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ID.4685
 
■投稿者:Ryuto  HOME MAIL
■投稿日:2016/12/23(金) 00:16


幾千のアポカリプス 覚醒矛盾“一年後/アンナと拓人”
「それじゃあ、パラサイモンは失敗したってことかい?」
「大量の、デジタル・モンスターを失い、勝手に、死亡し、たのだから、失敗と表、現するしかない、だろう」
「はぁ、やれやれ。やはり大事な仕事はああいう胡散臭い下請けにやらせることじゃないね。おかげでこっちは大損だよ。で、彼女を殺したのは誰なんだい?」
「ホウオウ、モンだがそ、れもまた、行方不明、だ」
「……へぇ」
 葡萄酒色のローブと白いマントで体を覆う人型のデジタル・モンスターは、鍛え上げられた肉体と白い翼、白い鷹を模したバイザーで身を包む戦士型デジタル・モンスターと、中学校の図書室で情報を交換していた。
 まだあの戦いから数時間しか経っていない。間もなく夜は空けるが、そろそろ戦闘自体が虚界修正法則によって「なかったこと」にされるだろう。凄まじい破壊の跡も、戦いで命を落としたデジタル・モンスターも、そしておそらくはビルの崩落に巻き込まれたあのホウオウモンも。
 だが、タイラントカブテリモンと戦ったもう一体のデジタル・モンスターはおそらく死んでいないし、消えてもいない。ローブとマントで身を包む人型のデジタル・モンスター――ワイズモンは、彼にそのことを報告しなかった。
「他には何もないのかな? 例えばほら、僕に報告してないこととか」
「無い」
 即座に否定する。白い戦士型のデジタル・モンスターはバイザーの奥から試すような目で彼を見つめたが、すぐに口元を緩めた。
「そうか、まぁ分かったよ。しかし困ったな、計画に大きな遅れが出てしまう……仕方ない、別の方法を考えるとしよう。君が見た裏次元の大穴は何かしら利用価値がありそうだしね」
「そうす、ると、良い」
「じゃあ、また何かあったらすぐ伝えてね。君たちのことは信用してるから」
 そう言って、白い戦士は消えていく。暗闇に残るようなあの笑みを残して。
「彼、気づいてたんじゃない?」
 それとほぼ同時に、ワイズモンの隣に三森あかねが現れた。彼女は白い戦士がついさっきまでいた虚空を見つめている。
「だが、彼に、は何もで、きない。彼に、は情報が、必要だ」
「えぇ、彼の知らない情報がね」
 青い縁眼鏡の位置を人差し指で調整しながら、彼女は同意する。
 今回の騒動ではっきりした。最後の破綻者は砂原拓人だ。
 この情報は、逆転の一手になり得る。



「久しぶりね」
「……そうだな」
 虚界修正法則が適用され、夏休みが終わり、秋と冬と春が過ぎて、また夏になった。
 拓人は廃校になった中学の近くにあるファミリーレストランのボックス席で、丘岬アンナ――今でも彼女のことをそう呼んでいる――と向かい合っていた。確か一年前に彼女とここに来た時には、まともに会話もしなかった。
「高校はどう?」
「まぁ、ぼちぼち」
「友達は?」
「い……いるさ」
 母親みたいなことを聞いてくるな、こいつは。
 砂原拓人は受験勉強の末、無事に都内の高校に入学し、中学校も卒業した。同時に、キメラモンとの戦いで虚界修正法則の影響を受けた中学校は廃校となった。
 あの戦いの後、拓人とアヌビモンはデジタル・モンスターと戦闘することはなかった。メタルエンパイアとアンノウンが崩壊し、《媒体売り》パラサイモンが消え去ったことで、リアルモーメントに顕現するデジタル・モンスターが激減したことが主な理由だ。
 だが、もうひとつ大きな理由がある。

「怪我、また増えたな」
「……この前、少しヘマしてね」
 丘岬アンナ――シルフィーモンは、「自分は学校に通っていないし、メタルエンパイアでの経験もある」と拓人に話し、彼を受験勉強に専念させた。そして空雲朱鳥もガイオウモンも、シールズドラモンもリボルモンもいないまま、たったひとりで破綻者との戦いを続けていた。
 拓人がアンナの顔を見るのは、高校入学後初めてのことだった。
「拓人」
 アンナはメロンソーダのストローから口を離すと、話を切り出した。
「アヌビモンはもう大丈夫?」
「あれから一年だぞ。とっくに全快してるし、むしろ腕が鈍らないか心配だよ」
「そう。それなら、もう安心ね」
 アンナは飲み物を脇に置き、両手を前に組んだ。
「私、デジタルワールドに戻ろうと思うの」
 そして、どこか寂しそうに微笑む。
「アンナ……?」
「丘岬アンナの役目は終わった」
 言葉の意味はすぐに分かった。丘岬アンナの役目。それは「選ばれし子供」だ。
 シルフィーモンはデジタルワールドのデバッグという彼女の役目が終わった後、死亡した肉体を借りて活動していたに過ぎない。
「この一年で、丘岬アンナがこの世界にもういないことを実感したわ」
 彼女は僅かに目を伏せ、組んだ指を眺めながら、この数か月で見てきたものを語り始めた。
 丘岬アンナの通っていた学校はもう存在しない。市役所に行っても、丘岬アンナの住民票は残っていない。当然、出生届も死亡届もない。決め手になったのは、微かな記憶を頼りに「丘岬」という表札のある家へ向かった時だった。そこには四十代くらいの幸せそうな夫婦と、丘岬アンナと同じくらいの年齢の少女が住んでいた。声はかけられなかった。
「肉体は残っていても、もう丘岬アンナは存在しない」
 薄々感づいてたけどね、と彼女は笑った。
「一年前までは特に考えてもいなかったけど、やっと実感したわ。私は矛盾した存在。あなたや、朱鳥さんたちが私のことを『アンナ』と呼んでくれてたことが、唯一の延命策だった」
「お前……」
「だから、これから先はあなたの番」
「?」
 拓人は目を瞬いたが、アンナは笑みを浮かべたままだった。
「勘違いしないで、元居た場所に戻るだけ。あなたの居場所はここでしょ?」
「……あぁ」
 そういうことか。
「だから、この役目はあなたに任せるわ」
 アンナの表情につられて、拓人の口元も緩んだ。



「《三匹の怪物》の噂話は知ってる?」
「それ、俺の中学にあった噂だろ?」
 それから拓人は、アンナと仕事の「引き継ぎ作業」を行った。
 彼女がこの一年間で手に入れた情報の中でも、未だに出どころが分からない、最後のピース。
 それは、かつて拓人が通っていた中学校で広まっていた噂だった。
「えぇ。あなたの学校にいたデジタル・モンスターについての噂」
「……よく調べたな」
「時間がかかったわ」
 当時の記憶を再生しながら、噂と事実を重ね合わせていく。
「けど、その噂はもう過去のものだろ。あいこのメガシードラモンに、アリスのキメラモン、それにアヌビモン。最初の二体はもうこの世界にはいないし、俺は中学を卒業し……」
 言葉が途切れた。「もういない」だって?
「気づいた?」
 アンナの口調はいつもの調子に戻っていた。
「この噂はおかしいわ」
「……」
「あなたの言う通り、メガシードラモンもキメラモンももうこの世界にはいない。虚界修正法則で彼らは存在ごと抹消されたから。にも拘らず、噂はこの世界から消えず、《二匹の怪物》でも《一匹の怪物》でもなく、《三匹の怪物》のまま残ってる」
 これがデジタル・モンスターと一切関係のない生徒が、たまたま彼らと干渉したことで生まれた噂なら、今の状態にはなり得ない。無論、本当にデジタル・モンスターと無関係な場所でこの噂が生まれた可能性はあるが……「死んだ生徒が取り憑かれて生き返る」だの「生き返った人間が夜な夜な人間を殺してまわる」だのという噂が、デジタル・モンスターと関係がないなど、希望的観測にも程がある。
 アンナは言葉を続ける。
「この噂を流せたのは、当時あの中学に在学していた破綻者だけよ。沖あいことアリシア・アルトレイン以外だとしたら、それは誰? まぁ、あなたもその枠には入るけど……あなたがそんな噂を流す理由もないし」
 該当する人物はいない。
 もちろん、それには「拓人の知る限り」という注釈が付く。
「これが《三匹の怪物》の噂だってことは、実際にはあの中学に、少なくとも四匹の怪物が居たってことよ」
「なるほどな」
「大丈夫?」
「あぁ」
 拓人は頷くと、アンナと同時に席を立った。アンナの差し出した右手に、拓人も手を重ね合わせる。
 今度は、人間の形をした右手だ。
「この先の謎解きは、あなたの力で」
「あぁ」
「今まで、ありがとう」
 アンナは拓人の首に手を回して抱きつくと、肩を軽く二、三回叩いて離れた。それから左手に握った伝票を拓人に見せる。
「ところで、支払いは拓人がしてくれるのよね?」
「いや、別々だろ」



 既に日が暮れかけている。
 拓人はアンナと別れた帰り道、話を聞きながら書き取ったメモを眺めながら、隣に現れた半透明の影に話しかけていた。
「もう卒業しちまったのに、あと一体か。どうやって探すかな」
「デジタル・モンスターに取り憑かれた人間は殺人を犯す。それを今まで感知できなかった以上、その人間は何らかの方法で殺人を隠すか、別の方法で衝動を処理しているのだろう」
「アンナめ、厄介な宿題を残しやがって」
「俺たちが今まで気づかなかっただけだろう」
 拓人が立ち止まり、アヌビモンもそれに合わせて動きを止める。
「戦えるのか、拓人?」
「どうかな」
「汚れ仕事は俺の役目か」
 アヌビモンの皮肉に対して、拓人は苦笑した。
「さて、いつ始める?」



 穏やかな風の流れる草原の中心で、シルフィーモンは目を覚ました。
 ここは何処なのか。少なくともリアルモーメントではない。デジタルワールドにも見えるが、今まで来たことのない場所だ。そもそも、自分はいつから眠っていたのか?
 たしか、拓人と別れた後、私は丘岬アンナの身体に残っている選ばれし子供プログラムを再起動しようとして……。
「すまないね、急に呼び出して」
 聞き慣れない、若い男性の声がして、シルフィーモンは慌てて立ち上がり振り返る。
 そこにいたのは、ところどころに金色の装飾がされている黒い鎧と青いマントを纏った、大柄な騎士だった。
「安心して、ボクはキミの敵じゃない」
「あなたは何者?」
 シルフィーモンは警戒を解かない。
「何者なのかを説明するのは難しいな。キミたちからすれば、『神』って表現が一番適切なんだろうけど……何だか偉そうだしな」
「神を名乗ってるデジタル・モンスターには、昔何度か会ったことがあるけど」
 少なくとも、その中に彼はいなかった。
「まぁ、佐山(さやま)勇(ゆう)治(じ)って呼んでくれると嬉しいな。それがボクの名前だから」
「私に何の用?」
「礼が言いたくてね。砂原拓人の命を救ってくれてありがとう」
 まさかここでその名前を聞くとは思わなかった。騎士は言葉を続ける。
「彼が死ぬと、ボクも存在できなくなる。キミのお陰でボクも助かった」
 騎士は穏やかな口調のままそう言った。シルフィーモンは戦闘態勢のまま話を聞き続けていたが、彼に敵対心を感じることはなく、やがて構えを解いた。
「その上で、キミをスカウトしたい」
「私を?」
「君に助けられたとはいえ、ボクの仕事はまだ終わってなくてね。この先もまだ忙しくなる。そこで、ボクを補助して、この世界を見守る役目をキミに頼みたい」
「世界を見守る……」
「大変だけど、一度デジタルワールドを救ったキミになら務まる仕事だと思う」
 黒い騎士――佐山は、シルフィーモンを見つめたまま、片手を上げて一歩下がった。
 その先を見ることを促すように。
「まぁ、ボクから説明するだけじゃ良くないだろうから」
 そこには。
「実はキミのパートナーには、もう承諾を得ているんだ」
 学校の制服らしき半袖シャツに紺色のニットベスト、それに緑のプリーツスカートを着た、ポニーテールの少女が立っている。
 私……いや、もう私じゃない。私にとって一番大事な相手だ。
 視界が、目に溜まった水滴で曇った。
「シルフィーモン!」
 丘岬アンナは、微笑みながらシルフィーモンに抱きついた。



 また、夜空に花火が上がる。
 一年前、ここでは大きな戦いが起きた。跡が消えようが、歴史が改変されようが、その事実は生存者たちの記憶に刻まれている。
 だが、あの戦いは始まりではなく、また終わりでもない。
 これは単なる小休止だ。息を潜め、来るべき時を待つ。
 いずれ、物語は再び動き出す。

 短く黒髪を切りそろえた少年は、海浜公園で冥府の管理者とともに花火を見つめていた。
 帆の形をしたホテルの一室では、半透明の白い戦士が彼の取り憑く赤い髪の少女と会話し、笑いを浮かべていた。
 廃校となった中学校の図書室では、白いワンピースを着た眼鏡の少女が、彼女とよく似た姿の死体を前に、荒い息をついていた。
 そして、膨大なデータが行き交う白い電子の空間では、金色の鳳凰が、その背に乗った少女と視線を合わせた。
 それから鳳凰は翼を広げ、少女とともに白い空間の彼方へと去っていった。











































[了]


スレッド記事表示 No.4684 幾千のアポカリプス 覚醒矛盾“12/少女と終局”Ryuto2016/12/23(金) 00:15
       No.4685 幾千のアポカリプス 覚醒矛盾“一年後/アンナと拓人”Ryuto2016/12/23(金) 00:16
       No.4686 あとがき/アンナについてRyuto2016/12/23(金) 00:24
       No.4719 時の流れは不思議だね夏P(ナッピー)2017/05/11(木) 00:56