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ID.4744
 
■投稿者:くじら 
■投稿日:2017/07/11(火) 18:57


六月の龍が眠る街 2-3
店の常連に今日は早く店を閉めることを伝え追い出してから、僕はため息をついた。加納がこの店を使って紹介したい人がいると言ったのだ。なんでもその人物も、デジモンを連れた子どもらしい。
加納満が僕の店、バー〈アイス・ナイン〉に現れてから早くも一ヶ月が経とうとしている。最初はヒトミに迫る危険の中でいつまで僕の神経がもつか不安だったのだが、初めて会った時のゴーレモンのように僕やヒトミの目の前で戦闘が繰り広げられることはなく、僕もヒトミもいたって当たり前の生活を送っていた。変わったことといえば毎晩のように加納が飲みに来ることくらいだ。
「カクテルの一杯目だけはタダにしてやる。後は自分で払え」僕は自分たちを守ってくれるヒーローにタダ酒を飲ませることをものの二日でやめた。
「二人の為に一生懸命働いているのに、そんな扱いってないよ」最初の形だけは慇懃だった言葉遣いはすぐに消え、彼はぞんざいな言葉を振るうようになっていた。泣き言を言う彼を見てヒトミはキャッキャと笑った。その膝にはギギモンが丸まって眠っていた。まるっきり猫だ。
ギギモンは思ったよりずっと大人しくしていてこちらから撫でたり抱きつこうとしない限り僕に噛みつくこともない。ヒトミや加納が見ていないときを見計らってなんとか抱き上げようとしてみるのだが毎回手を生傷だらけにする結果となっている。ギギモンはどういうわけかヒトミの言うことだけよく聞いていて、彼女が言えば僕のためにその口から吐く泡を鍋に当ててお湯を沸かしてくれる。ガス代は浮いたが、食費がひどくかさむせいで結果としてはマイナスといったところだ。今日来ると言うデジモンを連れた人物とこのような悩みを話し合えたらいいなと思った。

そんなわけで、早々と店じまいした〈アイス・ナイン〉の店内にはヒトミとギギモンだけが座っている。ヒトミはマーク・ボランがが気だるく歌うオーディオに向かっており、その膝の上でギギモンはすやすやと眠っていた。あんな近くでロックを聞かされてよく眠っていられるものだ。
そう思っていると扉に据え付けたベルがなり、高校生くらいの少年が一人入ってきた。かなり緊張した様子で、僕に話しかける。
「あ、あのう。ぼくですね…」
「話は加納から聞いてるよ、君もデジモンを連れてるんだってな。加納や、一緒に来ると言っていた〈ヒュプノス〉の人間はいないのかい?」彼の緊張を解きほぐそうと僕はカウンターから明るく声をかけた。
「へっ?」彼は素っ頓狂な声を上げたが、慌てて言った。「そうですそうです。ぼくがその、デジモンを連れた子どもです。で、ヒトミちゃんとそのデジモンはどこですか」
ヒトミの名前は加納から聞いたのだろうか。「どこも何も、そこに座っているよ」ヒトミとギギモンは目を開いて彼の方を向いていた。
「あっ本当だ」少年はいつの間にかヒトミとギギモンのそばまで近づいている。


「じゃあギギモン、悪いけど、痛くないようにするから我慢してね」

彼の周りが真っ黒い闇に包まれた

「さよなら」


少年がそう言ったのと僕が彼に銃を突きつけたのはほぼ同時だった。少年はいつの間にか黒い鎧を見に纏い、槍のような武器をヒトミの膝の上のギギモンに向けている。ギギモンは自分の置かれている状況を知ってか知らずか、黙って微動だにしていなかった。ヒトミも同様だ。
「動くなよ、下手な芝居が通じると思ったか」僕は精一杯虚勢を張った。彼が嘘をついているのはすぐに見抜けたが、突然姿を変えたのには驚いた。心なしか背もさっきよりひとまわりもふた回りも大きくなっている。
少年が姿を変えた鎧の騎士は舌打ちをした。「銃を持ってるなんて聞いてないよ。対サイバー生物銃なんて〈ヒュプノス〉から貰ったのか」
「死んだ友達から貰ったんだ」
「アキヒサさんのことか、この子が娘さんだっけ?」彼はヒトミの方に目を向ける。
「ヒトミに手を出したら、ここで殺すからな」
「この子じゃないよ、ギギモンの方だ」
「どっちにしろだ、僕の店でそんなものふりまわして、タダで済むと思わないでくれ」体は震えているのにこんな昔のアメリカ映画みたいな陳腐なセリフがよく言えたものだと僕は自分で思った。僕の口も捨てたもんじゃないな。
「どうして明久やヒトミのことを知ってる? まさか、お前が明久を殺したんじゃないだろうな?」
この質問に鎧は笑って言った。「明久さんは恩人だ、そんなことしないよ。ヒトミちゃんにもだ。まあそういうことをするとしたら、ぼくじゃなくてヒュプノスの方じゃないかな」
「なんだって?」
その時また入店のベルがなり、加納と男がもう一人、そしてパーカーを着た金髪の少年が入ってきた。三人とも店の状況をみて足と息を止める。
最初に動いたのは加納だった。「クラビス!」彼がそう叫ぶとどこから現れたのだろうか、騎士の黒とは対照的な光に包まれた人型の影が僕らのすぐそばに現れた。黒い鎧はまた舌打ちをして光の手から逃れ、距離を置いた。
「ギギモンを連れて部屋に入ってろ!」僕はヒトミにそういうと、彼女は茫然自失としたまま僕の後ろでの事務室に引っ込んで言った。
「俺たちが今日ここに来ることは知らなかったんだろうな」加納が言う。「いくら〈十闘士〉でもS級エージェント二人の相手はできないだろう」とすると彼の後ろの長身の男もヒュプノスのエージェントなのか。
「この方法しかないとか言いやがって、あいつ、殺してやる」鎧か吐いた物騒な言葉はしかし、この場の誰でもない身内に向けられたもののように聞こえた。
「大人しく投降しな」という加納の言葉に鎧は反応せずゆっくりとこちらを見渡す。
「〈ヒュプノス〉の皆さんったら、全く計画のためだからって随分必死ですね」
「計画?」僕が呟く。
「確かに、ギギモンみたいな希少種を呼び寄せるなんて並の人間にはできないことだ。ヒトミちゃんはかなり有望な適格者ってことか」
彼が何を言っているのか問うように僕は加納の方を向いたが彼はただ苦い顔をしている。
「クラビスエンジェモンを連れたエージェントさん。あなたとは二年前にも会いましたよね。〈鋼〉が今度はアバラを折ってやるって言ってました」
「黙っていろ」そう言ったのはクラビスエンジェモンと呼ばれた人型の光だ。神々しい姿とは裏腹に怒りを感じさせるドスの効いた声だった。
「二年前、あなたもぼくと同じようにアキヒサさんに命を助けられたんでしょう? それに対する恩返しが、その子どもを実験台にすることとはね」
実験台?
皮肉めいた鎧はの言い方にクラビスエンジェモンは怒りの声を上げた。それを合図に全員が動く。僕も銃を一発撃ったが、騎士は次の瞬間店の出口に立ちそこにいる金髪の少年に話しかけていた。
「噂の転校生くん、今ばかりはぼくの方が人気者だね」
そして彼は黒い球となって店から消えた。その後すぐに白い光球となったクラビスエンジェモンがそれを追いかける。
「グラン! 俺たちも行くぞ」長身のエージェントの声に従い今度は大きな黒い虫型のデジモンが現れた。彼は店を出る前にこっちを向く。「ミチルと店主さんは、よく話し合った方がよさそうだな」
彼が店を出るとぼくは金髪の少年の方を向いた。「君はヒトミと一緒にいてやってくれないか。僕はこいつと話があるんだ」
「分かりました。あまり互いに感情的にならないようにしてください」偉そうなことを一言いうと彼は事務室に入った。加納がたまりかねたように話しかけて来る。
「なあ…」
「全部、説明しろ。最初から」僕は怖い顔をして言った。無理に顔を作る必要もなかった。

*****

レーベモンは夜の街の中を疾駆していた。この重い鎧を着て戦い始めてからかなり経つが、こんなに焦らなければいけないのは初めてだ。S級が二人? 聞いてないぞ、と彼はまた悪態をついた。エージェントが来ないうちにバーに堂々と押し入りさっさとギギモンを始末すればいいと一条秋穂が言うからそうしたというのにこんなことになるとは。右後ろに迫っている光を感じる。クラビスエンジェモンだ。デジタルワールドに存在するという〈ゼニス・ゲート〉の守護者。レーベモンは闘士となるための修練の中で読まされた神話の一節を思い出す。どうしてあのエージェントがそんなバケモノをパートナーにできているのかはさっぱり分からなかった。
しかしクラビスエンジェモンだけならまだ良いのだ。彼は守護者として与えられた絶大な力を他のことには使えないことになっているため、実際の力は他の究極体とそこまで変わらない。事実、一条秋穂の進化する〈鋼〉は二年前の戦いで彼を下している。その時自分は神原明久のパートナーデジモンの相手をしていたな、と逃げ続けながらレーベモンは思い出した。あのアシュラモンもあの時にパートナーとともに死んだはずだ。そんなことを考えていた彼に右側から雷撃が迫る。なんとか横とびにかわすことはできたもののそのせいでクラビスエンジェモンに距離を詰められてしまった。そう、この雷が問題だ。あのもう一人のエージェントのパートナー、僅かに姿を見ただけだったがおそらくグランクワガーモンだ。この二体を相手に逃げ切るのはほとんど不可能に感じられた。先程からその二体とは別の光弾も飛んできている。トループモンだろう。デリートしたデジモンのデータをスーパーマーケットで売っているカレー用豚肉みたいにちょうど良い大きさに細切れにして着ぐるみに詰めたおぞましい兵士。組織のこのような行いに対する義憤の為にレーベモンはリアルワールドにおいて同じ目的を持つ単なる競争相手として以上にヒュプノスを嫌っていた。
「数が多すぎる…!」先程からディースキャナで発している救難信号に一条秋穂が答える様子はない。あいつ、帰ったら覚えてろよ、レーベモンは呟いた。もっとも、生きて帰れたらの話だけど。

迫り来る光弾をかわしきれず、彼は振り返り左手の“贖罪の盾”でそれを受けた。そこにクラビスエンジェモンが一気に追いつく。
「追いついたぞ。マスターを侮辱したやつは許してはおけない!」クラビスエンジェモンは手に持った鍵形の剣を振り下ろした。それを剣と思っているのは本人だけで、実際のところはただの鈍器だ。再び盾でそれを受けたレーベモンが後ろに吹き飛ばされる。地面に激突した彼が辺りを見回すとそこは町外れの農家が並ぶ地域の一画にある荒れ野だった。随分走ったものだ。
「ここでなら一般市民に被害が出ることもなさそうだ。決着をつけるぞ、闇の闘士」クラビスエンジェモンが地面に降り立ち剣を構えた。
「仕方ないね、その別のゲームに元ネタがありそうな剣で僕を倒せると本気で思ってるなら、相手するよ」どうもクラビスエンジェモンはパートナーに対するレーベモンの言葉に怒り狂っているらしい。これはチャンスかもしれないな、とレーベモンは思った。
「それじゃあ決闘と行こうか、仲間を呼んでも良いよ。君は前にパートナー諸共〈鋼〉にやられてるからな。ハンデだ」彼は挑発の言葉を吐いた。目の前の天使はさらに怒りを露わにし、彼の周りの白い光が増した。
「お前など私一人で十分だ」そう言って彼は後ろの暗闇に声をかける。
「グランクワガーモン! 手を出すんじゃないぞ、横のエージェントもだ」すると、彼らもそこまで来ていたのか、大ピンチといったところだ。レーベモンは汗が背中に吹き出すのを感じた。
「馬鹿言うな、挑発に乗せられるんじゃない」高視聡の落ち着いた声が聞こえる。
「いいから見ていろ!」クラビスエンジェモンの怒りのおかげで少しは時間が稼げそうなのがレーベモンには有り難かった。早く来い、秋穂。
「ああ、君たちは見ていればいいさ。一撃で決着をつけるよ」平静を装ってそう言うと彼は盾を地面に放り、槍を両手で構えた。
「望むところだ」クラビスエンジェモンが答え二人は向かい合った。

一瞬の沈黙が終わり気がついた時、二人の位置は入れ替わっていて、そこから少し間をおいて、ぐしゃっという音を立ててクラビスエンジェモンが地面に倒れた。


「クラビスエンジェモン!」高視が声を上げる。レーベモンは深く息をついた。思ったよりもあっけなく片がついた。後は−−。レーベモンの考えがそこまで及ぶ前にもう一つの黒い影が彼の前に現れた。
グランクワガーモン、レーベモンは思う。慣れない相手だが、一対一ならなんとかなる。
「グランクワガーモン。距離をとって雷撃だ」高視が命じるとグランクワガーモンは後ろ手に飛び、アゴの間から先ほどと同じ電気の塊を放った。
ぼくが遠距離攻撃を持たないと思ってるのか、レーベモンは仮面からのぞく唇に笑みを浮かべる。このエージェント、腕は立つがぼくの縄張りである東北での任務は初めてで勝手がわからないらしい。

〈エントリヒ・メテオール〉

レーベモンがそう口の中で呟くと彼の鎧の胸部にある獅子の彫像が輝き、そこから黄金のエネルギー波が放たれた。それが前方でホバリングをしていたグランクワガーモンに直撃する。
口ほどにもないな、レーベモンは思った。これなら逃げる時間くらいは稼げる。

そう考えている間に彼は殴り飛ばされていた。いつの間に距離を詰めたんだ。奴の動きがこんなに早いのは予想外だった。体が宙に浮くが不思議と痛くはない、今の拳は妙だ。わざと力を抜いたような、まるでバレーボールの−−。
「トスか…!」彼がそう気付いた時には後ろに迫った影が彼を受け止めていて、彼はその金属質の板にしたたかに頭を打った。
「〈ゼニス・ゲート〉」そう言うと、先程のレーベモンから食らった一撃のことなどなかったように笑ってクラビスエンジェモンが立ち上がる。「なあグランクワガーモン、今闇の闘士殿が頭からぶつかった扉の名前はそう言うんだ」
「聞いたことあるぜ、入っちゃいけないんだってな」グランクワガーモンも虫にも何にも似つかないその異形の顔に笑みを浮かべて芝居がかった口調で答える。
バカな、作戦を打ち合わせる暇なんてなかったはずだ。レーベモンは逃れようともがくが体がうまく動かない。まるで体が扉に引っ付いてしまったかのようだ。
「それに頭から突っ込むのは、扉の突破を試みたことだと判断して構わないな?」
「当然だろう。そうじゃなければどこのバカが扉に突っ込むんだ」
「ならば私は扉の守護者としての力を振るわなければいけないことになるな?」クラビスエンジェモンがそう言うのとほぼ同時に彼の剣が輝き出す。レーベモンの顔が仮面の上からでもそうと分かるほど歪んだ。
「ズルくせえ…!」
「私だってこんなことしたくないのだが、守護者としての仕事があるんでね。まあ、私が怒りに我を忘れるなどと思ったのが間違いの元だよ」
それが天使のやることかよ、と言う時間もレーベモンには与えられなかった。

*****

霞む目を開けると、レーベモンはどこかの路地裏に転がっていた。おかしい、自分はあの荒れ野で殆ど死んだはずだったのに。
「やっと目を覚ましたか、手を掛けさせるな」その声とともに腹部に蹴りが飛んで来て、レーベモンはひどく咳き込みながら最悪の覚醒を迎えることになった。
「お前は…!」目を声の方に向けると彼は言葉を失った。
「この場でお前を殺してしまいたいところなんだが、お前に死なれると色々と面倒なんだ。しばらく見つからないところで寝てろ」
「どうしてここにいるんだ」レーベモンはか細い声で呟く。途端に高笑いが彼の耳を突いた。

「何故って? 俺たちはもともと一人じゃないか」

「返せ…!」立ち上がろうとしてよろめいたレーベモンの体は声の主の足で再び地面に押さえつけられた。

「おいおい、今はやめたほうがいいぜ」その言葉が終わると同時に彼の頭はひどく蹴りつけられた。

「返せよ…!」再び薄れゆく意識の中でレーベモンは叫ぼうとしたが、実際にはそれは喉元で掻き消え、低い唸りになっただけだった。

「また会おうぜ、じゃあな」

待てよ、行くんじゃない。かろうじて相手の名前を呼ぶ声を上げる。

「ダスクモン…!」

奪われた自らの半身の後ろ姿を見る彼の目はやがて閉じ、レーベモンは再び意識を失った。


〜2-4に続く〜


スレッド記事表示 No.4742 六月の龍が眠る街 2-1くじら2017/07/11(火) 18:54
       No.4743 六月の龍が眠る街 2-2くじら2017/07/11(火) 18:55
       No.4744 六月の龍が眠る街 2-3くじら2017/07/11(火) 18:57
       No.4745 六月の龍が眠る街 2-4くじら2017/07/11(火) 18:59
       No.4746 あとがきくじら2017/07/11(火) 19:00