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ID.4961
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/04/18(水) 22:22
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それは悪魔の様に黒く 六話 一
         
世莉は回収されていくプリントを眺めてはぁとため息を吐いた。

回収された数学の小テスト、最後の問いの解答を書く時間は足りず、そもそも使った計算式が合ってるかさえ自信がない。

世莉達の担当の数学の教師はテスト前の一夜漬けが嫌いだと公言していて頻繁に小テストを行う。それがわかっているから世莉は亜里沙や竜美にちょこちょこ教えてもらう。

小テストの最終問題はなかなか解けないだろう思いつけば世莉でもちゃんと解けるが時間的に難しいような問題を置いていて、解けなくてもそれほど影響はないという噂もあったが解きたいと世莉は思っていた。

不完全燃焼のままに授業が終わる。

そうして昼休みになって、いつものようにお昼を食べようとした世莉の携帯に委員長からメッセージが届いた。

お昼一緒にしてもいいかな?少し話したいことがあるんだ。

嫌な予感がしたが世莉はそれを感じなかった事にした。行かないというのはできなくもないが嫌な予感がするならば好転させるためになおさらの事向かうべきだ。

その時に問題になるのは面子である。デジモンの話を知ってる側ならば二人でお昼を食べていたとしてもある程度の理解は得られるだろうが知らない生徒から見たら示し合わせて男女が二人で食事を取る。完全に色恋沙汰に巻き込まれる。

場合によってはデジモンも関わっての色恋沙汰になる。レディーデビモンは弱い完全体ではない。ただ戦闘に特化した完全体には勝てない事が多いだろう。

レディーデビモンがどんな奴でも腕一本犠牲にしていいなら勝てるしとふて腐れたように呟くが腕一本犠牲にするなら逃げ出すべきだと世莉は思った。

他に誰がいるの?

そう世莉が返すと、特には考えてなかったけどマズイかな。と返ってくる。

なら葵くんと白河さんを呼んでもいい?と世莉が返すといいよという返事と場所として屋上が指定された。

竜美に来たメールから聖のアドレスはわかっていたし、どちらもすぐに了承した。

屋上は鍵がかかっているが電子錠でデジモンがいるならば開けるのは容易い。そしてデジモン達が隠れられる場所もないから盗み聞きもあまり考えなくていい。特に聖を巻き込んだことは大きい、屋上を伺う不審なデジモンがいれば聖の味方の目の数が存分に機能する。

世莉が葵を巻き込んだのも一応世莉なりの理由があった。葵と委員長は少しだけいじめの件で意見が対立したところがある。世莉がほぼ前に出たとはいえ委員長との関係がこの学校でのデジモン関係の安全に直結すると思えば委員長がどう考えているかを引き出してあわよくば親密にさせておくのが安全だ。

ひいては自分の立場をよくすることにもなるかもしれないからそういう布石だと世莉は考えた。

亜里沙に委員長に誘われたことと葵にも来てもらうことだけ告げて世莉は葵のクラスに寄ってから屋上に向かった。

葵が先に扉を開けるとすでに聖と委員長はいて一見穏やかに話しているようだった。

「私も、黒木さんの話は聞いてみたかったんだ。デジモンの姿だけで判断するのはやっぱりいけないかなって……」

悪魔のデジモン付けてる人にホームから落とされかけた事があってつい偏見入っちゃったと聖は笑っていた。

委員長が世莉に小さく手を振ると今二人に気づいたというように聖も顔を向けた。委員長に向けていたのとそう変わらない笑顔だった。

「……で、委員長。話って何?」

世莉がそこに座るやいなやそう言うと場の空気が張り詰めたのがわかる。それぞれに付いているデジモン達が普通の人間に見える姿こそ表さないものの牽制しあっている。世莉にだけ見える景色だ。

「白河さん達が昨日やったことを聞いてさ。黒木さんも白河さんの方針に同意したって聞いたから、少し話だけしたくて……今の状況をどう思ってるか、とかこれから自分が動かせるとしたらどうするかみたいなことをね」

その方針次第では僕はきっとと委員長は少し悲しそうな顔を一瞬させてからまた普通の顔に戻った。

「……委員長は?」

「僕は自警団の様なものを作りたい。今回の顛末を聞いて僕一人でできることの少なさを感じたから……」

委員長の視線は一度手元のサンドイッチに落とされ、それから世莉の手元に向かった。

協力して欲しい、そう言っている様にも思えて世莉は返事に困った。良いとは言い難い、そうしたら協力する方になってしまうかもしれない。悪いとも言い難い、実際自分だって被害にあったかもしれないからそうした存在は心強さもある。

「そういうのは素敵だよね」

代わりに答えたのは聖だった。

「私だってやりたくてああいう事をしてないからさ。ただ、私達が対処しなきゃいけなかったからやっただけだもんね、そういうのを委員長が人集めてやってくれるなら嬉しいな」

自分はやらない。自分のところにある人達も参加させない。そう言っている様だった。

その反応はある程度委員長も予想していたらしく、黒木さんはと世莉の答えを促した。

「自警団みたいなのがあれば多少は被害も減るとは思うけど」

世莉も聖に習って直接言葉にするのは避けた。

恨みも買うだろうし、委員長と自分の結びつきを強めるのも困る。避けることは自分の安全につながる。世莉はそう考えた。

「あの、それは僕でも手伝えるかな……?」

葵の言葉に少し委員長は驚き喜び躊躇った。葵がいじめられていた側だったのはわかっている。わかっているからやりすぎないかが不安になった。すでにやりすぎた前例もあり、これから同じことがないと信じるのは少し難しいことだった。

聖には世莉が少し不安を覚えていたのが見えた。葵が今度こそはと不安を押し殺して進もうとしていること見えた。世莉には葵が勇気を出して口に出したことしかわからなかった。

「……大丈夫なの?」

レディーデビモンがネオデビモンにそう聞くとネオデビモンは黙って一つ頷いた。それ以上レディーデビモンは追求しなかった。

委員長と葵が連絡先を交換し、ある程度思惑通りになったのにもやっとしたまま世莉はご飯を少し大きく口に頬張った。

「委員長の次は私だよね。私は今までと変わらず、可能な限り誰かの為にその幸せの為に頑張りたいって感じかな」

恥ずかしげもなく聖は言い切る。誰かの為にその幸せの為に、頑張りたいと言葉を柔らかく言い換えたがこれはデジモンがいて犯罪の様なことをするものもいる状況での話。

今まで通り場合によっては被害が増えるのも見過ごして、実質的な黒幕をあえて放っておくのも厭わない。盗聴でも盗撮でもクラッキングでもなんでもやるつもりだということ。

「じゃあ最後は黒木さんかな?」

聖の言葉に世莉は返答に困った。世莉には特に何もない。今したいことは思いつかない。これからしたいことも思いつかない。今の状況や巻き込まれること、ゲートのことなどを不安には思っているがそれだけだ。

「……まぁ、色々と不安にはなるけども平穏無事に過ごしたいって感じかな」

「黒木さんは嘘つきだね」

聖は笑顔を微塵も崩さず本当に小さな声でそう言った。

「聞こえてるよね、黒木さんだけは。委員長のは肉体を強化する様な類みたいだけど感覚器には関係ないし」

確かにそれは世莉にだけ聞こえていた。デジモン達の側にも身長の分距離があって声が届かない。

「返事はしなくていいよ。私には見えるから」

委員長がその為にも頑張るよなんてことを言っているのに頷いたりなんかをしながらも聖は言葉を続ける。

世莉には嘘をついたつもりはなかった。正直に思ったことを言っただけだと思っていた。

「まぁそれはそれとして、お願いがあるんだけどいいかな?」

世莉は表情に反応が出てもいい様に咄嗟におかずを口に含んで口元を手で隠した。

「少し気になる子がいるんだ。デジモンが付いていて変な動きをしていてら一人をずっと追ってたりするらしいから片想いかなにかかとも思ったんだけど、どうも送られてきた動画を見る限りだと表情が噛み合わないから調べたいんだよね。詳細はメールするね?」

世莉は探偵でもないし、レディーデビモンは調査に向いたデジモンというわけでもない。なぜ自分にという思いと共に自分ではできないだろうと、根拠なく自信がなかった。

はそれっきり普通の会話に戻って世莉だけに小声を向けることはなく、世莉もなにも言えないままに昼休みは終わる。

聖から授業中に送られてきた長文メールには断る選択肢を与えるつもりはない様だった。

生徒の名前は剣崎 縁。身長体重や3サイズに住所電話番号までもメールで送られてきが世莉は極力見なかったことにしようとした。

添付された写真を見ると大人しそうな雰囲気と頼りなさそうな感じと小動物の様な怯えが見えた。付いているデジモンもどことなく小柄で白い猫のような生き物が立って部分的に鎧を着たような、そんなおもちゃかぬいぐるみのような可愛らしい外見をしていた。

見たからと言って世莉はやる気なんてない。やる気なんてなかったがすぐにやらざるを得なくなった。

放課後、さて帰ろうかと世莉がゆっくりと片付けをしていると縁が入り口にいるのが見えた。

「あ、あのー、黒木さん……」

か細い声はとても世莉のところまで普通は届いたものではなかったが世莉は聞き取れてしまった。

あまり人を呼ぶということをしないだろう事想像に難くなく、そうした人が声を張りあげることも、慣れないクラスに入ることのハードルが高いこともまた世莉は想像できてしまった。

「……どうする?」

「……とりあえず話を聞く」

世莉が教室の入り口のところに行くと縁は世莉に対して口を開こうとしたが目が合うと一瞬体を跳ねさせて俯いた。

「一応、話は聞いてるから……大丈夫大丈夫」

世莉の一挙一動にびくりと反応するその姿に自分の目つきの悪さを恨むしかできないでいると世莉の服をくいくいと帰る準備をしていたはずの亜里沙が引いた。

「あの、大丈夫……?」

亜里沙の言葉に縁がそっちを向いてまたびくっと体を跳ねさせた。両目を前髪で覆った亜里沙が奇怪に見えたらしい。

これは難しいと世莉が頬をかいていると、ふと縁の肩を後ろから叩かれた。

「……だからあたしも行くって言ったのに」

「で、でも……」

「はいはい、内容はあたしには言えないのよね?」

「う、うぅ……」

「大丈夫大丈夫、気にしてないから。白河さんにお願いしたのは私だし私に言えないのはともかく相談乗ってくれる人に言えなかったらどうにもなんないでしょ?」

「あ、う、手紙を……」

世莉からも、友達らしいその女子にはデジモンが付いているようには見えなかった。デジモンが隠れていればその限りではないが、言えないという事情を考えるとおそらくいないのだろうと考えた。

縁が鞄から手紙を出して亜里沙に渡す。世莉よりはまだとっつきやすかったのだろう、よくあることだった。

手紙を受け渡すのを確認して去って行く友達に小さく縁は手を振る。それが終わってから話しかけた。

「とりあえず場所変えようか。ファミレスでいい?」

「あ、だったら、その……あの、いい場所……あり、ます」





小さい頃、アニメを見て怖くなった話が彼にはあった。

ある帽子を被ると誰にも気にされなくなる。いたずらをし放題である一方で、水をかけてきた人もぶつかった人も誰もその帽子を被った彼に気づいてくれなくなる。その帽子が抜けなくなってもう誰からも気にされないのだと泣くが、最後にはその帽子は脱げる。

彼は、その時の自分が羨ましく思う。その時の彼にとって他人との関わりは基本的に嬉しいことでありがたいことで無くなると困ることだったからそう思ったわけだ。そう思えたのが羨ましかった。

彼は自分の鞄の中のお面に手をかけた。濡らした新聞紙を重ねて乾かし色を塗った子供でも作れるようなお面。そのお面は笑っている。

なぜ笑ってるか、笑いたいからだ。自分が、笑いたいから、笑えるようにありたいから。

最近の彼は不幸だと自分を考えていた。廊下を歩けば肩をぶつけられ、なぜか何もないところで転ぶ。テスト中に限って消しゴムがなくなったり、朝持って来た傘はなぜか骨が折れていたりする。

「もう嫌だ」

彼がそう呟くのは不幸な目に遭っているから、そうではあるがそうではない。

自分がもう嫌なのだ。

一年の頃はまだ誰かに優しくあろうと思えた。周りの誰かを人として見られていた。いつからか人の嫌なところばかり目につくようになり、ついに最近、他人そのものに無関心になり始めた。

薄情という言葉が自分を表す為にあるかのように思えた。自分自身のことには感情的になれるのに他人の事には無関心にしかなれない。

筋肉をつけるとポジティブになるというから筋トレを始めてみた。筋肉は少しずつついてきたがついてきただけだった。

顔を隠す事で大胆になった人が変わると聞いたからお面を作ってつけてみた。つけても自分は自分だった。

自分が嫌になっていく。

帽子の話で彼が怖かったのは誰からも気づかれない事だけではない。その帽子はら見えているのに無関心にするもの、アニメの中の人達は見えているのに手を差し伸べることもしなかった。それが帽子の効果によるものとはいえ。

それが怖い。他人への無関心が誰かを傷つけてしまうことが怖い。誰かの痛みを見て見ぬふりどころではなく見えているのに気づきもしないそんな存在になりたくない。

そんな自分から変われない自分も嫌だ。嘆くしかなく、行動は実を結ばず、だけどどう解決したらいいのかも分からず、ただただ嘆いてもがくしかない。

なりたいものも彼はわかっていなかった。

自分でないもの、より良いもの、変わりたいと願い行動はできるのにその先が決まらないから方法がわからない。誰に聞けばいいのかもわからない。

彼を追い詰める世界と彼しか彼の世界にはいなかった。頼れる誰かなんてものは彼の頭には浮かんでは来ない。

「誰か教えてくれよ……」

ボソボソと堪えきれない思いが口から漏れ出る。

あの人独り言呟いてたよ、え、キモい怖い、もう一個奥の車両乗ろ?

聞こえてくる言葉にも驚く程に無関心で、まるで路上で干からびたミミズを見るようなそんな目でしか見られない。人として見られていない、それがさらに彼を傷つける。

変わりたい、変わりたい、変わりたい、考えは繰り返されて彼の頭の中を埋め尽くし、前が見えなくなった彼はどんと肩をぶつけてしまった。

「あ、ごめんなさい……」

「すみません……」

やたら大きな女子だった。同じ高校の制服を着ていた。

ぶつかった女子である竜美は不思議に思って、頭の中のローダレオモンに話しかけた。

今の人、当たるはずがなかったのにぶつかった。確かに距離は空いていたのに。

竜美の見える距離ではわざわざぶつかりに行かないとぶつからないような距離だった。

ローダーレオモンからの返事はなく、寝ているのだと判断して竜美は首を傾げたまま電車に乗る。発車すると、扉の前に立っていた男子の鞄がドアに挟まっていたのが見えた。その姿はついさっき見たばかり。

竜美の目で見て身長も横幅もパーツの長さも一致する。さっきぶつかった男子だ。

「……あの、大丈夫?」

結構ガッツリと挟まってしまった鞄は全然取れないようで、大丈夫と返事しながら男子はビクともしない鞄を引っ張っていた。

「あの、一回だけでいいから私にやらせて」

竜美の身長はその男子より高く、その男子が鞄から手を離す。代わりにバッグを掴む。

頭の中のローダレオモンにうるさいぐらいに話しかけると、すっと爪の先だけ出現させてドアの間に挟んでほんの少しこじ開け、竜美が引っ張り出すともう起こさないで欲しいとだけ言ってまた返事しなくなった。

「ありがとう、同じ、学年……だよね」

見たことがあるというその男子に、竜美も確かに見たことがある気がすると思って記憶を遡る。身長と顔のパーツの位置が一致する誰かが確かに教室前の廊下を歩いていたのを思い出した。

「あ、多分」

「あ、やっぱり」

互いに何を話したらいいのかわからず、気まずい沈黙だけが残る。二駅ほど行くとその男子は本当にありがとうと言って電車から降りた。

少し寝ぼけ眼のローダーレオモンだけが彼の背中につくその紫色の固まりを見ていた。

ID.4962
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/04/18(水) 22:27


それは悪魔の様に黒く 六話 二
縁に世莉達が付いて行くと縁はよく言えばレトロな悪く言えば古臭い個人経営らしい喫茶店に入った。

本当は世莉は亜里沙には来て欲しくなかったが亜里沙は当然とばかりに付いて来ていたし縁の反応からも亜里沙が必要に思えた。断るにしてもそもそも話を聞くことすらままならない。

「……いらっしゃい、縁ちゃん。いつもの奥の席かな?」

こくこくと縁は頷いて喫茶店の奥の区切られた一角に向かう。それぞれの間もきっちり区切られた二つあるボックス席の片方に縁は入って行く。ちらりともう片方の席に帽子に包帯、コートを着た大柄にも程があるだろうという男がいたが世莉は無視した。

壁に貼ってあるチラシに当店のキャラクターとしてその包帯男が書いてあり、探偵であるという事を示すいくつかの設定と簡単なお悩みなら本当に乗りますという文言があった。

レディーデビモン達はそれがデジモンであると気づいたが互いに一瞥するだけにした。

「えっと、その……あの、その、隣の席の人達は……」

世莉がよく耳を澄ますと隣の席でコーヒーをすする音が二つ聞こえてきた。見えないのに人達と言っている辺り縁が使う時にもいつもいるのだろう。

「さ、最初は、その、向こうに、お願いしようと……えと、思ったんですけど、男子だし、スパーダモンよりすごく強いみたいで、それで……話しかける勇気もなくて、もじもじしてたら、ゆうちゃんが白河さんに相談して……」

ゆうちゃんはとてもいい子で二学期のはじめの席替えで隣になってとか、隣の席の人達も悪い人ではないんだと思うんですけど歯がギザギザしててとか要領の得ない説明を聞きながら世莉は手紙に目を通す。

人の話を聞く時に目を合わせるのは基本だと言うが目を合わせない方が気が楽な事もある。木のテーブルだがよく磨かれていることもあり反射で世莉には表情もわかるし、聞き逃すこともない。

この喫茶店は喫煙席もないらしくコーヒーの香りと木の香りばかりで世莉にも落ち着けた。

手紙の内容もあまり要領を得たものではなく、話すことも簡潔にまとめることも苦手なんだなと思ったが、それでもざっくりと世莉は把握した。

「クラスの中でデジモンを使ったいじめが行われているようなされていないようなよくわからない状況であると」

世莉が言うとこくこくと縁は頷いて一つの動画を見せて来た。どうやら廊下で前を歩く人を撮ったものらしい。

前を歩く男子は見るからに暗かった。猫背で世の中を呪っている様な雰囲気があった。その背中には紫色のどこかアゲハチョウの蛹の様にも見える形をしたデジモンがいた。

その男子が前から歩いてくる男子とすれ違う時にそれは起きた。

その男子は確かに避けた。すれ違う相手も確かに避けた。ただそのどちらもが見えない何かにぶつかった様な反応をした。

次の動画ではその男子が何もない場所で突然何か見えないものに躓いて転びかけた。

その次の動画では机の上に置いてあったはずの消しゴムが一瞬で消えた。

体育祭の時らしい動画では障害物走でハードルは飛び越えているのに宙で脚が何かに引っかかりそのまま落ちてハードルにも引っかかって転んでいた。

「五浦くん……あの、私の、前の席で、スパーダモンが、何かおかしいって気づいて……」

瞬間移動とか、見えないデジモンとか、そういうのがいて嫌がらせをしているんじゃないかと思ってと言う縁に世莉は頷いた。

亜里沙にも縁にも見えていなかったが世莉にはその動画の中の一つに一瞬緑色の影が映り込むのを見つけた。

「レディーデビモン、この廊下の動画を……なん引っかかる前後のところを……なんていうの?一枚ずつ見せて」

レディーデビモンが縁の携帯に指先を入れて一枚ずつ見ていくと、ぼやけてはいたが緑色の影は確かに映っていた。

「……誰かからの嫌がらせなのは間違いないんじゃない?不自然だし」

しかしこの緑色の影の正体がなんなのかも誰に付いているデジモンの仕業かもわからない。

一瞬世莉の頭に蘭とエカキモンなら割り出せるんだろうななんて考えが過ったがすぐに打ち消す。

代わりに画像からその姿を切り取って聖に送ることにした。

「さて、この嫌がらせを止められるかはまだわからないけど……縁さんはそもそもどうしたいの?」

世莉達が聞いたのはまだ嫌がらせを受けている生徒がいるというだけの話でしかない。それに世莉はまだ聖がこれを世莉に投げてきた理由がわからなかった。デジモンに関わりその力で嫌がらせをしているらしいというだけならば委員長に言ってしまえばいい。

そもそも気になるとか怪しい動きをしているとかそもそも話も聞き出せなかったかの様な話だったわけで、何かをやらせる為のでっち上げだった様な気すらしていた。

「え、と……それは……その、先に私の鼻の話をしなくちゃいけなくて…?えと、それよりスパーダモンの話……?スパーダモンは武器で、使うデジモンが……あ、でもそれはその、強くなって何かしたいとかじゃなくて……怖いから身を守りたくて……」

実に要領が悪い話し方に世莉がどこから書こうかと考えていると、亜里沙がそっと机の上に置かれた縁の手に手を重ねた。

「……大丈夫、大丈夫だから、落ち着いて一つずつ、ね?」

亜里沙はそう言って鞄からルーズリーフを取り出すと、鼻、スパーダモン、武器、と書いて世莉の方にペンと一緒においてまた縁の手の上に手を重ねた。

「まず、鼻の話から教えてもらっていい?」

「えと、私の鼻は、人の匂いを……その、普通の人の匂いじゃなくて、その人の……多分内面とかそういう感じの、そういう匂いを感じられるんです……その、ここのマスターだと砂糖をたっぷり入れたコーヒーみたいな匂いで、英語の窪村先生だと……悪口みたいなんですけど、その、フルーツ系の芳香剤とかそんな感じのを生ゴミにかけたみたいな匂いがして……えと、黒木さんだと……」

すんと縁が一つ息を鼻で吸い、少し考える。

「ミルクココア……みたいな」

当然世莉からそんな匂いはしていない。

「えと、私が良い匂いだと思う人は、どうやら、その、私にとって、あ、相性がいいというかなんというか……」

話された能力は聖の能力に近いものだった。相手に対して抱いた印象や情報を総合して嗅覚で感じる能力。視界に数値やグラフで出る聖に比べればその精度はかなり低いが。

亜里沙はだからかと心の中で頷いた。

聖が世莉に任せたのは聖と相性が悪いせいだ。もしかしたら自分とユノモンを利用する為の布石なのではと勘ぐって危険を見たわけでもないのに付いて来たが、なんてことはない。

縁は日陰者を自覚する日陰者だ。小市民で、臆病で、聖のようなキラキラと光る人間達とは関わることから苦手。もしゆっくりと話す時間があればおそらく懐柔する事もできたのだろうが、事前に抱いた印象から苦手だと見ていたならばそもそも会うことが得策ではない。そもそも話も聞けていない。

しかし、何故世莉にという点は亜里沙にもまだわからないので気は抜かない。

「そうなんだ、ありがとう。次はスパーダモンについて教えて?」

そう言われて縁が片手を頭に置いて少しブツブツと独り言を呟くと、白い猫の様な、世莉が聖から写真で送られてきたままの外見のデジモンが縁の頭から出て隣に座り、そそっと縁の影に隠れた。

「えと、あの、スパーダモンは私に、住んでるデジモンで……その、本人は弱いけど、強い武器になる、らしくて……」

どういう事かと世莉が首を傾げるとレディーデビモンが世莉の背後に現れる。縁には見えない様にしているがスパーダモンには見えているらしくびくっと反応する。

「あのスパーダモンってデジモン、エカキモンみたいに少し特殊な区分みたいだから……」

一芸に特化してて何が起こってもおかしくないのではと言外に言われて世莉も頷く。エカキモンの例を見てしまうともう、何が起きても驚く事もできない気さえする。

とりあえずざっくりとさっきの言葉の意味は世莉にもわかった。

安全の為にスパーダモンを武器として使ってくれる相手を鼻を使って探していた。という事だ。

それでもまだ目の前の席の相手には繋がらないが、なんとなくは想像できてくる。

「えと、話したことはないんだけど……五浦くんは、嫌な臭いとかは、しなくて……すでに、完全体だったりとかする人達と違ってそういうの、話したってその、怖い目に遭わないんじゃないかって……」

世莉は、話したことない相手を迂闊に信用していいのだろうかとも思うし、聖に聞いた方がいいのではとも思ったがとりあえず飲み込んだ。

素行調査とか頼んだら聖がどんな違法手段を使うかわからないし、縁の場合はおそらくそもそも友達らしい友達がほとんどいないのだろう。

そしてその中で頼ったりしたら今までの関係がなんて事も考えたかもしれない。話した事もないということは壊れる関係もないということだ。

「あ、あの、でも、その、本当はおかしいなっていうのはわかってて……いきなり守って下さいなんて言っても……変なやつで……しかも、強くなるぐらいしか、わ、私達から出せるメリットもなくて……」

結局のところ半分は自分の為。守ってくれる存在が欲しい、互いにメリットがある様な。

悪い臭いがしないという表現はつまり相性が特別良いとも言えないということ。でも、誰かから嫌がらせを受けている。それをはねのける力を欲しがるかもしれないから助けたい。

そうしたらひょっとするとひょっとするかもしれないから。

やはり聖に任せた方がいいかもしれないとも思ったが、待てよと思い直す。

聖との関係悪化を避ける為には聞くだけで終わるよりも当然解決した方がいいだろう。

それに、亜里沙が助けたいと思って動いてしまう可能性もあると、世莉は考える。

「……ねぇ、世莉さん、その、方法はどうしよっか?」

悪質な嫌がらせなのは間違いないとして、どう助かるか。

相手がわかれば委員長にチクってしまうのが一番早い。でもどうやって見つけるかという問題がある。

世莉は蘭を巻き込むことを良しとしないだろうと亜里沙は考えたし実際そうだった。蘭を頼れば何か奇天烈な絵を描いてそれによって突き止めることは難しくないだろうと思う。

でもそれが当たり前になることは蘭の存在が知れ渡る原因にもなり得る。

知れ渡ってしまえば狙われるだろうし、ユノモンでないと対処できない状態が発生する事もあり得ないわけではない。ユノモンは運命の神で女性を守る神、守る事には向いているがそれは亜里沙が今まで見せていた亜里沙が終わる事と引き換えになる。

「……私がそのデジモンを見られれば、レディーデビモンがそれを画像として携帯に送れる。そうしたらまず白河さんに見せて知らないか確認する」

知ってたら終わり、知らなくてもとりあえず委員長に見せておくだけでも意味はあるし、世莉はそもそも把握してないから知らなくても当然なのだが聖が存在すら知らないデジモンというだけで学校のデジモンを連れている生徒のほとんどは候補から除かれる。

定期的に嫌がらせできる近い距離と嫌がらせの起きたタイミングを合わせて考えたならば多く見ても十人以内に絞り込むことは難しくない。

「あ、あの……それって、その、五浦くんは黒木さんがそれを見るまで、見てからも捕まえるまでは……」

嫌がらせを受け続ける事になるのではと言おうとして縁は口を噤んだ。

協力を頼んでおいてあまりに失礼な言い草だ。まるで咎めているみたいじゃないか、自分だって、嫌がらせかもわからないからとカメラだけ回すなんて事をしてたのにと自分を責めた。

その手を亜里沙は改めて大丈夫大丈夫と言い聞かせながら撫でた。

「……先に伝えちゃってからそれでものこのこ嫌がらせにやってくるやつを見つけるでいいんじゃない?」

世莉は当然という様にそう言った。知られてしまってそれが顔に出たならば嫌がらせしている側に伝わる可能性もある。

伝わってしまったら姿をくらます可能性は当然ある。

くらまし方も簡単だ。外にデジモンを出さなければいい。

亀の様に閉じこもりほとぼりが冷めるまで待つ。普通に見積もって卒業までは数年以内。デジモンは日常に不可欠な存在でもないのだから隠れられたら見つけるのは難しい。

難しい。難しいが、難しいだけだ。捕まえなきゃいけない理由がない。

捕まえなければいけない理由があるとすれば思わぬ報復が無いようにという程度。それを考えるのは当然の保身。

縁に答えてからあぁ確かにそういう不安もあるのかと世莉は慌てて取り消す様な仕草をする。

「……えと、委員長達にこういうことがあったって、そう伝えておけば伝えても、その、大丈夫じゃないかな?その、仕返しが、されるかもって、そう伝えておけば、委員長が何か起こらないように目を光らせておけるだろうし……」

だから大丈夫。あなたは嫌なやつではないと亜里沙は言外に込めるがそれは伝わらない。縁は罪悪感に苛まれる。

そして同時に亜里沙もまた苛まれる。自分も保身を考えるよりも自分以外の安全を考えるべきなのに、亜里沙とはそうであるべきなのに、と。

「……とりあえず、今日できることはもうなさそうだし帰ろっか?」

ふと、世莉の目に探偵のチラシが改めて目に入る。世莉の耳にはちょこちょこと聞き耳を立てていた包帯のデジモンと人間の会話が聞こえていた。犯人探しとかまさに探偵の仕事だろうに、というような依頼をして欲しいらしい内容だったが世莉は無視した。

無視して帰ろうとして、止まった。もし写真の一部から鮮明な人相を手に入れられる様な能力があれば人探しは随分楽になる。もしかしてそういう能力を持っているのではと。

「……少し、探偵の話だけ聞いてみてもいい?依頼するかはともかくどんなことができるかだけ……すぐ特定できる様な能力があったら……」

そう世莉が亜里沙と縁に言うと、ひょこっと仕切りの上から帽子を被った包帯男が顔を出した。

「あー……悪いんだが、僕達にはそういう類の能力はちょっとなくてな……」

まぁ泥臭いやり方でもいいならいくらでもやれるし、やる気はもちろんあるし、と取り繕う様にアピールするその包帯男に世莉は一つ頷いた。

「……人手が要りそうだったらお願いするかも」

多分頼まないと思うけどという言葉を世莉は呑み込んだ。今回、人手が足りないというところはない。

「あ……」

思い直して世莉はもう一度立ち止まる。

ID.4963
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/04/18(水) 22:28


それは悪魔の様に黒く 六話 三
「……君は狙われている」

「……?」

五浦は突然すれ違いざま囁いたその男子生徒に足を止めて振り返った。

それを感じてかその男子生徒もくるりと振り返ると真っ直ぐにその目を見た。

「君は不幸ではなく、君の不運は仕組まれている。事実は小説より奇なりとはこういう事を言うのかもしれない」

最近確かに嫌なことが続く。それに腹を立てて人に憎しみをぶつける自分も嫌で、可能な限り気がすむまで体を動かしたり、こうして人気のない普段通らない道を散歩をしたりしながら帰っている。

「……なんなんだよ」

その言葉に馬鹿馬鹿しいと五浦が言えなかったのは答えを求めていたからだ。自分は何故こんな間に合わなければならないのか、昨日は助けてくれた人もいたが毎日誰かが助けてくれるわけではない。

それが仕組まれたものと信じたわけではないが、理不尽の答えを聞きたかった。

「そう睨まないでくれ。でもその反応はいいと思う。さっきの言葉はバイロンという詩人のものだが彼はこうも言っている。推考しないものは偏屈者、推考できない者は愚か者、推考する勇気を持たぬ者は奴隷である。さっきの一見馬鹿馬鹿しい言葉をも考えようとする君は……少なくとも偏屈者でも愚か者でも奴隷でもない」

そしてこうした存在が、君を不幸に見せかけたものだとその生徒が言うと共にその後ろに明らかに人ではないミイラ男が現れる。

その爪は長く、歯は尖り、黄色く縦に瞳孔の入った人から程遠いその目は宝石の様にその存在を高らかに主張していた。

「……えと、男の子って、その、こういうのが好きなんです……かね?」

歯の浮く様な恥ずかしい台詞達に縁が少し引いた様な顔で二人を見る。さぁと答える世莉と亜里沙と共に物陰からその姿を覗いていた。

「……ただ、私の知ってる女子でもこういうのが好きそうなのはいるから結構いっぱいいるのかも」

蘭の顔を思い浮かべながら世莉はそう答える。男子にどううまく話せばいいのか、その問題はなかなか異性間どころか同性間でも浮き気味の世莉達には厳しい問題だ。信じて貰う必要もあるし、場合によっては近くにいてもらって嫌がらせを防いでも欲しくある。

それが女子だと難しい。悲しいことに男女が側にいるだけで恋愛関係だと考える頭の中の世界の色が乏しい人間は数多くいるし、不思議なことになぜか声が大きい。嫌がらせから救っても別の苦悩を抱かせる可能性があり、それは当然その相手である自身にも向かう。

それに、と世莉は私にはわからないという目を向ける縁をちらりと見る。探偵を使うことは報復を避ける意味もある。

探偵達にはこっそりと世莉から一つお願いをした。何かあって報復を受けた時、誰からの依頼でそうしたかと聞かれたら縁の名前を出さないこと。出すのは黒木 世莉の名前だけにする事。亜里沙にも聞こえない様に世莉はそう言った。

だって、縁に危害が及んだら白河さんに何言われるかわからないし、亜里沙に危害が加えられたら自分が困る。そう世莉とレディーデビモンは話し合った。

「頑張ってよ、真田くん……」

探偵達こと真田とマミーモンは説明にうってつけの能力を持っていた。真田の能力は眠気や反射といった生理的に行動が強制されるのを抑制できるというものだったが、ネクロマンサーであるマミーモンには常人に見えないものを常人にも見せる事を可能にする力もあった。

それは長く保つ能力ではなかったが、その力で五浦は自分に寄生するデジモンを見る。

「もしかしてこいつが……?」

「それは違う。そいつは今は君に寄生しているだけの存在。知ってもらいたかったのは意外とそうした存在が身近にいる事、そうしてそうした存在を使って人を傷つけるやつが君を襲う不幸の正体。ちょっと風変わりな嫌がらせさ」

「それをしているやつっていうのは……」

その言葉に快調に舌を回していた真田の言葉が詰まる。

「……それは、まだ調査中だけども。依頼人の方針なんだ、君が追い詰められてしまわない様に明かして欲しいとね。捕まえることより君の安全を、理屈より感情をと考えればバイロンと同様のロマン主義に近いのかもしれない」

ふふふっ、と誤魔化しながら気取ったように笑う姿に物陰から見ていた縁はついに目を背けた。

「ちなみに彼はギリシャ独立戦争に参加した事でも知られているね。ギリシャ独立の為にイギリス人でありながら立ち上がり、そして亡くなった。彼の献身にギリシャの人々は応えるべきか応えないべきか、君はどう思う?」

怪しい展開になったと世莉と亜里沙は聞き耳を立てる。戦えなんて方に持っていかれたら安全とはという話になってしまう。

「……それは、応えるべきだと思う」

レディーデビモンにマミーモン通じて止めさせようかと世莉が考え始めると、ふっふっふと真田はもう一度笑った。

「なんてね、その意気込みは買うが今の君にできることはないよ」

なんなら自分にもないという言葉を真田は呑み込んだ。既に時間は放課後、今日の内に世莉は廊下ですれ違うようにし、五浦を襲う不幸の正体を見た。そして既にその姿はデータとして携帯に移され、聖に送られている。

「目的も何も調査中だからね、君は早まった行動に出なければそれでいい」

真田が踵を返して歩き去ろうとする。世莉達もいつでも単に通りがかっただけに見える様鞄を持ち上げる。

「……そう、か。ところで……」

「これ以上聞きたいことがあるならこちらへ、尤も、守秘義務があるから期待に応えられるかはわからないけどね」

そう真田は名刺らしき紙を無造作に放り投げた。

「……流石に恥ずかしくなってきたな」

マミーモンの呟きにやめないかと真田も小声で返す。角を曲がって世莉達の前に来た時にはその耳は真っ赤になっていた。

「……ナイスファイト」

言葉に困った世莉のその言葉に真田は掌で顔を覆った。

とりあえず喫茶店に引き上げようかと亜里沙が助け舟を出すと真田は早足で喫茶店に向かった。

世莉達はあくまで一緒に帰っているフリをして、その横を濡れた名刺を持った五浦が早足で通り過ぎていく。路面が濡れていたらしい。

「僕が見たことがあるデジモンだった」

喫茶店に世莉達が入ると、平岡が真田の前に座っていた。

机の上には一枚の現像された写真。緑色の帽子に複数本の矢と弓を背負ったデジモン。靴や体を覆う鎧の様なものがあらかた歯の様な装飾が付いているのがどこか不気味な印象を与えた。

「誰についてるかはわからない。だけど強いデジモンなのは間違いない」

ブラックのコーヒーを一口飲んで平岡は苦い顔をした。

「……危険なやつだよそいつは。誰かわかったらすぐに教えて欲しいぐらいに危ない。キツネは少なくとも殺しはしなかったけど、そいつは聖の命を狙ったことがある」

命を、と言われて縁は咄嗟に亜里沙の袖を掴んだ。

「……詳しく。場合によっては真田くんもかなり危ない事になるし」

世莉がそう言うと、平岡はコーヒーに砂糖を一個落とした。ピチャッと飛沫が机の上に飛んだ。

「半年くらい前かな?聖といる時に聖の頭をそいつは狙った。セイバーハックモンが叩き落とすとそいつは直接狙いに来たけど、セイバーハックモンとエンジェウーモンとを同時に相手取るのはキツかったみたいで諦めて逃げていった」

本当にそれぐらいしか見てないと平岡はコーヒーを一口飲んでざらざらっと何個か砂糖を入れた。

「誰に付いてるか調べる為に追ったりしなかったの?」

「追ったけど追えなかったんだ。腕や尾で対応するのはできたが速過ぎて追いつくことも難しく、深追いしてたら聖の守りがいなくなるから追えなかった」

顔だけ出してセイバーハックモンがそう忌々しそうに言った。平岡はまた一口飲んで今度はミルクを入れた。

とにかく守りを固める様に、一人で出歩かない様にと釘を刺して平岡は残りはあげると飲みかけのコーヒーを世莉に突き出して早足で立ち去った。

「……レディーデビモン、率直に答えて欲しいんだけど」

「そうね、これは私が勝てない敵。セイバーハックモンは今のところ委員長除いたら私が見た中では一番強いかもしれないぐらいだし……」

でも逃げることも難しいだろうなと世莉は平岡の飲んだコーヒーに口をつけて一気に飲んだ。口の中にジャリジャリとした感覚が残る。それが不快で世莉は眉を顰めた。

「あれで勝てないなら俺に勝てる敵でもなさそうだな……」

マミーモンも帽子の位置を直しながらそう言う。

それを見ながら亜里沙はアイギオテュースモンに聞く。ユノモンにならずに倒せるかどうか。

倒せなくはない。速いだけなら倒せる。でもだけじゃなかったら、難しいと思う。

アイギオテュースモンの返答に亜里沙は少し覚悟した。世莉の前にユノモンを晒して世莉から離れる事になるかもしれない覚悟。

亜里沙は強すぎてはいけない。お人好しで優しくて甘くて不器用で、ケーキの上に乗っている砂糖細工の人形のような存在でなくてはいけない。それだけであってはいけない。

世莉に手を引かせるという選択肢は亜里沙にはなかった。

「可能な限り素早く、見つかる前に見つけるしかないか……」

でもどう調べるか。聖も見つけられていないということは常に潜伏しているか、寄生先の人間とは大抵離れて飛び回っている可能性が高い。見つけることも難しく、見つけても人間部分が誰か突き止めないと行動を制限することは不可能に近い。

「……そもそもどういう人物なんだろう」

真田がそう言ってメモ帳を二枚破いて見せる。

五浦に嫌がらせ。白河殺害未遂。それぞれ左上の方にタイトルが書かれていて少しだけ説明が書かれている。

「やってることの規模が全然違う。というか違いすぎると思う。しかも半年前は大胆で今回は姿をほぼ見せてすらない……これは……」

これは、に続く言葉を全員が期待していると、真田はどういうことなんだろうと続けた。

「えと、そういえばなんだけど、嫌がらせに気づいたのはいつから?」

「あ、え、九月に席替えした時にはもう、よく転んだりしてたし、人とぶつかって謝ってるのもよく見たし、その頃からだと思う……デジモン関係って、そう、わ、かったのはスパーダモンにあってからだから、その、最近だけど……」

もうすでに季節は二月の半ばだった。とすれば少なくとも四ヶ月半は経っている事になる。

「ちょっと、気になることがあるから、その、白河さんに聞きたいんだけど……」

世莉の携帯から亜里沙がそう言ってメッセージを送る。

質問は、五浦にはいつからデジモンが付いているか。回答は少なくとも夏休み中からというもの。今度の返事はすぐに来た。

「……半年前も夏休み中だよな。この時期に何かあったのか……?」

真田に今度こそかと世莉や縁が期待した目を向けたが、いやわからないけどと真田は頭を掻いた。

「……えと、これは私の想像なんだけど……」

コートの襟を立てて自分も思いついてないことを隠すマミーモンには視線を向けず、机の上の一点を見ながら亜里沙が話し始めた。

「もしわかっていたなら、委員長がいるって、わかっていたなら、そんな大胆な、白河さんを殺そうとするなんてことしないと思う……あと、平岡さんの事も知らなかったと 、そういうことだと思う」

「……確かに、でも夏休みの時点で白河と平岡とはわりと知られてはいた。探偵やろうとしたのは六月ぐらいからだけども、その時点で委員長一強で次いで白河、一歩二歩遅れて稲荷の構図はできていたから……」

知らないというのもおかしい気がするんだよなぁと真田が言うと。

「多分だけど、その時期に、その夏休みに、そのデジモンは初めて外に、頭から、出て姿を持った。ということなんだと思う。白河さんを狙った理由は、デジモンなのかそれとも白河さんという人に関わっているのかわからないけど……その時期に急速に頭の中でデジモンが成長したんだと、思う」

「きゅ、急速な成長って……その、何が……?」

縁がそう言って自分の後ろをちょいと見ると、その横に姿を現したスパーダモンは首を横に振った。

世莉がレディーデビモンはと斜め後ろを見るとそこに現れたレディーデビモンはそうねと頬に手を当てた。

「……私達は、宿主の脳内で成長する。成長するのには脳に刺激があることが必要、だと思う」

「逆に言えば急速に成長したならば、そこには何かその宿主の人間にとって大きな刺激となる出来事があった、のかもしれないな」

マミーモンがレディーデビモンの言葉を引き取って繋ぐ。

「……その、それが、どう、殺そうとしたり、嫌がらせに繋がるの?」

「……それは、わからない。わからないけど、あまりにも陰湿、だと思う。今回のことは、白河さんを襲ったのと時期が同じ、だとすると。だから、そこに理由があって、それは多分、白河さんを襲った事に起因するんだと思う」

それで、ここからは本当に推測の推測でしかないんだけどと亜里沙は自信なさげに続ける。

「白河さんを襲って懲りた、訳ではないと思う。白河さんを襲って、できなくて、今回のことを仕組んだんだと思う。次は成功させる為に」

「で、でもそれがなんで……」

「えと、多分だけど、自分が何か苦しさや何かでデジモンを成長させたから、だと思う。そうやって苦しめて強いデジモンに育てて、助けて味方にする。マッチポンプ、みたいな感じ……」

辻褄は合う。辻褄は合うがまだ疑問は残っている。

「とすると、なんで五浦に目をつけたか、がわかれば特定に繋がるかもしれないか……」

真田の言葉に亜里沙は首を横に振る。

「えと、デジモンは本人の本質を表す、みたいなことを白河さんは言ってたけど、多分、それって、デジモン達から出てくるものだと思うから、普遍的に。だから、蛹?みたいな姿に、伸び代を感じた、のかも」

亜里沙の説明に少し周りがぽかんとした中で世莉とレディーデビモンだけが頷いていた。

「……私達の外見や能力の違いはおそらく宿主の違い。成長するものとか、これから変わる存在、みたいな感じで蛹の姿をしてるなら、何かしら優秀なデジモンになると当たりを付けてもおかしくない、か……」

「確かに、基本的には見たって何もわからないんだから、その程度でも伸び代が見えたらとりあえずその人にってのは充分あり得そう」

レディーデビモンと世莉の言葉に亜里沙も頷いた上でもしかしたらと付け加える。

「もしかしたら、その人はそういう、人を見る目、みたいなのを待ってるのかも……白河さんとか縁さんみたいな、感覚的にわかる何か」

亜里沙は危機感を覚えていた。もしそういう能力ならば自分達が追っていることに気づくかもしれない。世莉の無事は確保できる。でも、世莉の精神的な無事までは確保できない。

今できるのは気をつけるよう促すぐらい。

ただ、この考えもそもそ推測だらけで確定したものではない。どちらも愉快犯だったり、片方は怨恨からで片方は愉快犯的で行動に差が出てるなんて事も大いに考えられる。

わかっていて亜里沙は言う。この犯人はとんでもなく凶悪なのだと。そう言わないと世莉が深入りしすぎてしまう、縁や亜里沙、真田の安全の為にも後は委員長や平岡に任せようと言える方が世莉は安全。

「……じゃあその事も伝えなきゃ。五浦くんにも伝えておかないと、私達はマッチポンプできる形をすでに崩してるし、そうなった事を五浦くんも知らないと助けを求める事もできない」

でもこの反応だ。亜里沙は知っていた、世莉はそういうことを言う。

「じゃあ俺が……」

「真田くんは既に接触してるし、可能な限り姿を潜めた方がいいと思う。私は、亜里沙さんとかといつも一緒にいるし委員長と知り合いだって事もある程度バレてるみたいだし、比較的襲われにくいと思う」

委員長に言って代わりに言ってもらうことを世莉は選ばない。それも亜里沙にはわかっていた事だ。委員長に言って、実際に動くのはおそらく葵だ。わかってしまわない方がいいに越したことはないから、委員長に比べて地味な葵が話しかける事になる。だから世莉は自分で行く。

ユノモンには犯人を見つけられる力はない。おそらくは、そういう効果を期待して当時行われた何かを再現すればユノモンはそれに応える能力を発現する。

ただ亜里沙はそれを知らない。だから使えない。

だから見ているしかない。聖に頼るという手もある。でもそれをするのは亜里沙らしくない。聖が普通に連絡先を持っていなければまず間違いなくハッキングする。

亜里沙はそれを良しとしてはいけないし、気づかない程亜里沙は馬鹿だと思われていない。

「……その時には、縁さんは世莉さんのこと知らないフリしててね」

亜里沙にできるのは世莉の意思に沿うようにそうやって世莉だけが狙われるようにするだけだった。

ID.4964
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/04/18(水) 22:31


それは悪魔の様に黒く 六話 四
亜里沙は夢を見た。

襲ってきた緑色の小柄なデジモンの放った矢が世莉の太ももに刺さる。なおも攻撃は続けられ、委員長が来るタイミングでそのデジモンは姿を消し、取り逃がしてしまう。

聖を呼んで治療こそしてもらうもののその傷跡は残る。

跳ね起きた亜里沙はまずその場にいない自分を呪った。襲われていたのは世莉と真田と縁だった。

時間は放課後、場所は体育館。そこを使っている部活は一つでそれもそこまで活発な部活ではないから、放課後に誰もいなくてもおかしくはない。鍵は去年付け替えたばかりの電子錠で、世莉達はおそらくデジモンの誰かの手でハッキングして入ったのだろうことが予想がついた。

その場に、人の姿はなかったから遠くからデジモンだけ差し向けたのだろう。

そこにはいない。でも、その時の居所自体は想像できないわけではない。

亜里沙はぐっしょりとかいた汗も拭かずに平岡にメッセージを送る。ある程度絞れている犯人の情報も添えて。

あとは平岡が何とかするまでそこで耐える為の仕込みをしなければいけないが、既に夜は明けている。ユノモンの為の仕込みをするには時間が足りない。

ふと、呼び出されたメンバーを思い出して亜里沙はもう一度平岡にメッセージを送った。犯人の目星は付いた。あくまで目星だけでしかないし、亜里沙は疑わしきは罰せずでなければならないが。

ふらりと立ち上がって亜里沙はユノモンの出すタオルも取らずに洗面所に行って荒々しく顔に水をぶつけた。

もし、確たる証拠があったら殺していたかもしれないと思って亜里沙は自分を責めた。赦せないのは確かだ、でもまだそれは確かではない。推測に過ぎない。世莉に対して行われたのもまだ行われてないことだ。

それにそもそも、殺してやりたくても、殺してはいけない。それは獣にも劣る考えだ。





昼休みに五浦に手紙という形で警告する世莉を見て見ぬふりをして、五時間目の授業を受けた縁の机にいつの間にか一通の手紙が入っていた。

放課後体育館に来い。お前が依頼をしたのは知っている。探偵と黒木も連れて来い。

縁はそれを見て震えた。

「何それ?」

「あ、えと……こ、この前の相談の関係だから……」

ゆうちゃんは巻き込めない。縁は咄嗟にその手紙を隠した。

「……そっか、今日の放課後もまた?」

「う、うん。また」

できるならば一緒に帰りたかった、でも決着を付けないといけない気がした。

それに、縁は勝ち目もあると思った。昨日は難しいというような事を言っていたが、スパーダモンがいる。本人達も正直武器になるとどうなるのかはよくわかっていない。わかってはいないが、世莉といるレディーデビモンも真田といるマミーモンも武器を持って戦うには向いていそうなデジモンに見えた。

ふと思いついてメモに走り書きをした。犯人に呼び出されたので行ってきます。もしも、明日あなたの後ろの席の人間が休んだらあなたも危ないかもしれないのですぐに白河 聖さんを頼って下さい。最後に今日の日付を書いて、五浦の机の中に入れた。

それから世莉と真田が帰る前に訪ねて、世莉と真田と、世莉と一緒にいた亜里沙を連れて体育館に向かった。

体育館に入ると、ステージの上に小さな人影があった。

世莉の見た姿を出力したものと同じ、緑色の狩人はニタニタと笑っていた。

「……いやだなぁ、まるでこれから戦うみたいな面構えじゃないか。私は見ての通りの小柄でプリティーでか弱いデジモンなのだから呼び出して戦うなんてことはしないさ」

勝ち目がないからねとそのデジモンはケラケラ笑った。

「じゃあどうすると?」

世莉の背後からスッと現れたレディーデビモンが肥大した左手の指をこきりと鳴らしながらそう聞いた。

「私の目的は白河 聖だ。そこまでは調べただろう?白河 聖のお使いだものねぇ、でも逆に言えば私の狙いはそういうものだけだ。白河 聖や委員長のようなもの、周りに影響を与えるタイプの良い人達が私の狙い。せっかく力があるのだからもっと愉快にやりたいだろう?賛同してくれるならば何も手なんて出さないさ」

だから、とそのデジモンは少し考えるように顎の辺りに四本ある手の一本を当てた。

「これは、つまるところスカウト、ということになるのかな?私の速さを見切れるデジモンはそう多くなかろうと自負しているのでね。一緒にもっと自由な学校にしようじゃないか」

それに一番最初に首を横に振ったのは縁だった。

縁は見ていた。目の前で何度も何度も繰り返される陰湿なそれを。何度も何度も執拗に繰り返されわけもわからないままにどんどんどんどん暗くなっていくその背中を。

特に仲が良かった訳でもない、自分の能力を使っても相性がいいようには感じない。

世莉達に言った理由は建前だ。

本当は怖かった。もしもあれが自分だったらと思うと怖かった。世界から向けられる理不尽が存在するのが怖かった。それを誰も助けてくれないのが怖かった。

誰か助けてくれる人がいると信じたかった。そんな事を言うことも縁にはできなかった。どう見たって既に弱いのに、わかっているのに、せめてもの虚勢を張りたくて、実は強かなのかもなんて思われる方が良いと思ってそう言った。

今の縁は別のものが怖い。

助けてくれる誰かはいた。目つきが悪かったり意味わからないぐらい前髪が長かったり理解できないロマンを持っていたりはするけれど。

今怖いのは、自分が理不尽の側に回ることだ。助けてくれない誰かより助けてくれる誰かになりたいと、そう思った。

「……彼とは特に仲がいい訳でもないだろう?私は知ってるよ、君を知っている。友達の少ない可哀想な子だ。私は君の友達になることもできる」

でも友達になれないならばと言うそのデジモンに体をびくりと跳ねさせた縁の手を亜里沙が握った。

「それは……嘘、だと思う」

姿を現したアイギオテュースモンは一つウインクをした。平岡にメッセージを送り終えたという合図。平岡が本体を見つけて押さえられるかどうかという戦いになる。

亜里沙の見立てでは勝ち自体は決まっている。あとはどれだけ払うコストを減らせるかの戦いだ。

「だってあなたは既に縁さんの友達だから」

何を言っているのかという顔をする世莉達に亜里沙は今わかったんだけどという嘘を吐いた。

それはより確信に近くなったが、わかったのは夢で見てからだ。

「……はー、となると皆殺しか味方にするかしかないか……でもこのままだと仲間になってくれなさそうだしなぁ……」

どうしようかなぁという態度から予備動作なく放たれた矢をアイギオテュースモンの腕の鞭が打ち落す。

亜里沙は縁をしゃがませるとその上に覆いかぶさる様にし、すぐにそれに世莉が続く。そして最後に少し躊躇いがちに真田が体を覆い被せた。

「絶対に、身を起こすんじゃねぇぞ……」

マミーモンがそう言って機関銃をどこからか出現させて握る。

スパーダモンは戸惑いながらレディーデジモンの元に向かうと、その姿をレディーデビモンの体程のサイズの馬上槍に変えた。

その槍を手にとってレディーデビモンは眉を顰めた。あまりに軽すぎる、これは果たして武器として機能するのかという軽さだ。

軽さに眉を顰めた。その時にそのデジモンは動いた。

世莉の目でも来るとわかっている場所に来た姿しか捉えられないそれは、デジモン達の目でも追うのがやっとのスピードだった。

人間を狙って飛び回りながら撃たれる矢はありとあらゆる方向から放たれている様にすら感じて、レディーデビモンやマミーモンが叩き落とすのも追いつかず、一本二本がマミーモンの腕に刺さっていた。

このままだとジリ貧なのではないか、そう考えて仕方ない状況だった。

矢の処理できる数は限られている。それを敵の攻撃して来る数は超えてくる。しかし、当たりどころが悪ければ人間の身では死んでしまうから避けることもできない。

レディーデビモンが持つ槍は軽かったし、それに反して矢を弾く時にはまるで風船でも弾いたかの様に負担はない、どういう仕組みかわからずともとにかく使えるものなのはわかったが、いかんせんレディーデビモン自体の速さが足りなかった。

だからその内に世莉は矢を受ける筈だった。足が狙われたのは逃さない為であり、レディーデビモンやマミーモンの防ぎにくい高さだと学習するからだ。

でもその夢と違うのは亜里沙とアイギオテュースモンがいることだ。

唐突にバシッという音と共に、一度だけアイギオテュースモンが振った鞭の先端がそのデジモンを捉えて弾き飛ばした。

そのデジモンは一瞬訳がわからなかったが体育館の壁を蹴ってもう一度同じ様にしようとし、そしてまた同じ音と共に鞭に殴られた。

亜里沙は眠っている時に夢を見る。基本的に夜に寝る場合はユノモンはその思考に繋がってはいない。亜里沙が怒りを抑えられそうにない時に諌められなくなるからだ。

でも今は違った。

亜里沙が縁をしゃがみ込ませて覆い被さった理由の一つは、眠るまではいかなくとも、余計なことに脳を使わない状態が作れるからだ。

亜里沙が眠りながら予知夢を見るのはその負担が大きく、立っていることもままならず、視界も二重になったりしてしまうからだ。

矛盾した様にも思えるが、亜里沙は起きたまま予知夢を見ることができた。

数秒後に訪れる危機の未来が見えたからといってマミーモンやレディーデビモンは速さが足りない。それはアイギオテュースモンもそう変わらない。自身の動きという点ではとても及ばない。

しかし、鞭がある。

鞭、というのは武器としてはあまり優れたものではない。大きな音を出し、かなりの痛みを伴うが、肉体へのダメージは見かけほどではない。拷問具として分類した方が良いものである。

ただ、おそらく火薬を使わずに人が扱う最速の武器でもある。その先端は人の力でも音速を超える。それを振るうのがデジモンであればどうなるかなどは言うまでもない。

正確に予知で見た場所に持っていければその先端はその瞬間、音速を遥かに超え周囲に衝撃波を撒き散らす。ほんの少し逃げたってほんの少ししか逃げられなければ当然その衝撃波に巻き込まれる。

速いだけならば何とかなるというアイギオテュースモンの根拠はこの鞭だった。

ただ一つ、ただ一つだけ問題があったとすればそのデジモンが単なる速いだけのデジモンではなかった事だ。

戻ろうとする度にアイギオテュースモンの鞭に殴られてそのデジモン、ザミエールモンは憤慨していた。

ザミエールモンは究極体ではない。自分の性質のせいで安易に宿主を食ってしまう事もできなかったし、そもそも通常の進化の枠から外れてもいた。

でも、エカキモンやスパーダモンと異なる点は特化したのが戦闘に向いた部分だった事だ。

ピタリと、鞭の届かない距離まで下がってザミエールモンは一つため息を吐いた。

ある程度ならば、デジモン達は大きさを変えられる。大きくなればなるほど使うエネルギーは当然大きくなる。そして、小さくなればなるほど使うエネルギーは小さくなる。

ザミエールモンはサイズの調整が非常に得意なデジモンであったから、それだけ体を小さくしていた。

ザミエールモンは、特別な能力などなかった。身体中に仕込まれた武器はある。でもそれも全て物理的なもの。エンジェウーモンの癒す能力や、光の矢の様な人間の知識でわけのわからない様なものは扱えなかった。

特化したのはその肉体の強さ。

バネの様に飛び出すことを可能とする強靭な筋肉、脚力からもたらされる高速の世界に対応する思考力をもたらす優秀な脳、その速度に耐えうる頑健な肉体。

それは究極体にも遜色ないもので、しかし同時に欠点を一つ抱えていた。

それが燃費の悪さ。強力だがその分のエネルギーを常に使う。だから姿を出さない、だから自分が出なくてもそのまま移動したりできる様に寄生先の人間を食わない。

だから温存していたのに使わざるを得なかった。イラつきながらザミエールモンはむくりむくりとマミーモン達よりは一回り小さく、人間よりは一回り大きくなるまで体を巨大化させた。

マミーモンは一瞬何が起きたかわからないまま天井を見上げた。

レディーデビモンは隣にいたマミーモンが殴り飛ばされるまで反応すらできなかった。

アイギオテュースモンの鞭はそのほほを確かに殴りつけていたがザミエールモンはほんの少し首を傾けただけでまともなダメージはなかった。

「実際ここまで追い込まれるとは考えてなかった。実に素晴らしい、実に素晴らしいからそろそろ素直に言う事を聞いて欲しい」

レディーデビモンが馬上槍で殴ろうとしても、無数の黒い蝙蝠をまき散らしてもザミエールモンは余裕だった。馬上槍は軽く避け、蝙蝠はそもそも意に介さない。

アイギオテュースモンはその今出せる手札で対応できない状況に、覚悟した。

ID.4965
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/04/18(水) 22:37


それは悪魔の様に黒く 六話 五
「あ」

竜美と平岡が鉢合わせたのは体育館へと向かう渡り廊下の手前だった。

「……えと、もしかして世莉さん達関係ある?」

「……まぁね」

平岡に亜里沙が頼んだのは一つ。ザミエールモンの寄生先の人間を捕まえること。

予知夢の中でザミエールモンは委員長が助けに来るその直前に逃げ出した。委員長が体育館に入ってこれる扉は一つだからその扉の見える位置のどこかにそれはいる。

「……私とローダーレオモンなら最短距離で見れる場所を全部回れるから、その、手伝わせて欲しい」

ほぼ反射的に竜美はそう言った。

実際竜美の頭の中には立体で正確な学校内の見取り図がある。人の視力で委員長の姿を視認できる部屋がいくつありそれらをどう回れば最も早いかもすぐにわかる。

「僕は聖に言われてるし巻き込みたくないんだけど……」

平岡の頭にザミエールモンに襲われた時のことが過った。セイバーハックモンが人間大のデジモン相手に防戦一方にならざるを得なかった。互いに決定打を与えられることないその状態は平岡の目線では何故退いたのかわからないぐらいだった。セイバーハックモンは速度に対応できていたが、聖や平岡を庇うために浅い傷はいくつも受けていた。

委員長と違うのは明確に敵対していることだ。早くに対応しなければいけない敵、聖の身を守ることは聖に頼まれた竜美や蘭の身を案じることよりも優先順位は当然高い。

「わかった、けどローダーレオモン出すのは無しでね。気づかれて逃げられたら困るし」

平岡の判断にセイバーハックモンは止めようか迷ったが見過ごす事にした。従順なだけでは守れない。

二人が目立たない様早足で歩いて幾つかの教室や物陰を総当たりしているとふと一つの人影が体育館に急いで向かって行くのに遭遇した。

このまま行かせるとそこで行われている戦闘に巻き込まれる。

「待って!」

平岡の言葉に振り返った男子を見て竜美は昨日会った事を思い出した。

「……えと、なに?」

「今体育館に行くと危ない」

五浦だと気付いて平岡は普通に話してしまう事にした。

「今体育館では探偵達が戦ってる」

そう言われて五浦は少し躊躇ったがやっぱり体育館に行こうと走り出した。

「待って」

先回りして姿を現したセイバーハックモンに五浦はぶつかって尻餅をついた。

「……置き手紙があった。後ろの席の剣崎さんが休んだらとても危険だから逃げろって。剣崎さんが体育館に向かってくのを見たってやつがいた」

そいつも関わっているのか?そもそもどれだけのやつが関わっているんだと聞く五浦に平岡は少し頭をかいた。

全部を平岡は知らない。一応、指示されるに当たって亜里沙からざっくりとした経緯は聞いているがざっくりとした経緯でしかない。

「……あなたの後ろの席の剣崎さんがあなたの異変に気付いて相談したのが発端で、引き受けたのが今日話しに来た黒木さん、黒木さんが手伝いを頼んだのが探偵、黒木さんと一緒にいる神室さんから犯人を捕まえる実行部隊として頼まれたのが僕。そしてそこで会って自分も関わらせろと言ってきたのがこの竜美さん」

ざっくりとすごくざっくりとした説明だったが、それは五浦にとって十分すぎる情報だった。

縁が気づいた。他人から見たら不注意なやつだで終わってしまう様な事に、そしてその為に体まで張ってくれているらしい。

薄情な自分とは対極にいる。

真田の話したバイロンの事がふと頭によぎった。気になって少し調べたら本当に行ってすぐ熱病にかかり一度も参加することすらなく死んだらしい。あっさりと。

その心意気はバイロン自身を助けなかった。

ひょっとすると、みんな死ぬかもしれない。そう思ったらやっぱり何かしようと思った。

「……行きたいなら行かせてもいいんじゃないか。代わりに私がついて行く」

話してる方が面倒だとローダーレオモンが一度姿を現して竜美から離れるとまたふっと姿を消した。

セイバーハックモンには五浦の側にいるのが見えたのでそれならそれでと姿を消す。

体育館の戦力が増えるのは探す時間を稼ぐ上で好都合だし、人間相手ならば自分一体でも十二分にお釣りが来るだろうと。

平岡もならと歩き始める。竜美はローダーレオモンによろしくと頼むと平岡に続いた。

二人がその教室に入ったのはそのほんの一分後、そこにいたのは縁がゆうちゃんと呼んだ友達の女子だった。

セイバーハックモンの尾に付けられた刃がその胸元に突きつけられるまでその女子はまともに反応すらしなかった。

「え?なにこれ?着ぐるみ?」

「とぼけても無駄。僕達は知っている」

亜里沙は早い段階で一つの事を疑問に思っていた。

何故、縁が気づいたのか。スパーダモンを知った事でデジモンが関係しているのかもしれないと思ったということは元から疑問に思ってもおかしくないだけの不思議な不運を見ていたという事だ。

内容も一通り出ない、でも気づいた。それは目撃する頻度があまりに高かったからだと考えるのが自然だった。

でも一方で、不運を演出する側の事を考えるとそれはおかしい。本人はともかく周囲の皆がそう思ったら聖の耳に入りやすくなる。聖に調べられたら、誰なのか知れたら正面からセイバーハックモンと戦わなくてはならない。下手すると事が事だけに委員長の協力さえ得られてしまう。

だからある程度意図的にタイミングはずらしていただろうと考えられる。特定の誰かに気づかれてしまわない様に。

でもそれにも限界はある。あまり遠隔で出し過ぎればそれが見られる可能性もある。人はともかくデジモン達の目なら捉えられる可能性がある。

つまり、不運を演出する際には近くにいたはず。そのほとんどを目撃したから縁が気づいた。よって明らかになるのは縁と犯人の行動パターンはほぼ一致するという事。

男女で別の授業もある。出席番号で分かれている授業もある。成績別や選択などもある。

少なくとも五浦と接触するタイミングが縁と重なる誰かであるというだけで大幅に絞られた。

少なくともクラスは同じ。後ろから確認できる位置にいる可能性も高い。

縁の隣の席にいる、それでいて女子であるゆうちゃんと呼ばれていた女子がそうであるかも知れないと亜里沙が考えたのはその結果。

その上で、亜里沙を除いた三人が狙われたのが決定打だった。喫茶店や五浦の帰宅時を見たならば亜里沙も巻き込まれて当然。しかしいなかった。

つまり世莉と縁の繋がってからの動きを把握していたわけではないという事だ。

見たのはおそらく、五浦に忠告しに行った二回。だから真田を知っていて、世莉に気づき、世莉に頼みごとをしていた縁に辿り着いた。

あの時点で亜里沙は世莉の横にいたが亜里沙は単に世莉の友達だから近くにいたのか関係あるのか判断が付いてなかったと考えられる。

証拠はないが限りなく黒に近いグレー。

最後の後押しが今平岡の行っている誘導だった、

「……向こうは果たしてどうなってるかな?セイバーハックモンもいないで勝てる相手じゃないのはわからない?みんなボロボロだよ」

ゆうちゃん、こと嘉田 悠理は自白した。

「だから僕がここに来た」

セイバーハックモンの尾がヒュルリと刃先を下に向けて悠理の足を上履きごと貫いた。

「エンジェウーモンなら治せる。だから投降して、デジモンをここに引き寄せて。死なない程度にセイバーハックモンが壊す」

平岡は、聖とは違う。誰かを導かなければなんて考えはない。善い人であろうとしているわけでもない。自分は聖を守る為の装置であればいいのにとすら思っている。

アーサー王になるよりもアーサー王に使われるエクスカリバーでありたい。王が汚れない様に血で汚れる剣でありたい。

殺してしまうのは主義主張に反するかもしれない。委員長も敵に回すかもしれない。だけども例えば洗脳ならば気づかれない。

あえて聖は小森を見逃している。交渉次第でチューチューモンの力で嘉田が他人に対して害を加えられない人間にする事もできるはずだ。

聖の手札として暗示をかけられるデジモン自体はいる。しかし、強力なデジモン相手にはまず効かない。チューチューモンのそれは耐性があるデジモンには効かないが耐性がなければどれだけ強力であろうとも効くとも言える。

「あー……クソッおしゃべりパートは無しかよ。本当に強い奴が卑怯な手を使うとかずるすぎんだろ」

痛みに涙をボロボロ零ししゃがみこんで両手で足の甲を抑えながらそう呟く。

平岡もセイバーハックモンももう何もできないだろうと、そう思ったがそれは間違いだった。

嘉田が片腕を急に跳ね上げてそこから何かを撃ち出した。

それをセイバーハックモンが打ち落とし、改めて向き直ると嘉田は窓から外に飛び出したところだった。刺したはずの足は、ザミエールモンのそれの様に変化し、とても痛みを感じている様には見えなかった。

嘉田は自分に宿るザミエールモンのデータの一部を参照して劣化したものではあったが自分の肉体に反映できた。

燃費はより悪い。強い空腹感を感じながら嘉田は着地し走り出した。





ローダーレオモンが飛び込んでもザミエールモンの優位はほぼ変わらなかった。

パワー自体は匹敵するものがあったし、その固さはザミエールモンとしてもやり辛くはあったがスピードがザミエールモン相手には一歩足りない。セイバーハックモンの様に手数もない。

時間さえかけられたならばと思いながらザミエールモンは渾身の一蹴りをローダーレオモンの顎に打ち込んだ。

「うざってぇ……寄ってたかって私の邪魔しやがって……」

ローダーレオモンは一歩二歩とたたらを踏んだが踏みとどまり、ザミエールモンはさらにイラついた。

「……わかった。わかったよ。よーくわかった。私はこの柔らかい肉の方をめちゃくちゃに狙うことにする」

固まって伏せている三人に向けてザミエールモンが弓を射ると、間に青い大きな機械の手が割り込んで弾いた。

また新手かよとザミエールモンが舌打ちして周囲を見回すとアイギオテュースモンの色が変わっていた緑から青に。大きな手はその左手で、アイギオテュースモンはその手を外してそこに盾の様に置いた。

ユノモンは神々の女王と呼ばれる万能の神だ。アイギオテュースモンの姿でも当然一芸のみではなく、複数の姿と複数の力を使い分けるデジモンだった。

アイギオテュースモンが置いた巨大な手で覆いきれない範囲をレディーデビモンの出した蝙蝠が飛び回りマミーモンの伸ばす包帯を咥えて世莉達を囲む様にして矢の入る隙間を埋めていく。

包帯はたかが包帯だがそれでもデジモンの出した包帯だ。強度もあり、そもそもターゲットが見えないというだけで射にくい。

アイギオテュースモンとレディーデビモンは直接ザミエールモンと殴り合える実力はないが矢を防ぐだけなら十分。

マミーモンもダメージを負ってこそいるが何もできなくなったわけでもない。

そして何よりローダーレオモンだ。ザミエールモンに勝てはしないがザミエールモンに簡単に勝たせてもくれない。

イライラが最高潮に達してザミエールモンはふと、あるものに気づいて口元を歪めた。

五浦は体育館の入り口で足を震わせていた。ちょっと人間より大きいぐらいのサイズでローダーレオモンを後退させるザミエールモンの姿は死神の様に思えた。

その死神が目にも留まらぬ速さで近寄ってきて自分の首を掴んだ時、彼は死を覚悟した。

「……少し、私と話をしよう。簡単な話だ。私は要求を呑まないとこいつを殺すぞと言う。お前達の取れる選択肢は三つ」

腰から伸びた腕から三本指を立ててザミエールモンはにたりと笑った。

「一つ目はここで要求を飲んだふりをして私を殺すないしは戦えない様にする。まぁ、今までのやり取りでわかる様に実力が足りない」

一本、指を折る。

「二つ目はこいつを見殺しにして要求を呑まず自分達も殺される。実力差的にこうなるのはわかるだろう?一体ずつ殺してけばそうなる」

さらに一本指を折り、最後の一つだと振って見せる。

「三つ目、素直に言うことを聞く。ワオッ!なんとみんな生き残れる!私は言うことを聞いてもらえて満足、お前達も生き残れて満足!」

一本の指を愉快そうに振るその姿にマミーモンはすぐにでも銃弾を撃ち込みたかったがぐっと堪えた。実際今の手札だと返り討ちにあう。

でもじゃあ従うかと言われればそれも無しだ。

「あ、一応行っておくが、委員長のところのジャスティモンと私だと私の方が速さでは優っている。正面からでもそれなりにやりあえるし、一旦逃走して裏切り者を一人ずつ闇討ちすることだってできる」

だからこそ最初のは折っておいた。優しいだろうとザミエールモンはケタケタ笑う。

スタミナはかなり限界に近かった。その時丁度平岡達が取り逃がしたタイミング。すでにザミエールモンにこれ以上サイズを大きくして完全に圧倒する選択肢もこのまま時間をかけて戦う選択肢もなかった。

追っ手を食い止めるという目的を果たすにはここで引き込む他ない。もはや全員殺すという手は使えない。

その精神的な焦りを見抜いていたのはアイギオテュースモンだった。亜里沙は予知夢を見続ける為に頭を動かす余裕はなかったがアイギオテュースモンにはある。

「スパーダモン、私が使ってもいい?」

レディーデビモンからスパーダモンを受け取ってアイギオテュースモンは構えた。青い姿は機械のデジモンの力を宿した姿速度は緑に大きく劣るが腕力においては左腕の装甲を置いてなおその上を行く。未来を見ながらローダーレオモンと共闘すればいける。

それは五浦を見捨てる事になるが、亜里沙ではなくアイギオテュースモンだからその選択肢が取れる。

そうなったら亜里沙はアイギオテュースモンを責めれば亜里沙という人を保ち続けられる。

とはいっても見捨てるつもりがあるわけではない。ザミエールモンの交渉は五浦が生きているから成り立つ。約束を守れば殺さないと言外に示しているから成立する。殺したらそもそも交渉ができなくなる。

「おいおいおい、こいつがどうなってもいいのかよ?薄情なやつだな」

ザミエールモンが内心の焦りを隠しながらそう呟いた。その言葉に、五浦は違うと叫びたくなった。

既にこの状況が薄情だなんて言えないと示している。自分が制止を無視してきてしまったのが悪い。戦えましない癖に、来てしまったのが。

でも言葉は出ず、アイギオテュースモンの手からスパーダモンがするりと抜けて武器の姿を解いた。

「……私達、が、ふ、不用意に連れてきたせいで、そ、そもそも相談なんかしたせいで、その、こうなってるって、わ、かってるんですけど……」

スパーダモンはアイギオテュースモンに向けて土下座した。五浦をこれ以上危険に晒さないで要求を飲んで欲しいと。その姿はあまりにも哀れで、あまりにも小さかった。

五浦は、後悔の念と自責の念の中で一つの事を願った。

せめて身を守れる力が欲しい。自分なんかに手を差し伸べてくれた人達にあんな惨めなことをさせない様なそんな力が欲しい。

ぴき、ばきっ

何かが割れる音がしてザミエールモンは自分の腕を襲う痛みを感じた。

思わず離した手には三本の指で強く掴んだ様な凹みが残り、掴んでいたはずの五浦の姿はそこからいなくなった。

代わりにいたのは緑色の仮面の様な顔をしたデジモンだった。肩から生えた力強い水色の腕とその三本の指が今腕を掴んだのがこのデジモンだと示していた。

げほっがはっとその足元で喉を抑えている五浦の姿を目に止めてザミエールモンが伸ばした手をそのデジモンは弾いた。

一度二度三度、五浦に伸ばした手もフェイントをかけて腹に入れようとした蹴りも、そこから射った矢も全部弾いたのが今のザミエールモンと同等に近い速度を持っている事を表していた。

そこにローダーレオモンが飛び込んできて合わせてくる。もう一度槍になったスパーダモンを持ってアイギオテュースモンが突いてくる。

マミーモンとレディーデビモンまで来ないのは幸いな様にも思えたが、弓矢で人間達を生半可に狙っても当たるわけがないという状態を作っている。

形勢は完全に逆転した。

もう勝つ事を諦めたザミエールモンはせめて一人殺してやろうと怒りに任せて背中に担いだ巨大な矢を腹部の巨大な弓にセットした。もう当たらない標的に射ったりはしない。人間を狙って射れば標的の方から射線に入ってくる。

ザミエールモンの持つ最もエネルギーを使う最も威力のある一撃、受け切れるわけがないとザミエールモンは未だ驕っていた。

「死ね!」

アイギオテュースモンは動かなかった。理由はシンプルで、五浦についたデジモンが完全体になったからもう世莉の危機は見えていなかった。

矢の前に立ったレディーデビモンは左腕をまっすぐ伸ばしてその矢を手のひらで受けた。

矢の先端は手のひらに浅く刺さり、そしてぽとりと呆気なく落ちた。

ふざけるなとザミエールモンは駆け、殴りに行こうとしたがもうその体は動かなかった。






朝、教室に着いた世莉を待ち構えていたのは竜美だった。

「おはよう、竜美さん」

「……おはよう、世莉さん」

いつものように挨拶された事が竜美には悲しく思われた。

「……次は、私にも相談してね」

世莉は曖昧に笑って誤魔化した。多分もし次があったとしてもやはり竜美には話さないだろうと確信していた。

「次またそういう話が来たら真田くん達に丸投げするから大丈夫」

嘉田は、最終的に洗脳とかはせずに真田と一緒に探偵稼業をするという話にまとまった。

その動機が誰でもいいからちやほやされたいというもので、聖を狙ったのも聖がいると何をやっても霞むからという理由。

その身勝手さに平岡は激昂したりしたのだが、縁と縁に付いた世莉や亜里沙に押される形で平岡は時々様子は確認しに来る事を条件に受け入れた。ちやほやされさえすれば良いという嘉田も、常連のおじさんとかおばさんとかは愛想よく接客すればそれだけで可愛がってくれるよというマスターの言葉に受け入れた。

縁と五浦は聖のところにとりあえず名前だけ置いておくか、それとも探偵のところに一応加わっておくか悩んだ末に探偵の方を選んだ。形の上では接客バイト、という形を取ることになった。

委員長と葵には今回のことは内緒にする事にした。

ID.4966
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/04/18(水) 23:12


それは悪魔の様に黒く 六話 あとがき
さて、約二週ぶりです。ぱろっともんです。

なんだかうまいこと区切れなくてゆですぎたうどんみたいになってしまいました。

蘭さんが行方不明状態ですがのんきに家で斎藤さんを描いたりエカキモンと絵しりとりとかしてます。宿題放置してそういうことしてます。

さて、お気づきの方もいるかもしれません。真田君はマダ君です。そうお察しの通り木乃伊は甘い珈琲がお好きのマダラマゼランさんの名前からです。ツイッターの方で行われたなんかそういう企画から生まれた子なので。

本人のところですでに昇華された子も出していく恥知らずスタイルになっています。

また、五浦君もそういう感じの子です。こちらはブイレックスさんで、ブイ→V→ローマ数字の五→五が入る苗字にしよう→五浦という単純な流れです。

どちらにも言えることなのですが、企画で作った子をストーリー的な都合やらいろいろでさらに魔改造しているので元になった方々がこういう人に違いないとかそういう感じで書いてはないです。

ザミエールモンの存在でお判りいただけたかと思うのですが、実は瞬間的にはジャスティモンを倒し得るデジモンは幾らか存在し得たりします。

スパーダモンの様に速度だけ重視のデジモンに火力を与えられるデジモン、という存在もいますし、ユノモンの様に相手の力を封じに行くことができるデジモンもいますから……

今回の話はどうせ委員長以外は雑魚でしょとかエカキモン出せば最強なのではとならないための回でもあったりします。嘘です。後付けしました。

では次回もよろしくお願いします。

ID.4970
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2018/04/22(日) 23:18


た、探偵だと……!?
 マミーモン+探偵というコンビに「ま、まさか!?」と思って読み進めていたら、後書きでやっぱりコイツら探偵かよぉぉぉぉ! どうも、夏P(ナッピー)です。
 五浦さんもそうですが、あまりに自然に出てきたので全く気付きませんでした。「こーいう奴らもいるんだな」ぐらいに思ってたがゲストだったとは……探偵及びマミーモンはガンガン話に参加させればめっちゃ有能そうな気が。今回レディーデビモンに使われてしまいましたが、スパーダモンを使って戦うチャンスだ!


 依頼人のデータ送ってくるのはともかくスリーサイズってお前……そりゃ世莉さんも見たくないわい!
 最初に下手人の外見が描写された時、何故か緑じゃないのに頭に浮かんだ最初のデジモンがノヘモンでしたが、ザミエールモンだった! おお、デスジェネラル! ちゃんと“究極体ではない”扱いも強調されている! 大きさが自由自在な能力も描写されたので今回でやられてしまったのは惜しい。しかしデジモンの物語で生身の人間へのダイレクトアタックを狙われればそりゃ負ける。
 それにしても、セイバーハックモンにブッ刺されても片足変化させて逃げ出すゆうちゃん怖いな。
 うわあああああああああああああああああエカキモン今回お休みいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。
 ザミエールモンが「速さに限れば委員長を上回る」描写されてるので、これは今後出てくる奴らは「総合力では負けるが、個々の得意分野ではジャスティモン以上」みたいな感じになるに違いない!


 それでは次回もお待ちしております。

ID.4972
 
■投稿者:マダラマゼラン一号 
■投稿日:2018/04/24(火) 01:18


かんそう
 どうも、お世話になっております。マダラマゼラン一号です。なにやら見覚えのあるキャラがいると聞き数話ぶりの感想を書きに参上しました。

 四話から一気読みさせていただいたのですが、学校内を舞台としながら殺伐ともしすぎず安易な日常モノに堕すこともない絶妙な空気感が心地よいです。キャラ同士の会話の雰囲気がいいのかな。
 ちなみに僕が一番好きなのは蘭さんとエカキモンのコンビです。四話後編で一気にファンになりました。「潔癖すぎる正義によるディストピア的支配もロマンだよね」じゃあないんですよ。

 そして今回の六話、かなりキャラも多くなって複数の勢力が拮抗している感じもあるのにテンポよく物語が進むお陰ですいすいと読めてしまいました。

 私事によりずっと真田クンの事ばかり気になってしまいました。依頼を受けての五浦君への忠告のシーンはカッケェ! 何処かの誰かと違ってちゃんと探偵できてる! って感じだったんですが、その後すぐにいやお前結局恥ずかしいのかよ! と思わず声に出して言ってしまいました。マミーモンとのパートナー同士の会話は少なめでしたが、僅かに読み取れる雰囲気だけでもどうにも別の世界の話という感じがしませんでした。頑張ってくれよ。

 そして相変わらず世莉さんはいい子。今回の印象だと良い子であると同時に頼まれると断れない巻き込まれ体質っぽくて、このままだと陰ながら彼女を守っている亜里沙ちゃんが胃に穴開けそうで心配です。

 ここにきて急にバトルの難度が高くなってきたのは新鮮でした。とはいえそこからの打開の仕方はあくまで人の気持ちに結びついたもの。事件のアフターを描ききっているのもとても好きです。

 最後に、既にひとつのキャラクターに昇華されたとはいえ、自分をモデルにして作られたキャラが動いているのを見るのはとても楽しいものでした。これから真田くん「ゆうちゃん」が働く喫茶店に通うことになるのか複雑だろうな、同級生の女子の前でも恥ずかしがらずにちゃんと探偵するんだぞ。などと余計な事ばかり考えてしまいますが、これからも世莉さん達の物語を楽しみにしております。

 長文失礼しました。それでは。

ID.4988
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/05/02(水) 21:22


感想偏心
>夏Pさん

感想ありがとうございます。

そう探偵だったのです。今日更新した七話でもそうですが準レギュラー的に世莉さんの関わるきっかけになったりしていきます。

依頼人の知り得る限りのデータのすべてを送ってくるとても誠実なスタイル……

ザミエールモンは学校という狭い舞台で戦ってもらうにもとても向いたデジモンですからね。生身の人間へのダイレクトアタック抜きにはまず勝てない強敵です。

ゆうちゃんはなんかもう……色々やばい子です。

今後もそれなりにジャスティモンやそれに準ずる敵が出てきたり出てこなかったりします。

次回もよろしくお願いします。



>マダラマゼランさん

感想ありがとうございます。

マダラマゼランさんの様なかっこよくておしゃれな雰囲気の話書く人に雰囲気がいいと言われるとなんだかとても照れますね。

蘭さんとエカキモン、愛らしい子達ですよね……色々な意味で……

真田君は本島に過去いいけど残念な子とそう言った感じを意識しました。きっと、きっと頑張ってくれることでしょう。なんだかんだ周りに女子もいっぱいで少しうらやましい感じでもありますし。女子相手の行動も慣れて……行くといいですね。

亜里沙さんの胃に穴をあけるならそれこそローダーレオモンの削岩機みたいなものを持ってきてくださいという感じの子なので割と大丈夫です。先に胃に穴が開くのは……誰でしょう?

次回もよろしくお願いします。