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ID.4708
 
■投稿者:中村角煮 
■投稿日:2017/04/08(土) 01:23


幾千のアポカリプス U.R.L/エピローグ「これからのキミへ」
「ちょっと」
 結論から述べよう。アダムスハンズ・ヴァストの出現を始めとする一連の出来事は、他ならぬ事件の首謀者・ウォーグレイモンの手によってその幕が下ろされた。いまでは多くのデジタル・モンスターが避難状態から復帰し、このネイチャースピリッツに戻ってきている。
 再興の一途を辿っていると言っても、過言ではないだろう。
「ねぇ」
 かつてアドバンスド・オウガストと呼ばれる災害を数えれば、この世界にとって今回の事件は二度目の苦難ということになる。
「聞こえてる?」
 しかしアドバンスド・オウガストのときと同じくして、今回もまた世界を救う英雄が現れたのは、ある種の予定調和のようにも思えた。
「もしもーし?」
 どうだろうか。
「ちょっと親方。死んでないわよねこれ」
 ああ、注釈しておくと。現れた英雄というのは決してウォーグレイモンのことを指しているわけではない。
「あぁ? ……やれやれ、まーたのびてんのか其奴は」
 確かに世界を終焉の危機から救った直接の要因は彼に違いない。だがウォーグレイモンはこの世界の住人にとって所詮は「元英雄」でしかなく、そもそもこの事件が彼の手によって引き起こされたことを彼らは決して忘れないだろう。
「どうするのよ」
 さて、注釈はここまでだ。
 つまり、この世界を救った英雄はウォーグレイモンとは別にいるという話に繋がる。
「あー、そうな。んじゃなんか驚かせてやれ。いつものことだし多分起きるだろ」
 彼は何者としても人一倍未熟だった。そう、後の英雄だからといってそう簡単に事が運んだわけじゃない。折れそうになっては立ち上がり……彼がその繰り返しを重ねたからこそ、この事件は終息に向かったのだ。
「なんかってアバウトね。寝てるわけじゃないのに」
 そして、そんな未熟者だからこそ周りは助けたくなる。ゲンナイもその内の一派に数えて問題ないだろう。いままで、彼女たちが「選ばれし者」に手を貸すなんて場面はほとんど無かったというのに。
「やー多分寝てるだけだと思うんだ。昨日からぶっ続けで動いてたから」
 首謀者ウォーグレイモンの元同僚であるガンクゥモンも大きな功労者だ。彼がいなければネイチャースピリッツはとっくに滅びていたと考えると、彼もまた元英雄であり、そして現英雄であるといえる。
「また無茶させて……はぁ。驚かせるって、なんでもいいのかしら」
 そして、シスタモン姉妹。姉のノワールはなんだかんだ言って世界のための決断を下した。英雄をこの世界に喚ぶことを決めたのは彼女だ。しかし惜しむべきは、ノワールの想いが歪んだ方向に向かってしまった故に、妹のブランが戦いの最中で命を落としたことである。
 ブランもまた、英雄を心身ともにサポートしたよき功労者だった。
 ……彼女にそこまでの覚悟を強いたことは、ボクの唯一の失敗だ。
「任せるよ」
 そういった面々に支えられながら、一人の英雄が誕生した――いや、英雄と呼ぶにはまだ詰めが甘いか。とてもじゃないが未熟者から抜け出せたとは言えないし、彼はまだ自分が何者に成ろうとしているのか無自覚だ。だから、精々「英雄の卵」あたりが無難だろう。
「それじゃあ、遠慮なく」
 そしてその英雄の卵である久文初人ことハックモンは、事件が終わってから一年と少し経った現在。
「だああああああああああっ!?」
「うわあああああああああっ!?」
 かつて自分を現実世界からネイチャースピリッツへと導いたシスタモン・ノワールにキスを迫られていた。

     +

「……びっっっっっっっ、くりしたぁ。なになに、なにがあったの」
 オヤジの声に驚いて思わず跳ね起きる。えーと、俺いま寝てたのか? なにがあったんだっけ。確認するために周囲を見渡す。地平線まで続く青と緑のコントラストは青空と草原だ。雲一つ見えない。そのかわりといってはなんだが、草原には場違いに大きな岩が点々と置かれていて、俺はその一つに寝転がっていたようだった。
「あら残念」
「ののののわのわのわーるちゃんいま一体なにを」
「秘密よヒミツ。親方、あんまりハックモンの前で乙女のヒミツに触れないでくれる?」
 隣では口元を押さえたノワールがそっぽを向きながらニヤついていて、その背後ではオヤジ――ガンクゥモンがわなわなと肩を振るわせている。あれ、ヒゲ伸びた? あとまたちょっとハゲたな。余計にオッサンっぽく――、
「おいハックモン。お前いまワシのことディスったろ」
「え!? ディスってないない! オヤジのことディスるわけないだろ!」
 どんだけ鋭いんだよ。俺が心の中でツッコミを入れている隙に、オヤジはこめかみに青筋を立ててぐちぐちと捲し立ててくる。
「いまたしかにワシのハゲ検索アルゴリズムが反応したんだ! くっそーお前最近イイ気になってるな……!」
「いい気になってないって! ろくに修行も進んでないのにそんな余裕あるかよ!」
「あと! そのオヤジってのは気が抜けるから特訓中はやめろっつーたろ!」
「……あ、ごめん。師匠だ師匠」
 言われてようやく現在の状況を把握した。そうだそうだ、特訓中ね。となると俺はさっさと寝ちゃったってことか。うん、修行が足りないね。
「したり顔しおって、ほんと調子乗ってるなお前。反抗期か?」
 ああ、これは完全に説教モードに入っている。オヤジ……じゃない、師匠がこうなると二時間は話が続く。間違いない。危機感を覚えた俺はノワールにそれとなくアイコンタクトを送る。彼女は小さく頷いて、
「デジタル・モンスターにもやっぱり反抗期ってあるのかしら」
 と話を始めた。心の中でガッツポーズを取る。
「ノワールちゃんは万年反抗期じゃない?」
「万年だったらそれはもう性格っていうのよ。諦めて」
「娘が冷たい」
「親方に冷たいのも今に始まったことじゃないでしょ。諦めて」
「でもさぁ」
「諦めて」
「……あ、はい」
 修行はまだまだ足りないけれど、この一年の付き合いで師匠の扱い方はバッチリとわかっている。説教が始まりそうなときは娘の冷たい対応が一番効くのだ。このやりとりも何度も繰り返しているにも関わらず、師匠は今日もブルーになった。ボケ始めているのかと心配にもなるが、使える以上は説教ストッパーとしてノワールには助けて貰わなければなるまい。
「ほら師匠。眠ってたのは謝るよ、修行続けようぜ。今日こそは一発入れて見せるから」
 というわけで俺は俺で師匠の気を逸らすためにフォローする。修行を続けたいのは本当だ。ここらでいい加減に一人前と認めて貰わないと、俺もデジタル・モンスターとして一歩先に進めないままだ。
「……おーう」
 だが当の本人のやる気は出ない。口から黒い煙が吐き出されそうなポンコツ具合だ。まったくしょうがない師匠だ。
「――隙アリッ!」
 だから俺は師匠の顔面に右前足で殴りかかった。これで師匠のやる気が出れば重畳。一発入ったらなお良し、だ。
「フン、やらせるかよ」
「あ痛だあッ!」
 まぁ、この程度の不意打ちじゃダメなのは分かっていた。後ろの「デカブツ」のデコピン一発で俺の身体は大きく吹っ飛ばされる。
「ででで……やっぱ卑怯くさいよ、ソレ」
「るっさい。お前にゃ扱いきれんのだからワシが仕方なく使ってやってんだ、感謝しろよ」
 デカブツ。そう、デカブツだ。
 師匠の背中にはいま、黄金色に燃えさかる「火竜」が佇んでいる。
 誰かが「ヒヌカムイ」と名付けたそれは、まさしく一年前の俺が生み出してしまった、あの「災害」の縮小版だった。

 ――一年前。俺は現実世界に帰されることなく、ハックモンとして再びデジタル・モンスターとして生きられることになった。それに際して、俺はゲンナイのお姉さんたちからはそりゃもう色々と聞かされ、同時にいくつかの制限を受けることになったのだ。
 細かいことを数えるとキリがないのだが、大きな事柄は三つ。
 一つ。イグドラシル直轄の聖騎士の元で監視を受けること。
 簡単に言えばロイヤルナイツであるガンクゥモンの傍から離れるな、という話だ。随分前に「死して冥府おくりとなったデジタル・モンスターが再び活動する事例」は認められたらしいのだが、なにぶんネイチャースピリッツの場合は事情が複雑だ。人間からデジタル・モンスターへとそっくりそのまま「戻る」なんて前代未聞のことで、今後に備えてロイヤルナイツの監視とデジタルワールドについての基本教育は必須とされたらしい。
 ちなみにこの監視は俺だけではなく、シスタモン・ノワールにも適用されている。ウォーグレイモンの元で諜報活動をしていた罰ということだが、それにしては温情措置で済ませてくれた方だ。色々と鑑みて、ガンクゥモンのもとでやり直せということなのだろう。多分、ゲンナイのお姉さんたちはブランのことを気に掛けてくれたんじゃないかと俺は勝手に思っている。

 次にもう一つ。デジタル・ワールドの在り方を根底から書き換えてしまう恐れがあると言うことで、ハックモンとしての「機能」を一部、拘束されることになった。具体的には「ハッキング」と「フォース」の使用の禁止だ。オヤジから譲り受けた鎧のプログラムを書き換えることで、根本的に扱えなくなっている。
 アダムスハンズ・ヴァストの代わりに世界を滅ぼしかけたのだから、俺は仕方のないことだと受け入れている。大体、あんな力はいまの俺には恐ろしくてとてもじゃないが扱いきれない。むしろ拘束して貰ったおかげで安心出来ているというのが本当のところだ。
 ……だが、ウォーグレイモンに吸収されたはずの「ヒヌカムイ」は僅かながらに力を残していた。気が付いたときには、ほとんど絞り滓のような状態で俺につきまとっていた。
 その残滓はゲンナイを持ってしても消し去ることが出来ず、オーナー情報を書き換えることで精一杯だったらしい。それで俺の代わりにオヤジをオーナー登録して、そのままヒヌカムイを扱うことになったのだ。
 いまではそのヒヌカムイをやれ救助活動だ、瓦礫の撤去だ、挙げ句の果てには食料の調達だとオヤジは便利に使っているみたいでなによりである。
 なによりなのだが、こうして修行に持ち出すのはやっぱりアンフェアじゃないのかと思う。

 ――俺が受けることになった制限、最後の一つがその「修行」だ。俺ではなくガンクゥモンが受けた制限と言った方が正しいかも知れない。
 ヒヌカムイやハッキングなどを拘束されたとはいえ、ゲンナイからすれば俺はまだまだ未知数の危険因子に変わりはない。他に隠された力があったとしても、未熟さゆえに扱いを間違えてまた世界の危機になってしまったら大変だ。
 だから、ゲンナイはオヤジに俺への「修行」を義務づけた。それは、いくつかの課題を設けて、力に見合ったデジタル・モンスターとして俺を成長させること。
 それは結構なことだ。俺もこの世界で生きていく以上、いつまでたっても弱いままではいられない。
 そのためにオヤジから言い渡された最初の課題とは、シンプルきわまりなく「ガンクゥモンに一撃を入れる」こと。言葉にしてみれば、なんてことはない課題ではある。しかし、そもそも相手が究極体ということと、彼が扱うヒヌカムイの存在が明らかに達成難易度を上げていた。
 その証拠に、修行が始まってからの一年間、俺はまだその課題をクリアすることが出来ていない。端っから躓いている。

「ヒヌカムイがいなけりゃ課題は余裕だとでも言いたげだな?」
「いや……そんなことはないけど……」
 あるけど。
「『それは元々俺の力なのにぃ』とか心の中で歯ぎしりしているのが聞こえるぞ」
「……いや、そんなことは」
 ないとは言い切れない。このオッサンはいちいち鋭いなホントに。あぁ、これはまた説教モードだ。と、そこで助けを求めてノワールを見るが、彼女は「助けるのは一日一回まで」と呟いてそっぽを向いてしまった。わぁ平等主義。ただ、こういうところで、彼女がオヤジと俺を区別していないと感じる。
 そのことが純粋に嬉しくて、俺は知らずの内に笑みを浮かべていた。
「まぁ、ワシの方が使いこなしてるとはいえ? 確かに元々は? お前の力だし? そこまでいうなら今日はヒヌカムイなしでやってやるゾ? んんどうしたぁ?」
「一言余計なんだよ……ッ」
 オヤジはオヤジで腹の立つ笑顔でぐいぐいと迫ってくる。その態度がいつも気に喰わなくて、俺もつい余計なことをいつも通り口走ってしまう。
「いらないよそんなハンデ! むしろ全力でやれ全力で!」
「ほほー!? したらば今日もダメだったらまた飯抜きな!? いいな!?」
「わかった受けて立とうじゃないか! その代わり一発入れられたら、いままでのツケとして今度はオヤジが一週間飯抜きだかんな! 一発入れられたらだぞ!」
「おもしれぇじゃないの、絶対返り討ちにしたるわフハハハハハ!」
「そりゃこっちの台詞だワハハハハハ!」
 二人の高笑いが終わると、俺達は目算で約五メートルの間合いを合図もなく取り合う。ヒヌカムイの射程からギリギリ外に位置するこの距離が、いつの間にか俺達のニュートラルポジションになっていた。
「……似たもの同士」
 その光景を見たノワールが頬杖をつきながらボヤく。それがゴングだった。

 後ろ脚に思い切り力を込めて、地を蹴るのは一瞬だ。前に向かって跳ねるように駆け出す。するといつも通り、オヤジはヒヌカムイを使って真横からの速攻を切り出してきた。
 シンプルな右への薙ぎ払いだ。俺はそれをジャンプして避ける。次に来るのは真上からオヤジの鉄拳が降ってきた。これもいつも通り。それから次の攻防も、そのまた先も。一年間、何度も何度も繰り返してきて、俺達の修行は一つの「型」として完成されてきている。
 予定調和の応酬で、オヤジが欠伸を噛み殺しているのが見えた。んにゃろ。
 こちらは必死でそのパターンを崩そうとする。だが、型崩しもまた幾度も行われてきた「挑戦」だ。それ故に、分岐した別の派生パターンへとレールが切り替わるだけになってしまう。
 なんとか、オヤジの知らない新たな攻撃を生み出さなければ。
「おい、退屈だぞハックモン。結局いつも通りかよ」
「……っ!」
 タイミングも重要だ。欠伸なんてして油断しているように見えるオヤジも、その実はやはり現役の聖騎士らしく隙と呼べるものがあまり見えない。かといってこのまま進めば、型の最後に待っているのは俺がぶん殴られる未来しかない。
 ……あ。
 そこで、ふと一年前の事件を思い返した。正確には、ウォーグレイモンが言っていたことが、光景と共に鮮明に脳裏に蘇った――。
 だから俺は腹を括る。
 パターンから導き出されるオヤジの「決め手」はいくつかあり。俺はいつもそれを読み切れずに素直に殴られてしまう。だが今回は違う。もう読まない。最後の一手に対して俺は回避を選ばない。
 そしてその決め手が来る。
 今回はヒヌカムイではなく、オヤジ自身の拳で真下からアッパー気味に放たれた。
 ――勝ったと思ったその瞬間こそ、敗者が侵す最大の過ちだ。
 そう。オヤジも俺も、この型の先に見えてるのは「俺の敗北」という一点では共通しているはずだ。つまりそれは、オヤジが「勝つ」と考える瞬間が必ず訪れるということだ。
 それが今。
 すべてがスローモーションで再生されているようだった。
 俺は左の前爪を、オヤジの攻撃に合わせて構える。アッパーを甘んじて受けつつ、その構えを懸命に伸ばした。ただ当たれと念じながら、ひたすらに。
「「……ッ!」」
 来ると分かっている攻撃には、備えられる。ゆえに、結果だけは「いつも通り」とは行かなかった。オヤジの拳は確かに俺の顎を打ったが、俺は気絶もしなければ、吹っ飛ばされもしなかった。
 そして手応えは充分。

 着地と同時に見上げると、俺の爪が確かにオヤジのバイザーに三本の傷を描いていた。

 オヤジが、バイザーの傷を指先でなぞる。
「……長かったなぁ、ここまで」
 ヒヌカムイと一緒に腕を組みながら、顎髭をちょろちょろと弄りながらオヤジの視線は天を仰いだ。
「お、オヤジ――いや、師匠……!」
 ガンクゥモンは、そのまま俺へと視線を戻す。かなり悔しそうに――だけど少しだけ嬉しそうに――、オヤジは口元を僅かに歪めて言う。
「物欲しそうな眼しやがって。ああそうだよ、ワシの負けだよ。これで文句ないだろ」
「や――」った。
 俺の喜びの雄叫びはしかし、第三者のもっと嬉しそうな歓喜の叫びに掻き消された。
「――やった、やった! やりましたよお姉様! 先輩がついに!」
 振り返ると、そこにはピンク色のワンピースの裾をカゴ代わりに、肉やデジタケを抱えた少女がいた。兎のようなフードを被った、銀髪の修道女の姿は、紛うとなきデジタル・モンスターだ。
「あらブラン、戻ったの?」
 シスタモン・ブランが、抱えた食料を落とさないよう、器用に飛び跳ねて俺の修行の成果を喜んでいた。

     +

 そう。ブランが遺したデジタマから生まれたデジタル・モンスターは、この一年間で進化を繰り返した。
 一年前に亡くなったノワールの妹と瓜二つとまではいかない。だが、また同じデジタル・モンスターへと成長した時はこのボクをしてかなり驚いたし、ノワールも人目を憚らず大声で泣いていた。
「今夜はこのブラン! 先輩のために腕を振るってご馳走を用意させていただきますよ!」
 そういえばハックモンやガンクゥモンも、ちょっぴり泣いていたかな。
「お! そりゃあ楽しみだなあブランちゃん!」
 彼女がシスタモン・ブランになったことで、ボクはボクの過ちが許されたとは思わないけれど。
「親方はメシ抜きよ」
 それでも、やっぱり少しだけ。
 あの時からボクの胸の内でつかえていた何かが、すっと取れた気はした。
「はぁ!? そりゃどういうことだなんでワシだけ!」
 それにしても、運命とは奇妙なものだ。
 誰もが何者かで在ろうと意識して世界が回っているというのに。
「そうだった! オヤジ、俺が勝ったから一週間メシ抜きだよ!」
 時に世界を「あっ」と言わせるのは、未来に無自覚な者だったりする。
「というわけよ。約束は約束。親方はしばらく自給自足でお願いね」
 ある者は英雄であろうとした。
「ノワールちゃんそれマジで言ってる!? ちょちょ、ブランちゃん助けて!」
 ある者は破壊者であろうとした。
「お師匠さま、約束したんですか?」
 ある者は、破壊者として無自覚だった。
「……う」
 ある者は、英雄として無自覚だった。
「じゃあダメです。ごめんなさい」
「娘二人が冷たいよーーーーッ!」
 そしてある者は、何者にもなれなかった。
 ――ボクは、どうなのかなぁ。
 なんだかんだ偉そうなことはこの世界で言ってきた気がするけれど。
 結局、最後は人任せだ。手助けなんて言いながら、傍観者であることからいつまで経っても脱却できていない。語り部としてはそれで正解なのかも知れないけれど、皆が期待する「神様」としてはからっきしだ。となるとボクは最終的に、何者であろうとしているのか。
 少なくともそれは神様じゃないし、語り部でもない。ううん。
 ぱっとしないボクに引き替え、彼のこれからはとても楽しみだ。
 一年かけたとはいえ、ちゃんと成長の一歩を踏み出したのだから。きっとハックモンはもう、無自覚の英雄ではない。英雄であろうとして、自分と向き合うことに決めたのだ。
 ――ボクも、ちゃんと向き合わなくちゃならないな。
 世界を救った「英雄の卵」が孵るそのときまでは、ボクは幾千の物語を見守っていこうと思う。きっとそれが、いまのボクに出来る精一杯の、自分との向き合い方なのだ。

     +

 ハックモンがおもむろに、ワシの隣に腰掛ける。こうしてみると、本当にまだまだガキんちょで、マジでワシに一撃入れるとは思ってなかったし。
 ちょっと前まで人間の子供だったこいつと、こんな風に拳を交えることも全く想像していなかった。
 そんなハックモンが、神妙な面持ちで言葉を吐き出す。
「なぁオヤジ」と。
 勿体付けるような言い方に腹が立って、ワシはついつい「慰めならいらんぞ!」と声を荒げてしまった。慰めはいらん。施しならいるけどな!
「いや。これからもよろしくって、それだけだよ」
「なんだよ、藪から棒に」
「――俺、オヤジみたいになりたいんだ」
「……おいおい、ほんとにどうした急に」
 やばい。ちょっと涙腺来た。ワシみたいになりたい? 冗談だろ。
「弟子としても、デジタル・モンスターとしてもまだまだ未熟だけどさ」
「……」
「絶対、一人前になってやるから」
「……応」
「絶対、俺の師匠だってこと、自慢させてやるから」
「応」
 もうダメ恥ずかしい。修行が進んだとはいえ、こいつがこんな殊勝な態度を見せるのは珍しい。可愛いところあるじゃないかと思うと同時に、普段の雑な扱いのギャップでハックモンの顔がまともに見られなくなる。
「これからもよろしくな」
「フン、わかったわかった。わかったからもう戻れ」
 だから、ワシは手を振ってハックモンを追い返した。こんな顔見られた日にはワシの株はストップ安間違いなしだ。
 奴は「あいよ」なんて軽口を叩きながら、ノワールちゃんとブランちゃんの輪に戻っていく。まったく、暢気なもんだ。
「……莫迦者が」
 バイザーの傷を改めてなぞって、確かめる。
「今更なにが自慢させてやる、だ――」
 傷の凹凸が指に触れるたびに、ハックモンの成長が実感できた。そしてその傷こそ、自分たちを繋ぐ絆であることは、間違いない。
「――あの時から、お前はとっくにワシの自慢の友達だよ」

     +

幾千のアポカリプス U.R.L
-Ugly Rise Limitation.- 完


スレッド記事表示 No.4705 幾千のアポカリプス U.R.L/10(上)中村角煮2017/04/08(土) 01:20
       No.4706 幾千のアポカリプス U.R.L/10(中)中村角煮2017/04/08(土) 01:21
       No.4707 幾千のアポカリプス U.R.L/10(下)中村角煮2017/04/08(土) 01:22
       No.4708 幾千のアポカリプス U.R.L/エピローグ「これからのキミへ」中村角煮2017/04/08(土) 01:23
       No.4709 さいごがき。中村角煮2017/04/08(土) 01:34
       No.4717 だからいい と だけどいい狐火2017/05/10(水) 20:49
       No.4721 未来へのステップは続いてく夏P(ナッピー)2017/05/11(木) 22:56