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ID.4748
 
■投稿者:パラレル 
■投稿日:2017/07/16(日) 14:06


What is the cage? 3-2
 2.




D.W. 102/03/03
17:25:33.45

 新暦Dawn Worldの夕方は社畜サラリマンが行儀よく行進する朝とは似て非なる。人々が川のように流れていくという点では同じ。しかし、流れを構成するものは既に本日の責務を終えた人ばかりで至って緩やかで穏やかなものだ。流れから外れて各々の思いのままに歩いている者も少なくない。とはいえ、流れが緩やかなのは自ら抜けていく者が多いのではなく、責務を終えることができずに最初から流れに入れなかった者が多いだけ。――残業という手段で責務を果たそうとする彼らのうち、どれだけの人が正当な残業代を受け取っているのかは考えてはいけない。少なくとも、今街を歩いている面々は平凡にして穏やかな日常を謳歌しているのだから。
「やっほー☆ ルカルカでぇす! お疲れのみなさんに元気を注入しちゃうぞ、キャハッ」
 その平凡にして穏やかな日常をぶち壊すささやかな異物スパイス。正体は交通の要である駅近くの広場で甘ったるい声を響かせている女性。付くべきところを押さえた肉付きの良い美人で、切れ長の目は蠱惑的な色気を湛えている。
 だが、それ以上に通行人の目を惹くのは彼女の服装だろう。旧世代の学校において体育の授業で用いられたという女性用の水着――スクール水着と呼称されたそれだけを着ている姿は善良な一般市民には刺激が強すぎる。そこに先の個性的な言動も加われば、五感に与えるインパクトも相当なものだ。
「こんなにいっぱいの人に見てくれるなんてカ・ン・ゲ・キ☆ こーなったら、ルカルカも頑張っちゃうんだから!」
 結果、事態を把握していない野次馬も混じって、マニアックな痴女の周りにはちょっとした人だかりができる始末。自身の使い魔サーヴァントに命じて、彼女の姿を記録しておこうとする者も多い。
 新人の路上ライブとしてはこれ以上ない入り状況。ざわつく観客の注目を一身に浴びながら、水着のアイドルはマイクを強く握り、満面の笑みとともにゲリラライブの開始を告げる。
「じゃ、1曲目いっくよー★」
 小指を立ててマイクを傾け、媚びるような歌声で電波ソングを熱唱する新人アイドル、マエノ・ルカ。彼女の正体が地下都市アングラのギルドにおけるNo.2であることを観客は知る由もない。――彼女が34歳のバツイチであることも。
「いぇえ〜い★」
「うぉおおおおおお!!」
 ライブは大盛況。派手なビジュアルと特徴的な音楽は通行人の興味を引くには十分。軽い気持ちでライブに参加したのなら、水着痴女の姿が目に焼き付き、蕩けるような歌声が耳に染みついた頃には熱狂的なファンの完成。熱に浮かされた野太い声がさらに周囲の興味を引き、新たなファンの獲得へと繋げる。
 これだけの成果を出せたのはルカの歌声やトーク、ましてやコスチュームの力だけではない。彼女はアイドルであると同時にテイマー。それも手段の選択に迷いの無いタイプだ。であれば、やることは1つ。電脳空間サイバースペースから使い魔サーヴァントを攻略し、彼らを道具として使っているつもりの主の精神を魅了すること。急ごしらえのライブ会場の裏にはそれを強化し拡散するシステムが準備されている。
「よくあんな恥ずかしい真似ができる」
「ホント信じらんないよね。あたしも無理」
 会場の設営には当然ギルドの面々も関わっている。チャットでAngelaと名乗っていた女――ハルサキ・アンジュもその1人。リオンは会場の設営には関与しなかったが、今回の肝である魅了のツールを提供者だ。彼女の使い魔サーヴァント技能スキルをベースにしたもので、拡散力を強化する仕組みがあるならばルカのファンを増殖させるのも難しくはない。
「みんな、ありがとー。これからもルカルカをよろしくねっ! キャハッ☆」
「ねえ。あの人目的見失ってない?」
「いや、全力でエンジョイしてるだけだから問題ない、はず」
 もちろん、これだけ大掛かりなことをしたのはルカにアイドルとして陽の光を浴びさせるためではない。本人のノリはどうあれ、あくまで明日の作戦に必要だっただけ。これはアースガルズ社へと喧嘩を売るための下準備なのだ。




D.W. 102/03/04
18:26:39.46

 上層社会トップで1番高い建物であるアースガルズ社のビル。その入り口は平日の夕方にしては異様な状況に置かれていた。
「面接の予定が入っている筈なんです。しっかり確認してください!」
「ですから、人事部に問い合わせたところ、本日面接の予定は無いと」
「ママ―、見学できるんじゃなかったのー」
「大丈夫よ。……ほら、ウチの子は昨日から楽しみにしてたのよ。どうしてくれんのよ」
「そう言われましても……」
「おう、兄ちゃんどう責任取ってくれんのや、ぐへへ」
「お客様! お客様!! 困ります!! あーっ!!! お客様!! 困ります!! あーっ!!! 困ります!! あーっ!!!! 困ります! お客様!! 困ります!! あーっ!!! あーっお客様!!」
 受付になだれ込む大量の人、人、人。その密度は通勤ラッシュの満員電車並、既に敷地の門から1/3以上の人が溢れ出している。流石の巨大企業メガ・コーポの入り口と言えど、通常営業の定時終わりに500人を超す人間を受け入れられるキャパシティと対処マニュアルなど有りはしない。ましてや訪問者のいずれもが存在しない予定の対応を求める部外者となれば、手練れベテランが匙を投げて逃げ出しても文句は言えない。
 当然、訪問者の全員が偶然自身のスケジュールを読み違えた訳ではない。全員が偽りのスケジュールを書き込まれ、一切疑うことなく従ったためにこの混沌カオスを作り上げることになったのだ。
「ここまで上手くいくとはな」
「もう、ケイちゃんったら……褒めても何も出ないぞ☆」
「なら、とりあえずそのキャラ止めてもらえますか」
 もちろん、ルカ達が前日に駅前で行った下準備が実を結んだ結果だ。現在彼女らは集団から少し離れたところで状況を静観している。その顔に浮かぶ笑みは単純に結果に満足しているだけでなく、人混みに紛れる役割にならなかった安堵も含まれていた。
 彼女らが前日のライブに来た観客――その使い魔サーヴァントに仕掛けたハッキングは観客を増やすための工作だけではない。並行して、いくつかの機能をまとめたウィルスをインストールさせていた。機能は主に3つ。1つ目は「"D.W. 102/03/04 18:20" にアースガルズ社を訪問する」という偽りのスケジュールを刻み込むこと。2つ目は精神安定用のクーリング機能を暴走させ、逆に主の感情を煽って興奮させること。3つ目はSNSにライブの画像とともにウィルスと繋がるリンクを上げさせること。
 前日のライブの功績もあって、ウィルスがもたらした影響は絶大。ただでさえ不満が溜まっていることに加えて、人混みという人間の精神衛生上よろしくない環境。同じように不満を抱えている人々の愚痴と怒号で雰囲気も良い感じに最悪。――後は1滴の仕上げをするだけで、不満は一気に決壊する。
 パン、と短い炸裂音がこの場全員の耳に届く。直後、その音の基点近くで1人の男が倒れ、身体の真下に小さな赤い水たまりが広がっていった。
「キャアアアアアアアアッ!!!」
「う、うわ……あはああアアアアッ!!」
 それが起点。安全第一の三問芝居でも効果は十分。全員の精神を侵していたフラストレーションは臨界点を突破し、理性的な行動が選択肢から消えた人々は自分の命欲しさに縦横無尽に走り出す。ぶつかる人は押しのけて踏みつぶし、武器になるものを手にした人は姿の見えない敵に対して振り回す。
 パニックが引き起こす真の混沌カオス。それは潜入するには絶好の機会チャンス。敵側からしても「ただいま潜入しました」と言っているようなものだが、こちらの潜入など元から相手には予測済みだろうから下手に隠れることに執着する必要もない。寧ろ潜入がばれた後に立ち回りやすくすることの方が現実的だ。
「悪いな。俺達も生き残るために必死なんだ」
「ケイジ……すまない」
「お前が謝ることじゃない、アーミテジ。これは俺達が決めたことだ」
 たとえそれが無辜の人を巻き込む悪行だとしても構いはしない。それがギルドの全員が選んだ、生き汚いダーティなやり方だ。
「うむ……頃合いか」
 状況は整った。本番はこれから。ギルドのNo.1であるフラノ・ライモンが一声上げれば、混乱に紛れてギルドの面々が一気にアースガルズ社へと潜入する。彼も気合が入っているらしく、いつも以上に暑苦しいその姿にギルドの面々は顔を顰めていた。腕を組んで逞しい胸毛を持ち上げ、頭に被った狼がモチーフのマスクの鼻から荒い息を噴きだす姿を見るだけで体感温度が4℃ほど上昇する。
「とりあえず服着て、そのマスク外しませんか? かなり目立つんですけど」
 上半身裸で変なマスクを被っている姿は紛れもなく不審者、或いは変質者。これでは混乱に紛れても目立って仕方ないだろう。すぐ近くで暑苦しさの被害を最も受けているギルドのNo3――ザイゼン・ゼオンが代表として進言するが、希望が薄いことは彼自身が理解していた。
「貴君がそれを言うのかね」
 しかし、立場としては1番提言しやすいゼオンだが、彼も彼で説得力に欠ける目立ちたがりの個性派だった。ライモンやルカと違い、彼自身の姿は不用意に目を引くことの無い。ただ、彼が背負っているバッグは1人暮らしの家財道具すべてを押し込めたかのように巨大だった。
「貴君こそ、その無駄に大きなバッグを置いてきたらどうだ?」
「ななななんてことを言うんですか。愛しいベイビー達を置いていくなんてとんでもない」
「もー、2人して目立つ格好しちゃダーメ☆」
「君にだけは言われたくありません」
「貴君は鏡を見たことがあるのかな」
「あれー、もしかしてもしかして……喧嘩売ってるの?」
「何してるんですか、もう全員飛び出しましたよ」
 予定していた混沌カオスとは別に小さな混沌カオスが産まれつつある。そんな状況に辟易したのか、TOP3改め三馬鹿と保護者の4番目ケイジを除いたギルドの面々は既に人混みの中へと突入。既に大半が人の波を縫ってビルの中へと侵入していた。
「どういうことだああ! 私が号令を出す手筈だっただろうが」
「ちょっと、置いてかれたじゃない!」
「僕のせいにしないでください。八つ当たりなんてそのきっつい服装と同じくらいみっともないですよ」
「もう頼むからさっさと行ってくれよ」
 チャットで誰かがギルドのトップの連中は子供なところがあると言ったが、これではまだ子供の方が聞き分けが良いだろう。――実力が無ければ容赦なく切っているところだ。




 


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