に飛び込んだ相手を難無く返り討ちにできる。自身の一部として信頼できるだけの性能スペックを持たせているということだ。
「よう、俺とは初対面だな。自己紹介は要るか?」
「ネズミの言葉を聞く義理があるとでも」
「言ってくれる。まあ、こっちもするつもりは無かったがな」
 交わす言葉はそれだけ。おそらくケイジ達の狙いをヒデオは看破しているだろう。ならば、言葉での駆け引きは無用。堂々と正面から取りに行く。

 Evolve level_Y

 use-skill "Eye of the Gorgon"

 1番最初に仕掛けたのはリオン。2つの赤い義眼が明滅するとともに使い魔サーヴァント邪眼アイオブザゴーゴンが発動。テイマーの肉体を経由して、内に潜む使い魔サーヴァントを魅了して支配する。最初の一手は上々。後はここからどれだけ進められるか。
『クヒャハハハッ!』
 ヒデオの使い魔サーヴァントに下すのは電脳空間サイバースペースへの強制アクセスとセッションのロック。そしてセキュリティの解除。使い魔サーヴァントを土俵へと引き摺りだした上で何重にも仕掛けられた壁を消し、アクセスキーへの道筋を拓こうという魂胆だ。とはいえ、邪眼の効果に完全服従してくれるほど惰弱な敵ではなく、実際に解除できたのは全体の30%程度。しかし、最低限戦える舞台を用意することはできた。

 ghost_flip servant-permission "run away for a victory."

 再び壁が建て直される前に、次の手をケイジが打つ。身体の自由を使い魔サーヴァントに受け渡し、ケイジは電脳空間サイバースペースを潜航。ヒデオの使い魔サーヴァント――人の上半身を赤鎧に包んだ軍馬スレイプニルと相対する。異形の姿であっても、弓と盾を構えるその振る舞いは忠義に生きる騎士のそれ。ならば、それに歯向かうケイジは侵略を行う蛮族というところか。
『ハハハハァッ、ともに地獄を作ろうぞ』
『おう、よろしく頼む』
 傍らにリオンの使い魔サーヴァント――魔獣の半身を持つ吸血鬼が居るため、その構図がなおさら様になっている。実際やっていることはテロリストの真似事のようなものだから間違ってはいない。ならば、悪役らしくその役割を全力で果たすまで。
「こっちもいくか」
「力づくで押さえる」
「承知」
 それは現実で物質の身体を動かしている面々も同じ。アーミテジとリオン、ケイジの身体を動かす使い魔サーヴァントが為すべきことはヒデオの物理的な拘束。テイマーを押さえてしまえば、ケイジらに任せた使い魔サーヴァントの攻略も一気に楽になる。それを抜きにしても、余計なことをされるのも御免だ。




 散開するナイフがヒデオの左手で無造作に払われる。直後に背後から突き出される短刀も足を半歩ずらすだけで躱し、肘を落としてケイジの右腕から短刀を叩き落す。真上から振り下ろされる鋭い手刀も同じ。まるで着地点を予期していたかのように半歩下がって躱し、落下してきた全機械義体フルボーグを蹴り飛ばした。
 情報通りの武闘派。大企業の幹部をやるよりも格闘家か傭兵をやっている方が性に合っているのではないだろうか。最高クラスの遺伝子調整児デザイナーチャイルドという素体ベースに、最新鋭の軍用機械義肢サイバーウェアという改造チューン。人一人が体内に抱えるには些か過剰な戦力のおかげで、リオン達が持つ数の差というアドバンテージは無いに等しい。
「この怪物が……」
「あなたに言われたくありませんね」
 アーミテジが右手の銃騎槍ガンランスから7.62mm弾を乱射。ヒデオは動じることなく、義手の左腕の機構ギミックを展開し、幅の広い赤色の盾へと変形させて全ての弾を受け止める。赤色の盾を支える身体は反動で怯むことはなく、右手に仕込んだ光線レーザー銃の狙いを静かに合わせる。
「む」
「へぇ」
 銃口の動きが止まる。後は引き金を引くだけというその瞬間、ヒデオは大きく後退して砲身を振り上げる。直後、彼の目前を縦に通過するケイジの短刀。最低限の移動による回避。それが齎すのはノータイムの反撃。不意打ちを避けられたことに驚く間もなく、ケイジの眉間に光線レーザー銃が突きつけられる。しかし、ケイジの表情筋に変化はない。
「――死ね」
 ヒデオの背後に影が落ちる。ヒデオがその正体を理解した直後、リオンが彼の首にナイフの切っ先を向ける。アクセスキーを引き出すための脅しも電脳への影響に対する躊躇いも一切無く、ただ最短距離で腕を振るう。
「――は」
 ナイフの刃先から血が滴り落ちる。5m程後退してそれを確認したリオンの表情は明るくない。それはこの血がヒデオの返り血ではなくリオン自身の血だと理解していたから。左手で右目の周りに触れれば、その場所を覆っている筈の銀が無くなっていた。そこでリオンはあの一瞬の全容を理解する。
 ナイフを突き立てるより早くに、ヒデオは右肘をリオンの仮面にぶち当てて彼女を弾き飛ばしていた。仮面の一部が破損しているのは、そこがヒデオの右肘が直撃した場所だったため。ナイフに着いた血は仮面の破片で傷ついた血が右手を伝って流れたため。
 血で塗れた右目を拭うこともなく、リオンは奥の瞳に激情を湛える。その視線の先で戦いの流れはまだ途切れてはいなかった。
「まだまがっ……くっそが」
 ケイジの身体が大きく吹っ飛ぶ。ヒデオがリオンを右肘で殴り飛ばした直後に彼の右肩を狙って短刀を振るったものの、ヒデオは最小の体捌きで回避。その直後にヒデオはケイジの身体に右手の光線レーザー銃を向けて発砲。慌てて体勢を戻すも対応できず、右腕が爆ぜた勢いのままに風に吹かれた塵のように転がった。
「その程度で」
「まだだ」
 間髪入れずに今度はアーミテジが距離を詰め、右手の銃騎槍ガンランスを突き出す。ヒデオは動じることなく、先ほど豆鉄砲を受け止めたように左腕を盾に受け止める。銃騎槍ガンランスは現代技術の粋を凝らした最高硬度の一級品。それを平然と受け止めるヒデオの赤色の盾もまた最高クラスの堅さを誇る。触れ合う度に火花が散り、散発的に撃たれる7.62mm弾の薬莢が軽快な音を立てる。それでもヒデオは攻撃のすべてを盾で受け止めており、身体からは1滴も血を流してはいない。だが、彼が反撃に出られるだけの余裕がないのも事実。左腕の盾はアーミテジの猛攻で手一杯だ。
「ふっ」
 ヒデオの無防備な背中に向けて空中を翔ける10本のナイフ。それは無論リオンが投擲したもの。使い魔サーヴァントが自身の身体を用いる時の最適な動きを、その元となった自身の身体に刻まれた経験から再現。この一手もヒデオは恐らく看破しているであろう。その上で捌けると言うのなら捌いてみるがいい。
「小賢しい」
 槍と盾が接触すること15回目。ヒデオはアーミテジが槍を引くより先に1歩詰めて盾で槍を押さえ、右手の光線レーザー銃を発砲。全機械義体フルボーグの表面が爆ぜ、アーミテジの鋼鉄クロームの身体は大きく吹き飛ぶ。
 これでヒデオの両手は完全にフリーに。背後から迫るナイフも既に看破済み。左腕を掲げながら体を翻し、飛来する10のナイフを悉く捌いてみせた。
「む……どこに?」
 ヒデオが初めて動揺を見せる。ナイフの方向を向いたにも関わらず、視界の中にリオンの姿は無い。そこでやっとヒデオは気づく。先ほどのナイフがブラフでしかなかったことに。
「取った」
 ヒデオがリオンの姿を捉えたのは、彼の顔から30cm程の右に30度ずれた空中。盾の逆方向に回り込んだ彼女は右足を鞭のように振るい、その踵をヒデオの側頭部へと叩きつける。
 硬質な素材がひしゃげたような重い打撃音。その音に偽りはなく、リオンの足が激突した箇所は使い物にならなくなっていた。
「……危ないですね」
 それはヒデオの思考が走る頭ではなく、光線レーザー銃が埋め込まれた右腕。折れるというよりは歪んだと言った方が良い程に骨格フレームは滅茶苦茶。しかし、たかが腕1本程度、脳を格納している頭を守るための犠牲としては十分。
「お返しです」
 リオンが床に足を着いたその瞬間、彼女の顔面にヒデオの左拳が叩きこまれる。銃弾と槍を幾度も受け止めたその硬さは攻撃においても十分な働きを見せた。リオンの小柄な身体は床に強く打ちつけながら何度も無様に転がる。銀仮面も拳の盾となった一瞬で完全に粉砕。床に突っ伏しているのは顔を真っ赤に塗らしたみすぼらしい女だけ。
「ひ……し……」
「無様ですね」
 今のリオンはまるでB級ホラーの住人だ。ふらつく足取りでなんとか身体を起こそうとする姿も、動くたびに滴り落ちる大量の血液も、言葉の体を成さない声も、すべてがヒデオの侮蔑に収束される。虚ろな目で立ち上がる姿にヒデオは賞賛よりも嘲笑の方が似合うと本気で感じていた。
「ころ……なぜ、だ……れを」
 仕舞にはあらぬ方向を向いて譫言を口にする始末。脳震盪でも起こして錯乱しているのか。しかし、この症状は一過性の物では無い様子。そもそもリオンがそれなりに丈夫な身体をしていることは彼女に手を加えたヒデオ自身がよく知っている。少なくとも、このような無防備で不安定な姿は見せないはず。
 ならば、彼女の身に何が起こっているのか。――以前の彼女と何が違うのか。
「何を……何が起きている」
 ヒデオの思考がそこに到達した直後、彼はようやく自身の使い魔サーヴァントを襲った異常に気付いた。




「何をしでかしたんだ、あのチビは」
 ケイジは現在電脳空間サイバースペースで知覚しているものが信じられなかった。
 相対するヒデオの使い魔サーヴァントの力は圧倒的。協力者であるリオンの使い魔サーヴァント――血を喰らう魔獣は何度も軍馬スレイプニルの健脚に蹴り飛ばされ、何度も火の矢に射られて膝を着いた。ケイジもハッキングと並行してサポートをしていたが、それでも被害は時間が経つごとに大きくなっている。
 そこまでは良い。ケイジの立場からすれば問題ではあるものの、まだ予想の範疇だ。――だが、魔獣が6つに増えて、軍馬スレイプニルに一気に群がっている様はどう説明を付ければいい。
 事の発端は魔獣が火の矢で腹部を両断されたときのこと。通常よりも出力を上げて放たれた矢は魔獣の上半身を弾き飛ばした。あまりに呆気ない展開と絶望感でケイジは笑うことしかできなかったが、それ以上に笑うしかなかったのはその後の経過。電脳空間サイバースペースを漂う2つの魔獣の亡骸の断面から糸のようなものが何本も伸びはじめ、複雑に絡まり合ったと思えば瞬く間にそれぞれの欠けている部分を象った。鮮やかな光景に感心するのも束の間、2つの魔獣の身体は再起動して何事もなかったかのように軍馬スレイプニルへと向かい始めた。

 ――絶対に負けない切り札がある

 上層社会トップに上がる前にリオンはそう言った。その切り札がこの屍を元にした増殖と不死身じみた再起動だったらしい。おそらくそれは地下都市アングラの違法で危険な技術を用いて、自身の身体にも手を加えたものだろう。死をも食らう魔獣ならば確かに負けることは無い。
「大丈夫なのか、これ」
 だが、リオンにも相応のリスクがあるはず。ただの再生ならともかく、分裂した上での再生なのだ。それはおそらく彼女の脳領域リソースを喰いながら行われるもの。テイマーを喰らいながら、魔獣は何度も再生し、何度も敵に牙を突き立てる。それを望んだのは他ならぬリオンだ。
「馬鹿野郎が」
 既に魔獣の数は2桁を超えた。1体でも大層な化け物をそれだけ子飼いしていれば飼い主の負担も相当なもの。しかし、当の本人は笑って自分を犠牲にしているのだろう。魔獣によって1番苦しんでいる相手は軍馬スレイプニルなのだから。

 use-skill "Crystal Revolution"

 10を超えた結晶化クリスタルレボリューションの重ね掛け。個々の拘束が働く時間はごく僅かで、ただその数を増やしたところで致命的な隙を作ることには繋がらない。だが、それでいい。結晶化クリスタルレボリューションの本質は表面的な拘束に非ず。その真価は対象のデータやロジックを書き換えて変質させることにある。拘束は回数を重ねても得られる効果は一定だが、変質の影響は回数を重ねれば重ねるほど蓄積する。つまり、結晶化クリスタルレボリューションの使い手が増えれば増えるほど相手の性質は本来の物から遠ざかる。――それが一定の段階まで到達した瞬間、相手の活動はそれを満たす機能ごと停止する。
『やりやがったな、あいつ』
 ケイジのその言葉は賞賛か落胆か。どちらにせよ軍馬スレイプニルはただの彫像と化し、アクセスキーまでの道が完全に開いたのは事実。魔獣やそのテイマーの容態を気にかけるよりも、その道をただ真っ直ぐに走るべき。それが彼女らが望むことなのだから。
 電脳空間サイバースペースを走る時間は一瞬。道中には罠は無く、目的地も確認できた。電子の速さで一直線に進めば、檻の鍵は必ずこの手に収まる。

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