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ID.4940
 
■投稿者:組実 
■投稿日:2018/03/26(月) 20:15
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*The End of Prayers*  15話:感想返信
         
▼tonakai さん
1話から追ってくださりありがとうございます!
登場デジモンに関しては、有名なものからあまりメディアで大きくは出ていなかったデジモンまで、なるべく多岐にわたって出していきたいなと思っております。今後どのようなデジモンが出てくるのか、お楽しみ頂ければ幸いです。

アンドロモンは機械デジモンなので、説明的でくどく長ったらしく!をモットーに台詞を考えました(笑)そう言って頂けてとても嬉しいです!!

また、ベルゼブモン(私も最高に大好きです!)に関しては、初登場の時点からひどく毒にやられて、皆様が普段想像されるようなアニメやゲームの格好良さは殆どない状態となっております。見る方によっては「頼りない!」となるかもしれませんが、きっとこんなにいつも死にそうなベルゼブモンが見られるのも私の作品くらいだと思いますので(多分)、どうぞ温かく見守って頂ければと思います……!

ご感想ありがとうございました!


▼夏Pさん
現実世界とデジタルワールドとの時間軸が違う設定は、無印アニメのリスペクトもありますが、時間の流れを同じにすると「冒険してる間に子供達の夏休み終わる……宿題させな……よしずらそう!」という気持ちから作られました。
嘘です。前者は本当です。
しかし、なるべくデジモン達と長い時間を過ごすためにはどうするか、世界への毒の広がりの時間をどうするか……現実世界にいるシーンもあるので、その兼ね合いを考えると、やはり時間軸はズレていた方が良いだろうと判断しました。

ちなみに現実世界に対して、デジタルワールドの時間の流れは5〜6倍のスピードとなっております。
リアルワールドでうっかり寝坊でもしたら大変。

囚われのプリンセスことブギーモンは相変わらずお布団にぐるぐる巻かれて身動きがとれない状態です。とてもシュールな絵面ですが、夏Pさんのようにほぼ仲間みたいな顔していますので、きっとそのうち解放されてパートナーを探す旅にでも出るのでしょう多分!

そんなブギーモンも含めて今後どうなるか乞うご期待……果たしてスカモンは出るのでしょうか……笑
ご感想ありがとうございました!!


▼狐火 さん
こんにちはパステルカラー女子です!!!!!笑

嘘です!そっち系の分野大好きマンです!
物語はフィクションですが描写は自身の力の限りリアルに描いていきたいと常々……

メインの四人以外はほぼ皆が病院送り必至な状態なので、私もなるべく早めに助けてあげたい……そう思っております。そろそろ皆の口から甘酸っぱい臭いが漂っている頃かと思いますので……。

おっしゃるように本作の世界では、今では進化はイレギュラーなものばかり。パワーバランスも最悪です。果たして切り抜けられるのか……一発逆転はあるのか……作者ながらヒヤヒヤしております。答えはもう少し先のお話となりますが、どうぞお楽しみに!

そして「生きていて欲しくなる」、というご感想、とてもとても嬉しいお言葉です。私の中の彼らも喜んでおります……!
生きているからこそ、生きていく為に、これからもたくさん悩んで抗っていく彼らのことを見守って頂ければと思います。

果たして狐火さんの心配の種は減っていくのか増えてしまうのか、答えはこの下の第16話をご覧下さい……!お楽しみ頂ければ幸いです……!

ご感想ありがとうございました!!

ID.4941
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/03/26(月) 20:19


*The End of Prayers*  16話 @
◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆





 腰布につけたままの鍵が、歩く度に音を立ててうるさい。

 落とさないよう普段は部屋に置けと言われていたが、一度持っていくのを忘れてからはずっと持ち歩くようにしている。

 そういえば、最近はアタリの方にしか行っていない。地下牢へ行くのが面倒で、ついサボってしまう。あそこの人間達はまだ生きているだろうかと、たまに思う。

 ……死んでしまったら、フェレスモン様に起こられるだろうか。
 しかしアタリはともかく、ハズレには回路としての価値がない。価値のない者に、自分達の限られた食料を渡すのは惜しい。物資もそうだ。無限にあるわけじゃない。

 一体いつまでこの籠城生活を続けられるのだろうか。食料を外へ探しに行った者達はことごとく毒に飲まれてしまった。せめて、フェレスモン様の遠征で変化があればいいのだが。

 そろそろ帰還の日程のはずだ。お迎えしたらまずはアタリの人間を見せ、ブギーモン共々お褒めの言葉を頂こうじゃないか。

 ……しかし、やはりハズレが全滅してしまっているのはマズいだろうか……?

「よし、飯は今日で最後にしよう」

 閃いた。そうしよう。ある程度まともな食事の痕跡を残しておけば、もし全滅していてもそこまでお咎めはないだろう。最後の晩餐というやつだ。

 フーガモンは意気揚々と厨房へ向かった。……そういえば、ハズレの人間は何人いたんだっけ?





*The End of Prayers* 第十六話 「古城の夜は激しく」






◆  ◆  ◆





 フーガモンが地下牢へやってきたのは二日ぶりであった。

 蒼太と花那は初めて出会う。城の外で見たミノタルモンとはまた違った異様な風貌に、思わず息を飲んだ。檻の中でじっとしていれば危害は加えられないと聞いている。それを信じて、事が終わるのを待つ。

 フーガモンは子供達に声をかけることなく食事を置いていく。蒼太と花那が加わったことには気が付いていない様子だった。人間の顔など、いちいち覚えていないのだ。

「……?」

 誠司は、フーガモンが持ってきた食器がいつもより大きく、数も多いことに気が付いた。
 いつもは乾いたパンのようなものが人数分も無い状態だったのに、今日は数も十分あり、豆のようなものが入ったスープまで付いている。

「あ、あの」
「…………あ?」
「ご、ごめんなさい。でも……いっぱい、ご飯があるから、びっくりして……」
「なんだ。まだ声出せる奴もいるんじゃねえか」

 噛み合わない返答に、誠司は困惑する。

「でも結構ダメになってんなあ。あー。まあ仕方ねえか。
 良かったなお前。食えねえ奴の分まで腹一杯食えるぞ。あと二日くらいその状態でいてくれりゃ、助かるんだけどな」
 
 笑いながらフーガモンは鍵を開け、食事を中に入れた。

「まあ、とは言えこれで最後だ。ゆっくり食えよ。じゃあな」

 いつもよりどこか優しい、その言葉の意味を理解できないまま──目の前に置かれた豪華な食事に、子供達はただ目を丸くさせるだけだった。


『最後って……どういうこと……?』

 その光景は、花那に隠れた使い魔を通して異空間の柚子達にも見えていた。

『今日は随分と豪華デスね。栄養価としては問題だらけデスけども』
『そこの問題はいいよ! ……今までだって、全然もらえてなかったのに……。これが最後なんて、餓死しろって言ってるようなもんだよ……!』
『……良くも悪くもデスが、フェレスモンの帰還まで時間がありまセン。それまでに子供達を帰還させる必要がありマスわ。飢えて死ぬより、その時が来る方がずっと早い筈。
 ──ああ、皆様、ワタクシ達のことは気にせず、まずは召し上がって下さいネ。けれどもソウタとカナ以外は飢餓状態にありマスので、一気に食べると逆に危険デス。スープは動けない子供へ優先して与えてくだサイ』
「皆には私と蒼太であげるから、手鞠と海棠くんは先に食べてて」
「……ありがとう、花那ちゃん」

『ウィッちゃーん、蒼太くんたち着いたんだって?』

 最後の食事を堪能していると、電話の向こうから雰囲気に合わない陽気な声が聞こえてきた。

 今度は誰? と、誠司と手鞠の視線を浴びる。

『やっほーハローハロー蒼太くん。生きてた?』 
「……みちるさん。……なんだか、久しぶり……ですか?」
『おうよ! 最近ずっと隣に引きこもりで寂しかったよ!』

 襖を開けて出てきたみちるは、興味津々といった様子でモニターを覗く。

『それより丁度よかった。二人ともさ、今ごはんあげてる子達の顔、ネコちゃんによく見せてくれない? 誰がいるか確認したいんだよね』

 ウィッチモンに頼まれリストアップしていた──誘拐被害に遭ったとされる子供達の情報と、実際に牢にいる子供の顔とを照らし合わせている。

『進捗、如何デスか?』
『バッチリさ! 少なくともちゃんと情報があった子はね! それ以外はダメです!』
『まあそれは、仕方の無い事デスので』
『おっ、なんか思ったより良いご飯たべてるじゃないのー。水しかもらえないのかと思ってた! 結構、気前がよろしいの? ここの人たち』

 ニヤニヤと画面を眺めるみちるに、柚子は少しだけ不愉快な気持ちになった。
 そんな楽観的な状況じゃないことは、目で見てわかるはずなのに。

『……このご飯も二日ぶりなんですよ。もうこれで最後みたいだし……』
『やだ世知辛い! どうりで皆げっそりしてるわけだ!
 ところでさ、キッズの数が情報と全然合わないんですけども』
『そういえばお伝えしていまセンでシタね。残りは別の場所にいるようデス』
『まじでか! ほとんどいないじゃないの!』
『……なんとか合流しないとリアライズゲートは開けない。何せ腕輪が使えるのはあと一回デスから』
『……ん? ここ、ブギーモンのおうちなんでしょ? 他の奴がつけてた腕輪、見つけて使えばいいじゃん』

 きょとんとするみちるに、ウィッチモンも柚子も、押し入れのブギーモンでさえ呆気に取られていた。

『そ、そっか……そうだ! その手があった……!』
『おやおや灯台もと暗しってやつかい! みちるちゃんナイスアイディアってやつかい!』
『今ブギーモンに一番接近できていルのはコロナモンとガルルモン……使い魔をそちらに向かわせて指示を伝えマスわ。
 ……もっとも、二人を見つけるのに時間がかかる可能性がありマスが』
『チューモンもまだ戻ってこないし……。手鞠ちゃん、チューモンはどうやって城の中を移動してるの?』
「えっと、たしか、換気扇の穴みたいな所から行ってるって……」
『ダクトの中デスね。わかりまシタ。使い魔も同様に走らせまショウ。運が良ければチューモンと会えるかもしれまセン。
 ミチル、ありがとうございマス。その案はワタクシも盲点でシタわ』

 花那の傍らの猫が、その胴体を影のように伸ばしていく。

「わっ! ……この猫、バレないで行けるの?」
『行くだけなら問題ありまセンが……知っている匂いしか追えない、そのままの状態では何かに触れて持ち歩くことも出来ない。難点ばかりデス。監視や連絡には便利デスが、そのせいでチューモンには負担をかけてしまッテいマス。……ワタクシがそちら側にいればもっと出来る事も多かったのデスが……』

 魔女や魔法使い、魔導師などをモチーフに生まれたデジモンは、そのモチーフ通り、魔法や呪文、使い魔といったものを使役することができる。

 しかし本体と末端との距離が離れすぎている場合、使役できる能力に制限がかかることがある。術者である本体への負担を軽減する為だ。
 特に今回のように──本体と末端たる使い魔とが次元さえ隔てている場合、周囲が考えている以上に本体への負担が大きい。
 コロナモンやガルルモンがデジタルワールドからリアルワールドへ渡った際に身体にダメージを負ったが、それが微々ながらも常にかかっている状態である。

「……ウィッチモン、俺、二人が心配なんだ。コロナモンが、さっき来た時……すごく傷だらけだったんだ。ひどいことされてるのかもしれない」
『ありゃあ厄介なブギーに当たっちまったなぁ。俺も他の奴のことは言えねえが、アイツは自分より下だと思った奴は死ぬまでいたぶる奴だよ。
 単純に趣味だけで言うなら、フェレスモン様が一番まともなんだぜ』
『それは良い事を聞きまシタ。まともな思考をお持ちならば、むしろフェレスモンとの交渉は安心して行えそうデスね』
『ま、あのデカブツは成熟期だからともかく……チビはキツいだろうなあ』
「そんな……」

 蒼太の顔が青ざめた。

「ウィッチモン、なるべく早くコロナモンたちの所に向かわせて……!」
『行って助けられるかは別デスが、急ぎまショウ』
『ハハッ。急ぎすぎてバレねぇようになあ』
「……か、花那ちゃん。さっきから聞こえる変な声……誰……?」

 およそ仲間とは思えないいやらしい声に、手鞠は怪訝な表情を浮かべる。

「えっと……何というか、これは……」
『ブギーモンの声デスよ。一体だけ、捕獲に成功しまシテ』
「え、え……!?」
『お互い囚われの身ってやつだなあ! 不憫同士、仲良くしようぜ』
『このように喋る元気だけはあるようデスが、大丈夫。ワタクシ達がしっかりと拘束し監視シテおりマスので』

 背後で汚い笑い声が響く。

「……そーちゃんたち、凄いことしてるんだな……」
「凄いというか……俺たちもこうなるなんて思わなかったし……。
 ……でも全部、コロナモンとガルルモンのおかけなんだよ。俺と花那は……助けてもらってばっかりだ」
「そ、そんなことないよ! 花那ちゃんも矢車くんもここまで助けに来てくれて……本当にすごいよ!」
「そうだよ! オレたちのヒーローだよ!」

 真っ直な瞳に二人は苦笑する。本当に、そんなことないのに。

「だから……! ……だから、一緒に帰ろう。そーちゃんも、村崎も……」

 真っ直ぐな瞳の中にある不安は、誠司の直感的なものであったが──自分達とはどこか違う立ち位置にいる二人は、このまま一緒に帰ってはくれないのではないか。そう感じていた。

 蒼太と花那は答えずに、申し訳なさそうに目を伏せることしかできなかった。



◆  ◆  ◆



 異空間の部屋で、ウィッチモンは険しい表情でパソコンの画面を凝視している。

「コロナモンたち、見つかりそう?」
「幸い、ダクトの空気の流れがこちらに向かっておりマスので……匂いは追いやすいデスね。今の所は順調デス。……しかしチューモンとすれ違いまセン。違う道を帰ッテ来ているのでショウか……」
「……ウィッチモン、汗、凄いよ。顔色も……」
「……ええ、思った以上の体力の消耗デス。今までカナの連絡機器を一時的な媒介にシテいましたガ、それから離れての移動がこんなに大変とは……」
「村崎さんのケータイにくっついてたの!?」
「ええ。彼女にも言ッタように、ガルルモンが主な移動手段であるなら……そのパートナーの一部を媒介するのが良いと考えまシテ。
 しかしそれにしても、ワタクシが出来る事は限られていマス。せめてこのくらいはやらなけれバ、命を懸けてる彼らにも申し訳ありまセン……」
「……私に、何かできることはある?」

 ウィッチモンは目線をパソコンに向けたまま、柚子に手を差し出した。

「では、手を握ッテくだサイ。……いえ、手でなくとも、服などでも良いのデスが。貴女との接触がワタクシの支えとなる」
「……それだけでいいの?」

 柚子は手を握る。ピリピリとした感触が伝わる。……これがデジモンとの絆を、力を強くさせていくのだとウィッチモンは言っていた。
 ──自分は、彼女に触れることしか出来ないのだろうか。他には、何も出来ないのだろうか。

「……残酷なことかもしれまセンが、ユズコ。人間には、出来る事があまりに限られている」
「……え?」
「貴女も、ソウタもカナも、デジモン達に比べて出来る事が少ないのは当然の事。
 例えば貴女が子供でなく、筋骨隆々の格闘家だったとしまショウか」
「……想像したくないなあ、それ」
「うふふ。ワタクシもデス。
 ……さて、格闘家と仮定した貴女は、デジモンを相手に何が出来るでショウ。あんな、牙も鋭くて、炎やら光線やらを出してくるモンスター達に。
 少なくとも──どんなに強くあれ、人間である以上デジモンと対等に戦うことはできない。デジモンと渡り合うのはデジモンでなければならないのデスよ」

 人間にできることは少ない。──ハッキリと言われて、柚子は俯いた。

「……私ができるのは、こうやって、ウィッチモンに触れあうことだけ?」
「そう。こうしてパートナーを強化していく事こそが、そして戦うデジモン達の心身を支えていく事こそが、貴女の、人間の、とても大切な役割。それをどうか胸に刻んで欲しい」
「……でも、その、もし格闘家とかじゃなくてもさ、とっても凄いプログラマーだったり、頭が良くて作戦とかもすぐ浮かんだりしたら……」
「まあ! それはやめて頂きたい。ワタクシの役割が取られテしまいマスわ!」

 ウィッチモンのオーバーなリアクションに、柚子は思わず笑ってしまった。ウィッチモンも微笑んでいた。

 しかし、すぐに真剣な表情に戻る。

「────使い魔の察知する匂いが強くなりまシタ。……だいぶ遠いデスね」
「……チューモンとは、結局会わなかったね」
「ええ。後で地下牢に戻ッテいるか確認しまショウ」
「! ウィッチモン! コロナモンとガルルモンだ!」

 パソコンの画面──使い魔の視界に、コロナモンとガルルモンが映り込んだ。

 二人とも、ひどく傷だらけだ。
 
「……ひどい……」
「付近に熱源は……ブギーモンは……いまセンね。よかった。
 ──コロナモン、ガルルモン、聞こえマスか?」

 ガルルモンの耳が動く。直後、目を丸くさせ上体を起こした。

『ウィッチモンか!?』
「ええ。お二人に緊急でお伝えしたいことがございましテ。
 ……コロナモン、傷が酷いデスね。大丈夫デスか?」
『……大丈夫。見た目より深くないよ。それより蒼太たちは……』
「彼らも問題ありまセン。ご安心下さい。それよりも、二人にはブギーモンがいない間に、今いる部屋を探索して頂きたいのデス」
「もしかしたら、その部屋にブギーモンの腕輪があるかもしれないの! それを探して欲しくて……」

 ガルルモンとコロナモンは状況をある程度察したようだった。今のうちに探しておくと、使い魔を通して声が届く。

「時間もありまセン。頼みまシタよ。流石に三人で探せば────」

 ────画面をよく見る。

 リュックサックが空いている。中身がない。けれど部屋には、二体しかいない。

「…………これは、どういう」
「ウィッチモン! ユキアグモンが……」
「ええ、ええ。見てわかりマス。ユキアグモンが」
「ユキアグモンが地下牢に着いたって、手鞠ちゃんから連絡が……」

 画面の二体は気まずそうな顔をしていた。柚子は、ウィッチモンの顔が一瞬でやつれていくのを見て、思わず両手で彼女の手を握りしめた。



◆  ◆  ◆

ID.4942
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/03/26(月) 20:20


*The End of Prayers*  16話 A
◆  ◆  ◆



『なんて軽率な!』

 地下牢にウィッチモンの声が響く。
 チューモンは耳を塞いでいた。

「なんだよ! お前らの仲間つれてきてやったのに、なんでそんな声上げられなきゃいけないのさ!」
『貴女にではありまセン。ワタクシはそこのユキアグモンに言っているのデス』

 ユキアグモンは誠司との感動の再会を果たしていた所だった。誠司は泣きながら、鉄格子ごとユキアグモンを抱きしめている。

『それより、ユキアグモンが中に入ってない……のは、なんで?』
「こいつの大きさじゃ牢の中に繋がるダクトは抜けられない。だから別のルートで来たのさ。檻の外から繋がってる排水溝からだ。
 どうせここにはこいつらしかいないんだ。フーガモンが来たときは、別の牢の陰に隠れてればバレないさ」

 ウィッチモンの表情には未だ怒りが浮かんでいる。ユキアグモンは、頑なに使い魔から目をそらしていた。

『ユキアグモン。ワタクシの、使い魔の方を見なサイ』
「……ぎー」
「ゆ、ユキアグモンを怒らないで!」

 誠司がかばう。

「オレを探しに来てくれたんだ! 何が悪いのさ!」
『運良くチューモンと出会えたから良かったものの、そうじゃなければ城のデジモンに見つかッテいたかもしれない。
 そうすればユキアグモン、貴方の命が危なかッタ!!』

 自身の命を軽率に扱ったことに対する怒り。ユキアグモンは、そっと使い魔の方を向く。

「……ごめんなざい。でも、おで、早くなんとがしないどって。鍵が、見づからないなら……試してみようっで、思っで」
「こいつなりに考えがあるみたいだよ。ダメ元でもやらせてやろうじゃないのさ。どうせ、ろくな打開策なんてないんだから」

 ウィッチモンは少し考えて、深く息を吐く。彼女も落ち着いたようだった。

『……その考えとは?』
「! お、おでの……氷で、型をとる、んだ。鍵の型……。作れれば、ここを、開けられるがもしれない。
 そーだと、かなは、出ないどいげないし、開げないと、リアライズゲートも、開がないんでしょう? 他の場所の子も、合流しないといげない」
「……やっぱり、花那ちゃんと矢車くんは……」
 
 言いかけた手鞠を遮るように、ウィッチモンの言葉がかぶさる。

『確かに。鍵を開けて子供達を、二人を外に出さないといけまセン』
「だから、やっでみる。……見でで」

 ユキアグモンは誠司から離れた。鍵穴に爪を入れ、内部を奥から凍らせていく。
 パキパキと音を立てて、やがて南京錠は凍りついた。
 穴の中も、すっかり氷で埋まっている。

「ぎい。あど少し」

 ユキアグモンは爪を立てて、まずは穴の周囲の氷を剥ぎ落とした。
 埋まった氷を取り出そうとする。

 ──しかし、何度試みても中の氷が取り出せない。

「……ぎ……」

 爪でつついて、隙間に差し込んで、やがて氷はへこむように削れてしまい、とうとう取り出せない状態になってしまった。

 ユキアグモンは呆然と、もうどうしようもなくなってしまった鍵穴を見つめた。
 やがてその場に座りこみ、ひどく落ち込む。こんなはずじゃなかったのに──と。

「……ユキアグモン」

 誠司は慰めるように声をかける。
 
「また後でやってみようよ! もしかしたら今度はできるかもしれないよ……!」
「……ぎい」

 ユキアグモンは申し訳なさそうに使い魔に目をやる。ウィッチモンは、ユキアグモンを責めることはしなかった。

『氷の外し方を、ワタクシ達もどうするか考えておきまショウ。成功すれば当たりの子供達の牢も開けられマス。
 ひとまずフーガモンはすぐには戻らないでショウから、焦らずに』
「……ぎぎー。怒らない、の?」
『ウィッチモンが怒ってたのは、ユキアグモンを心配したからだよ』
『ねえ、中に油ぬったらヌルヌルで外れるんじゃない?』
『それは……油も凍るんじゃないですか……?』
『むー。じゃあ鉛筆の芯を削って入れる!』
『どこから鉛筆持ってくるんですか!』

 亜空間の様子に、ユキアグモンは胸を撫で下ろした。誠司が鉄格子から腕を伸ばし、「良かったなあ」と白い頭を優しく撫でる。
 ウィッチモンは困ったように微笑みながら、その光景を眺めていた。



◆  ◆  ◆



 ブギーモンの部屋は静まりかえっていた。

 コロナモンの傷は深くなっていくばかりだ。食料は最低限しか与えられず、もちろん手当てなどしてもらえない。

「……前に、ユキアグモンや……ウィッチモンも言ってたっけ……? その、言ってたことが、気になるんだ」

 天井を見上げながら、ガルルモンに語りかける。

「パートナーがいると、強くなれるって……。……もしかして、怪我とかも……治ったりするのかな、なんて」
「……どうだろう。……でも、確かに僕らは……リアルワールドに来て、あの子達に……不思議なくらい助けられた」
「……なんか……こう言うと、二人を道具みたいに思ってるみたいで、嫌なんだけど……」
「大丈夫。……大丈夫だ。ちゃんと、わかってるから」
「……ウィッチモンが度々、使い魔を送ってくれるから……二人とユキアグモンの様子がわかるのは、安心するね」

 使い魔による定時連絡──もちろん、ブギーモンのいない隙を狙ってではあるが──によって、地下牢の状況はある程度把握できていた。

 蒼太と花那はお腹を空かせているが無事だということ。食事はもう与えられないこと。戻ったユキアグモンが、氷の鍵を作ることに何度も挑戦しているということ。

 コロナモン達の傷の様子は報告されなかった。余計な心配をかけて焦らせたくないと考えたからだ。
 とは言え、停滞した状況にどうしても焦燥を抱かずにはいられないのだが────その中で、子供達を安堵させる朗報もあった。

「あとは俺たちがうまくこの部屋から抜け出して……あの腕輪を渡せれば……」

 コロナモンが目を向けるのは、ブギーモンの部屋の奥、乱雑に積まれた荷物の山の裏側。
 リアライズゲートを開くための腕輪が、隠される様子もなく置かれていた。

 役目を終えた腕輪を、ブギーモンはあまり重要視していない様子であった。まさか自分がいたぶっているデジモン達が、その価値を知っているとは考えもしないのだろう。

「……ガルルモン、それにしても……ブギーモンも帰ってこないし、ウィッチモンの連絡もないね」
「……何もないのなら一番だし、奴は帰ってこない方がいいよ。少し休憩だ。
 ……ああ、もう外がすっかり暗いな」

 僅かに差し込んでいた薄暗い光は消え、灯りのない部屋の中は暗闇に溶け込む。

 彼らにとっての、二度目の夜がやって来た。



◆  ◆  ◆



 アタリの牢の食事は実に充実している。

 ──と言っても、ハズレの方に最後に与えた食事の内容とあまり変わらないのだが。
 しかし子供達は誰も倒れておらず、フーガモンに怯えることもなく、どうして自分達が捕らえられているか疑問に思うことも減り、ただ生き延びる為だけに笑顔を浮かべるようになっていた。

 フーガモンはそんな子供達の様子を、いよいよ気がふれたのだろうと思っている。
 そのまま舌でも噛まれて死なれると困るので、「今はこんな扱いだが、城主が戻ればより良い環境に身を置くことができる」と定期的に伝え、子供達の心身をなんとか保とうと努めていた。
 
「実際、死なれると困るしな」

 頭をボリボリと掻く。

「いや、いやいやーでもさ?? こんなに人数必要? と思わねえ?」

 野太さが裏返ったような気味の悪い声を出すブギーモンは、美しい宝石が飾られた手袋を指で揺らしている。
 水晶のようなその宝石は、以前に地下牢で行われた“選定”で使われたものと同じものだ。

 アタリの牢では定期的に選定が行われていた。反応が無くなった者はハズレに移す予定であったが、幸い全員がその危機を逃れた。
 ──また、より反応が強く出た数名には、特別に一品多く食事が与えられていた。

「確かに多いけどよ。減らせねえだろ。そんなことしたらマジで俺らが殺されるって」
「あとさ、逆にさ、ハズレがアタリに変わったりとか? って、俺様は思ってみるんだが」
「流石にそりゃねえだろ。適性アリなら初めからそう出るだろうさ」
「やってみたらどうだ? もし、もしだ、フェレスモン様が帰ってきて、ハズレにアタリがいて、死んでたらまずいたろ?」
「もう行きたくねえよ。あの場所、くせえし」
「これ貸してあげるからさ、な、ほら、行ってみて、やってみよろ、な? な? やらないなら俺様、もしハズレにアタリがいても、お前のせいにするから」

 フーガモンは心底不愉快そうな顔で舌打ちする。
 ブギーモンから手袋を奪い取り、苛立ちを露にしながら地下牢へ向かった。



◆  ◆  ◆




 それは、あまりに想定外の事だった。
 もう、ここには来ないと誰もが思っていたからだ。

 フーガモンの気配に最初に気付いたのはウィッチモンであった。使い魔の熱源探知能力が、巨体から発せられる体温を感知した。

『……ユキアグモン、すぐに移動を。奥に角が見えマス。そこに身を潜めていテ』
「おいおい。この前の飯が最後じゃなかったのか? 今更デザートでもくれるっていうの?」
「チューモン、わたしの服に隠れてて……!」

 ユキアグモンは走り、ウィッチモンに言われた通りに隠れる。誠司は心配そうに、その様子を見守っていた。

『まだフェレスモンは帰還していない筈。下手に動かなければ危害は加えられない──と、思いマスが……。
 使い魔からの音声は一度落としマス。我々の声がそちらに漏れないように』

 直後、使い魔の猫からの音声が途絶える。
 子供達はなるべく壁際に寄った。

 ──金属の扉が開く音がした。
 金棒が石を叩く音が響く。段々と大きくなる。

 戻ってきたフーガモンはため息をつきながら牢の中を見回す。片手には金棒、もう片手には、何かの宝石が飾られた手袋──どちらも以前は持っていなかった物が握られていた。

「……ああ、飯はもう無いのか。まあいい。器とカスさえあればな。
 ところで──今からここを開けるが、前と同じだ。逃げようとしたり俺より前に出たら、足を潰すからな」

 誠司と手鞠は、その言動が以前に聞いたものと同じだと気付く。牢の場所を移動させられた、あの時だ。
 手鞠は花那に、そして花那の背後に隠れている使い魔に耳打ちした。

「……多分、わたしたちが他の子と分けられたのと、同じだと思う。……ちゃんとしてれば、大丈夫。怒られないよ」
「…………うん。わかった」

 一瞬、手鞠や誠司と離れる可能性を危惧したが──全員にパートナーが存在している以上、少なくともこの四人の結果は変わらないだろう。
 子供達は、速やかに選定のやり直しが終わることを願った。

 フーガモンは鍵を取り出す。腰を落とし、鍵穴に差し込もうとした。



「────何で、こんなに濡れてるんだ?」



 鍵穴には、ユキアグモンが何度も、鍵を作ろうとした跡が

「……これは、氷か?」

 爪で削り取っても剥がれずに、こびりついてしまった氷が、穴をふさいで鍵が入らない。

「────」

 子供達の顔が青ざめる。

 どうしよう。聞かれたら何て言えばいい。言い訳が思い付かない。しようにも声が出ない。
 鼓動が早くなり、指先が震える。貴重な水分は冷や汗となって垂れる。

「……誰か……いたのか? いや……。……いるのか? ……おい。
 ────おいッ!!」

 金棒で鉄格子を殴る。

 格子がひしゃげた。子供が通れるくらいの隙間が空いた。皮肉なことに、もう、鍵は必要なくなったのだ。

 牢の子供達は──衰弱した者でさえもその怒声と金属音には気が付き、恐怖する。
 さっきご飯をくれた筈の、怖い鬼が怒っている。どうしてなのか、飢餓により思考することができなくなった子供達には理解できない。

「……蒼太……」
「……ッ」
 
 蒼太と花那はひたすら、コロナモンとガルルモンのことを考えていた。──助けに来てほしいと、思った。また頼ってしまうなどと思う前に、あまりに絶望的な状況に命の危険を感じ取っていた。

 フーガモンは周囲を見回す。ふと、何かに気付いたのか────地下室の奥に目を向けた。

 散らばった氷が溶けた跡。
 足跡のように、ユキアグモンへの道標となっていた。

 誠司がそのことに気付く。何かを言おうとして、蒼太が止める。
 フーガモンは二人の様子になど目もくれず奥へ進んだ。そして────

「───お前か?」

 ただ一言。壁の向こうに隠れていたユキアグモンに、言い放つ。

「なあ。どうやって、忍び込んだ」

 ユキアグモンは答えられなかった。声を出せなかった。
 フーガモンは、犯人が成長期であったことに拍子抜けした様子だったが──すぐに瞳に殺意を宿す。

「まあ、いいか。聞かなくても。どんな目的でも関係ねえ。侵入者は、殺してやる」

 静まり返った地下牢にその声は響く。誠司が蒼太を振りきろうとした。

「や、やだ。やめて。オレのユキアグモン……」

 這うように牢から出ようとする誠司を、蒼太は泣きながら、彼の服を掴んで止める。 

「い、いま、行ったら……誠司、殺される……」
「でも、でも、でもユキアグモン、ユキアグモンが、あのままじゃ、あいつが死んじゃう」
「でも……でも……」
「ユキアグモン……ユキアグモン……逃げてよ……」

 目の前に立ちはだかる巨体の視線を浴びたユキアグモンは、逃げることなど出来なかった。逃げても追い付かれるとわかっていた。
 ──戦っても、自分では到底敵わないことも、わかっていた。

 それでも辛うじて彼が出来た“抵抗”は──

「…………ぎ、ぎい…………」

 輝く腕輪をはめた、片腕を掲げること。

「……て……」
「……!? ホーリーリング……!? どうしてお前が……」
「てんし、さま……」

 腕は震えていた。腕輪は鈍く光っている。 

「これ、つけでれば……守っで、ぐれる……」

 声も震えていた。その発言に、フーガモンは目を見開く。

「…………は?」
「てんし、さまが……守っで、ぐれるっで、言ってだ……」

 その発言の意味を理解するまで時間がかかったのだろう。少しして、意図に気付いて、フーガモンはこらえるように笑い出す。

「おい……おいおい。おいおいおいおい……。ハハッ! マジかよ! おい! 本気で言ってんのか!?
 俺がウィルス種だからか!? だから言ってんのか!? 信じらんねえ本当にそれで助かると思ってんのかよ!
 そもそも……お前みたいな種族がそんなもん持って、ろくに使えるわけねえだろうが! なあ!!」
「ぎゃっ!」

 笑いながら、金棒でユキアグモンをなぎはらう。──小さな体は勢いよく鉄格子に打ちつけられた。

「はー。腹いてぇ。ほら見ろ、その大事な腕輪は何もしてくれねえぞ。……それか残念ながら偽物なんだろうさ。
 ──もっとも、初めからそんな物を頼りにしてる時点でよ、なんて言うか、もう、アウトだろ。お前」

 ユキアグモンはそれでも起き上がり、震えながら腕輪を掲げている。
 フーガモンは再び笑った。ひとしきり笑った後で、ユキアグモンの頭上に、金棒を振り上げる。

「お祈りとやらは済んだかよ。それじゃあ……データの塵になって、天使様の所に帰んな」

 ───ユキアグモンの瞳に、腕輪越しの金棒が焼き付く。
 時間が止まったような感覚に襲われた。それでもユキアグモンは、最後まで腕輪を掲げていた。



◆  ◆  ◆

ID.4943
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/03/26(月) 20:26


*The End of Prayers*  16話 B
◆  ◆  ◆



 脳裏に浮かんだのは、清らかで美しい故郷の風景。

 外の世界で死にそうになっていた自分を助けてくれたデジモン達。
 部外者の自分を迎え入れ、同胞の一人として扱ってくれたデジモン達。

 使命を与えられた自分に、お守りだと腕輪を渡してくれた、大事な “天使様” ──。

 もう一度、彼らに会いたかった。
 こんな自分にもパートナーができたと伝えたかった。使命を果たしたと、誉めてもらいたかった。

 そして最後にもう一度、誠司と彼の部屋で、穏やかな時間を過ごしたかった────。


 ───。

 ─────。


 ────────?


 いつまでも自分の頭が潰されないことに、ユキアグモンは疑問を抱く。

 フーガモンは金棒を振り下ろしていない。かざしたまま動かない。フーガモンの表情は固まっていた。────金棒が、振り下ろせない。

「…………は?」

 そしてフーガモンは、自らの腕が──縄のようなもので固定されていることに気付く。

「……何だ……? この……黒いのは何だ……!? どこから湧いてんだ!?」

 黒く、細長く、柔軟な何か。それは人間を幽閉している牢の中から伸びていた。花那の傍らに寄り添う、黒い影の猫が叫ぶ。

『“ バルルーナゲイル ”……!!』

 地下室に風が舞う。つむじ風となりフーガモンを襲った。巨体を影に絡めたまま鉄格子に押し付け、暴風で金棒を強引に引き剥がす。

「!? クソが……」
『ユキアグモン早く! 広い場所へ走ッテ!!』

 今までに聞いたことのないようなウィッチモンの声。蒼太も花那も、隣にいる柚子さえ、その声色に驚愕した。

『足止めならバ! わずかな、間なら! 同じ成熟期のワタクシが……!!』
「クソが!! 成熟期だあ!? どこにいやがる! どこからやりやがった!」
『ユキアグモン! 早くしなサイ!!』

 悲痛とまで言える声。
 その声に、言葉に、ユキアグモンの鼓動が早くなった。下がっていた体温が上昇した。……だが、まだ恐怖が上回り体を動かせないでいる。

「クソが! ──“ イビルハリケーン ”!!!」

 フーガモンは拾い上げた金棒を回転させる。ウィッチモンの風に引けを取らない竜巻が、使い魔とユキアグモンを薙ぎ払った。

『ぐっ……』
『ウィッチモン!』

 ──亜空間から次元を越えて、使い魔を使役することは決して容易ではない。

 普段は花那に寄り添い観察・発言をするだけの使役とは違う。長距離の移動とも異なる。
 物に触れる為に実体化し、あろうことか自身の代わりに戦闘をさせるという行為は──操作者であるウィッチモンにあまりに大きな負荷をかけた。

 ウィッチモンはモニターの周囲に複雑な光の輪を描き、両腕で操っている。
 指先は皮膚のテクスチャーが剥がれ落ちていた。腕の、首の、額の、眼球の血管をひどく浮き立たせ、歯を食いしばり、本人にしかわからない動きで光の輪を浮かべては動かし、動かしては改変する。

『指が……! 大丈夫!?』
『……なんて……情けない事!!
 この場所からでは演算が追いつかナイ魔力も足りナイ不完全ナニモカモ! 嗚呼もし此処がウィッチェルニーであればこんなことには……!!』
『! ウィッチモン! ユキアグモンが動いた! 出口の方に!』

 竜巻で運良く通路側へ飛ばされたユキアグモンは、よろめきながらも走り出していた。
 誠司がひしゃげた格子の隙間を抜けようとする。蒼太と花那は、まだ駄目だと引き留める。

 誠司の代わりに駆け寄ったのは、ウィッチモンの使い魔であった。

『広い場所なら……!
 ユキアグモン、ワタクシの指示で動くように! 幸い貴方の能力とワタクシの魔法は相性が良い!』
「ぎ……でも……」
『ここで殺されればセイジも死にマスよ!
 使い魔の水の魔法を貴方の息吹で凍らせテ。奴の四肢の腱を切り落とすマデ!!』

 フーガモンが金棒を振り上げ走ってくる。周囲には電気をまとった球体が浮かんでいた。

『 “ アクエリープレッシャー ”!!』
「 “ リトルブリザード ”!!」

 使い魔の口から高圧の水が発射される。その水はユキアグモンの息吹で凍りつき、氷柱の矢となりフーガモンに襲いかかる。

 フーガモンは金棒でその氷柱を砕き落とす。浮かべていた電気の球体が、ユキアグモンめがけて放たれた。

「ダンプ……クラウド!!」
『!! 使い魔を狙うのは非効率的と判断シタ……けれど!』

 つむじ風が壁のように広がり球体を巻き込む。水分と空気と電気が混ざり合い、つむじ風の中は嵐のようになった。

 フーガモンは怯む様子など見せずに嵐の中を突進してきた。自身の電流を帯びた巨大でユキアグモンを蹴飛ばし、使い魔の猫を捕まえ、胴体を握り締める。握り潰す。

「ぎゃんっ!」
「クソ! クソ! やっぱりだ! 本体と全然繋がってねえ! どこに……」
『 “アクエリープレッシャー ”!!』
「……いやがる!!」

 発射された水はフーガモンの頬を切り裂いた。使い魔は握り潰されたまま。
 フーガモンはそのまま使い魔を食いちぎった。

『…………ッ!!』

 ウィッチモンはすぐさま使い魔の再生をはかる。テクスチャーが剥がれた指先からは、なにやら焦げ臭い煙が漂っていた。 

『ウィッちゃん指こげてない!?』
『問題ありまセン!!』

 ちぎれた使い魔の口から様々な声が聞こえてくることをフーガモンは不審に思った。同時に、このよくわからない──影のような生き物を扱うデジモンが、一体だけではないことを察する。
 見えない所に、まだ複数の敵ないし侵入者がいる。

 だが、何故だ? こんな大人数、どこからどうやって侵入した?
 いや、そもそも……

「…………なんで、この地下牢に侵入した?」

 牢の中の子供達に目をやる。

「まさかとは思うが……お前ら……誰かつるんでやがるな!?」

 ────まずい。
 まずい。非常にまずい。直感した。子供達は、疑いが自分達にかけられたことに気が付いた。敵意が、殺意が向けられたことを。

 ユキアグモンは目の色を変えた。氷の塊を投げつけ、フーガモンの注意を引く。
 振り向いたフーガモンの足をめがけて吹雪を吐き、足元を凍らせる。

 フーガモンはすぐに金棒で足元の氷を砕く。ユキアグモンは、誠司たちがいる牢へ行かせまいと必死だった。
 ちぎれた使い魔は、まだ再生しきっていないが──それでもユキアグモンに応戦する。圧が落ちた水を放ち、フーガモンの行く手を阻む。
 フーガモンの竜巻と、ウィッチモンの水と風がぶつかり合い、周囲は暴風雨に飲まれたような状態になった。

 牢の中から叫び声が響き出した。
 状況が理解できていない子供達が、それでも恐ろしい状態にあると察し、ただひたすらに恐怖し悲鳴をあげ始めたのだ。

 パニックの中、唯一、状況を把握できている四人は呆然とする。

「……わ、わたしたちは……どうしたら……」
 
 手鞠は服に隠れたチューモンに目線を送る。──チューモンは、申し訳なさそうに目を伏せた。

「……戦局は……最悪だ。ユキアグモンじゃ勝てない。ウチも無理だ。……頼みのウィッチモンも、ちゃんと力は出せてないみたいだしな……」
「……わたしたち、死んじゃうの……?」
「…………。……大丈夫だ。いざとなったら、ウチが焚き付けたことにすればいい」
「そんな……!」
「ユキアグモンはまだ、まだ負けない……諦めないでよ……!」
「どう見ても絶望的じゃないかこんなの。見なよ。もう中も外も収拾つかないよ。
 ……まあ、気持ちはわかるけどさ……」
「……」

 蒼太は胸に抱いたリュックサックを強く握りしめ、考えていた。
 どうする。一体、どうすればいい?
 このままじゃ全滅だ。コロナモンもガルルモンも助けには来られない状況で、何が出来ると言うのか。

 ──そんな蒼太の姿を見て、花那はあることを思い出す。

「……! そっ、そうだ、武器……何か武器!!
 アンドロモンさんがくれたやつは!? 何かないの!?」

 メトロポリスを発つ前夜、アンドロモンから受け取った二つの麻袋。
 
「! そうか!!」

 その存在を蒼太も思い出した。急いで取り出し中を漁る。
 
「えっと、えっと……!」

 蒼太の袋の中には、ゴロゴロとした黒いボールのようなものがいくつも入っていた。どれも少しずつ、形が異なっている。

 ────“ これは非常灯、発煙弾と閃光弾と催涙弾だ。小さいがなかなかに使えるしかし使い方には十分に気をつけることだ。場所と時を、見誤ってはならない。
 それと────……

「……灯りは、今いらないし……煙は目隠しに使えるかもしれないけど……」
「けど、こんな狭い場所で使ったらウチらも巻き添えだ」
「……これは……使えない……」
「そんな……!」
「花那のは! 何が入ってる!?」
「わ、私のは……」

 ────“ そしてこれは……×××。とても強固な、デジタルワールドにしか存在しない素材で作ってある。手を切らないよう気を付けなさい。きちんと鞘にしっかりとしまうことだ。”

「…………ナイフが……」

 恐る恐る鞘から抜く。
 短い刃渡り。藍色に反射する鈍い光がひどく不気味だ。

 こんなものを使って、一体何を、誰をどうしろというのだろう。

「…………それは、メトロポリスの奴がよこしたの?」
「そ、そうだけど、私、こんなの……こんなの、どうやって」
「……」

 チューモンは鈍く光る刃先を睨む。

「…………それ、貸しな」
「え……?」
「え? じゃない。早く貸せ! そのサイズなら持てる!」
「でも、これで何を……」
「いいから! もう、やってみるしかないんだよ!」

 チューモンは花那からナイフを奪い取る。

「手鞠、その紐も借りるよ」
「チューモン、何するの……?」
「体に結んどかないと落としそうだからね」

 チューモンは手鞠の服のリボンを抜き取り、自身の等身以上あるナイフを背中にくくりつける。

 そして、走り出した。

 ユキアグモンが張った氷の上を滑るように、フーガモンの足元へ向かっていく。
 全身の至る所が焦げたユキアグモンは、チューモンがやってくることに気が付いた。

「……お、おでを! 見ろ! フーガモン!」

 叫んだ。注意を、自分に向けさせる為に。

「散々ダンプクラウドぶち当てたのに、まだ生きてやがんのか!
 ……クソ、この氷のせいか……!!」

 床や壁一面に広がる、不純物をいくらか含んだ氷。それに少なからずフーガモンの電気が分散され、威力が減少していた。

 それは再生した影の生き物に対しても同様だと気付く。やはり、潰さなければきちんとは殺せない。ならば──

「今度こそ潰してやる!!」

 ゴルフクラブのように金棒を構え、ユキアグモンの頭に標準を合わせた──その時だった。

 足に衝撃が走る。

「…………あ?」

 フーガモンは、自身の股の間を何かがすり抜けていくことに気が付く。
 そして

「……!? ああああ!? 痛えええええ!!!!」

 足首が、深く切り裂かれていることに気が付いた。

「なっ……。何だ。何だ!! 今度は……」
「よし! よし! 成功だ!」

 チューモンは身体を傾け、ナイフの刃先をを氷に引っ掻け静止する。

「しかしやけに滑りやすいな! ありがたいけどさ!」

 フーガモンの電流と氷の抵抗が相まって、僅かに溶けた氷はひどく滑りやすい。それがチューモンの作戦に功を奏した。
 チューモンは滑りながら素早く逃げる。

「ウィッチモン聞こえる!?」
『ええ! 聞こえて……マスとも!』
「よし! 囮になってくれ!」
『勿論デス! 後で貴方の作戦を称賛しまショウ!』
「生き残れたらな!」

 チューモンはフーガモンの足元めがけて滑走する。今度は、反対の足を狙う。

「ゴミがァ!!」

 フーガモンは金棒で薙ぎ払おうとした──が、フーガモンに対してチューモンが小さすぎる。照準が、合わない。

 チューモンは再び身体を傾けた。
 今度は、フーガモンの反対の足の──指を、切り落とした。

「ぎゃああっ!!」

 ──恐ろしい刃物だ。チューモンも、ウィッチモンもそう思った。フーガモンの身体をいとも簡単に切り裂いていく。

 フーガモンは膝をつく。これで自由に身動きできなくなった。
 その姿に、チューモンがあることを思い付く。

「……ウィッチモン!
 ウチの位置をしっかり見ておきな。奴の近く……というより上だ。そこまで行ったらユキアグモンに指示を出してくれ。────って。いいな?」
『……い、いでショウ! なるべく急いでくだサイ。ワタクシの力に限界が……もうあまり彼をサポートできナイ……!』

 言葉が終わる前にチューモンは駆け出した。氷を滑り、まだ凍っていない壁へと向かった。
 そしてナイフを背負ったまま、いとも簡単に石の壁を登っていく。

「…………」

 フーガモンの位置が上から確認できる位置まで、登る。

 フーガモンは足を押さえながら必死にチューモンを探している。だが、彼女が壁を伝い、天井付近にまで移動していることには気付かない。

「……よし」

 ────息を潜める。

 ここで、竜巻を起こす技を使われたら終わりだ。流石に振り落とされる。──急がなければ。

 少しずつ距離を詰めていく。
 静かに、決して存在を気付かれないように。

 それは、今まで殺されない為に培ってきた技術だ。
 自分のように城にまぎれたデジモン達が、次々と見つかっては殺されていく中で……自分だけでも逃れ、生き延びる為の卑怯な技術だった。

『……ユキアグモン、奴の腕と足元を狙ッテ。少しでいい。完全に動きを止めマス』
「ぎぃっ……」
『……今デス! “ アクエリープレッシャー ”!!』
「“ リトルブリザード ”!!」

 フーガモンの足先から膝までが凍る。腕が凍る。
 身動きを、完全に奪われる。

「足止めか!? こんな氷なんかすぐに────」

 ────その隙を、決して逃しはしなかった。

 チューモンは飛び出す。

 刃先が下に向くように身体を傾けながら重力に身を委ねながら────フーガモンの脳天めがけて落下した。




◆  ◆  ◆




 ────何が起きたのか理解できなかった。

 ただ、自分の顔の上に、見たことのない汚いネズミがいることだけはわかった。

「……」

 声は出なかった。

 汚いネズミがいなくなる。眼球が動かせないから、どこに行ったのかはわからなかった。

「…………ぉぁ」

 ────ああ、やっと声が出た。良かった。




 ─────────ぁぁ。



◆  ◆  ◆

ID.4944
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/03/26(月) 20:31


*The End of Prayers*  16話 C
◆  ◆  ◆



 人間やその周囲の生き物が、致命傷を負えばそのまま命を落とすように。
 データであるデジモンも、一定以上のダメージは核となるデジコアへの損傷に繋がる。
 
 頭部を──生命維持活動の根幹となる脳を穿たれたフーガモンは、あっけなくその生命を終わらせた。



 フーガモンの体は光を帯び、飛散して消えていった。アンドロモンから授かったナイフが、落下し床に突き刺さる。

『…………クロンデジゾイドのナイフ……。
 ……ああ、アンドロモン。まさかこんな物騒な物を子供達に持たせていたなんテ……』

 使い魔の猫から、ひどく憔悴した息が声が漏れる。

「……どうするのさ。なんていうか、その……つい殺しちまったじゃないか。バレたら大騒ぎだぞ?」
『ええ、そうデス。本当にその通りデス。…………もう、何ていう事……。仕方がなかッタとは言えこんな……ピーコックモンからあれだけ忠告されていタというのに……』

 ウィッチモンはひどく動揺していた。

 フーガモンが殺されたことに気付かれるのは時間の問題だ。そうなれば間違いないなく──ここにいる子供達もろとも全滅する。

『時間が許せば休息し回復をはかりたい所デスが……まず子供達を此処から解放させまショウ。最優先デス。今すぐに』
『でも、アタリの子たちは……』
『あちらの方が人数としては大多数デスが、合流する時間すら最早ありまセン』

 ボロボロになった使い魔の猫は、下半身を伸ばし子供達のもとへ戻った。

 ひしゃげた格子から抜け出した誠司がすれ違う。彼は泣きながらユキアグモンのもとへ走っていった。
 チューモンはナイフを引き摺り、地面をガリガリと削りながら戻った。手鞠にリボンを返す。手鞠は、安堵したのかその場でボロボロと涙をこぼした。
 衰弱した子供達は、一体何が起きたのか、と……怖かった化け物がいつの間にかいなくなっていることも、なにやら見知らぬ生き物が増えていることも、よく理解できずにいる。

 ──その一方で、蒼太と花那はひどく青い顔をしていた。

 フーガモンを殺した。
 わかっている。そうしなければここにいる全員が死んだことも。──けれど、騒ぎを起こすなとあんなに言われていたのに。
 ……ああ、コロナモンとガルルモンに何て言えばいい。このままでは、これがバレたらブギーモンといる二人が危ない。

「……ウィッチモン、柚子さん、私たちどうしたら……」
『今すぐ他の子供達を起こして下サイ。彼らをリアルワールドへ帰します』
「え、今すぐ……!?」
『ゆっくりしてられない……みたい。騒ぎに気付かれる前に、皆を帰さなきゃ。
 動ける子はどのくらいいる? 動けない子を運ぶの、手伝ってもらわないと』
「わ……わかりました!」

 花那は立ち上がる。手鞠は、どういうことかわからない、といった様子だった。

『手鞠ちゃんと海棠くんも手伝って! 動けない子たちに手を貸してあげて!』
「は、はい! ……花那ちゃん、わたしたち、帰れるの……?」
「……うん。今すぐね」
「皆! もう大丈夫だ! 家に帰ろう! 悪い奴は……その、もう来ない!」

 蒼太が叫ぶ。衰弱した子供達は、その言葉も理解できない。

「ほら、大丈夫!? 帰るんだ! 家に帰るんだよ!」
「…………か、え……」
「そう! 帰るんだ! 今すぐだ!」
「蒼太、リアライズゲート出さなきゃ。……でも、今度はちゃんと開けるかな……」
「……そうだ……あの時、俺じゃ使えなかったんだ……」
「……最初にデジタルゲートを開いた時は大丈夫だったのに、あの時はどうして出来なかったんだろう」
『ねえねえ、来たときってさ、腕輪ばひゅーんって使ったの、誰がどうやってたんだっけ?』

 みちるの一言に、柚子が気付く。
 
『……そっか。あの時は、コロナモンがゲートを開いたんだ! もしかしたらデジモンじゃないと使えないの……? 元々ブギーモン用だったし……』
「! そっか、それで俺じゃだめだったんだ……」
『チューモン、ユキアグモン、どっちかでいいんだけど……矢車くんの腕輪を使ってゲートを開けて欲しいの。いいかな……?』
「開けるって、どうしたらいいのさ」
『リアライズゲートオープン! ……って言えば、開くと思う!』

 チューモンは、それだけ? と怪訝な顔で腕輪を眺める。

「わかった。それくらいならウチがやるよ。ユキアグモンもボロボロだし。準備は出来てるの?」
「あとは……開いて、誠司や皆を帰すだけだから……」
「動けない奴は? こいつら全員、運ぶのは無理だろ」
「……それは……」
「おでが、道を、凍らせで……滑らぜるよ」

 ユキアグモンが誠司に抱かれて戻ってきた。

「ずっと、滑っでいげるが、わがらないげど……」
『ま、ゲートってそんな長距離移動じゃなさそうだし、とりあえず滑ってツルっと入っちゃえばこっちのものなんじゃない?』
『……そうデスね。あと心配なのはリアライズ時の座標デスが……ある程度こちらで調整できないか試みマス』
『百人力だね! というわけで入れちゃえばオッケーだからいつでもオープンしちゃっていいよ!』

 蒼太と花那は頷いた。
 腕輪をチューモンに渡す。はめることはできないが、両手でしっかりと握っていた。

「……チューモン、あとで、わたしの家で……お菓子たべようね。今度は、隠れないで。……お母さんも話せばきっと……」
「ユキアグモンも、今度はちゃんと母ちゃんに紹介するよ! 命の恩人だ!」

 帰れるとわかり嬉しそうな二人。
 チューモンは苦笑した。手鞠にはその意図が、わからなかった。

「……とりあえず、やってみるか。『リアライズゲート・オープン』!」




◆  ◆  ◆



 腕輪は光を帯びる。

 この場の全員が見覚えのある、オーロラのような光。
 石の壁に大きな円を描く。デジタルワールドに来た時とは異なる演出だ。

 円の中には光の道が繋がっていた。
 ユキアグモンは、牢の中から光の道までを凍らせる。

「……よかった……開いた……!
 皆! 早くこの中に行くんだ! 早くしないとまた怖い奴が来るぞ!!」

 蒼太は動けない子供を起こそうとする。──ひどい臭いに一瞬顔が歪んでしまったが、我慢した。

「ユキアグモン、だめだ。動かせない! こっちにも氷をちょうだい!」

 ユキアグモンは牢の奥からゲートまで、道のように氷を張った。水瓶の中から水を撒き、滑りやすくする。

『急いで滑らせて下サイ。ずっと置いておくと凍傷になってしまいマスわ』
「私は真ん中から押すよ! 手鞠と海棠くんも手伝って!」
「この中に入れればいいんだな!? その後はどうするの!? 入れても進めないよ!」
『だいじょーび! あとはウィッちゃんが何とかしてくれるからね!』
「わ、わかりました! ところで……どなたですか……?」 
『爆裂ミステリアスガールみちるちゃんです! よろしくね!』
「は、はあ……」
「海棠くん、早く!」

 一人ずつ、氷の道を滑らせ光の道に導いていく。辛うじて動ける一人が、ゲートの入り口にいる花那に問う。

「……ぼく、たちは、どこ、に、いくの?」
「……大丈夫だよ。家に帰るんだよ」
「……おかあ、さんに……」
「会えるよ! でもその前に病院いかなきゃ。他の皆も連れてってね」
「…………」

 半ば信じられないという表情。
 警察どころか大人でもない、自分と同じくらいの小学生が、自分達を助けようとしているのだから。

 その子も含め、押し込むようにゲートの中へと送り出す。ゲートの中は思ったより広いのか、しばらくして全員が収まった。
 地下牢と違って暗くない、暖かな光の中へと移動した子供達は、その何人かが安堵で泣き出した。
 
「……さあ、あとは……誠司と宮古だけだね」

 蒼太の一言に、誠司はやっぱりという顔をする。

「……そーちゃんは……そーちゃんと村崎は、やっぱり帰らないの……?」
「……花那ちゃん……」

 蒼太と花那は、もう隠せないと──いっそ清々しい気持ちになり、強く頷いた。

「俺と花那のパートナーがいるんだ。この城の中に、まだ」
「……それに、守らなきゃいけない約束もあるの。
 ……後で、ちゃんと私たちも帰るから……」
「そんな……花那ちゃん……! 帰ろうよ! 危ないよ……!」
「……せーじ」

 ユキアグモンが、誠司をゲートの方へ押そうとする。

「……ユキアグモン?」
「そーだ、と、かなは、おでが守るよ」
「……え……?」
「……ウチも残るよ。さっきのナイフ使えば、ウチも戦力になるかもしれないし」
「チューモン……!」

 ゲートの幅が先程よりも小さくなる。──閉まるのも、時間の問題だ。

 誠司と手鞠は、ゲートと地下牢を交互に見合う。

 光の向こうには、家がある。家族が待っている。温かいご飯がある。お風呂がある。布団がある。
 そして地下牢には。──地下牢の先には、恐らく、更に悲惨な状況が待っている。

「……ごめんなユキアグモン。……そーちゃんも……」
「……誠司も宮古も、誰も、悪くないよ」
「……オレ、やっぱり……。……ユキアグモンと帰るよ」

 誠司はユキアグモンを抱きしめた。そのまま、動こうとしなかった。
 手鞠は涙ぐみながら、スカートの裾を強く握りしめていた。彼女も、その場から動こうとしなかった。

 ウィッチモンは止めなかった。

 ゲートは少しずつ小さくなっていく。こちらを見ている子供の何人かと、目が合った。


 そして、閉ざされる。
 誠司と手鞠は、大声をあげて泣き出した。これで良かったのか本人達にもわからないまま──仲間を見捨てなかった良心の反面、もう帰れないかもしれない事が、ただ、悲しかったのだ。




◆  ◆  ◆



 モニター画面には、光の道でさ迷う子供達の姿が写っている。

 本来ならば地下牢の子供達に声をかけ、今後についてをすぐに話し合うべきなのだが──あいにくこちらも時間がない。ゲート内の子供達を放置しておくわけにはいかない。

「……元々、彼らの街の付近に座標は設定されている筈デスが……。ブギーモン、誤差はどの程度デス?」
「細かいこたぁ知らねえよ。とりあえず全員あの街のどっかに降りたと思うが……。俺も城で誰が戻ってきてるのか確認したわけじゃないからな。もしかしたら『はぐれ』もいたかもしれねぇし」
「街のどっかって言ってもさ、商店街とかのど真ん中にでちゃったらやばくない? 大騒ぎになっちゃうね」
「じゃあ、なるべく人のいない……山とかに近い方がいいのかな……。みちるさん、さっきワトソンさんと警察のサーバーに入ってたんですよね。そのまま連絡とかもできますか?」 
「よゆーだね! おそらく!」
「では座標はなるべく……どこかの敷地の裏山か林あたりとしまショウ」

 ウィッチモンはボロボロになった指で、再びモニターの周囲に光の輪を描く。輪の中では、ゼロとイチの数字の羅列がぐるぐると回っている。

「……ウィッチモン、つらくない?」
「指の感覚がなくなってきまシタね。
 しかし先程の戦闘よりもずっと楽デスよ。これは弄るだけデスから……」

 モニター内のゲートの形状を図式化する。なにやら難しそうな数式も並んでいたが、柚子には理解することなど到底できなかった。

 ウィッチモンはしばらく光の輪と数式を弄ると、ホッとしたように息をつく。

「…………ある程度は、これで……」

 
 ────そして、リアライズゲートは開かれる。

 子供達はゲートの中をほとんど移動することなく済んだ。ゲート全体が球体のように彼らを包み、風船が割れるように溶けたのだ。

 光の先は林の中。

 子供達は困惑している様子だ。今度はどこに連れて来られたのだろう。

「よかった! 成功した……! あとは警察に連絡……」
「ボクがやるよ。今ちょうど繋げてるから、そこの住所教えてくれる?」

 奥の襖の中を開けて、ワトソンが挙手をする。どうやら、先程からこちらの様子を伺っていたらしい。

「いや、なんか、落ち着くまで野次とか入れない方がいいかなって」

 ウィッチモンはすぐに住所の解析をした。──そこは子供達がさらわれた街の外れにある、神社の中の林であった。

 ワトソンが警察に連絡をする。若干、演技じみた声色で。神社の方から叫び声が聞こえたと嘘をついた。
 まさか警察も、数日前に誘拐された子供達が、そこに横たわってるとは夢にも思わないだろう。

 連絡を終える。ワトソンはこちらに親指を立ててサインを送った。

 ウィッチモンは大きく息をつくと、モニターの画面を地下牢に切り替える。
 そのまま、床の上に崩れ落ちた。



◆  ◆  ◆



「ウィッチモン!!」

 ウィッチモンは全身に冷や汗をかき、呼吸はひどく荒かった。柚子は、テクスチャーが剥がれ落ちた手をとり握る。

「……申し訳、ございまセン。……先程の戦闘が思った以上の消費で……」
「わ、私は……ウィッチモンに、触る以外で何かできないの……!?」
「残念ながらそれがベストなのデス……。いえ失礼。残念などではない。ワタクシにとっては必要不可欠……。
 ……こんなことをしている場合でもありまセン。すぐにコロナモンとガルルモンに伝えなけれバ……。子供達とも話さなけれバ……。
 ああ、その前に時間稼ぎが必要デスね。ワタクシもユキアグモンもすぐに動けない……。……ささやかでは、ありマスが……デジモン除けの結界を張りまショウ。不用意には近付かれないように……。選別の儀式が長引いていると、周囲が勘違いしてくれればいいのデスが……」

 這ってモニターの前に戻ろうとする。

「これ以上無理したらウィッチモンが死んじゃうよ!」
「……しかし休んでいる間にデジタルワールドの皆さんが死にマス」
「でも……!」
「でもウィッちゃんが倒れちゃったらこのお部屋なくなっちゃわない? なくなりはしないか! 元に戻るだけで」

 ウィッチモンのそばに体育座りしたみちるは、困ったと眉をひそませた。

「フル稼働して死なれると困るから、ひとまず休憩だ! 十五分くらい!」
「……いいえ、五分で……」
「じゃあ五分! ウィッちゃんってご飯たべてなくない? いくら柚子ちゃんが食べてるとはいえエネルギーもたないぜ! というわけで何か食べようぜ!」
「……いえ、ワタクシは……実はそこまで食事は必要なくて……」
「へい! シェフ!」

 みちるは指を鳴らす。襖の隙間から、ワトソンがゆっくりと出てくる。大きく背伸びし、そのまま冷蔵庫に向かった。

「シェフ! 今日のメニューは!」
「過酷な残業を強いられても志を高く持って頑張るサラリーマン達に送るスペシャルディナーです。ボクらも御用達です」
「…………それ、ただの栄養ゼリーとドリンクじゃないですか……」
「柚子ちゃんは十五歳になってないから飲んじゃダメだよ」

 ワトソンは倒れたウィッチモンに栄養剤を揺らして見せる。

「まあ、少しは栄養つけた方がいいよ。ボロボロなんだし。キミの故郷のご飯じゃないけどさ。
 さあもう一息。というかここから山場だよ。熱い夜になりそうだ。そういうわけで頑張って、ウィッチモン」

 ワトソンはウィッチモンの腕を自身の肩に回し、椅子に座らせる。

「…………お気遣い、感謝しマスわ」
「ボクとみちるはパートナーですらないからね。キミに栄養剤ぶちこむのが精一杯なんだ」
「…………」

 ウィッチモンは机に並べられた栄養剤を飲み干していく。よし、と気合いを入れて、再び光の輪を描く。そして、モニターの向こうで青い顔をしている蒼太と花那に声をかけた。


「…………想像以上にスパルタじゃねえか。よかったなぁ、せめてパートナーのお前は優しくてよ」
「……あんたに言われても、あんまり嬉しくない……」

 同情の言葉を投げるブギーモンに、柚子は複雑な気持ちになった。



◆  ◆  ◆



 ────リアルワールドにて。

 街の外れの神社を、男性の警察官が二人、懐中電灯を片手に歩いている。
 というのも、先程この付近で叫び声が聞こえたと通報があったからだ。

「またイタズラじゃないんですか」

 まだ二十代後半だろう。若い警察官はあくびをしながら愚痴をこぼす。

「このところ、中学生のイタズラ電話が多かったですから」
「……まあ、イタズラならいいんだよ」

 答えたのは初老の警察官だった。

「何もないのが一番だ。それか、馬鹿な子供が肝試しや花火でもしてた……とか」
「事件じゃないだけマシですけど、補導も大変じゃないですか。最近は理不尽な保護者が多くて……」
「……待て。静かに。何だ今の」
「へ?」

 初老の警察官は足を止める。

「何か聞こえるぞ」

 林の方角を睨んだ。
 恐る恐る、懐中電灯で周囲を照らしながら林の中へと向かって行く。若手の警察官は急いで後を追う。

 そして──

「何だ……これ……!?」

 声を上げた。
 初老の警察官は既に署への連絡をし始めていた。

 ────そこには、ひどく衰弱した小学生ほどの子供達が、放置されたように横たわっていた。

 この事態は翌日、ニュースで大きく取り上げられる事となる。









第十六話  終


ID.4945
 
■投稿者:組実  HOME
■投稿日:2018/03/26(月) 20:32


*The End of Prayers*  16話:あとがき
自分にしては投稿スピードが早い、そう自負しております。
皆様こんにちはお久しぶりです。くみです。

今回の16話……がっつりしっかりトラブルやらかしました。これはもう取り返しがつきません。
しかし子供達の一部だけでもおうちに帰すことができたので、ひとまずはハッピーエンドなのでしょう。(おうちの前に病院ですが)
やらかしてしまった後始末、そして残されたアタリの子供達がどうなってしまうのか……もう少しだけ、見守って頂ければと思います。

ちなみに余談ですが、2010年より連載が開始した本作、ようやく予定の話数、なんと折り返しました……。長い……。
あくまで予定ですが、あと3年ほどで全話を書き終えたいとは思っております。まだまだ長い旅となりますが、どうか末永く気長に見届けて頂ければ幸いです。

それではまた次回お会いしましょう!
ありがとうございました!

ID.4948
 
■投稿者:tonakai 
■投稿日:2018/03/29(木) 06:40


物語の切り札はやはり『彼』なのか?
よっ!待ってました!!
某方が狂ったように歓喜しておられましたが、
自分も横目で見つつ、同感でした。


子供たちの一部でも帰したということもあり、読者としてほっとしました。
NEXTはやりたい放題書ける場所なんで、全滅エンドもありえるんじゃないかってハラハラしてたもので。

チューモンはMVPでしたね。
貧弱だと言われるキャラが活躍するところは爽快感があります。
こういうシーンはどんどん見たいものです。

ウィッチモンは過労死確定ですね。
栄養ドリンクなんて、ごまかしの飲み物ですから。
24時間働けますか??
やめろ、寝ろ!ちょっと横になるだけでも!頼む!このとおりだ!!

どいつもこいつも満身創痍になりやがって!
現代社会を風刺されているんですか!?ってくらいのギリギリ感ですね。
『デウス・エクス・マキナ』でも使わない限りハッピーエンドから
どんどん遠ざかっていくような気がしています……
いえ、組実さんのことだからとっておきの秘策をお持ちなんでしょう。


それにしても、まさかのここで折り返しですか!?
でもこれってつまりアレですな。
我々はこのエンプレであと3年は戦える!!と。
完結するまで着いていきます^^


最後に……ベルゼブモン、はよっ!!

ID.4957
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2018/04/06(金) 20:25


これは大変なことやとry
 続き待ってました! よっしゃ凄く興奮と共に来た! と言いつつ感想を書くのが遅れてしまい大変申し訳ございません、この身一つでフェレスモンの城に突撃してくる所存の夏P(ナッピー)です。


 一気に話が動き始めたというか、そーちゃん達にとってはこれからが本番なんでしょうが、もうここから先はただ待っていることも後退することも許されない、前に進まなきゃ殺されるしかないこの状況が息苦しくも心地良い。私は決してマゾではございませんが最後にフェレスモン様がご帰還遊ばされて絶望感に浸らされるんだろうなと思っておりましたが、流石にそこまでは行かなかったか。
 しかしクロンデジゾイド製のナイフとはあのアンドロモン達も子供達になんて物騒な代物を渡してくれるんだ。って、フーガモンの指がー!! 思わず寒気を覚えて自分の足の指を撫でちまったぜ! 自分が戦力的に役に立てないことを理解しながらも躊躇い無くフーガモンを討ち取れる辺り、さてはチューモンの姉御この辺の荒事に慣れてるわね!?
 それでも今回のMVPはやはりウィッチモン。すまんウィッチモン、俺はてっきり(何度目)実際には敵で最後の最後で唐突に裏切り

「き、貴様! まさかフェレスモンの間者スパイだったのか!? 我らをたばかったというのか!?」
「今更気付くトハ……我らウィッチルーニーはフェレスモンと手を組みまシタ。あなた方は本当によく踊ってくれましたヨ。安心してくだサイ、私は後片付けもキチンとする性分なのデス」
「お、おのれ裏切ったなウィッチルゥゥゥゥニィィィィうわあああああああああああああああああ」


とかになると思ってたのは内緒な!!今回の活躍はまさに男の惚れる漢だったぞ! というか、言動も含めてカッコ良すぎてまさかここで力を使い果たして死ぬんじゃと思っていたのも内緒な! その割に腕輪に関してはちょっと抜けてるところが可愛くてズルい!
 そして最後の警察官お二人、なかなか大変なことになっておりお疲れ様でしたが、あ、さてはコイツらどっちかの名前成田だなと思った俺はDJの意思に支配されてる。


 今回救われた子供達の中から新たなメインキャラが再び現れるに違いないと予想しつつ、今回は筆を置かせて頂きます。