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ID.4728
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2017/05/15(月) 21:30


短編【私は人か?人だったのか?】5
寝て、起きて、私は怖くなった。

これからも調べていたら私の事についてわかってしまう。本当にそうだったら、いやそうじゃなくても翻訳プログラムは入れられているらしいのだから何かしら頭の中を弄られたのは間違いない。

もし、私が黒木 蓮華でなかったら。私の思う黒木蓮華でなかったら、私は一体誰だという事になるのか。

一日の間に何度も何度もふっと浮かんで来てはポロポロと涙が溢れる。

抑えたくてもどうしようもなくて、そうして頭の中で私が誰かを反芻する。

データだけを見れば聖奈さんの考えは筋が通る様に思う。人格も記憶もデータになるならば当然移植もできるし、そうしたら私はどこかで保存されていた私なんじゃないかという気すらする。

ふと、パンドラの箱の話を思い出した。箱を開けると災厄が出てきて地上に満ちる、しかしその底には希望が残っていたと。

図書館の記録は、私が誰かを示すものじゃない。むしろ混沌とさせるものだ。だけど、あれはこの仮説だと避けて通れない。

あれは、私が生まれるより前に私の戸籍があったと言えるのでは。それは、私の記憶を移植する為に産み出し育てたという事と矛盾する。

私を過去から現在に連れてきたならば、クロックモンの能力を使ったりしたのならば、途中に中継点があってもおかしくないし、私を受け入れる為の戸籍は作られたものだろうから多少ずれてもおかしくない。それでもおかしいことではあるけども。

私は、私だけだと思いたい。信じたい。

だから調べる必要がある、調べなきゃいけない。

洗面所で顔を洗う。もはや見慣れた狐の顔のその内側を見極めてやると睨みつける。

まず聖奈さんに話した。そしたら聖奈さんはレスターに連絡を取ろうと言った。五階の事を知ってたのはレスターだけだし、クビになったとは言えこの時代の整形外科はある種世界の根幹を成す技術者であって社会的な地位もあるからと。

「パンドラの箱は開けてはならない。この法治国家で生きる立場ある大人としてその事を君達に伝えないわけにはいかないよ」

レスターの最初の回答はそうだった。

そこに正攻法で入るにはおそらく相応の地位がいる。調べるにも当然、であるからおそらく調べようとすれば法を犯す事になり得ると。

「でも、お願い。私が私かどうか私は知らなきゃいけない」

そう言うと、レスターは軽く下を向いてどうするかなと呟いた。

どう説得したらいいものかと私も何も言えないでいると、レスターが口を開いた。

「アンソニーとかどうだろうか」

唐突に何を言い出したのだろうと、聖奈さんの方を見る。どうやらわからないらしく小さく首を横に振られた。

「ほら、レスターはあくまで警察だから法を守る役でなければならないだろう?その点トミーとタペンスシリーズのアンソニー・カーターならば諜報部だからそれらしくなるかなと思ってさ」

「それはつまり、協力してくれるって事でいいんですか?如月さん」

「その通りだよ、しかし聖奈君は蓮華君に比べてあたりがきつい。この期にアンソニーと呼んでくれてももちろんいいんだけども?」

ねぇと私にも振ってくる。

「ブルース呼びは諦めたの?レスター」

「ブルースの方が嬉しいけどもね、そして呼び方を変える気はなさそうだ」

残念残念とレスターが首を横に振る。

「まぁなんにしても入ろうとすれば当然一定の手段は必要になる。少しの間私はその調べ物に専念するよ。最悪は無理やり押しいる事にはなると思うが……それに関しては一応のアテはある。医者だからね」

ちょっと言っている意味はよくわからなかったがレスターはそう言って帰って行った。

その間私達は今ある情報の整理に時間を費やした。何が事実で何が推測で、偽装の可能性の高い場所低い場所を選り分けという事をしていた。





その日訪ねて来たのは紫色の狐面の女性的に見える人だった。かなり姿は人間に近く、黒いタイツの様なものを中に着ていたがその上からスーツを着ている姿は最初に聖奈さんを見た時のようなコスプレ程度で済ませてしまえそうな感じがある。

「黒木 蓮華さんはご在宅ですか?少々お話があるのですが……五階の事、と言えばお分かりですか?」

人当たりの良さそうなその人に私と聖奈さんは一度目を合わせ、その人を中に入れた。お茶を出すとありがとうとその人は口元を緩めたがカメラ越しでなくなった途端どことなくぞわぞわした感覚があった。

動きの一つ一つが何か変な動きをしてるわけでもないのに違和感がある。

「……それで、どんな用ですか?」

「以前、警察図書館にいらっしゃいましたよね?来館記録が異常だったのは既にご存知の様で」

異常。確かにそうだろう、生まれるよりも前に来館してたらば異常という他はない。

「あれですが、今後振り分けられる事になっている戸籍を偽造し、正規の手続きで侵入するという一時期流行った犯罪の手口なんです。まだ登録されてる情報がないので好き勝手にかなり高い権限を付与する事ができ、結果立入禁止区域にも入れてしまうという。今はもうそうされないよう対策する事も出来るようになって、私共もなんとか全容を解明しようとはしているのですが、実際に戸籍が振り分けられ、同じ施設を利用したりして初めて気づくもので……今回の様に」

本当に我々としてももっと早く気付けていたのならばと言う表情があまりにも気持ち悪い。一見普通なのになんだか妙で、そして私は知っているような気がする。

「え、と、じゃああれは蓮華ちゃんには関係ないんですか?」

「えぇ、そうなります。生まれる前にという事もあって大変困惑されたかとは思いますがご安心下さい。今後この件に関連して戸籍が不正に使用される事もありません。そして何かあればこちらに連絡を我々どもの部署として動くのが難しい時でも個人として相談に乗ることはできますので」

二枚出された名刺には小暮 栗音(コグレ クリネ)という名前があった。

小暮さんって言うんですねとボソッと呟くと小暮は名前を言ってなかった事を失礼だったと詫びた。

ふと、小暮の視線が私の持っていた本に向いた。仮面があるから定かではないけどおそらく向いた。

2150年代以前の文化がお好きなんですか?と問われ、その時代の人間ですとも言えないからまぁと適当に相槌を打つと、同好の士を見つけたという感じで急に緩んだ。

「私も好きなんです。吸血鬼カーミラとかハリーポッターとか、個人的にはハリーポッターの二巻目が特に好きで……って、すみません、多少厚かましかったですね。何か質問等はありますか?閲覧されたデータに関しては機密なので答えられませんが答えられる範囲でお答えします」

内容、その内容こそが知りたいのにと思いながら私と聖奈さんはできそうな範囲の質問をした。

犯人は捕まったのかとか、本当に戸籍は大丈夫なのかとか、名刺に所属が書いてなかったけどどこの所属なのか、五階は表示の通り本当に存在しているのかなんて事を。

「犯人はすでに捕まってます。捕まってますがちょっと機密事項に触れすぎている為犯人の情報は明かさないんです。この人が今後刑務所を移動したりする時に誰かに狙われたりする可能性もありますから、どこの刑務所にや他に犯罪をしているかどうかなんかも言えません」

「戸籍情報に関してはなんら問題ないです。今までと同じように扱って頂ければそれで問題ありません」

「私の所属に関しては……あまり声を大にして言えないんですが、公安とかそういった系統の、いわゆるあまり表沙汰にできない犯罪の捜査に関わっているという事は言えます」

「五階ですか、存在しないです。少なくとも公的にはそういう事になっていますので私の回答もそういうものになります。あの表示に関しては……そうですね、五階という名前の特殊な保管庫があるとでも思って下さい。ですから私達は嘘をついたり隠蔽したわけではないのです、ただ、知らせなかっただけで」

全部の情報になんの確信も得られない答えだけ返され、その後も質問は続けたものの何も得られない。

でも、なんだかこの人は怪しい。情報を変に与えたくないなら質問なんて受け付けなければいいのに妙に親切なのが余計に怪しいし、何か蛇蝎の如きおぞましさがある。

何かないか何かないかと探すも見つからず、帰るのを引き止める事もできなかった。

私の戸籍を使って誰かが何かをした。もしもそれが今聞いた通りならとふと思ってしまうがすぐに打ち消す。あれはきっと嘘に違いない、やっぱり何かが関係あるんだと自分に言い聞かせる。

私は黒木 蓮華だ。

だけどもし今の話が本当であったら。

あんな怪しい人が本当の事を言ってるとはそうそう思えない。

あの人の言うことが本当だと聖奈さんの言った事が本当だとなるから認めたくないだけなんじゃ。

だって私は黒木蓮華だから

どちらの黒木蓮華でもある可能性もあるのに?

でも、動機とかもわからないし

わからないだけであるのかも

私の中に本当に二人いるみたいに二つの考えがぐるぐると違いを否定し合う。

そっと、私の前にコーヒーが出された。聖奈さんが大丈夫だよと根拠もない、だけど信じたくなってしまう言葉を私にかけてくれる。

大丈夫、大丈夫と繰り返し、砂糖を一つコーヒーに溶かす。

コーヒーを飲んで一息吐いた私はとりあえずレスターに連絡を取る事にした。

レスターはすぐには連絡がつかなくて、少し待っていると向こうからかかってきた。

私と聖奈さんが小暮の話をすると、レスターは五階の話のところで呻いた。

「どうかした?」

「……うぅむ、まぁ先に話を全部聴き終えてから話そうと思う。続けて欲しい」

それで私達は覚えている限りの話をした。いかにもというところから一見どうでも良さそうに思えた好きだという小説の事まで。

一通り全部聴き終えてレスターはさっきの話に戻った。

「私は侵入の算段を建てていたんだがね、まぁセキュリティを破れる算段をつけられた様なハッキングの技量もない為物理的にやるしかないと判断したんだが……どうもその小暮という人の言うところを考えると必ずしもただ下に下に行けばいいわけでもないらしい、となれば先に構造を知る為のハッキングの能力が必要になる。情けないがにっちもさっちも行かない……そうした能力を持った人を探す方向に動いた方が良さそうだ」

「……レスターは小暮の行ったことが嘘だと思うの?」

「結論から言えばわからない、だね。その人は確かに何かしらの関係者であろう、あの記録に関してを知る方法はそれなりに限りある。図書館か国かそれとも蓮華君の端末にハッキングでもされていたのか、どんな形であれね。でもその目的は不明瞭、されどわざわざ出てきたんだから何かしら意図はあったのだろうなんて考えていると嘘をついていてもおかしくはないと思うよ」

よかった、そう思おうとしたがただしとレスターの言葉が続いたために止められる。

「本当である可能性もまた捨てがたい。利害なんてなかろうが職務だからで動機は解決するしね」

確かにその通りだ。その通りだから苦しくなる。

これ以上情報を交換しても無駄だろうとレスターとの会話を切る。この日は夜になってもなかなか寝付けず、私は特に意味もなく本を捲った。

どうせ何か新しい発見もないのにと思いながら読んでいると、ふと小暮の発言を思い出した。ハリーポッターはともかく吸血鬼カーミラは知らない。

それはいったいどんな話だろうとちょいちょいと検索をしてみる。どうやら有名なゴシックホラーらしいという事がわかって、ハリーポッターの二作目も起きた事件を考えればホラーっぽいかもしれないと思いつつさらに内容を見ていくと、少し引っかかる内容が出てきた。

吸血鬼カーミラではアナグラムが出てくるらしい。ハリーポッターでもそう、アナグラム自体はそうマイナーでもないから偶然かと思ったが、小暮の名刺を見て愕然とする。

kogure krineと名前の音がわかるようにローマ字が書かれていたが、明らかな脱字がある。単なるミス、そう片付けるのを状況が許さない。アナグラムで作り上げた都合か、そんなことを考えながら私はそれを並べ替えていく。

最初はさっぱりどうすればいいかわからなくて、でも母音が足りないという事からnが「ん」を表すために使われていたと気づいたら面白い様に面白くない結果に辿り着いた。

kuroki rengeつまり黒木 蓮華、私の名前。小暮 栗音は私の名前をもじった名前だった。

すぐに私はその名刺の連絡先に連絡を取ろうとし、回線がつながった瞬間、ふっと意識が消えた。







意識は一瞬で戻った、少なくとも感覚的には。そうして目の前を見るとそこはどこか、確実の私の部屋ではない部屋で一人の女性がいた。狐面の女性、だけど体は今日見たよりも明らかに小柄で、服装は同じようにスーツだったが中に着ていたタイツもなかった。何なら狐面も昼のものと違う。

「……誰ですか?」

そう問いかけた自分の声に驚いて自分の手を見る。ヒトの手だ。見覚えのある私の形、私の手。服装はいつも家で着ていただらけたジャージだったのが少し気になったが間違いなくヒトの体。

「アバターぐらいヒトの体がいいんじゃない?今の体もレナモンだから自分の姿も変えられるだろうけど」

その声もどことなく聞き覚えがあったがどこで聞いたかはわからない。ヒトの体から出る声の幅はこの時代の人の体の声の幅を大きく超える。それでかもしれないと思うと少し嫌になった。

「それで、誰なんですか?」

「昼間に会ったでしょう?小暮 栗音」

「ふざけないで」

「じゃあ黒木 蓮華、そう名乗っておきましょうか」

「……ッここは、どこ」

多分名前は元から言う気がないんだろう。それでそう聞くと、ちょっと意識だけ攫ってきたのよなんて言ってくる。レスターが言ってたように人の精神を取り出せると、そしてそれでやったのだと。さらっと言うにしてはあまりにもな技術だ。

「私はね、信じないと思うけど黒木 蓮華を幸せにしたいの。自分の正体を突き止めることに全部燃やして燃え尽きられたら悲しいじゃない、だから手伝いをしようと思って」

「あなたは私が誰か知ってるの?」

「よく知ってる。多分誰よりもよく知ってる。親よりも、今ここにいるあなたよりも。とは言ってもここ数か月はほとんど知らないけどね?私は自分の正体を突き止めるためにいろいろやりだしたってことを知ってきただけだから」

「図書館の事は誰から聞いたの?」

「んー、それは因果が逆。図書館の事を知ったからあなたが自分自身の事を知ろうとしてるとわかったの。そういう仕掛けをしていたから」

「じゃあ、あの記録はあなたの記録?」

「その通り、十七年前にちょっとした必要に駆られて利用した履歴」

「まさか、私をこの時代に連れて来たりこの体にしたり戸籍を作ったりしたのも?」

「あぁ、それは全然違う。詳しくは教えないけど、私だけから聞いても信じないだろうから、でも言えるのはその体にして戸籍を用意したのは……いや、用意してくれたのはこの国よ」

国、国という言葉に私は嘘でしょと呟いた。するとほら信じないと笑った。まるで親友か誰かに話すような気やすさで、昼間に気持ち悪く思ったのが嘘みたいに今は心地よく感じる。

「そうね……簡単に言うと国はとってもとっても親切だから。だからそこをつくといいと思うの、あなたの周りの親切な人の中には、国に用意されている人いない人、いても自覚がある人いない人がいるだろうから、多分誰かしらぼろぐらい出してると思うのよ」

もっと、もっと教えて欲しいと私が何か言おうとしたら、急にアラームが鳴りだして、その人がじゃあこの事は誰にも内緒でねと言うと私の意識も消えた。





起きると朝だった。自分の尻尾を抱く様にして布団の中で眠っていた。夢だったのか、そう残念に思いながら起き上がって尻尾の毛に指を入れてならす。すると、尻尾から小さな紙が落ちた。

「黒木 蓮華より、黒木 蓮華へ」

それは夢でなかった証拠だ。もはや何と呼ぶべきかわからないが、あの人は確かに私とまた会っていた。アナグラムを解いたのも確かだし、それがアナグラムだったのも確かだ。

ただ、その紙に書かれた文字が私の文字に見える事だけが不安だったけど。

ぼーっとする頭で一つ一つの事を改めて考える。昨日の昼の話に関してはどこまで嘘かわからないから一旦考えない事にする。

夜の話。この体にしたのは国だという話、正直スケールが大きすぎて困るが、そう考えると納得いくところも確かにある。

戸籍とか体の用意とかそういった関係はもちろん、過去からという技術的な面も一般に公開されてないものとかがあれば一応納得できなくもない。

でも、理由はわからない。しかも私に対して国は親切でおそらく私の生活をバックアップしたりもしてるんだろう。あの口ぶりを信じると。

近くにいる、と考えればまず怪しいのは桜庭家の人達。でも正直聖奈さんは除外していいと思う。17年前のおそらくあの人が不正に閲覧した時から始まってるのだとすれば生まれてない聖奈さんは無関係、もしくは関係してても知らないとかだろう。

では、と考えてみるけど正直怪しいけど怪しくない。親切ではある、それは間違いないのだけど、私の両親のところから仕込んでこっちに繋がるところを二人が知ってたならば両親の知り合いとかでいいと思う。疑われない為にと言われたらそれまでだけど。

あとは、私があんまり対外的な事してなかったから、医者の先生とかレスターとか、私がやらなきゃいけいけなかった色んな手続きを親身に教えてくれた役所の人とかまでも候補に入れるべきだろうか。四六時中バックアップしなきゃいけない様な重要人物でも私はないだろうし、生活保護の受給家庭に職員が訪問するみたいな感じの関わりの方が私としては考えやすい気がする。

でも、私の身に起きた事を考えるとそんな程度でとなってしまう。やられた事の大きさを思えば私こそ自覚なしで何かを持ってるのかもしれない。

着替えて、コーヒーに砂糖をドボドボ入れたものを飲んでリビングでぼーっとしてると聖奈さんも起きてきた。今日も学校は休みだったらしい。

聖奈さんがニュースを見ようとテレビをつける。空中にパッと現れるスクリーンの中は平面的なまま、画質をよくしたり3Dになったりはやって意味があるところとないところがあるという事なんだろう。映画館は全部立体映像だとかちらっと小耳に挟んだし。

朝のニュースはあんまり時代が変わっても変わらないらしい、どこどこで事件がどうのこうのという話があり、少しして、角や鱗を綺麗に整えた二足歩行のドラゴンが街中リポートをする企画が始まる。街中に人はあまりいないからか商業施設の中しか映らない。

内容は恋愛関係のテーマで、結婚したら同じ家に住むか住まないかという話をしている。

子供を作る段階になったら必要だけど、それまではーとか、好きな人とはできるだけ一緒にいたいからーとか今付き合ってる相手がモテるから監視も兼ねてーとか、何とも楽しそうだ。

その中でふと気になったのが性別の話。私は女性で相手が男性だから一緒に住むと喧嘩になると思う、という意見が紹介されていた。

スタジオでもコメンテーターのトカゲとか鳥とか天使とか悪魔とか犬とかが適当なコメントを選んで一言二言言っていて、どうやら毒舌キャラらしい犬が性別のコメントに噛み付いた。

どうせ性別なんてほとんど関係ないんだから一緒にいて喧嘩になるのは単に合ってないだけなんです。外見にも出ないし、趣味だなんだも関係ない、自称でしかないんですから。

一理あるという感じで聖奈さんも頷く。

「ねぇ、蓮華ちゃん。女性らしいとか男性らしいって何かな?」

蓮華ちゃんの時代にはあったんでしょとその時からよくわからないものについて無邪気に聞かれる。

「肉体の違い除いたらもうあとは思い込まれてるのが多いか少ないかしかないんじゃない?中世とか?では料理人って力がいるから男性の職業ってされてたらしいし、でも料理する男は女々しいって層も一定層私の時代でもいたし、一人一人の思い込みの、多いやつがそれなんだよきっと」

今思うとあの時代の性別はよくよく色んなところで見られた気がする。全く知らないし男女変わらない制服着た幼稚園児も、くんやちゃんで呼ばれ分けられ、私はその子達のこと何も知らないのにわかる訳だ。

その点この時代では戸籍にすら男女が明記されていない。

あれ、と何かが引っかかった。でもその引っかかりが何の引っかかりかわからない。

「……蓮華ちゃん?どうしたの?」

「いや、なんか性別について考えてたらなんだか、何か掴めそうで」

「性別で?」

「んー……性別が戸籍に書かれていない事で、かも」

「戸籍?戸籍の情報にまだ調べてない事とかあったっけ?」

本籍、住所、名前、家族関係、少なくとも項目として存在するものは全て調べた筈だ。

何が足りないのか、むしろ何かが足り過ぎているのか、何かしらの違和感はあったものの何も言えない。

「じゃあむしろ逆に、この時代の蓮華ちゃんの戸籍にも乗ってない様なところ?」

「でも、学校も義務じゃない、外出もしなくていい、外出してても回線使って遠くへって行ってたら近所からも当然気づかれないんだよね」

なんだろう、なんなんだろうと思っていると、レスターから連絡が来た。

少し話をしたい事がある。できれば直接あって話したいと私達はレスターと最初にあった美術館の近くの喫茶店に呼び出された。

コーヒー一杯だけ飲んでレスターについて行くと、そこはかなり大きな一軒家だった。

自分の家だと言ったレスターに次いで中に入ると、またコーヒーは嫌だろうと紅茶を淹れてくれた。

陶器の人形やアンティーク調の家具とか、私から見ても少し古い印象を感じる部屋で、座ったソファーからはなんとなく懐かしい匂いがした。

「それで話って?」

「昨日から、ハッカーと一緒にある事を探していたんだ。私達は確かに第五階に入る術を持たないが推測する為にできる事はまだあると思ってね」

戸棚の中から普通にジャムタルトが出てくる。圧縮されたものを出すのに慣れすぎて外見そのままのものが出てくるのに少し驚いてしまった。

「第五階はあるならばそれはかなり大きな影響を及ぼす情報だろうとされている。それが盗まれたならば実際に何かしら影響が出ていてもおかしくないのでは?と思って、何か第五階を調べた日付から蓮華君の誕生日までに起きた大きな事件事故を調べていた」

改めて考えるとその期間は約四ヶ月、その間に起きた重大事件は少なくとも三人で調べきれないだけの数があったとレスターは資料を広げた。

「まず、第五階の性質を考えて技術に関わるだろうものをピックアップした。表沙汰にただできないではなく絶対にしてはいけないとなれば拡散される事で被害が大きくなるそれそのものよりそれが利用される幅があるものだと思ったからだ」

そう言ってレスターは五つほどにまで絞る。

「この中で、とりわけ過去にまで繋がる内容を吟味していって、私が関係があるかもしれないと見たのはこの二つだ。一つは、日本発のカルト教団の教祖が国外でテロを行なったらしいという話。蓮華君の産まれるよりも過去にて一度テロを起こした教団が姿を変えて生き残っていったもの。蓮華君かその周囲の誰かがこの教団と関係あった可能性もある。動機として考えられるのは教団の信仰を集める為の奇跡の演出、とかかな」

教団の名前は私も聞いた事がある様なやつだった。

「もう一つはこれだ」

そう言って出して来たのは一人の医者が死んだという話。あれ、個人と思って見てるとその顔には何故か見覚えがあった。

「彼は今の世界を作ったと言ってもいい。蓮華君に見せた写真集にも写っていたが、肉体を電子化する技術を確立したと言えば思い出すだろうか」

なるほど、それは見覚えがあるわけだ。しかし、関連性はわからない。多分私よりもこの人は生まれたのが遅い、私が刺された時10歳かそこらでもおかしくない筈だ。

「彼に関しては実は非常に黒い噂がある。今でこそ英雄だが彼の技術は……動物実験から人間までの間のハードルが高い。詳しい事は割愛するが通常動物実験などのデータから認可を取って人間に使用する様にする、そこでもさらにデータを取って改善点がないか副作用はどうかと慎重に見ながら進めていく。しかし、当時の彼は認可を受けずにその技術を使った。緊急だからという理由でね」

ある程度収束すると裁判に掛けられもしたとレスターは言った。日本で裁判をし、無罪にすれば日本では少なくとも同じ罪に問われる事はないからと。

「まぁそういうわけで認可を受けずに行ったわけだが、不測の事態という不測の事態は全くと言っていいほどなかった。予想された副作用はあれど、彼が全く予想もしない副作用はまずなかったという。まるで全てが手のひらの上、空の上から鷹が見下ろす様なあまりにも広く細かな視野の広さ。それで一つの噂が立った」

レスターの指が一本立てられる。

「彼は事が起きる前に違法に人体実験をしていたのではないか」

違法な人体実験。ふと、嫌な予感がする。

「彼が全く予測しない副作用がまずなかったというのもそれだけ多くの人体実験をしたのだと考えれば辻褄は合う。全てを見通すかの様なものはあらかじめどんなものがどう起き得るか知っていたからに過ぎなかったとすれば、それは当然の事になる……その為にどれだけの人数に対して行わなければならないかと考えると頭が痛くなるけども、今は禁止された違法行為に、人格のコピーというものがある。肉体を用意し、コピーした人格を入れる、そこからまた別の場所へ移す。そうした事を繰り返せば患者の体質や精神に由来しない欠陥や副作用はほぼ網羅できるだろう……」

話の結末が、私にとって望ましくない方向に行こうとしている。それは単なる予感ではない。

「ヒーラ細胞と呼ばれるものがある。それは1931年に子宮頚がんで亡くなった女性から取った細胞を培養したもので、彼女の死後も研究に使われ続けた。人の記憶や人格を仮にそうして扱っていたとすれば、それは大きな問題だ。増して、彼の技術は世界中の人を救い、且つ、今彼の技術の影響を受けていない人間は一人たりとていない。仮に事実であったならば、世界的に大きな論争を巻き起こすだろう。下手をすれば戦争だって起こり得る」

レスターは私から目を背けはしなかった。代わりに一瞬聖奈さんを見た。

「蓮華君こそが現代のヒーラ細胞なのかもしれない」

この話には幾つか欠陥があると思った。だけど、反論しようと口に出すより前に気づいてしまった。

私がオリジナルであるとは限らないのだと。

「君が、黒木 蓮華という人間が仮に50歳まで生きていたならば彼の活動時期と一致し始める。君に16歳より後の記憶はないが、ないだけであったのかもしれないし……もしかしたら、コピーされなかったからないのだ、とも考えられる。この技術の応用にトラウマの治療としてその記憶を抜き取るというものがある。臨床実験や研究の目的でコピーされたとすれば、とも考えられる」

もちろん、前者の可能性もあるしどちらも的外れの可能性もある。だが、今のところこれ以上全部繋がるものはない。

「私は医療に携わる者として見てこれならばあり得ると断言できる。前者よりはこちらの方が現実的なのではないかと」

私の記憶、五階の閲覧履歴、なかなか埋まらない200年、戸籍の偽造も周到すぎる準備も、そして、黒木 蓮華のアナグラムで名乗った彼女の事も。

彼女こそがオリジナルならば、説明がつく。コピーされた人格が保存されても本体がそのまま普通に生活していてもおかしくない。そして普通に生活していて体を変えたのならば、200年生きていてもおかしくない。そして、自分の人格が囚われている事を怒って殺害しても、私が誤って彼女の閲覧履歴にアクセスしたのだとしてもおかしくない。

そうだ。これから作られるかもしれない戸籍になんかよりも私が存在する閲覧履歴を見てしまった方があり得る。

でも、そうなるとなぜ私はこうして生きているのか、それも彼女の言う通りなのかもしれない。国は親切だから。本当に親切なのか、それともあの私がぶっちゃけない条件の元にでも脅したのか。

涙が溢れた。涙を拭くと、一瞬陶器の人形と目が合った気がした。

「……私は、作り物なのかな」

ボソッと呟くと聖奈さんが横からぎゅっと抱き締めてくれた。

「みんなそうだから大丈夫だよ」

優しく、強く、痛いぐらいに強く聖奈さんは私を抱き締めた。

「蓮華ちゃんは蓮華ちゃんでいいんだよ。今ここにいる私の家族の蓮華ちゃんは蓮華ちゃんしかいない。私がいるから、私が」

レスターも、みんな体は作り物だと、所詮そこに宿った精神だと。肉から生まれるか情報から生まれるかの違いは単なる手段の違いでしかないと。そう言ってくれる。

後日、私達はもう一度図書館を訪れた。そして黒木蓮華という人間の絡む事件を探した。すると、記憶の私と同じ生年月日の私と同じ名前の四十代女性が行方不明になっていた。16歳の事件も調べると、被害者の私が裁判に出廷した事が書かれていた。

今はそれなりに充実している。帰る過去などないのだと、戻る過去は私のものでないのだと、開き直って生きている。


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       No.4730 これはあとがきか?あとがきなのか?ぱろっともん2017/05/15(月) 21:59