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ID.4882
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/02/15(木) 13:36
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それは悪魔の様に黒く 三話 前
         
放課後を竜美は持て余していた。正確には図書委員の仕事で残っていたのだが、受付にいるだけでそれ以上はない。

今頃、世莉と蘭と亜里沙は葵とかいう子と一緒にいるらしいのに、と建物の写真集を見ながら竜美は退屈さに欠伸をした。

今日の予報は夕方から雨、普段なら本を図書室で読む人も今日ぐらいは先に借りて読めばいいやと思ったらしい。放課後始まって十分でピーク、その後は誰も来ていなかった。

かといって、竜美に見える様にローダーレオモンが出てきたらそれは周りの人にも見えてしまうということ、今は誰もいないが、誰か来ないとも限らない。

そして実際そこに人は来た。

その女子生徒に竜美は見覚えがあった。隣のクラスの子ではあるが、基本的に誰かが側にいる。顔もよく愛想も良く成績も良く、それでいて妬まれる様な悪い印象も不思議と竜美にはなかった。たまに悪口を聞いてもその笑顔が媚びている様だとかそんなもので、そ明日悪口を言う側の言う、いわゆる本性とやらを見た人も誰もいない。白河 聖という名前に違わぬ聖人っぷりで知られていた。

聖が図書室の中を見て回って竜美以外いないのを確認すると、その後ろに天使が現れた。八枚の翼と美しい金の髪、目こそ仮面で見えないがその口元は穏やかに微笑んでいる。

「こんにちは、竜美ちゃん」

「こ、こんにちは、白河さん」

竜美が名字を呼ぶと知っててくれたんだねと聖は微笑んだ。

友好的な笑みを向けられたのにむしろ名前を知られていた事やその後ろに現れた天使の事もあって竜美は軽く身構えてしまったのだが、それが何故かわからないという様に聖は小首を傾げた。

「竜美ちゃんもいるよね?デジモン、それで、何か能力とかそういうのって手に入れてる?それともなにもなし?」

能力と言われて、竜美には思い当たるもの自体はあった。でもそれはもしかして単に珍しいだけのものなんじゃないかとも思っていた。

極端に陳腐な言い方をすると、記憶力が抜群にいい。空間把握能力が高い。そんな感じになる。

竜美は視界に入ったものの比率がわかり、形状が即座に把握できる。見たものを頭の中で上下左右どの角度からでも自在に動かす事ができる。そしてそれを引き出すのに時間がかかる事もあるがまず忘れない。

「え、いや……」

「んー……なんで嘘つくの?一応言うとね?私には嘘も見えるから駄目だよ?」

「えーと……」

嘘も見える。おそらくは何かの一環として嘘を視覚的に判別する事ができるということだろう。自分のそれがデジモンのそれならば、それに近いものかもしれない。だとしたらそれは本当に嘘がピンポイントで見える超能力の様なものではなく、例えば過去の経験した嘘をついていた時の顔のパターンを瞬時に参照して判断する様な、相手の細かい表情仕草などを読み取る感情の機微を感じ取る能力だったり、もっとシンプルに、微妙な変化を認識できる細かな変化に対しての高い認識能力だったり……

竜美は亜里沙の理屈のつけ難い能力を知らない。だから自分を参考に考えていたのだが、実際それはかなり近かった。
共感覚というものがある。音に色を認識したりするそうした能力。本来関係しない者に対して別のものが付随して見える様な能力。それに聖の持った能力はある意味では近かった。

聖の視界に入る竜美と共にいびつな歪んだグラフが見える。名前は頭の上に浮いているし、学年クラスや知る限りの情報が辺りに浮いて舞っている。

聖のそれは、わざわざ思い出したり考えたりするまでもなく、あらゆる対象に対して自分がわかっている情報が常に表示されるもの。常に数値や色でモニターされる。一言で言うならば自身の経験則の可視化。それが聖がデジモンを宿したことで得た能力。

「あの、そもそも何の用?」

「……露骨に話逸らすのはどうかと思うけど、まぁ、わかってしまうとわかっても見苦しく誤魔化しに来るよりいいよね」

私はその方が好きだよとほほ笑んで当然の様にカウンターの内側に入り隣の席に腰かけた。

「黒木 世莉さんとは縁を切った方がいいと思うな、私」

「へ?」

「ついてるデジモンってその人の本質を表すんだと思うの」

その言葉はいきなり竜美には受け入れがたい。その理屈で行くと機械でできたライオンが本質を体現しているという事になる。せめて血ぐらい通っていろよという話になってしまう。

「初めてエンジェウーモンの視界を奪って見た時思ったの。きっと竜美さんの本質は、ライオンみたいに勇猛で鋼鉄のように固い意志なんだろうなって」

「いや、そんなこと……」

あるわけがない、そう竜美は思った。イマジナリーフレンドだと勘違いするレベルでローダーレオモンはただいるだけだった。

自分もそうだ、頭がいい自覚はある。でも勉強に向いてない、努力に向いてない。

竜美という個人は怠惰だった。なんとなく生きている感じが拭えない、それを打破しようとも思えない。

もしデジモンが本質だというならば、ローダーレオモンはきっと、諦めの体現だろうと竜美は思った。

機械の獅子、そう言ってしまうのは簡単だが、特にその性質は壊す事にあるのは気づいていた。

鬣は削岩機で尻尾はトゲ付き鉄球、竜美がその姿を見て最初に連想したのは取り壊しだった。もちろん実際に取り壊しに削岩機もトゲ付き鉄球も使われるわけがない。でも、竜美にはそれがそう見えた。

精神を反映するというならばその人にとってのイメージというのは大きな意味がある。取り壊しが竜美から見たローダーレオモンならば、それが竜美の精神の内のローダーレオモンが反映した部分の象徴であるという事。

取り壊しとは諦めだ。そこにあるものを直すことを諦めること、直して伸ばしてより良いものにという事を、改善や努力を諦める事。

大きな体に生まれて、顔もどちらかといえば不細工で、隠しようがない顎の形や鼻の形なんかに可愛いなんて親からぐらいしか言われたことがなかった。だから可愛いとか綺麗とかも諦めた。

運動したらそれを活かせるとも言われたけれども体の大きさを活かせるスポーツはぶつかる事も多くて痛いのが嫌だったから諦めた。

頭がいいと言われても勉強というものをまともに続けられなくて諦めた。特に、勉強することに楽しみも見出せなかったし、やった方がいいのだろうなとは思ったが熱心になれるほどではなかった。

竜美は諦めた事でできている。

そもそも、それらは諦めてもいい程度のものだったとも言える。

周りから見てどうかはともかく、竜美にとってスポーツも勉強も向いていたとしても努力する理由に欠けたものだった。

可愛く見られたいと思う気持ちより努力する面倒さが勝って、勝ちたいと言う渇望よりも痛い事への怯えが勝ち、勉強すれば役に立つからやらなくちゃという義務感より苦痛を苦痛として受け入れる嫌悪が勝った。

「私はね、天使がついてるでしょ?導かなきゃいけないの。私は私の周りの誰かを良い方向に導かなきゃいけない。竜美ちゃん、数学の得点は高いよね?でも授業態度はどれも良くない……あんまり勉強してないよね?頭の良さだけでなんとかしてる感じだよね?」

聖の言葉に背筋が凍る。そんなに驚かないでよと聖は笑う。デジモンがいるんだからそんなの調べるのは難しい事ではないだろうと。

その考えに尚更竜美は怖くなる。可能かどうかではなくできるかできないかの話だ。

「私は人のステータスが整理できるから、竜美ちゃんも良い方向に導いてあげられるよ。だからね、悪魔の側にいなくても良いんだよ?私が引っ張ってあげられるから」

「それは……」

「それは?なんだろう?まるで、断りたいみたいに見えるけどもこれは私の見間違いだよね?」

竜美は、心底恐怖していた。聖のように経験則をより明確に見るようなことはできない、しかし、物を比率で見られる竜美は表情の変化には敏感で、表情の読み取りには何もない人よりは長けている。

だからわかってしまう。聖に悪意はない。

聖のこの圧は悪意から来るものではない。あぁこの人は良し悪しがわかってない、だから教えてあげなきゃ導いてあげなきゃ、可哀想な人だ救ってあげなきゃいけない人だ、私はこういう人を幸せになれるように導くべきなんだと、揺るぎない力強すぎる善意。

ある意味聖は聖人の様だと言えるだろう、その行動に悪意や害意はない。行動に嘘があることもあるがその気持ちに裏表はない。

ジャンヌ・ダルクはフランスを救えと言われたからフランスを救うべく立ち上がった。

そしてイギリス兵を殺す指揮を執った。

聖人とはその宗教において都合のいい功績を残す者だ。

聖のそれが踏みにじるのはその悪魔、つまりは世莉とレディーデビモン。

それが、聖の考えにおいて都合がいい。

わかっているのに竜美の口は動かない。嫌だと言えない。

いつも一緒にいる三人と聖は明確に違う。自信と自我が揺るがない。自分は絶対的に正しいのだと、ローダーレオモンのトゲ付き鉄球でもうち壊せる気がしない様な強すぎる自己肯定が後ろにある

無意識下でこの人は何も知らない人だとわかっていない人だと可哀相な人だと見下している。対等でないからその言葉は届かない。いや、そもそも聖に届く言葉はない。

竜美は知るはずもない事だが、デジモンに人間が食われる時、それは一方的なものではない。

返り討ちに遭うこともある。そして返り討ちにあった場合、そのデジモンの精神はその人間に汚染される。人の精神はデジモンの体にまで侵食して乗っ取れないから逆に言えば汚染するのが精いっぱいという事でもあるのだが。

そしてエンジェウーモンはすでに聖の一部だった。完全体になりそして食われた。影響されて得た強い自我、自身の為にという自我は汚染され聖が主であり自身はその一部なのだと、そう刻み付けられていた。

自身の内に巣くったデジモンは自分の鏡、それさえも聖の存在を揺らがすことはない。つまり、聖には自分自身の言葉さえも他人であれば届かない。

「それは要らない」

ローダーレオモンの前脚が、聖の顔面を押して竜美から引き剥がす。傷つくほど強くもないが機械の足は固く冷えている。

「私達は世莉を知っている、彼女は悪魔のようなものじゃない。私は竜美を知っている、勉強しろと強制される謂れもない。そして竜美は知っている、あなたの為には大抵いつだって竜美を傷つけて終わる」

ローダーレオモンはだからお前は要らないと冷めた目を向けた。

「物事は多面性があるからな、天はソドムとゴモラを滅ぼしたり洪水で人を滅ぼしたりするぐらいには残酷だ。ならその使いが当てられたお前も残酷さから当てられたのかもしれない」

ん?ソドムとゴモラでいいよなと竜美に確認するローダーレオモンに、亜里沙さんから聞いた気もするけどちょっと自信持って言えないと竜美は答える。

確認のやり取りの間にも恐怖はだいぶ和らいでいた。

「まぁ、同様に悪魔は契約に厳しいというからな、世莉の悪魔はその真面目さを反映してるかもとも言える」

エンジェウーモンにローダーレオモンの前脚を退けさせて聖はそうと呟く。

「……先に叩きのめさないとダメなのかな。痛い目に遭わないと私が正しくて自分が間違ってるって気づかないんだね」

エンジェウーモンがどこからか矢を出すと、ローダーレオモンは竜美を軽く咥えて受付カウンターから飛び出した。学校の中の物の形状は竜美が見た範囲は全部把握している。部活動の部室の位置も活動場所も、覚えている。

ローダーレオモンは竜美の脳から記憶に繋がっている。全ての長さが定規で測られたも同然の状態、機械の体の感覚は精密で、走れば走る程もどれくらい力を入れればどれだけ跳べるかスピードが出るか、曲がるにはどれだけの力が要るかもわかる。

つい昨日、あんな事があったばかりだ。騒ぎになる場所には来れないだろうと、しかし竜美の姿は見られないよう、人の少ない道を選んで駆け上がり、電子錠を解除して屋上に出た。

世莉さんに助けてもらいたい、と竜美はメッセージを打ちかけて止めた。向こうは明らかに世莉を意識している。呼んだら余計に困るかもしれない。でも、委員長の連絡先も知らないし、亜里沙と一緒にいるデジモンはまだ実体を持ててない。

世莉と一緒にいるとはわかっていたが、竜美は蘭に助けを求めるしかなかった。

メッセージを送って三分、どこにいるのといういう返信に屋上とメッセージを送ってさらにほんの数十秒。アニメで見たようなピンクの扉が屋上に忽然と現れて開いた扉の先に蘭がいた。

「こっち来て!急がないとこれ消えるから!」

その言葉に竜美とローダーレオモンは飛び込むように扉をくぐり抜けた。

ID.4883
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/02/15(木) 13:38


それは悪魔の様に黒く 三話 後
着いた先は公園のトイレで、竜美が振り返るともう、国民的なアニメに出てたようなピンクの扉は宙に溶けて消えて行くところだった。

「はぁ……なんとか、残った訳ですが……やっぱりイマジネーションが単なる模写だと足りてませんで……」

エカキモンが疲れた疲れたと言って蘭の頭の中に戻っていく。

「えっと、今のは……?」

「エカキモンの能力で、なんか……絵に描いたものを実際に出す?みたいな。ちょっと焦ってたから見ながら描いたんだけど……」

ヘへへへと笑い慣れてないせいかあまり気持ち良くは見られない笑みを蘭は浮かべた。

でも、竜美とローダーレオモンは笑えなかった。

もしかして、そんな事ができるという事がどういう事なのか気づいていないのかとか思ったが、聖の方も気になり、少し迷った挙句、まずは世莉達がどうしたかを聞いた。

「あぁ、うん……ちょっとまさか葵さんが、葵さんじゃなくて葵くんだと思ってなくて、わりと早目に解散しちゃって……今どうしてるかはよくわかんない」

わからないのは困る。竜美はひとまず蘭の手を引いて歩きながら考える。

向こうはデジモンを使ってハッキングする事に抵抗がない。成績だって個人情報だし、住所も把握してておかしくない。ステータスが整理できると言う言葉の真意も確かではないが、得た情報を処理する能力が高いとも取れる。例えば監視カメラの映像は?衛生カメラの映像は?そうしたものをハッキングしてその中から見つけ出すのも早いかもしれない。

「とりあえず、連絡取ろう。世莉さんの事を悪魔だって敵視してたから……下手すると直接狙いに行ったかもしれない」

説明を受けてないためぽかんとしている蘭の携帯の画面でローダーレオモンが説明しながら、竜美は簡潔に世莉と亜里沙にメッセージを送る。

世莉を直接狙う可能性はもちろん高いが同時に自分を狙った様に亜里沙を狙う可能性も竜美は考えていた。

少しして帰ってきたのは意外な返事だった。

とりあえず亜里沙さんと葵くんと一緒にいるよと。

「え?私だけはぶられた?」

「多分だけど、家が近い亜里沙さんが世莉さんについて行って、葵くん?が忘れ物してたとかじゃない?」

でもなんにしても少し安心できると竜美が一息吐くと、携帯に見知らぬ番号から電話がかかってきた。

怖いし番号のメモだけとってとりあえず出ずに終わらせると、見知らぬメールアドレスからメールが届いた。

聖だよ、みーつけた。

携帯の電話番号はおそらく一年の最初に連絡先を色んな人に聞いて回っていた様な人から得て、アドレスもその人から、そして、繋げる為に使われた基地局か携帯のGPSから位置を割り出した。

それに気づいて竜美はすぐに携帯の電源を落とす。

「蘭さんも早く携帯の落として。このままだとどこにいるか筒抜けになる」

「え?うん……」

これでいい?と電源を落とした蘭に、竜美は早く移動しないとと急かすが、いや、駄目だと思い直す。

まだざっくりしか世莉達には伝わっていない。誰がどんな事を喋ってどんな風にどう襲ってきたかなんかが伝わってない。さらに、もう一つ気づいてしまった。

「……蘭さん。えっと、ごめんね?やっぱり、私戦わなきゃいけないかも」

「……逃げるんじゃなくて?」

「このままだと世莉さん達のとこ行くかもしれないし……それに、みんなで固まってれば安全だと思うけど、それだと多分一人になったらまた襲われる。こ、殺すなんてできないしね?」

だから蘭さんとエカキモンは逃げて、一人で相手しなきゃいけないからと竜美が続けようとしたところで蘭は竜美の手を掴み、自分の携帯の電源を入れた。

「……これは現実だってわかってるけど」

蘭が口元に笑みを浮かべながら竜美の目を見た。

「……やっぱり、こう……熱い展開だよね!ここは私に任せて先に行けー的な!そういうやつ!私も一緒にいる!というか何かできる事ない?私が描けるものならエカキモンはなんでも出せるし、こういうとこで一人にすると死亡フラグ失踪フラグ感あるけど残ると意外と大丈夫だったりするし!!」

なんか伝説の剣とか?刀とか?変身ベルトとかでもいいよ!と興奮気味に続ける蘭に竜美は少し呆気に取られたが、そのあとすぐにぎゅうと抱きしめた。

さっき見せられたそれと違う。それが安心した。

一度緊張の糸が切れてしまった事で涙が出そうになったが、堪えて頭を働かせる。

「えっと、じゃあ……中が見えなくなる様な……バリアー?とかってできる?できれば周りに人を寄せ付けないみたいなのもなんだけど……」
「え、おぅ……うん、まぁなんとか頑張ってみる!」

透明なのとか書くのは私の画力じゃ難しいから発生させる機械とか描くかななんて言いながらメモ帳とシャーペンを取り出して蘭は紙の上を走らせ始める。

先日の雪も溶けかけて、泥混じりの水溜りが散見して見える公園に人はほとんどいない、既に日もほとんど落ちて子供の姿もない。

「……ところで今更なんだけどローダーレオモン」

「勝算はある。というよりも向こうの勝算があまりない。心配なのはむしろ、やり過ぎないかだ」

ローダーレオモンの鬣は削岩機になっていて、尻尾はトゲ付き鉄球で、およそ手加減のできるものがローダーレオモンの手にはなかった。強いて言うなら前足で殴るとかそんな程度。その前足すらも重く硬い金属の塊だ。

「まぁ、なんかうまくやろう」

その言葉に竜美は電源を入れ、聖に返信する。

待ってる、そうするしかないなら戦うつもりもある。

それに対しての返信は来なかったが、聖は普通に歩いて現れた。

エカキモンの芯が虹色に光り、そこに少しスチームパンクの様な趣のある大きな機械が現れる。

「じゃあ、起動するからね!」

蘭がレバーを引き、ボタンを押し、ダイヤルを調節しということをすると白い湯気の様なものが噴き出して足元に広がり、それに触れた人達がなんの気もなしに夢遊病患者のように公園から出て行く。但し、聖と竜美、蘭は例外。

誰もいないのを確認して蘭が機械の脇に付けられたハンドルを捻り、引き出すと別のパイプからもう一度白い湯気が噴出し、今度は公園を取り囲む様に渦を描いて広がった。

「……蘭ちゃんも参加するの?」

聖がにっこりと笑いかける。同性異性問わずそれは魅力的に映るだろう笑顔で。

「蘭さんはやらない」

竜美は少し震える足で立ちはだかる様にして立つ。ローダーレオモンが姿を現わすとエンジェウーモンもまた姿を現し、何も言わずに弓を一度放った。

ローダーレオモンが首をほんの少し捻ると矢は回転する鬣に当たって火花が散った。ローダーレオモンの首は衝撃に傾くことさえしない。
竜美はあらゆるものの比率が測れる。

学校指定の鞄との比も、聖の身長との比も、エンジェウーモンのサイズを測るには十分過ぎたし、エンジェウーモンのサイズが分かればローダーレオモンとの距離も正確に測るのは容易い。

そして、比が分かるという事は角度を導くこともできるということ、放たれる矢の軌道すらも予測できる。

もちろんそれは、竜美の脳だけで全部することは不可能。

ローダーレオモンは寄生先とのへその緒のようなパイプが繋がっているのを知っている。リアルタイムで竜美の見ている情報を受け取り、計算を行う。一度撃たせて見たことで、その矢がどういう軌道を通るのかをより正確に把握もした。

矢は通じない。いや、今の迂闊な行動で完全に通じなくなった。

しかし、聖の側もまた情報を整理するのに長けている。その能力は最早読心の域に達し様とすらしている。

だからそれが伝わる。

そして聖は一度退く事にした。

「……うん、わかった。とりあえず出直す事にする。でも気持ちが変わったらすぐ教えてね。あと、学校にいるデジモンのことで質問とかあったら気軽に聞いていいから」

エンジェウーモンにはまだ手がないわけではなかった。でもそれはあまり見せたい手ではなかったし使っても相性が良くはない。
近接戦では勝ち目が薄く見え、また、竜美と聖の体格差も大きかった。

デジモンは寄生している。

つまりエネルギー源は人になる。聖は小さいとは言わないが大きいとも言えない。一方の竜美は中学校のあだ名がゴーレムだったこともある。誰が見てもわかる長身で幅もそれなり。太っているかといえば太っては見えないが聖には体重と身長のデータもある、筋肉の量も脂肪の量もある程度なら予想はつく。

得手不得手の差を埋めるのに消耗を激しくするという手もないわけではないが、それすらも向こうの得意分野。いざとなれば横槍を入れる事ができる味方も向こうだけにある。

そもそも、聖の勝ちとは屈服ではあるが支配ではない。話を聞いてもらえないからまず認めてもらうところから始めよう。その手っ取り早い方法が暴力だっただけだ。

竜美にも蘭にも当然あずかり知らぬところで、聖には急ぐ理由があった。

世莉に宿っていた成熟期が完全体になり、フリーで動きを見せていなかったが強力だろうと目されていたローダーレオモンが繋がり、さらにまた一体強力に見える巨体の悪魔と繋がりを持った。

それが聖の見ていた校内の勢力図に大きな波紋を起こすのは間違いなかった。あまり強くないだろうデジモン達の繋がりはわりと無視できる。目的がしっかりしていて別の目的があれば見過ごせる。

目的のない単なる人の頃からの繋がりほど不安要素になる。それは、聖だけの考え方ではない。

さらに、世莉のグループにはより大きな危険要素がある。

聖は自分の特性が多くの情報を得ていればいるほど活きるものだとわかっている。万全を期すならばエカキモンも蘭も世莉もレディーデビモンも調べてから取り組むべきだった。いずれ取り込まなければ調べていたのは竜美だけだった。

「え、と……じゃあ、そういう誘いとかはもうしないでくれる?」

「それは無理かな。まぁでもね?無理に絶縁しろとかはちょっと置いとく事にする。竜美ちゃんが騙されてる可能性は否めないから言葉を信用するのは無理だけど、先にいろいろ調べてからにする」

聖の言葉に竜美はまぁ落とし所としてはいいのかなと頷きかけ、止まる。

「……気軽に聞いてもいいんだよね?」

「うん、いいよ?何が聞きたいの?」

聖はぱぁと輝くような笑みを浮かべた。

「今日声をかけて来たのは……委員長が関係してる、よね。詳しく教えてもらっても、いいかな」

それに罪悪感を覚えそうになりながら竜美はカマをかけた。半分本気で、半分予想。

何故声をかけたのが昨日でなかったのか、あの日の竜美も世莉と一緒にはいなかった。なのに何故今日になったか。それは昨日に理由があるのではと竜美は考えた。

だとすれば理由は世莉の委員長との接触か、葵との接触か二つに一つ。より知られてしまったのは堂々と昼休みに教室まで呼びに来た前者。

でもこの考えには当然穴もある。昨日は竜美は図書室の当番ではない、人気のない校舎で一対一で話せないから延期した可能性もある。葵くんの方の可能性もある。比較すると知られ難いだけで決して知られないようにしたわけでもない。

少なくともそこに迷いがあることは聖にも見て取れたし、聖は昨日の放課後のことは知っていた。

聖もそれに対してデジモンを使って対処するか人として対処するか迷っていたところだった。世莉が出るのが一分遅ければ世莉ではなく、聖が注意して見ていてと言付けをしておいた放課後居残りしてる生徒が間に入っていた筈だった。

だから、ほぼ正確に竜美の思考をトレースできていた。

「うん、そうだよ」

本気で竜美も蘭も幸せにしたいと考えている。伝えた方が幸せになるだろうと、不幸にならずに済むだろうと動くのは聖としては当然の対応だった。

「委員長は現状、この学校におそらく二体しかいない究極体なの。そして、委員長の存在が学校内でデジモンが欲のままトラブルをなかなか起こさない理由になってる」

こう言えば委員長は確かに平和な統治者の様だが実態が違うのを聖は知っていた。現在、三年生に寄生しているデジモンはいない。だが、聖がエンジェウーモンを返り討ちにし、デジモンを認識した時にはまだ少なくとも三人いた。

三年生の中で、その能力を使って好きにしながらも隠蔽していた彼等の内二人は委員長とそこに寄生するジャスティモンによってデジモンを殺されている。しかしあえて言わなかった。

委員長から離れる事はある危険から離れることにもなるが、同時に委員長を敵に回すかもしれないというより大きな危険に繋がる。

委員長に対抗し得る存在は今のところ聖しか正体を知らない。いや、聖が検証しても尚確信には至らない。その行動の理由や目的や何を考えてるかは聖にもわからない。

だから、現状委員長に対抗するのは無理。動かせるとすれば一人だけだ。

だからこそ世莉は驚異となり得るし焦点となり得る。もちろん、グループを意図せずして作りそうな事も理由にはあるのだが。

「なるほど……」

世莉を委員長はわざわざ呼び出した。呼びかけに応じて助けに来た。それは聖の知る限り一匹狼だったはずの委員長としては異常だった。
実際のところ、委員長がおそらく助けを求められればそれが正義に準じる限りは応じるのは聖もわかっていたが、それを踏まえても明らかに好意的に見えた。

つまり、世莉は委員長という現状最強の存在を手に入れる鍵。

そして、聖はそれに関して最も危険な存在を知っている。

「キツネ顔のネズミに気をつけて。出会ったら張り倒してでも逃げて、竜美ちゃんのデジモンならそうするのは難しくないだろうから。蘭ちゃんの方は……可能なら竜美ちゃんと一緒にいるといいと思うの。私でもいいけど……警戒してるだろうし。これは世莉ちゃんにも伝えてね、世莉ちゃんが引っかかると最悪の場合人が死ぬかも」

蘭は、え、なんで急にそんな話を?とかそれがなんで理由になるのとか思っていたがスルーされた。聖は竜美が説明すると確信していた。

「うん。あと、教えて欲しいんだけど……他にも、聖さんとかみたいにグループ作ってる人はいるの?」

「いるけど私ぐらい大きく作ってるのは他には一人かな。それがキツネ顔。あとはそれこそ一人でいるのとか、あとは……体調面の問題から山登りするクラブみたいになってるのとか、そんな感じの特に誰かに干渉しようみたいなことはしないのが多い感じ」

「じゃあ委員長は、特に何か好き勝手しない限りは敵対しない?」

「多分ね。でも、なんでか知らないけど私のやり方は一回注意されちゃってるから基準は測りにくいよ」

なんでかはわかるのではと竜美は言いたかったが、言葉を飲み込んだ。蘭は話を理解するのを諦めてエンジェウーモンの服もレディーデビモンに負けず劣らず痴女じみてるななんて事を考えながら模写してた。

「蘭ちゃんも、気をつけてね?それとも誰かに守ってあげてって言っておく?蘭ちゃんのデジモンも……辺りに言いふらして良さそうな能力じゃないしね」

蘭の手に持ったシャーペンとメモ帳に視線を向けながら聖はにこりと笑う。

竜美が苦い顔をすると大丈夫言わないからと聖はニコニコ笑って言った。

じゃあねと聖が言うとエンジェウーモンの姿は竜美と蘭から見えなくなり、ローダーレオモンもそれに合わせて緊張を解いて姿を消した。

エカキモンもはーと大きく息を吐きながら力を抜いて座り込みながら姿を消すと霧が晴れ、霧を噴出していた機械も宙に溶けて消える。

聖がその場を離れると、疲れたと竜美は冷たいベンチに腰掛けた。その横に蘭も座る。

「疲れてるところで申し訳ないんだけど……さっきの説明を……」

竜美はそういえばこれ待たせてる世莉達にも伝えないといけないなと思いながら蘭に向き直って説明を始める。

「えと、聞いててどこまでわかった?」

「いや、もうほぼ全部わかんなかった」

もう一人の究極体についても聞いておくべきだったかなと思いながら竜美は蘭に向けて説明を始めた。

ID.4886
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2018/02/16(金) 23:46


な、なんて能力だってばよ……!
 デジモンはその人の本質っていうのは飽く迄もこの時点では予想っぽいですが、現時点の皆さんの気質とかを見てる限り当たっている気がする。というか、委員長にジャスティモンがとにかく似合いすぎる。
 どうも、夏P(ナッピー)です。


 レディーデビモンに対するエンジェウーモンだからやはりライバル枠になるのか、しかしタイトル「悪魔のように黒く」の対として「天使のように白く」とは思えないぐらいに黒い。聖さんという名前に反してなんて怖さだ。名前が見えると聞いてアカンこれ究極体に進化したら寿命まで見える奴や戦慄しましたが、どうも名前だけでなく対象の知っている情報が表示されるようで。デスノートではなくFateのサーヴァントが近かったか……。
 食われる前に返り討ちにしたということですが、潔癖が過ぎてむしろエンジェウーモンに飲み込まれてるんじゃないかと恐怖。Vテイマー01のラストみたいな感じでエンジェウーモンが「それはどうかな?」とドヤ顔で乗っ取り返してきたりしたら燃える。奥の手があるっぽい描写ですが、この時点ではローダーレオモンが勝ってくれて嬉しい。
 あとエカキモンむっちゃ優秀! どこ〇もドアだとッ! バカなッ! 2112年までまだ94年あるぞッ!!


 それでは次回もお待ちしております。

ID.4891
 
■投稿者:マダラマゼラン一号 
■投稿日:2018/02/17(土) 22:21


この学校…ヤバイッ…!
第三話、とても楽しく読ませていただきました。

ぱろっともんさんの作品でワクチンVSウィルスの構図が出てくるとどうしてもサイトの方で連載なさっていた「スミレ毒」で植え付けられた数多のトラウマが蘇るのですが、やっぱり聖さんとエンジェウーモンもおっかない感じでしたね……このような“真っ直ぐな狂気”を書くのが本当にお上手で……。しかも聖さんは「スミレ毒」で「体目当て」呼ばわりされていた彼とは違って知恵も力もある感じで、今後も強敵となるんだろうなというような印象を抱きました。

聖さん自身はエンジェウーモンを制御できてると言ってますが、天使に憑かれたと言う意識、副作用によって校内の情勢が見え過ぎるくらいに見えてしまったことなどが彼女を強引な行動に走らせているような。そういう意味では彼女もやはり操られた一人に過ぎないのではと思ったり。

そして、竜美さんとローダーレオモンがハチャメチャにカッコいい。蘭さんエカキモンコンビの能力も強力。誰がどう情勢を変えてもおかしくないこの人外魔境のような学校で、どんな風にこれから物語が展開して行くのかとても気になります。

ID.4901
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/02/20(火) 21:55


感想ありがとうございます。
>夏Pさん

感想ありがとうございます。

委員長にはジャスティモンかデュークモンかで迷ってロイヤルナイツは余計だなとジャスティモンになってたりします。本質を反映してるは大体真実です。餌にしている人間の性質ありきのデジモンの性質です。

聖さんの能力は知ってないと意味がないので完全に未知の相手には何にも……まぁ表情とか読むのはできるんでやっぱり今日能力ではあるんですけど。

そして人間の性質ありきのデジモンの性質なので……聖の元々の潔癖具合>エンジェウーモンの潔癖具合の図式だったりします。わずかな差で。なので乗っ取っても行動は基本的に変わらないんですよ……仕込まれた本能よりも性質が勝った時点で根本的にもともと持ってた性質なので。

エカキモンはとんでもないチート能力です。想像さえできれば九十四年だろうが一億年と二千年だろうが先取りできます。



>マダラマゼラン一号さん

感想ありがとうございます

スミレ毒の方だったら蘭だけ生き残って竜美さんとローダーレオモンが死んでいるところですが今回は平和な学園ものなもので大丈夫です。聖さんもいい人ですしね。

副作用に引っ張られてるところは多分あるのだと思います。知ってしまったら動かずにはいられない主人公にありがちな特性を持ってる聖さんです。

竜美さんとローダーレオモンもそれなりですし、蘭とエカキモンに、世莉さん達も合わせてこれからもよろしくお願いします。

ID.4911
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/02/27(火) 23:15


それは悪魔の様に黒く 四話 前
蘭は古文が比較的得意で、比較的好きだ。

とはいっても文法とかは好きではない、好きではないけど亜里沙にテスト前とかには教えてもらっているお陰でちょっと相性が良かったりすると解説を読まなくても内容がざっくり読み取れたりする。

逆に言えば大体の場合解説を読まないと古文が読めていないという事であるのだが、好みかどうかはできるかどうかではない。好きこそものの上手なれという言葉がある一方で下手の横好きという言葉もまたある。

蘭が古文が好きなのは、現代文以上にわからないからだ。現代文はわりと詳細な様子が書かれていたりする。そして時代背景もある程度わかる。わからないという事は想像する余地があるという事。

最近蘭が読んで面白かったと思ったのは古文の先生が時間余ったし、教えた文法で読めるからと紹介した話。蘭はその話の老いた武士が手加減などされないよう髪を黒く染め死ぬまで戦っていたことがわかった時には思わず興奮したりもした。

まぁかといってその興味は勉強の方には向かず、どんな顔だろうとプリントの空白を埋め尽くすように落書きをするわけだが。

授業が終わっても蘭はガリガリと落書きをする。お世辞にも将来は絵の仕事にというのが現実味を持つような上手さはない。本当にただ描くのが楽しいだけで本人に技術を向上させようという気もない。

授業を軽く流し、休み時間も落書きをし、昼休みだけ四人で食事を取って、そのまま放課後を迎える。そのルーティーンも今日は土曜なので関係なしだ。

用事は何を隠そう補習である。正確には補習、というよりは補習や追試にならない為に学年主任でもある国語の先生が、成績やばい奴はせめてこのプリントだけでも取りに来い一応土曜はいるからその場でやって職員室来てくれれば質問も受け付けるぞ、というそういう感じ。

内容としては主に古文や漢文なんかの文法の復習だったり、現代文のおさらいであるのだが、蘭としては結構楽しくそれに通ってた。

勧められるほど成績が悪いわけではないのだが、その先生が苦手な生徒でもなんとかやらせようと試験の様に文の中で問題を出し、それについての文法の解説のプリントも置いてそれでもわからなければという熱心な力の入れようで、選ぶ話もわりと意味が分かれば面白かったり、剣を振り回したりするような興味を惹きやすい話を選んでいると、蘭みたいに勉強を特にする気はないけどプリントの本文と訳文は欲しいという生徒も数人いる。

それに関してその先生はせめて古文の方も読もうとしてから訳文を読むことと言っている。蘭は不真面目だがせめてとか言われると弱いので一応読む。

そして気づく、これ落書きしまくったやつと同じ話だ。

なーんだと帰ろうとして、ふと教室の隅に昨日見たばかりの長髪の男子がいるのに気づく。

昨日はなんとなく女子だと勘違いしてたせいでなんかぎこちなくなってしまった。謝ったほうがいいのかな、フランクに声をかけたほうがいいのだろうか。でも声をかけられても困るのでは?私なら困る。ましてや、ブサイクだ。げっ歯類と見紛う出っ歯の私に話しかけられたら向こうも嫌かもしれない。よしやめよう。

蘭は見なかったことにすることはできず、してるのかしてないのかわからない様な会釈だけして教室を後にする。

その時葵も、昨日のお礼も言いたいしリアルで好きなアニメ同じ人に会ったの初めてだしもっと話したい、声をかけようかどうか迷った挙句、嫌われているとしたら迷惑に違いない、とやめていたことは当然気づかずに。

そして、一人の女子が尋常じゃない目つきで蘭の背中を見つめ、教室を出たのを追って立ち上がったのにもまた気づかなかった。

蘭は人気のない廊下を歩き、寒いから自販機によって温かいものでも買ってから玄関に向かおうと、中庭近くの購買前に向かう。

いざそこに辿り着くと流石に後ろから追って来てるのに蘭も気づく。でももしかして自販機を使いたいだけなのではと自販機の版を譲るジェスチャーをすると、その女子生徒ははぁと口を開けて大きく息を吐いた。

そして、その姿はケンタウロスのような形の姿に、しかし馬ではなく赤い鎧をつけた黒い牛の姿に包まれていく。

その両手がおもむろに人の体でいえば腰、牛の体でいえば前足の付け根のあたりに挿した二本の剣に向かう。

「あー、あー、エカキモン?エカキモンから見てあれって、その、あれだよね?」

蘭がテンパってかけた言葉に、慌てて実体を持ったエカキモンも頷く。

「そう、ですね……委員長って土曜日学校きてますかね?」

「それは……エカキモンは、その、そういうこと?」

「ですね、まともに相対したら三秒保たないでしょう!なにか、なんでもいいので描いた絵などは?私のそれに大切なのは完成度よりそう!イマジネーション!」

蘭が焦りながら鞄を漁り出す。それを見て、わざわざ待っていたかの様なそのデジモンははぁとまた大きく息を吐き出し、剣を構えた。

「あ、エカキモン!これ!」

取り出したのは国語の教科書、に挟まれた先生のプリント、その余白が黒くなるほど埋め尽くす落書き。

イエス!とエカキモンが叫び、プリントに手を伸ばす。

それを開戦の合図と取って走り来るそのデジモンに、プリントから飛び出した何かが正面からぶつかっていって切り結んだ。それは馬に乗った侍だった。

「オォォォッ!!」

雄叫びを上げて剣を振りかぶり打ち付けるそのデジモン、それを馬に乗った侍が避ける避ける。そして強く刀をぶつけ合うとデジモンの方の剣が弾かれた。

「お主が組み合うのは日の本一の剛の者ぞ」

髭面の侍がそう言って刀を振るうとそのデジモンの鎧はその一撃に耐えきれず粉砕され、その体は大きく揺られる。

それを見て蘭は呆気にとられていた。

「……なにあれかっこいい。というか私全身の落書きしたっけ?」

「まぁ、大切なのはイマジネーションであって描かれた絵ではないみたいなので」

「あー、つまりアレ?あの、アレ?あー、私の考えた最強にかっこいい……えーと、斎藤別当実盛?」

まぁみたいなものですとエカキモンが肯定する。

はーと口が半開きになったまま蘭は、その赤地の錦の直垂に、萌黄縅の鎧を着て、クワイの葉の形をした前立をつけた甲の緒を締め、黄金づくりの太刀を帯び、二十四本差した黒と白のあざやかな矢を背負い、滋藤の弓を持ち、黄金で縁を飾った鞍を置き、模様が連なった銭のようになっている葦毛の馬にまたがりと、古文のプリントに書かれたままの姿の筋骨隆々の男の背中を見る。

とは言ってもだ、見る人が見ればおかしいと突っ込むところは幾らでもある。蘭の想像が反映されたその馬はサラブレッドかよと思うような体高で、斎藤別当実盛自身もどこのプロレスラーだよと思うような二メートル近くある巨体。鎧の下がボディビルダーもかくやと言わんばかりの筋骨隆々なのは疑いようがなく、食事事情から考えても考え難い。

まぁしかし、そんなことは関係ない。鼻が高すぎるとか日本人顔じゃないとかもそんなのはどうでもよい。

蘭がかっこいいと思って描いたものは現実のそれではない。フィクションである。実在の人物団体はモデルにしたとしても一切関係ありませんので悪しからず。というところ。

蘭が読んだところに書かれていたのは平家物語の一場面、実盛が手塚光盛に討たれたところである。手塚が行くまで一人で奮戦した実盛、一人で奮戦し手塚が行くまで味方はすでに敗走を始めている圧倒的劣勢の最中でありながら誰も討ち取る事ができなかった実盛のその文を読んでその設定を考えていた。

「ところで蘭にいいお知らせと悪いお知らせがありますがどちらから?」

「嫌な予感しかしない」

「では良い方から、まぁ、おそらくあの斎藤別当実盛さんは勝つでしょう」

「悪い方は?」

「私の能力的体力的な都合であと三分とその存在がもちません」

なるほどなるほどと頷いて蘭は鞄を取り上げて中庭の方へと走り出した。

依然、実盛は優勢だが、最初に一撃入れた後は膠着状態で、最悪三分ならば睨み合っただけで終わってしまいそうな感じがあった。

エカキモンも蘭の後を追い、中庭へ。そして蘭は中庭の半ばまで来てそれが悪手だった事に気づく。

校内よりも当然広いから太い腕で刀があっても振り回せる。校内の廊下より蹄も滑らない。そして何より、そのデジモンがあくまで蘭を狙っていたことが誤算だった。

そのデジモンは馬の足元に片方の剣を投げつけた。どれほど鋭かろうと何度も打ち合った剣、それも無造作に投げたのだからまともに切れるわけはない。しかし、それでもその重みで馬の歩みを一瞬止めるには充分。

そうして稼いだ数秒は蘭達に向かってそのデジモンが駆け出すにもまた充分だった。

「あー、今更ですが、竜美か世莉に連絡してればよかったですね」

半ば諦めた笑みを浮かべるエカキモンに蘭も視界が滲んでくるのを感じる。大きく剣が振りかぶられ、蘭からかエカキモンからか、どちらでもという状態になるまで実盛を振り切ってからほんの数秒。

完全に殺したとそのデジモンも確信しただろう完全な間合いそれ以上逃げようがない体勢。

しかしその剣が二人に振り下ろされることはなかった。

「ヴァァアアァァアッッ!」

デジモンが痛みに叫びながら右腕をどこともいえない場所で振り回す。その手の甲には矢が一本。

蘭の考えた最強にかっこいい斉藤別当実盛はどう考えてもあり得ないだろう素早い動きでもって弓を構え矢をつがえ、そのデジモンの手の甲を射抜いていた。

しかし喜びも束の間、実盛の姿は不安定になり、二つ目の矢をそのデジモンの後脚の腿に命中させると霞のように消えた。

「さ、斎藤別当実盛さんが……エカキモン、もう一回とかは……」

「無理です!インターバルないとできませんし……その絵に込められたイマジネーションは今消費してしまいましたから、未使用の絵が必要です」

逃げ続けるしかない。一度引きかけた涙がもう一度あふれ出してくるのを蘭は感じた。

幸運な事にか、実盛が自分の消える事さえわかって射ったのか、後ろ足の太ももを射抜かれたそのデジモンは走ることは難しいようで蘭とエカキモンが走れば走るほど距離は開いて行く。

それも蘭が失速し始めると今度は逆に歩幅の差で距離が埋まって行く。

中庭を渡りきる頃には距離は剣が届くか届かないか、振り下ろそうと振りかぶったらばその一瞬で剣の間合いから逃れられるだろうが、あと一歩縮められたら間違いなく斬られるというような限界ぎりぎりの距離。

そこで蘭が見たのはまた絶望するような光景。校舎に通じる扉が閉まっている。

開けるほんの一瞬立ち止まれば剣は届いてしまう。ゼーゼーヒューヒューと痛む肺を堪えながら戻るしかないとドーナツ状になっている中庭を回って元の方へ。

戻って戻って今度こそ校舎の中へというところで蘭は前方に人影を見た。視界が滲んだままだったせいで誰かよくわからなかったが、その人は蘭の方に向けて手をまっすぐに出し、それに呼応するかのように背中から蘭ぐらいなら握りつぶせてしまいそうな巨大な腕が出てくる。

今度こそ終わったと覚悟した蘭の頭の上を通り過ぎ、巨大な手は長い指で消しカスでも払うようにそのデジモンを一度軽くはじき、開いた手のまま牛の上半身を抑え込むようにまっすぐに張り手で突き飛ばした。

そしてもう一つ出てきた巨大な手が失速した蘭とエカキモンを掬い上げて手前へと引き寄せる。

「あ、あの、大丈夫?」

蘭もやっと溜まった涙を拭う余裕ができて慌てて拭う。いたのは葵だった。前に突き出した手は攻撃するように突き出したのではなくこっちにと差し伸べられていたものだった。

今度こそ助かったらしいと安心すると蘭の足からは力が抜ける。本来ならすぐにでもお礼を言いたいのに、全力で走っていたせいで呼吸が整わなくて咳き込んでしまう。

葵は蘭の隣に座ってその背中をさする。

「……あ、りがッゲホッ、あり、がとう……」

そうお礼を言いながら下から見上げた葵の顔は近くで見ると蘭が思っていた以上に整っていた。

あ、これ私の顔がよくて健気な感じで二次元ならオープニングテーマが流れるようなやつだ。多分メインの攻略対象というよりサブ気味のキャラとの出会いの一場面かなにか、後の展開でもっと明るくて似合うような服を着せたりとか髪型を整えて見違えるようになるような展開があったり、急に人気が出た葵君との関係に悩んで身を引こうとするような展開があるやつだ。私の立ち位置がもっと可愛ければ例えば亜里沙さんならよかったのに。白河さんは白河さんでいいけど……

なんて思いながら蘭はちゃっかり今の図を頭の中に刻み込む。

エカキモンもバテて、ゼーゼーゲホゲホ言いながら蘭のノートの表紙に指のクレヨンでありがとうと書いて見せる。

「えと、あの、ところでなんだけど……この状況は……どうしようか?」

ネオデビモンの張り手が効いたのか、それともその前の実盛の攻撃が効いていたのか、女子生徒の姿に戻ったそのデジモンが中庭に倒れているのが少し落ち着いた蘭とエカキモンにも遠目に見えた。

どうしようと互いに何か言わなきゃいけないような気がするけど仲良くもないし何を言えばいいのかわからないし、解決策も浮かんでないのに話し出すべきではないのではという沈黙を保って互いに顔を見合わせたり倒れている生徒を見ていると、ふと葵が逆に校内の方を見た。

「……誰?」

ネオデビモンの右腕が三人を庇うように出され、葵がそう問いかけると両手を挙げて、一人のショートヘアで制服の女子生徒が出てきた。土足の学校なので珍しくはないのだがスニーカーを履いている。

「襲ったりとかはないから安心してよ。聖の関係者って言えばわからない?ん?彼にもその話はされてるんだっけ?」

前日の事は一応葵も聞いてはいた。五クラスこの学校には二年のクラスがあるが、葵のクラスは世莉達のクラスと聖のクラスに挟まれた位置にある。そして状況的に葵も無関係とは言い難いと竜美が説明していた。

「まぁ、何というか……今までもこういう事はそこそこあったから、その度に処理してたのは僕達。委員長は委員長で別のツテがあるみたいだけど、委員長が認知してないのは大体僕達。聖の右腕的なのが僕、平岡と」

平岡は頭を軽く掻いてからそう話し、手を横に向けるとそこに赤いマントを着た白い鎧のようなものに身を包んだ竜人が現れる。至る所に突起や刃がある姿はぺこりとお辞儀をする態度と裏腹に非常に攻撃的に見えた。

「僕、セイバーハックモン。これから処理が行われるが耳を塞いでいて欲しい。忘れない方が互いに都合が良いと思うんだ」

そのセイバーハックモンが、出て来たらと背後に声をかけると、物陰から髪がいつもより一層ボサボサで上着のボタンなんか掛け違えている世莉とレディーデビモンが出てきた。

呼んだんでしょと平岡とセイバーハックモンに言われるが生憎蘭には心当たりがない。あれ?と思って携帯を見ると着信履歴の十八分前に世莉の名前があった。不在着信で三回ほど。十八分も前だとまだ襲われてもないから完全に気づかなかっただけではあったのだが。

「……私が勝手に来たの。昨日の今日だし、もしかしてすでに何かあったんなら私に飛び火されても困るなと思ってね」

うんうんとレディーデビモンが後ろで頷いているが、蘭は口元がにやけそうになった。どう考えても飛び火されても困るなという焦りようではない。それに、蘭は普段世莉がバスなのを知っている。

直線距離を自転車で来れなくもないがそれだと二十五分はゆうにかかる。レディーデビモンの力も借りて可能な限り早く来ようとしたのが蘭からは明らかだった。

「……まあ、それならそれで。聖からは守ってあげてと言われたけども」

大体自分もあれには狙われてるのに自分の言うことを聞くわけでもない相手の事をそうすぐに気にしたりなんかして僕が側にいない時に何かあったら一体どうするつもりなのかと、ぐちぐちぐちぐち独り言を始める。

それにどう反応したものかわからないがとりあえずと、世莉とレディーデビモンは蘭達の側に。ボタンの掛け違いに気づいたレディーデビモンがしれっと直したりしてるのを見ないようにしながら蘭と葵が怪我してないかどうかを確認する。

ふと、ガチャとスピーカーから音がして平岡もはっと気が付いたように顔を上げた。

「あ、耳塞いでおいて。今から事後処理始めるから」

セイバーハックモンに言われるがままに世莉達は訳が分からないながら耳を塞ぐ。

塞いだ耳にも部分的に聞こえるぐらいの声でスピーカーから歌声が流れてくる。三分間程流れ少しあたまがぼーっとなるのを振り払いながら蘭が周りを見渡すと、世莉が魂が抜けたようにぼーっとしてた。

それに気づいてレディーデビモンが頭に手を差し込むと今起きたみたいにハッと顔を上げる。

「……こっちの方の切り札の一つでさ、まぁなんか、暗示を極端にかけやすくする事ができるんだ。この能力でとりあえず目撃者を黙らせて、なかったことにする。完全体とかにはあまりかからないけどデジモン知ってる相手には口封じしてもしなくてもあんま変わらないし。今日はやってたことは派手だけど幸い壊したものはないしこれだけで十分」

平岡はそう言ってから、少しこの後時間ある?と世莉達に聞いて来た。

土曜日だし、暇だったから世莉は来れた。蘭は問題を一応は解いて答え合わせもする気だったし、他にやる事があったらまず来ない。

「うち、近くだから」

平岡がにこっと笑って振り返るとセイバーハックモンが姿を消す。無防備に背中を晒されて、蘭はどうしたものかと世莉を見る。葵も釣られて世莉を見て、それに追従するようにエカキモンも世莉を見る。実体こそ持っていないがネオデビモンもそうしているのが世莉には見えた。

まぁ情報は欲しいと、世莉は蘭の手を掴んで平岡の後を追うと、自転車取ってくるから校門で待っててと言って葵にも手招きをして自転車置き場に三人で向かった。

「今のうちにとりあえず状況確認しましょ、何があったの?」

「なんか変なデジモンに襲われて、それでこう……斎藤別当……というかなんか、エカキモンとこう応戦して、それで……えーと、なんかこう色々とあって不利な感じになって、逃げ回ってたところにこう、葵くんが来て、ネオデビモンの腕がビューッ!バシーンッ!て感じに助けてくれた」

抽象的な説明だったがとりあえず襲われて二人でなんとかしたんだということを確認して世莉は首を傾げる。

「……平岡さんは今の話のどこに?襲って来た変なデジモン?」

「平岡さんはなんか終わってから出て来て、そこから世莉さんも見てた感じ」

「……何考えてるか僕にはわからない」

二人の返答に世莉はなんか嫌な予感がするとレディーデビモンに目配せした。

レディーデビモンがくいと顎で指した方向にはセイバーハックモンが監視するように立っている。余裕で、おそらくはレディーデビモンに対して手さえ振ってくる。

「……これ、行ったら白河さんいて戦うことになるパターンじゃないわよね」

委員長に電話しようかどうしようか。そう考えてふと思いついて、世莉はとりあえず校門まで行こうと自転車を押す。

校門のところに立っていた平岡さんはこっちこっちと手を振って合図をしてくる。

「……ところで、行ったら白河さんいたりしない?」

「しないしない。聖は確かに黒木さんは異様に意識してるけど、聖は本人が言う通りの人間だから」

今やると少なくとも一人傷つけるつもりがない相手も傷つけそうだと蘭の方を見て平岡は言う。

世莉はその発言自体は信じつつ、しかし葵もカウントされてないのは心に留めておく。

ID.4912
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/02/27(火) 23:20


それは悪魔の様に黒く 四話 後
徒歩三分であっさりとつくと、平岡は鍵を開け、誰もいないからと三人を招き入れた。

「さて、じゃあ本題。聖の忠告が足りなかったと僕は今日の見て思ったので」

まぁ、一人にならないでと言われて早々に一人になってるのもどうかとは思うけどと平岡は言ったが、その時の蘭はエンジェウーモンは痴女という事しか考えてなかったのでそもそも聞いてなかった。

「まぁ、まず、ざっくりこの学校にいるデジモン達は四つに分けていいと。委員長とその従姉妹、聖のグループ、キツネ顔のグループ、その他個々や小さなグループ」

まぁさらに細かく個人個人でゲート賛成反対様子見とか賛成の中でも積極派開けたら開きたい派みたいな差とかもあるけど、と言いながら平岡は一本指を立てた。

「やっぱり最強は委員長。これは現状変わんない、まぁ……一応もう一人いるにはいるけど誰かもわからないし、究極体らしいとしかわからないからとりあえずノーカン。で、まぁ委員長を取るか沈めるかしたら実質学校の支配者になれると」

それは知っていると世莉達は頷く。潔癖すぎる正義によるディストピア的な支配もロマンだよねと蘭とエカキモンも頷く。完全に思考の方向が迷子であっても平岡には伝わらない。

「そういうわけで、委員長を味方にしたいというのは何かしら野心があったり目的があったりするとこは考えてる。その鍵がおそらくあなた。多分、ここを伝えてないからアレだと思うんだけど、委員長って結構強情で……なんというか……」

あー、一言ならなんて言おうかなと平岡が少し指をくるくる回してからぴっと止めた。

「白河の清きに魚の住みかねて、元の濁りの田沼恋しき、みたいな?」

「デジモンがいればそれなりにできることは多いけど、あくまで人の範囲の倫理で、それも結構潔癖に抑えつけているから委員長相手の不満は燻っている」

世莉とレディーデビモンは頷いていたものの他がぽかんとしてるのでセイバーハックモンはそう付け加えた。

そういえばこの二人は古典の補習プリント貰いに学校来てた様な若干成績振るわない部類だと平岡が気づいたのは言った後だった。

「そんな委員長に自分の主張をほぼ一方的に飲ませた、委員長の側から接触するぐらいに特別扱いされてる黒木さんに、委員長が欲しい、融通を利かせたいというやつは擦り寄ってくるし、委員長を倒したいというやつも人質として効果があるのではと狙ってくるって事。遠いところから順を追って試みるならば、当然周りも狙われる。例えば……近い誰かを突然襲って自分の差し金だったと明かして脅すとかも鉄板だし」

世莉は神妙に頷く。蘭とエカキモンはあーさっきのそういうのだったのかそれはそれとして委員長と世莉さんの恋愛展開は面白そうだとかやはり明後日の方に思考を飛ばし、葵は自分のせいなのではと三者三様の反応を、特に今襲われたばかりの蘭の反応が一番薄いを見て平岡はこういう感じだから私に守る様に言ったのかと納得した。

「で、その中で一番危ないのがキツネ顔とそいつに寄生してる金メッキのネズミ。確かチューチューモンとかいうやつ。あいつの能力はどういう過程かわかんないけど、催眠なのか洗脳なのかそういう感じのことするのはわかってる。芋づる式に委員長まで洗脳されると最悪……独裁国家状態。今のとこは委員長がいるから表沙汰にならないよう知られないよう抑えてるけど……」

ギリギリギリと平岡は怒りを押さえ込む様に歯ぎしりをした。

「……催眠かけた女子の裸の写真だとか、万引き演出した写真だとか、催眠が解けても縛れる様にしとく様な陰湿なやつだってのはすでにわかってる」

そういう感じのエロ展開は二次元でさえ地雷だし現実で考えるとなおいやだと蘭とエカキモンすら顔をひどくゆがめた。

私的にはエロ展開は……と話始めようとするエカキモンの口を蘭ががしっかりと抑え込む。この数日で蘭はエカキモンと自分の漫画の趣味が合いすぎていることを感じていた。エカキモンの性癖暴露は実質的に自分の性癖暴露である。

「……あの、そこまでわかってるなら委員長に言うというのは駄目なのかな?」

蘭の酷い様子を横目に見ながら葵が言うとそれはダメと世莉と平岡が同時に声を上げた。

「委員長は多分、これ以上被害が出ない様にとすぐに叩きのめしに行くと思う。だけど、被害者側がこれ以上被害を被るのも構わず叩きのめしに行く、というのが聖の分析」

全体的な被害が広がらないことを考えればそれは絶対的に正しい。本来心の傷は数値化できたものでもない、だから図れるのは被害者の人数のみ。だからこそ数値で考えたならば可能な限り被害者を減らすのが絶対的に最も小さく抑え込める。

絶対的に被害者は少なく済むが、フォローできる状況を作らずにそうした事を行った時、キツネ顔がどうせもうどうしようもないならばと道連れにするため画像をばらまく可能性はある。

「だとしたら、それで社会に戻ってこれなくなる人も出てくるかもしれないし、フォローできる状況がないと……」

世莉の言葉に平岡は少し意外そうな顔をしつつ頷いた。口調ぐらいの違いしかなく、ほぼ同じことを言った。

聖はあくまで人を幸せにしたい、幸せにしたいから絶対に委員長に知られない様根回ししているのは聖だ。そして同時に写真のデータを一斉に消去できる手筈を整えようとしている。

しかし消去しても向こうが健在ならまた一からやられるだけ。そして、デジモンがいるのにどうして電子媒体だけでしか管理してない訳があるのか。当然、そんな事はない。

キツネ顔はすでに写真を印刷しているだろうと見ていた。それぞれ数枚ずつはあるだろうと、それも同時に処分しなければ道連れにと被害者側を巻き込む可能性がある。

ただ隠し場所はわかってない。だからその間は被害が増えない様に聖にできるのはそもそも狙われないようにすること、それは向こうもわかっていることでもあった。どうしたってわかる。実際に聖達が知って手を回してからはキツネ顔が勢力を拡大するのは非常に難しくなっていた。

セイバーハックモンがキツネ顔の側から見てあまりに厄介だった。セイバーハックモンはローダーレオモンの様な単なる基本的な能力の優秀さで強いと言える完全体ではなく、レディーデビモンやエンジェウーモンの様なバランスよく何でもできるが戦闘能力に優れているとは言えないデジモンでもエカキモンの様な一芸だけのデジモンでもない。

戦闘に向いたデジモンであり一芸であるが故のわかりやすい弱点もない、聖を狙うにしても障害であり、少数の操っている駒で何かを成そうとしても一体で二体三体の完全体を相手どれる。

聖は聖でエンジェウーモンが天使という性質故か洗脳を解くことが可能で洗脳だけしてあとから縛るようなものをという手が取れない。そのエンジェウーモンの首を取るにもセイバーハックモンは強すぎた。対応できない数で囲むには準備がいる為事前にバレる。バレないような数ではセイバーハックモンは殺せない。

かといって狙うそぶりを見せなければ勢力拡大しようという動きをかき回す方にセイバーハックモンが出てきてしまう。そうすれば勢力の拡大はできない。

また、聖が妨害で終わらせているのはまだキツネ顔が誰にも取り返しの付かない傷をつけていないからでもある。すでについていると取れることもできなくはないが、現状では聖の耳に入ってるのは最悪キツネ顔の記憶や被害者側の記憶を暗示を使って消してしまうという手が使えるもののみ。

キツネ顔はその線を越えたら自分が殺されるか、廃人にされるといった、あくまで正義の委員長はしない被害者を守るための行動を聖が取ると、聖から宣告されていた。つまり、キツネ顔にできるのは八方ふさがりの中で降伏するか、なんとか隠し場所を隠し通して現状を維持し続けるか。

そんな中で世莉が現れた。

キツネ顔から見れば地獄に垂らされた蜘蛛の糸の様なもの、もし取れれば委員長が取れるかもしれない、そうしたら劇的な大逆転が見込める。

だから間違いなく狙いに来る。

だから竜美や蘭が巻き込まれる。

しかも竜美といるローダーレオモンの様なそれなりに強力な完全体、またエカキモンの様な限定的であれ他社の介入を制限できるようなデジモンを取られれば戦力差が縮まる。戦力差を縮めることで委員長が取れなくとも聖達が脅威でなくなってくる。あわよくば戦力差を利用して聖を自分の側に取り込むことすら考えられる。

だから引き離したかった。世莉が悪魔であるとかは理由のほんの一端に過ぎない。少なくとも竜美と蘭は必ず巻き込まれる様な立場ではない、世莉から引き離せばついでに狙われることもなくなる、キツネ顔にそんな余裕はない。

「……じゃあ当分……僕達がなんとかするまで二人から離れてくれる?そうしたらその間はこっちで守るから。こっちも手をこまねいてるだけじゃないし」

聖達が何をしているのか世莉は知らない。知らないし、聖達は聖達で洗脳する術があるのも今さっき目の当たりにした。

ただ、世莉は委員長がどうかというところは信用している。委員長がいる限り確かにそう簡単に催眠を使ってやりたい放題という事にはならないのだろう。それに、世莉自身はともかく葵や蘭が耳をふさいだだけで大丈夫だったこと、レディーデビモンにも効いている様子がなかったことを思えば聖達側の洗脳に対しての警戒は少なくていいかもしれない。

ならば亜里沙さんと葵くんも守ってもらえないかと世莉が言おうとした時、蘭がちょっといい?と少し控えめに手を挙げた。

「……えーと、催眠とか洗脳とかされないのってそんなに難しいの?」

「それはまぁ……方法もわかってないし……」

「……でも、エカキモンがいるし、飲んだら催眠とか洗脳とかされなくなる薬とか出せばいいんじゃない?」

急にあまり仲良くない人と話すのが辛いが故の発言だったが、真面目に考えていた平岡達をポカンとさせるには十分だった。

「え、時間制限とかは……」

「斎藤さんの矢の傷はその後も残ってたし……飲んで三分で半年効くみたいな設定にしたら関係ないんじゃないかな」

ね?と蘭がエカキモンに問いかけると、エカキモンは突然腕を組み、神妙そうな顔を作った。

「蘭のイマジネーションがあれば、斎藤さんみたいに立って喋って馬に乗って刀振るって弓矢使ったりもさせられるのですから、三十分とか一時間ぐらいできるでしょうし、これは……いけるのでは?」

いける、これならいけると興奮気味にノートを取り出して書き出した蘭とどんなのにしますとウキウキ話しかけているエカキモンに世莉と平岡は少し顔を見合わせて、平岡はポツリと聖に聞いてみると携帯を取った。

葵は取り残されたついでにここが女子の部屋だということを思い出して少しそわそわしそうになりながら、そわそわするとみっともないと思われるのではないか、きもいとか言われたらとても耐えられないと葵は表情を殺しにかかった。

「蘭さん、エカキモン、今回は仕方ないけど今度からあまりその能力使わない様にした方がいいと思う」

世莉がそう話しかけると、蘭は手をピタリと止めて少し悲しげな顔になった。え?こんなに面白いのにという感じのその顔に世莉はあくまで真剣に向き合う。

「委員長がいるとはいえ委員長の目の届かないとこでならやる事をやってるやつがいる以上、なんでもできる様に見えてしまうエカキモンの力は使わないほうがいいと思う。私の事とか頼ってもいいから」

「なら、まぁ……あ、あれだよね?家でやるのはセーフだよね?」

世莉はレディーデビモンと顔を見合わせ、まぁ家ならセーフかなと頷いた。

平岡は聖からいっそご馳走になってきたらと言われたらしく。複雑そうな顔で私の分もお願いしていい?と蘭に頼む。

蘭は大丈夫と頷いて、五分程紙に向き合った後、三色の液体の入った三角フラスコをエカキモンの能力で出した。

はて、なんで三つに分けられているんだろうと周りが見ていると蘭は楽しそうに緑の液体の入ったフラスコと青の液体の入ったフラスコを取る。

「この緑を赤に入れて……そこに青を入れて……」

三色の液体が混ざるとボンッという音と共にフラスコの中から煙が出てきてドクロみたいなマークを描く。それを見て蘭とエカキモンはニヤニヤ笑ってパンと手を合わせた。

「……とりあえずコップ持ってくる」

平岡がこめかみの辺りを押さえながらキッチンに行く。

八つ持ってこられたコップに少しずつ薬を入れてそれぞれで飲む。舌に感じた味は誰が飲んでもりんごジュースだった。

ID.4915
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2018/02/28(水) 21:02


真の主役登場
 ツボったぞ斎藤別当実盛! さては真の主役だな!? 真の主役の座を狙ってんな!? ここから毎回色々なポーズの実盛さんが描かれて、ポケモンぬ〜べ〜の守護霊みたいな感じで毎回召喚されるんだな!?
 どうも、夏P(ナッピー)です。


 実盛さんはともかく、勢力図がなかなか難解な形に。何気に委員長が全ての中心にいる気がする……特に物語へ進化が絡んでくるような感じがしないので、そのままレベル=格差という雰囲気になっていることがわかりやすくもあり、同時に理不尽でもあり。でもセイバーハックモンが出て来たってことは……この時点でも完全体を二体三体同時に相手取れるとか言われてるのに。
 エンジェウーモンとレディーデビモンは意外にも直接戦闘に向かないタイプと明言されてしまいましたか。それにしてもそれにしたってエカキモン万能すぎんな! イマジネーションが足りなリよの無限の可能性! まさにImagenation>Reality!!
 そして唐突な松平定信と寛政の改革に笑いました。


 それでは続きもお待ちしております。

ID.4927
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/03/13(火) 23:33


感想ありがとうございます。
>夏Pさん

今後ある意味ではエカキモンよりも蘭さんのパートナー感を実盛さんは出してくることになります。ノーマルにネイキッドにアルティメット、サイボーグと蘭さんの気分でバージョン違いの実盛さんが描かれ実体化され戦う展開も近い……かもしれないです。

委員長はどうしたって現状最強でしかもただいるだけでいてくれないですからね……

例の十三番目が出てくるかどうかは今はまだ触れられないところですが、進化退化自体は一応絡んではきます。

まぁ戦闘に優れていないなので戦えない向いていないというよりも戦闘に特に優れたやつらがいるという風に理解してもらえるといいかと思います。エカキモン本体の戦闘能力に関しては蘭と殴り合いして相打ちになる様な感じですので……

次回もよろしくお願いします。