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ID.4739
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2017/07/09(日) 22:02


アオミドリ色の景色 第一景【四色の花園のある街2】
珍しくミドリは昼に起きた。冷蔵庫の中を見ると、ミドリがつくり方がわかる様なものはもうなくなっていた。仕方ないから外に食べに行く事にした。

そうして適当な喫茶店に入ると、目の前に白いリボンの妖精、白い花園のティンカーモンが座った。

「相席いい?」

「もちろん」

「ありがとう、青とか赤とか緑から聞いたけど、頑張ってるみたいね。かなり、なんで頑張ってるのかは聞いてもいい?」

「いいですよ。でもどこから言ったものか……うん、とりあえず私はアオっていうディアトリモンを探してるんです」

白い花園のティンカーモンはそのディアトリモンがスキンシップ取りたいってディアトリモンなのねと相槌を打った。

「そうです。アオは私の家族で、一緒に育って来たけれども、アオがファルコモンから進化した時に私が抱き着いて血塗れになったんです。傷自体は全部浅かったんですけども、それを気にしてアオが出てっちゃって」

「それで旅して捜しながら、触れる方法も探してるの?」

「そういう事です」

優しいんですよ、なんて笑うミドリの袖と手袋の間に白い花園のティンカーモンは目を走らせた。手首の辺りに細い傷痕が何本もある。

それがミドリが言った浅い傷であるならば、それが体の前面に広い範囲にできたならば、それはかなりの出血を伴っただろう事は想像に難くはなかった。

「そういえば名前聞いてなかったわね?私は……まぁわかると思うけど白い花園のティンカーモン。あなたは?」

「私はミドリです」

「ねぇミドリ、もしかしたら他にも解決策になるかもしれないのが幾つか思いついたから明日、白い花園に来てくれない?白い花園は他に比べると広く浅くだけどもその分いろんなジャンルの本があるわ。きっと役に立つ本があるわ。他の仕事の合間にまとめておくから」

白い花園のティンカーモンの提案にミドリは是非と喜んで、明日の約束を確認して別れる。

夕食と朝食を買って部屋に戻り、前日に引き続き工芸に精を出したが、約束があるので早めに切り上げて寝た。

翌日、ミドリが白い花園に行こうと部屋を出ると、一瞬何かが気になり、一度部屋に戻って金目のものとか色々入った小さな肩掛けカバンを持って改めて部屋を出た。

白い花園に着くとすぐに白い花園のティンカーモンは姿を現した。

「こっちが傷を負ってもすぐに治せるようにする方向、こっちは別の種にディアトリモンを変える方向、こっちがミドリ自身を人間の強度でなくする方法の中から青の方で扱ってるジャンルを除いたの数冊。より詳しく知りたい場合はどの花園かもメモ挟んで置いたから」

どさっどさっどさっととても一度で運べなさそうな量を出して来て、ミドリは目を丸くする。

「とても一度に運べないし数日じゃ読めないですよ……」

「……それもそうね。少し張り切りすぎたかも、でもここから厳選するとなるともうちょっと待ってもらう必要があるわね」

白い花園のティンカーモンがんーと頭を悩ませ始めると、ふと、二人に声をかけてくる人間とその横に腰ぐらいの高さのデジモンがいた。

「やぁ」

その姿にミドリは思わず眉根を寄せてしまう。が、なんとかそれを伸ばしてどうかしたんですかと返した。

「運ぶのに手が足りないなら手伝うよ。僕達二人が手伝えばなんとかなるだろう?」

そう言って、その人が乱暴に本を持ち上げようとする。

「あ、ちょっともう少し丁寧に……」

そう言いながらその人に近寄った白い花園のティンカーモンが突然床に押し付けられた。

押し付けたのは人一人ぐらいなら飲み込めそうな大きな顎の赤い四足歩行の狼で、その狼が現れた代わりに人間の腰ぐらいの大きさだったデジモンの姿が消えた。

「うん、君を探しておいてよかったなぁ」

そんな事を言いながらごそごそと虫カゴみたいな金属製の籠を取り出すと、その人は白い花畑のティンカーモンをその中に入れようとする。

そうなってやっとミドリはハッとして、ちょっとと制止の声を上げようとしたが、その人が腰から拳銃を取り出したので結局声は上げられなかった。

「大丈夫、君に危害は加えないよ。僕はこのティンカーモンを探して連れて来いって言われただけだからね。君にも他にも危害を加える理由はないんだ」

「……まぁ、俺としてはもうすこーしばかり暴力的なやり方の方が好きなんだが、足手まといもあるしな」

「非力な人間だからこそ疑われないのに、君こそ変身しないとわかりやすい犯罪者の顔してるんだから困るよね」

その人間と赤い狼が喧嘩してるような感じを出しながら、白い花園のティンカーモンを籠に入れて鍵を閉めた。ミドリを案じたのか抵抗もしないで入っていった。

その姿はミドリに罪悪感を覚えさせた。大概のデジモンは小さかろうと何かしらの自衛手段がある。幼年期のデジモンですら酸の泡という人間の目に入れば最悪数日間まともに目が見えなくなるぐらいのものは持っている。

弱い体の小さなデジモンほど毒なりなんなり、むしろ襲われた状況でこそ使われるような何かがある。それが自分のせいで、自分の弱さのせいでと思うとミドリは胸が潰れそうだった。

「あの、ティンカーモンを連れて行くとあなた達はどうなるんですか?お金でももらえるんですか?」

「……んーと、それは身代金を払うから返してくれというやつ?」

その人がそう答えたからミドリは宝箱の様な意匠の凝らされた厚みのある箱に入った宝石類を見せた。いざという時の非常資金に持ち歩く類なので、大ぶりで、リングや何かへの加工はされていない、どこでもそれなりの値段で買い取ってくれる様な状態の宝石が数個、厚いクッションに包まれて入っていた。

「あー、いいね。悪くなさそうなお金になりそうだ。まぁ、だけどもそれは君の命と交換にしようか」

爽やかな笑いが醜悪な言葉で彩られ、ミドリはだから嫌いなんだと吐き出しそうになったが、堪えた。

「じゃあなんか変なことしない様に地面に置いてもらおうか」

そして向こうが指示した様に箱を閉じて地面に置いた。

その人が赤い狼に取りに行けよと顎で示すと、赤い狼は舌打ちをしつつその箱のところまで行き、前足を伸ばす。

赤い狼が確かに箱の真上に前足を持ってきた事を、その箱の上の方に頭もある事を確認して、ミドリは咄嗟にしゃがみスイッチを押した。

すると箱の蓋が爆発して、鉄の破片が上方に飛び散って赤い狼の頭と前足を蜂の巣にした。

それの一つは当然上の方に吊るされていたりした本棚にも迫ったが、本棚の周りにはバリアでも張られたかの様になり弾かれ、上から落ちてきた鉄の破片が何個か地面に倒れて今にも息絶えようとしている赤い狼に刺さった。

それに唖然としながら怒りを込めて拳銃の引き金を引こうとその人はしたが、檻の隙間から伸ばされた手がその手を引っ掻いていた。

それは一瞬引くのを止めさせたが、それでもそんなので止めてやるかと引き金を引こうとして、引けなかった。その手は瞬く間に麻痺し、数秒という早さでそれは全身に回る。

さっきは使えなかったティンカーモンという種の持つ麻痺毒だった。

ティンカーモンの入った檻が転がると、他の白い花園にいたデジモン達がぞろぞろと集まってきてすぐにその人は縛り上げられ、赤い狼もトドメが刺された。

「あっ、待って!」

檻も怪力のデジモンの手で破壊されようとしたが、それはミドリが止めた。

「その檻作りが良さそうだからできるだけ傷をつけずに……あ、ちょっと不謹慎ですね」

「……ううん。私を助けてくれたんだもの、少し遅くなるぐらい構わないから鍵とか探してもらっていい?」

白い花畑のティンカーモンがそう言ったことで檻は壊されず、ミドリの手に渡る。

それをジロジロと良く見てからミドリは爆発した宝箱を開けて中の宝石の無事を確認した。蓋の膨らみに仕込まれた火薬の衝撃で歪んだ蓋も石の下に厚く敷かれたクッションのおかげか傷つけてはいなかった。

「しかし、思い切った武器ね。というかなんでそんな手の込んだものを……」

「デジモンから逃げる時用はお世話になったグリフォモンの声を録音したものがまた別にあるんですけど、これ、人間だと大体引っかかるって話で……使ったのは今日が初めてでした」

直して使えないかなとか言いながら見てる姿に白い花園のティンカーモンはぷっと吹き出した。

それから、白い花園のティンカーモンはまた仕事に戻った。周りのデジモン達がそれを望んだからというところもある。

その前にとミドリは一冊本を増やしてもらった。本を運ぶのは三往復してなんとかやり終えた。

本は、一見多く見えたがミドリの話に参考になる場所は青の花園で借りてきたものよりも一冊あたり短く、考え方の幅は広がりそうだけどという感じで、本人が言ってた通りの広く浅くの内容だった。中には何冊か内容が被っているのも含まれていて、一日どころか半日で充分だった。

次の日、ミドリはまだ本を読んでいた。タイトルは、四つの花園でそこにはここの街の図書館の三百年近い歴史とそこに絶えずに常に四人居続けているティンカーモンの司書達の話も一緒に載っていた。

そこに載っていた過去の司書のティンカーモンの写真も、ミドリにはみんな同じ顔に見えた。

さらに翌日、修理も終わったバギーを使って借りた本を返しに行くと、白い花園のティンカーモンがわざわざ出迎えてくれた。

「どうだった?参考になった?」

ミドリが返却ボックスに入れた本が自動で運ばれて行くのを眺めていると、ふとそんな事を聞いてきた。その声に不安さは見えない、参考になったと確信していた。

「とても、特にデジメンタルとかスピリットとか、アオがディアトリモンじゃなくなればいいって発想はなかったから参考になりました」

「そう、それはよかったわ。ところで、これからも旅を続けるのよね?」

「もちろん」

「……もしよかったら、私をここから連れ出してくれない?」

「……連れてくだけなら。バギーの座席に余裕もあるから大丈夫ですよ」

「ありがとう、出発する予定の日を教えて、その日までに準備をしておくから。あ、今度からは私がお世話になる側なんだから敬語はやめてよね」

ミドリは少し考えると、三日後と答えた。

三日後、バギーにはミドリと荷物と一緒に白いポンチョを着たティンカーモンがいた。

そこはもう街の外で、街を出て数時間走ると、ミドリはおもむろに白い花園のティンカーモンに話しかけた。

「ねぇ、なんで街を出ようと思ったの?」

「またあんなのに襲われるのが嫌だったから。あれも、初めてじゃないし……いるのよね、私達が本の中身を全部把握してると思い込んで狙うやつ」

「違うの?」

「かなり違う。内容は把握してるわよ?例えば、小説ならあらすじとかその時のキャラの感情とか関係性までね。でもそれは本の中身の全部じゃあない。そのニッコリンゴは赤くて美味しそうという内容は把握しててもそれを、それは日光を浴びてつやつやとした赤を周囲に見せつけていた。齧り付く前から口の中に唾液が溢れ、それの名の様に口角が期待に上がってくるのだ。みたいな文で読むのと同じだと思う?」

なるほどとミドリは頷いた。少しリンゴが食べたくなっていた。

「技術書なんかもそうね、例えばこの計算でそれは求められるということは知っててもその計算でなぜいいのかなんてことはわからない。知識が頭の中に入ってる訳じゃなく、本の内容が入ってるだけなの。それでもいい事柄もあるんだろうけどね」

もっと話したい様なティンカーモンに、ミドリは少し考えてまた質問をする事にした。

「ティンカーモンの寿命ってどれくらい?」

「八十年ぐらいかな。人間とそう変わらないわ」

また少し考えて、ミドリはまた質問する。

「……街は、離れて大丈夫だったの?」

「大丈夫よ」

「……それは、また代わりのティンカーモンが作られるから?」

「……ううん。作られない、もう絶対に作られることはない。そのクローンを作る機械も記憶を移す機械ももう壊された」

「だから、三人で四人いるフリをしてたの?」

「そこもわかってたの?どうやって気づいたか教えてもらってもいい?」

「本の中のティンカーモンの顔がどう見てもみんな同じだったのと、赤い花園のと緑の花園のの言葉かな」

「そんな確信持てそうな事を……?あ、そういうこと?私にカマかけたんだ?」

ミドリは頷いた。

「うん。じゃあ少しだけ昔話をしようかな。あの街ができた時の話」

白い花園のティンカーモンがそう言って話し始めた。

「昔、三人のデジモンがいました。一人は本屋の看板娘のティンカーモン、一人は研究者のデジモンで、一人はそのデジモンの親友でした。

二人は研究者のデジモンの研究を全力で応援していましたが、なかなかスポンサーも付かず、場所もありませんでした。実験したい事は幾らでもあるのに実験できず、また専門書なんかも高くてなかなか買えないのです。ティンカーモンはこっそり読ませたりしていましたが、それも商品として仕入れる事をしていた分だけ、逆に言えばティンカーモンも研究書を集めるお金がないのです。

そこで親友のデジモンは考えました。貸してくれる人がいないならば自分達で作ろうと。幸いそのデジモンは商才がありました。本屋を改装し、継ぎ足し継ぎ足しを続けて実験室のついた図書館にまで大きくする事に成功。さらに、さらにさらにと発展させてついに研究者の為の図書館と実験場と居住区の街を作る事に成功したのです。

ただ、そこで一つの問題が起きました。その研究者のデジモンと、親友のデジモンは長命な種でしたがティンカーモンはたかだか八十年、今にも寿命で死んでしまいそうになってしまいました。

これは困りました。全ての本はティンカーモンが集めたもので、全ての内容をティンカーモンが把握していました。ティンカーモンがいなくなると図書館はパニックになります。そして、二人は悲しみのあまり研究や商売どころでなくなってしまうかもしれません。

そこで研究者は悲しみに狂いかけた頭で一つの理論を完成させ、その装置を作りました。記憶をコピーし、新しい肉体に移す、実質的な不老不死の装置です。

しかし、それは失敗しました。知識は写せどその時の感情は写せず、ティンカーモンが死ぬまでに生まれたコピーはティンカーモンの知識を持ったティンカーモンという同じ種の同じ肉体の別のデジモンだったのです。

とうとう研究者と親友は狂いました。いえ、それで良かったのでしょう。彼らは新しく生まれたティンカーモンを司書として、図書館の一部として組み込みました。四つの図書館にそれぞれ一体のティンカーモン、新しい本が来る度にデータは更新され続け、一体が死ねばまた新しい個体が生み出されて司書になります。こうして、今の街ができたのです。

しかし、三百年経つと状況はまた変わりました。これはおかしいと一体のティンカーモンが気づいたのです。そのティンカーモンはデータのバックアップを取り、肉体を作る機械諸共破壊しました。

ただ、それで話は終わりませんでした。二人はティンカーモンをとにかく失いたくなかったのです。機械が破壊されようもののならば破壊したデジモンは苦しんで死ぬように罠を仕掛けていました。

皮肉な事です。守りたかった筈のティンカーモンと同じ顔を殺してしまったのですから。また、それを知ってあるティンカーモンは思います。自分はここでずっと司書をし続けるのだろうかと。そして決めます、気を許せるようなあ旅人が来たら、少し試してついていく事にしようと」

後は知っての通りと言ったティンカーモンに、ミドリはなるほどと頷いて、もう一つだけ聞いてもいいかと聞きました。

ティンカーモンはどうぞと言う。

「私はあなたを、なんて呼べばいい?」

するとティンカーモンは、ポンチョの白を見せつけて答えた。

「私が、白い花園のティンカーモン。だから、適当にもじったりして呼んで」

さらに少しして、草原を走るバギーから青い帽子が捨てられて、風に飛ばされていった。


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