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ID.4715
 
■投稿者:ENNE  HOME
■投稿日:2017/05/10(水) 20:01


アシッド・ルースト・オール!≪06≫−2
 
 
 
 名を聞いて瞬時に思い出せる程、彼の事は記憶に残っている。初めてデジタルワールドへ足を踏み入れた時、この世界で初めて遭遇したデジモンだった。
 デュークモンの城へ行く道すがら、パイルドラモン──嘗てスナイモンだった彼は、今までの事を簡単に説明してくれた。
「進化をしたのは1年程前だよ。それから赴任先を転々として、少し前に戻って来たんだ」
「道理で会えなかった訳だぜ……」
 D−sが使用可能になって以降、何度か顔を見に行ってはいたのだ。が、途中から別のデジモンが神殿を守るようになり、今日まで会えず仕舞いだったのである。
「一応、後任には言い残して来た筈なんだが。……今、あそこを守っているのはオタマモンが進化した内の1体なんだ」
「マジか」
「さっきいた内の3体も、あの時のオタマモンだよ」
「マジかぁ! アイツら、なんも言ってなかったぜ」
「すまない。……相変わらず、いたずら坊主達だな」
 驚かせようとしたんだろう、と溜め息を吐くパイルドラモンに、誓士は「怒れねぇな」と苦笑した。

 パイルドラモンは、なんとなく面影があるような気はするのだが、先刻別れたデジモン達にオタマモンの名残は見出せなかった気がする。カッパのような風貌のデジモンもいたし語尾も個性的だった。とは言え、オタマモン達は言葉が発達しない種らしく、会話らしい会話を交わした記憶もないのだが。

「懐かしいなぁ」
 数年も前の事だが、まるで昨日の事のように思い出す。
 メタルガルルモンは憮然とした表情のままだが、誓士は心なしか嬉しそうだった。
 本当にな。
 パイルドラモンもまた回顧し、僅か笑う。
 その後、表情を引き締める。
「お前達の事は色々と聞いているよ。大変だったんだな」

 デジメンタルの事、選ばれし子供としての役割、カオスデュークモンや──『闇』との。そして、魔王や四聖獣をも巻き込んだ、『創造主』との戦い。
 デジメンタルやダークエリアに関わる主要な場所を守っていたとは言え、当時、末端に過ぎなかったパイルドラモンは全てが終わった後の情報しか入って来なかった。
 関わった相手、悪からず思っている人間達の助力になればと思うも、進化も果たしていなかった彼には、駆け付ける事さえ出来なかった。飛行能力は持っていても、恐らく途中で力尽きていた。或いは、目的地へ辿り着けたとて、敵となるデジモンの1体すら倒せなかったに違いない。

 悔しい、と思った。スティングモンに敗れた時、オタマモン達の悲しげな声を聞いた時以上に歯嚙みした。
 せめて、イティアへ戻る事が出来れば。進化を果たし、『騎士』になれたら役に立てるのだろうか。そんな風に思いながら鍛錬を積み、進化を果たせたのは1年も前の事。誓士やガルルモン達が去ってからも、1年以上が経過していた。

 不甲斐ない、と心の中で呟いた刹那、誓士はパイルドラモンを見上げた。
「お前だってだろ」
「え?」
 驚いて見下ろすも、彼は視線を逸らさず真っ直ぐに睨み返して来る。勿論、誓士の場合もメタルガルルモンと同じで、生来の目付きがそう見せているだけに過ぎない。
「テイマーを持たないデジモンが進化をするのは、すんげー大変だってホーリードラモンが言ってた。とにかく鍛錬と戦うしかねぇんだ、頭が下がるよ」
 自然と視線を反らしたかと思えば、腕を組み、うんうんと頷いている。
「……」
「……な、何だよ」
 返事がない事を不自然に思ったのだろう。誓士は再び視線を上げて来る。パイルドラモンは感嘆の溜め息を吐き、「いや」と首を左右に振った。
「セイジは相変わらずだと思って」
「成長してねぇっつーのか」
「そうじゃない」
 そうじゃないよ。
 パイルドラモンはもう一度、同じ台詞を口の中で呟いた。
「変わって欲しくない部分がそのままで、嬉しいって意味だよ」
 嘗て、パートナーデジモンの進化を怖れた人間がいた事を思い出す。今なら彼の気持ちも少し解る、そんな気がした。


 パイルドラモンと誓士が昔話に花を咲かせている。その後ろから付いて行く形になった千歳は、なんとなく頭を左右に揺らしながら歩いていた。
「仲いいのねー」
「あれ、寂しいの、チトセ?」
 真横から見上げて来るグリフォモンに、「そうじゃないと思うけど」と呟いて、一呼吸唸る。
「……でも、そうなのかな?」
 解るよ、とグリフォモン。
「目の前で別の知り合いと、解らない話をされるとそうなっちゃうよね」
「言われてみれば、確かに」
 懐かしい顔馴染みと再会して嬉しいのも理解出来る。が、紹介もされず放置気味なのは釈然としない。それでも、暫くは会話をして貰いたいとも思うので、彼らの会話へ割り込む事もしなかったのだ。
 複雑、という表現が最もしっくり来るだろうか。
 腑に落ちたようなそうでないような表情の千歳に、グリフォモンは歩調を変えず続ける。
「エリアやマッハガオガモンに協力するって話も事後報告みたいなものだったし、それも気になってるでしょ? エリアはチトセと同じオンナノコだしね」
「へっ!?」
 突然の言葉に、千歳は素っ頓狂な声を上げた。あまりのボリュームと頓狂な音に、最後尾から着いて来るエリアとクロルが視線を寄越した気配がした。訝しげな彼らを振り返り、「なんでもない!」とジェスチャーをすると、2人は僅か疑問を残しながら何も言わないでくれた。
 視線を戻し、安堵の溜め息を吐く千歳。
「そんな事、ないわよ?」
「声が裏返ってたじゃん」
 うっ。
 言葉に詰まるテイマーを馬鹿にするでもなく、グリフォモンは、うーんと視線を巡らせた。
 青い空には、先刻のような禍々しさはない。見慣れた色に掛かる僅かなノイズ。天候の変化は地域によって定められているので、このイティアは晴れの日が多いらしい。
 彼は、のんびりと嘴を開く。
「でも、心配する事ないんじゃないかなぁ? エリア達を助けたいって真剣に思ってるだけだろうし、それは君へ対しても同じだよ。僕には解るもん」
「私?」
「そう。セイジは、チトセを真剣にスキなんだって」
「……っ!?」
 このパートナーは、今日だけで何度驚かせて来るのだろう。
 千歳は、今度こそ叫び声を我慢したが、頬だけに留まらず耳まで真っ赤になった事を自覚した。全身の毛穴が全部開く感覚、そこから汗が大量に噴き出す錯覚。もしかすると、髪の毛も逆立っていたかも知れない。
 と、
「千歳? どうした」
 先頭を歩いていた誓士が、前触れもなく振り返った。デジモン程ではないにしろ、彼もまた鋭い目付きをしている。が、付き合いが長いだけ、そして彼の性格を知っているからこそ驚いたりはしない。
 が、彼の視線は千歳にとって、別の意味で落ち着かないものなのだ。
「な、何でも、ない!」
「ああ?」
「何でもないったら! ホント!」
「……ふーん、そうか」
 若干腑に落ちない風だったが、誓士もまた視線を元へ戻してくれた。その時の安堵と言ったら、エリア達の時と比較にならなず、溜め息の深さも昨日今日で一番だった。
 すっかり疲れ切った千歳の横で、グリフォモンは楽しそうに笑う。
「ほらほら、後ろにいてもキミの変化に気付いちゃうくらいには真剣なんだよ」
 真剣にスキなんだよ、と。
 彼の事を自覚したのも、グリフォモンに指摘されてからだった。その時は自身でさえ気付かなかった本心を、一番近くから見ていた彼が教えてくれた。グリフォモン自身もよく解らないと言っていたが、お陰で深く考える時間を持てたし、間違わずに済んだ、と思う。
 相手を好きになる事と同情を間違えてはいけない。
 多分、そんなニュアンスの示唆と受け取った。
 最初の戦いを終えた後、自分から想いを告げて、同じ気持ちを返された。ずっと喧嘩をしない訳ではなかったけれど、あれから2年もの間、恋愛という部分でも心が満ち足りた時間を過ごせている。
 当時は全く関心のなかったイマドキファッションとか、ヘアースタイルとか。眼鏡よりコンタクトレンズにしようかなとか、どうしたら、かっ、可愛いと言って貰えるかなー! なんて、なんて! ……そんな事を考えるようになってしまったりとか。
 因みに、眼鏡の件は正直に告げた所、「眼鏡も好きだぞ」などというお言葉を戴いたので、今のところ外す予定はない。
 なんというか、ムキになるつもりは皆無だが、私だって真剣に好きなのよ? と言い返す千歳である。無論、心の中だけでだが。
 エリアの事も、成り行きだったとは言え、さっさと助ける約束をしてしまったと言うし。なんとなく黙っていられなくて自分もデジタルワールドへ来てみれば、やけに親しいような印象も受けた。
 ハーフというだけあって肌の色も白く、どことなく不思議な雰囲気を持つ彼女。小柄すぎて、これは守ってやろうじゃないか、という気持ちにさせられたっておかしくはないと思った。
 正直、焼き餅です。ハイ。
 私だって守ってやろうじゃないか、と思われたい。
 ……嘘です、守られるだけなんて絶対に嫌。寧ろ、こっちが守ってあげると言いたくなる性分なのは自覚してます。これがダメなんだろうなぁー、などと溜め息を零したくなる齢16、悩み多き花の女子高生である。

 けれど、当の彼氏――誓士は、そんな不安をいちいち口にせずとも気取ってくれた。エリアばかりに傾倒するのではなく、自分の心配もしてくれた。
 なんだかもう、それだけで十分だと思えた。
 自分の意志を曲げず、やりたい事をやり通す。結果、自身がどれだけ傷付く事も厭わない。
 途中で投げ出す方が後悔する。それが、誓士という人間。千歳が守られるより守ってあげると言いたくなる程、好きな相手なのだ。

「……グリフォモンって、昔から他人の気持ちをよく理解してくれるわよね」
 千歳が少し拗ねたように呟くと、彼は呵呵と声を上げた。
「やだなー、キミ達が解り易すぎるんでしょー!」
「わ、悪かったわね、単純で」
 解りやすい思考、――どうすれば心が浮上するのかさえ把握されてしまっている。流石、「私」のパートナーデジモンだわ、と千歳は唸った。
 グリフォモンは、困ったように笑うテイマーへ体を寄せる。「ふふふ、チトセが嬉しいと僕も嬉しい」
 巨大な猫がじゃれつく風にも見える。
 彼の鬣を撫でながら、千歳はいつもの表情へ戻って行った。
「……後でウチおいで。一緒にご飯食べよ?」
「わぁい、行くー!」
 2人の距離感は、全幅の信頼と愛情があってこそ。恐らく――本人も自覚していた事だが――誓士でさえ、グリフォモンの位置へ近付くのは時間を要すると共に、羨むものだった。





 城壁に取り付けられたアーチ型の門を潜り、中庭へ入り込む。誰が手入れをしているのか、綺麗に剪定された木々と草花が、見る者の感嘆を誘う。
 城の内部へ作られたというにはあまりにも広すぎる規模だが、城壁と城そのもののお陰で、上空から偵察でもされない限り、覗かれる心配はなさそうである。壁を飛び越えて庭へ足を着けたウイングドラモンの翼が少し見えるくらいで、寧ろ彼の巨躯さえ目隠しになった。
 全員が顔を揃えた事を確認し、デュークモンが口を開く。彼の傍には、彼が城内から連れて来た青年――デュークモンのテイマーが立っていた。
「最初に、これは俺が知っていた事だけど、メディーバルには「別の」という意味がある。俺達がいるデジタルワールドにはない言葉だから、ウィッチェルニー辺りのものだろう」
「ウィッチェルニー?」
 誓士の問いに、赤い騎士は頷いた。
「リアルワールドやイグドラシルと同じで、特殊な場所にある世界らしい。そこにもデジモンが住んでいて、変わったヤツも多いみたいだ」
 かと言って、メディーバルデュークモンがウィッチェルニーの出身であるとは断言出来ないがね、と締める。
「……成る程、それで「別の」、な訳か」
 言われ、誓士が最初に思い浮かべたのは、このデジタルワールドの「裏側」だった。嘗て、自分達も赴いた事のある世界、隙間。デジメンタル達が命をかけて封じている『闇』が住む場所。
 あれも同義なのかと口にしかけるも、寸での所で気付き、やめた。多分、アレに限っては異世界という括りには当て嵌まらないだろう。特殊、異質。そもそも生きたモノが住んで良い場ではなかったと思い出したからである。
 それと、とデュークモンは再び口を開いた。今度はエリアへ向き直る。
「たった今、アヌビモンが教えてくれたんだ。キミに送られたメールの発信源が特定出来た」
「……!」
 アヌビモン、という名にはエリア達も聞き覚えがあった。人間の世界で言うあの世――ダークエリアの門番にして、全てのゲートを管理するデジモン。余程の事が起こらない限り姿を見せる事も少ないと謳われる、謎の多い存在である。
 はじまりの町を守るインペリアルドラモンを始め、デュークモンは一国の長というだけあって、様々なデジモンとの繋がりを持っているらしい。
 と、ここで赤い騎士の隣へ立つ青年が初めて口を開いた。
「……まぁ、送り先がリアルワールドなら、ゲートを通るからな。でも、それなら」
 が、デュークモンは被せるように口を挟む。
「エンシェントワイズモンがD−sを開発してしまって以降は、毎日のようにゲートが開くようになったからね。今は何とか統制が取れるようになって来たみたいだけど、希に情報を取り溢す事があると言っていた。だから今まで気付けなかったんだって」
 青年は、最後まで言葉を続けさせてくれなかったデュークモンへ不満を隠さず、しかし諦めて溜め息を吐いた。
「……苦労してるんだな、アイツ」
 知ってたけど。
 何へ対してなのか、デュークモンは苦笑しながら肩を竦め、再びエリアを見下ろす。
「ただ、やっぱり正規に開いたゲートじゃないから、一応調べて欲しいとも言っていたよ。アヌビモンは動けないから、代わりにね」
「行けるのか?」
 誓士の問いに、彼は「ああ」と頷いた。
「そこまでは1日もかからないし、イティアも騎士団が機能しているから、俺も同行するよ」
「……」
 不安そうに見上げて来るエリアの意図を正しく読み取ったのだろう、デュークモンは若干声のトーンを落とし、優しく語る。
「これも俺達の仕事だよ。大事になる前に対処出来るのが一番いい。まぁ、ここが巻き込まれないようにって予防線でもあるんだ」
 言われ、エリアは成る程と城壁の向こうを思い出す。
 元々住んでいるモノは元より、旅の途中で訪れるデジモンや人間も多かった。露天や店が並ぶ街は活気に溢れ、これから重要な話し合いがあるというのについつい覗いてみたい気持ちにさせられた。
「……確かに、何かあってからでは遅いですね」
 メディーバルデュークモンやロトスモンといったデジモンに狙われている自覚がある以上、街中(まちなか)で戦闘を繰り広げる可能性は潰しておかなければ。
 しかし、デュークモンは首を傾げ、「うーん」と唸る。
「それもあるけど。キミはセイジやチトセと馴染みがあるんだろう?」
「は、はい」
 助けて戴いています。
 そんな風に続けると、デュークモンは喉の奥で静かに笑い、右手の聖槍グラムを少し掲げた。姿勢良く立つ彼は、まさしく騎士そのもの。
「だから、キミの事も他人事では済まされないんだ。イティアもそうだけど、エリアに何かあっても困る。彼らを悲しませる訳にはいかないからね」
 だから俺にも守らせて欲しい。
 そんな風に告げられ、エリアの頬は少し上気した。
「うわっ、マジ騎士ィ……! みんなの憧れ、デュークモンだよ……!」
「オメーはミーハーだな、ウイングドラモンよぉ」
 後方では、直接声をかけられた訳でもないウイングドラモンが体を打ち振るわせ、ボガートに窘められる気配がする。エリアの側にいるマッハガオガモンは複雑な面持ちでいたが、言葉を発する事はなかった。そして、嘗ては同じ場所で戦っていた黒いメタルガルルモンですら、彼の騎士然とした態度に心のざわつきを隠しきれないでいる。
 デュークモンというデジモンには、色んなチカラがあるのだろう。戦う姿にも、言葉にも。故に、多くのデジモンから憧れられ、言動に納得させられてしまうのだ。長、とは名ばかりではないらしい。
「……ありがとうございます、デュークモン」
 そんな彼の申し出を断る理由はない。今度ばかり、エリアは素直に謝辞を述べた。
 
 
 


スレッド記事表示 No.4714 アシッド・ルースト・オール!≪06≫−1ENNE2017/05/10(水) 19:59
       No.4715 アシッド・ルースト・オール!≪06≫−2ENNE2017/05/10(水) 20:01
       No.4716 アシッド・ルースト・オール!≪06≫−3ENNE2017/05/10(水) 20:04
       No.4722 勇気リンリン 元気ハツラツ夏P(ナッピー)2017/05/12(金) 00:16