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ID.4823
 
■投稿者:ヤギ  HOME
■投稿日:2018/01/27(土) 09:34
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赤ずきんのお話/序
         


⇒CODE:False


⇒CODE:CHIMERA



 ○


遠い遠い、おとぎ話の世界のお話です。

その少女は、遠い遠い昔に死んだ、偉大なお婆さんのかけらから作られました。

お婆さんが少女だった頃にそっくりな、作り物の少女。

お父さん達は、少女の中に偉大なお婆さんの魂を入れて、蘇らせようとしたのです。


でも、少女の中に入ったのはお婆さんではなく、とても恐ろしい狼の化け物でした。

お父さん達は恐ろしくなってしまい、化け物が入った少女のことを捨ててしまいました。

あてもなくさまよう少女のことを、みんな、みんな、怖がりました。

少女はやがて、ひとりぼっちとなってしまったのです。


化け物の恐ろしい力で誰かの命をうばいながら、一人で必死に生きようとする少女。

その姿はまるで、返り血に染まった化け物に頭からすっぽりと包まれているかのよう。

そんな少女のことを、人々はいつしか『赤ずきん』と呼ぶようになりました――


 ○


「はあっ、はあっ、はあっ……!」

 赤く明滅する鉄の通路を、アテもなく走り続けている。
 何処へ向かえばいいのか。誰に会えばいいのか。何をすればいいかも、分からないまま――僕は、彷徨って、探し続けて、逃げ続けている。

――クソッ! こっちもダメだ! 逃げ……! あ、あああ!!!

「ひっ……!」

 遠くから、色んな音が聞こえる。
 警報、足音、爆発の音、戦いの音――断末魔。
 思わず蹲って耳を塞ぎ、目を瞑ってしまう。あまりの恐怖と悲しみで、気が狂ってしまいそうだ。
 ここはとても怖い場所だ。とても恐ろしい世界だ。
 違う、そうじゃない。本当に恐ろしいのは、あの“霊石”なんだ。この地獄絵図を描いたのも、きっとアレのせいなんだ。
 全て僕の責任だ。一刻も早く取り戻さなくては……。
 
 ――王女として、僕が、どうにかしなくちゃ……!

「……!」

 大きな“憎悪”が、ゆっくりと近付いてくる。長居はしていられない、どこか安全な場所へ逃れなくては――王国に、戻らなくては。
 でも、どうやって? どうすれば帰れる? 異世界へ転移するならまだしも、異世界から転移する魔法なんて、見たことも聞いたこともないのに。 
 何も分からないまま、何もできないまま、今はこうやって逃げ続けるしか……。
 その時だった――目の前に、小さな影が飛び込んできたのは。

「ビ!」
「わわっ!?」

 ビックリして、思わず尻餅を突いてしまう。
 涙ながらにお尻をさすりつつ、その小さな姿に目をやる。

「ビ! ビー!」

 それは、此方に迷い込んでからこれまでに何度も見てきた“彼ら”によく似た姿のデジモンだった。少し違うのは、丸っこい体の真ん中に付いた一つ目が緑色にぴかぴか光っていることと、“彼等”が子供一人分くらいの大きさがあったのに対し、この子は掌にすっぽり収まるくらいに小さいこと、そして――“怒り”や“憎しみ”に支配されていないところだろうか。
 ぴょこぴょこと飛び跳ねながら、僕のことを見上げている。起ち上がれ、とでも言いたそうに。

「……、ひょっとして、助けてくれるの?」
「ビィ!」

 相変わらず飛び跳ねてる。冷たい床に手を突きながら何とか立ち上がると、まるでその子は案内するかのように前方へと駆け出した。

「あっ、ちょっと! 待ってよ〜!」

 “彼等”の発する気配に気を付けながら、その小さな影を追いかけ始める。
 その光景に不思議な既視感……いや、懐かしさのようなものを感じたことをちょっとだけ不思議に思いながら。その子の後ろを、直走る。
 “霊石”を取り戻さなくては、という焦燥感。“王国”に戻れるかどうか、という不安。そして、生き残れるかどうか、という恐怖。
 色んな感情を、でも今だけは忘れながら。その小さな影を見失わないよう、追いかけながら――


 “あの日”と同じように、僕は必死に走り続けていた。











ID.4824
 
■投稿者:ヤギ  HOME
■投稿日:2018/01/27(土) 09:36


CODE:Z'd FILE No.01A



 (ノイズ交じりの映像。切羽詰まった表情で、しかしどこか諦観した様相の血まみれの男が映っている)

 ……ダニーか。唐突で悪いんだが、時間が無い。手短に話すぞ。
 ああ、これ見てる間に連合機関に連絡取れるように準備しとけ、今すぐだ。
 これは間違いなくレベル5だ。すぐに対応しないと幾つかの国が丸々滅びるかもしれねえ。

 (提供者に向けたメッセージのようだ。直後、爆音と共に部屋が震える)

 例の兵器がコントロールを喪失して暴れ出した。あのジジイ、俺達をハメやがったんだ。
 防御機能がまるで役に立たねえ、それどころか共鳴反応を起こして暴走した奴らが山程いる。俺達は多分もう駄目だ。
 暴走……いや、あれはそうじゃない……何か、強烈な意思を持って暴れて……兎も角、気を付けろ。あいつはギズモンM6を一撃でスクラップにする化物だ。
 連合から“エージェント”を呼び出すよう伝えとけ、凄腕を出来る限り多く取り寄せるようにな。
 
 (爆音、激震。恐らくはカメラに併設されているのであろう機器が火花を吹く)

 どの程度アテになるかはサッパリだが、オーレンのレポートと集めていた資料をまとめてアップロードしておいた。
 ああ、いつもの場所で、いつものコードだ。こんなこともあろうかと、ってヤツじゃねえがな。
 全部転送しちまったが、必要なのは一部分だけのハズだ。解析屋にそのまま渡せ。

 (男がジェスチャーをしている、恐らくは提供者にのみ解せる何らかのサインだろう。
  またしても爆音。部屋が大きく揺れ、男が転倒しかける。音の発生源が近付いてきている)

 クソッ、変に時間が余ったな……ああ、ついでだから伝言頼んでいいか?
 メアリーには『パパはいつでもお前のことを愛しているよ』、ジェーンには『浮気相手とお幸せに』、だ。
 もしトボけて聞き返されたらこう答えてやれ、『最初から知っていたぞ』ってな。
 ……筒抜けなんだよ、クソッタレが――

 (爆音、爆炎、爆風と共に後方から訪れた無数の瓦礫が男の身体に直撃する

 (男の身体がぐしゃりと音を立てて砕け散る瞬間、破片の一つがカメラを直撃して映像が途切れる)

 (その間際に爆発の向こう側から聞こえた遠吠えのようなものは――)






FILE No.01:[ 狂騒 -Birth of a Wish- ]







 大戦以前、水の一滴すら存在しない死の砂漠と恐れられた旧タクラマカン砂漠地帯。その中心部より広域を刳り貫くようにして建造された大戦時の大型軍事施設を再利用する形で作られたのがイスガレア兵器蒐集施設なのだという。
 嘗ては多くの航空機を飛ばしていたのであろう広大な滑走路の南東エリアが、俺達第7装甲部隊[ザウルス]に与えられた戦場――いや、地獄だった。

「クソッタレが! 救援はまだなのか!?」
「あの砲台をどうにかしねえと! アサルト部隊からの連絡は無ぇのかよォ!?」
「さっきの救援要請が来てからパッタリです……隊長ザウルス1、もしかして、俺達も……!」
「日和ってる暇があるんなら一発でも多く撃て、リックザウルス6! こんなのが街に入ったら終わりだ、俺達で止めるしかないんだぞ!」
「とは言うけどなあ!? この数だぞォ!?」
「! 避けろアッシュザウルス4!」

 火薬と怒号と悲鳴が飛び交う中、アッシュの背後から鉤爪を振り上げていた陸戦タイプのギズモンに銃弾の雨を浴びせ、蹴り飛ばすと共に肩部のリニアキャノンで追い討ちをかける。
 弾幕で削られた後に砲弾に穿たれたことでボディ中央が大きく拉げ、火花を撒き散らしながら爆散し、赤い霧となって消滅するギズモン。確実に撃破したことを見届けながら、残数の心許ない予備の弾倉を躊躇うことなく装填した。

「わ、悪りい! 助かったぜトニーザウルス2!」
「気にすんな。でも……、ッ!?」

 ヘルメット内部から網膜投影されて視界に直接表示される拡張ディスプレイの内、敵性検知用のレーダー・サークルが赤く染まる――被弾予測方向に対して咄嗟に左腕の積層型複合シールドを緊急展開。
 間髪入れずに長距離から放たれたのであろう砲弾が直撃し、耳を劈く甲高い金属音と共に体がばらばらに引き裂かれそうなほどの衝撃に襲われる。
 俺達が纏っているのは頭から爪先まで人工筋肉の被膜で覆われ強化カーボンの分厚い装甲に護られた重戦機殻パンツァー・アーマーだ。人体の数倍の馬力と強度を持つそのコンバットスーツの恩恵によって生身では木端微塵になりかねない今の砲撃もどうにか防ぎ切れたが……

「大丈夫かよトニー!」
「……今のでシールドがイカれたな。持ってあと2発ってとこだろう」
「聞いてねえぞ……重砲撃型まで居やがるなんてよォ!?」

 ……遠方から長砲身を覗かせる旧式の多脚戦車、そして今の一撃で基部が大きく歪んだシールドの双方を睨め付けながら、最も古い戦友でもあるジョニーザウルス3が叫ぶ。
 あれは対戦闘車両用として嘗ての戦争で使われた自立型の陸戦兵器だ。重戦機殻を纏っているとはいえ、決して人間相手に使われる様な代物ではない。
 あの類を最初に無力化出来る対地戦力が用意できれば良かったのだが――施設中央、要所を護るかのように配置された巨大な超長距離プラズマ砲から放たれる一撃を睨みながら心の中で毒づく。
 俺達が到達する直前、頼みの綱であったガンシップはあれの餌食となって爆散してしまっていた。

「AIサマにはお構いなしなんだろうよ! 何て任務だよ、クソッタレが」

 部隊一の荒くれ者のザッツザウルス5でもこの物量にはお手上げらしい。
 全くだ、と相槌を打ちながら各部のスラスターを展開。長砲身の捕捉されないように気を付けながら、腕部ユニットに内蔵されたブレードを展開しながら無人機の群れに突っ込んでいく。
 そう、無人機。こいつらは全部が全部、無人兵器なのだ。
 嘗ての大戦で使われた兵器の数々の収集・管理を行うイスガレア兵器蒐集施設、その施設内で暴走した無人機群の無力化及び近隣首都の防衛……それが、連合軍スワナダ支部の俺達が請けた緊急での任務だった。
 上からは近隣も含めて回せるだけの戦力を全てかき集めたとの説明があり、実際に俺達のような重戦機殻を纏う装甲兵の他にも様々な戦力がこの戦地に向かわされたことは出撃前に確認済みだった。

 完全に予想外だったのが、この数だ。どうやら出撃時に観測できたという数十機は、ほんの一部に過ぎなかったようだ。
 数十、数百どころの話ではない。小型機も併せれば数千、数万もの無人機達が格納庫を突き破って地上で一斉に暴れ回るなど、一体誰に予測が出来ただろうか?
 地上迎撃ユニットやオートマトンならまだしも、その大半以上が対デジモン用の殺戮兵器であるギズモンで構成されている――数体ならまだどうにかなったものの、その圧倒的物量を前に同僚のデジモン達は須く引っ込めるしかなかった。俺達が苦戦している理由の一つが、それだ。

 更に想定外だったのがその“暴れ方”だ。
 現代に於けるAIの行動にはある種の、それこそ機械的とも云える規則性が存在する。それは例え何らかの要因によってAIに支障を来したとしてもだ。
 多少のエラーが発生してもAIそのもので自己対処が可能であり、それが不可能なほどの重大なエラーによって予想外の暴走を引き起こしたとしてもその行動パターンを解析することで不良箇所を割り出し、外部からでも適切な対処が出来るように彼らのアルゴリズムは複雑でありながら極めてシンプルに構成されている。
 今回のような場合、他の部隊と連携を密にしながら行動パターンの解析と予測を行いながらフォーメーションを組み、戦術的優位に立ち回りながら数を減らして追い詰めていく、というのがセオリーなのだが……。

(こいつら……)

 群れを成すわけでもなく、何の規則性法則性も無しに、ただ人間を確認次第、猛然と火薬を剥き出しにしながら突っ込んでくる――まるで、仇敵を討つと云わんばかりに。
 パターンの読めない機械が数万もの群れを成して襲ってくる……未曽有の事態を前に、俺達を含めた全ての部隊がパニック状態に陥っていた。

(怒っている……? 何に? 人間に?)

 敵対識別アカイロに輝くセンサー・アイ。無数の赤色が、俺達を取り囲んで真っ直ぐに貫いてくる。
 細かな点滅を繰り返すその様相が、赤熱する溶岩……いや、強烈な憎しみの感情を錯覚させて――

「っ、来てるぞトニー!」
「……っ!?」

 アッシュの甲高い怒声に思わず我に返り――その瞬間、飛び込んできたギズモンの一体に押し倒された。
 馬乗りのポジションを取られ、間髪入れずに対の鉤爪が首を切り落とそうと振り下ろされる。咄嗟に腕部のブレードでどうにか防ぐが、体勢が悪かったこともあり、人工筋肉の怪力を以てしても少しずつ力負けをしていく。

「クソッタレ、邪魔だどけッ!」

 ザッツを筆頭に皆が救援に入ろうとするが、周りに集まってきたギズモン達の掃討に追われて期待は出来そうにない。
 間近からギズモンが此方を見つめてくる。ヘルメット越しからでも分かる――こいつの中で煮え滾っている、怒りの感情を。
 ギズモン本来のスペックではあり得ないであろうこの出力も感情に影響されてのことなのだろうか……?

「ぐっ……」

 ついに、押し負ける。
 怒りのままに装甲の隙間に鉤爪を滑らせ、断裂しようと――

≪先に謝っとくぞ≫ 
「! ッ、うわっ!?」

 突然のことだった。
 女性の声の通信が入り、遠方で何かが爆ぜる音がしたかと思うと、凄まじい爆風と衝撃波が襲い掛かってくる。
 その影響で眼前のギズモンも引き剥がされ――すぐに我に返り、その胴体にリニアキャノンを打ち込んで粉砕する。
 助かった、のか……。

「大丈夫かトニー!」
「あ、ああ……一体、何が……」

 ザッツ達に起こされながら思わず口にしてしまったが、その疑問に答えるかのように上空を低速でジェット機らしきものが通過していく……否、ジェット機ではない。
 首があり、翼があって……両足……鳥、いやドラゴン型の、デジモンか……? あれの援護射撃だったのだろうか。
 しかしデジモンだとは言えこの領域で航空機が無事でいられるわけがない。それを証明するかのように程無くしてプラズマキャノンの一撃が飛来――あっさりと躱したことに驚いていると、またも通信が入ってきた。

≪中央連合政府特殊機関“エージェント”所属、プレデター1だ。助太刀する≫
「スワナダ支部の第7装甲部隊[ザウルス]だ、援護に感謝する!」
 
 ハスキーがかって低音気味だが……その声色は間違いなく、少女のものだった。
 上空のデジモンの操り手なのだろうか……?

≪どこもかしこも通信どころじゃなかったみたいなんでな、会話出来る部隊が残ってて助かったよ≫
「おい、対空用の大型プラズマキャノンがあるぞ! 大丈夫なのかよォ!?」
≪ああ、それなら――≫

 またしてもプラズマキャノンの一撃を航空機ではあり得ない独特のマニューバで難なく躱すと、今度は背面から凄まじい轟音と共に火を噴く。
 放たれたのは数発の砲弾のようだ。緩やかな放物線を描きながら、いずれの砲弾も寸分の狂いもなくプラズマキャノンに吸い込まれていき――

≪たった今黙らせた≫
「ヒューッ、出来るじゃないかプレデター!」
(嘘だろ……)

 少女の言う通り、砲口に砲弾をぶち込まれたプラズマキャノンが爆炎を吹き出しながら沈黙する。
 だが、プラズマキャノンが無力化されたとはいえ上空だって安全ではない。撃破を確認するなり、すぐに高速で離脱するドラゴン型――その背後を、飛行型の無数のギズモン達が崩壊弾を乱発しながら追尾している。あいつらは確かギズモンATだったか。
 一撃でも致命傷となる崩壊弾の数々をひらひらと避けながらも全身の火器で確実に迎撃していくドラゴン型。通常の航空機とはまるで違うが、その動きは紛れもなくエースパイロットのそれだった。
 余程の自信があるのか、単純に勇猛果敢なのか、そのどちらもか――或いは、物狂いの馬鹿なのか。

≪お生憎様、こっちもちょいと野暮用を抱えてな。それが終わったらそっちの支援に回るよ≫
「感謝するぞ! 終わったら一杯奢らせてくれ、美味い店があるんだ!」
≪期待しとくよ――んじゃ、こっちもたっぷりサービスしねえとな!≫

 通信を切りながら、ドラゴン型が上昇。何をするのかと覗き見してみれば、その全身の装甲が次々と展開していく。
 程無くして、まるで機体そのものが爆発するかのような勢いで凄まじい数の拡散ミサイルが一斉に放たれた。
 地上にミサイルの雨が次々と突き刺さり、多数の無人機が一気に無力化される。
 まだまだ敵の数は一向に減らないが、それでも何とかなりそうな気すらしてきた。

「おい、見惚れてる場合じゃねえぞトニー!」
「理解ってる……!」

 気が付けば、先の砲撃で周りの敵が一掃された此方にも再び無人機達が集い始めている。
 同じ醜態を二度晒すつもりはない。ライフルを構えながら、アッシュと背中合わせに迎撃を開始する。

「……ああ、そうか。思い出したぞ」
「何ですか、隊長?」

 先まで少女と通信を交わしていた隊長が、スパイクハンマーを振り下ろして手近なオートマトンを粉砕しながら答える。

「上のは確か、フォールスモンスター……擬似デジモンってヤツだ」
「擬似? 普通とは違うんですか?」
「ああ、機械とデジモンのハイブリッドだ。体の殆どがこっちの世界の機械で出来てるからギズモンの攻撃にも耐えられる」
「すごいな……例の新兵器ってのが、それなのか?」
「かも知れないな。で、そいつを飼い慣らしているテイマーこそが――現役の“選ばれし子供”ってワケだ」
「じゃあ、あれが……」

 選ばれし子供。幾度となく世界の危機を救ってきたという、如何なる戦士達よりも勇敢で強大な現実の英雄達。
 “大戦”で多くが姿を消して、今では嘗ての選ばれし子供達が政府に対してテロリズムを起こしているとも聞いていたが……未だに現役が存在して、こうして戦っているのか。
 正義も悪もない、ただ命を削りあうだけの地獄と化した戦場で――あんなにも、力強く。あんなにも、心強く……。
 拳に力が入る。子供が前線に飛び込んで英雄らしく務めているというのに、大人の俺達がただのお荷物となるわけにはいかない。
 まだまだやれる――戦わねば……!

「よおしお前ら! 英雄サマがお戻りになるまで誰もくたばるんじゃねえぞ! 俺達は無敵の第7装甲部隊ザウルスだ、一匹でも多く雑魚を引き付けて蹴散らして“盾”としての務めを果たせ!」
「了解ィ!」
「了解だぜ隊長!」
「……、了解ッ!」
 
 オートマトンの銃撃を防ぎ、近づいてくるギズモン達を的確に切り裂きながら、まだまだ続くであろう戦いに俺達装甲部隊もまた決意を新たにする。
 各地に散らばっている同胞達の――そして空舞う小さな英雄の無事を、強く祈りながら……。




 ASML FR-V*48 L1 B37 - E47:DESTOROYED 79.8%
 ASML FR-V*48 L2 D67 - G87:DESTOROYED 100.0%
 ASML FR-V*48 R1 H76 - K90:DESTOROYED 52.3%
 ASML FR-V*48 R2 J29 - M67:DESTOROYED 87.2%


「ふむ、ジャスト8割か」
「良い数字なのですか?」
「挨拶代わりの一撃としちゃあ上等だけどな」

 先の爆撃を凌いだ地上の無人機どものデータを睨みながら、即座に次の武装をスタンバイさせる。
 相棒――ニクスモンの武装を片っ端からブチ撒けながら飛行し、先の砲台も含めて千機以上は撃破している筈なのだが、それでも地上の敵数はまだまだ陰りが見えそうにない。空襲爆撃型のモードV完全体の火力を以ってこの調子となれば、どう足掻いても長期戦は避けられないだろう。
 とりあえず対地拡散ミサイルの爆撃から翼部の4連ガトリングキャノンと各部の機関銃による分厚い弾幕に切り替え、全方位に対する対地攻撃を続行する。弾幕に触れた敵が風穴だらけになりながらあっという間に鉄屑と化していく様はいつ見てもそれなりに爽快だが、その残骸を踏み越えるように次から次へと際限なく無人機どもが湧いて出てくる状況には辟易する他ない。
 えらい時間かかりそう。暇つぶしにオールドロックの音源やらポップコーンやら三流エロ雑誌やら持ってくりゃ良かったかな……。

≪プレデター1、聞こえるか?≫
「こちらプレデター1、適度に爆撃しつつ目標エリア到達……、っと!」

 相棒の固有機能である空間歪曲を発動――幾何学的にあり得ないであろう真横への瞬間的ダッシュをキメながら、後方より良い感じの角度で迫って来ていた崩壊弾の数々を無理やり回避。同時に旋回させておいた機銃で後方から崩壊弾を吐き出しながら無数迫っているギズモンATの数機を蜂の巣にして撃墜しておく。
 しかし、作戦領域内に侵入するなり只管後ろから追い回してくる無数のギズモンATの追撃に加えて、先の爆撃と現在進行形の弾幕でそれなりに注意を引いたのか、地上の無人機の何割かもこちらをターゲットと定めたらしく相棒に負けじと中々ハードな弾幕が形成され始めている。放っておけば流石の相棒でもそれなりに厳しくなるだろう。
 それを見越しているのであろう、上官から続けざまに通信が入る。

≪北東に一際高い塔が確認出来るか。あれがこの施設全域を賄う管制塔だ、目標であるコントロールルームもあの地下に存在している≫

 デジヴァイスを通じて視覚に直接表示されたデータに確認すると同時、コックピット内部のHUDに表示されたミニマップの方に動きがあった。
 近隣施設を示す赤いポインタが管制塔へと向かっていき、その管制塔からEMPっぽい電波のようなものが発せられている。
 死角に回り込んで肉薄してきたギズモンAT二機のうち一機を脚部の鉤爪で真っ二つに引き裂きもう一匹を尻尾に内蔵されたプラズマキャノンのゼロ距離射撃で爆砕しつつ、通信内容に集中する。

≪システム全体がイカれている以上、管制塔から広域アンテナを使ってEMPを作動し、まとめて強制シャットダウンさせるしかないわけだが……進攻ルートは、こうだ≫
「第3地下ターミナルから侵入させればいいんだな? で、俺達の仕事は? ポイントまで運送して降ろしてやるだけ?」
≪ターミナルの入り口が分厚い隔壁で塞がれている。ニクスモンの徹甲槍弾バスターランスでこじ開けて“プレデター2”の進攻ルートを確保してほしい≫
「地上の建物ごとランスでぶち抜けばもう少しショートカット出来るんじゃないか?」
≪難しいな。地下ターミナル上部はバンカーバスターでも貫通不可能な強化地盤で護られている。それに地上のは旧時代に建てられた古い施設をそのまま使っているんだ、下手にぶっ放しでもすれば余波で何が起こるかも分からん≫
「了解……んで、内部についてはどうなってるのかまるで分からないんだろ? 本気で独りで行かせて平気なのか?」
≪残念ながら火急の事態故、現状では他に回せる戦力が無い。増援を待っていれば地上部隊は壊滅する……それに、‟彼女”の戦力ならば単独でも問題なく遂行可能なハズだ≫
「……わーったよ、投下したら俺達は暫く上空支援カマせばいいんだよな?」
≪ああ、状況については引き続きこちらでモニターするから、それに従って行動してくれ≫
「オーケー、財布でも握りしめて待ってろ」

 通信をオフ。ついでに休憩がてら、暫く操縦を全て相棒任せにしながら背後を振り向く。いきなりのことで相棒がぴぎぃだのぎえぴーだのとやかましく吠えるが、まあいつものことだ。

「……と、いうわけなんだが、大丈夫か?」

 バイク型の狭いコックピットの中で、俺の後ろにぴったりと抱き付いているプレデター2――キョウカ=アマミヤが、背中の刀に片手を添えながら平然と答える。
 刃のように鋭い双眸は氷のようで、温もりというものがまるで感じられない。

「この程度ならば、慣れっこです」
「……」

 その発言に、逆にこちらが心配になってしまう。
 いや、単独で問題ない、という点については事実なのだろう。これまでの経緯で彼女の強さについては十分理解している。
 余計な心配だということは、分かっているのだが……それでも“バディ”として新しいパートナーを気にかけてしまうのが、人情だろう。

「……ケガするなよ新米。おねーさんはこれでも心配性なんでね」
「貴女こそ、そろそろ運転に戻らないと怪我をしてしまいます――主にニクスモンが」
「あ、やべっ」

 操縦を変わろうとした矢先、避けきれなかったのであろう崩壊弾が直撃した。
 通常デジモンの擬似タンパク化した表層データに容赦なく浸透し、流動体化している内部データに致命的なダメージを与える崩壊弾だが、現実世界の無機物をメインに形成されている擬似デジモンならばその脅威も無力化する。
 だがそれでも着弾時の衝撃は防ぎようがなく――崩壊弾の一撃が相棒の動きを一瞬だけ縫い止め、間髪入れずに襲い掛かってきた地上からの砲撃の数発が相棒の片翼を木端微塵に粉砕した。
 片翼で飛べるほど相棒は器用ではない。よって墜ちる。力尽きた鳥の如く落下する。しかし無人機どもが攻撃の手を緩めることは無く、空中と地上からの攻撃が次々と着弾して相棒の装甲が一気にスクラップへ変わり始めていた。
 おいどうするんだやべえぞと言わんばかりに相棒も墜ちながらガアガア怒鳴っている――確かに拙い、これでは怪我どころの話ではない。

「だああ、悪かったって! ぎゃーすか喚くな!」

 慌てて操縦をこちらに戻し、相方のコンディションチェックと対処を同時に開始する。

 SELF AUTOPILOT   LIFTING.
 DAMAGE CHECKING...
    HD : 95.6%
    LW : 12.6%-U36/80 LOST.
    RW : 55.6%-U120/123 BREAK.
    BU : 31.5%-U60/98 BREAK,A13/57 LOST,TC5 DOWN.
    BD : 46.4%-U100/124 BREAK,A70/90 LOST.
    LL : 90.2%
    RL : 93.4%
    TL : 80.0%


 状況、中破。
 そして何より問題なのが――

「やっべ……バックユニットがおシャカしちまった!?」
「つまり……?」
「……バスターランス暫く使えなくなっちゃった☆」
「えっ……!?」
(;・ω<)テヘペロッミ☆」
「笑顔でごまかしている場合ですか!?」

 無論そんな場合ではない。茶化してみたがキョウカも流石に焦りを見せる。
 だがここで急がず慌てずクールにフォローするのがプロというものである。
 “接続領域”を拡大してナノマシン・システムをフル稼働させて自己修復……する時間も暇も無さそうなのでバスターランスの貫通力を咄嗟に算出、その威力を他の武装で引き出すための計算式を即座に導き出し現状生き残った武装と更に不足の武装を他形態より取得――



 DAME-CON SYSTEM START UP? >N
 MODE-EMERGENCY,ALL-W/A FULLFIRE/PRUGE:ON
 NEXT COMMAND STAND BY,CAST-OFF,DEGENERATION-READY.


「勝利の法則は決まったな」
「どうするつもりですか!」
「そこはまあ――見てのお楽しみってトコロだ!」

 尚も続く攻撃で激しく揺れるコクピット内。此方を信じてくれているのか、声を荒げつつもどこか冷静なキョウカに対して降りる準備をするよう合図を送りながら叫ぶ。
 その間にも相棒の操縦は欠かさない。機関銃による周りの有象無象への迎撃を相棒側に押し付け、此方は生きているスラスターを吹かして全出力で失速ストールからの落下を凌ぎつつ、HUDとマップを重ね合わせてポイント――侵攻ルートの開始地点となるターミナルの入り口を塞ぐ隔壁にミサイルのロックオン・マーカーを全てかき集める。
 もう少しスマート且つ丁寧に任務を遂行したかった所存だが、予定変更だ。

「まずは全弾発射からのアーマーパージッ!」

 相棒の全装甲が展開――同時に空間歪曲を発動し、弾幕の集中点より前方50m地点まで瞬時に逃れる。射線に敵の攻撃が混ざり込まないことを瞬時に判断し、間髪入れずに生きているミサイルポッドからミサイルを全弾発射――同時に緊急用のハンドルを展開して思い切り引き出し、全身の装甲をパージさせる。
 ミサイルの数々が寸分違わずに隔壁へと向かっていくのを確認すると同時に次のコマンドを執行――

「続いて強制退化からのモードIVッ!!」

 全身の装甲が小爆発と共に全て吹き飛び、フレームとコックピットのみとなる相棒。そのあちらこちらに配置された量子変換デバイストラップ・コンバーターから無数の部品――データ化し、圧縮した上で格納されていた部品の数々が破損した装甲と入れ替わるように瞬時に展開する。
 それらが瞬時に組み合わさり、軽量な装甲を構築し、新たな翼を形成し、更には翼部と背面に対の銃火器が装備され、満身創痍だった相棒は一回り小型な、それでも傷一つない新たな姿となって復活した。
 ニクスモン・モードIV成熟期。防御性能と瞬間火力を犠牲に機動力と運動性能が極限まで引き上げられたマルチロール・ファイター型だ。
 本来ならタイマンで真価を発揮する形態なのだが、やらかしてしまった手前、贅沢も言っていられない。やりようが無いわけでもないので今回はこれで通すとしよう。
 さて、残された時間は凡そ数秒程度。先の放ったミサイルの数々が、隔壁の目前に迫り切っている――着弾するまでの間が、勝負となる。

「〆は代替品コイツを――」

 各部スラスターを最大出力で吹かし、コックピット内の対G装置も最大限に稼働させつつ相棒の空間歪曲を発動――否、連発し、急カーブを滑り込むような出鱈目な機動でミサイルのシャワーを追い抜き、隔壁へと真っ先に到達し――

「ぶち込むッ!!!」

 脚部のロックを外した脚部のパイルバンカー2発を、隔壁のド真ん中とその上部に位置するターミナルの外壁へとそれぞれ炸裂させる。
 ロックの外れたまま放たれた超重量の鉄杭は脚部のレールを摺り抜け、凄まじい衝撃を伴ってそれぞれの狙った箇所に寸分違わず突き刺さった。
 更に空間歪曲を発動しながら離脱――入れ替わるようにしてミサイルの数々が、穴の開いた隔壁へと次々と着弾する。
 強固な隔壁と言えど一度ぶち抜いてしまえばその守りも瓦解する。そこに面での破壊力をぶつけてやれば……

「ま、こんなもんだろ」
「……相変わらず、無茶苦茶ですね」
「今更」

 大気が震えそうなほどの大爆発の後、派手に風穴の開いた隔壁を見下ろしながら一息吐く。
 キョウカの呆れ顔に苦笑して返してやりながら、一旦相棒との接続をシャットアウト。フル活用した脳味噌がパンクしないよう少し休ませる。
 自分でも中々のぶっ飛び具合だったが、これで一先ずの準備は完了だ。相棒の速度を緩めながら上昇し、コックピットを開く。
 足場・・は作ってやったのだ。彼女なら難なく降りられるだろう。

「さて、俺の仕事はとりあえず終わりだ。後はお前のターンだな」
「諒解」
「……行けそうか?」
「心配御無用です」

 安全装置を外しながら、コックピットの縁へと身を乗り出す。見かけによらず、随分と大胆だ。
 その表情には相変わらず感情らしいものが何も籠っていないが、その視線にだけは力強さの様なものが籠っている。
 ……あまり心配ばかりしていても、始まらないか。

「……行ってこい、十分に気をつけてな」
「諒解。プレデター2、任務を開始します」

 鉄杭目掛けて勢いよく飛び降りるバディの姿を見届けながら、コックピットを閉じて再び相棒との接続を開始する。
 戦況を改めて把握した後、ギズモンAT達の限界を易々と上回る高度で反転。ついでに何機かを重機関砲とキャノン砲の餌食にしてやりながら、地上部隊に通信を送る。

「こちらプレデター1。ザウルス、それに他の地上部隊も待たせて悪かったな。当機はこれより諸君らへの上空支援を開始する」
≪無事だったかエースさんよォ! ったく、冷や冷やさせるんじゃねえ!≫
「悪い悪い、詫びに一個だけお願い聞いてやるよ――援護のリクエストはあるか?」
≪了解だ! 早速で悪いがまずは長砲身を片付けてくれ、これ以上の砲撃は俺達装甲部隊でも持たない!≫
「オーライだ、掃除してくるから持ち堪えろ!」

 激戦を繰り広げているのは俺達だけではない。
 俺達のような特別な力も持っておらず、デジモンの力にも頼れない状況で、それでも地上部隊が命がけで戦っている。
 彼等の命がけを無駄にしないためにも、此方もそれなりのタマを張ってやらねばなるまい――

「まだまだやれるな、相棒!」
「キャアウッ!!」
「オーケー、仕切り直しの本番と行こうか!」

 未だに力強く奮戦し続けている地上部隊、そしてたった一人で施設の中へ突入した新米の無事を心の片隅で切に祈りながら。
 プレデター1俺達――エリザ=クレメント並びにパートナーであるニクスモンもまた、火薬の中へ身を投じるのであった。




ID.4825
 
■投稿者:ヤギ  HOME
■投稿日:2018/01/27(土) 09:43


CODE:Z'd FILE No.01B


(大丈夫。君の力を借りなくても、降りられる)

 自分の身を案じている“彼”を宥めながら、腰に添え付けられた降下用のワイヤーフックを投擲する。
 今し方相方が鉄杭を外壁にも撃ち込んでくれたのはこれを見越してのことだったのだろう。フックを鉄杭に引っ掛け、ワイヤーリールにブレーキをかけて速度を減衰しながら降下する。
 数十メートルを降下したところで飛び降りて着地。爆撃によって周囲の足場ごと粉々に破壊された隔壁を跳び越えて、ターミナルの地下通路へと踏み込んでいく。
 梯子を伝って下降すると、大型車両が数台でも並走出来そうな薄暗い通路が広がっていた。どうやら何らかの搬入経路らしい。

「こちらプレデター2。目標地点より侵入、コントロールルームを目指します」
≪此方本部、了解した。君のバックアップを確実にするためにも、ステータスをアクティブモードにしてくれないか?≫
「……、えっと、こう、ですか?」

 REPOSE MODE   LIFTING.
 QUANTUM LINK   CONNECT ON.
 AI-S“BEOWULF” CONNECT ON.
 EP:76% DP:- NMSD:-
 MODE:- CDO:798000
 ACTIVE STATUS ONLINE,CONNECT...COMPLETE.
 MODE - CONNECT ON.


 視界に直接表示される半透明のシステム画面を操作し、本部のモニターと接続させる――幾度となく練習してきたつもりだが、未だに思考で操作するというこの感覚には慣れそうにない。
 神経系にインプラントされた端末を介することで多機能性のデジヴァイスを思考で操作し、果てはパートナーデジモンとの接続による直接的な交感を可能とする……らしいのだが、そういった技術に疎い新参者故にまだまだ覚えることは多く、完全に使いこなすには相当な時間が掛かりそうな気がする。
 相棒と自分を積極的に繋ぎ合わせ、この数十倍もの情報を難なく制御するエリザはやはり並々ならぬ熟練者ということなのだろう。

≪よし、OKだ。ルートのナビゲートは此方で行う。まずはそのまま進んでくれ≫
「諒解」

 敵の気配もなければ、荒らされた様子もない。当然のように命の気配もなく、ただ私の足音だけが遠くまでよく響き渡っているだけだ。
 それでも何が起こるかは分からないので、一応十全に警戒だけは惰らず走行し続ける。

≪この間に状況を整理してみようか。こちらでもいくつか分かったことがある≫
「分かったこと?」

 暫く奥に進んでいると、通路の両側にいくつもの乗り物が見え始めた。
 戦車や大型のマシンユニットが並んでいる。どうやらこれらは純然な人が乗らなければ動かせない兵器群のようだ。
 長らく使われていなかったのか、そもそもその存在すら忘れられているのか……うっすらと埃を被っており、あちこちが錆び付いているように見える。
 機械好きのエリザが見たら、思わず飛びついてメンテナンスしそうだ。

≪関係者から幾つかの資料が届いた。手短にまとめると、無人機達が一斉に暴走したのは秘密裏に開発していた新型兵器の影響によるものらしい≫
「新兵器、ですか?」
≪融合体だよ。起動時に何か、電磁波のようなものを広域に発したらしいが……≫

 融合体……デジモンと人間が1つとなった形態のことだったか。マトリクス進化体やスピリット進化体等、進化の方法によってそれぞれの呼び名があったハズだ。
 人間の力を得たデジモンは強大な力を発揮するが、その中でも最も強大な力を発揮したのが人間を何らかの形で直接内部に取り込んだ状態なのだという。
 必要条件も多く、人間と同化することにより新たなメリット/デメリットも発生するのだが、心も体も1つとなるこの状態で戦う選ばれし子供達は多かったそうだ。
 人間とデジモンが戦う上での最上の形態と云えるのかもしれない――では、デジモンと人間とで分かれたまま、それでも互いを繋ぎ合わせ、双方共に戦闘手段として存分に活用しようとする我々の行き着く先は一体何処にあるのだろうか。
 ……これについては今考える必要はない。余計なことを頭の片隅に放逐した上で、ふと生じた疑問をぶつける。
 
「融合体を兵器として作るのですか?」
≪ああ、そのようだな。正確に言うなれば、生体臓器を持った強化人体サイボーグレベルVI究極体デジモンのデータを組み込むことで、融合体のメカニズムを模倣したようだ≫
「それは……」
≪ある意味では、君に似ているのかも知れんな≫

 ……交差点に差し掛かる。マップを確認すると、どうやらこの辺りから道が複雑化しているようだ。
 地上に溢れ返った無人機の数には辟易したが、成程。数が多いということはそれに比例し施設も巨大化するものなのだろう。

≪マップをアップデートする。ルート通りに進むと大型格納庫に繋がる隔壁に辿り着くはずだ。手動式の開け方は分かるな?≫
「はい、エリザより教わっています。このまま進みます」

(……うん、そうだね。だんだん、敵に近づいてる)

 進むごとに薄々と気配のようなものを感じていたが、“彼”も既に感付いていたらしい。
 どうやらこの辺りは各部隔壁が閉じられ封鎖されていたため無事だったようだが、そうでない所は軒並み群れにやられているようだ。
 件のコントロールルームは大型格納庫の先。電子ロック式のドアを開けて職員用の通路に出、その先にある階段を昇る必要がある。無人機が侵入できるような構造にはなっていないが、大型格納庫の方は……注意しておく必要があるだろう。

「そういえば、この基地はギズモンばかりが配置されているようですが……」
≪前大戦の影響だろうな。この辺りは戦時、数十万機のギズモンが投入されたと記録にある≫
「あれが、数十万ですか……」
≪それでも大打撃を被ったようだがな≫
「……」

 ――空中戦時でも感じたこの違和感は何だろうか。
 システム画面を操作。当該データを探し出して、走りながら流し読みする。

 ギズモン。擬似デジモンの先祖ともいえる、人間の手によって作られた初の人工デジモン。
 デジモンと銘打たれているが、そのベースとなっているのは21世紀初頭に出現した消去型プログラム生命体“デ・リーパー”である。
 人工部品とデ・リーパーのデータを組み合わせることで完成し、無人機の一種としてAIによって完全に制御されている――

 無人機……AI……。
 ……なるほど、そういうことか。

「司令官殿」
≪どうした?≫

 ルート通りに通路を曲がっていく。やがて、通路の側面に仰々しい隔壁らしきものが見えてきた。
 とはいえ、シェルターの入り口を防いでいたものほど大きくはない。周りを一通り確認してから、作業を開始する。
 やり方はそう難しくはない。各部のロックを外し、備え付けられているハンドルを回すだけだ。

「此度の一件、暴走と呼ぶには些か違和感を禁じ得ません」
≪ふむ……君はどう感じているのかな?≫
「敵意です。彼らは、明確な敵意を以って我々を殺そうとしています」
≪随分と抽象的だが……≫

 違和感の正体は、それだ――無人機から明確な敵意を感じたことに、違和感を感じたのだ。
 敵を機械的に認識するのと、敵意を抱いて認識するのとは似ているようだが大きく違う。生物同士の闘争の場合、厄介なのは前者だ。
 双方の違いとは主に気配や動作にあるといっていい。感情的になると云うことはそれだけで不必要に気配をまき散らし、不用意に力んだり震えたりすることで動作の一つ一つにも余計な緩急が生まれ、その結果として思わぬ隙が生じてしまう。
 互いの気配を探り合い、そして隙を伺い合うことは生物同士の闘争に於ける基礎と言ってもいい。だからこそ、私情を挟まず気配を殺し、鮮やかな手際で獲物を仕留める狩人ハンターはいつの時代でもあらゆる生物の脅威となるのだ。

 だが、これが機械相手だと事情が大きく異なる。
 余程高度なAIでも積んでいない限り、機械とは基本的に予めプログラムされた行動以上のことが出来ない。
 戦闘用に大量生産された無人機ともなれば猶更のことだ。だから機械を相手取る場合、相手の行動を予測した上で立ち回るのが基本的な戦術となっている。
 それが、感情……それも、今回のような敵意等に支配されると、これは全く異質な脅威へと変貌する。
 機械には生命のように感情に歯止めをかけることが出来ない。一度支配されればその感情にどこまでも衝き動かされ、AI全体に致命的なエラーを引き起こす――プログラムという名の枷が破壊され、あらゆる手段を使ってでも敵を排除しようとする、生物的倫理の通用しない予測不可能な脅威へと豹変する。
 地上部隊が苦戦していた理由の一つが恐らくはそれだ。応用も含めたマニュアルが全く通用しないイレギュラーな敵が圧倒的物量で押し寄せてくるという異常事態に対処が間に合わず、浮足立ってしまった結果後手に回らざるを得なかったのだろう。
 
≪要するに君は、意思や感情を持たないハズの彼らにそういったものを感じる、と。そういうことだな?≫
「相違ありません」
  
 軸の錆び付いたハンドルに手を付ける。ギチギチ、と無理やりこじ開ける感触がした後、ハンドルの回転に合わせてゆっくりと隔壁が上がっていく。
 武骨な鉄製のハンドルの氷のような冷たさが掌に伝う。軍手が恋しい。

≪……興味深いな。片が付いたら少し調べる必要もあるかもしれん≫
「何か、手掛かりになれば良いのですが」

 暫く回し続けて、数十センチ程の隙間が出来上がった。
 全てを開ける必要はない。とりあえず、私一人が入れる程度のスペースさえあれば問題は無い筈――

(……!)

 胸の中がざわつくと同時に、“彼”が威嚇するように唸る。
 横這いになって、慎重に隔壁を潜り抜けようとした瞬間、押し当てられるかのような殺意に思わず体が硬直しかけた。

「格納庫に到達……オートマトンやギズモンが大量に入り込んでいます」
≪……ふむ≫

 隔壁の向こう側は、大型格納庫の上階だったようだ。
 だだっ広く開けた空間の中、眼下をギズモンを筆頭とした無数の無人機が魑魅魍魎の如く徘徊している。
 そして、その中には幾つかの遺体……恐らくは施設の関係者と思われるものが数人分、原型を止めない程に抉られ引き裂かれ、無惨に転がっている。
 流血の跡から察するに、殺されてから数時間程度、という具合だろうか。

「この数では強行突破も無理そうですね」
≪……やってくれるか?≫

 身を潜めながら、格納庫の内部をじっくりと観察する。
 下層の隔壁の一部と庫内のコンテナの幾つかが開いている。この数は、その両方から発生したものか。
 開かれた隔壁の向こう側がどうなっているか、気になるところだが……どの道、全滅させないととてもではないが電子ロックの開錠に着手できない。
 エリザのように一瞬で開錠できてしまう程機械に精通しているわけでもないし、背中から攻撃されても平気なほど頑丈でもないのだ。
 ならば、道は一つ――

「心得ています」

 背部に装備していた得物――段平に造られた太刀と短刀を鞘から引き抜き、改めて下方を見据える。
 無音で空間に単調な機械音と足音を響かせながら、無数のギズモンとオートマトンが無秩序に蠢いている。
 球体のボディに蟲を思わす4つ足……確か、ギズモンPTと呼ばれるタイプだ。
 オートマトンは両端に武装の施された警備・防衛型が筆頭となっている。恐らくはこの施設の警備に使われていたものだろう。
 武装は室内での戦闘を主眼に置いているのであろうマシンガンや小型ランチャーが多い。装甲は厚いだろうが、そこは腕次第だろう。
 地上のような地獄絵図には程遠いが、それでも人間の相手としては十二分に驚異的な数であることは、八つ裂かれた仏の数々が物語っている。
 成程。こちらも気を抜くことは出来なさそうだ――元より、そのつもりは微塵にもないが。

「“身体接続”の許可を」
≪了解した、遂行を許可する。だが今の“そいつ”は辛うじてコアが動いているだけの状態だ、異常が発生した場合は此方で接続を切らせてもらうぞ≫
「諒解」

 一呼吸置いてから、脳裏にコマンドを送る。

 CONNECT MODE CHANGE H/H D/D...H/H H=D
 ALL GREEN,D-P-BLOOD INJECTION START.


「――ぐっ……!?」
 
 コマンドが執行されると同時――全身に激痛が走り、その苦痛に思わず呻きを上げる。
 心臓から血管を伝って、全身に炎が流れ込むかのような錯覚。
 体中が悲鳴を上げている。肉体の隅々に行き渡る暴力に絶叫している。

 ――デジモンの力だ。

 人間の力を分け与えることで、デジモンは強大な力を獲得するのだという。選ばれし子供達のパートナーデジモンが別格の強さを発揮するのも、この理屈だ。
 これは、その逆。デジモンの力を人間に分け与え、人外の力を注ぎ込む。そうすることで、人間もまた姿形をそのままに、強大な力を獲得することが出来る。
 人間を守るべきものとするのではなく、デジモンと同じ戦闘兵器と仕立て上げるための技術――これもまた、デジモンとの接続により得られる恩恵の一つなのだという。
 身体が作り替えられていく。筋肉がギシギシと軋み、血液が灼熱を以って体を巡り、五感が隅々まで鋭く、苛烈に研ぎ澄まされていく。
より鮮明化された視界、遠方から響き渡る無数の機械音、鉄と油と焼け焦げた臭いの中に混じる血肉の香り、そして肌の隅々に突き刺さるような敵意……
 それはまるで、私の身体でありながら、この空間そのものが私の身体となったかのよう――片腕で構える太刀は、小太刀の軽さに等しかった。
 
(……心配しないで)

 “彼”を励ますように、或いは自身を奮い立たせるように語りかけながら――足場を蹴り、柵を飛び越え、下層へと落下していく。
 ワイヤーフックは必要ない。無人機の一機に狙いを定め、刃を突き立てながら落下――頭上から串刺した一機を足場に、更に跳躍。着地と同時に数機のギズモンを瞬く間に斬り飛ばしていく。
 そこでようやく周囲の敵が、私に対して反応を見せる――明確な敵意が、全方向から肌に突き刺さる。

「……来いッ!!」

 私の言葉に呼応するかのように、無人機たちが殺到する――こちらも双刀を構え直しながら、前方へと突っ込んでいく。
 押し寄せてくる無人機の数々を
縦一文字に、横一文字に、袈裟、逆袈裟、刺突、払い、小手、逆小手、胴、逆胴、右切上、左切上、逆風、正面唐竹――人殺しのありとあらゆる剣技を駆使して切り裂き、突き刺し、粉砕しながら人でないもの――命ですらないものをみなごろしにしていく。
 彼等とてただ黙ってやられるばかりではない。仕留めていく度に彼等の攻撃、或いは反撃――体当たり、鉤爪、銃弾、崩壊弾の数々が全方向より押し寄せる。私一人を殺すために、人殺しの一撃が理不尽の弾幕となって殺到する。
 避けて、弾いて、防ぎ、そうでないものは掠めながら、時として抉られながら……それでも両の腕を、両の足を止めない。ただ敵を破壊し、殺すことだけに専念し続ける。それだけを全うし続ける。
 その数を急激に減らしていきながらも、無人機達もまた留まるところを知らない。赤く鈍く輝く単眼カメラを滾らせながら、一心不乱に私だけを狙ってくる。私を、殺そうとしてくる。
 仲間を失い、仲間の屍を踏み越え、時として仲間すらも撃ちながら、自らが壊れることも恐れずに、人間を殺す――その悲願を果たそうと、群れて押し寄せてくる。
 飛び散る赤は、ギズモンの中身のデ・リーパーか、無人機のオイルか、それとも私自身の血肉か。
 剣閃を尚も疾らせる。生き抜くために、機械仕掛けの暴徒達を須く返り討つ。

(……ああ、そうか)

 殺し続けながら。生と死の合間を、掻い潜り抜けながら。
 理屈ではなく、心情ですらなく、ただの直感のみで彼らの正体を悟る。

 彼らは、復讐者だ。奪われ、殺され、踏み躙られた、亡者達なのだ。
 命を奪われた者達が、彼らの身体で復讐を果たそうとしているのだ。
 そこに理屈――司令官から教わった話を当て嵌め、この現状を照らし合わせる。

(だとしたら……新兵器、というのは)

 攻撃がまばらになってきた。思い出したようにマップを確認する。
 最初は優に百を超えていた光点が、残すところは後十数程度である。
 このまま押し切る、押し切れる――その時だった。不意に、その声が聞こえたのは。

「……ュ、……ィ」
「え……?」

 遠方で転がっていたギズモンの一機が、此方を向いている。
 半身がすっぱりと切り裂かれている。すでに虫の息であろう。
 それでも、単眼カメラを赤く輝かせながら――赤い液体を垂れ流しながら。

「――ユルサナイ」
「……!」

 声だった。
 ノイズ交じりの、電子音を無理やり束ねたかのような、無茶苦茶な声色で。
 それでも、怒りを、憎しみをありったけ詰め込んだかのように。

「ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ」

≪言葉を発した……? 馬鹿な、こいつらにそんな機能は……≫

 通信機から司令官の上擦った声が聞こえる。どうやらそれほどなまでの異常事態らしい。
 そこまで考え、ふと動きが止まった。止めざるを得なかった。
 気が付けば、無人機達の動きが止まっている。動きを止めて、私のことを見つめている。










 それは、怨嗟の合唱だった。
 出来損なった声で、誰も彼もがばらばらに言葉を発し、繰り返しながら――それでも、怒りと殺意だけで彼等は完璧に統一されていた。
 肌に突き刺さるどす黒い気配が、更に昂っていく。その激情に反応するかのように、“彼”もまた牙を剥きながら唸り続けている。
 ふと、視界に表示されているシステムが何かに反応したのか、青紫一色で構成されていたウィンドウが全て真っ赤に変色する。
 
 これは……何かの、前触れ……? 
 
≪何だこれは……高エネルギー反応!? こいつらか!≫

 異変を察知し、司令官が通信機の向こうで叫んでいる――その焦りに満ちた声色に反応するかのように、無人機達がガタガタと震え始めた。

≪そいつらを片付けろ! 急げ!≫
「了解――、ッ!?」

 得物を持ち直して手近な機体に斬りかかろうとした、まさにその瞬間。
 最初に言葉を発した壊れかけのギズモンを包み込むように、光の紋様が浮かび上がった。連鎖するように、その紋様が他の機体にも浮かび上がっていく。
 幾何学的な図形を取り囲むように見たこともない文字が羅列したそれらの円陣が、水面に描かれた波紋のように広がりながら他の機体の円陣とぶつかっていく――ぶつかり、繋がり、一つとなっていく。
 これは……魔法陣、だろうか?
 魔法? 魔法だと? そんなもの、見たことも聞いたこともないのに。
 無人機達が……そんなものを……?







 機体が、残骸が、光に包まれる。光となって、融けていく。

≪何が起こっている……!≫
「いえ……これは……」

 魔法陣が、縮小する。最初の壊れかけた無人機に収束していく――光と共に。


 ――コロシテヤル――


「……!?」

 怨嗟の声が胸の中に響き渡り、眼前で光が弾けた。
 光の中から現れたのは……一体の、デジモンだった。ギズモンによく似た、いや、ギズモンの亜種なのかもしれない。
 だが、見たことの無いデジモンだ。ギズモンの球体型のボディに鉤爪を供えた手足、そして対の尻尾や鋼の翼が生えた、出来損なった一つ目のドラゴンのような姿。
 鉤爪を生やした両手の掌に備わった二つのレンズが、まるで目玉のようにこちらを捉えている――強烈な殺意に、思わず全身の産毛が逆立つ感覚に苛まれる。

 SCANNING...NO DATA.

(データにない……やはりこいつ……!)
「ッ!」

 咄嗟に得物を構え――次の瞬間、トラックにでも突っ込まれたかのような勢いで後方に弾き飛ばされた。

(攻撃――!?)
「が、はっ……!?」

 吹き飛びそうな意識を無理やり縫い止めながら体勢の崩れたまま、それでも直感で真横へ跳ぶ。一瞬遅れて無数の崩壊弾が着弾して地面が吹き飛び破片が顔面を切り裂く。
 だが意に介している暇はないしそんな時間すらない、一瞬で背後に回り込んだギズモンへ咄嗟に振り向きざまに横薙ぎの一閃を見舞う。その一撃で振り下ろされつつあった鉤爪を辛うじて防ぐが、直後に襲い掛かってきた尻尾がガラ空きの脇腹を直撃して大きく薙ぎ払われ、吹き飛ばされたところを待ち構えていたもう一方の尻尾が捉え――その先端が顎のように開き、脇腹を噛み砕いてきた。
 ゴキリバキリグチャグチャとどこかの骨が砕けたり肉の抉れたりする音が聞こえるが音も痛みも傷の具合も一切合切無視して尻尾に刃を突き刺し無理やり顎をこじ開け着地したところに飛んできた崩壊弾を斬って斬って斬って斬って斬り捨てたところで肉薄してきたギズモンの鉤爪が脚を腹を肩を切り裂く血が飛沫く無視して刃で本体を刺突するが避けられ腕を掴まれ上昇してから地面に叩きつけられ崩壊弾の雨が来る斬る斬る斬る斬る斬って避けて駆け出すが駄目だ回り込んでくる速い対応出来ない追い付かない尻尾が来る避けられない片腕盾に弾かれ砕かれ蹴り飛ばされ後退ったところにまた鉤爪――

≪キョウカ!≫

 WARNING! DANGEROUS STATE!
 WARNING! DANGEROUS STATE!
 WARNING! DANGEROUS STATE!
 WARNING! DANGEROUS STATE!
 WARNING! DANGEROUS STATE!


「……、く……」

 ……切羽詰まった通信、そして視界に映り込む真っ赤なステータス、そして腕に伝わる重圧で頭が少しは冷えた。
 五体は辛うじてつながって、体も原型は留めている……が、片腕の感覚がない。今はもう使い物にならなさそうだ。
 “身体接続”によって活性化した全身の細胞と寄生させているナノマシン群が作用して出血も何とか抑えられているようだが、それでもあまり長くは持たないだろう。
 そして、眼前――太刀と鉤爪で辛うじて鍔迫り合いながらも、刃ごと私を抉り潰さんとばかりに肉薄してくるギズモン。紛れもない、危機的状況。
 こちらも全力にて対応したつもりだったが、それでも全く追いつけた気がしなかった。手も足も出ない、とはまさにこの状況なのだろう。
 強い。並みの究極体が、比較にならない程に……。
 
≪キョウカ! 無理だ、下がれ!≫
「い、え……」

 こんな状況では逃げることすらかなわない……それは無論、口にした司令官本人もよく分かっているハズだ。
 激痛に苛まれながらも、鉤爪を必死に押し返しつつ苦し紛れに回答する。

「こいつを、地上に行かせ、たら……皆が危ない……! 此処で、仕留め……ます!」
≪……キョウカ≫
「“彼”を……解放、します……」 
≪……!≫

 この変異を遂げたギズモンは、どうやらまだこの一機だけのようだ。
 だが、こいつを地上に行かせて、先と同じような現象が地上で他の無人機へと伝搬でもしようものなら……戦線は、間違いなく崩壊するだろう。
 今、この場で叩き潰すしかない――どんな手を使ってでも。

≪……終わり次第、プレデター1を向かわせる≫
「司、令……」
≪言うだけ無駄だとは分かっているが……無理は、するな≫
「……諒解!」

 ――その瞬間、太刀が弾け飛んだ。

 走馬燈こそ過らなかったが、視界がスローモーションと化していく。

 致命的な隙。

 絶望的な一瞬。

 避けることも防ぐことも逃れることもない圧倒的な“死”が、目前に迫り――


「“     ”ッ!!」

 “彼”の名を叫ぶと同時。
 鉤爪が、私の胸部を深々と刺し貫いた――



 ○


 私の中の、ずっとずっと深くて暗い意識の底。“彼”はいつだってそこに蹲っている。
 その爪で何処も傷付けないように。その牙で何も壊さないように。その大きく恐ろしい姿で、誰も怖がらせてしまわないように。

「ごめんね。結局、君の力が要るみたい」

 その頭を撫でながら、宥めるように“彼”の頭を抱きしめる。
 “彼”だって分かっているのだろう。このままでは私だけではなく、多くの人達に被害が及んでしまうかもしれないことに。
 それでも“彼”は……やはり、怖がっている。私の肉体を、魂を、命を侵食してしまうことを、子供のように嫌がっている。

「大丈夫。私なら、大丈夫だから……」

 勇気付けるように頭を撫で、鼻先に口付けしながら両腕を広げる。
 私の小さな体一つでは受け止めきれないことは分かっている。それでも、私だけしか“彼”を受け止められないこともまた事実だ。
 幸い、痛みや苦しみには慣れているし、結構我慢強い性格だと自負している。ならば……やることはただ一つだ。
 暫く悲しげに俯いていた“彼”だが、ようやくその大きな体をのそりと持ち上げた。
 恐ろしい鉤爪に恐ろしい牙を持った、白銀色の巨大な狼。
 私の中で眠る怪物。私だけが知る、強くて恐ろしくて――とても優しい、狼の化神。

「おいで……受け止めてあげる」

 その大きな体が、光となって私の中へと溶け込んでいく。私の中が、“彼”で満たされていく。
 はらに宿った温もりに目を細めながら、意識をそっと手放して――

「行こう――“カムイモン”」



 
 
 ○


「……!」


 
 
 


 
 
 姿
 
 
 姿姿

 
 
 
 姿

「……、……ッ!」

 狼狽えている。恐れている。
 殺意を、憎しみを、敵意を抱きながら――それを超過する得体の知れない感情に、ギズモンが震えている。
 動かないのか動けないのか判別し辛いがどの道動かないでいてくれるならばそれに越したことは無い。

 潰すだけだ。

「ゲアァッ!!」
「!」

 足場を踏み砕きながら即座に距離を詰める。逃れようとする――逃すものか。
 尻尾を掴んで振り下ろし、先までやられていたのを真似るように地面に叩き付けると、ヤツもまた逃げられないことを悟ったのか、以前のように殺意を剥き出しながら即座に体勢を立て直して向かってくる。
 人では太刀打てなかった脅威。人外の力を以ってしても敵わなかった不条理。
 だがそれすらも屠り捨てる化け物と化した今の我々ならば、敵ではない。

「――!!」
「ガアアアアッ!!!」

 無数放たれる崩壊弾を鉤爪の一撃で文字通り一切合切掻き消しながら接近し、死角に回り込みながら奴に大振りの一撃を叩き込む――奴もまた即座に対応し、迎撃するかのように渾身の一撃を叩き込んでくる。ぶつかり合った衝撃の余波で、格納庫全体が大きく震えた。
 互いに弾け飛ぶ……否、後退しながらも前方に構えられた奴の両腕の目玉が煌めき極大のレーザーが拡散放射される。どうやら崩壊弾が無駄だと分かり武装を切り替えてきたらしい。此方も垂直蹴りの要領で壁面を蹴り砕き地面へと跳躍、レーザーの数々を躱すと同時に再度跳躍して瞬時に奴の懐へと飛び込み大振りの一撃を叩き込むが、両腕の鉤爪で受け流された上に今度は奴の対の尻尾が顎を開きながら此方の死角より迫る。
 片方は掴み――掴み損なったもう一方は顎で喰らい付くと同時に一気に力を込めて噛み砕く。間髪入れずに残った片方の尻尾を両手で掴んで思い切り振り下ろして奴を地面へと叩き付け、駄目押しで飛び蹴りで追撃を加える。
 奴の硬い装甲に、初めて亀裂が入った。

「シネ」
 
 電子音を掻き混ぜたような、声にすらなっていない声を放ちながら奴が起き上がりつつも至近からレーザーを放つ。
 紙一重の差で躱しながら奴の掌、レーザーの発射口にもなっていたレンズ質の目玉に一撃を加えて粉砕する。
 だが奴はそのまま此方の拳を掴むかのように鉤爪で握り締めてくる。拳から骨の砕けるような鈍い音が聞こえる。

「シネ」
 
 力尽くで引き抜きながら砕かれ使い物にならなくなった左腕を引っ込めつつ、振り下ろされた奴の鉤爪を全力で蹴り上げる。
 一瞬の間だが、それだけで事足りた。カムイモンの力で殴り合いが出来る程度には再生した左腕で奴の腹部、亀裂の入った装甲に更なる連撃を加える。
 奴もこちらの意図に気付いたか、はたまた自らの危機を察したのか、残った片腕のレンズから此方を遠ざけるかのように極大のレーザーを乱射するとともに上空へと逃れる。
 何度逃れようが逃がすつもりはない。全力で地面を蹴り上げて砲弾のような勢いで天井へと突っ込み、身体を抱え込むように丸めながら激突の直前に反転。今度は天井を足場に全力で跳躍し、倍以上の加速力と共に落下しながらこちらの動きに惑わされ反応の遅れた奴の頭上に踵墜としを撃ち込み地面へと墜落させる。
 地面に大きなクレーターを穿ちながら奴が激突する。その衝撃で亀裂が更に広がり、装甲の一部が欠けた。機械の詰まった中身を覗かせ、オイルかデ・リーパーか判別もつかない赤い液体が血のように零れ落ちる。

「シネエエエエエエエッッ!!」

 仰向けになりながら、今度は奴が頭部装甲――否、“顎”を大きく開き、露出した砲口のような大型センサーが煌めく――凄まじい爆音と共に紅い閃光が迸った。咄嗟に回避するが僅かに遅れたらしく、再生したばかりの左腕の肘から先がごっそりと持っていかれた。天井にぽっかりと大穴が開いている……どうやら視界に映ったものをまるごと消去するような攻撃だったらしい。中々どうして馬鹿げた威力だ。
 先の衝撃で拉げた両翼を広げて奴が再び飛び立とうとするが、それを許すつもりはない。再生を待たずに身体に纏った炎状のエネルギー体で仮初の左腕を構築し、途中で投げ捨てた刀を回収しながら途中で跳躍して一気に肉薄し鉤爪で攻撃――フェイントに引っかかり一撃を繰り出した奴の背後に回り込みながら、抜刀――その両翼を半ばから斬り落とす。
 今まさに飛行しようとした奴の動きが僅かに硬直する――好機!





 
 奴の懐に飛び込み、欠けた装甲に手刀を捻じ込みながら足場を木端微塵に粉砕する勢いで跳躍。遥か後方の壁面へ力任せに奴の胴体を捻じ込み縫い付ける――その衝撃と威力で、壁面全体に無数の大きな亀裂が生じた。

「ギ、アア」

 奴が出来損なった電子の音声で苦痛に呻く――その間にも此方に向けてレーザーか崩壊弾を放とうとしていた片腕の目玉に太刀を突き刺し、壁面に串刺すころで封殺。
 それでも諦めずに今度は顎を開いて大型レンズから先程と同じ必殺の一撃を放とうとしていたのであろうところを鞘から抜き放った短刀を突き刺しこれを粉砕。これで奴の飛び道具は全て潰せたはずだ。ついでに鞘を奴の顎の中に挟み込み閉じられなくする。

「イタ、イ」

 未だに暴れ回るもう片方の腕を剛腕で力任せに引き千切り、残った尾を鉤爪で斬り裂き、両足を踏み砕きながら、残された胴体部の解体に専念する。
 突き刺した片腕を鷲掴みにした内部機構ごと強引に引き抜く。穿たれた装甲内部から、鮮血のように赤い液体が激しく噴き出す。
 しかしこれだけ破壊しても奴はまだ魚のようにびちびちと暴れ続けている。徹底的に破壊しなければ駄目なようだ。

「イタイ、イタイ、アツイ、アツイ」

 もう一度腕を捻じ込む。通常のデジモンと違いデジコアという明確な心臓部を持たないギズモンだが、それでもどこかに動力源となるメインユニットが存在するはずだ。
 内部で鉤爪を広げ、掻き出す要領で爪先に引っかかった機械部品を片っ端から引き裂いていく。生き物ならば生きながらにして内臓を一つずつ抉られていく感覚なのだろうか。
 それでも奴は暴れている。暴れ続けている。
 死に、抗うように――

「タス、タ、けテ、タスけて」
「……!」

 命の悲鳴だった。
 搔き集められた電子音が、遂に人の声となって発せられた。
 殺意と敵意と憎悪に塗り潰されながらも――生きようとしている。死を恐れて、生にしがみ付こうとしている。
 やはり、こいつは……こいつらは……!

≪――キョウカ、スキャナーを使え! これ以上の戦闘は君の生命が持たないぞッ!!≫
「!」

 戦闘中でありながら思考の渦に嵌りかけていたところを、司令官の通信で引き上げられる。
 今は考えていても仕方ない……終わらせるしかない。
 彼女わたしのためにも。
 そして何より、奴のためにも。

 REPOSE MODE   LIFTING.
 SELECTINGMODE V-SCANNER SCANNING START.
 WAITING...COMPRETE.


 赤く染まった視界のディスプレイに、奴の頭頂部内が青白く点滅して表示される。
 無数のバッテリーセルとAIユニットが歪に混ざり合った、臓器のような動力機関。
 それこそが奴の頭脳であり、心臓部――!

「助、け、」
「ッ!!」

 腕を奥深くにまで捻じ込む。
 機械の臓腑を掻き分け、ドクリドクリと鼓動するその心臓部に鉤爪を突き立て――


「――!」

 
 トドメを刺す、その瞬間。

 いくつかの光景が、頭の中を過ぎった。

 知らない光景が、私の中にはっきりと描かれた。
 
 きっとそれが、奴の中に残された“本体”の――


≪高エネルギー反応……! キョウカ、そいつから今すぐ離れろ!≫

 鉤爪を突き刺した心臓部が、急激に熱を帯び始める。
 急いで腕を引き抜こうとするが、それよりも速く心臓部が赤熱し、紫電を発し――

≪――キョウカッ!!≫

 奴のボディが爆発し、その爆風と爆炎と衝撃が我々を容赦なく呑み込んだ――





 
 ――最初の光景は、花畑だった。
 砂漠のオアシスで砂塵を孕んだ風に吹かれながら、それでも力強く咲き誇っている。
 太陽の光に照らされて、透明な赤い花弁がきらきらと輝いている。
 硝子細工のように美しい無数の花々が、咲き誇っていた。


 ――次の光景は、笑顔を浮かべる人々だった。
 浅黒い肌という一点だけが統一された老若男女が、皆一様に大きな笑みを浮かべている。
 みずぼらしい姿をしているが、きっと彼らは幸せなのだろう。こんなにも、眩しい笑みを浮かべられるのだから。 
 太陽のように眩しい無数の人々が、笑いあっていた。


 ――それらの焼き尽くす劫火が、その次の光景だった。
 青空を赤と黒で塗り潰して、炎が何もかもを嘗め尽くしている。花も、人も、オアシスごと焼き払われている。
 子供は咽び泣き、老人はただ許しを請い、そして大人達は怒りと憎しみで震えていた。
 美しい花々や眩しい人々が、焼き尽くされていた。


 ――最後に過ったのは、一人の少女の笑顔だった。
 透き通った海のように美しい髪と、晴れ渡った青空のように綺麗な瞳の少女。
 その両手の中で、一輪の赤い花が咲いている。まるで、少女と一緒に渡っているかのようだった。

 花と一緒に、一人の少女が、笑っていた――






「EMP発生機の起動を、確認、しました……」
≪……よし、地上の無人機達の停止していってるぞ。よく、やってくれた≫

 コントロールルームでの操作を終え、満身創痍の重たい体を引き摺り私は歩く。
 体中に迸る激痛で何度も意識を失いかける。正直、立っているだけでも精一杯だ。

≪エリザ達を回収に向かわせているが、もう少し時間が掛かる。安静にしていてくれ……≫
「……少しだけ、歩き回っても……いいですか?」

 覚束無い足取りで、コントロールルームを抜け出してアテもなく彷徨う。

「そうしないと……今にも、意識が無くなっちゃいそうで……」
≪……転ばないようにな≫

 通信を切りながら、壁にもたれ掛かりつつ大きく深呼吸をする。
 ボロボロの身体の上、カムイモンの力を引き出すために生命力ですら殆ど残っていない。
 それでもこうして生きているのだから、思わず乾いた笑みがこぼれてしまう。

 あのギズモンの爆発に呑まれながらも、私達は何とか生きていた。
 格納庫を瓦礫の山に変えてしまう程の大爆発であったらしく、化け物の姿と化したにも関わらず辛うじて手足が繋がっているような有様だった……否、左腕は失ったままだったか。
 変貌した姿のままコントロールルームへと何とか辿り着き、指定通りの操作を終えてどうにか地上の無人機達を止めることが出来たのがつい先程のことである。

 通路の途中、窓ガラスに映り込んだ自分の姿を眺める。
 片側が耳元まで裂けた顎、大きな鉤爪、全身を突き破って生えた刃、そして頭巾や外套のように体を包む、狼の形をした赤黒い炎状のエネルギーの塊。
 その出来損なった姿はまるで、赤ずきんの格好をした狼のようだった。
 カムイモンが力を使いたがらないのは、私の生命力を奪う他にも私がこんな姿になるのが嫌だから、と云う理由もあるようだ。

(……やはり、投与剤は持ってくるべきだったか)

 一度この姿になると、元の姿に戻るには時間が掛かる。
 カムイモンの高い治癒能力で体の傷を癒しながら、不可逆的に変形してしまった骨格をゆっくりと本来のあるべき姿へ戻していく。
 その治癒能力を発現するのも結局生命力を代価にカムイモンの力を使うこととなるため、直している間はほぼ寝たきりにならなければならない、なんてことも珍しくない。
 ナノマシンの薬剤を投与すれば回復速度も促進されるのだが、生憎と現状は持ち合わせが一つもない。
 帰ったら三日間くらいはベッドに縛り付けられることとなりそうだ――

「?」

 カムイモンの力で底上げされた聴覚が、遠方からの不自然な物音を捉えた。
 耳を研ぎ澄ます。作戦通りであればこの基地は最低限の機能を除いて全て強力なEMPによって機能を停止させられているハズだ。
 施設内部を吹き抜ける風の音、コントロールルームで微かに鳴っているシステムの稼働音、格納庫周辺での炎の燃える音、あちらこちらから聞こえるサイレンやどこかのパイプから漏れているのであろうガスか何かの放出音――足音。
 足音だ。機械特有の金属が擦れるような歩行音ではなく、靴を履いた人間の……。

「司令……生存者が、いるようです」
≪何……?≫
「保護、しますか……? それくらいなら、やりますよ」
≪……気を付けろ≫
「諒解……」

 音と、そして気配を探ることに集中しながら。
 残った僅かな体力を振り絞りながら、最後の任務を開始する。
 無事でいてくれれば良いのだが。

 ああ、ついでにこの姿を見られてパニックを起こしたりしなければもっといいな……。


 ○

「ビ……」
「……、収まった、の……?」

 先程まで続いていた立っていられない程の振動と衝撃、そして最後に一際強く響き渡った爆発音が収まって、通路の真ん中で小さな彼を庇い伏せていた僕はそっと頭を上げる。
 
「すごい、揺れたね……」
「ビィ」

 きっと、僕の想像も出来ないような激しい戦いが起きていたんだと思う。
 世界そのものを震え上がらせるような戦い……一体、どれだけ恐ろしいもの達が戦っていたのだろうか。
 ぼんやり考えていたら、小さな案内人が胸の中からぴょこっと飛び出して、少しだけ周りをキョロキョロ見回した後にまた歩き出した。
 いったい彼は、どこに向かっているんだろう……。

(……アレ?)

 しばらく歩いている内に、それまであちこちで感じていた強烈な感情の数々が嘘のように消え去っていることに気が付いた。
 一体、どうしたというのか……その答えはすぐに明らかとなった。

「わっ!?」

 彼に倣って、迷路のような通路を曲がった先に、彼と同じ姿の――数倍は巨大なデジモン達が倒れていた。
 それは間違いなく、さっきまで怒りや憎しみのままに暴れ回っていた彼らのうちの数体だ……死んでしまっているのだろうか、一つ目は光を失って、屍のようにピクリとも動く気配がしない。

「……、……」

 ……もし、彼らの激情が本当に“霊石”の影響を受けたものだというのなら。
 その感情に操られるまま、彼ら自身はどんな気持ちで暴れていたんだろうか……。
 再び暴れ出さないことを祈りながら、脇をそっと抜けて彼のことを追いかける。

 やがて、此方に近付いてくる気配を感じ取る。どうやら彼もその気配に近づいているみたいだけれど……。

(……敵、じゃ、ないん……だよね?)
 
 どこか不思議な、というより歪な気配だった。
 近付くだけで体中が強張ってしまう程の強烈な気配なのに、まるで怖さを感じない。
 まるで、何百年も前から生えている巨木みたいな――

「ビー!」
「えっ!?」

 彼もその気配を感じ取ったのか、速度と勢いを上げてすごい速さで駆けていく。
 ずっと探してたのかな? そんなわけはないと思うんだけど……

「わわっ、待ってよ〜!」

 こっちも急いで追いかける――まただ。走り出して彼の背中を追いかけ始めた時、懐かしい光景? 記憶? が、頭の中を通り抜けていったような気がする。
 そんなはずはない、ハズなんだけど……初めて見る種類のデジモンだったし……なんて、ちょっとだけ思い悩んでいたら、あっという間に距離が開きかけていて大いに焦る。

「ねぇってば〜!」

 考えるのは後だ。今は彼のことを追いかけなくちゃ。
 疲れ果てた体で頑張って力を振り絞りながら、必死に彼を追いかけ続ける。
 得体の知れなくて、それでも何処までも穏やかで不思議な気配は、もうすぐそばまで近付いていた。

 

 ○


「ビ! ビ!」
(何……?)

 足音を追って、あと一歩まで近づいた時。
 唐突に飛び出たそいつの姿に、私はやや困惑していた。

 ギズモンだ。先程まで散々対峙し、退治してきたギズモンPTと呼ばれる地上戦型――レンズが友好識別みどりいろに発光しているのと、十数センチ程しかないミニマムサイズという点だけが異なっている。
 掌サイズのギズモンがぴょんぴょんと飛び跳ねている様相は、何処か奇妙だった。
 ……反応に困っている内に、足音が此方へ近付いてくる。そして――

「待って! ねえ、ちょっと……」
「……!」

 長身の女性だった――ガラビアのような衣装と外套、そして頭に巻かれた青いターバンで外見からは判別がつき辛いが、カムイモンの力で研ぎ澄まされた嗅覚が女性特有の匂いを嗅ぎ分けた。
 そして何より、その翡翠色の鮮やかな髪と空色の澄み切った瞳……顔立ちこそ随分と大人びているが、見間違えよう筈もなかった。

 あのギズモンの中に残されていた、微笑みを浮かべる少女。
 恐らく、“本体”にとって特別なのであろう、その人。

「え、っと……君、は?」
「……」
 
 私のことをちっとも恐れずにおっかなびっくりな様子で話し掛けてくる彼女と、その胸の中に納まった小さなギズモンを見ながら、私は直感する。
 これはただの暴走事故等ではない。
 きっと、始まりだ。凶兆に過ぎないのだ。
 何かもっとこう、巨大な災禍のようなものが、近付いているのだ。
 エリザによく聞かされていたことを思い出す――こう云う時に訪れる嫌な予感というヤツは、朝一番の天気予報よりも当たるものだと。

「あのー……えっと、言葉、わかるかな? こんにちはー……?」



 記憶の中の少女。
 目の前であたふたしてる女性。
 双方の面影を重ね合わせながら、胸の中で切に祈り続ける――

 どうか、大事にだけはならないでくれ、と。



 ○


-CODE:Z'd-
  FILE No.01:[ 狂騒 -Birth of a Wish- ] COMPLETE,
 ENTER THE NEXT STORY,


「急に忙しくなっちゃって、あたふたドンパチやらかしているところに可愛いコちゃんが救いを求めて飛び込んできた。
 なんでも異世界の王女サマで、王国の秘宝を取り戻しにきたんだってさ!
 この秘宝ってのを奪ったのがクラトゥ博士っていう薄気味の悪いジジイのパートナーでねぇ、しかもウワサの暴走兵器を完成させやがったよ。
 クソッタレ、こうなったら奴らの研究所に乗り込んでやる!
 次回、『奇怪! テンプレ異世界』でまた会おうぜ!





 ――ところでさあ、前作は兎も角として前々作で主役張った俺が今回は脇役って流石にひどくねーか? 畜生め、こうなりゃ次回は股おっぴろげて挿絵だらけの濡れ場もぶち込みまくって主役に返り咲いたついでに読者の連中脅して今年の『このデジ!』キャラクター部門第一位も掻っ攫ってやるぜ――っておいなにするやめくぁwせdrftgyふじこlp――!?」

(音声ファイルは、ここで途切れている……)


ID.4826
 
■投稿者:ヤギ  HOME
■投稿日:2018/01/27(土) 09:45


後書+

「異世界ファンタジー書いてみるかー」
「異世界なのに月と太陽があるっていうか重力とか物質とか諸々地球に準じた環境ってのも何か陳腐だよなあ」
「よし、それなら本格的な異星というものを作ってみよう」
「なんなら生息しているのもファンタジーな魔物だけじゃなくて電離体の生物とか珪素の生命体とかにして……」
「……」

「ワオ、なんてこった! 俺はいつからSF作品を作っていたんだ!?」


 ――という感じでだらだらと社会の荒波に揉まれながら生活していたら前回の投稿からあっという間に6年近く経っていてぶったまげました。時間が経つのはあっという間ですな。
 皆様どうも初めまして邪神改めましてヤギです。エログロとビッチに定評があった気がする憎いアイツです。今期の一押しアニメはゆるキャン△とクソ4コマのアレ。前年度の総合優勝はフレームアームズ・ガールやプリンセス・プリンシパルを僅差で破って少女終末旅行でした。劇中BGMほんとずるい(誉め言葉)。9話EDとかワケも分からずボロ泣きでしたわ。
 さて時代遅れの老害も甚だしい古参めが何故今更になってこんな連載っぽいのを開始したのかと問われると実は本人もよく分かっていません。そういえばそんな話が去年の飲みの席でも上がっていたような気もするが俺のログには何もないな。ばーぜよくわかんないや。
 とはいえこの数年間創作から離れていたという訳でもなく、水面下でこそこそといろんなジャンルについてお勉強したり小説書いたりゲームやったりプラモ作ったり色々やってました。嘗ての武装紳士も今となっては某武器屋の狂犬です。そんな某武器屋のせいでまた紳士に返り咲きそうで今から狂犬は震えております。閑話休題。

 さてタイトルにもなっているズィード。ミレニアモンの専売特許化と思いきやガルルモンまで仲間入りしたりしていますが、結局公式的にはどんな意味合いで付けられてるんでしょうね。個人的にはZ(終末/最終)+過去形≒終わりを超える、最終より更に上≒『とりあえずなんかすごい超越』……みたいな感じで解釈しております。終わりを超えたガルルモンの最終より更の上砲。とりあえずなんかすごい超越した威力で相手は死ぬ。
 作品的にどう関りが出てくるのかはさておくとして、自分の空想科学的な趣味趣向をぶち込みつつ更にファンタジーをも織り交ぜて持てる力以上を出しているつもり≒超越的な意味合いを込めつつ書き始めましたが、そんなに長いお話にはならない(ハズ)なので気長にお付き合いいただければなと思います。え、次回は何時投降するんだって? ばーぜよくわかんないや。

 そして今作最大の目玉の一つがSADDOさんによる美麗な挿絵!
 長らく創作のお勉強でご一緒させて頂いていたこともあり、今回ご無理を承知でお願いしたところ快く引き受けて下さりました! ありがとうございます!!(全力の土下座)
 イラスト負けしないようにテキストの方も色々小細工を仕掛けて頑張ってまいりますので生暖かい視線で見守ってやっていただければ幸いです。

 それではまた次回お会いしましょう。








〇OMAKE DATA VOL.1:



●ギズモンPT/ギズモンAT

レベルIV/マシーン型/ウィルス種
得意技:ATレーザー/σ崩壊弾
必殺技:ATヘリックス/ATハッキング

 大戦前まで普及していた対デジモン用の無人戦闘兵器。便宜上デジモンとして扱われているが、そのベースはデジモンに近似した肉体構造を持つプログラム生命体デ・リーパーの複製体が使われている。
 デジモンのデータを破壊する能力を持つデ・リーパーのデータが使われていることでデジモンに対し絶大な破壊力を発揮するが、耐久力そのものは低く、通常兵器でも撃破することが可能。
 プロトギズモンの正式量産型である地上戦闘用のギズモンPTと空中戦闘用にマイナーチェンジが施されたギズモンATの2種類で構成される。
 大戦当時は双方の特徴を併せ持ち更に戦闘能力を向上させたハイエンド型のギズモンXTも存在したが、高過ぎる戦闘性能を危惧された結果、戦後に全機廃棄処分されている。
 ※技名がATで統一されていることについてはギズモンAT開発時に改良された内蔵兵器が後にギズモンPTにも採用され、実質的にアップグレードされた名残りであると推測される。


●ギズモン:M6

レベルVI/マシーン型/データ種
得意技:-
必殺技:-

 提供されたビデオファイルの中でのみ言及されていたギズモンの未確認ナンバーについて、後日行われた施設の調査に於いて設計データが回収された。どうやら件の暴走兵器と並行して開発されていたようだ。
 分厚くなった全身の装甲や長大な四足、胴体後部に連結された大型コンテナから察するに、多量のギズモンや無人機を戦地へ輸送するための移動要塞型として開発されたらしい。


●ギズモン:モデルD

レベル不明/種族不明/属性不明
得意技:-
必殺技:-

 イスガレア兵器蒐集施設にて確認されたギズモンPTを筆頭とした無数の無人機達が融合することで出現した突然変異体だが、その外見や攻撃手段等から『デスモン』を模した形態ではないかと推測され、『モデルD』と仮称されることとなった。
 出現後、程無くしてエージェントの“プレデター2”の暴走体によって撃破されており、映像記録やスキャニングデータ以外の情報は残されていない。しかし、デジモンに対して絶大な破壊力を発揮するギズモンをベースにしていることも相俟ってレベルVII相当の戦闘能力を有していたものとされる。


●プロトギズモン

レベルIII/マシーン型/ウィルス種
得意技:PTレーザー
必殺技:PTへリックス

 すべてのギズモン及び擬似デジモンの基となった試作体であり、デ・リーパーではなく純粋なデジモンのデジコアが使われている。また、AIユニットを搭載しながらもデジコアに起因した明確な自我を有しており、このことが今回の暴走を免れた要因ではないかと推測されている。
 ギズモンPTはこの機体をスケールアップし、デ・リーパーのデータに由来する高い殺傷能力と生産性を持たせたものである。
 戦闘能力は低いが、頭部レンズ口より発射されるPTレーザーは高確率で相手を麻痺させることが可能。


●カムイモン

レベルVII/化身型/ワクチン種
得意技:-
必殺技:-

プレデター2ことキョウカ=アマミヤに取り憑いている実体を持たない狼型デジモン。デジタルワールドに於いては一切の記録が存在しないが、現実世界に於ける幾つかの古い民話の類に『万物を灼き焦がし、星を喰らう獣』としてその姿が体中の特徴的な刻印と共に記録されていることから、何らかの要因で太古の地球に出現した非常に旧いデジモンの類ではないかとされている(※1)。
宿主の生命力を糧に発現されるその力の一端のみでも究極体級に匹敵する戦闘能力を発揮することから、本来は超究極体級かそれ以上の力を持つのではないかと推測されている。
カムイモンという名はキョウカに名付けられたようだ。

(※1)デジモン・ファンタジー:
 所謂『人類史上に於けるファンタジーとはデジモンを起源としているのではないか』という仮説。内容については死を迎えると同時に肉体の構成情報が霧散して消滅するというデジモンの特性を様々なファンタジーと重ね合わせると分かりやすいだろう。
 21世紀となって人類史に明確な関りを持ち出したデジモンに対する逆説的なジョークとして親しまれていたが、あらゆる時空間に介入可能とされるズィードミレニアモンの出現が正式に確認されて以降、この仮説を元にした研究が加速していくこととなった。
 以後、各地でデジモンが関与していたと思しき記録が幾つも発見されており、各学問での研究の進んだ近代に於いてはこの一説を肯定する声も大きくなっている。



ID.4830
 
■投稿者:パラ峰 
■投稿日:2018/01/31(水) 10:19


ぎえぴー……だと
ぎえぴーだと。
感想書こうと思ってたらこの三文字で全部ふっとんだわ、ぷりn――パラ峰です。

デスモンを模したギズモンめっちゃ格好いいやんけ……。
ヤギさん当人も仰るように、ここまでギズモンをフィーチャーする作品もそうないでしょう(皆無とは言えない)。一話中に何回ギズモンって出たんだ……。

ぎえぴーで吹き飛んだ感想を再構築すると、ふぇぇ、面白いよぅ……って感じでした。兵器とかマシーンとかあんまり親しくないのでちょっとわからんところや敬遠するところもあるんですが、それを押して大変楽しませていただきました。

実はあとがきの最後の方で、拙者 人類史にデジタルモンスター介入させるの大好き 侍としてテンションのあがる設定が語られウヒョウとなりました。

面白い作品の投稿が始まり、続きを楽しみにしております。2話。

ID.4835
 
■投稿者:Shot-A 
■投稿日:2018/02/02(金) 22:04


うるせぇ! こうなりゃ感想だ!
どうも御久しぶりはお互い様。
ぼーっとしてたら俺も歳をとったぜShotです。

率直な感想としては
ほう、邪神の作品とはこういう味だったかブグフォ(吐血
って感じです。

相変わらず察しと思いやり任せな世界観をダダ展開している所が好きです。
ていうかコードシリーズで連載っていうだけでご飯がモリモリ食べられます。

とりあえず普通に読み進めていたのに、ギズモンが寄り集まって喋りだした所から一気にゾゾゾゾゾゾタウン!って感じでした。

SADDOさんもめっちゃ御久しぶりです。
お二人、実際にこうしてお力を足しあわされた作品を拝見すると確かに
相性よろしいわん。って感じで、正にベストマッチ! でしたね。

次回もアーユーレディ?してるので出来るだけ俺が生きてるうちに投稿たのんますわ!

ID.4845
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2018/02/05(月) 23:01


私は歯医者になりたい
 他の御二方に遅ればせながら夏P(ナッピー)ですが、俺もぎえぴーに気付いてしまって爆笑でしたわ。


 ええ、コイツらはアレか。懐かしのいつぞやのなりチャで大層お世話になったアイツらか。きゅーきゅーと鳴く様になんか見覚えがあるぞ。ていうか、冒頭でズタズタの真っ赤になった“赤ずきん”の描写で魔法使いの夜の赤色の死がお前を見てるからねを思い出してしまったぜ。
 アニメにおける「デジモン殺し隊」の双頭であるギズモンとデ・リーパーがまさかの今燃え立つグレートクロス。ギズモン自体は元々モビル・ドールみたいな感じで意志無き兵士なのかもしれないけど、これ絶対デ・リーパーのデジモン消去の意志か何かが作用してヤバいことになるに違いない。
 ドモンよデビルガンダムデ・リーパーが元々はデジタルワールド再生の為に作られたということはシュバルツから聞いたであろうだがデジタルワールド落下の衝撃で異変が生じデジタルワールド再生の三大理論を飛躍させある答えを導き出したそれこそがデジモン抹殺よ!!
 選ばれし子供が兵器扱いな辺りに作者の趣味が出てそうな……。ギズモンが次々と改良されてジオンのザクばりの系譜が出てくることを期待している。カムイというのはあれか、アイヌの伝承に伝わる……まさか不破圓明流奥義ではあるまい


 ところで最後にこれだけは言いたい。

>終わったら一杯奢らせてくれ、美味い店があるんだ!

 派手に死亡フラグ建ててんじゃねえ!!

ID.4847
 
■投稿者:Ryuto 
■投稿日:2018/02/05(月) 23:51


RE:赤ずきんのお話/序
既にオフ会で感想をお伝えしてしまったので、こちらではほとんど繰り返しのようになってしまいますが……。
言葉遣いやデジモンのチョイスなど、あいかわらず邪神っぽいなというのが第一印象でした。
最初に邪神の小説を読んだのが既に10年以上前というのが驚きなんですが、その時の感覚ままなのが懐かしい。
一方で、やや難解になることが多いと思っていた地の文が色分けによって結構分かりやすくなっていて、この辺りはNEXTになって使えるようになったタグをフル活用してて(イラストも含め)、以前よりさらに進化してる印象もありました。

が、それ以上に良いと思ったのがやっぱり戦闘描写の地の文で。
今回だと01Bの後半の戦闘ですが、句読点を使わずに言葉の繰り返しでリズム感を取ってるのが、戦闘のスピード感を出すのに一役買ってて本当にすごいなと(以前にもこういう描写はあったと思うのですが、今回のはかなり効果があったような気がします)。
自分にはできそうにない描写なので、この辺は「すごいな! こういうやり方もあるのか!」と感心しました(でもそう思ったところでやっぱり自作で応用とかは無理そうですが……)。
次回以降どうなるのか分かりませんが、引き続き面白くなって行ってくれればいいなと思います。