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ID.4727
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2017/05/15(月) 21:27


短編【私は人か?人だったのか?】4
次の日、私達はまた警察図書館にいた。今度は私の事だけど私の事じゃなく、両親の事。

事件に関しては特に何も進展はない。私の記憶がないからか警察も興味はないらしく会いに来たのは一度だけ、ドラマの様な刑事はそういないという事だ。

じゃあ何をと言えば、両親の実存から確認したいので、両親の来歴を探りにきた。で、何故警察図書館にと言えば、あらゆるものがデータに変換可能になりハッキングだなんだというのも高度になり過ぎた事で、裁判とかの証拠や履歴、また家の売買契約なんかも複数箇所に保存しておかないと改竄されてしまう危険があると、民間の会社が手元に置くデータと別に他の場所に預ける仕組みができたのだ。

尤も、必ずしも公的機関でなくともいいのだけど、私のいた家は公営住宅だったらしく担当の地方自治体と別に保管されている場所がここだった。

それにもし犯罪歴とかがあればそれもわかるかもしれない。

せめて前に住んでいた場所でもわかればと思っての事だったのだが、結論から言うと全滅だった。

図書館の脇に作られた喫茶店でピラフを食べる。上唇が分かれてるせいでこういうポロポロしたものは多くは口に含めない。

「普通、連絡先とか控えておくもんじゃないの……なんで何もないの」

「これは正直運がなかったとしか言いようがないね。住所がないと信用してもらえないのは君の時代から変わらず、住所がなければまともな職につけず、しかし住所を得るには不動産屋に提示する連帯保証人が必要で、その人の身元も確かでないといけないと。あまりにも悲劇、平家にあらずんば人にあらずなんて言葉があったというが、住所を持たねば人にあらずなんてあまりにも醜く、国がそれに対して動くのも当然という事だったのだよ」

わかりにくいレスターの説明に見切りをつけ、聖奈さんの方を見る。

「つまりね、住所がないとあまりにも不利な扱いをされてしまう。例えば……蓮華ちゃんの時代なら生活保護みたいなのも受けられないし。それで、住所を与える政策というのが実は蓮華ちゃんの時代にも行われていて、そういう枠を使ってこの二人は住む事になったって事。だから住所とか連絡先はここでてきたんだよ」

なるほど、ここで連絡先が初めてできたのだからあるわけがないと。なるほどそれならばわからなくもない。

「でも、それってずっと住んでていい様なものなの?用意できる住居とか限界あるでしょ?」

「まぁ、なくはないよ?でもこの国はNPOとかも多くて、こういうのにも常に一定の空きがあるからそこが埋まらなければ収入があっても家賃の減額分がなくなるとかだと思うよ」

それなら20年ぐらい住んでてもおかしくはないか。にしても聖奈さんはどうやら私が調べなきゃいけない様な範囲まで把握してきてるらしい。

レスターの方にギロッと視線を向ける様子からは警戒心が迸っている。

「ただ、本当にいたのかはやはりわからないのだけどね。住所や何かもない、なくてよいとなれば偽造する範囲は限りなく少なくなる。積み木を倒さない様にするには複雑に絡み合って組むよりも、そもそも数も少なく規模も小さくするのが一番綻びが生じにくく結果倒れにくくなるのだから。君の両親を存在させようとせんとすればここはうってつけだろうね。そして存在していないのならば犯罪歴がないのもまた当然だ、それだけ多くの積み木を用意すればそれが倒れて他に波及する可能性だってある」

つまりは、これによって存在してたかどうか確定はできないが偽造なのではという疑いをかけるにもそうおかしくない感じであるという事だ。

ふと、近所づき合いとかから探れないかと思ったものの、ネットを通じて現実に会えてしまう世界だ。近所に足を運ぶより遠くへ行く方が近いのだからそういうものは共用スペースでもなければほぼないのだろう。

手続きをした役所とかの方は記録が残ってる以上問題なかったのだろうし。

「手続きした役所の人に聞いて見たらいたかどうかわからないかな?」

「君がそうである様に姿を変える事というのはそう難しい事じゃない。そうした少しの時間の接触では意味がないのだよ」

必要なのは長期に渡って存在していたという証拠。数日見かけたぐらいじゃ確かにそれらしい人がいたかもしれないという程度にしかならない。

生活してた痕跡みたいなのは爆発に仕込まれていたワームに食われてシュレッダーにかけられたみたいになってしまったそうだし、私が桜庭家に住む事になった事で家は自治体の清掃も入ってる。

「とりあえず全部しらみ潰しに調べてくしかないのかなぁ」

個人情報を全部全部、探れそうなところから。そうして矛盾を見つけるしかないという事で。そう考えてるとふと気付くものがあった。

「そういえばどうやって両親が遠い親戚だって桜庭家に伝わったんだろう……」

今回の事で初めて伝わったとして、誰かが知っていたという事なんじゃないだろうか。もしそうじゃなかったとしても、どこかで調べられたという事なのでは。

「普通に考えれば役所ではないね。個人情報だから調べたりもしないだろうし…蓮華君はずっと意識不明だったわけだからそこでもない……予めどこからか聞いていたなんてことはないね?」

「うーん……話は聞いた事なかったけど、知ってたのかなぁ……」

それは全くあり得ない話じゃないのかもしれない。知ってたとしても特に関わらないから言わなかったなんて事もあり得る。

「まぁどこから聞いたにしろそこから話を詰めていくのがいいだろう。先ほども言ったが複雑な積み木ほどどこかに綻びが出るものだからね、私達はそれを丁寧に丁寧に見逃さない様に見ていくことだ。何、ローマは一日にして成らずともいうだろう、蓮華君はそう底の浅い存在ではないという事だ」

レスターが革手袋をつけた手を大袈裟なまでに振りながら言ってみせる。

その言葉は楔の様に深く私の中に残った。戸籍の偽造、両親の存在の捏造、もしそうだとしたら何故私はこれほど自由なのか。私がこうしている事に一体何のメリットがあるのか。

動機がわからない。あまりにわからなすぎて一瞬やはり精神疾患なのではという気になってしまった。

記憶は確かに過去のもの、私に閲覧の履歴はない。でも、もし私が誰かからその話を聞いていたのだとしたら、その事件の当事者だと思い込んでいたとしたら。そんな風にも思ってしまう。






それから半年が経った。合わせると約一年になる。

桜庭家に連絡を入れたのは祖母だったらしい事は意外にもあっさりとわかった。聖奈さんのお婆さんの妹に養子に取られたとかで、直接の血縁ではないらしい。まぁ一度全人類が元の肉体を捨てているのだから今更なのだけど。

聖奈さんのお婆さんの妹さんは、それなりに裕福で、子供が欲しいが育てるのに金銭的な不安があった両親に対して資金の援助をする為に子供にしたんだとか。話を聞きに行きたかったけど、すでに亡くなっていた。死因は老衰で、私が生まれて五年か十年かというところだったという。

同じ年の子供がいるという事で縁があったらという話はしていたものの、その話が出てすぐに仕事が忙しくなり、それきりという感じだったらしい。

そして、爆発が起きニュースで見た事でもしかしたらと病院に連絡を取り私を引き取ったと。

経緯はわかった、戸籍にもいたらしい事もわかったし、祖母の遺品の中にはおそらく私と見られる小さな丸い狐を抱えた写真データもあった。

私達はそれを話し合うために適当な喫茶店にいた。

さっき言ったのは確かにその通り、だがどれもレスターによると偽造は不可能じゃない。

だけどそれら全てが偽造とすればあまりに不自然になってきた。

「動機が一向に見当たらない……蓮華君に関する秘密の様なものも何も見当たらない。強いていうならばその二百年前の記憶という事になるがそれにしたって隠したいにしても何にしてもペラペラと喋れてしまうのは不可解極まる……」

「すでに記憶を抜かれているとかは?」

魂を移したりとかできるならば記憶を抜くぐらい朝飯前だろう。

「なるほど確かにそれはあり得るだろう。しかしだとしてもやはり不可解なのだよ。重要なところだけを抜く理由がない。二百年前の記憶全てを抜いてしまえば単なる記憶喪失だ。仮に何か生かさなければいけない理由があるならばその方が絶対的に都合はいいはずだ。絶望はすれど預け先には非常に非常に恵まれている。素晴らしい理解者がいて、大きな不満の介在する余地もない!しかし現に蓮華君にはその記憶があるし、それに則って動いている!」

記憶を消したならば何故残さなければならなかったのか。わからない。あまりにもわからない。

「……なんか、すごい親切だよね」

「そう、その通りだよ。あまりに親切すぎる……わざわざ生活できる様に戸籍を用意し、恵まれた親戚も用意している。記憶と人格にもおそらく手をつけずにだ……しかも写真データの作られた日付を見るに少なくとも十年は前から用意されていた様だというのだから、蓮華君の生活を支える事にある種の執念すら感じる様だよ!」

「……んー、もしかして黒木 蓮華という人は本当に存在してたんじゃないのかな」

聖奈さんが、フォークをイチゴに差しながらそう呟いた。

「調べても調べても経歴の穴は見つかってこないでしょ?だから、黒木蓮華という実在する人間に黒木蓮華という実在した人間の記憶を移植した。という事なんじゃないかと」

名前は……と少し聖奈さんは悩むそぶりを見せたがまとまったみたいでもう一度口を開いた。

「名前は……改名もできるし、もしも蓮華ちゃんの両親が知ってたとしたらどう?こうなるって事を知ってた、少なくとも黒木 蓮華という2017年を生きた人間を知っていてつけた名前だったとしたら」

「面白い仮説だと思う。戸籍を複数偽造して用意するよりはまだ手軽だし、蓮華君の記憶を入れる理由ももともとそれが目的だとするならば筋は通る。だが、その場合は両親が二人とも死んだのが気になる。何故自分達で関わりに行かずわざわざ他人の家に預けるのか」

「それで爆破されたのかも」

「つまり、何か一つの理由で作られたんじゃなくて複数方向から作られた現状ってこと?」

そうなるととても面倒くさい。調べるのも確かめるのもより手間がかかって来るだろう。元からそうといえばそうだけど。

それに、と聖奈さんは続ける。

「記憶を移植させて植えつけたんだとしたら、蓮華ちゃんと私達が話せてるのも説明つくもの」

へ?だか、は?だか、そんな間の抜けた声が口から漏れる。

「蓮華ちゃんの言うことを信じてなかったわけじゃないんだけど、ずっと不思議だったの。なんでまともに会話できてるんだろうって。250年も前でしょ?」

250年も前、そう確かにそうだ。だからって話が通じないなんて、そう口から出そうになる。出したくなる、でもそれは結局出せなかった。続けられた言葉に対してぐうの音も出なかったからだ。

「それって蓮華ちゃんと江戸時代の人とで言葉が変わらないって言ってるのと変わらないんだよ?」

そんなの大筋で通じても違和感なく行けるはずがない。

「だから、もしかしたら蓮華ちゃんの中には二人の蓮華ちゃんがいるのかもしれない。この時代の黒木 蓮華と混ざってるから言葉に違和感がないのかもしれない」

「そんな馬鹿な……」

「いや、そう馬鹿にしたものでもないかもしれない……その点は私も疑問だった。何故違和感がないのだろうとは思っていた。私は誰かが言語に関して翻訳プログラムに近いものをインストールされたものと考えていたが、本人が自覚なく扱え周りから見ても全く違和感がないとなれば相当高度な技術が要求される……しかし、それがこの時代を生きた蓮華君のものだとすればそれは違和感などないだろう、二人の意識が融合しているのだとすればそれは蓮華君のものであり、あって当然のものなのだから」

そうなると、とても嫌だ。今まで拠り所にしていた自分の存在すら得体のしれないものになる。

「じゃあさ、私って誰なの?2017年の黒木蓮華だって私はそう思ってる。記憶もそう、この時代の記憶はほとんどない。そんな、そんな偏るの?」

とにかく否定したくて、手の爪が毛の上からでも刺さって痛かった。

「……私は医師で、体を乗り換えたり加工したりする事に関してそれなりに名の知れた腕の良い医師であると評価もされている。だからか、ほかではどうともしにくい症例の患者が来ることもある。その一人に、いや二人にそういう人がいた。経緯は省こう、とにかくその彼は二人の人間の魂を一つの体に無理矢理押し込んだ事で生まれた人格だ。彼はその内の一人の自覚があった。しかし、明らかに別人のものが含まれていた。例えば食べられなかったものが食べられる、好きだったものが嫌いになる。筆跡が変わる等だが、特に特徴的で支障をきたしていたのは記憶の混同だった」

嫌だ、聞きたくないと耳を塞いだが、私の耳はただ手で塞いだだけで聞き取れなくなる耳ではなかった。

「親の名前や誕生日を混同し、他人と関わって行なっていたプロジェクトの進行スケジュールなんかも狂った様に感じたそうだ。しかし、それは確かに変更されてはいなかった事もわかった。彼は一人をベースとしてもう一人の要素が入り混じった様な状態だった訳だ。もちろん記憶の全てが間違っていたわけではない、合っていたところもあった。私にはどうも、蓮華君に似ている様に思える」

言葉が刺さる。私だってそう思う。だから私はそれを聞きたくないんだ。でも、これを考えてくれているのも私が知りたがったからだからと思うとそう言葉に出す事はできない。

視界が周りから黒く染まっていく。見たくないのにそれしか見れない様にされていく。

レスターがまた口を開こうとした時、ふと肩に手が置かれた。

「如月さん、今日はもう……言い出したのは私だけど。多分整理する時間がいるから」

「……そうだね。私も少し興奮しすぎてしまった様だ。興奮した状態では見落としもしやすくなる、矛盾も産みやすくなる。今日の私の言葉はほとんどなかったものとしてくれた方がいいだろう」

レスターがそう言って席を立った。私と聖奈さんも少し遅れて席を立った。レスターが支払いを済ませてくれていた。

家に戻ると、私はすぐに一人で自分のつけた記録を読み返した。覚えている限りの内容。

私の知る私の情報。これが間違ってるかもしれないと思うと視界が滲んで涙が溢れた。

本は紙の様な肌触りだが紙じゃなく、インクで書かれたわけでもないから涙が落ちても文字は滲まなかった。


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