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ID.4839
 
■投稿者:パラ峰  HOME
■投稿日:2018/02/04(日) 14:48
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聖剣転生Legend-Arms 1-1 Jという人物
         
 その日のチャットルームは、Jの一言で始まった。
「時にツェーン。Digital Monsterという新進気鋭のFolkloreを知っているかな」
 Jというのは俺のチャット仲間で、成る程一風変わったアバターで一風変わった作品を提供する、要するにここ『サロン・ド・パラディ』に相応しい人物と言えた。日本人ではないらしく、他国の単語をそのまま送信してくる癖があり、その為無駄にスペルに詳しくなってしまった。
 黒いシルクハットを被り直すJに対し、返信を打ち込む。
「知ってるもなにもデジタル・モンスターってお前、それはお前の小説のタイトルであり、出てくる架空の生命体じゃないか」
 ファンです続きお願いします。
 デジタル・モンスター。それはJのアップロードする冒険小説だ。無数の広がりを見せる怪物達の生態系、無限の可能性を秘めた進化というシステム。それだけではなく、彼ら専用の文字系統すら用意されているのだから恐ろしい。加えて何よりも人気を博している理由としては、まるで直に見てきたかのような堂に入った描写だろう。現在投稿されているのは――『魔王戦役』の章か。
「そうとも。そうとも」
 片手には羽ペン。羊皮紙には複雑な数式と魔術式が綿密に書き詰められ、机の上には胎児らしきもの。
 テキストを打ち込んでいるときのモーションだ。実に凝っている。
「俺の作中に出てくるMonster共だが、実は現実で見かけたという話が続出している。真偽の程は知らんがね。とはいえ我々はいくらか怪奇現象も知っている。世界に起こり得るということも。ならば信じ難いことではあるが、この世界に、俺の作中のDigitalなLivesが飛び出すこともないとは言い切れまい。古い民話という言葉を使いつつ、新進気鋭と言ったのはそういう訳だ。口裂け女、ターボ婆、寺生まれのTさん、メリーさん……挙げればキリはないが、いずれも俺やお前は知っているはずだ。噂話より生まれた怪異を」
 黒手袋を軽く開きながらの長口上。だが結局、実在するはずのないものがそこにいたという噂には、ある可能性がつきまとう。
「熱狂的なファンのおちゃめなんじゃねえの。お前の作品、すげー人気だし。特に制限しちゃいねえだろ」
「知ってる。知ってる。一切、ご承知ずくだ」
 Jは立ち上がる。彼の描くデジタルワールドという世界は掛け値なしにすばらしいと俺も思う。そして、そのファン活動が活発なのも頷ける。毎度お、Jの投稿した小説にはものすごい数のレスがつくものだ。
「手の込んだCostume playである可能性は否定すまい。だが、誰が好き好んでそんな噂を流す。GAGに全力をかける人種もいるだろうがね。まあ話半分に頭の中にでも置いておけ。案外おもしろいことがあるかもしれん」



 Jがログアウトした、深夜のサロン・ド・パラディ――そのVIPルームは閑散としていた。
「デジタル・モンスターねぇ」
 それが現実の世界に飛び出してきたという。夢のある話だ。嫌いじゃない。
「ま、わざわざ探しに行くほどじゃないがな」
 俺もルームからログアウトし、投稿されている作品を眺める。
 最新投稿作品に並んでいるのは有羽 十三[Ariba Juzo]――ハンドルネームをツェーン[Zehn]の作品。Jと並んで、創作物投稿・交流サイト――サロン・ド・パラディ[Salon de Paradis]の管理人と交友のある数少ないアマチュア創作家――つまり俺だ。
 ふと、Jとの邂逅の瞬間を思い出す。未だ直に会ったことはないが、もう結構なつき合いになっているはずだ。
 


 精巧に作られたシルクハットに黒マント。かけたモノクルの奥では炯々と光る双黒がせわしなく動いていた。
 けれん味にあふれた人種が多いウェブだから、それだけでどうということもない。Jも他の参加者にいずれとけ込むと思っていたが、奴は弾けた。
 神出鬼没にて傲岸不遜。放たれる毒に塗れた文言は多くの利用者を陶酔させてやまず、作品もいたく面白かった。
『名が必要ならば、Jと呼べ。俺の名であり、師の名であり、皆そう呼ぶ』
 『デジタル・モンスター』を投稿してすぐ、彼はチャットルームに現れてそう言った。そして巧みな言葉遣い、面白すぎる作品に大勢のファンが付くこととなった。
 優れているのは作品だけではない。即興話もうまいのだ。そもそもJというのは彼の作中に登場するキャラクターで、主人公の師であり、その薫陶を受けた主人公は自らもJを名乗るようになっていく。そのJという名を名乗る以上、彼はなりきりと呼ばれるジャンルのロールプレイを常時行っていることになる。請われれば作中で語られぬ行間の冒険譚を即座に語ってみせる。ひょっとしたらネタのストックが著しいだけで、時間を見計らってコピペしているだけなのかもしれないが、それにしたって凄まじいものがある。
 そうしていくらかの時が過ぎ、ツェーンとJは親しくなっていった。何があったというわけでもない。気があったのだろう。どちらかというとJが衒学趣味を発揮し、俺が聞き役に回ることが多かったが、不思議と心地よさを感じる間柄だった。



 まあ、そんなわけで。
「やあツェーン。私が今度、日本へ赴くと言う話は、既に耳にしているかな」
 などどJが言ってきたときは、実に驚いたものだ。
「なるほど。オフ会の時がきたか。決着を着けるぞ」
 ニヤリ。
 ニヤリ。>ニヤリ。
 『こちらの服装はいつものアバターと同じだ。目立つだろうから、見間違えようもあるまい。先に店に入って待っているぞ』。
 こんなメールを寄越したJに倣い、集合地点に設定したファミレスに足を踏み入れる。
 気の抜けるようなラッシャッセーを聞き流し、「連れがいるんで」と店内を眺めて回る――いた。
 混雑時のメシ屋の中でも際だって目立つ黒ハット。入り口に背を向けるようにソファに座っており、こちらから視認できるのは優雅に組まれたスラリと細い足、それから艶やかさを感じるほどの銀髪。小説『デジタル・モンスター』の中から抜け出してきたのではないかと思うほどの容貌に、気分の高揚を禁じ得ない。
 周囲のざわつきが彼を中心にしていることを見るに、きっと相応の美形なのだろう。
 なるほど、ウェブ上で見るとおりのJの姿だ。
 ……少々、アバターから見れば髪が長いことが気になる。気になるが、まあ誤差の範囲内だろう。ひょっとしたら、作中で登場していない「J」なのかもしれない。
 そういう説も大いにあり得る。うん。
 だからそう。
 例え正面に座ろうとして視界に写った顔が傾国と称するに相応しい片眼鏡の美少女だったとしても。
 それにビビった俺が「んー? Jがいないなー……どこかなー……」といいながら席を立とうとしても。
 そんな俺の肩に手を置いて「どこへ行こうというのかね」と問うたその声が魔性のセイレーンを思わせたとしても。
「やめろーーーー! 美人局か!? ドッキリか!? おおお俺は知ってるんだ、そうやって座ってデレデレした途端、後ろから本物のJがドヤ顔で煽りにやってくるんだ!」
「私 が J だ」
 にこやかな表情とともに告げられてしまい、錯乱した俺もこの少女をJ本人だと認めざるを得なかった。



 それにしても――と、Jは対面に座らせた俺に告げた。
 俺は注文したアイスコーヒーを早くすすりたくて仕方がなかった。
「酷いじゃないか。日本文化の右も左も分からなかった私を捕まえて、『オフ会では美少女がどんな醜男に変貌しても当然だと思え』『自分の理想を他人に押しつけるな』と君色に染め上げたくせに、いざ自分の想像と私の素顔が違うと悲鳴をあげて逃げるのかい?」
「とりあえず『君色に染め上げた』だけ大声になるのはやめろ」
 あとオフ会の鉄則については当然のマナーだから。失敗してほしくなかっただけだから。
「っていうかだいたいお前日本文化ぐらい初っぱなから余裕で理解してたしそもそも想像に現実が下方修正を加えてくるならともかく現実に想像を凌駕されたら誰だって驚くっつーの……」
「ふふん、余りに美少女だから驚いたかい」
「ああ、驚いた驚いた」
「そうか、そうか。ツェーンは私が想像していた通りのイケメンだよ」
 不意打ちは寄さんかい。花のかんばせでそんな台詞を言われては動揺を抑えきれない。こちとら只でさえ現実に適応するので精一杯なんだ。
 訝し気な目で店員が置いていったアイスコーヒーを瞬く間に飲み干す。従業員の教育がなってないぜファック。
「おまえね」
「いいじゃないか。私だって君に会えることを楽しみに浮かれてたんだよ」
「あっそ。で、聞きそびれてたけど、何しに日本へ?」
「君に会いに来た」
 うーんそっかー。
「何言ってんだお前」
 うさん臭さをぬぐい切れない。どれほど現実に打ちのめされようとも、俺にとってJのイメージは傲岸不遜な怪しい美形なのだ。この銀髪のコスプレ美少女の影に、電脳空間で見慣れたその悪辣な表情がちらついて仕方がない。
「ちょ、ちょっとちょっと、あまりそんな目で見ないでくれ。君に嫌われたら私は生きていけない」
 よよよと袖で目元を擦るな。周囲の視線が凄い。やめろ、俺はコスプレも変装もしていないんだ。
「ふふふ、からかい過ぎたか。だが、君に会えてうれしいのは本当だ」
 そのままテーブルの上に手を差し出してくる。余りにも華奢という言葉がふさわしい細指に一瞬見惚れかけた。
「ああ、俺もだよ。これからもよろしくな、J」
「それで、この後はどうするね」
「定番だとカラオケとボウリングとゲーセンを梯子して『うぇーい俺らパリピじゃーんwwwwwwwwwwwwwwwwww』『ハァーウェイ系の奴らこんなことしてんのかよwwwww』と草を生やして遊ぶ。そのあとどっかで飯を食って解散だな。ここでも『飲み会ウェイウェイwwwww』とかする」
「ふぇぇ……パリピに対する偏見とコンプレックスが酷いよツェーン……」
「カマトトぶってんじゃねえぞ、お前だって散々毒吐いてたじゃねえか」
「いやネットの顔と素顔は別のモノでしょ……」
 なんてくだらない会話をしていると(これだけで楽しいものだが)、Jから話題が振られた。
「実はね。君に先日告げたデジタル・モンスターの目撃談。それがこの街に集中しているんだよ」
 マジかよ。俺一回も聞いたことないけど。
「君は世情を意図的に絶っているところがあるから。ゲハブログの残した傷跡は深いよね……」
「いやお前アレだけはこの世に生かしておいちゃいかんだろ」
「生き物じゃないでしょおじいちゃん――あ、今のは君を老害と揶揄する目的もあってね」
「いちいちかけことばの説明しなくていいから。で、もしかして日本に来たって……住んでるのこの街なの」
「……」
「何か言って」
「……知ってる。知ってる。一切、ご承知ずくだ」
「いやJのキメ台詞はいいから」
「いいや知っているよ。一日ならいざ知らず、銀髪美少女といつも一緒に行動しているところを知り合いに見られたらどうしようとか君が考えていることは」
「」
「いいじゃないか。見せつけてやりたまえよ。やっかみの視線を楽しめるようになれば一流さ。創作者として有名税の経験もいいんじゃないか?」
「いや違えよ。いや違わないけど、いま黙ったのは違う理由だよ。お前、なに、この街でずっと俺と一緒に行動するつもりなの」
「そうだが」
「ダミット!」
「ゴッドをつけない辺り実に好感が持てるね。
 それはそれとして、まさか、ダメなのかい……?」
 潤んだ切れ長の翠瞳、縋るような視線が銀の前髪の狭間から覗く。ブラックインバネスとの対比が怪しくも艶めかしい。
「ぐぬぬ」
「君は、はるばる自分を訪ねてきた外国人の女を一人で放置するような男だったのか……勝手に作り上げていた偶像だったとはいえ、その崩壊にはそれなりにショックを受k――」
 美醜に限定したピラミッドがあれば、並ぶ者すらなかろうその容姿。それが周囲の視線さえ武器にして迫ってくる。敵わない、降参だ。
「わーった。わーったよ、協力する。デジタルモンスター探しだな。役に立つかわからんが、存分にこき使ってくれ――ただし、学校がないときだけな」
「!」
 この世界がカートゥーンなら、きっと背景に「パ ァ ア」と擬音が表示されていることだろう。まるで画面いっぱいに華が咲き誇っているかのように、Jは喜びを露わにした。
「そうそう、その件だが――」
「なんだよ」
「――いや、やめておこう。それよりも、とっととこの街を案内してくれたまえ」
「その黒幕がやるようなこの世界の真実は全て知っているが今は教えてやらん興が乗ったら話してやろうぺらぺらぺらぺらみたいなムーブやめてもらえませんかねえ」

 未だ信じがたいことではあるが。
 Jの正体は美少女だった。




 その後、この街――蛙噛市の各所を巡ってはみたし、繁華街の路地裏まで覗いてみたりしたもののデジタル・モンスターは一体も見当たらなかった。当然だ。どこから仕入れてきたかもよくわからない話だし――最も、Jの話題が突拍子もないのは昔からだが――、そうそう不思議存在と邂逅してたまるものか。そんなのは、精々都市伝説ぐらいで十分だ。

 Jと別れ、帰路についた翌日のこと。
 朝のホームルームが始まる前、自分の席で夢に現を抜かす俺を覚醒させる手が肩に置かれた。
「有羽さんよお。昨日の女の子は一体何者?」
「るっせえな、女日照りのお前の乾いた脳みそが見せた幻覚じゃねえの」
 にやけ面を隠そうともしないロン毛の男の名は宮里 定光[Miyasato Sadamitsu]。数十代続く地本の名家・宮里家の息子かつ喧嘩屋で、昔はいろいろあったが今では十分に友人と言える間柄だ。
 そうとも、俺は学生だ。特に有名校というわけでもなく、何かの部活の在籍しているわけでもない。平々凡々を地で行くような人物。少し前はバカみたいに喧嘩に明け暮れたりもしたが、今では専らサロン・ド・パラディで小説を書いている文系だ。
 過去の炎で親しくなった定光はうざったいロン毛をシャランラ振りながら続ける。
「いやいやいや、幻覚ってことはねえっしょ。だって俺ちゃん、ばっちり見ちゃったし。っていうか尾行してたし」
「暇人かよ」
「暇じゃなくてもお前の面白恋愛話なら後ぐらい尾けるっつーの」
「迷惑な話だ、ストーキングは犯罪行為だからな?」
「お前一軒家なんだから、女連れ込み放題だと思うんだけどな……ってくそ、時間か。あとでじっくり聞かせてもらうからな」
 チャイムの音と共に自分の席に戻っていく。同時に、担任教師が見知った顔を連れて教室に入ってきた。
「唐突だが、今日は転校生の紹介がある」
 セーラー服に包まれたその細い体躯は黒板の前で実に教室に映えていた。
 昨日は男装だったため気にも留めていなかったが――胸板があまりにも薄い――たったひとつの欠点を除き、彼女は誰もが想像する"外国人転校生"として申し分ない姿で、再び俺の目の前に現れた。
「レイラ・ロウです! 日本語は話せるから、みんなよろしくね!」
 なんて笑いながら言う旧来の友を見て、騒乱の予感が脳裏を過ぎるのは当然だった。



「レイラさん? ロウさん? どっちで呼べばいい?」「どちらでも、好きな方で構わないよ」「どこから来たの?」「ドイツから。今度ジャーマン料理のお店を教えてね」「銀髪きれー」「ありがとう。ホワイトブロンドって言うんだよ」「一人暮らしなの? それともホームステイとか?」「一人暮らしさ、これでも自活できるつもりでね」「ね、ね、じゃあこの街のどこに何があるかとかはもう知ってる?」「ううん、あんまり。教えてくれると嬉しいな」「勿論! じゃあ今日の放課後にでもみんなで案内するね!」
 Jの姿からは想像もつかないコミュ力で、レイラ・ロウは瞬く間にクラスに溶け込んで見せた。というか、まさか同い年だったとは思わなかった。
 驚愕と共に熱狂するJの席の方の人混みを眺めていると、チラチラと視線を送ってきているのが分かる。すると横から小突くようなモーションと共に定光がやってきた。
「まるで三文小説みたいな展開じゃないか、ええ? 話しかけにはいかないのかよ。つか、どんな関係な訳」
「別に。ネット上の付き合いが現実に雪崩れ込んできただけさ、この二日でな」
 すると合点がいったとでも言うように手をポンと叩く動作が帰ってきた。オーバーリアクション。
「ああ、お前が熱く語ってた『デジタル・モンスター』の作者?」
「うわっ詳しいなお前、俺のストーカー? まあその通りだよ、熱く語ってたとか本人の居る空間で言うのやめろよ」
「いいじゃねえか。で、話しかけはしねえのかよ」
「はああ? ないない。俺らみたいな冴えない男が話しかけていい相手じゃないっつの」
 謎の転校生が齎す狂乱の渦はじきに収まるもので、あれよという間に放課後になった。Jとそれをとりまく陽キャ共は随分と打ち解けたようで、これから遊びに行く算段を立てていた。ま、街の案内などまとには行われないだろう。
「彼らは来てくれないのかい?」
 直帰せず管を巻いていた俺たちの方を指してひそひそと内緒話が始まった。聞こえてるんだよ、外でやれ。
「あー、その、あの二人は……」
 表立っての排斥などはないが、腫れ物を触るかのような対応を受けるのは理解している。先も言ったように俺も定光も一時期は荒れていたし、噂も尾ひれがついているものだって珍しくない。「いいから行こうよ、触れないほうがいいよ」などという言葉を最後に、彼らは校舎から出て行った。
「はー、世知辛いねえ」
「誰のせいだと思ってんだ」
「十三クン」
「俺は宮里家の息子が悪いと思ってる」
「ケッ」
「やってらんないっすわ、カーッ! ペッ!」
 適当な罵り合いを続けながら、俺たちも帰路に就いた。


 
 その後数日が経ち、転校生レイラ・ロウの影響も落ち着いた頃のこと。事件は帰宅した俺の家の玄関で起きた。
「お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」
 玄関先でエプロンを纏ったJが待ち構えていやがった。
「Jにするか」
 迷わず接近、独りで静かで豊かに食事を取るために腕をキメた。
「があああ! やめたまえか弱い女子にアームロックをかけるのは!」
「不法侵入者はか弱くない。ついでに俺は男女平等論者だ」
「平等を謳うならなおさら暴力をふるっていいのか!」
「俺は犯罪者に容赦はしない。ビハインドユー」
「本当に後ろに回るやつがあるか! 悪かった、悪かったから妥協しておくれ!」
 いい加減細腕が折れてしまいそうだったのでJを開放してやった。「断る」とは言えなかったよ……。
「で、何しに来た」
「君に会いに来た」
「うんそれこの前も聞いたね?」
 俺が聞いてるのはなんで家を知ってるのかとかどうやって入ったかとかだよ。
「そんなもの、ナビゲートでストーキングして鍵開けで一発だったさ」
 私を誰だと思ってる――と無い胸を張るJだったが、現実で鍵開け技能なんぞ使われたらたまったものではない。
「まあまあ、折角作ったんだ。追い出す前にせめて一緒にごはんを食べておくれよ」
「鬼どころか家主のいぬ間に料理する奴は初めてみたよ……」
 あと別に追い出しはしねえから。
 観念して荷物を置き手を洗い食卓に座ると、既に食事の用意が為されていた。
 キャベツの千切りにオリーブオイル、揚げたての鶏肉は香ばしい匂いで食欲をそそる。ひじきと人参と大豆の煮物まで並んでおり――いやこれ俺が作ったやつだわ。当然と言わんばかりに味噌汁と白米まで並んでいる。お前ホントに外人か。
「冷蔵庫の中を見たが、随分手馴れているようだったね。だが作り置きの料理が多いようだったから、出来立てを用意してあげたよ」
「余計なお世話だバカヤロウ……で、俺の舌を満足させられるかな」
 自慢じゃないが、俺は料理には自信がある。実家の方針で一軒家など与えられ一人暮らしをしている手前、まあ自炊力も上がるというものだ。
 箸を伸ばして一口目を食す。あんぱんを食す。非常に認めたくはないのだが、うまい。とてもうまい。
「即落ち二コマかな?」
「ふ、ふふふやるじゃねえか震え声」
「ツェーンはあれかい、鶏肉が好きなのかい」
「他のもん食う気はないな」
「ふむ、こだわりが強いのかな。これは覚えておかなくてはね」
 なんでさ。
「まあ、好みに合ったようで何よりだ。そこで、本題なんだが――」
 真剣な表情に、思わず俺も顔を引き締めた。
「なんで学校で話しかけてくれないの???????????? あんなにアピールしてるのに」
 引き締めた瞬間にあきれ返った。
「いやだってお前ハードル高いって。俺みたいな人種が話しかける相手じゃないって。っつか、チャットでは毎晩顔を突き合わせてただろ」
「それじゃ足りない。期待に胸を膨らませて――ってちょっと待てなんでそこ見た。まあいい、君の性癖は既に把握してるし」
 やめろください。まさか異性だと思ってなかったからってすげえいろいろ話した過去の俺を撲殺してやりたい。
「とにかく、めくるめく学園生活を期待していたらひたすらスルーされ続けた私は、乙女力が暴走して今日のような暴挙に出たとしてもなにもおかしくはない」
「いやその理屈はおかしい」
「でもツェーン私に付き合ってくれるって言った」
 それはすまないと思うが、短期滞在だと思っていたからあんなことを言ったのだ。まさか同い年で、わざわざ俺の学校にまで潜入してくるとは思っていなかった。
「いやいいけどさ。いいけどさあ。お前話しかけるスキないじゃん、超人気者じゃん?」
「君が話しかけてくれたら全部かなぐり捨てるよ」
 重っ。
「重っ」
 いかん、思わず声に出してしまった。
「はうあっ!」
 胸を押さえて崩れ落ちた。
「いや、いやいやいやいや君。自分に会いにはるばる独国からやってきた私に対し、それはあまりにもご無体なのではー……」
 いや重いでしょ。紛れもなく重いぞ。
「え。ってか何、冗談だと思ってたけどお前本当に俺に会うために来たの」
「そうとも」
 速攻で復活した。感情の起伏の激しい奴だ。
「まあその理由はいろいろあるんだがね。今言えるのは、私が君をとても好きだということだね」
「えー……マジ?」
「大マジ」
「それはアレ? ラブ的な意味で? 俺も"J"のことはライク的な意味で好きだけど?」
「Ich liebe dich!」
「臆面なく言うねお前……」
 嬉しくないと言えばウソだが。いくらなんでも急すぎる。現実が幻想を凌駕するのはホントやめてもらっていいですか。対処できないから。
「返事をくれとは言わないよ。まだまだ時間はあるからね。必ず君を私のモノにしてみせるぞ」
 余りに男らしい宣言だ。
 うーん、ずるいなー……と思わずにはいられない。ちゃうねん、ちゃうねんて。"J"にいっつも話してたからだろうけど、レイラ・ロウ、俺の好みにぴったり合うんやて。あかんやろ。

ID.4840
 
■投稿者:パラ峰  HOME
■投稿日:2018/02/04(日) 14:52


聖剣転生Legend-Arms 1-2 心臓の凍り付いた男
 特に何か起きるということもなく、昨日のJは立ち去った。
 翌朝、教室で速攻で定光に昨日の話をした。まあ、自慢したい気持ちもないではない。
「――と、いうことがあってさ」
「もげろ」
 清々しいまでのファックユーが返ってきた。
「いやさ、好意は嬉しいし見た目も言動も好みだしそもそも全然知らない相手じゃないし、正直あの、その……怪 し す ぎ る」
「分からんでもない。俺も家の件でいろいろあったしな」
「正直満更じゃないのはあるんだけど、眼がさあ……」
「眼?」
「眼が怖い。一回受け入れたら絶対逃げられなさそう」
 俺も創作上で何度か形容したことがあるが、そんな感じの本気の眼だった。
「あー……そうか。頑張れ!」
 無駄なサムズアップしやがって。親指を逆さにしたハンドサインを返してやる。そうこうしているとJが教室に入ってきたため、話を切り上げる。定光は自分の席に帰り際「あ、そうそう」と思い出したかのように言ってきた。
「そう言えば、まあデジタル・モンスター探しに役立つか分からんけど、最近話題の噂なら知ってるぜ」



 ウェンディゴ症候群。
 北米でその実在をまことしやかにささやかれている冬の精霊ウェンディゴ。ウェンディゴは旅人の背後で気配をまき散らしその精神にを発狂に至らしめるという。
 それだけならば、さほど害のある逸話ではない。
 げに恐ろしきは、ウェンディゴは夢の中で選ばれしものの魂に憑りついてしまうのだ。ウェンディゴに見初められたものの心臓は文字通り氷と化し、その容貌は悍ましき怪物じみたものへと変貌する。
 そして、人肉嗜好を発症する。ウェンディゴ症候群を発症したものは、最悪の場合部族から処刑されるか、完全にウェンディゴ化してしまう前に自死を選択する――。

 というものが、ウェンディゴにまつわる簡単な逸話だ。
 俺も創作者として、この程度のネタは諳んじることができるが――。

 定光が言うには、この蛙噛市においても、ウェンディゴに憑りつかれたという人物がいるのだという。
 そしてそれはこの学校の人物で、つい最近引きこもり始めたらしい。



「なるほど、なるほど」
 放課後、その話題をJに振ってみれば、奴は神妙な面持ちで頷いて見せた。
「ウェンディゴ症候群――南カナダより北アメリカでしか発症しないと言われていた風土病で、悪魔憑きの一種とも言われ、その実態は栄養失調による精神異常とも言われるそれか。デジタル・モンスターの情報とは一切関係ないが、ひょっとすればそれより面白いかもしれないね」
 放課後とはいえ、学校でJに話しかけた時点で周囲からの視線が凄いものになった。いや、まあ、特に気にならないが。ちょっと遠巻きに眺めて様相を見守っているのがまあ腹立たしい。見せ物じゃないぞ。
「ま、趣味に合ったようで何よりだ」
「ちょうど私の方でも、引きこもりになった少年の噂は聞いていてね。曰く深夜徘徊して土を食べたりしているらしい。実際に会ってみようじゃないか」
「マジかよ。しかしどうやって」
「せっかく君から持ってきてくれた最初の話題だ。私としてはこれは是が非でも長引かせたいんだよ」
 Jの中では既にその訪問は決定事項の様で、俺を先導して職員室の前まで行き「待っていたまえ」と告げ赤に入ること五分――事もな気に引きこもり少年の住所の情報を得て戻ってきた。
「なに。この容貌とわずかな演技力があれば十分さ」
「なるほど、詐欺師に鞍替えしたほうがよいのでは? ツ訝」
 ツェーンは訝しんだ。
「うるさいぞ。ほらほら、エスコートしてくれたまえよ。制服デートだぞ」
「ウェンディゴ症候群疑いの引きこもり少年に会いに行くのは果たしてデートなのか」
「いいね、次のタイトルはそれでいこう。私は君の怪奇小説をいつだって楽しみにしているんだから」



 インターホンを鳴らす。
 返事はすぐには返ってこなかった。家の中で一悶着あったようで、近所迷惑と言って申し分なさそうな獣のような怒声が響いてから、母親と思しき女性が顔をのぞかせた。
「……和弘の学校の人かしら」
 息を切らせて問うてくる様子を見るに、随分と息子の扱いに難渋しているらしい。俺たちのことも、歓迎しているとは言えないようだ。
「はい。お初にお目にかかります。先日蛙噛市にやって参りました、レイラ・ロウと申します。こちらは同級生の有羽十三。和弘君の話を聞き、心配になってお訪ねしました。何も知らない転校生なので、何かお話を伺えるかもしれません。失礼ですが、部屋の前まで上がらせていただいても?」
「……どうぞ。まともに会話も成立しないけど、気を付けてね。深夜に出歩いてるみたいだし」
 些かの逡巡の後に扉が開かれる。夕刻ながら家の中は電気もついておらず、その奥はアバドンの居の中のような深淵が広がっている。
「失礼します」
「……部屋は二階の一番奥よ」
「ありがとうございます。さあ行こう」
 とうの経った木造建築なのだろう、階段に足を乗せる度に不気味な軋みが上がる。十数段の階段を登ると、二階は採光部も新聞紙や何やらで塞がれており、なお一層の暗闇が広がっていた。
 最奥の扉を四度ノックする。返事はない。
「和弘君、いるんだろう、話が聞きたい」
 返事はない。ただ、ガタンと勢いよく立ち上がったような音が聞こえた。
「……。……」
 扉ににじり寄ってくる気配がある。荒い息遣いが聞こえる。葉と葉の隙間を気流が通り抜けるような高い音。気配の移動は扉の手前でとどまった。おそらくは扉か、その付近の壁を背にしている。
 Jを自分の後ろに下がらせる。
「話したくないのか、話せないのか。どちらでも構わない」
 穏やかなJの声音が気味の悪い静寂をより映えさせる。
「イタカ、イタクァ、イトハカ、Ithaqua、ウェンディゴ、風に乗りて歩むもの、歩む死――あるいはハスター。ハストゥール、Hastur」
 扉の向こうで、気配が一際驚いたようだ。Jは何を言っている?
「どれでもいい。心当たりがあれば一度、なければ二度扉を叩きたまえ。二度叩かれれば私たちはすぐに帰ろう」
 今度は返事があった。ノックは一回だ。



「ふむ」
 部屋に入ると、全くの暗闇だった。すえた臭気も漂っており、吐物の残り香が充満している。余りの不快感に顔をしかめた。
 Jを部屋に入れるか逡巡していると、勝手に俺を押しのけて入ってきた。
「構わないよ、君の方こそ転ばないように注意したまえ」
 既に目が慣れているのか。暗闇にもかかわらず、Jは一切の淀みなく歩みを進める。
「電気は点けるなよ。食人嗜好を抑えられなくなる」
「なんだって?」
 これにもノックが一回。音の元を探ってみれば、蹲り頭を抱えて和弘少年と思しき物体がそこにいた。
「私たちの姿が、彼にはこの上ないご馳走にみえるってことさ」
「それは――」
 行き過ぎた異食症。鉄分・ビタミン不足が魅せる筈のウェンディゴ症候群の症状だ。だが、まさか本当に――?
「夜な夜な外に出て、何をしているのかと言えば――」
 足元の物体がビクンと震えた。罪を糾弾されるインディアンのウェンディゴ。
「墓暴きだろう。違うか」
 余りにも短く、そして当人には長すぎる時間の後に控えめに床が一回叩かれる。和弘少年にとって、それは自ら絞首台に登っているに等しい気分だろう。
 だが、Jの声色は対照的に余りにも優しい。
「安心したまえ、君を責めるつもりはない。真っ当な食事は喉を通らず、言葉が発せなくなり苦しみも伝えられず、人肉が食べたくて食べたくて仕方がない――そんな中、骨を食べるだけで我慢するなんて、到底できることじゃない」
 突如、氷の心臓の怪物が立ち上がった。ウェンディゴがJを押し倒す。
「いい」
 咄嗟のことに対応できず、しかしすぐさま和弘少年を引き離そうとする俺に、Jはそう言い放った。
「a――なニ、w、シ、ッて……ル――ッ」
「何も」
 俺と同じ疑問を放った縋るような声は、奈落の底へと突き放された。
「私はね、和弘少年。日本に発生したウェンディゴ症候群を一目見に来ただけなんだよ。彼に君の姿を見せるためにね。ゴーストハンターな訳でも、正体はエクソシストだったりもしない。ただの野次馬。まあそもそも残念だが――」
 俺も闇に眼が慣れてきたから、二人がどんな表情をしているのかが分かる。和弘少年の嘗ての容貌など残っていないだろう鬼面は更にぐしゃぐしゃに歪められ、その下のJは凍り付くほどの能面だ。どちらが氷の心臓の持ち主なのか、錯覚してしまいそうな程。
 口上の途中で、Jの顔を透明な雫が濡らした。
「――ホンモノのウェンディゴ症候群は、アルコールでも熊の脂でも治らないよ」
 精霊と合一化しかけている男は崩れ落ちた。彼が泣き止むまでJがその頭を撫でている間、俺は手持無沙汰に立っているしかできなかった。
 時折こちらに向けられる和彦少年の落ち窪んだ眼窩が、どうにも印象に残った。



 その後、落ち着いた和彦少年は再び引き籠もり、俺たちは和彦少年の家を後にした。
「「で、だ」」
 会話の初動が被ってしまう。すかさず手の平を向け「どうぞ」とジェスチャーする。するとJは何やら興奮した様子で――いや、一切その表情から興奮は伝わってこないのだが――ウェンディゴについての感想を求めてきた。
「いい経験になっただろう? さすがに本物のウェンディゴ症候群はそうそう湧かないからね」
 君に見せてあげられてよかったよ――なんて、清々しく言いながら笑いかけてくるものだから、毒気を抜かれる。どこかおかしいわコイツ……なんて思いながら、今回のことが全くの善意で為されているのだろうとも伝わってしまう。
「まあ、うん……得難い経験だったよ」
「だろう! よかった。もういい時間だし、それじゃ帰ろうか」
「えっお前今日も来るつもりなの」
「ダメかい?」
「いやダメでしょ。連日男の家に入り浸るとかお前どうなの」
「むむむ」
 むむむじゃありません。
「分かったよ、今日は諦める。その代り、今度はツェーン家のセキュリティ強化のために良い鍵を見繕ってあげよう。防犯グッズ物色デートだ、いいね?」
「なんだその物騒なデートは」
 ビシイ! と俺に指を突きつけてJは立ち去った。
 一応、尾行されていないか警戒して帰宅したが、一切そんな気配はなく自宅に着けた。



 その晩。
 ウェンディゴの姿がいやに目に焼き付いていて、どうしようもなく不安感があった。いい年こいて怪談やホラー映画を見たところで眠れなくなったりはしない。しないが――昼間の体験は、どうにも衝撃的に過ぎた。
 だから、深夜にふと目が覚めるのもおかしくはない。乾燥した喉を癒すため、水分を求めるのもまったく妥当なはずだ。
「チッ、切らしてたか……」
 冷蔵庫の中を漁れば、常備している筈のミネラルウォーターがない。倉庫の中を覗いてみても一本も残っていない。普段ならばあり得ないことだが、J来訪からの一連の騒動で忘れていたのだろう。
「完全にフラグだよな。これで外に出たら俺もウェンディゴ症候群発症したりして」
 冗談めかした独り言を言いながら、水を購入しに靴紐を結び、外に出た。
 そして目にする。
 和弘少年の姿。
「な――」
 俺の家の前を四つん這いで歩行し、その足跡は血で描かれている。その体躯は最早人間のモノとは言えないほど肥大化し、細い腰と細い足首、細い肘部とは不釣り合いなほど流々とした分厚い筋肉。腫れぼったい唇からは唾液が血液と混じり合ってどろりと零れ出る。
 唾を吐くかのような気安さで、ぷっと間抜けな音と共に吐き出されたのは、人間の、腕――。
 血に餓えた獣[wendigo]。
 瞬時に気を取り直した時には、もう遅い。唖然としていた俺の身体は、その化け物にとって紙風船よりも軽かった。
「ゴ――が、ハぁ……!?」
 瞬く間に接近され、腕の一振りで路地に投げ出された。明滅する視界。異常をきたす平衡感覚。呼吸ひとつままならない。この状況で身体を動かそうだなんて、贅沢に過ぎる。
 しかし俺の意識は、その姿を捉えて離さない。
 そう、見たことがあるのだ。茶褐色の体毛を。赤々と輝くその目を。
「Gあ、aア、Aaaaaa!」
 両腕を棍棒のように振り回す『クラブアーム』。その第二撃が、地に伏せる俺目掛けて振り下ろされる。
 思い出した――。
 デジタル・モンスターが一体。獣人型。成熟期。ウィルス種――。
「――ウェンディモン!」
 頭蓋を破壊せんと迫る一撃に備え、俺は思わず目を強く瞑った。



「世界は表裏一体で、Realの裏側にDigitalがある」 
 死をもたらすと覚悟した衝撃は、いつまで経っても襲ってこなかった。
 代わりに聞こえてきたのは、剛腕が金属にぶつかって響かせる鈍い衝撃音。
「Gu、ァ……?」
 俺とウェンディモンの間に立ちふさがる、黒衣の痩身。
 デジタルハザードの刻まれた白き聖盾を左手で構え、身体を半身に構えて、俺の方を見ていた。
「大丈夫かい、ツェーン」
「お、前……なにを」
 唇から漏れ出た言葉が震えていたのは、驚きからだけではないだろう。
 いくらイージスを構えているからと言って、Jの身体がデジタル・モンスター並みの強度を持っている訳ではないようだ。その証拠に、今もウェンディモンの怪力に押し負けてしまいそうで、その冷貌が苦悶に揺れている。
 それなのに、この人物は気丈にも告げるのだ。俺を見て微笑みさえ浮かべながら。
「君を――君を、護りに来た」



 宵闇の中、街灯の明かりだけが照らす中、Jは細身の体躯を躍らせた。
 真正面からでは埒が明かぬと感じたのか、ウェンディモンが横薙ぎに振り払ったもう一本の腕。それを飛び上がって回避する。上空で右腕に円錐形の聖槍を現出させ、落下の勢いを利用して非力を補い、ウェンディモンの片腕を貫いた。
「Gyaaaaaaaaaアァ――――!」
 耳を劈く悲鳴。そこに和弘少年の面影は最早ない。だがその咆哮は余りにも凶悪で、周囲の生き物一切の動きを強制的に静止させた。
 ひとしきり騒ぎ終わったウェンディモンが次に狙いを定めたのは、未だ動けないままの非力な獲物――つまり、俺だ。
「チッ」
 その赤光の瞳がこちらを向いた途端、Jは再びイージスを構えウェンディモンの前に立ちはだかった。その動作を見て、醜悪な鬼面が口唇の亀裂を深くした。知っている。俺はこの後の行動を知っている。
「『デストロイドボイス』だ! 来るぞ――!」
「っ、まず――ゴッド・ブレス!」
 即座に漆黒の盾を展開するJだが、何を思ったかそれを自分の後ろ――俺の目の前に配置、剣の意匠の魔楯は球形の防御シールドを展開した。効果範囲に彼女自身は、入っていない。
 おかげで俺には一切ダメージは入らなかったが、代わりに岩をも粉砕する衝撃波攻撃が、俺の前にいるJを襲った。
「Jッ!」
 衝撃波は周囲のコンクリートを引き剥がし、まるで煙幕を撒かれたかのように状況が見えない。
「――大丈夫だから。君はそこで休んでいて」
 そう告げる彼女の声に安堵するも、煙が引いてその姿を視認できるようになると、気を抜くことなどできる筈もなかった。
 一撃。たった一撃で、見るも痛ましいほどにボロボロだった。左腕を庇う様にかき抱き、"J"のトレードマークたるシルクハットは跡形もなく吹き飛ばされ、黒衣は所々が破れ白磁の肌が露出し――その全てから血がしたたり落ちている。
「そんな、こと――」
 あまりにも、無残。あまりにも、勝ち目がない――あまりにも、絶望的。
 だが、だが――この身体は。この俺は。
 デジタル・モンスターが本当にこの世界に出てきていることよりも、その最高位、ロイヤルナイツの武装をJが自在に扱っていることよりも。
「――できるわけないだろう!」
 Jが――レイラ・ロウが傷つけられていくのを、黙って見ていることなどできそうもなかった。
「俺も戦う」
 気付けば俺の手には、一振りの黄金の剣が握られていた。
 飾り気なく、鍔も握りも柄頭も全てが金色。まるで一塊の黄金を削り出して作ったかのような剣。
 身体の痛みは残っている。だが、不思議と戦えない程じゃないとも思う。
「Legend-Arms!? ツェーン、君は――」
 一歩踏み出し、Jの隣に並び立つ。ウェンディモンに対し感じるべき恐怖心、警戒心、そして脅威。それらはもう、一切感じられない。
「事情説明はしろよ。けど――今は」
 ウェンディモンを打倒しよう。共に。
「――うん、ありがとう」
 潤んだJの翠瞳を真横に見て、交わした視線に万感の思いが交叉する。
 その感情がなんなのか、俺にはまだわからないが。
「来いよウェンディモン。この世界から叩き返してやる」
「君と私なら、絶対に負けないよ。行こう」







「Legend-Armsは、一種のデジタル・モンスターだ」
 竜の頭部を模した柄の剣――グレイソードを振るいながら、Jは講釈を開始した。
 片腕ながら、その切っ先はウェンディモンを翻弄し、猛攻を搔い潜って着実に傷を増やしていく。
「自らを武器の姿に変え、選び出した主に力を与える。天使が持てば世界を救い、悪魔が持てば世界を滅ぼす」
 黄金の剣を携え、俺も続く。
 剣の振り方など一切経験がないが、この剣が全て教えてくれる。デジタル・モンスターだというならば納得だ。
「君のそれは、きっと……ズバモンだろう」
 ズバモン。知らない名だが、どこか懐かしい郷愁のようなものを憶える。
 繰り出された丸太のような脚のキックをステップで回避、避け様に下手から切り上げて一閃。この剣は、そう「どんなものでも切れる」のだと、無意識の内に悟っていた。
「Aaa――GaaAaaaAA!」
 無限に増える切創に死を見出したか、ウェンディモンは咆哮をあげる。
「二度はさせない――テンセグレートシールド!」
 いつの間にかJの右手首に嵌められていたVブレスレットが、無限に再生するシールドを展開する。しかし無効化すべき衝撃波は発生しなかった。
 異次元空間を創り出したか。
 時空の裂け目の向こうに、逃走するウェンディモンの背中が見える。
 確かに『デジタル・モンスター』の中でも、ウェンディモンは特殊な種族だった。成熟期――下から数えて四番目の成長段階ながら、時空を操る力を持つ。究極体――こちらは下から数えて七番目、進化の終着点に達した存在だが――の中でも、そんな力をもつものは数少ない。
 だが、最早手遅れだ。
「逃がすかよ! トゥエニストよ――斬り裂けぇッッ!!」
 どんなものでも切り裂くという謳い文句は、伊達ではない。閉じられた次元の狭間。それを空間を切り裂いて無理矢理に広げる。
「Jッ!」
「任せてくれ――ガルルキャノンッ!」
 次元の向こうにいるウェンディモンの無防備な背中に、冷気凝縮弾が激突した。



 ウェンディモンが消滅し、世界は元の穏やかさを取り戻した。
 とは言え、和弘少年と彼に荒らされた墓、食われた人間は元に戻らないだろうけれど。
「逆に、君に守られてしまったね……。何はともあれ。君が無事でよかった」
 血に塗れた華奢な身体が倒れ込んでくる。弛緩しきった表情で、咄嗟に支えた俺の腕に全身の体重を預けてくる。そして意趣返しのつもりか、こんなことを問うてきた。
「ふふ、ねえ、私は重くないかい?」
「……いや、軽いよ」
「説明はする。するけれど」
 そのままそっと目を閉じた。
「もう少し、このままでいさせておくれ」
 なんて告げるJに逆らえず、俺はとりあえず家に上がらせて傷の治療でもするか……と、そんなことを考えていた。

ID.4841
 
■投稿者:パラ峰  HOME
■投稿日:2018/02/04(日) 15:03


聖剣転生Legend-Arms 1-あとがき
 伝奇モノしか書けない病にかかりました。パラ峰です。
 先月末に合わせ滑り込みセーフで前作『寂滅アケイディア』を書きあげ、いろいろと頭の中で練り練りしていた結果生まれたこの『聖剣転生Legend-Arms』ですが、結局現実世界にデジタルモンスター出しちゃったよ。まあいつものことですね。
 本編でシリアスやって直後にくっつけた短いあとがきで笑いを取るのが私のスタイルでしたが、あとがき分けた方がとっつきやすいかなー、なんて思った結果こうしてあとがきを別のレスで投稿することにしました。
 その結果、いつもみたいな2,3行のあとがきでは味気ないかななどと思い、こうしてまっとうに筆を執っている次第であります。
 まあやるんですけどね。いつものやつ。






 出会ったばかりの銀髪貧乳翠眼美少女に好き好き押せ押せされて押しかけ女房されたーい! ようボーイズ。みんな好きだろ。
 P.S.本当は眼帯もつけたかったけどモノクルにしたよ。 

ID.4846
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2018/02/05(月) 23:29


YOUは何しに日本へ
 ァーーーーーー!!
 口裂け女やメリーさんに並列でTさん語られんのかよ!? むしろTさんは味方じゃねーか!? あと冒頭のやり取りで「まさかコイツ、ルー語使いか!?」と戦慄したが別にそんなことは無かった。……チィ。


 というわけで、夏P(ナッピー)です。唐突に「黒幕がやるような〜」と作者が好きな奴やろそれメタい発言するのは笑えるのでやめないでくださいお願いします。Jとツェーンの会話楽しみすぎやろ作者。ところでJは本来あーいうタイプじゃなかったけど、ツェーンの好みのタイプとか(ネット上で)聞いたから死に物狂いで彼の好みに合う女性になるべく修行したとかなんでしょうか。だとしたら燃えるぜバーニング。
 また親友キャラが出てきたが、よもやコイツはヤスるまいな……? なんか雰囲気が桐彦に似てるし、「家のことで色々あった」と露骨なフラグ建ててるから怖いぞ。
 ロイヤルナイツの武器を次々と使うとかJお前王の財宝ゲートオブパラロンでも持ってんのかと思ったらズバモンじゃん! 初めて見た! しかし事前に究極体でも持ち得ない稀有な能力を有するという前振りがあったとはいえ、成熟期にガルルキャノンってどんなオーバーキルだよ。

ウェンディモン「違うな……それほど俺が圧倒的だったというだけのことよ」

 引きこもり少年の下を訪れるところはなかなかゾクッとさせられた。ノックのやり取りとか好き。
 あとやっぱり第一話でヒロインズタボロにするの好きっすね……やっぱりドイツ生まれって凄い、改めてそう思った。

ID.4848
 
■投稿者:Ryuto 
■投稿日:2018/02/06(火) 00:03


RE:聖剣転生Legend-Arms 1-1 Jという人物
すみません、先日『寂滅アケイディア』読み始めたとお伝えしたところですが、新連載始まったのなら先にこっち読むべきだろうと思い読んでしまいました(自分なら新しい方を先に読んで欲しいと思うので……)。
最初「おいおい一体何の話を始める気なんだよ……」とか思いましたがその相手がヒロインでしかも引っ越してきてくれて安心。こういうの少し憧れましたよね……(過去形)。
しかし「デジモンがヒロインの創作物としてのみ知られている」というのは意外と新しいんじゃないかと……その後の展開も含めフレッシュなものが期待できそうで楽しみです。
余談ですがNEXTでズバモンが登場したのって今回が多分初ですね。
ズバモンの扱いがどうなっていくのかも気になります。

ID.4857
 
■投稿者:Shot-A 
■投稿日:2018/02/10(土) 21:20


じーざす
お前お前お前お前お前お前!
これいつものお前のアレじゃねーか!

どうも俺です。
「一軒家を与えられている」ところで突っ込まなかった側の人間です。

完全に性癖を押し込んでる以外は、インターネット老人なら共感してしまいそうなオフ会あるあるが下敷きで、
なおかつこれまた懐かしいボーイミーツガール(転校生)で
非常にすんなり読めました。

あと怪異をデジモンのせいにするのは大好きだぞもっとやれ。
今回はそもそも元ネタへの回帰でしたが、次はどんなネタで攻めてくるのか楽しみだわん。

では。

ID.4858
 
■投稿者:パラ峰  HOME
■投稿日:2018/02/10(土) 21:38


聖剣転生Legend-Arms 2-1 朽ちた情報統合樹
 さて、「さあ、軟膏を塗りたまえ! ほら!」と言って服を脱ごうとするJを風呂場に押し込んで数刻が経った。「美少女の柔肌だぞ!? なぜだ!」と騒いでいた。頼むからシリアスを保ってくれ……まあ脱がせたいは脱がせたいが、いくら何でもこの状況は性欲より好奇心が勝ると言うものだ。あと猜疑心。
 『デジタル・モンスター』の中から飛び出してきた、J本人とウェンディモン。加えて前者はロイヤルナイツの武装を軽々と取り出してのけた。
 考え得る可能性は、正直思いつかない。ネタ晴らしを待つしかないのだろうか。それはそれで一読者として癪な感じがある……。Jが戻ってくるまでに何か考えつかないだろうか。
 頭の中であれこれ可能性を想定してはこねこねしていくが、今回のこれはちょっとハードルが高い。何せ、これまで遭遇してきた怪異とは格が違う。ちょっとした都市伝説が精一杯だったのに、ここにきて知人の創作物が現実になるだと? 確かに、都市伝説だって元はネットのいち書き込みや田舎町の言い伝えに過ぎず、そうした意味ではJの『デジタル・モンスター』が奴曰く"新進気鋭のフォークロア"化する可能性も低くはあるまい……。
「あがったよー。包帯ももらった」
 と、そこまで考えてJの言葉に思考を遮られる。
 流れる銀髪に水滴がまとわりつき、湯上がりのJは予想以上に美し――いやまて、それよりも。
「……その服はどっから出した?」
 いいのだ。例えば俺にコスプレ趣味があったとして、いつの間にかJがその衣装を引っ張り出していたとしても。あるいは俺が未成年者略取誘拐犯で、なんかいい感じに女の子を隠したものの一着だけ服を隠し忘れていて、それをJが引っ張り出していたとしても……いや全然よくはないが。
 だが、それはないだろう。そんなことが可能なら、どんな想像だって覆される。
「こんなもの、私にかかればちょちょいのちょいさ」
 くるりとその場で一回転してみせるJ。再び黒衣に包まれた痩身をブラックインバネスで覆い、更に頭の上には黒いシルクハットが鎮座している。その後で俺の方へ向き直り、にやけ面を浮かべた。
「おやおや、それともツェーンはこっちの方がお好みだったかな」
 もう一回転。すると先ほどウェンディモンのデストロイドボイスを受け、ボロボロに破れてしまった衣装に代わる。
 さっきは血を流すJの姿に激高していて全くそんな印象は抱かなかったが、改めてみると中々"良い"衣装にも見える。
「うーん、それはそれで目の保養になるな。服の下の包帯も実にいいぞ」
「!?!!!!?!???!」
 顔を真っ赤にして元に戻してしまった。とてもとても残念だ。
 しかしよく見れば、左腕の動きがよろしくない。イージスを使用して尚、衝撃を殺しきれず負傷したようだ。そう言えばこの腕にアームロックキメたな、と思いつつ、Jに接近して左腕を掴む。
「あ、あわわ、ちょっと待ちたまえ。まだこここ心の準備が」
「ちげーよ馬鹿、これは治んねえのか」
「あ、な、なんだそんなことか」
 露骨に落胆されるとちょっと困る。
「ふっふっふ、しかし私の怪我を気にするとは、つまり私に気があると見て良いな!?」
「あーはいはい、普段の調子に戻ったようで何より」
 それよりも説明をしろ、説明を。
 涅槃に至ったつもりの表情で無言を貫いてやると、観念したのか語り始めた。なんとなく扱い方がわかってきた気がする。
「傷についてなら、心配は無用だ。機能不全になることは絶対にない」
 それを聞いて安心した。後遺症が残りでもしたら、最悪俺が一生Jの左腕になってやらないといけなくなるところだった。
「……つつつツェーン、今何かとても嬉しくも恐ろしい事を考えなかった?」
「……? いや、何も」
 女が自分を守って負った傷なんて、一生かけたって返しきれない恩だろう。
 珍しくドン引きしたような目で俺を見つめるJが、出会って数日に過ぎないがとても新鮮だった。「君も大概度し難いな」なんて台詞は聞こえない。聞こえないぞ。
「で、絶対に治るって保証はどこから出てるんだ」
「その前に」
 真剣な前置きの言葉。これから事件の真相が語られるのだ。摩訶不思議にして物理法則を超越したこの舞台の。
「君は私が出した装備について、どこまで把握しているね」
「順にイージス、グラム、アヴァロン、グレイソード、Vブレスレット、ガルルキャノンだ」
 舐めるなよ。俺はお前の大ファンだ。
「そう、そしてそれらに共通するのは、デジタルワールドの最高セキュリティ――ロイヤルナイツの武装であるということ」
 理解している。だが、つまりそれは――。
「なれば、その武装を自在に現出させられる私がなんなのか」
 Jという人物は、デジタルワールド最強の守護騎士達を従える存在に類する。それは即ち――。
「――イグドラシル」
 眼前の黒衣を見る目が変わる。
 この人物が、イグドラシル。『デジタル・モンスター』の中で、デジタルワールドを統括するホストコンピュータ。
 ――本当に?
「当たらずも遠からず……無論、幾ばくかの脚色はあるが」
 答えは他ならぬ当人から。
「我が小説『デジタル・モンスター』はね、ツェーン。私の自伝なんだ」
 信じ難い。



 ならば、あの冒険譚は真実だというのか。多くの者が熱狂するほどの描写は、まさしく自ら見てきたものだったからなのか。
「先ほど私は言っただろう。世界は表裏一体で、Realの裏側にDigitalがあると」
 聞いた。そしてそれは、『デジタル・モンスター』内の設定で――。
「――設定じゃないんだ。だけど私たちは、いいやこの惑星は、その事実を忘れさせられている」
 縋るような思考は、イグドラシルの類縁を名乗る女によって破壊された。
 喉が渇く。目が霞む。呼吸が乱れる。脈拍は上がり続け心臓の音が五月蠅いほど高鳴っている。だがそれは期待でもなんでもない。俺たちが暮らしているこの常識が粉微塵に粉砕されることを、脳が、身体が、拒んでいる――。
「それは、一体――なんの、為に」
 打ち砕かれた現実の残滓。元々薄氷に過ぎなかったそれを必死にかき集めながら、荒唐無稽な彼女の話をできる限り理解に落とし込めようと苦心する。
 どうしてだ? どうして俺は、この話を聞いてこんなに動揺している?
 Jの妄言でないことはさすがに分かっている。この状況で虚言を放つ人物ではないし、実際に俺はデジタル・モンスターを目の当たりにし、彼女と同じように武器を召還さえしてみせた。
 しかしだからといって、これまでの常識が破壊されたからといって、こうまで精神が揺らぐのは、まっとうと言えるのだろうか――?
 なにかが、おかしい。
 有羽 十三という人物を構成する歯車のどれかが、この短期間に致命的にズレてしまっている。
「少し、休もうか」
 柔らかな女性の掌が、俺の頭に置かれた。
 そのまま頭蓋を撫でるように、左右に数度。
 茹だるような熱を放っていた俺の脳が、急速に冷えていく。
「ごめんよ、ツェーン。君がこうまで慄くとは」
 気付けば視界はスキニーのスラックスと、それを覆うとんびの黒で埋められていた。
「いや……」
 立ちの姿勢から情けなくも立ち上がり、続きを促した。
「ふふ。これは『デジタル・モンスター』のネタバレを含むよ。それでも君は続きを聞くのかい」
 優しげな微笑みは、遠くを懐かしむような声色に埋もれ、とても儚く見えた。
「当たり前だ」
 そして俺は、そんな彼女の笑顔を護りたいと感じていた。
「ならば答えよう。舞台は『魔王戦役』の後の話だ」



 Jと言う名は主人公の――私の師の名で、右も左も分からないままデジタルワールドを彷徨い歩くこととなった私の唯一の指標となったのはツェーンならば旧知の事実だろうし最早言うまでもないだろう。彼のおかげで今の私があるし、第二章『Digi-Mentals』において退場させてしまったのは実際に彼が死んでしまったからでそれが偏に私の力不足で、そのため数日寝込む程に落ち込んだのもまた本当だ。その後私はJの名と服装を継ぎこうして今に至るまで活動とロールプレイを続けているが今でも自分が紛れもないJをやれているかは分からない。とは言え君に実際に会いに来るときにまでJのロールをするつもりはなく、Jのコスプレをした普通の女の子になるつもりで昔の自分という者をとてもとても久しぶりに出したのだけれどどうだったかな。私の好意は君に届いているのだろうか。いやさ届いていると信じたい。
 とまあ話がずれてしまったが、結局のところ大切なのはその後だ。Jを名乗りデジタルワールドとリアルワールドを駆け回っていた私は苦難の果てに最終章『魔王戦役』に至る。世界を覆い尽くす暗雲とそれを生み出す七大罪の魔王たるデジタル・モンスター達。だがその当時の私はまだ知らなかったんだ。無邪気にも無垢にも見える行いでその魔王達を打倒し、この世界が無限に広がる平行世界の一つに過ぎないと悟るまでは。ああ、できることならばかつての自分を殴り飛ばしてやりたいさ。彼ら七大魔王はその強大すぎる力故に無数の平行正解に均等に力を分かたれて存在していたのだから。それを知らず私はこの世界に存在する魔王達を殲滅してしまった。殲滅できてしまった。
 そして大いなる理はそれを許さなかった。一つの世界から魔王を殲滅し、他の世界の魔王をより強大なものにしてしまった私。世界の均衡を乱した私に、大いなる理はとある罰を与えた。それが情報統合樹イグドラシルの端末としての永久残業だ。『魔王戦役』でこの世界のイグドラシルは枯れてしまっていて、無論その手足として動くべき全十二体のロイヤルナイツも全滅してしまっているからね。随分と簡略化してしまったがこれが私の軌跡。そして私がナイツの武装を顕現させることができる絡繰りだ。枯れたとはいえ情報統合樹は情報統合樹。そのデータベースにアクセスすることはあの冒険を終えた"J"にとっては造作もないことだった。そしてアクセスができればデータを表裏一体のこのリアルワールドに持ってくることだって容易なのさ。



「以上。これが世界の真相だ」
 熱の籠もった様子で一息に告げ終え、Jはゆっくりとソファにかけた。
 正直な話、理解に悩むことはない。前提条件は履修済みだ。
 だから一切は、俺がそれを受け入れられるのか否か。
 答えは、あえて自らに問いかけるまでもなく。
「信じるよ」
 静かに頷き、Jは小さな顎に手を当てて考え込みながら話し始めた。
「……私の仕事は、デバッグさ。隔たった二つの世界の境界を越えるデジタル・モンスターを殲滅すること。私が乱してしまった世界の均衡を、私が壊してしまったホストコンピュータの代わりに保たねばならない」
「そうか」
「その過程で、私は小説『デジタル・モンスター』を執筆した。いくらイグドラシルの端末になったとは言え、私の身体は一つしかなく、派遣すべきナイツもいない。故に創作という形でデジタル・モンスターの存在をネットの大海に広め、数多の都市伝説の一つとして、この蛙噛市に顕現するよう誘導した」
「なるほど。つまり、先日チャットで持ちかけられた『新進気鋭のフォークロア』という話の時から、俺はお前の掌で踊らされていたって事か。今後も、デジタル・モンスターがこの街で暴れまわるってのか」
「それは違う!」
 コーヒーテーブルに勢いよく手をつき、Jは身を乗り出して抗議した。
「蛙噛市を舞台にしたのは、確かに故あっての事だ。君を危険に晒してしまったのは、私の責任だ。だけど! 君を踊らせて愉しむつもりなんて微塵もなかった! そんな邪神みたいな心づもりは――!」
 端正な顔が台無しだ。今度はJが、ひどく狼狽してしまっている。だから、この台詞を贈ろう。
「知ってる。知ってる。一切、ご承知ずくだ」
 "J"のキメ台詞。
「え――?」
「一応、言ってみただけだ。デジタル・モンスターのデバッグ作業だって、付き合ってやるさ。
 ……で、まだ聞いてないことがあるんだけどな」
 きょとんとするJの目の前で、テーブルの上に金色の剣を置いた。
「――この剣は。ズバモンはなんなんだ」
 『デジタル・モンスター』の設定に則るなら、一口に言えば俺のパートナーデジモン。しかし、剣の振るい方以外は一切語らない。今も、無言の黄金が鎮座しているだけだ。俺が知っているのは、彼女が作中で語ったことだけだ。分からないならば、明かされていない要素があるならば、本人の口から聞く他にあるまい。
「それは……」
 珍しく、翠の瞳が泳いでいる。数刻俺と視線を会わせぬように右往左往して、やがて意を決したのか、Jは語り出した。
「君の……パートナーデジモンだろう……」
 ウェンディゴへのなりかけを冷徹に見捨てたのと同一人物なのだろうかと思う程おずおずと。
「成る程。じゃあ次の質問だ。さっきお前は『この惑星はデジタル・ワールドの存在を忘れさせられている』と言ったな」
 Jの華奢な肩が、飛び上がりそうに震えた。
 糾弾するつもりはないのだ。ないのだが……。
「それを為したのは、誰だ」
 デジタル・モンスターがこの街に現れる。その理屈は良い。イグドラシルの統治の及ばぬ世界で、いくらでもセキュリティホールは見つけられるだろう。
 けれど、『デジタル・モンスター』内での出来事が本当にあったのなら、俺たちはデジタルワールドの事も、デジタル・モンスターの存在も覚えていなければならない。あれ程の社会現象になって尚、忘れているなどあり得ない。
 唯一それを為せそうな情報統合樹イグドラシルは、『魔王戦役』で既に枯れている。
「――大いなる理について、詳しいことは私にも分かっていない」
 瞳を左右に揺らし、苦虫を噛み潰しながらとつとつと語られる。
「私がその存在に気付いたのは、朽ちたイグドラシルの根本で目を覚ました後だ。その時の私は最後の魔王・ルーチェモンを討伐し、どうなったのかすら理解できていなかった。そして……呆然と、する、私にっ、"アイツ"は、告げたんだ――」
 頭を両腕で抱え、ガタガタと震え出すJ。その瞳は確と見開かれ、顔面から嫌と言うほど汗が噴き出している。その尋常でなさに、思わず生唾を飲み込んだ。
「怖かった……怖かったんだよ、ツェーン……! この私が、サタンモードの前に立ってさえ平然としていられたこの私が――"J"という外殻が! いとも容易く引き剥がされた……!」
「お、おい……」
 崩れ落ちる様に椅子から降り、床を這って俺の足下に縋りついた。
「"それ"は語ったよ。私に架せられた義務を……。だが、だがそんなことよりも、奴は言った! 二つの世界を隔てたと! その記憶を全ての人類! 全てのデジタル・モンスターから抹消したと! その事実はイグドラシルのログにすら残っていない! 私と、それを知った君以外には、大いなる理しか知らないことだ!」
 ……正直に言って、衝撃だ。伝聞に過ぎず、きっとJの味わった恐怖の一割も享受できていなかろうが、少なくとも、全生命の記憶に干渉可能な存在がいるということになる。
 それはホストコンピュータ・イグドラシルにも、俺たちリアルワールドにの住人にもしも実在したとして、その唯一神たるYHVHにも不可能な御業だろう。
 その遠大さ、想像もつかぬ途方の無さ。そしてその端末――あるいは触覚だろうか。そうしたものに直面したという彼女の恐怖は、成る程、推し量ることすらおこがましい。
「そうか」
 だから、それだけしか言えなかった。足下の、危うさの塊から目を話すことはできなかったが、それでも一瞬だけ周囲をぐるりと見回し、かけるべき言葉を探した。
「なあ、お前のデジモンはどうしたんだ?」
 せめても話題を変えようとして口にした言葉。だが、この言葉は刃だった。想像した効果を大幅に超越し、確かにJの混乱を収めたが――。
「……消えたよ」
 ――彼女の胸を刺し貫いていた。
「サタンモードを倒したとき以来、一度もその姿を見ていない」



 あれ程不安定な様子を見せたJを一人にする訳にもいかず、その後は普段通りの他愛もない会話をしながら少々気まずい夜を過ごした。俺たちのメンタルはどちらもボロボロだったが、独りでないというだけで、どれ程救いになったことか。
 まな板を包丁がリズミカルに叩く音に目を覚ませば、Jがキッチンに立っていた。 咎める気はなかった。

「やあツェーン、お目覚めかい」
 その姿は二日前に目にしたそれと一切変わらなかった。エプロンの下のセーラー服から覗く喉元が目を惹いた。
「ああ。昨日は……」
「いいのさ。私も君も、お互いに弱いところを見せた。絆が深まったと思おうじゃないか」
「そうか、じゃ、お言葉に甘えて」
「うん、待っていたまえ……ところで、朝食はきちんと採る派だったかな? こうして勝手に調理場を借りてはいるが、私は朝ごはんを『一日の活力』とか『食べないと頭が働かない』とか言う言説には正直辟易するんだが」
「俺も普段はコーヒーか紅茶か翼を授かる奴だよ」
 だが、まあ。自己の足元が揺らぐような夜を共に過ごした俺の感情としては。
「お前が作ってくれたのなら、毒でも飲み干してやるよ……そんな気分だ」
「!」
 Jの顔がこちらを凝視する。
「ツェーン、つつつつまりそれは、これから毎朝味噌汁が私を作ってくれるという――」
「J、日替わりになるの?」
 打たれ弱すぎだろ。というかよくそんな言い回し知ってんな。まあ日本語で創作してるぐらいなんだから当然と言えば当然だが。
「別にそこまでは言ってねえよ」
「なんだと」
「そういう日もある」
「いいかツェーン。今私は君の食事事情を掌握しているんだぞ、分かるか」
「いやされてねーしお前が作らなくたって困らねーけど」
「ぐぬぬぬぬぬ」
 なんて、昨夜の出来事を忘れるかのように下らぬやりとりに興じていると、だ。調理器具とは異なる電子音が家の中に響いた。来客の知らせ。こんな時間に鳴る方が珍しい。
「有〜羽ック〜〜ン、あっそび〜〜ましょ〜〜〜〜!」
 訪問者は一切珍しくなかったが。
 インターホンのカメラに映っていたのは、制服を着崩して赤いマフラーを纏った我が友人・宮里定光だった。朝っぱらからやってくることは、稀によくあることだった。
「私が出よう」
 マジかよ。やめろよ。
 Jは有無を言わせぬ神速の所業でリビングを出た。
「待て待て、落ち着け」
「私は落ち着いているとも」
「いいや、正気じゃないね」
「Amantes amentes――愛は正気にて為らずだよ」
 無い胸張って恥ずかしいこと言ってんじゃねえぞ。
「お、空いてんじゃーん。不用心だ、な……?」
 止めようもないJをどうにか押さえつけようと苦心していると、玄関の扉を勝手に開けて入ってきた。
 俺の住処は、玄関から一直線の廊下を通じてリビングルームが広がっている。リビングとキッチンは併設だ。つまりどうなるか。定光が初めに見るのは、真っ先に部屋を飛び出した、エプロン姿のJとなる。
「なーる。邪魔するぜー」
 すげえ。何も言わねえぞコイツ。
「邪魔するなら帰れ」
「宮里君ね。おはよう」
「おーおはよおはよ。聞いてるぜ、通い妻始めたって」
「家主は無視か」
「ほう、そんなことを」
「一言も言ってねえぞ。つーか、今日は一体どんな厄介ごとを持ってきたコラ」
「おーそうそう。お前が美少女連れ込んでるからビビって言い出し損ねたじゃねえか」
 嘘こけ。全然驚いてなかったじゃねえか。
 そう憤る俺の前で、いやんいやんと頬を両手で挟み身体をくねらせているJにも見えるように、宮里家の息子は鞄から一冊の本を取り出した。



 宮里家は古くから続く名家で、この蛙噛市の開発にも随分と絡んでいたと聞く。その屋敷は広大で、何度か訪れたものの未だにその全容を覚えきれない……探検とかするような年でなかったのもあるが。その財産もかなりのもので、末息子である定光でさえ正直働かずとも食っていける筈だ――それを、あの家の父親が許すかは別にして。まあ家族環境については説明の必要もないだろう。
 さて、定光が厄介ごとを持ってくるのはいつものことだ。昨日のウェンディモンの一件とて、よくよく考えればコイツが日本で発生したウェンディゴ症候群の噂話を持ち掛けてきたのが発端だった。いるのだろう、そういう星の下に生まれた人間は。望むと望まざるに拘らず、行動が騒動に繋がっていく。
 例えば昔、ポマードポマード言いながらげらげら笑いつつ口裂け女をボコったのもコイツが発端だったし、寺生まれのTさんに遭遇しその正体が結局のところ彼の戦うべき怪異と同じ穴の貉であると知ってしまったのもコイツが持ってきた謎の呪物[Fetish]が原因だった。
 今にして思えば、それらもデジタルワールドの関与・影響があったのではないだろうか。現実に存在するはずがないオカルトの実在。俺はよくよく考えればそうしたものに幾度も遭遇しているし、それをチャットでJに面白おかしく話したりもしていた。そしてそれは、摩訶不思議且つ現実的[Real]でないという意味で、デジタルワールドの実在に結びついてもおかしくはない……ような気もする。
 とまあ、何故こんなことをつらつらと回想しているのかというと、だ。
「Hmmm、これはまた珍しいものを入手したようだね」
「名高いJサンにそう言ってもらえるとは光栄ってもんだ」
「J? もしかして我々の関係をご存じ?」
「そりゃもう耳にタコが出来るほど! 『デジタル・モンスター』、こいつタブレットに入れて何度も読み返してるんだぜ」
「なるほど、それは気恥ずかしいね。ところでツェーン、どうも一人だけ置いてけぼりにされたような顔をせずこっちに来たまえ。これが何かわかるかい?」 
 コイツらが手にして盛り上がっている本。それが一冊の魔導書だったからだ。

ID.4859
 
■投稿者:パラ峰  HOME
■投稿日:2018/02/10(土) 21:48


聖剣転生Legend-Arms 2-2 九つのモノリス
「天使奥義書――ザ・グリモワール・オブ・アルマデル。市井にも流通してるし、俺も一回読んだことあるけど――」
 アルマデル奥義書は、数多存在する天使悪魔のタリスマンを作成する方法の記載された書だ。安いとは言わないが、ネット通販で普通に手に入る。オカルトの造詣を深めるために、英和辞書片手に図書館で注文して読んだこともある。だが、Jに渡されたそれは俺の知っているそれと遥かに異なっていた。
「――それは見たことないな。明らかにやべーもんだ」
 なんと形容したものか。一目見ただけでめまいを覚える。湧き上がってくる漠然とした不安感と高揚感が、如何にもそれが当然であるかのような佇まいで胸の裡に確として存在してしまう。素養のない――超常現象に触れたことのない――者でさえ、このおどろおどろしさには一抹の不快感を覚えることだろう。あたかも初遭遇時の俺と定光のように。
「ご名答だね。どうやらこの中では……」
 ところがJはチャットで聞いていたようにオカルト事象に遭遇しているどころか、デジタルワールドを直に旅した張本人だ。一切の頓着なく繊細な手つきでページを捲っていく。黒装束に身を纏っていなくても、制服と魔導書のミスマッチさはそれはそれで絵になるものだった。……いや、美形は何をしてても絵になるか。
「有意に意味を持っているのはこのページか」
 破魔矢を思わせるその指が示したのは、ルシファーとベルゼビュート、そしてアスタロトの印章[Sigil]の載ったページ。思わず『デジタル・モンスター』の中で、これらの魔的存在を模したモンスターがいたことを思い出す。そこに意味はあるのだろうかと疑ってしまうが、きっとある。宮里定光がこのタイミングでこの書物を持ってきたこと、きっと想像もつかぬ運命的な意味がある。あるいは、それもJの計画の内なのかもしれないが。
「見たまえ、ASTAROT――アスタロトのシジルだけが、黒々と輝いている」
 二つの円形を鍵状の直線がつなぎ、蛇のように湾曲した模様が絡みついている。



 この模様が何を指し示すかまでは、印章学など齧ってすらいないためさっぱりわからない。だが明らかに、シジルが活性化していることだけは分かる。
「近く、この印章が使われたのだろうね……どこでこれを?」
「さる筋からとしか言えんね。これでも信用ある方なんだよ。あと結構な金もかかってる」
「あぁ、そ。で、そんならお前はわざわざこれを見せに来て、どうしたいわけよ」
 ひょっとすれば、デバッグ作業に関与する可能性もある。どうにかして情報は得ておきたいところだが――と考えたところで、ニヒルに口元を歪めたロン毛の茶髪の進言は、思いもよらぬ方向へ転がった。
「興味あんだろ?」
「「ある」」
 実にありがたい話だ。
 もっとも、デジタル・モンスターに拘わる事象がなくても、そもそも俺たちはそういう人種だった。というか、少なくともそうでなければ、一度超常現象と遭遇させられた時点でこの男との交友を絶っている。
 ましてや今回はJが舞台に上がっている。幾ら定光がそういう事象に慣れていても、デジタル・モンスターは、物理的にこれまでの怪異とは格が違うだろう……放置は得策でない。例え、ウェンディモンの発生が民話に準じたもので、更に人間を乗っ取って発生するというオカルト染みたものであったとしても。
「俺は今夜、もう一回そこへ行く用事があるんだよ。それにフレンズが勝手に着いてきたとしても、何らおかしくはねぇわな」
 ――Jサンだって、こういう話にゃ一家言あんだろ? 聞いてるぜ。と宣うその口は、悪魔的な誘惑と言って遜色なかった。



 その日の放課後、俺たちは宮里家から最も近い喫茶店で時間を潰していた。出立の時刻になれば、携帯に通知が来る手筈になっている。
「さて、今の内に状況の整理と行こうか」
「それはいいけど奇異の眼で見られてるの理解してる?」
 テーブルに乗せられ、半分ほどが平らげられたぷりん・ア・ラ・モードを前にシルクハットを目深に被り直し、Jは言った。相も変わらず目立つ格好だが、今日は俺に至ってもそうだった。Jの用立てた――胸に手を置かれただけで服装が変わったのだが――深いネイビーの二重回しとんび。成程季節は冬であることもあり、日も既に落ちている。闇に溶け込むのには最適な服装かもしれないが、店内では衆目を集めることは否めない。
「しているとも。前にも言ったが、蒙昧共の視線など気に留めるな。それに、話題の内容もあれば自然と興味を失っていくさ。
 アスタロトのシジルが活性化しているということは、アルマデル奥義書の所有者がそれを使用したということだ。ならば、召喚されたのか介入したのかはわからないが、どこかに魔人型・完全体の痕跡があるはずだ」
 確かに『デジタル・モンスター』のことを知らずとも、"アスタロト"だの"奥義書"だの言っていれば、そういう趣味の二人組が議論に興じているだけだと思われるだろう。
「なるほどね。逆に普段の服装でこういう話をするよりもいいかもな。考えられて――ほんとに考えてる?」
「本音を言うと、君に私と似合いの服装でいて欲しかった」
 ずるい。
「そういうことなら慣れてやるよ、まだ気が重いけどな、この服装。で、その痕跡を探るのが今回の目的という認識でOK?」
「可能ならばアスタモンの送還までしたいがね」
 同感だ。悪辣な"ダークエリアの貴公子"など、放っておきたくはないし、探っていることを悟られたくすらない。リアルワールドに出てきて間もないのか、それとも既にこちらで暗躍を始めているのか。それすら分からない以上、悪い方向で考えておくべきだろうか。
「実際、どうにかできる算段はあるのか」
「アスタモンだけならば、如何様にでも。というかご存知の通り、以前倒した種族だ。君もいるなら絶対に負けない」
「随分な自信で。まあ俺も不思議とそんな気がするんだが、今回は味方も随分と少な――時間か」
 間の抜けた電子音。定光からの『行ってきwまwwwwすwwwwwwwウェイウェイwwwwww』という文面が何とも腹立たしい。
「今から5分後、この店の前を彼が通ることになっている。出ようか」
 支払いを済ませ、のほほんと歩いてきた定光を待ち伏せた。



 爽やかに揺れるロン毛を追いかけること一時間弱。俺たちは街はずれの打ち捨てられたコンサートホールに着いていた。そう言えばここは数年前に、とある演劇で多くの観客が失神・昏倒する事件が多発して以降、不吉な噂が立ち上り始め、自然と閉鎖に至ったのだと覚えている。彼らの内ほとんどは、精神疾患を発症するか、あるいは植物状態に、最悪は自死に至ったという。
 その演劇の名前が何だったか、あるいは失神した観客には共通する特徴があった筈だがどんなものだったか思い出せず難渋していると、素早く小声でJが話しかけてきた。
「ツェーン、ここに来たことは?」
「ある」
「最後に来たのは?」
「一年前」
 Jにも話したが、ちょうど寺生まれのTさんと邂逅した場所だ。
「あのモノリスに見覚えは」
 指さす方向に目を凝らすと、夜闇に紛れて幾本もの巨大且つ扁平な漆黒の巨石が立ち並んでいることに気が付いた。よく見れば、後方――俺たちが歩いてきた方にも何本か存在している。
 モノリスは左右対称に、そしてコンサートホールに向かうにつれてその間隔は狭くなっている。
「ない」
「本数は八か。ツェーン……」
 辺りを見回し、その本数を確かめた。そして口元を軽く歪め、冷や汗を流しながら。
「心した方がいいかもしれない。急ごう」
 まるで無理に笑っているかのような様相で、Jは歩みを再開した。



 定光がコンサートホールの入り口に辿り着き、そこから出てきた人物(そもそも、この廃墟から人間が出てくること自体が驚くべき事態だが)と会話を始めたのを確認し、俺たちは細心の注意を払ってホールの裏口へと回った。
 道中、Jがモノリスを間近で見てみようというためそちらへ寄り道したが、正しく信じ難い情景が広がっていた。
 光源がほとんどないのに、モノリスから八方向に影が伸びている。引き込まれそうな闇色なのに、光沢を放っている。かと思えば黒曜石でできているわけでもなく、オニキス、オブシディアン、スピネルといった鉱石類でも、蛇紋岩や玄武岩などの岩石でもなさそうだ。そもそもこのモノリス、一切の混じりけのない巨岩を、一切の凸凹もなく切り出している。触れてみた冷たく無機質な感触はイメージ通りだが、これほど完全な黒色の物体など、あるとしたら人工物でしかありえない。いやそもそも、人類の技術でこれは創り出せるものなのだろうか。およそこの世のものとは思えない巨岩。それはつまり、人外の――デジタル・モンスターの関与を示唆するものではないのだろうか。
「知りたいことは分かった。ずっと見ていていいものじゃない。行こう」
 モノリスに手を触れたまま思考の渦に飲まれていた俺を、隣で顎に手を当ててモノリスを眺めていたJが引きずり出す。腕を引かれたままJの導きに従って、コンサートホールへと裏口から侵入した。
「なあ、あれは――なんだ」
「アレに正確な名称はない。便宜上モノリスと呼称したが、それは我々が知る概念としての名前でしかなく、構成素材もこの世界のものじゃない」
 裏口の扉を引くと、目の前には階段があり、すぐ左手に鋼鉄の扉があった。扉には黄色いスプレーか何かで、どこかで見覚えのあるマークが描かれていた。
「少し待って」
 インバネスの内側から銀細工の施された黒色の小箱を取り出す。中から取り出される数々のピッキングツール。
 Jが鮮やかな手並みで鍵開けに挑戦しているさ中、俺はこの黄色い模様をどこで見たのか考えていた。脳の片隅にひっかかったような既視感だ。既視感がある。
「お待たせ。開いたよ」
「これなら家の鍵ぐらい一発だな」
「お褒めに預かり光栄至極さ」 
 思考を中断し、扉を開く。こちらも引き戸だ。
 扉の奥で、再び階段が俺たちを出迎えた。
「何かと問われれば、呼び水――というのが正しい」
「呼び水?」
 暗闇の中、階段をゆっくりと降りながら囁く。
「この先にいるのは、きっとアスタモンだけじゃない。その眷属――デビドラモン辺りもいる筈だ」
 何故そんなことが分かるのか。そもそも何故淀みなく地下への階段を見つけ、降りていけるのか。少しもわからなかった。昨日聞いた以上にも、Jには秘した情報があるのだと確信した――その、時だった。
 まるで聞き耳を立てているかのようなタイミングで、深淵の奥の奥の方から、無数の羽ばたき音とギィギィという鳴き声が轟いた。
「アスタモンはまだわからないが、少なくとも眷属の方は、最早我々の知るデビドラモンではないだろう」
 蝙蝠を連想させるその不快感に満ちた音の振動にも、Jは少し顔を顰めたぐらいで歩みを止めない。
 やがて階段は終わり、そこには今時キャンドルライトではない本物の蝋燭の灯りで照らされた地下空間が広がっていた。明らかに人為的な手が加えられているのは、壁に挿入された燭台の存在からも明らかだ。
「思い出した……」
「どうしたね、ツェーン」
 その燭台の全てに着けられている装飾。縞瑪瑙に象眼の金細工の留め金。一つの円を三本の曲線が取り巻いている黄色い印。さながらクエスチョンマークが三つ並んでいると言ってもいい。




 俺はそれに見覚えがあった。以前の観劇を経て、凄惨な末路を辿ったという観客たち。彼らが一様に手にしていたものは、このオニキスのブローチではなかったか。
「この劇場、数年前にとある演劇をきっかけに閉鎖されたんだ。その時、意識を失った観客が多発して――目を覚ましたその観客たちは、皆そのブローチを持っていた」
「黄の印を……か。それが数年前ともなれば、この場での儀式は、かなり以前から計画されていたことになるね」
 確かに、一年で八本のモノリスを建立するなど、正気の沙汰ではない。だから綿密な計画があっただろうことには同意するが、儀式。儀式だと……?
「J、何を知っている。何故迷いなくここに来れた」
「少しばかり、理の埒外の知識に明るくなってしまっただけさ――と言っても納得はしないか。ひとつ言えるとすれば、あれだけの扁平で薄く長大な物質を固定するには、地下にまで食い込ませる必要があると思っただけだよ」
 飄々とした調子。イグドラシルの触覚ともなれば、確かに閲覧できる知識は膨大に過ぎるだろうが。
「種明かしは後だ。Legend-Armsを構えたまえ」
 訝し気にJを見ていたが故、前方への注意が疎かになっていた。
 弾丸の速度で飛んできた一体の怪物。黒光りする、爬虫類の如き皮膚。残像の様に赤い四つ目が尾を引いて、深紅の爪がこちらを引き裂かんと迫っていた。
「舐めるなよ」
 ほとんど反射的にズバモンを構え、その勢いのまま振り抜いた。両断されたデビドラモンは勢い余って床を数メートル滑り、そこで消滅するかと思ったが……。
「コイツらは生命力がずば抜けて高い。真空でも生きていけるぐらいだ。殺すなら徹底的に――だ」
 正中で両断され、確実にデジコアを破壊された筈なのに、デビドラモンは無様な姿ながら未だにもがいていた。その姿に、思わず頭を潰されてもまだ翅や肢を動かす昆虫を連想するのも無理はあるまい。
「体感だが、おおよそ四肢と頭を落とせば死ぬよ」
 JがVブレスレットより現出させたアルフォースセイバーで、蠢くデビドラモンを細切れにした。デビドラモンの残骸は風に吹かれるかのように粒子となって消滅する。
「勘付かれたということはないだろうが、無闇に立ち止まるのは賢明じゃないだろうね」
 同感だ。
 武器を収め、足早に進むJについて奥へ進んでいった。



 方角的には、コンサートホールの裏口から少し進んだところだろうか。外で左右対称に立ち並ぶモノリスの間隔、それがゼロになる交点がここだ。
 細心の注意を払い、デビドラモンとの遭遇も避け、足音一つ立てていない。衣擦れの音とデビドラモンの鳴き声だけが、静寂の中に存在していた。
 目の前には両開き扉がある。扉にはここまで何度も目にした紋様ではなく、アスタロトの印章が刻まれていた。
 Jがシルクハットを片手に持ち、扉に耳を当てている。指さして俺にもそうするよう告げたため、俺も同様にその金属に近づいた。
 扉が厚く、聞こえてくる文言は断片的だ。しかしこれだけ厚い遮蔽物を隔てて聞こえてくる時点で、相応に大音量だと理解できる。少しの間聞いていると、その意味までは分からないまでも、言葉に籠められた感情ぐらいは認識できる。
『い……あ……はす……ぶる……ぶるぐ……あい……はすた……』
 これは……祝詞か? 礼賛と歓喜と悲願と誓願が混じり合ってうねりを作っている。そう感じた――その時だ。
「扉の向こうにいる者、息を殺しても意味はない。俺は全て把握している」
 扉越しに声が聞こえた。驚いた、驚いたが、相手は常識の埒外の存在だ。透視能力や、近辺の生命を把握する能力があっても無理はない。
 Jと顔を見合わせて、いつでも武器を手に取れる状態にしておく。すると扉が向こう側から開かれた。
 驚くほどスムーズに開いた扉の向こうには、広大な空間が広がっていた。そしてデビドラモンが数体上空――地下空間だから、中空とでも言うべきか――を旋回していた。地には黄色の儀式的なローブに身を包み、モノリス(恐ろしいことに、俺たちが地下に潜ってからの短時間で設置されたようだ)を円形にとり囲んだ人間が十数名。彼らは先ほどの祝詞のような文言を、俺たちに構うことなく唱え続けている。その祈祷文を延々と聞いていると、まるで平衡感覚を狂わされたかのような気分になる。
「聞くなツェーン。意識的にシャットアウトしろ」
 隣から聞こえる蜘蛛の糸じみたローレライの声。カンダタになった俺にはそれが無性に頼もしい。
「……フン、そちらの女は事情をよく知っているらしい」
 円陣を背にして俺たちに話しかけているのは、アスタモンだった。ワインレッドのシャツに、ストライプのスラックス。しかしそのマフラーは燃えるような赤ではなく黄。揺らめくコートから覗くジャケットには、ラペルピンの代わりに、今日幾度となく目にしたブローチが着けられていた。
「俺も甚だ遺憾ではあるがね。最早この身では抗えん……かわいい部下共もあの有様だ」
 苦々し気に歪められた口元は、熊の被り物の下で随分と消沈して見えた。
「故にお前たちに希おう――儀式の完遂よりも前に、この俺を止めて見せろと!」
 ダークエリアの貴公子は、本来有するだろうカリスマからは想像もつかぬほど憔悴した様子で、勝負を挑んできた。



 忌々しい祝詞をバックミュージックにして、アスタモンは躍る。追尾機能付きの魔弾はJが防いでくれるが、短刀一本で俺と鍔迫り合えるとは想像以上だ。
「手加減はできん――『マーヴェリック』!」
 アスタモンの右脚に膨れ上がる暗黒の気。剣と短刀の接触を断ち間一髪で回避するものの、デビドラモンの鋭い牙が視界に迫った。しかし、涎を撒き散らすギザギザとした刃は俺を害することすら許されず蒸発した。
「聖弩ムスペルヘイム……? 女、貴様は一体……?」
 背後のJが放った破魔矢。灼熱世界の名を与えられたその弩が、デビドラモンを貫いていた。
「露払いは私がする。辺りを気にせず戦え、ツェーン!」
「了解だ」
 再びズバモンを構える。対するアスタモンは俄かに警戒を強めたようで、短刀とマシンガンを構え直し距離を測っている。
「貴様もだ小僧、俺と結び合えるなど、お前本当に人間か?」
「そうは言うが、お前、負けたがってたんじゃないのかよ」
「無論、それはその通りだが――」
 くいと顎で指し示せば、無数のデビドラモンがJに殺到する。だがそちらを心配する間もなく、目の前の魔人は左手のオーロサルモンに火を噴かせた。
「――不可解には違いあるまいよ。これで『ヘルファイア』は防げまい」
「おいおい、随分クレバーな戦術だな」
 Jの援護がない。となれば悪竜の対処に手間取っているとみていいだろう。猟銃の如きこのマシンガンは文字通り地獄の果てまで相手を追尾する。回避は不能で、防ぐしかないが俺もJも肉体は人間だ。ナイツの聖盾か魔楯なくして、これを凌ぐ術はない。ないが、恐れも絶望も、微塵も存在していない。
「だが、お前はまだ俺を舐めている」
「なんだと……?」
 掌の中の金色が一際輝く。進化――というわけだ。強者と斬り結ぶこと、それこそが己の経験値であると言わんばかりに、ズバモンは魂を震わせながら成熟期へと進化した。
 デジタルワールドの実在を受け入れた俺には、その名前も伝わってくる――ズバイガーモン。相も変わらず一言も話さず、モンスターの姿を取ることもないが、剣の造形は変化している。ファルシオンの如き湾曲した片刃。されど相変わらず刀身も柄も黄金だ。
 そして、新たに獲得した特性は――。
「大した火力じゃないな。これならマーヴェリックの方が余程恐ろしい」
 ――絶対に折れない。
 後退しながら金色の剣で弾丸を斬り飛ばし、斬り飛ばし斬り飛ばし斬り飛ばし斬り飛ばし斬り飛ばし斬り飛ばし斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り斬り散らし、銃弾に触れる部位が剣の先端から刃の根元にまで至った。落としきれない残りを、剣腹で全て受け止めた。
 余りにも人間離れした動きだが、それができる。Legend-Armsとは、意志持つ武装とはこれ程のものなのかと正直戦慄する。
「ほう……」
 アスタモンの声が少し上擦った。
「いいぞ……俺も滾ってきた。不謹慎だが、ここまでの相手は久しぶりだ……末期の戦を、もっと楽しませてくれ!」
「ハッ、随分マシな表情になったじゃねえか。良いぜ相手になってやる」
 今も変わらず唱えられている呪いの祝詞は最早耳に入らない。マシンガンを放り捨て、短刀一本を胸の前に構える目の前のアスタモンから注意を離せない。弧を描く様に距離を取り合いながら、一歩でも動けば剣戟が始まると互いに了解している。奴はリーチの面で、俺は時間制限の面で互いに不利がある。加えてアスタモンの勝利条件は、奴の言葉から察するに敗北だ。だから時間稼ぎということは有り得ない。
 機会を。そう機会を待っている。懐に入る機会と、懐に入れずに斬り殺す機会を。
「ツェーン、無事か!」
 デビドラモンを始末し終えたであろうJが叫んだ。それを合図に、アスタモンは跳んだ。
 愚直な突進ならば、光の速度であろうと対応してみせた。ズバイガーモンは、この剣はそんなもの幾度となく斬っている。
 だがこの魔人は、空間を縦横無尽に跳び回る。背中に広げた羽根がむしろ重しでさえあると言わんばかりに、自ら跳弾となって所在を悟らせない。そしてその速度は、余りにも迅すぎた。
「来たか――!」
 首筋に迫る殺気。余りの高揚に隠し切れなかったのだろうそれを察知し、間一髪受け止めた刃が視界の隅で煌めいている。そう言えば、このナイフに銘はあったのだろうか、今度Jに聞いてみよう。そう思いながら、辛うじて受け止めた切っ先に力を籠める。
「な、にィ……!」
 『なんでも斬れ』て『絶対に折』れない剣だ。短刀一つ断ち切れないでなんとする。
「まだだ!」
「な――て、め……!」
 オーロサルモンを手放し、自由になった左手が俺の首を締め上げた。黄金の剣はアスタモンの短刀を半ばまで斬り進めたところで留まった。
「ツェーン! 今助ける……!」
 俺の剣がアスタモンを切り裂くのが早いか、アスタモンが俺を絞め殺すのが早いか。あるいはこちらへ駆けてくるJが、服の下から伸びた帯刃でアスタモンを切り刻むのが先か。
 時が止まったかの様な世界で、しかしその時はやってきた。

『――ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ!』

 呪文が完成する。

「ガ――しま、った……! 熱中、し過ぎたか……」
 アスタモンの腕が緩む。拘束を抜け出し、その姿を認識した瞬間、見るも恐ろしいその無念の表情が目に焼き付いた。
 アスタモンの姿が変貌する。熊の被り物は蒼白にして無表情な仮面へと。ワインレッドのシャツも、アッシュのコートすらも目に痛いほどの黄色へと。およそ全身に纏う全てが、黄色の襤褸になっていた。
 時々この存在に荘厳な翼があるかのようにも見え、またある時は後光に覆われているかのようにも見える。
 Jが息を呑む。
「キング・イン・イェロゥ……!」
 背後で扉が閉まる音が聞こえた。
 扉に描かれていたアスタロトのシジルが黄色に輝きながらひとりでに動き、三つ並んだクエスチョンマークを形作った。

ID.4860
 
■投稿者:パラ峰  HOME
■投稿日:2018/02/10(土) 22:09


聖剣転生Legend-Arms 2-あとがき
 ハイドーモ! アマチュア小説家のパラ峰です! 2週間内に新話投稿するのも久しぶりですねー、ツリーが充実してくるとわくわくしますね!

 今回の話の肝は、デビドラモンってビヤーキーに似てね?ってとこですね。嘘です。

 ここまでくればこの作品がクトゥルフものであるということはおわかりでしょう。いろいろと設定をこねこねするのが好きな私ですが、さて実際に奴らを出してぶっ倒すためにはどうしようかと悩んでいました。なにせこのままだとダゴモンハンギョモン以外に敵を出せやしない。

 アスタモンを採用した理由については作中第3話で明かす予定ですが(察しのよい人は気づいてしまうかも?)、それにしても第1話で出したウェンディモンは実にちょうど良い塩梅でしたね。いるしね、クトゥルフにウェンディゴ。

 感想もありがとうございます! 性癖マシマシ盛り盛りなのはヒロインの容姿だけ相変わらず怪異とか魔術とかそーゆー中二病な話をしていますがどうぞお付き合い願います!

●参考資料および引用元
 マグレガー・メイザース 訳(著者不明)『The GRIMOIRE of ARMADEL』Red Wheel/Weiser
 スコット・アニオロスフキーほか 著『MALLEUS MONSTRORUM』エンターブレイン
 サンディ・ピーターセン、リン・ウィリスほか 著『CALL of CTHULHU』エンターブレイン
 H・Pラヴクラフト『闇に囁くもの(『ラヴクラフト全集1』より)』東京創元社
 ニコニ・コモンズより『黄の印2(nc114913)』


ID.4868
 
■投稿者:マダラマゼラン一号 
■投稿日:2018/02/11(日) 17:03


僕らの時代のフォークロア
 nextではお初にお目にかかります、マダラマゼラン一号といいます。一話と二話を読ませていただいたので纏めて感想を。

 Jさん可愛いなぁ銀髪の通い妻なんて最高じゃないかと思って読み進めていたら突如不穏な雰囲気に、まさかクトゥルフものだったとは。一話の最初の方に出てきた「Jの書いた創作に従ってロールプレイをしている人々がいるのかもしれない」というくだりで「なんだかクトゥルフ神話の成り立ちみたいだなぁ」と思っていたので心底驚きました。これは今後のデジモンのチョイスも楽しみです。

 都市伝説や怪異をデジモンで説明付けていくストーリーはキャラクター達の少し気取った口調と共にとても好みです。そして、人間が武器を持ってデジモンと戦うというある種の禁じ手を納得させる設定も凄い。

 創作の世界の存在だと思っていたデジタルモンスターが、突如街にリアルな血肉を持った存在として現れると言うデジモンファンの誰もが一度は憧れるであろう展開、「ある日突然美少女の転校生が自分に迫ってくる」という言わばお決まり。それはもしかしたら、この物語自体が21世紀に現れた新進気鋭のフォークロアだということを示しているのかもしれないな、というようなことを思ったりしました。

 とりとめのない感想となってしまいましたが、次回も楽しみにしております。ありがとうございました。

ID.4870
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2018/02/11(日) 23:22


大概度し難い
 うん? ロイヤルナイツ12体と言ったか? 忘れ去られた奴がいるのか? これはその忘れ去られた奴が「知名度のある貴様らにはわかるまい! 忘却される無念を思い知れ!」と憎しみを糧にラスボスになる流れと見た。Fateのサーヴァントばりにデジタルワールドを設定しているバンダイ側では知名度がめっさ能力値を左右するので致し方あるまい。残った最後の一体がJのパートナーだったりすんのかな。
 デビドラモンは好きなデジモンなので殺されまくるのが悲しいような、むしろこれでこそよと思うような。


 やっぱクトゥルフモチーフだったんか……我らを支配しようとする新たな神の使いか!?
 アスタモン出てくるとどうしても前作の怠惰が脳裏を過ぎってしまうので、最後に「アスタモンの姿が変貌する」の一文を見た瞬間に「まさかまた貴様か!?」と戦慄しましたが、どうも違ったらしい。
 あと地味にルーチェモン死んでたんか……なんか死んだと見せかけ最終話辺りで現れ「この作品もまた全て私の思惑通りだったのSA!!」とか言いそうな気がしてならない。

ID.4885
 
■投稿者:Shot-A 
■投稿日:2018/02/16(金) 16:53


たいへんよくできました
新進気鋭のフォークロアという言葉が独り歩きしつつあるじゃねーの。
どうも私だ。

全体的に、色々調べてある、取材がきっちりしているという印象で見てしまった。特に後半のシーン。
しかしクトゥルフ関連ならわざわざこのためにしらべたというわけでも無いんだろうからうまうま。


設定の使い方がよく寝られていて、デジモンの設定だけに依存する事無く、かといって逸脱しない。
いい飛躍をしていてうまいうまい。
NEXTの機能も上手く利用してるし、さっさと次を書きやがってくださいまし。

ID.4888
 
■投稿者:狐火 
■投稿日:2018/02/17(土) 01:59


黄金の蜂蜜酒はいいからキュケオーンをお食べ
 いきなり主人公の名前からしてソロモンじゃねーか! とか黒幕お前どう見てもAUOだろ! とか趣味に突っ走った作品というのは読んでて楽しいなあ、という思いと共にこういうのって後で読み返すと死にたくなるんだよなと邪推する、何を読んだかって? ロードさ!

 やあやあ我こそはずっと主人公の名前をモンジと読んでいたというかどう考えてもソロモンなんだからモンジと読むしかないだろうガトー! こういうデジタルワールドが人間の文化をツギハギして創られてるから、お互いの世界の関係をどう持ってくるかってのは実に捏造のし甲斐がある要素で作家冥利に尽きるものよな。

 閑話休題

 満を持しての新作そしてキルケー新ヒロイン、なんともはや、いやあバリバリ趣味に走ってますね! いいぞもっとやれ。
 はははキルケーヒロインが一話目から早速血塗れになっておるわははは、ホントに君はこういうのが好きだなあ!

 御多分に洩れず私もウェンディゴ症候群くらいは知識として納めていましたがそういえば奴さんイタクァとも混同されてましたね、なるほど今回は大いなるC方面で切り込んでくるわけですか、キルケーもクトゥルフネタマシマシのセイレムが初出だしな一般的な魔術ネタに比べればラヴクラフト御大の神話世界の方がかっちりインプットされてるのでここからどう話が膨らむのかは中々に楽しみであります。

 何やらアスタモンも望まずして巻き込まれているようで、次は黄衣の王たるハスターとのバトルになるのかしらん?
 しかし世界中の記憶というかテクスチャを丸ごと書き換えるような上位領域の存在が仄めかされてますが、そこら辺の人間臭いというか知性的な存在は外なる神のイメージともかけ離れており、単純にデジモンとクトゥルフ混ぜ合わせたぜ、だけでは終わらない予感が早速してきてオラわくわくすっぞ!

 幽霊部員がいないことになってるロイヤルナイツとか、ザ・ワンと化しそうな七大魔王とか、新ヒロインが現れたら負けそうなJとか、先に期待の持てる展開が多くてこれはせっつく楽しみが増えるというものでさぁ。

ID.4903
 
■投稿者:tonakai 
■投稿日:2018/02/23(金) 07:19


我が声を聞け! 全砲門、解錠!!
どうもー
最近、NEXTの投稿作品を読んでモチベーションを上げようと画策している野郎です。
タイトルからして好みだったので、拝見しました。
感想というより単に喋りたいだけの内容ですが、ご容赦を。

Jさん、好みです!
特にしゃべり方がイイ(ヨダレをフキフキ)
『いやんいやんと頬を両手で挟み身体をくねらせているJ』
こ、これは●ける!!
はっ・・・これまた失礼m(_)m

オフ会で初めて相手の性別を知ったというのは、自分にも身に覚えがありまして。
とは言っても、オフではなく、オンだったんですが、
男性だと思っていたところ、女性だとカミングアウトされ、しばらく恐縮していたのはいい思い出。

ウェンディモンの語源はこちらで初めて知りました。
02の劇場版で登場して以来、何がモチーフなのかわからないままだったので勉強になります。
(同様にテリアモンとロップモンの語源も大人になってから知りましたが)

それと、デジモンを戦わせるのではなく、自分で戦うスタイルは新鮮ですね。
あ、フロンティアとも違いますよね。
あれは進化というより変身に近いし・・・
某氏と同じく、ゲートオブなんちゃらを彷彿と・・・タイトルはその関係です、別作品でごめんなさい。
自由にサイズが変えられるならいいのですが、大きさそのままだったら、
エグザモンはどうなってしまうのかな?とかいらん心配をしてしまいました。

あぁあぁアスタモン!!
個人的にはクロスウォーズ以降懐かしいマフィア様。
中の人なんて・・・いやまさかまさか。

続きが楽しみです。