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ID.4666
 
■投稿者:中村角煮 
■投稿日:2016/08/06(土) 23:14


幾千のアポカリプス U.R.L/9(下)
     ●

 マントを初人に預けたのは早計だったかも知れない。そんな風に、ガンクゥモンは荒い呼吸で肩を上下させながら少しだけ後悔した。家のそばに戻ってくるまでは、アダムスハンズの処理自体は順調だったし、マントも鎧もない身軽な自分を楽しめていた。
 だが、さすがに家が柱岩の上に刺さった状態であることを完全に失念していた彼は、徒手空拳でロッククライミングに挑む羽目になったのだ。
 おまけといわんばかりに岩壁にも数体のアダムスハンズが張り付いていたことを考えると、この戦闘で一番の山場は満場一致でこのクライミングだった。
 空を飛べればなぁと何度思ったことか。高所恐怖症というのも口から出任せではなく本当のことで、クライミングは余計にその恐怖心をあおる。最初だって、ブランに誘われて嫌々ながらに柱岩に登ったのだ。
 まぁ、結論を言えば無事にこうして初人の自室に戻ることが出来たのだから幸いだと自分に言い聞かせる。
『――親方、ひとついい?』
 窓から部屋に入った直後だ。一息つく間もなく聞こえてくるあかねの声に、ガンクゥモンは疲れを吹き飛ばそうと大きく「応ッ」と頷いた。コンソールには「音声単独出力」と書かれているのみで、彼女の姿は見えていない。そういえばさっき大出力回すから準備できしだい音声のみに切り替えるとか言っていたことを思い出す。
 どうやら随分と向こうを待たせてしまったようだ。
「すまんなあかねちゃん、ワシとしたことが手間取った! で、なんじゃろか!」
『初人くんとやらと親方が、現在はこの家のデータの二五%ずつ――合計五〇%請け負っているのは間違いないのよね?』
「おう、そのはずだ」
 ブランが自分たちに施した処置は概ねあかねが言ったとおりだ。おさらいをしておくと、メリットとしては初人も親方も、「家」の頑強さを共有することでステータスの底上げがされている。ゲームで言うところの加護(バフ)効果だ。
 そしてデメリットは、二人が家と構成情報を共有することで、ある意味で脆くなっているという点。初人が死んでも、ガンクゥモンが死んでも、家が壊れても――三つの要素の内ひとつでも欠けることがあれば、連帯責任的に全員ぶっ壊れるという点だ。まさに呪縛(デバフ)と言うほかない。
『それなら予定通り、この家の残り五〇%を全て親方用に編纂させてもらうわ。そうすれば親方が保有する家の情報量は七五%。初人くんに残った二五%を切り離しても、アダムスハンズ・ヴァストに対抗しうるだけの力が親方に残るはず。少なくとも触れても飲み込まれないようにはなるわ』
「ごめん、ワシの脳ミソ限界! 簡単に言うと!?」
『初人くんはデータの共有を終えて家の呪縛から解放される』
 それは、万が一この家や自分が壊れたとしても、もう上にいる初人に影響は及ぼさないということ。うん、いいねそれ。
『そして、家を取り込んだ親方はアダムスハンズ・ヴァストに対して無敵って意味よ!』
「いいねぇ、それ!」
 色々と説明がはぶられているような気がしてならないが、簡単にしろと言ったのは自分の方だ。細かいことを考えなくて良くなったのは非常に助かる。ガンクゥモンは、あかねのこういう大ざっぱなところが大好きだった。無敵、無敵ね。
 自分の腕力が持つ限りは故郷をその無敵っぷりで守ってやろうじゃないの。
「よし、始めてくれ。ワシはどうしてりゃいい」
『柱岩、部屋のど真ん中にブッ刺さってるんだよね?』
「うん」
『じゃ、合図が出たら側面からぶん殴ってね。家、消えるから』
「うん?」
 つまりどういうことだ? 家が消えるということは、床が消える。ああそうか、岩をへし折ってそこを足場にしろってことかーなるほどなー説明が下手だなぁと内心ゲンナイの口べたっぷりを笑っていると、
『さーん、にーい、いーち』
 楽しそうな声で合図とやらが唐突に始まった。満面の笑顔が見えてきそうだ……じゃない。
「待て待て待て待て待て待て!」
 なんの準備も出来ていないのに! まぁ備えておくべきは覚悟だけで、つまりはなにも準備することはないはずだったのだが、流石にこうも急に事を進められると親方も焦りが、
『ぜろー』
「鉄拳制裁……ッ!」
 合図の終了と共に、親方は柱岩に必殺の拳をぶち込んだ。内側から炸裂するように柱岩が吹き飛ぶ。多少荒いものの、足場の確保が終わった。
「で、次は――」
 どうすればいい、と聞くまでもなかった。やるべきことは既に「上」から降ってきている。
 いつの間にか周囲の光景が屋内から屋外へと変わっていた。初人の家が消失したのだ。そのかわりというように、天井や屋根があった方向にはアダムスハンズ・ヴァストの手のひらがある。いままで支えていたものが急に消えたせいか、心なしか落ちる力にも勢いがついている。
「――ぬ、う、おおおおおッ!!」
 だから支えた。両掌を上に向けて、全力で踏ん張る。とっさに「支える」という発想が出てきたからいいものの、よくよく考えればこのサイズのモノを自分一人で支えるというのは、考えとしてそもそも選択肢に入る時点でおかしい。
「はは……っは! や、やったぞ……!」
 しかし見た目に反して重量はそこまで感じなかった。いや、それなりの重さは感じる。少なくとも気を抜けば自分は潰されてしまうという危機意識はある。だが、それを抜きにしてもアダムスハンズ・ヴァストが自分だけで止められるというのは、なんとも奇妙な感覚だった。
 ……少し軽すぎるな。
 これが「家」の情報を取り込んだ効果だとしても、少々行き過ぎだ。なんなら片手で支えることも出来そうだった。「家」が潰れそうだったときは、いままでは上から押さえつける力があったように思えるのに、いまではただ「落ちて」きているだけという、そんな印象だった。あるいは「上」でなにかあったのだろうかと勘繰った。
 となれば、この戦いの終わりは自分たちが考えている以上に早く決着がつくのかもしれない。
『ナイス親方! ばっちり似合ってるよ、それ!』
 支えながら考えを巡らせていると、暢気に笑うあかねが映るコンソールがバイザーに表示される。いやうん、ばっちりなのはいいんだけど。
「似合ってるってなにが」
『うん? ああまだ気付いてないの? ほら、鎧もマントもなくなったからシルエットにぴったりだよ、それ』
「……お、おおお」
 支えながら首を横に振って見ると、肩からマントのように風になびくものがあった。
 袖こそ通っていないが、立派な白いジャケットコートが確かに身に付けられている。
『家を親方用に編纂するって言ったでしょ』
「それがこのジャケットってことか……」
 家がジャケットになる時代か――メチャクチャだな。
『あの家がなくなっても、そのジャケットを着けてる限り、親方はいままで通り――ううん、いままで以上の加護を受け続ける。ワイズモンがパンドーラ・ダイアログまでフル活用して、過労でぶっ倒れるくらい頑張って作ったんだから、今度は人にあげたりしちゃだめだよ』
「あげないけどさぁ……」
 そこで、ガンクゥモンはようやく一息ついた状況を噛み締めながら長い溜息を吐く。
「……もーーーーちょっと説明欲しかったなワシ……!」
 この作戦自体に文句があるわけではないのだが。ここまで次から次へと状況が展開されるとガンクゥモンの処理速度をうわまわってオーバーヒートしてしまう。いつもこのノリに付き合わされるワイズモンとやらは本当にご苦労様だ。そんな風に未だ見ぬあかねのパートナーにひっそりと同情をよせた。
『あははーごめんごめん』
「いやいいんだけどさ上手くいったから。あ、でもこれもしかしなくてもワシ超無防備だよね!?」
 両掌が使えないなら、上はともかく下から登ってくるかもしれないアダムスハンズに対してはどうしようもないということに……。
『大丈夫だよ』
 といいますと。
『言ったでしょ、家の構成情報は親方を守るんだから。アダムスハンズ・ヴァストだけじゃなくて雑魚の攻撃にも無敵になるってこと』
「……ああ、なるほど」
 大小関係なく敵の攻撃に耐性ができたと考えれば手っ取り早いか。
『まぁ、柱岩が壊されたらどの道終わりだけど』
「だよなぁ!? 落ちるよなぁ!?」
『だから、できる限り親方はそこで目標の侵攻を阻止して。ちゃんとあなたの足場は守るからさ』
 あかねの顔はもう笑っていない。決意のこもった瞳がまっすぐこちらを見つめている。
『あとは私達ゲンナイが、なんとかする』
 少なくともいまこの瞬間、彼女の目が信じられるという点においては、ゲンナイと聖騎士の関係が複雑だとかそういった事情はどうでもよく思えた。だから、ガンクゥモンは上からの重圧で、額に汗を滲ませながらも歯を見せて笑ってやった。
「うむ、頼んだよ」
 いつの間にか、遠くで戦っていた他のゲンナイ二人も近付いている。見れば、遙か向こうの地平線まで埋め尽くしていたアダムスハンズの群れが、確実に数を減らしているのが分かった。
 ここまで状況が進めば、あとのことがどうなるかは、もう誰にもわからない。
 ガンクゥモンの根性が終わるのか。
 アダムスハンズ・ヴァストが完全に崩壊するのか。
 ゲンナイ達が力尽きるのか。
 アダムスハンズが世界を食い尽くすのか。
 あるいは。

     ●

「ただいま」
 背後からかけられる声に、ウォーグレイモンは振り向かざるを得なかった。そこにいるはずのない声だったからだ。蒼二才でも、チョーさんでもない。ガンクゥモンでもなく、耳障りなゲンナイ共でもなく、ましてやホメオスタシスですらない。
「出戻りとは感心しないな、シスタモン・ノワール」
 先程、涙を流して目の前で自ら命を絶ったはずの痴れ者がそこにいた。落ちる前となに一つ変わらない格好――それどころか、蒼白になっていた顔面はどこか晴れ晴れとした表情になっている。一体、この短時間で何があった。
「貴様の絶望はそこまで簡単に克服できるほど、やわな覚悟の上に築かれたものだったのか」
 さすがに苛立ちが来る。ここまで虚仮にされたのは初めてだと思った。妹のために、どちらの陣営にもなりきれずに失敗した彼女が落ちたときは、わずかながらの憐憫を覚えたというのに。
「ッハ。さすが、半端者はやることが違うな。たまには驚かせてくれる――なにしにきた」
 嫌味の一つでも言いたくなるのは当然だった。
「は。半端者は半端者らしく、半端にでも目標達成をしようと思っただけよ」
 しかし彼女はそれを一笑に付して、余裕の表情を見せる。まるでこちらを見下ろしているかのような態度で「世界を救いにきたの」――と。
「今更、貴様にできることがあるとは思えないが」
 安い挑発にまさか乗るまいと、ウォーグレイモンは淡々と言葉を返す。
 そう。すべては今更だ。
 彼女に手段はもう残されていない。
「切れるカードは切り尽くしたのだろう?」
 九文初人をこの世界に喚び出したことで、彼女に出来ることはすべて終了した。後の彼女はどちらの陣営に事が転ぶか、天運に委ねた傍観者でしかなかった。
「どうかしら? 案外カードを切ったのは、私じゃなくてアナタ自身かも知れないわね」
 自分自身? この私が? 言うに事欠いて説得に来たのではあるまいな、とウォーグレイモンは肩を竦めた。ここまで来て情に流され諭されるようなことはありえない。
 ウォーグレイモンが停止命令を出さない限り、アダムスハンズ・ヴァストは大地を砕くまで落下し続ける。それは揺るぎようもない事実だ。
 だがその確信に満ちた余裕はなんだ。なんなら、いますぐこの竜殺しで刻んでやろうかとも思うが、そこでウォーグレイモンは今一度冷静に考える。
 ……カードを切った?
 切るではなく、切ったと言った。過去形だ。つまり、彼女が言うにはすでにウォーグレイモンはなにか失敗を侵しているということで――。
「っ、貴様!」
 思考のピースがひとつに繋がった、そのわずか一瞬の隙だった。やられた。無警戒だった背後で、雷が落ちたような爆音が生まれたのだ。
 その闖入者に気付かなかったのは、完全にウォーグレイモンの失態だ。
 ノワールが身を投げたことで気が緩んだのか? どのように処理すべきかを懸念していたのは事実だ。彼女が視界から消えてから、肩の荷が一つ下りたと実感したのは間違いない。
 そして落ちたはずのノワールが、何食わぬ顔で目の前に現れたことに、少なからず動揺してしまったのも認めざるを得ない。
 彼女に気を取られてしまった――油断は疑いようもない事実だ。
 だが。まさか。いや。幾つもの枕詞が、ウォーグレイモンの頭の中を駆け巡る。
 どうして、アダムスハンズ・ヴァストの「核」が本体から抜け出るなんてことがあり得るのだろうか。
 目の前の光景は、すなわち彼の失敗を象徴していた。
 自分が立っているアダムスハンズ・ヴァストの頭部。そこに埋め込まれる形で存在していた本体制御用の核が、いまでは丸ごと宙に浮く形で本体から離脱していた。
「ッハ。どうして、か。今更だな――」
 答えは分かっている。紫色の核は、周りの重力波をかき集めた「グラヴィティ・フォース」と融合することで、すべての力のベクトルを真下へと変換していた。
 いわば「核」自体が巨大な「重し」の役割を果たしていた。
 しかしいまはその真逆だ。「核」自体のベクトルは上へと向かっているせいか、こうして見ているいまもなお、微速ではあるが浮上し続けている。このままでは核はネットの海に到達し、ひとつの「星」として機能しそうな勢いだ。
 こんな芸当、もう一度グラヴィティ・フォースを打ち込んでベクトルを操作する以外に方法はない。だとすれば。
「はあっ、はあっ、はあっ……や、やった……!」
 自分の真似を出来る存在が、近くにいると考えるのが正しい。
 振り返れば、核を挟んだ向こう側で小さな竜が口を大きく開けて荒い呼吸を繰り返していた。その疲労は緊張ゆえだろうが、しかし彼の黄金色の瞳は確かに力強く自分を睨み付けている。
「――飛べるのはさすがに意外だったぞ、三本角(ハックモン)」
 生きていたのは予想通りだとして、取り逃がしてから現在までの僅かな間に随分と風貌が変わっている。身に付けている白い鎧も赤いマントも、なるほどガンクゥモンが着けていたものと同一だろう。
 ……ガンクゥモンが下駄を履かせたということか。
 本来、聖騎士に贈られる鎧とマントがハックモンの元にあるということはそれ以外考えられない。
「まったく、見事なことだな」
 こういう形で自分が想定していた「最悪」が訪れるとは思ってもみなかった。やはりあのとき、ハックモンは確実に殺しておくべきだった。彼の姿を見て、懐かしさに躊躇ったことは否定しない。小さな失敗が積み重なって、起きるべくして起きた大きな失敗だ。
「お疲れ様、初人くん」
「ノワール、そいつから離れて!」
 二人のやりとりが、自分を無視して行われている。彼らにとって、もはやウォーグレイモンは「失敗した存在」にしか映っていないのだろう。しかしハックモンの方は、まだ冷静に事を見守っているのがよくわかった。
 ノワールはハックモンの警告通り、距離を取るように上空へと浮く。ハックモンは彼女を守るように、ウォーグレイモンとノワールの中間に位置取った。
「あなたの計画ももう終わりよ、ウォーグレイモン。諦めなさい」
「結局、自分一人じゃ何一つ事を成さなかった者がよく吼える」
 半端者が勝ち誇る様はとても無様だった。
 確かに、制御核がなくなったこのアダムスハンズ・ヴァストは、もはや形を保っていることはかなわない。やがて崩壊するのは明らかだった。
「でもあんたの負けだ! これでもう、この世界は助かった!」
 ハックモンの叫びに、ウォーグレイモンは深く頷く。
「ッハ、結果は重く受け止めよう。確かに『失敗』だよ」
 同じ技を使うハックモンがいる以上、もう隙の大きいグラヴィティ・フォースを打ち込むことはもはや許されない。ベクトルを更新したところで上書きされるのがオチだ。
 だが。
「失敗したが、負けは宣言していない。計画が終わったと思わないことだ――」
 その言葉に、ノワールとハックモンはすぐさま臨戦態勢に切り替わる。
 順応性が高いのは評価に値しよう。戦いにおいてその素直さは勝利に直結する。合流した急造コンビでアダムスハンズ・ヴァストを無力化する作戦の成否は、特にハックモンの物覚えのよさが大きく左右したのだとわかる。力の使い方を教えられ、すぐさまそれを実行できるのは「天才」と呼ばれる存在の特権だ。
 思えば、アグリーメント選抜においてハックモンを相手取ったときも、すぐにベビーフレイムを使いこなしていた。案外、かつての自分が三本角を倒せたのは偶然だったのかも知れない。
 しかしそれはそれ。
 これはこれだ。
「貴様達は素直すぎる――」
 その素直さは駆け引きという一点において命取りになる。
「勝ったと思ったその瞬間こそ、敗者が侵す最大の過ちだ」
 ノワールも、ハックモンも。素直だから、油断した。その油断は先程の自分が侵した失態とはまるで質が異なる。
 それを今から教えてやろう。
「――悪役が奥の手を隠しているのは常識だと、あの愚か者には教えられなかったのか」
 ウォーグレイモンは手の内で、自身が同胞に渡していたプログラムを遠隔起動する。
 それはすなわち、二人が持つ転送プログラムだ。
「ッ!?」
 二人の驚きは声になっていなかった。それもそのはずだ。
 いま、ウォーグレイモンの目の前には、転送されてきたノワールとハックモンが仲良く並んでいるのだから。

「お勉強の時間だ」

     ●

 ウォーグレイモンは両腕を大きく横に広げる。胸に刻まれた古傷から生み出すのは大きな顎(あぎと)だ。這い出るように噛みつくその「顎」は、先に吸収した蒼二才――メタルガルルモンの頭部によく似ている。
「――初人くんッ!」
 胸から生えた「顎」から助けようとしたのか、ノワールが慌ててハックモンの身体を突き飛ばす。
「ノワール!?」
 そして結果はすぐさま明らかになった。肥大化した「顎」がシスタモン・ノワールの身体ごと、上空に浮かんでいたアダムスハンズ・ヴァストの核を飲み込んだのだ。一緒に喰らうはずだったハックモンは、突き飛ばされたおかげで軌道から逸れていた。

     ●

「ウォーグレイモン……あんたノワールを……!」
「ヴ」
 ハッ■■ンが泣きそ■な顔で怒鳴って■る。それに皮肉で答■たいのは山々だ■たが、この「顎」を発動■た時点で、ウ■■グレイ■ンはすでにあらゆる■のを捨■ていた。
「――ヴ、」
 前々から決め■いた。アダ■■ハン■・ヴァ■トが失■に終わ■■とき、最後■使う駒は己自身■体だと。
「ヴ、ゥウウオオオオオオオオオオオオオッ!」
 最後の名を冠する者と成ることで、文字通りこの世界を終わらせるのだと。

     ●

 ……蒼二才。私もいま、すぐに逝く。
 薄れゆくウォーグレイモンの自我が、最後に明確に思考したのは。
 他でもない、唯一無二の友の名だった。

     ●

「そんな……」
 ゲンナイの「あかね」は絶句した。
 ネイチャースピリッツ上空に、巨大なデジタマの影が生まれたのだ。
 急いでパンドーラ・ダイアログを使って「中身」のデータ照合を行う。
「やっぱり。間違いない、生まれようとしてる」
 照合が完了すると、あかねは深くため息をついた。イグドラシルが観測する世界は数多あるが、このデジタル・モンスターが観測されるのはごく稀だ。
「超越合体種、オメガモン――第十五号観測個体が」
 そして、ネイチャースピリッツのネットの海にほど近い位置で、デジタマの殻が少しずつ破れていく。
 アグリーメントの英雄達――つまりこの事件の首謀者――以外、アダムスハンズ・ヴァストの手の甲から上は不可侵とされてきた。イグドラシルから観測することは出来ても、干渉することは叶わない。
 だから、ゲンナイとしてその問題に対処したくても、現場にいる九文初人と呼ばれていたデジタル・モンスターに任せるしかないのが情けなかった。あのオメガモンに対抗するならガンクゥモンの助けが欲しいが、いまはそれが出来る状況ではない。
 ならば下で戦っている他の二人をなんとか「上」に送り込むか――しかしそうするには方法が見つからないし、デコイの処理が止まることも問題だ。
 それこそこちらからイグドラシルを通して「本物」や他の聖騎士達を召喚することも考える。もしくは、タクトと名乗るホメオスタシス――アルファモンの干渉を期待するか。他にもいくつか対抗策をすぐさま脳内に列挙するが、そのどれも現実的ではなかった。
「本当に……情けない」
 なにがゲンナイだ。
 なにがイグドラシルだ。
 世界が一体のデジタル・モンスターのエゴによって壊されようとしているのに、いつも通り「選ばれし者」に任せることしか出来ない。
 自分達は、なんて無力だ。その悔しさに思わず歯ぎしりする。
 だが、その時だった。
「――――なんですって?」
 あかねは自分の目を疑った。
 デジタマの殻が完全になくなっているが、そこに立つ影は自分が想像していた姿とは似て非なる者だった。
 通常のオメガモンは、右手にメタルガルルモンの頭部。そして左手にウォーグレイモンの頭部がそれぞれ装備の意匠として顕れるはずだが、
「逆に、なってる」
 まるでオメガモンを鏡に映したかのように、そのデジタル・モンスターの腕は正逆だった。
 顔の形も違う。三本の角があしらわれた鎧兜。その隙間から覗く暗闇に浮かぶのは赤い瞳だった。そして、胸にはアダムスハンズ・ヴァストの紫色の核が嵌め込まれ、禍々しい闇色の輝きを放っている。
 その姿を見たあかねは、いつだったかにワイズモンから教えられた知識を思い出した。
 本来、ジョグレスや合体と呼ばれる二体のデジタル・モンスターが行う進化は、二体のデジコアが完全に融合した状態になる。だが、ごく稀に二体のデジコアを保有したまま誕生する「失敗」のケースがある、と。
 そうした非常に不安定な状態にあるデジタル・モンスターを指して、イグドラシルではいつしかこう呼ぶようになっていた。

 ――存在しえない者(カオスモン)と。

     ●

 幾千のアポカリプス U.R.L
-Ugly Rise Limitation.-
9/事の一端、それは終に至る混沌――了


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こんな掲示板にいられるか! 俺は自分の部屋に戻ってるぞ!!
と、死亡フラグをおっ立てながら書き続けて早三年。
どうもこんぬづわ中村です。
カオスモンて理論上どんな組み合わせでもなれるよなぁと思いついてずっとやりたかったのでようやくお披露目できました。嬉しい。
さていよいよ次回最終回です。エピローグ入れればあと二話。
ここまで長かったような短かったような……。
とまぁそんな感じなんですが、次を投稿する前に別の発表をするかもしれなかったりなんだり。
色々動いてるのでお楽しみにといったところでしょうか。
感想もどしどしお待ちしております。
それではまた。中村角煮でした。


スレッド記事表示 No.4665 幾千のアポカリプス U.R.L/9(上)中村角煮2016/08/06(土) 23:09
       No.4666 幾千のアポカリプス U.R.L/9(下)中村角煮2016/08/06(土) 23:14
       No.4667 世はまさに感想戦国時代夏P(ナッピー)2016/08/07(日) 06:29
       No.4669 天国と地獄が流れてる時のマリオ狐火2016/08/16(火) 16:31