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ID.4645
 
■投稿者:Ryuto  HOME MAIL
■投稿日:2016/05/08(日) 00:00
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幾千のアポカリプス 覚醒矛盾“5/少女と鎧皇”
         
「メタリフェクワガーモンが現れたわ」
 朱鳥はしばらくの間、ガントリークレーンの上でまどろんでいたが、有香の報告を聞いて跳び起きた。まさか、こんなに早く? しかも、彼女の所に?
「アンナちゃんは?」
「監視対象と一緒に戦ってるみたい」
 アンナと砂原拓人のことは、シールズドラモンが影から護衛していた。だがメタリフェクワガーモンが相手となれば、彼では力不足だろう。敵の捜索のため、メタルエンパイアの戦力を街全体に分散させたことが仇になったのか。
 朱鳥は立ち上がり、腰に付いた埃を払った。
「行ってくる」
「あなたがわざわざ?」
「アンナちゃんのピンチなのに待ってられないわ」
 有香はクスッと笑い、それから「気をつけて」と手を振った。有香はいつもと変わらないが、朱鳥は内心、穏やかではなかった。
 アンナに危機が迫っているから、だけではない。こんなに早く敵の方から接触してくるとは思わなかった。朱鳥は親指の爪を噛みながら、クレーンの下に広がる景色を眺める。
「ガイオウモン」
 呼びかけに応じ、半透明の身体を持つ、鎧を着た竜剣士が朱鳥の隣に現れる。彼は腕組みをしながら、仮面の奥の瞳で朱鳥を見つめた。
「雲行きが怪しいな」
「パラサイモンは何をしているのかしら?」
「奴はいつも表には現れん。今回も同じだろう」
「そうね……」
 メタルエンパイアの軍勢は強大であり、正面から激突して勝利できる勢力など、まず他には存在しない。つい最近、彼らと総力戦を行ったナイトメアソルジャーズは悲惨な最期を遂げた。だからこそ朱鳥もアンナも、正面以外から戦いを挑んでくる敵に警戒心を抱いていた。今回もそうなのか? 他に何か狙いがあるのか? いずれにせよ、戦場には出向かなければならない。少なくとも、アンナの目前の危機は今のうちに取り除く必要がある。それから、ついでに砂原拓人の安全確保も。
「準備はいい?」
「無論だ」
 彼女の身体を緑色の文字列が覆った。



●●5/少女と鎧皇●●



 照り付ける太陽、けたたましい蝉の鳴き声、身体に纏わりつく風、急速に近づくコンクリート。
 まぁ、この高さで落下するのなら骨折で済むのかもしれない。ただ、例えば脚の骨を折ったとして、ここまで交通量の多い道路のど真ん中から轢かれずに脱出できる気はあまりしない。一度目の死に方の方がまだマシだ。
 ガクッと身体が揺れて、やや落下スピードが落ちた。気のせいかと思ったが、さらに二回三回と身体に軽い衝撃が走る。自分の腕を掴んでいる女――そうだ、元々はこいつのせいで俺はこんなことになっているんだ――の、もう一方の腕が翼に変形していた。
 丘岬アンナの腕がもう一度空を掻くと、拓人の真下に大型トラックが見えた。二人はその荷台の上に落下した。
 拓人は何とか肺の中に酸素を流し込み、意識を取り戻した。アンナに文句を言ってやろうと思ったが、視界の中で小さくなっていく、さっきまで自分たちがいたマンションの屋上から上がる煙を見て考え直した。
 一緒に戦っていたシールズドラモンは無事だろうか? そう思った時、同じ車線で数十メートル後ろを走る小型トラックの荷台に、武装した竜人が着地するのが見えた。
 拓人の目の前で、アンナが立ち上がる。彼女の腕が人と同じものに戻った。拓人は何か違和感を覚えたが、それが何なのかは分からなかった。それに気にしている場合でもない。
「彼らは破綻者集団アンノウン。私たちメタルエンパイアの元下部組織で、今は敵よ」
「その“私たち”に、まさか俺は入ってないだろうな?」
 彼女はこの質問には答えなかった。
「アンノウンはリアルモーメントに出現してから、無数に分裂してたデジタル・モンスターの勢力を取り込んで組織を大きくしてきたわ。今リーダーをやってるのが、あのメタリフェクワガーモンよ」
「今?」
「何度も変わっているのよ。アンノウンはリーダーを始末したところで滅ばない。倒すべきは彼の後ろにいる」
 アンナはトラックの進行方向を眺め、口を真一文字に結んだ。拓人も彼女と同じを方向を見る。十体ほどの影がこちらに向かって飛んでくる。
「戦う準備をして」
 アンナはそう言いながら、吹きつける風を意にも介さず、荷台の前方に進んでいく。
「お前はどうする気だ?」
「運転手に協力をお願いしてくるわ」



 そのトラックの運転手は、助手席側の窓ガラスが突然叩き割られた時には、何とか悲鳴を堪えた。
 割られたドアの内側のロックが音もなく解除され、ポルターガイストでも起きているかのようにドアが開いた時すら、その様子を凝視しつつも声を上げなかった。
 が、さらにその数秒後、今まで誰も座っていなかった助手席に、緑色の数字が並んだ帯を纏った中学生くらいの少女の幽霊が現れた時は、さすがに絶叫せざるを得なかった。
 思わずハンドルから手を離しそうになるが、幽霊――それにしては、随分と形がはっきりとしているし、血色も良いし、脚もある――の右腕が素早く伸び、自分の手を押さえられる。このおかげで、車線から外れることはなかった。
「私のことは見えてる?」
 幽霊が鋭い目つきで訪ねてくる。運転手はこれ以上ないくらいの早さで首を何度も縦に振った。
「このトラックはどこに行くの?」
「お、お、おだ、おだい……」
「そう。これから高速に乗るまでは一度もブレーキを踏まずに走り続けて。いい?」
「は、は、は……」
「理解が早くて助かるわ」
 幽霊の身体の周囲に、またしてもどこからか現れた緑色の帯が舞っている。次は何が起きるんだ? 要求に応えると伝えたのに、俺は呪い殺されるのか?
「運が良ければ、あなたはもう二度と私の姿を見ずに済むわ。頼んだわよ」
 最後にそう言い残すと、少女の幽霊も、緑色の帯も消えた。助手席のドアがもう一度開いたが、すぐに閉じられた。
 運転手はしばらく目を瞬かせていたが、やがて正面を向いてハンドルを握り直した。
 どうしてこうなった?



 丘岬アンナが運転手との交渉を終えると、すぐさまシルフィーモンは再び戦場へと赴いた。前方に現れたデジタル・モンスターの大群は目前に迫っている。黄色と黒の縞模様を持つ胴体に、紫色の二対の羽、尾には赤い毒針。鮮やかで毒々しい体色を持つ昆虫型、フライモンの集団だった。
 シルフィーモンの背後には拓人がいた。この逆風のせいで直立できず姿勢を低くしているが、右腕はしっかりと構えている。
「おい、大丈夫なのか?」
 この質問にシルフィーモンは頷き、また正面を向いた。両肘を引き、膝を何度から上下させると、荷台を一度踏みしめてから一気に走り出す。シルフィーモンは運転席の天井を蹴り、そのまま跳躍した。

 標的が突然自分たちの方に向けて飛び出してきたことに反応し、フライモンの集団のうち二体は空中で停止して身体を内側に曲げ、尾の毒針をシルフィーモンに向けた。これは彼らの必殺技・デッドリースティングの発射態勢だったが、二体の技が放たれることはなかった。シルフィーモンの両腕が動いた瞬間、風の刃が彼らの上半身と下半身を切断したからだ。
 残りのフライモンたちは賢明にも攻撃態勢には移らず回避したが、その内の一体は場所が悪過ぎた。衝撃波に続いて跳んできたシルフィーモンの腕に翼を捕まれ、そのままの勢いで背中の上に登られる。挙動があまりにも速過ぎて、爪で敵の身体を捉えることにも失敗した。
 背中の上に重量を感じ、そのフライモンは身体を捻りながら滅茶苦茶に飛んだ。その間に背中の上から光弾が何発も放たれ、近くを飛ぶ同僚たちを次々と撃墜していく。彼には自分自身が被害を拡大していることに気づく余裕もなかった。



 質問に頷いただけで敵の真っただ中に飛び込んだかと思えば、要領よく敵を葬っていく。拓人は驚きを感じながら、シルフィーモンの動きを眺めていた。空中戦を続ける彼――あるいは、彼女――の動きはアクロバティックで、全く予測できない。無口だが、少なくともあのデジタル・モンスターは、口の悪い丘岬アンナよりは頼りになりそうだった。
 ズン、という音とともに荷台が少しだけ揺れ、拓人は慌てて振り返った。シールズドラモンだ。どうやら、後方を走るトラックの荷台からこちらに飛び乗ったらしい。
「よう、坊主」
「さっきの奴は死んだのか?」
「メタリフェクワガーモンか?」
 シールズドラモンは鼻を鳴らして笑った。
「あれで死んでくれたらどれだけ良かったか。それより……」
 シールズドラモンが、屋上での戦いで握っていたアーミーナイフを再び取り出す。刃を構えて彼が突進してきたので、拓人は思わず身構えた。が、シールズドラモンはそのまま彼の脇を通過し、気づかぬうちにすぐ近くまで迫っていたイビルモンを切り裂いた。
 拓人は腰を少し下げ、右腕を前に出して周囲を見渡した。一体、また一体と、荷台にイビルモンが着地する。彼らは気味の悪い笑みを浮かべながら、両腕の鋭い爪を見せびらかすようにこちらに向けていた。
 シールズドラモンはアーミーナイフを逆手に構え、死角を作らないよう拓人の背後に立った。徐々に近づいてくるイビルモンたちを一体ずつ視界に捉え……そして、彼のヘルメットに取り付けられたトランシーバーのシグナル音が周囲に響いた。
「……何だよ!」
 苛立たしげな表情を浮かべながら彼は通信を受け取った。拓人は不安を覚えながらイビルモンたちを眺めたが、幸いまだ彼らは飛びかかってこない。
「てめぇ、大事な時にどこ行ってんだ!?」
 向かい風に足を取られないよう気をつけながら、拓人はゆっくりとシールズドラモンのヘルメットに耳を近づけた。雑音の中、相手の声がわずかに聞こえた。
“苦戦しているな? お前らの姿、私にはよく見えるぞ”



 フライモンの背の上で敵をあらかた排除すると、シルフィーモンは自分を乗せている敵を見下ろしたが、悪条件でも周囲の音を拾う耳と、そこに取り付けられたレーダーが次の危険を察知した。
 両腕の翼を広げ、急いでフライモンの背中を飛び退くと、青白いレーザーがその場所を焼き、大きな穴を空けた。哀れなフライモンは地上に落下する直前、データの屑となって消滅する。
 シルフィーモンは空中で反転した。黒く巨大な身体と四つの眼を持つ悪魔竜・デビドラモンが宙に浮かんでいる。その背中には、先程マンションの屋上で相対した金色のデジタル・モンスターがいた。
「やぁ!」
 にこやかな表情で声を掛けてから、彼は片腕をシルフィーモンに向ける。それだけで五つの銃砲がシルフィーモンを射程に入れることになる。
 五本の白い光線が放たれ、シルフィーモンは空中で回避行動を取る。十分な距離があったことが幸いし、レーザーが彼女を直撃することは避けられた。最初だけは。
「まだだよ?」
 目標に直撃しなかった五本のレーザーは、さらに数十メートル進むと空中で軌道を変え、再びシルフィーモンに向かってきた。大きなカーブを描き戻ってくる光線に鳥人は息を呑むが、もう一度高く飛び、光線から距離を取ろうとした。
 地上から離れるよう高く飛び続けるも、レーザーとの距離が徐々に縮まっていく。このままではいつか命中する。シルフィーモンは一か八かの賭けをすることに決めた。
 空中で停止し、向かってくるレーザーの方を向く。五本の光線が激突する直前、シルフィーモンはきりもみ回転して急降下した。目標の動きに忠実に従おうとしたレーザーは束ねられ、まもなく爆発を起こした。
 シルフィーモンはそのまま、再びメタリフェクワガーモンの元へ向かう。彼の技・ホーミングレーザーは連射できる性質のものではない。第二射を放つ前に、彼を竜の背から地上へと叩き落としてやる。だが、近づくにつれ鮮明に見えてきたメタリフェクワガーモンの表情は笑いを浮かべていた。
「ふぅん、やはり君は一筋縄ではいかないね?」
 センサーが危険を捉え、シルフィーモンの耳元を輝く白い光線が掠めた。先程の爆発でも、この一本のレーザーだけは消失していなかったのだ。それは本来の目標であるはずのシルフィーモンを素通りし、地上へと向かっていく。
 レーザーは拓人たちの乗っているトラックを目指している。
「……!」
 他の手を考える余裕はなかった。シルフィーモンは方向転換し、レーザーの目指すトラックの荷台へと飛ぶ。自由落下の勢いも加え、更に加速する。地上に到達する直前に、シルフィーモンはレーザーの速度に到達し、自ら激突した。
 雷撃に撃たれたような鋭い痛みを感じ、シルフィーモンは拓人の目の前に落下した。コンテナが衝撃で揺れ、イビルモンたちが不快な笑い声を上げた。
「お、おい!?」
 シルフィーモンの身体に数字の帯が纏わりつき、丘岬アンナの姿に戻る。彼女は歯を食いしばりながら身体を動かそうとするが、ダメージが残っているのか立ち上がることができないようだった。
「アンナ!」
 シールズドラモンが彼女に駆け寄ろうとするのと同時に、イビルモンたちも動いた。彼の実力なら、彼らを取り囲む四体には対抗できるかもしれない。だが、拓人の視界には、黒い竜の背中に乗り、空中から指先を自分たちの方向に向けるメタリフェクワガーモンの姿も見えた。飛び道具がない以上、あれには対処できない。
 乾いた音が聞こえ、拓人は自分かアンナか、もしくはシールズドラモンがレーザーに撃ち抜かれたと思った。痛みを感じないのも、ドーパミンだのアドレナリンだの、その類の効果に違いない。上空にいる黒い竜が呻きながら空中で身を捩っているのが見えて、ようやく自分たちが撃たれていないことに気づいた。
 竜の腹部からは血が流れ、メタリフェクワガーモンは落下しないよう、両腕でデビトラモンの翼に掴みかかっている。イビルモンたちはボスがどこから攻撃されたのか分からず周囲を見回していたが、まもなく彼らも撃ち抜かれ、荷台から転がり落ちて消滅した。
「リボルモン!」
 シールズドラモンの声で、ようやく狙撃手がどこにいるのか分かった。頭上を通過した高架橋に、カウボーイハットを被り、二丁の拳銃を構えたデジタル・モンスターが乗っている。シールズドラモン同様、こちらにも見覚えがある。
「降りてこい!」
 シールズドラモンがそう叫んだ頃には、リボルモンは橋から飛び降り、荷台に着地していた。
「ふふん、見てくれたかな? 私のスマートな活躍を」
 リボルモンは両手でガンスピンを披露しながら拓人たちの元にやってきたが、右手の拳銃をホルスターに収め損ない、危うく落としかけた。シールズドラモンは無表情だった。



「アンノウンはきっとまだいるわ」
 よろめきながらも、アンナはすぐに立ち上がった。シールズドラモンが肩を貸すと、彼女は呼吸を整えてから周りを見る。
「メタリフェクワガーモンがいるんだから、これだけでは終わらない」
「その通り」
 ズン、という音と振動。荷台の後方に金色のデジタル・モンスターが着地する。その上、彼の周囲に数体のイビルモンが舞い降りた。
「メタルエンパイアの丘岬アンナももう終わりだね。この際だ、命乞いしてみてはどうかな? 考えてやらんこともない」
「パラサイモンの操り人形にそんな権限があるのかしら?」
「適当な推測でものを言うのはよしてくれ。我様はアンノウンの全権を委任されているのだよ。つまり君を殺すのも自由なのだ」
「それは無理ね。あんたじゃ私は殺せないわ」
 アンナの片腕がシルフィーモンのものに変化する。拓人が視線を降ろすと、その腕には傷があり、微かに震えていた。彼女の表情はいつも通りだが、やはりダメージがあるらしい。
「そうかな? イビルモン!」
 この言葉が戦闘再開の合図となった。けたたましい声を上げ、毛むくじゃらの悪魔たちが飛びかかってくる。シールズドラモンは姿勢を低くして突進し、リボルモンは拳銃を再び構えた。最初に飛びかかってきた二体のイビルモンはリボルモンに身体を撃ち抜かれ、続けて迫ってきた三体は攻撃する前にシールズドラモンによって足を切断された。
「三体仕留めた!」
「遅いね、私はもう六体だ」
「さっきの奴らをカウントすんじゃねぇ!」
 アンナが周囲を見渡すと、進行方向に緑色の四角い標識が小さく見えた。間もなく高速道路だ。さすがに時速百キロが当たり前の道路に拓人を連れていくわけにはいかない。だがまずは、視界の中で増えていくイビルモンとフライモンをどうにかしなければいけない。
 遠距離から毒針を放とうとするフライモンを、一体ずつ手から放つ光弾で仕留めていく。飛びかかってくるイビルモンにも放ったが、こちらは運悪く外した。悪魔は笑みを浮かべて爪を閃かせたが、すんでのところで紫色の太い腕が彼を殴り飛ばした。
「撃ち落とし続けろ!」
 拓人の声を聞き、アンナはシルフィーモンの腕を構え直す。遠距離のフライモンはアンナが、近づくイビルモンは拓人が一体ずつ仕留める。二人の背後では、シールズドラモンとリボルモンが、互いに数をカウントしながら近づく敵を倒していく。
「八体!」
「十体!」
「嘘つけ、九だろ! 今の奴は落ちて死ん……うおっ!?」
 荷台が今までで一番激しく揺れ、どこからか、とても近い場所から黒煙が上がる。何かが砕ける音がして、シールズドラモンは揺れの原因に気づいた。メタリフェクワガーモンが指先を自分たちの足元に向けている。彼はホーミングレーザーで荷台そのものを撃ったのだ。
「!?」
 拓人と、彼と格闘していたイビルモンが転倒し、荷台の上を転がった。拓人は荷台の縁に右腕で取り付き落下を伏せいだが、さっきまで目の前にいたイビルモンは憐れにも眼下のアスファルトに叩きつけられた。
「っ……ぐ……!」
 激しい風圧と自分自身の体重が、右腕を荷台から引き剥がそうとする。左手と両足を掻いても、他に捕まることができそうな場所はない。
「こっち!」
 声を掛けられ、拓人が荷台を見上げる。空中に浮かぶ最後のフライモンを撃墜したアンナが、自分に向かって手を差し伸べていた。
 力を振り絞り、拓人は左腕を伸ばす。アンナはシルフィーモンの左手で荷台の縁を握りながら、人間の右手で拓人の手首を掴んだ。
「くぅ……っ!」
「……!」
 苦心して、ようやく身体を荷台の上へと戻す。だが、そこまでだった。周囲には既に大量のイビルモンがいる。シールズドラモンとリボルモンも、これ以上の抵抗は厳しいと考えたのか、アンナと拓人の元に後退していた。
「それで?」
 ようやく立ち上がった拓人とアンナに、メタリフェクワガーモンが声をかけた。
「終わりかな?」
 メタリフェクワガーモンの両腕が伸び、アンナに銃口が向けられる。イビルモンたちが爪を構える。
 アンナは交通情報が表示された電光掲示板が頭上を通過したのを見て、ため息をついた。それから、拓人がなんとか聞き取れるほど小さな声で呟いた。
「朱鳥さん、そろそろ出番がなくなってしまいますよ」
 電光掲示板の上から、何かが降り立った。
 まず、アンナに最も近い位置に立っていた二体のイビルモンが両断された。それから拓人の後ろにいた二体、シールズドラモンとリボルモンの両脇に立っていた四体の身体が切り裂かれる。このうち最後の一体は、切断された上半身がメタリフェクワガーモンの方に飛び、彼の腕に激突してレーザーの発射を止めさせた。
 拓人は、自分たちとメタリフェクワガーモンの間に立つデジタル・モンスターを、全てのイビルモンが絶命した後にようやく視認した。日光を反射し鈍く輝く甲冑と仮面、その後ろから伸びた白髪、そして両腕に握る奇妙な形の刀。空宙朱鳥に憑依した、あの竜人型のデジタル・モンスターだった。
「ガイオウモン。君も久々だな」
 メタリフェクワガーモンの声は、先程よりも明らかに曇っていた。
「貴様の喜ぶ顔が見たくてな」
 竜人の低い声。メタリフェクワガーモンは軽い笑い声を上げてから、両腕の銃口を光らせた。レーザーを放っていた銃口から、今度は彼の頭部とよく似た光の刃・エミットブレイドが伸びる。
「奇遇だな! 我様は君の死に顔を拝みたいと思っていたところだ!」
 ガイオウモンとメタリフェクワガーモンは同時に二歩、三歩とゆっくり近づき、それから一気に切り結んだ。



 二体の戦いを拓人は呆然として見守った。シールズドラモンもリボルモンも言葉を発しようとはしない。アンナでさえ、荒い呼吸をしながら彼らを見つめることしかできなかった。
 二体の動きは信じられないほど速い。ガイオウモンは、自らの身長の半分ほどもある巨大な二本の刀・菊燐を手足のように動かし、金色のデジタル・モンスターの身体に切りかかっていた。どの攻撃も全く別の角度で、全く違う部位を狙う。だが、その動きに対応するメタリフェクワガーモンの動きも速かった。
 しばらくの間、この戦いはどちらが優勢なのか、拓人には分からなかった。転機が訪れたのは、ガイオウモンが菊燐を振り上げた瞬間にメタリフェクワガーモンがその脇を通過し、彼の背後に回った時だった。
 メタリフェクワガーモンが右手のエミットブレイドを光らせ、彼の背中に切りかかる。ガイオウモンは自らが反転したのでは間に合わないことに気づいたのか、振り返らずに右手の刀を背中に回して攻撃を受け止めた。そしてそれを弾きながら反転したものの、メタリフェクワガーモンはさらに左の刃を突き出し、ガイオウモンを後退させた。
 前進しながらメタリフェクワガーモンはなおも刃を振るう。竜人の右の刀を突き上げ、彼の構えを崩す。二本の光の刃を、ガイオウモンは左の刀で受け止めた。
 次の攻撃でガイオウモンは殺される、拓人はそう思った。メタリフェクワガーモンもそう確信したに違いない。だが、アンナは拓人が見ているガイオウモンの左の菊燐ではなく、構えを解かれて弾かれた右の菊燐と、それを握る手を見ていた。
 ガイオウモンは弾かれた菊燐の柄から一瞬だけ手を放した。それは慣性に従い空中で回転したものの、ガイオウモンの指が柄に再び触れ、彼の望むままに制御される。ガイオウモンは――リボルモンのガンスピンよりも遥かに手慣れた動きで――右の菊燐を逆手で握り直し、前傾姿勢になっているメタリフェクワガーモンへ振り上げた。
 メタリフェクワガーモンの左手から伸びる刃が消え、切断された腕が道路の上へと落ちた。
「ぬっ……!」
 メタリフェクワガーモンはたまらず、ガイオウモンの脇を再び抜けて次の攻撃を避けた。だが菊燐の追撃が続き、エミットブレイドで受け止めることが不可能になると、ついにバランスを崩して転倒した。正面にはそびえ立つ竜人。左右と背後は動き続ける景色と、アスファルトの道路のみ。
「ネイチャースピリッツの小役人をしていた頃よりは腕を上げたな」
 ガイオウモンはメタリフェクワガーモンの眼前に刃を突き出した。メタリフェクワガーモンはよろつきながらも立ち上がる。
「何か言い残すことはあるか?」
「君に直接手を下せなかったのは残念だ」
 徐々に、周囲の景色の動く速度が遅くなってきた。拓人が背後を見ると、高速道路の料金所が近づいていた。この場に留まっていられるのもここまでだろう。
「それは次の機会に取っておくとしよう」
 その言葉を最後に、メタリフェクワガーモンが荷台から落下する。どこへ落ちたのかを確認する必要はなかった。眼下から突如として現れ、飛び去っていく黒い竜の背に、金色のデジタル・モンスターが乗っているのが見えたからだ。
 止めを刺すことは敵わなかったが、ともあれ脅威は去った。体の力が抜け、拓人はその場にしゃがみ込んだ。
 ガイオウモンは安全を確認するとすぐに振り返って歩き始め、拓人とアンナの横を通過した。そして車両側の端まで移動すると、車両と荷台を繋ぐジョイントを切断する。身軽になったトラックは料金所を通過すると――心なしか、逃げるように――走り去っていった。
「……ありがとう。助かったわ」
 アンナが声を掛けると、ガイオウモンは振り返ってアンナに頷き返した。
「油断も隙も無い奴だ」
「でも、また奴は現れるわ」
「そうだろうな」
 既に悪魔竜の姿もなく、料金所に取り残されたトラックの荷台は渋滞の原因になりかねなかった。この場所からは早く去った方が良さそうだ。
「……ねぇ。ところで」
「俺は少し休むぞ」
「もう少し待ってくれない? 彼女を出すのは……」
「休む」
 竜人の身体が緑色の帯で覆われていくのを見て、アンナは身構えた。ガイオウモンには、戦闘後ももう少し協力的になって欲しいと思う。
「――アンナちゃああぁぁぁん! 大丈夫だったあああ!?」
 デジタル・モンスターと媒介が入れ替わり、破顔した朱鳥がアンナに飛びかかる。予めそれを予測していたアンナがひらりと躱す。
「うぐおっ!?」
 鈍い音が響き、アンナは顔から荷台に激突した。引きつった表情でそれを眺める拓人を見て、アンナは溜め息をついた。


スレッド記事表示 No.4645 幾千のアポカリプス 覚醒矛盾“5/少女と鎧皇”Ryuto2016/05/08(日) 00:00
       No.4646 4話感想返信Ryuto2016/05/08(日) 03:38
       No.4647 感想スイッチオン夏P(ナッピー)2016/05/08(日) 23:14