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ID.4714
 
■投稿者:ENNE  HOME
■投稿日:2017/05/10(水) 19:59
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アシッド・ルースト・オール!≪06≫−1
         
 
 
 
 仮面の下へ表情を隠し、空へ舞い上がる。
 羽虫のように半透明な羽、青く太い4本の腕。内、腹から伸びた2本は中途半端な状態で後ろへ向いている。空を駆ける為、邪魔にならないような作りに見えた。
 自国の上空へ大挙として押し寄せた黒い大群。
 肉薄しても表情が解らない──ただ彼が理解しようとしなかっただけなのだが──それら。
 それ、と銘打った相手に慈悲など無い。と、彼は空を蹴りざま体を回転させる。
 まるで、竜巻のような。
 素早く力強く、周囲を巻き込み駆け抜ける。
 耳へ届く悲鳴、相手の体を切り裂く音、飛び散る血液データを五感で感じながらも、彼は纏う空気を変えず、目標を次へ移す。
 戦闘種・デジモンなのだから、戦うのは至極当然。
 しかし、彼は自国に於ける『騎士』だ。見てくれからは想像し難いにしろ、心は国と共にあり、治めるデジモンを敬慕し、全てを守る為に在る。寡黙に無心に敵を屠るのも、国の為、そこへ住まうデジモンを守る為に他ならない。

 襲撃に燃えるデジモンを次々と塵へ換える彼の隣、もう1体のデジモンが猛威を振るう。
 赤い仮面、黒い鎧。青い体は先のデジモンと似ていたが、僅かな隙間から見える目が彼の雄々しさをよく表していた。
 群がるデジモンを太い脚で薙ぎ払い、素早い動きで繰り返す。しかし、どれも塵へ換える程では無い。ほんの一瞬、意識を逸らすだけ。
 それで良かった。
 蹴りによって弾かれたデジモン達は、知らず一カ所へ集められ、互いに体の一部がぶつかる事に気が付いた。
 はっと我に返るも、
「──遅い!」
 はっきりと届く声、がしゃり、と構えられる照準、銃口。
 思わず吸い込まれてしまいそうな墨色の穴に、視線を向けた全員が息を呑んだ。
「『デスペラード・ブラスター』──ッ!」
 咆吼と共に放たれる無数の弾丸、火花は、固められたデジモン達を漏れなく蜂の巣にする。痙攣し悲鳴を上げる彼らは時間差こそあれ塵となり、辛うじて撃ち漏らされたデジモンも、待ち構えていたもう1体の騎士により、次々と首を掻き切られ絶命した。
 会話もアイコンタクトも無い、慣れた連携。
 動作を終えても、互いに労う様子は無い。
 まだ、終わっていないのだ。塵になったのはほんの一部に過ぎず、これから他の塊を潰しにかからねばならないのだから。


 が、そこは『騎士の国』。戦えるモノは、彼ら2体に留まらない。
「おぅあああ――ッ!」
 猛々しい雄叫びが、黒い塊の中心へ突き進んで行く。その姿はひとつやふたつには留まらず、10にも20にもなる。彼らは銘々に武器を持ち、或いは自身の肉体そのものを快刀とし、闇色の肉を解体して行く。処理が済めば、内から吐き出したエネルギー波で跡形もなく燃やし尽くした。
 デジモンは死を迎えれば、肉体を残さず塵と消える。しかし、騎士達はそれさえ許さないとばかり、それらを自らの手で屠って行ったのだ。


 更に。
「頃合いだな」
 先陣を切っていた赤い仮面のデジモンが、相方を振り返る。すると、彼もまた同じ思考へ至っていたのだろう、無言のまま頷きを返して来た。
「――散れッ!」
 どちらともない怒号は合図。
 その意味を正しく理解したデジモン達は、眼前の敵を倒した後、全速力で離脱する。次に倒される覚悟を薄く持っていたデジモン――敵、と呼んでいるそれらは――恐怖の表情を貼り付けたまま、飛び去って行く騎士の姿を視界の端へ捉えていた。それしか出来ない。それ程に、彼らの動きは予想外で俊敏だったのだ。
 敵というデジモン達は、知らず安堵する。が、ほんの一呼吸のみだ。
「――……え?」
 足下、下方。これから攻め込もうとしていた場所から上って来る圧迫感が、自然と彼らの視線を下ろさせた。
 引き寄せられて尚、頭の理解が追い付かない。眼下の街や城を全て飲み込むまでの光が溢れ、まるで獣のような唸り声を上げているというのに。圧迫感は自分達へ向けられた殺気であると僅か把握している筈なのに、思考は停止し体も動かせずにいた。
 周囲には、敵対した自分達の体を残す事を許さない他国の騎士。眼下に広がるのは、「彼」の国に牙を剥く全ての生存を容赦しないモノ。
 ああ、と思い出す。
 アレを放つモノもデジモンだ。ひとつの国を潰すべく集められた「仲間」の数に昂揚し、これなら絶対に任務を成し遂げられると芽生えた自信。――その陰で、いつしかすっかり忘れ去っていた存在こそ、これから潰したい国を守っている大元なのだ、と。
 正確には、自分達は国を潰す為に集められたのではない。
 彼を、彼(か)の存在、ただひとつを殺す為だけに募られた、
「――烏合の衆」
 ――無敵の、――……自分達は、なんだっけ?
「『ファイナル・エリシオン』――ッ!」
 その声と共に、多くのデジモンは思考を閉じた。視界も聴覚も、何もかもが消え果てた。





 100体程の群れだっただろうか。
 騎士国・イティアの上空に現れた黒い軍勢は、誓士達が視認して程なく消滅した。城下町を見下ろせる位置に到達した頃には塵さえ消え去り、元の青い空が広がっている。
 街の中央、ウイングドラモンでも余裕で降り立てる広場へ足を着けると、そこには見知ったデジモンが出迎えるように立っていた。
 深紅のマント、白い鎧。右手に槍、左手に大盾を携えた彼は、先にデジモンの群れを迎え撃っていたモノ達と違い、見るからに騎士と解る。
「よく来たな、セイジ、ソーコ」
 耳にするだけで背筋が伸びる、凜とした声。それなのに、誓士は少し不満げな返事をした。
「あー……無事、みてぇだな、デュークモン」
「お陰様でね」
 皮肉では無い単なる事実として、深紅の騎士は告げた。

 デュークモン。
 騎士大国・イティアを統治する、長的な存在だ。王とも呼べるのだが、本人は頑なに固辞し、あくまでも纏め役という位置に落ち着いている。
 強大な力を持ち、たくさんの物を守り続けて来た彼は、デジタルワールド中の幼年期・成長期デジモンの憧れ。姿を見た事の無いモノにさえ名が通る程だった。故に、理不尽な襲撃を食らう事も数え切れない程あったが、全て過去形。多くはデュークモンへ到達する以前に撃退され、運良く辿り着いたとて、真正面から打ち破られていた──数年前の1度を除いて、だが。

「あれくらいの勢力、キメラモンとかファラオモンに比べたら、どって事ねっすよー!」
「随分鍛錬を組んだゲコ……」
「デュークモンは鬼だったゲロ」
「うんうん」
 腕を組みながら、しみじみと頷き合うイティアの騎士達。そこへ、デュークモンが雰囲気も柔らかく語りかける。
「何を言う。あれくらいの事で音を上げるようなヤツは、騎士団にいないと信じてるよ」
 表情は面頬に隠れている為、正確には解らない。が、辛うじて覗く翡翠の目からは優しさが伝わって来る。
 この見てくれが優男ならば、大抵の女性は騙されていたかも知れない。惜しむらくは対象が全てデジモン、部下である事か。
 彼らは再度溜め息を吐き、薄ら笑いを浮かべた。
「これだよ。この、信用してるが故の鬼発言……!」
 思い出す鍛錬の日々は、どれも血反吐を吐くものだった。寧ろ、脳裏へ浮かべるだけで胸の奥が熱くなる。胸というか喉の奥というか。
 血反吐と吐瀉物が入り交じった地面、床。それぞれの顔は涙なんだか鼻水なんだか、よく解らない液体に塗れた経験も少なくない。
 何度、騎士団を退こうと思ったか。
 それでも心が死ななかったのは、デジモンとしてのプライド、騎士としての矜恃──などではなく。
 同じように、自分達以上に己を追い詰め、痛め付け、地面へ這い蹲りながらも立ち上がる『長』がいたから。壊滅の際へ追い遣られながら、国を建て直そうとする彼の姿があったからだ。

「お前達は、街へ被害が出ていないか確認してくれ。怪我人や損傷した箇所があれば対処を」
「了解っす」
「行くぞー」
 デュークモンからの簡潔な指示に、騎士のデジモン達が散って行く。擦れ違いざま、何体かのデジモンがメタルガルルモンに気付き、銘々に声をかけた。
「メタルガルルモンも、後でな。っつーか、マジで究極体になってやがんの!」
「煩いな、早く行け」
 苛立ちと、多少の気恥ずかしさを見え隠れさせながら、メタルガルルモンは吐き捨てる。
 その様子をまじまじと眺めていた誓士は、やがてデジモン達がいなくなった頃に小声で問いかけた。
「……手伝いに行きたきゃ構わねぇぜ?」
 君までそんな事を。
 言いかけた黒狼だったが、小さく唸りながら視線を外し、溜め息を吐く。決して諦めの為ではないそれは、
「いいんだよ。俺はもう騎士団に属してないし」
 未練も何もない、という表れでもあった。

 メタルガルルモンは、生まれこそはじまりの町。だが、流れに流れ、辿り着いたイティアで騎士として働いていた過去がある。
 何れ出会うだろうテイマーを守る為、強くなるひとつの手段として選んだ道は、結果間違いではなかった。勿論、ひとり旅を続ける選択もあったが、広い世界で戦える相手を得る確率よりも、常に研鑽を重ねられる確証を得た場所の方が、彼にとっては魅力的だったのだ。
 目論見通り、成熟期へまで進化を果たし、目標に据えるべくデジモンとも出会えた。蹂躙され、怒りを覚えられる程度には近しい仲間も。焼き潰され、取り乱してしまう程に愛着を持った国も。
 騎士国イティアを抜けたのは、2年も前の事。最初の旅、『闇』を封じた後だ。
 再会が叶わないかも知れないと思いながらも優先順位を変えられず、また、彼への脅威をひとつでも多く潰しておく必要があると心に決めた時。
 デュークモンにのみ、律儀に退役の意を伝えたものの、他の仲間とは顔も合わさなかった。当時のメタルガルルモンは他を顧みる余裕が皆無で、復興の一歩を踏み出した国の様子にまで気が回らなかった所為もある。
 実のところ、今回イティアへ足を踏み入れたのは2年振りだった。

 だから自分は関係ないと言い切るメタルガルルモンに、誓士はふーんと唸った。
「その割にソワソワしてね?」
「ッ、ッ!?」
 見た目からは解らない筈の浮付きは、流石にテイマーには伝わってしまっている。ポーカーフェイス、我関せずを必死に装っても、落ち着きを失った目線や足運びが、普段の黒狼とは違う事を知らしめていた。
 見覚えのあるような、それでいて懐かしくもある町並み。活気が戻った城下、物珍しそうに遠くから観察して来る成長期デジモン達。中には傍に人間を置くモノもいた。声をかけて来る気配は無いが──メタルガルルモンが少なからず威嚇をしている所為もある──それすら、なんだか酷く懐古を煽る。
 わざとらしく咳払いをし、唇を尖らせる黒狼。
「う、煩いよ」
「ふーん」
「へぇー」
 が、誓士に次いで届いた声が、瞬時に殺気を纏わせる。
「殺すぞグリフォモン」
「へぇー、って言っただけじゃん」
 なんなの、この扱いの差。
 相変わらずテイマーには激烈に甘いヤツだな、とグリフォモンは尻尾を振り回した。


 デュークモンは、見慣れた面子を一通り確認した後、初見の顔ぶれに目を留めた。心当たりがある、と声をかけた相手は、随分背の低いニンゲンだった。
「キミがエリアだな。初めまして、デュークモンだ」
「初めまして。……今回の事で、ご迷惑を」
 緊張の面持ちで頭を垂れようとする彼女を制止し、「気にする必要はない」と告げる。
 デュークモンは、自身がよく知る千歳や涙達とは違う雰囲気を持つ彼女に、幾ばくかの興味を向けた。性別を持たないデジモンでありながら、「女性」というモノを前にすると膝を折りたくなるのは、騎士デジモンだからだろうか。
 それでいて本来の目的を優先させる辺りが、真面目で堅い彼らしい。
「……ナミダからは何も説明を受けていないんだな?」
「え?」
 小首を傾げたエリアの反応を肯定と見做し、デュークモンは言葉を続けた。
「話は俺達の方から、という風に聞いている。まぁ、あちこちから話を聞くよりその方がいいって事さ」
「成る程、そうですね。……と、いう事は」
「お前は何か知ってんのか、デュークモン」
 エリアの言葉を継いだのは、誓士だ。
 いつの間にか、デュークモンの周囲には彼だけでなく、メタルガルルモンやグリフォモン、千歳達が集まっていた。エリアの背後へ立つクロルやボガート、彼らのパートナー達も一様に深紅の騎士を見詰めている。流石に巨躯のウイングドラモンからは見下ろされる形になっていたが、体格の差などデュークモンが戦く理由にはならなかった。
 寧ろ、エリアというニンゲンを取り巻く彼らの真摯さを微笑ましく思い──勿論、中心にいるエリアが不真面目という意味ではない──気が引き締まる。
 守りたいモノがあるのは、騎士やパートナーデジモンだけでは無い。互いにとって大事なものをも貴ぶ。その気持ちを垣間見、喜ばしいと思うのもまた、デュークモンが騎士のデータを組むデジモンだからなのだろう。
 しかし、と彼は肩を竦めた。
「まだ、全てとう訳にはいかないけどね。……まだ、言える程の情報がないんだ。そこは解ってくれ」
「……」
 思わず顔を見合わせたのは、誓士とエリアだ。
 涙も同じような事を言っていたのだ、断定するには材料が足りない、と。確かに、昨日の今日で状況が劇的に変わるとは思えず、こうして協力者が増えるだけでも僥倖だった。
 だが、両者の口ぶりからは、多少の情報は入って来ている事が窺い知れる。そして、デュークモンは開示できる物については話してくれる心積もりらしい事も解った。
 十分です、と頷いたエリアに、誓士も首を縦に振る。
「よろしくお願いします」
「頼むな、デュークモン」
「ああ。ジュンも城にいる、移動しよう」
 案内する、と踵を返したデュークモン。
 しかし、今一度頭上を見上げ、うむむと唸った。視線の先には、城下町へも影を落としてしまえる程のウイングドラモンが。
「……城内は無理だな。パイルドラモン、セイジ達を中庭へ案内してくれ。俺はジュンを呼んで来る」
「了解しました」
 デュークモンの指示と共に前へ出たのは、唯一この場へ残った「騎士」である。青い体に映える、黒い鎧と赤い仮面。たった今終わった戦いで、先陣を切って敵を殲滅せしめたデジモンの1体だ。
 深紅のマントを翻し、先に行っていてくれと飛び去るデュークモンを見送って、ボガートが訊ねた。
「ジュンって?」
 答えたのは、彼の近くにいた蒼子である。
「デュークモンのテイマーですよ。私達と同じ、デジメンタルなんです」
「そういえば、デュークモンと一緒じゃないのって珍しいんじゃない?」
 探しても見当たらない訳だ、と千歳。彼女は、不機嫌になったグリフォモンの首の付け根を撫でている。
「イティアはひとつの国で、デュークモンは『長』という立場ですからね。サポートに当たる潤が戦いに同行出来ない事も、ままありますよ」
 大変なのね、と頷く千歳。どんなヤツなんだろうな、と想像を巡らせるボガートを横目に、メタルガルルモンは進み出たデジモンを睨んでいた。
 睨む、というのは語弊か。彼の鋭い目は、ただ見詰めるだけでも殺気を込められているように感じるだけ、の筈だが。見慣れないデジモンが側へ来ると、例えデュークモンの側近で嘗ての仲間だったとしても、警戒してしまうのがメタルガルルモンの性格だった。
 しかし、
「……あっ」
 ややあって声を上げる。
 その様子に彼のデジモンは肩を落とし、苦笑した。
「気付いたか。久し振りだなメタルガルルモン」
「……ああ、あー、まぁね」
「仲間?」
 それにしては、おかしな態度だな。
 思わず誓士が問うと、メタルガルルモンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、溜め息と共に歯切れ悪く答えた。
「スナイモンだよ、セイジ」
「はっ!?」
 
 
 

ID.4715
 
■投稿者:ENNE  HOME
■投稿日:2017/05/10(水) 20:01


アシッド・ルースト・オール!≪06≫−2
 
 
 
 名を聞いて瞬時に思い出せる程、彼の事は記憶に残っている。初めてデジタルワールドへ足を踏み入れた時、この世界で初めて遭遇したデジモンだった。
 デュークモンの城へ行く道すがら、パイルドラモン──嘗てスナイモンだった彼は、今までの事を簡単に説明してくれた。
「進化をしたのは1年程前だよ。それから赴任先を転々として、少し前に戻って来たんだ」
「道理で会えなかった訳だぜ……」
 D−sが使用可能になって以降、何度か顔を見に行ってはいたのだ。が、途中から別のデジモンが神殿を守るようになり、今日まで会えず仕舞いだったのである。
「一応、後任には言い残して来た筈なんだが。……今、あそこを守っているのはオタマモンが進化した内の1体なんだ」
「マジか」
「さっきいた内の3体も、あの時のオタマモンだよ」
「マジかぁ! アイツら、なんも言ってなかったぜ」
「すまない。……相変わらず、いたずら坊主達だな」
 驚かせようとしたんだろう、と溜め息を吐くパイルドラモンに、誓士は「怒れねぇな」と苦笑した。

 パイルドラモンは、なんとなく面影があるような気はするのだが、先刻別れたデジモン達にオタマモンの名残は見出せなかった気がする。カッパのような風貌のデジモンもいたし語尾も個性的だった。とは言え、オタマモン達は言葉が発達しない種らしく、会話らしい会話を交わした記憶もないのだが。

「懐かしいなぁ」
 数年も前の事だが、まるで昨日の事のように思い出す。
 メタルガルルモンは憮然とした表情のままだが、誓士は心なしか嬉しそうだった。
 本当にな。
 パイルドラモンもまた回顧し、僅か笑う。
 その後、表情を引き締める。
「お前達の事は色々と聞いているよ。大変だったんだな」

 デジメンタルの事、選ばれし子供としての役割、カオスデュークモンや──『闇』との。そして、魔王や四聖獣をも巻き込んだ、『創造主』との戦い。
 デジメンタルやダークエリアに関わる主要な場所を守っていたとは言え、当時、末端に過ぎなかったパイルドラモンは全てが終わった後の情報しか入って来なかった。
 関わった相手、悪からず思っている人間達の助力になればと思うも、進化も果たしていなかった彼には、駆け付ける事さえ出来なかった。飛行能力は持っていても、恐らく途中で力尽きていた。或いは、目的地へ辿り着けたとて、敵となるデジモンの1体すら倒せなかったに違いない。

 悔しい、と思った。スティングモンに敗れた時、オタマモン達の悲しげな声を聞いた時以上に歯嚙みした。
 せめて、イティアへ戻る事が出来れば。進化を果たし、『騎士』になれたら役に立てるのだろうか。そんな風に思いながら鍛錬を積み、進化を果たせたのは1年も前の事。誓士やガルルモン達が去ってからも、1年以上が経過していた。

 不甲斐ない、と心の中で呟いた刹那、誓士はパイルドラモンを見上げた。
「お前だってだろ」
「え?」
 驚いて見下ろすも、彼は視線を逸らさず真っ直ぐに睨み返して来る。勿論、誓士の場合もメタルガルルモンと同じで、生来の目付きがそう見せているだけに過ぎない。
「テイマーを持たないデジモンが進化をするのは、すんげー大変だってホーリードラモンが言ってた。とにかく鍛錬と戦うしかねぇんだ、頭が下がるよ」
 自然と視線を反らしたかと思えば、腕を組み、うんうんと頷いている。
「……」
「……な、何だよ」
 返事がない事を不自然に思ったのだろう。誓士は再び視線を上げて来る。パイルドラモンは感嘆の溜め息を吐き、「いや」と首を左右に振った。
「セイジは相変わらずだと思って」
「成長してねぇっつーのか」
「そうじゃない」
 そうじゃないよ。
 パイルドラモンはもう一度、同じ台詞を口の中で呟いた。
「変わって欲しくない部分がそのままで、嬉しいって意味だよ」
 嘗て、パートナーデジモンの進化を怖れた人間がいた事を思い出す。今なら彼の気持ちも少し解る、そんな気がした。


 パイルドラモンと誓士が昔話に花を咲かせている。その後ろから付いて行く形になった千歳は、なんとなく頭を左右に揺らしながら歩いていた。
「仲いいのねー」
「あれ、寂しいの、チトセ?」
 真横から見上げて来るグリフォモンに、「そうじゃないと思うけど」と呟いて、一呼吸唸る。
「……でも、そうなのかな?」
 解るよ、とグリフォモン。
「目の前で別の知り合いと、解らない話をされるとそうなっちゃうよね」
「言われてみれば、確かに」
 懐かしい顔馴染みと再会して嬉しいのも理解出来る。が、紹介もされず放置気味なのは釈然としない。それでも、暫くは会話をして貰いたいとも思うので、彼らの会話へ割り込む事もしなかったのだ。
 複雑、という表現が最もしっくり来るだろうか。
 腑に落ちたようなそうでないような表情の千歳に、グリフォモンは歩調を変えず続ける。
「エリアやマッハガオガモンに協力するって話も事後報告みたいなものだったし、それも気になってるでしょ? エリアはチトセと同じオンナノコだしね」
「へっ!?」
 突然の言葉に、千歳は素っ頓狂な声を上げた。あまりのボリュームと頓狂な音に、最後尾から着いて来るエリアとクロルが視線を寄越した気配がした。訝しげな彼らを振り返り、「なんでもない!」とジェスチャーをすると、2人は僅か疑問を残しながら何も言わないでくれた。
 視線を戻し、安堵の溜め息を吐く千歳。
「そんな事、ないわよ?」
「声が裏返ってたじゃん」
 うっ。
 言葉に詰まるテイマーを馬鹿にするでもなく、グリフォモンは、うーんと視線を巡らせた。
 青い空には、先刻のような禍々しさはない。見慣れた色に掛かる僅かなノイズ。天候の変化は地域によって定められているので、このイティアは晴れの日が多いらしい。
 彼は、のんびりと嘴を開く。
「でも、心配する事ないんじゃないかなぁ? エリア達を助けたいって真剣に思ってるだけだろうし、それは君へ対しても同じだよ。僕には解るもん」
「私?」
「そう。セイジは、チトセを真剣にスキなんだって」
「……っ!?」
 このパートナーは、今日だけで何度驚かせて来るのだろう。
 千歳は、今度こそ叫び声を我慢したが、頬だけに留まらず耳まで真っ赤になった事を自覚した。全身の毛穴が全部開く感覚、そこから汗が大量に噴き出す錯覚。もしかすると、髪の毛も逆立っていたかも知れない。
 と、
「千歳? どうした」
 先頭を歩いていた誓士が、前触れもなく振り返った。デジモン程ではないにしろ、彼もまた鋭い目付きをしている。が、付き合いが長いだけ、そして彼の性格を知っているからこそ驚いたりはしない。
 が、彼の視線は千歳にとって、別の意味で落ち着かないものなのだ。
「な、何でも、ない!」
「ああ?」
「何でもないったら! ホント!」
「……ふーん、そうか」
 若干腑に落ちない風だったが、誓士もまた視線を元へ戻してくれた。その時の安堵と言ったら、エリア達の時と比較にならなず、溜め息の深さも昨日今日で一番だった。
 すっかり疲れ切った千歳の横で、グリフォモンは楽しそうに笑う。
「ほらほら、後ろにいてもキミの変化に気付いちゃうくらいには真剣なんだよ」
 真剣にスキなんだよ、と。
 彼の事を自覚したのも、グリフォモンに指摘されてからだった。その時は自身でさえ気付かなかった本心を、一番近くから見ていた彼が教えてくれた。グリフォモン自身もよく解らないと言っていたが、お陰で深く考える時間を持てたし、間違わずに済んだ、と思う。
 相手を好きになる事と同情を間違えてはいけない。
 多分、そんなニュアンスの示唆と受け取った。
 最初の戦いを終えた後、自分から想いを告げて、同じ気持ちを返された。ずっと喧嘩をしない訳ではなかったけれど、あれから2年もの間、恋愛という部分でも心が満ち足りた時間を過ごせている。
 当時は全く関心のなかったイマドキファッションとか、ヘアースタイルとか。眼鏡よりコンタクトレンズにしようかなとか、どうしたら、かっ、可愛いと言って貰えるかなー! なんて、なんて! ……そんな事を考えるようになってしまったりとか。
 因みに、眼鏡の件は正直に告げた所、「眼鏡も好きだぞ」などというお言葉を戴いたので、今のところ外す予定はない。
 なんというか、ムキになるつもりは皆無だが、私だって真剣に好きなのよ? と言い返す千歳である。無論、心の中だけでだが。
 エリアの事も、成り行きだったとは言え、さっさと助ける約束をしてしまったと言うし。なんとなく黙っていられなくて自分もデジタルワールドへ来てみれば、やけに親しいような印象も受けた。
 ハーフというだけあって肌の色も白く、どことなく不思議な雰囲気を持つ彼女。小柄すぎて、これは守ってやろうじゃないか、という気持ちにさせられたっておかしくはないと思った。
 正直、焼き餅です。ハイ。
 私だって守ってやろうじゃないか、と思われたい。
 ……嘘です、守られるだけなんて絶対に嫌。寧ろ、こっちが守ってあげると言いたくなる性分なのは自覚してます。これがダメなんだろうなぁー、などと溜め息を零したくなる齢16、悩み多き花の女子高生である。

 けれど、当の彼氏――誓士は、そんな不安をいちいち口にせずとも気取ってくれた。エリアばかりに傾倒するのではなく、自分の心配もしてくれた。
 なんだかもう、それだけで十分だと思えた。
 自分の意志を曲げず、やりたい事をやり通す。結果、自身がどれだけ傷付く事も厭わない。
 途中で投げ出す方が後悔する。それが、誓士という人間。千歳が守られるより守ってあげると言いたくなる程、好きな相手なのだ。

「……グリフォモンって、昔から他人の気持ちをよく理解してくれるわよね」
 千歳が少し拗ねたように呟くと、彼は呵呵と声を上げた。
「やだなー、キミ達が解り易すぎるんでしょー!」
「わ、悪かったわね、単純で」
 解りやすい思考、――どうすれば心が浮上するのかさえ把握されてしまっている。流石、「私」のパートナーデジモンだわ、と千歳は唸った。
 グリフォモンは、困ったように笑うテイマーへ体を寄せる。「ふふふ、チトセが嬉しいと僕も嬉しい」
 巨大な猫がじゃれつく風にも見える。
 彼の鬣を撫でながら、千歳はいつもの表情へ戻って行った。
「……後でウチおいで。一緒にご飯食べよ?」
「わぁい、行くー!」
 2人の距離感は、全幅の信頼と愛情があってこそ。恐らく――本人も自覚していた事だが――誓士でさえ、グリフォモンの位置へ近付くのは時間を要すると共に、羨むものだった。





 城壁に取り付けられたアーチ型の門を潜り、中庭へ入り込む。誰が手入れをしているのか、綺麗に剪定された木々と草花が、見る者の感嘆を誘う。
 城の内部へ作られたというにはあまりにも広すぎる規模だが、城壁と城そのもののお陰で、上空から偵察でもされない限り、覗かれる心配はなさそうである。壁を飛び越えて庭へ足を着けたウイングドラモンの翼が少し見えるくらいで、寧ろ彼の巨躯さえ目隠しになった。
 全員が顔を揃えた事を確認し、デュークモンが口を開く。彼の傍には、彼が城内から連れて来た青年――デュークモンのテイマーが立っていた。
「最初に、これは俺が知っていた事だけど、メディーバルには「別の」という意味がある。俺達がいるデジタルワールドにはない言葉だから、ウィッチェルニー辺りのものだろう」
「ウィッチェルニー?」
 誓士の問いに、赤い騎士は頷いた。
「リアルワールドやイグドラシルと同じで、特殊な場所にある世界らしい。そこにもデジモンが住んでいて、変わったヤツも多いみたいだ」
 かと言って、メディーバルデュークモンがウィッチェルニーの出身であるとは断言出来ないがね、と締める。
「……成る程、それで「別の」、な訳か」
 言われ、誓士が最初に思い浮かべたのは、このデジタルワールドの「裏側」だった。嘗て、自分達も赴いた事のある世界、隙間。デジメンタル達が命をかけて封じている『闇』が住む場所。
 あれも同義なのかと口にしかけるも、寸での所で気付き、やめた。多分、アレに限っては異世界という括りには当て嵌まらないだろう。特殊、異質。そもそも生きたモノが住んで良い場ではなかったと思い出したからである。
 それと、とデュークモンは再び口を開いた。今度はエリアへ向き直る。
「たった今、アヌビモンが教えてくれたんだ。キミに送られたメールの発信源が特定出来た」
「……!」
 アヌビモン、という名にはエリア達も聞き覚えがあった。人間の世界で言うあの世――ダークエリアの門番にして、全てのゲートを管理するデジモン。余程の事が起こらない限り姿を見せる事も少ないと謳われる、謎の多い存在である。
 はじまりの町を守るインペリアルドラモンを始め、デュークモンは一国の長というだけあって、様々なデジモンとの繋がりを持っているらしい。
 と、ここで赤い騎士の隣へ立つ青年が初めて口を開いた。
「……まぁ、送り先がリアルワールドなら、ゲートを通るからな。でも、それなら」
 が、デュークモンは被せるように口を挟む。
「エンシェントワイズモンがD−sを開発してしまって以降は、毎日のようにゲートが開くようになったからね。今は何とか統制が取れるようになって来たみたいだけど、希に情報を取り溢す事があると言っていた。だから今まで気付けなかったんだって」
 青年は、最後まで言葉を続けさせてくれなかったデュークモンへ不満を隠さず、しかし諦めて溜め息を吐いた。
「……苦労してるんだな、アイツ」
 知ってたけど。
 何へ対してなのか、デュークモンは苦笑しながら肩を竦め、再びエリアを見下ろす。
「ただ、やっぱり正規に開いたゲートじゃないから、一応調べて欲しいとも言っていたよ。アヌビモンは動けないから、代わりにね」
「行けるのか?」
 誓士の問いに、彼は「ああ」と頷いた。
「そこまでは1日もかからないし、イティアも騎士団が機能しているから、俺も同行するよ」
「……」
 不安そうに見上げて来るエリアの意図を正しく読み取ったのだろう、デュークモンは若干声のトーンを落とし、優しく語る。
「これも俺達の仕事だよ。大事になる前に対処出来るのが一番いい。まぁ、ここが巻き込まれないようにって予防線でもあるんだ」
 言われ、エリアは成る程と城壁の向こうを思い出す。
 元々住んでいるモノは元より、旅の途中で訪れるデジモンや人間も多かった。露天や店が並ぶ街は活気に溢れ、これから重要な話し合いがあるというのについつい覗いてみたい気持ちにさせられた。
「……確かに、何かあってからでは遅いですね」
 メディーバルデュークモンやロトスモンといったデジモンに狙われている自覚がある以上、街中(まちなか)で戦闘を繰り広げる可能性は潰しておかなければ。
 しかし、デュークモンは首を傾げ、「うーん」と唸る。
「それもあるけど。キミはセイジやチトセと馴染みがあるんだろう?」
「は、はい」
 助けて戴いています。
 そんな風に続けると、デュークモンは喉の奥で静かに笑い、右手の聖槍グラムを少し掲げた。姿勢良く立つ彼は、まさしく騎士そのもの。
「だから、キミの事も他人事では済まされないんだ。イティアもそうだけど、エリアに何かあっても困る。彼らを悲しませる訳にはいかないからね」
 だから俺にも守らせて欲しい。
 そんな風に告げられ、エリアの頬は少し上気した。
「うわっ、マジ騎士ィ……! みんなの憧れ、デュークモンだよ……!」
「オメーはミーハーだな、ウイングドラモンよぉ」
 後方では、直接声をかけられた訳でもないウイングドラモンが体を打ち振るわせ、ボガートに窘められる気配がする。エリアの側にいるマッハガオガモンは複雑な面持ちでいたが、言葉を発する事はなかった。そして、嘗ては同じ場所で戦っていた黒いメタルガルルモンですら、彼の騎士然とした態度に心のざわつきを隠しきれないでいる。
 デュークモンというデジモンには、色んなチカラがあるのだろう。戦う姿にも、言葉にも。故に、多くのデジモンから憧れられ、言動に納得させられてしまうのだ。長、とは名ばかりではないらしい。
「……ありがとうございます、デュークモン」
 そんな彼の申し出を断る理由はない。今度ばかり、エリアは素直に謝辞を述べた。
 
 
 

ID.4716
 
■投稿者:ENNE  HOME
■投稿日:2017/05/10(水) 20:04


アシッド・ルースト・オール!≪06≫−3
 
 
 
 長旅の疲れを癒やす為、一旦解散という形を取った。中庭へ残るモノ、城内を探索しようと出かけるモノがいる中、城の主・デュークモンは青年を伴い自室付近へ戻っていた。
 自室と言っても、何があるでもない。彼らが休める寝台と簡素なテーブルがあるくらいだが、特に不便を感じる事もなかった。

 人気(ひとけ)がない事を確認し、青年が口を開く。
「お前、何を隠してるんだ、デュークモン」
「俺はキミに隠し事なんてしないよ、ジュン」
 少々棘の篭もった言葉に苦笑し、それでもデュークモンは穏やかに答えた。翡翠色の目が捉えるのは、彼自身のテイマー、大橋 潤という青年。彼もまた、恭華や涙、蒼子達と同じデジメンタルの一端――『勇気』を冠する精神体である。
「じゃあ、言い方を変える。お前は何を知ってるんだ」
 何を知っている、何を言っている。

 つい今し方、中庭で行われた会話の内容だ。
『……まぁ、送り先がリアルワールドなら、ゲートを通るからな。でも、それなら』
 ――何故、ゲートの管理者であるアヌビモンは、メールが送られた時点で気が付かなかったのか。
 質問の内容自体は、直後にデュークモンが説明をした通りである。しかし、それならば潤の質問を途中で遮る必要などなかった筈だ。
 他の連中は気付かなかったらしいが、デュークモンの意味ありげな苦笑を受け、潤はそれが意図的に行われたのだと直感し、言葉を引っ込めた。
 恐らくだが、デュークモンは説明自体を早めに切り上げたかったのだ。そして、更に質問を派生させない為に、尤もらしい説明で完結させた。嘘はないだろうが――そこは、彼の性格を良く知るからこそ断言出来る――違和感を拭いきれなかったからこそ、潤は改めて問うたのである。

 彼の強い視線を受け、気後れをするでもなくデュークモンは溜め息を零した。そこには、流石、自分のテイマーだという感嘆も含まれている。
「メディーバルデュークモンの事は知らないよ。会った事も聞いた事もない。ただ、メディーバルという言葉が持つ意味は知っていた。これは調べれば簡単に解る事だからね」
 じゃあ、と語気を荒げる潤。
「じゃあ、やっぱり涙もメディーバルデュークモンを把握しているんだな。調べて解る事なら尚更だ」
「それを言うなら、エンシェントワイズモンもだろう。昔から継承し続けて来た記憶の中に、言葉の意味くらいはあった筈だよ」
 それでも、エリアという当事者と顔を合わせておきながら説明のひとつもしないまま放り出した。狙われる原因である紋章を付けたD−sを持たせ、当時は進化さえ出来ずにいたガオガモンと共に。
 今度、潤は苛立ちを隠そうともせず目を瞑る。
「……涙のヤツ、今は思考を閉じてやがるな」
 デジメンタルの精神体は、同じデジメンタル同士での意識の共有が出来る。特殊な地域でもない限り何人でも会話へ加わる事も可能だが、意図すれば外部のシャットアウトが叶った。
 潤は涙の気配を探ってみたものの、引っかかったのは全く別の連中ばかり。尤も、普段から多忙な彼女を探し当てられた事など殆どない気がする。大抵の事件は、向こうからの接触が第一報になるし、こちらが先に捉えたと思った異変も、既に把握されている事が専らだった。
 情報の早さと行動力の広さにはいつも度肝を抜かされる。それでも、それこそが知識のデジメンタルを名乗る彼女が頼られる理由なのだと理解している。

 デュークモンは、窓から空を見上げた。
「ナミダの考えている事なんて俺には解らない。でも、口を開かないのは、言うべきは今じゃないって事だと思う。若しくは」
 ウラを取っている最中か。
「……アイツ、また無茶をする気じゃねぇだろうな」
 また、と言ったのも前科があるからだ。そして、彼女はそれを無茶と思っていないところも腹が立つ。
 デュークモンは、眉間の皺を深めた潤を振り返り、「どうかな」と苦笑する。
「まぁ、今はインペリアルドラモンも万全な状態だし、安全な所にいると思う」
「問題にすべきは、やっぱりメディーバルデュークモンって事か……」
 潤は後頭部を掻き、本日何度目かになる溜め息を吐いた。
 今の所、情報があるのはメディーバルデュークモンがエリアという少女を襲撃している事実のみ。リアルワールドにいた彼女の元へ届いたメールと謎の紋章との関係も気になるが、附言の騎士がエリア達の前へ現れたタイミングを鑑みて、全くの無関係とは言い切れないというだけである。
 だからこそ、涙はアヌビモンに対し、メールの送信元を調べるように頼んだのだろう。と言うよりは、発信源の判明を伝えるタイミングをずらすように、アヌビモンと共謀していた。
 アヌビモンのテイマーもまたデジメンタルの一角で、涙と懇意にしている存在だ。彼女が頼めば断らない。訝しんだとて疑念はすぐに晴れる。最もらしい理由を考える事など、涙にとっては造作もないからだ。 

 そして、とデュークモンは続けた。
「エリア達をイティアへ来させたのも、俺がメディーバルデュークモンの情報を持っていると解っていたんだろう。キミを通して聞く事も出来たんだろうけど、メールの出所、他にも色々調べる時間が欲しかったんだと思う」
 不安材料はひとつだけではないからね。
 デュークモンの言葉に、潤は腕を組む。
「手がかりは突き止めたんだ、行けば解る。デジモンが人間を狙うなんて、どうせろくでもない理由が絡んでいるんだろうが、な。……でも、この状況はまるで」
 言いかけた所で、デュークモンは肩を竦めた。
「……俺がデジメンタルをセイジに預けた時みたいで、他人事とは思えないね」
 あの時は切羽詰まった状態だったとは言え、断腸の思いだった。部下のひとりを苛烈な運命に巻き込んでしまう事、そのテイマーを死地へ歩かせてしまう事。今まで何度も繰り返して来た筈なのに、全く慣れる事のない作業である。
 ともすれば、人間として生きる道を奪う事になった。潤はそれを心底憂いていたのに、今度現れた何者かは自ら呼んだ人間を殺そうとしている。
「全くだ! 不愉快な真似しやがって!」
 絶対に許さないからな!
 珍しく潤が吠えた瞬間、私室の入り口付近に騎士デジモンが姿を見せた。
「失礼、……取り込み中ですか、デュークモン」
 いつも長と共にいるモノの激昂振りに言葉を顰めた彼に、デュークモンは「なんでもない」と告げ、向き直る。
「先ほどの戦闘による被害報告が何件かあります。それと、以前から要望のある西地区の修繕と、新たな店舗申請ですが……」
「解った、すぐに行く」
 デュークモンの言葉を受け、騎士デジモンは敬礼をして姿を消した。
 一呼吸置き、赤い騎士も彼の後を追おうと足を進める。しかし、潤の横を通り抜けようとした瞬間、彼は腕を振り上げ、腿の辺りをガンと叩いて来た。
 鎧を纏っている所為もあり、大した衝撃はない。が、デュークモンは驚いてテイマーを見下ろした。
「ジュン?」
 すると、彼は憮然とした表情で叩いた腕を自らの腰に当てた。人間としては背の高い部類に入る彼も、デジモンの前では矮小に等しい。
 それでも、潤というテイマーの存在は、デュークモンにとって存在自体が恢々なものだった。
「いいか、デュークモン。誓士にデジメンタルを送った事は俺も関わってるんだから、間違うなよ!」
「……」
 こういう事を言ってしまうから。


 いつか、潤は自分達の事を「運命共同体」だと言った。デジメンタルと、そのパートナーデジモン。デジメンタルを狙う存在と戦いながら、死ぬ事も叶わず永遠を生きる。そして、嘗ての誓士をそうしたように、倒す事の出来ない『闇』を封じる為の選ばれし子供を決める。
 彼は、無事に封印を成し遂げた人間だが、失敗すれば人間としての生をも失ってしまう。『闇』が復活してしまった後ならば、死は確実なものになる。
 そうした運命を背負わせる役目を負っているのが、勇気のデジメンタルたる潤の宿命だった。
 その宿運に巻き込まれた――と言えば、潤はまた怒るだろうが――事を、デュークモンは今まで一度として恨んだ事はない。他から馬鹿にされるのは例外だが、潤から責められるのならば甘受できる。
 しかし、潤はこれまで1度として、デュークモンを詰った事はない。寧ろ、共にいてくれてありがとうと笑うのだ。
 だからこそ、彼は今し方、デュークモンが口にした言葉に腹を立てたのだろう、
『……俺がデジメンタルをセイジに預けた時みたいで、他人事とは思えないね』
 ――まるで、お前ひとりの責任みたいじゃないか、と。


「……ああ、そうだね」
 ここで謝っても機嫌を損ねてしまうので、デュークモンは納得するだけに留めた。すると、潤は満足したように頷いて踵を返す。
「お前が元々持っている仕事も多いんだから、さっさと片付けないと出発出来なくなる」
「解った」
 促されるまま、デュークモンは自室を出る。
 キメラモンによって倒壊した城は、ここ2年の間に元通りになった。勿論、当時と造りが違う箇所もあるが、街を守る拠点としては十二分に機能している。城下の活気も以前以上に戻り、当時の傷跡は殆ど残っていない。恐らく、更に数年を重ねれば、滅んだ経緯や事実は忘れられて行くのだろう。
 それでいいのかも知れない。

 ふと、デュークモンは反芻する。過去は彼にとって大事だが、今は「現在」を見る時だ。
「……メディーバルデュークモン、か」
 自分と似た名を持つ、別世界のデジモン。エリアという人間の少女をテイマーと偽って、殺そうとした附言の騎士。
 アヌビモンの与り知らぬ違法ゲート、メール。そして、エンシェントワイズモンが作った物ではない紋章。
「(例え別の場所から来たとは言っても、秘密裏に事を進めたいにしては、ここのデジモンと関わりすぎている。……ニンゲンを殺そうとしている事もそうだ、目立つ事くらい想像に難くない筈)」


 やがて、デュークモンは報告をする為に集まった騎士達の前へ出た。
 先に姿を見せたデジモンのように礼儀正しいモノもいれば、上官相手でもフランクな性格のモノもいる。この辺りは規律を持って統一する、という必要性を感じないので好きにさせていた。国を守り、街を守る。それだけがイティアという国の騎士に求められるものだからだ。
「まずは被害状況から聞こう。その他に不審者などの情報もあれば併せて知らせてくれ」
「あ、じゃあオレから報告させて貰うっス」
 幸い、自国の騎士は皆勤勉で、熱心なモノが揃っている。時々、好戦的な部分が出てしまうのは玉に瑕だが、トラブルになる事は多くない。
 そんな彼らと接しているからか、デュークモンは想像せずにいられなかった。
「(ニンゲンを殺した果てに、何を望むのか)」
 別の、という名を冠するデュークモン。彼の本意がどこにあるのかを。



【続く】





お疲れ様でございます、ENNEです。
大分時間を要しましたが、アシッド・ルースト・オール! 6話目でした。

今回は、EggからパラレルAをお読み戴いている方には懐かしい面々が出て参りました。イティアという国の長、デュークモンとテイマーの潤。そして、覚えている方はいらっしゃるでしょうか、というスナイモン。初期も初期、誓士と洋貴がデジタルワールドで最初に出会ったデジモンです。
割と気に入っているキャラなので、再び出せて良かった。しかし、スナイモンと言えばデジモンの中でメジャーな方だと思うのですが、如何せん進化先が( )パイルドラモンも好きなデジモンなので満足ではありますが!
活躍させられるといいな!
そして、なるべく時間を空けずに7話も更新したいと思います。よろしくお願い致します。

前回感想をくださった夏Pさん、いつもありがとうございます。お世話になっております。
半球その他につきましては、流石にNEXTという健全なサイトでは無理なので、ご想像にお任せします的なアレでご了承戴ければと思います。後、私すけべじゃないから。
カオスデュークモンの万能さにもお気付き戴けてなによりでございました。
イティア編は如何だったでしょうか? 楽しんで戴けていれば幸いです。はい。

※スナイモンも出てくるシリーズ最初の「Egg and I」を本として纏めました。これに時間がかかっていたのでこちらの方は全然手が付けられなかった…。
興味のある方はTwitterやpixivの方から検索をお願い致します。


【Egg and I】
http://someya08.sunnyday.jp/cool/index.htm
【pixiv ID】38079
【Twitter ID】 @ennemon 
 
 

ID.4722
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2017/05/12(金) 00:16


勇気リンリン 元気ハツラツ
 オロ〇ミンCではありませんが私はオロナ〇ンCが好きです、寝る間も惜しんでお待ちしておりました夏P(ナッピー)です。わーい6話だ!
 冒頭でデスペラードブラスターという単語が見えて「まさか!?」と思いましたがやっぱりパイルドラモンじゃねーか!! これにはパイルドラモン好きの俺歓喜、Shotさんのアドバンスに続いてパイルドラモンの出番が来たぜ! しかもイティアの設定的に過去のデジモンがしっかり拾われてるうううううううんんんん!! しかし懐かしのスナイモン、ここで下手に進化して出てきたからには……ヤバい、これデジアド無印のレオモン枠や。なんとなくスナイモンの進化先ってスコピオモンのイメージがあったので、自然とスコピオモンの姿を思い浮かべてしまい、そしてEggでのスコピオモンを思い出して「うっうっ」と嗚咽したのは内緒。
 ゲコゲロ言ってた騎士に「貴様! 何者だ!」「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」と戦慄しましたが、アイツらやっぱり元オタマモンかー。二年の間に皆強くなったようで、これならEgg冒頭みたいなことにはならない……のかもしれない。
 メタルガルルモンの故郷ってこともここで活かされてニヤリ。そういえばEgg本編だと究極体になって以降、故郷とは関わりが無かったのか……僕の大好きなファラオモンのイメージばっかり残ってるのは秘密だ!! ん? キメラモンやファラオモンに比べれば大したことない? つまりファラオモン(達)が強敵としてカウントされている!? ヤムチャが19号に「人間とは思えない大きなパワー、間違いない孫悟空だ」とか勘違いされた時に匹敵する喜びだ!!
 そっか、メディーバルデュークモン出てきたけど「デュークモンの亜種」って設定がしっかり絡んでくるのか。これはデュークモンと潤がメインに絡んできそうで期待、Eggの皆さんの中だとこの二人が一番好きなので楽しみ!! なんか不穏な感じもしますが気の所為だと思うことにする!!

 そんなわけで、次回もお待ちしております。ところで、

 眼鏡も好きだぞ。

 眼鏡も好きだぞ。


 眼鏡好きだぞ。

 Kiss☆Summerキサマー 僕も好きです。