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ID.4700
 
■投稿者:パラ峰  HOME
■投稿日:2017/03/26(日) 23:15
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寂滅アケイディア ChapterZ -The SuperbiaA-
         
 Then God said, "Let Us make man in Our image, according to Our likeness.
 ――そして神は、「われわれに似るように、われわれのかたちに、人を造ろう」と仰せられた。
    ――『創世記1章26節』



 ――その理由、お教えしようではないか。
 無価値なる男は、渡部桐彦が口を開くよりも先にそう続けた。

「創世記はご存知かね。確かに神話というものは我ら神魔幻想を"無"へと追いやるために君たち人間が作り出したものだが、だからと言って嘘ばかりが記されている訳でもない。
 創世記、1章第26節。我らが父なる神は、己に似せて人間を作り出したのだと語られる。
 その類似性は一体どこだ?見た目か?力ということはあるまい。それならばむしろ我ら天使や悪魔の方がYHVHに似ているということになる。
 ならば答えは一つ。精神性だ。物事の考え方。それは我ら神魔も同様だ。創世記上の語弊はここだな。YHVHは人間だけではなく、あらゆるものを自らに似せて作ったのだ」

 ベリアルヴァンデモンの言葉は止まらない。
 桐彦は逸る気持ちを抑えつつ、沈黙で続きを促す。自らが胸倉を掴み上げている男が、己の根幹に拘わる真実を語り始めるのを心待ちにして。

「故に、神魔とて、人と同じく"情"を持ち得る。七大罪の悪魔などは最たる例だが……そうさな、単刀直入に言って、ここで重要になるのは『家族の情』だ」
「あん?」
「分からぬか。存外に察しが悪いと言うべきか。それとも私が婉曲的に過ぎるというべきか。少なくとも、もう既に、我が計画にたどり着き得る情報は君に与えたと思うのだがね」

 家族の情を持つ神魔。既に与えたという情報。
 桐彦の脳内に、集合無意識の世界における会話がフラッシュバックする。
 怠惰の花嫁――高原彩利の感情が歪められた原因に拘わる情報と言えば。

「ベルフェゴールが、昔ガキ作ったって話か――まさか」
「君の想像は恐らく正しい。
 もう一つヒントをくれてやろう。ベルフェゴールが子を為したのは、現在のドイツにおいての事だ」

 理解する。理解する。理解したが――まだ彼は納得していない。

「先輩が、ベルフェゴールの末裔って事かよ」
「然り。しかしまだ納得はいくまい。故にここからは語り聞かせてやろう。出血大サービスという奴だ」

 高原彩利は、ドイツから日本に帰化している。故に、ベルフェゴールの継嗣であると言う点の矛盾は多少なりとも解消される。

「ああ、そうすっと、今度は針斗が出てくる理由がわからねえ。
 血を引く、なんつー親和性があれば、先輩こそがデジタル・モンスターになっていて然るべきだ。自分の娘守るってンなら、尚更だ」
「簡単な理由だ。己が末裔たる彼女を、ベルフェゴールは人間と同様守ろうとした。されど、あの者は"怠惰"を司る身。自ら現界することは罷りならなかった」

 ――だからこそ、怠惰[ベルフェゴール]は選んだのだ。
 ――自らの力を振るい孫娘を守る、騎士[ナイト]役をな。

「彼女がその騎士[ナイト]役に惹かれるのは自明であろう?なにせ、騎士[ナイト]とは即ち、己の血縁の――偉大なる祖の力を引き継ぐ――ものだ。父性の一つも感じようというもの。そこから慕情に発展したとして、何の異常があるというのか。
 君は選ばれず、彼が選ばれた。
 彼女の恋心が彼に向いているのはそういう理由だ」
「ッ……!」
 歯ぎしりの音が、無音の社長室に響いた。
 それもそうだろう。渡部桐彦が高原彩里と趣味を同じくし、享楽的趣味に悦を見出すようになったのは、全て『高原彩里の気を引くため』だったのだから。
 だと言うのに、高原彩里は、真原針斗を選んだ。
 自分こそが相応しい、などと彼は自認していた訳ではない。高原彩里の心が満たされるならば、己が身を引き、針斗と彩里を祝福し続けるつもりでいたのだから。
「ふざけやがって!結局、俺らは手前等の道具だって言いてえの――」
 しかし、ベリアルヴァンデモンは最早その選択を許さない。
「――ああ、ここで君にとって大事なのは、その選抜方式かもしれんがね」

 ――簡単な話だよ。ただの『偶然』だ。

「……は?」
 告げられた言葉を、うまく咀嚼できない。ベルゼブブを食い殺すほど強固な桐彦の精神は、既に蝿に集られたかの如くボロボロだ。
「理解できなかったかね。衝撃だったかね。だが、事実だ。
 溺れる者が近くの藁をも掴むように。飢に瀕した者が近くの泥水と遠くの清水から前者を啜るように――。
 その時、『たまたま』高原彩里の最も近くにいた男。真原針斗が選ばれたと言うだけだ。本来ならば、そこまでの努力を為した君が選ばれtていたかもしれんが……どうやら、時の巡りが悪かった様だ」
 ベルフェゴールは、現世に増え続けるデジタル・モンスターに危機感を抱いていたのやもしれぬな――。
 と、神代最大の策士は締めくくった。
「……クソが」
 ベリアルヴァンデモンの身体が、するりと椅子に滑り落ちる。桐彦は衣服を掴む力を抜いたようだ。がっくりと項垂れているその背には覇気がない。
「いずれにせよ、こうして生まれた怠惰の代行は最強の神魔だ。ベルフェゴールの絶大なる力を、怠惰と言う――千年に一度という枷無く振るう事ができる。加えて言えば、眠りを邪魔されたアレが、その力を振るいながら怒り狂うこともない。
 私としては、この世界の誰が騎士[ナイト]役に選抜されようと構わなかったがね。その他の神魔幻想の力を集めつつ、ベルフェゴールの力を御しうる形に為すこと。それが、私の計画だ。
 無論、嘗てベルフェゴールに子を為すよう勧めたの時点では、この版図は描けていなかったが……実にうまくいった。
 後は自由にし給えよ。少なくとも、これを知って、君は彼等と今までの関係では在れないだろうがね……ふふ、は、はは、ははははははははは――!」
 桐彦が身を引けたのは、それが思いを寄せる相手の選択だったから――。だが、それが作為的――正当な自分への感情が、偶然とはいえかすめ取られたとあれば。
「なあ、べリアル……聞かせやがれ。
 ……アイツぶっ殺せば、俺が騎士[ナイト]役にでもなれんのかよ」
「なれるとも」
 既に彼の精神は、地獄の副王を超越する強度を喪っている。
「そもそも彼は、集合無意識内のベルフェゴールの領域に招かれ、そのあらゆる経験と力を引き出して使っているだけ。代行が喪われれば、ベルフェゴールは再び、次の代行を見出すだろう。きっと、それは君だよ――」
 ベリアルヴァンデモンが口を閉ざす。これ以上語ることはないと言わんばかりに、薄く笑みながら桐彦を眺めている。さながら蟻の行列を眺める少年のような瞳で、彼我の精神力の差を如実に表しているように見受けられる。
 その刹那、蟻の側たる桐彦のポケットから電子音が流れる。
「チッ、こんなもんが広まらなけりゃ、お前らデジタル・モンスターも出てこなかったろうにな……」
 ひとりごちながら、除いたメールの差出人は真原針斗。セラフィモン討伐の仕込みを依頼するそのメールを見て、桐彦は携帯電話を握り潰した。
「行ってやるとよい。代行を殺すにせよ、未だ時期尚早というもの。土壇場でなければ、想い人が心を閉ざしてしまうのではないかな」
「……言われなくても分かってら」
「成る程。では好きにせよ。もはや君がどう動こうと、私の勝利は揺らぎない」
 ベリアルヴァンデモン――否、多くの神魔を内包するキメラはそう告げて沈黙する。会話の最中、既に彼は脱落したデジタル・モンスターを取り込み終えていた。
 キメラの言う通り、桐彦が勝利しようと、真相を知った針斗が勝利しようと、いずれにせよ怠惰の代行はデジタル・モンスターへ、尽きぬ敵意を滾らせる事だろう。
 そうなれば、最終的に残るであろうデジタル・モンスターは4柱。
 ルーチェモン。
 ベリアルヴァンデモンであったモノ。
 ベルフェゴールの代行。
 未だ確認されぬYHVHの生まれ変わり。
「勝手にさせて貰うぜ。地下の大空洞、最後にぶっ壊させて貰うけどな」
 桐彦は社長室を立ち去る。煙草の吸い殻を放り捨て、残った煙草も、ライターも、携行していた所持品を全て放り投げながら。
「く、くくく……今に見ていろ。――4つ巴、否、3つ巴ならば、幾らでもやりようはある」
 乱暴に閉じられた扉を見つめ、キメラは愉し気に呟いた。



 当然の帰結だが、セラフィモンは消滅した。往時の天使長にならいざ知らず、堕天ギリギリのアレに負ける要素は微塵もない。
 桐彦に、ベルフェゴールの記憶から得た知識や、地下大空洞の推測についての説明を済ませて帰路に就く。
 道中クラヴィスエンジェモンと一悶着ある……と言うこともなく、すんなりと彼のいないままに、丁度やって来るルイと合流できた。先輩は余程巧く丸め込んだらしい。口では勝てる気もしないので、もう"ベール"との会話は全て任せてしまおうか……。等と考えながら部屋への階段を登る。いつからか分からないが、既に他の住人もいないらしい。ある種分かり切っていたことだが。
「ふむ、どうやら愚弟を討ってくれた様だな」
 唐突に頭の上から声がかかる。隣を歩いているルイの言葉の真意が読めない。
「……あー、やっぱり何か、思うところもあるのか?」
 今生では戦闘に手を出さないと言ってはいたが、それはそれとして、少しは感情も揺れ動くのだろう――。
「いや、ない。寧ろ素晴らしい。卿らの作戦、その成就を言祝ごう」
 ――と思っていたが、全くの見当違い。
「愚弟は視野が狭窄だ。自分が『そうすべきだ』と思えば最期までそう在る男だ。
 最後に残れば私とやり合う他無いが、その場合私は疾く自害するつもりなのでな。その様な勝利より、自ら敵わぬ戦いに挑んだ方が奴にも良かったろう。そこまで登り詰めた卿が相手ならば、浮かばれる筈だとも」
 何をしてきたか知られていることも、非道な手を使った事に言及がないことも分かっていたが、その後の言葉は想定外だった。本当に悪魔らしからぬ、それが故にこれ以上ないほど悪魔らしい男だ。
「やっぱり……ルイは他のデジタル・モンスターとは全然違うな」
「ほう。生前でもベルフェゴールから似た評価を受けた事は在ったが、今生でも卿からその様に言われるとはな。具体的には、どう違うのか
ね」
「そうなのか?なんて言うか、違うようで違わない……そう、寧ろ、他のデジタル・モンスターの、どんな側面も持ってる気がするんだ。……ま、今まで出会った分だけどな」
 大病院でセラフィモンとケルビモンに対面する直前に抱いた感情。それはきっと、そのようなものだったろう。彼ならば、どんな神魔の内面も理解できるはずだ、と思う。
 それはきっと、"ルシフェル"がYHVHに作られた最初の神魔だからかもしれない――。ただ、彼はその事について――『自分が神に叛逆した』事について――悩んでいるようだから、何も言わない。
 きっと戦う度にベルフェゴールとの同調が進んでいるのだろう。悪魔王ルシファーが、何やら身近に思える。その上、先の様に彼の悩みについてもふと記憶が蘇る。多分、ベルフェゴールは眠りながらもルシファーの話を聞いていたのかもしれない。
「そうか……そう思うのか」
「ルイ?」
 そんな神代から続く、ありきたりな世間話のつもりだったのだが――何やらルイは、丁度先輩が待つ部屋の手前で立ち止まってしまった。
「いや、すまない……」
 そして扉の手前で(俺の部屋なんだけどな)、再び動きを止めて俺を見やる。
「……なあ、針斗よ。中に入ってからでいい。ベールの元に案内する前に、少し、話を聞いてくれぬか」
「あ、ああ」
 余りにその表情が真剣なので、思わず面食らった。
「感謝する」
 そして俺が何かを言う前に、ルイは我が物顔でドアをノックした。いや俺が入ればそれでいいじゃん、という突っ込みをグッと堪えていると、直ぐに先輩が顔を覗かせる。
「やあ、昨夜ぶりだな」
「驚かせないでくれ。家主がノックしたなどと思って慌てたじゃないか」
「それは失礼。だが、卿の恋人は無事に帰ったのだし、そのような些末な事は大目に見たまえ」
 うーんこのナチュラル傲慢。
 俺とルイを招き入れると、素早く鍵がかけられる。先輩がキッチンの方へ向かうと、ルイは自分から適当に座布団を出してきて――ん?座布団?
「よっ、と……ん? どうした? 座らぬのか?」
 マジかよ。胡坐掻いてる。
 お茶を持ってきた先輩も口が空きっぱなしだよ……あ、すぐ戻った。
「あ、いや……ルイ? 正直言って似合わないんだけど……」
「ふむ、駄目か?」
「いや駄目ってこたないが」
「ならばよかろう。もてなしはありがたく受け取るが、できれば二人とも座ってくれ」
 グラスを各々取りながら、俺と先輩はルイに向かい合うように寄り添いながら座った。……座ってても彼と頭一つ分ぐらい高さの違いがあるが、まあ仕方のないことだ。
「それで、話ってのは?」
「ああ、一つ、悩みがあるのだ……。遙か昔からの悩みで、今でも私を苦悩させる悩みだ。それを、今生で友となれた卿らに、相談したいのだよ」
 その言葉に、不意に胸が熱くなる。
 今、この男は先輩と俺を"友"だと言った。ベルフェゴール自身もそう思っていたのかもしれないし、この感情は俺個人のものではないかもしれないが――この男に認められている事を嬉しく思えた。
「正直、助けて貰ってばかりだからな……相談に乗るぐらい、何てこと無いさ」
「ああ。その通り。私達でよければ、何でも話してくれ」
 それは先輩も同じ様で、よく考えれば俺達は、初めから地獄の盟主のカリスマに惹かれていたのかもしれない。
「ありがたい。では、そうだな……私の身の上話から聞いて貰おうか」
 少しだけ長くなると前置きして、彼は茶で唇を濡らした。



 私が生まれたのは、神聖四文字[テトラグラマトン]YHVHが覇権を握ってすぐのことだ。それ以前のベル神その他、古き神々との戦いについては私は知らぬし、この際無関係なので省略しよう。
 地獄に堕ちる前は私も天使であり、天使は神の代行者。即ち、神の意を遂行する者であった。父の敵対者を破壊し、父へと供物を捧げ、父の代わりにヒトを慈しみ、父への愛を謳い上げる――。
 あらゆる天使はYHVHの御心のまま、父を崇めていればそれで満足だった筈なのだ。
 しかし私は何をしても満たされなかった。そう、私はいつしか己の性を自覚していたのだ。

 私は、己が愛したものを破壊せずにはいられない破綻者だった。

 ここまでは、ベルフェゴールの記憶がある卿ならば知っていたかもしれんな。口を挟まずにいてくれて感謝する。
 だが、自覚して尚、そんな性を言い出せる筈もなかった。――それもそうだろう?何せ"光齎すもの"、無謬である天使の長が、その様な齟齬を孕んでいてはならない。
 それを、そのままでよいと、『飢えて乾いたままでよい』のだと自分を納得させられてはいた。幸いにも、自制は何より得意だったのでね。弟にも、YHVHにも黙ったまま時を過ごした。――尤も、父なる神は全知であるから、知っていた筈なのだが。
 そう、ここで問題が生じるのだ。

『父なる神は全知全能の御方である。ならば何故、被造物たる自分は破綻しているのか』 

 即ちレゾンデートルへの問いかけ。ベルフェゴールにもここまで話したことはないし、ベールでさえも知らぬことだ。
 知っているのは、叛逆の際に問いかけ、答えを与えてくれたYHVHと私、そして今から知る卿等二人だけ。
 さて、まず答えから教えるが。

 ――私は、「初めからそのように創られたモノ」なのだそうだ。



「滑稽な話だろう? 愛するが故の、破壊と慈愛の懊悩。それが、初めから仕向けられていたと言うのだから。卿等に分かるかね。その時の慟哭、主への失望が。
 結局そして、父なる神は、その理由を教えてはくれなかった。」
 そう語るルイの瞳は、今では微塵も揺れていなかった。往時はさぞや多くの天使を魅了し叛逆に導いただろう金色の瞳だが、この件については諦めているのだろうか。回答を俺達に求めている時点で、恐らく自問自答に疲れ切っているのだとありありと分かる。
「天より追放され、私は今の今まで自問してきた。人類が我々を嵌め込んだ神話の世界でもだ。だが、これまでに結論が出たことは一度もない。何故父は、私をそのような悍ましいものとして設計したのか。
 ……私が初めから破綻者として創られたならば、その懊悩に意味はあったのだろうか。
 地獄の指導者として活動する以上、下の者に弱みを見せることもできぬから、元より解を見出すのはとうに諦めていた。
 しかし今、こうして再びの機会が訪れている。
 二度と見えることのないと思っていた友と再会した。旧友の記憶を受け継ぐ新たな友に出会えた。そして卿は、私を"胡散臭い"、"他の神魔幻想と被る"と評してくれた。
 ならば、そう――私の、ルーチェモンの生に、納得のいく価値が見出せるのではないかと。私は、期待せずにはいられない」
 俺達に向けられる双眸。少し前までの、身体の底の底まで見透かされそうな寒気が、今では微塵も感じられない。見透かすのではなく、対等の存在として見ているのだろうか。
 随分と買ってくれている。素直にそう感じ喜ばしいが――。しかし、彼の数千年の苦悩を晴らす言葉は見当たらない。
「――そして神は『われわれに似るように、われわれのかたちに、人を造ろう』と仰せられた」
「先輩?」
「創世記か。神魔幻想にとっては忌々しい書物だろうが、古い書物であるが故に真実を語っている部分も多かろう。唐突にどうしたね」
「……貴方は少し、視野が狭窄なんだ。燦然たる明星の輝き、偉大なるルシファー。貴方の前でこんなことを口にするのは憚られるが、その懊悩する姿絵を見ればこそ、黙ってはいられないと思う。
 推論になるが、この『われわれのかたち』とは一体なんだ。容姿か。いいや違うだろう」
 それもそうだ。デジタル・モンスターは現世でこそ人間を乗っ取る形で出現しているから、人型を取れるというだけ。在りし日の姿も、今の姿も、本来の姿は多少なりとも異形だろう。ケルビモンが良い例だ。
「では何か。答えは一つ、語るまでもないが――精神性だ。」
「……道理だな」
 重々しく口を開いたルイの口調は苦々し気だった。
「そして、貴方が愛すると言うヒト。彼らの、私達の精神は無謬か?否だろう。貴方は聡明なお方だ。愛に盲いていたから、想像だにしなかった、或いは頭の中から追いやったのだろうが……」
「――よい。他ならぬ卿に言われたのだ。これで納得できぬ方が見苦しい。続きを言い当てようか。『父たる主は、その精神性は――全知全能でありながら、完璧ではない』ということだろう」
「そうとも。そして貴方は始まりの御使いだ。四文字の被造物と言うが、それがどうして四文字自身の性質を反映していないと言い切れる。」
 ちらりとルイの顔を盗み見る。二人は既に得心した様だが、俺にはいまいち話が見えてこない。根幹にある、YHVHに関する知識が抜け落ちている。幾らベルフェゴールの記憶を探っても見当たらない。
 ルイが疵一つないと思い込んでいたYHVHが、実はその精神性を俺達人間と同じくしていた。だから被造物である天使、ルイも色濃くその性質を反映している――これはいい。納得できる。だが、それがどうしてルイの破綻した性質に繋がる?『愛したものを破壊したい』など、人間の中でも稀有な思考だろう。
「納得できぬか。無理もあるまい」
「いいか後輩。四文字はな。全知であり全能である。それと同時に、地霊であり精霊であり神霊であり威霊である。もっと言えば、"唯一であり全てである"のさ。」
「――在るだけで矛盾しているのか!」
「ああ。その矛盾を許容"できる"から全能なのだよ。主は」
 それならば、ルイの在り方も納得できる。全てを愛す慈神でありながら、それを破壊する狂神なのだ。
「私は主の全能を疑わぬ余り、その多面性から目を逸らし続けてきた。2度目の生の、それも終局に至って目を覚まされるとはな」
 そう言って、明星は瞑目した――。
「卿等に感謝を。私の在り方に答えを与えてくれたこと、嬉しく思う」
 ――神代より続く明星の探求が、今ここに終わりを迎えたのだ。

ID.4701
 
■投稿者:パラ峰  HOME
■投稿日:2017/03/26(日) 23:22


寂滅アケイディア ChapterZ -The SuperbiaB-
「さて、では行こうか。局面も終盤に近い。」
「ああ、わかってる。感じたよ」
 そう。丁度いま、デジタル・モンスター同士の殺し合いが始まったのが分かった。迅速に行動しなければ、残った方がこちらを狙ってくる可能性もあるだろう。
「案内、よろしく頼む」
 部屋を後にし、ルイ先導の元に歩みを進める。
 ここからはまた気を引き締めねばならないだろう。ベール……ルシファーが友と言って憚らないデジタル・モンスター。恐らく、セラフィモン如きとは比べものにならない程の正念場になる。
「なあ、そう言えば、ベールってのはルイ・サイファーみたいな偽名だよな?結局そいつはなんていうデジタル・モンスターで、元々は誰だったんだ?」
 正直、アイツと会話していた内に概ね理解している。"ベル"の名前があると言うことは、ゼブブ、フェゴールの俺達以外にあるとすれば……。
「イアルだ。ベル・イアル。縮めてベリアルと言う名の方が通りが良いかね?卿らの中ではベリトあたりと悩ましかったのではないか?どちらも口がうまいからな。デジタルモンスターとしてはベリアルヴァンデモン。ヴァンパイア共と融合したようだな」
「ベリアル、だと……?正直、それ程心の強い幻想には思えないが……

 先輩が疑問を口にしているが、俺はそれに反応できない。ルイの言葉を皮切りに、ベルフェゴールの記憶が補完される。欠け落ちていたピース――即ち、無価値の名を冠する悪魔について。脳裏を駆け巡る電撃のような衝撃。幸いにもそれを表に出すことはなかったが、以前にも増してベリアルへの不快感が沸々と湧き出でる。
 その感情の奔流に紛れて、俺は、自分の魂の"何か"が変質した事に気づけなかった。
「ベリアルヴァンデモン――堕天使ベリアルか。それなら、あれだけ舌が回るのも頷ける。っていうか、寧ろウザくて相手が諦めたって言う方が正しいのかもしれないけどな……」
 思わず苦笑が漏れる。ルイはそんな俺たちを見て微笑した。
「そろそろ入り口に着くぞ。ここが分水嶺だ……気を抜くなよ? 卿の隣にあるものは、卿の内にあるものは、必ずそこに存在する。例え喪失しようとも、仮初に思われても、だ。今は意味も分からんだろうがね、覚えておくとよい」
「? それは、どういう事だ……?」
「お嬢さんもだ。自らの内にあるものを、そのままに受け止めるといい」
「もう少し具体的に言ってくれないと、少々意味が……」
 ルイが唐突に抽象的なことを言い出した事に、不信感を抱いたのは俺だけではないらしい。だが、彼は俺達にかなり肩入れしてくれている。戦力に数えられはしないが、少なくとも最後まで敵に回ることもあるまい。それに……。
「先輩。ここまできて、ルイ・サイファーが意味のない事を言うとは思えません……まあ、ただの諧謔に終わることはあるかもしれませんが、とりあえずは胸に留めておきましょう」
「……ああ、そうだな。きっと、後から役に立つなにがしかなんだろう。そういうことは往々にしてあるものだ」
「絶大な信頼、傷み入る」
 そんな中、俺は先輩の口から、何とも好ましい涼やかな声色を以て――。
「思えば桐彦も、そういう発言が多かったな。道化者の様に、我が儘な風に――いやまあ、実際自己中心的な男だが――振る舞いながら、あの男の発言は後から省みれば非常に的を射ていることが多かった」

 ――何か、非常に不快な言葉を聞いた気がしたが。

「どうした後輩。ゴキブリホイホイに引っかかったプテラノドンの様な顔をして」
「どんな顔ですかそれは」
「翼竜故に、接地した罠にかかりにくいというところもポイントが高いな」
「いやアンタも面白がってないで」
 余りの珍道中に、その不快感が何なのか、自覚する前に霧散していた。

○○○○○

 その区画は既に原形を留めぬ程破壊されつくし、死と破滅と絶望、そして蹂躙の臭いが充満していた。しかし、少しでも場の"気配"と呼べるものを感じ取れる者がこの場に立てば、そんな死体置き場[morgue]と見紛う空気を塗り潰して余りある大罪の臭いを見逃しはすまい。
 あらゆる死をまき散らし、魔なるデジタル・モンスターの好む退廃を垂れ流すその中心にいるのは――ベルゼブモン。セラフィモンを打倒した直後、彼は殺戮を開始した。
 極大の赫怒を見せつつ、大破壊を成し遂げている。その傍らで、暴虐は見逃せぬと彼に挑みかかり、返り討ちにされたオファニムとドミニオン――オファニモンとドミニモンが、白銀と深緑の兜を無惨にに砕かれて転がされている。既にその魂は地脈を介しベリアルヴァンデモンの潜むB.E.E.L本社に集まり始めているが、ベルゼブモンは微塵も気に留めない。
「糞! 糞! 糞が! ムカつくぜ!
 オラァさっさと残り全員出てこい! 今ここでぶっ殺してやらァ!」
「獣に堕したか……非難はすまい。だが、同胞の殺戮は見過ごせん、ともいえる。同時に闇堕ち悪堕ちも英雄譚に必須の要素! 我が覇道の礎となる栄誉を知れ、少年!」
 桐彦の口から吐き出されるのは呪詛と怨嗟。八つ当たりの如く叩き潰された2体の天使を前に、現世最後の天使が姿を見せた。3対6枚、神話であれば最上位の証左たる翼が背後で輝いている。クラヴィスエンジェモン――特異な力天使が鍵剣[ザ・キー]をベルゼブモンに向けている。
「ハッ! テメェがここまで出てこないとは思わなかったぜ! 騎士道精神が聞いて呆れる。 出待ちして昔の上司を見殺しにしたってのか? えぇ? 
 つーか、あの二人はどうしたんだよ。いいのかよ、放置して? まぁ――俺からすれば好都合だけどなぁ!」
 殺意のみをたぎらせて、ベルゼブモンの駆るモンスターマシンがウィリー走行でクラヴィスエンジェモンを襲う。衝突の直前、まずは魔弾と鍵剣が真正面で交差する。
「この圧力、アスタロトの従えていた邪竜か――!」
「生憎それだけじゃねえ、暴飲暴食、ベヒモスがガワだぜェ! 止められるもんなら止めて見せろやァ!」
 造作もなく銃弾を切り払ったクラヴィスエンジェモンだが、ベヒーモスの突進は溜まらず空中に退避した。すかさず無数の魔弾が追撃するが、ザ・キーが輝き、空中に"門"を顕現させる。
「ゼニスゲートだ。今の私が開錠権限を持つ異空間へのゲート――『天上位階論』大天使のヘブンズゲートとは格が違うぞ?」
 放たれた魔弾が、方向・弾速・距離に拘わらず全てゼニスゲートの内部に吸い込まれた。ベルゼブモンは気にも留めず、ベヒーモスをオート制御に切り替えて戦い方を変える。
「空中取ったぐらいでいい気になってんじゃねえぞォお!!」
 旋回しながら一際巨大な瓦礫に狙いを定め、真っ向突進したベヒーモスが宙に飛び出す。その最中にも、リロードの一つもなしに魔銃[Berenjena]はマシンガンよりも速く火を吹き続けている。その弾丸全てが、移動するクラヴィスエンジェモンの兜を寸分違わず食い破らんと迫っている。ゼニスゲートの守護により一発も命中していないといえど、少し前までただのチンピラだった男に為せる芸当ではない。
「直情的だな。そこからどうする?Z軸の差が縮んでも、ゼニスゲートの護りは抜けぬぞ?」
「だぁら、こうすンだよボケ……!」
 ベルゼブモンは空中でベヒーモスの上で立ち上がり、クラヴィスエンジェモンめがけ跳躍した。だが、2体の間に存在する絶対的な壁は健在だ。少なくとも最強の力天使はそう確信していた筈なのだが。
「あんま舐めてっと容赦しねぇぞ――ダークネスクロウ!」
「ゼニスゲートを、強引に引き裂いただ……ぐぁっ!?」
 銃を構えていない方の魔爪が貫いたゼニスゲートは、黒色の粒子になって霧散していく。驚愕するクラヴィスエンジェモンだが、その顔面にベルゼブモンの回し蹴りが叩き込まれ墜落する。
「今だ! やれ糞ワニィ!」
 ベルゼブモンは軽やかに着地し、即座にベヒーモスに乗り離脱する。
「な――少年、貴様……ッ!」
「よくやったわぁん!アタシ痺れちゃうぅ」
 無数の瓦礫の下、地下に広がる大空洞の中からくぐもった声が響く。鳴動する大地を貫いて、奈落への顎が開かれた。
「ロ・ス・ト・ル・ム――――!!!」
「……ベヒモスの対存在、リヴァイアサンと手を組んだか……!だがこの程度、翼が失われた訳でもなければ――!?」
 硬質の翼を羽ばたかせ、再び空へと逃れようとするクラヴィスエンジェモンだが、飛行どころか立ち上がることすら叶わない。
「成る程成る程、そうでしょうな。貴様は昔から、なんだかんだと判断は適当だ。だが、流石に多勢に無勢と言ったところでしょう! 長きに渡る苛立ち、ここで精算させていただきましょう!」
「強欲までもが同盟を組んだか! この状況、分が悪いというレベルではないな! ハ、ハハハハハ!」
 強欲の狩人が操る死者の影に絡め取られながら、しかしクラヴィスエンジェモンは哄笑する。海魔の顎という暗闇に飲まれ、未だ生存を諦めていない訳でもあるまいに。
「この大同盟を彼等に伝えようとは思うまい! 確かに私はここで脱落するだろう! この戦局をひっくり返せる手札は持ち合わせておらん! 
 だが心せよ! 古今東西あらゆる物語で、最後に趨勢を分けるものがある! 貴様等大罪の持ち主はそれを知らぬ! それを持たぬ! 私が見込んだ彼等こそ、このパンドーラボックスじみた街の中で、最後に残るべきものである! 貴様等では彼等に敵う筈も――ギャァアッ」
 3柱の魔王に対する呪詛を高らかに謳い上げながら、最強の力天使は、魔獣の顎の内で最期を迎えた。
「最期まで五月蠅ぇ野郎だったな。で、俺としちゃ、次はお前でもいいんだがな? 糞爺」
「おやめなさい狂犬。いえ狂蠅ですか? 呼び方はどうでもいいとして、ここで我々が殺し合ったところで、笑うのはあの小僧だけだ。
 それに、幾ら私とベルフェゴールの愛が結ばれる運命にあると言え、リヴァイアモンは貴方に全面協力の姿勢ですからね。ここであなた方を相手に戦って、死の間際にベルフェゴールと手を握りあって意識を喪う――等という展開になるのは少々お断りしたいところ」
 さて、暴食――ベルゼブモンのみならず、嫉妬のリヴァイアモン、強欲のバルバモンまでもが同じ陣営に立っている。先日一時的に結成された、クラヴィスエンジェモン・ベルゼブモン・ベルフェゴールの同盟に伍する勢力がここに擁立されている――それも、中核足りうるベルゼブモンの離反によって。
「あらん、もう言っちゃうの? ネタバレはよくないわよ?」
「この場は巧緻より拙速でしょう。ベルフェゴールがヴァーチャー脱落に気付く前に、一気呵成に攻め立てましょう。
 いいですか狂蠅。今の貴方は、嘗ての――神代の人間に近しいモノに変質し始めている」
 今の渡部桐彦は、少なくとも3つの大罪を司るに足る。
 取り込んだベルゼブブの"暴食"。そして、ベリアルヴァンデモンとの邂逅で抱いた、真原針斗への"憤怒"ともう一つ。
「つ・ま・り。アンタの側にいるだけで、アタシみたいのはハピラキな気分になる訳よ。サタンもこっちに来てればアンタについたでしょうよ」
 神代、人間は信仰で――感情でもって神魔に関わっていたのだから、それを人外の力で撒き散らす彼は、特にその感情を司る魔からすれば極上の餌と言える。
 その上神魔幻想――現代ではデジタル・モンスターだが――と異なり、与えられた役割に即した力しか持てない彼等と違い、桐彦は人間としてベルゼブブを食らい、デジタル・モンスターの能力を手に入れている。
「チッ」
「前に言ったでしょ? アンタからは極上の嫉妬の匂いがするって。あの時点でもかなりのものだったのに、今はもう、その密度は数倍以上よ?
 アンタは人間のままアタシ達と同じモノになってるからね。幾らでも出てくるのよ、アタシ好みの"濃い"味の感情がね」
 デジタル・モンスターにも無論感情はあるが、人間のそれとは比べるべくもない。彼等は初めから超常の力を持って存在する分だけ、非力な人間よりも超然としている――例外的な個体が、現世に再臨している訳だが。
「つまりアタシは、アンタにメロメロなのよ。アンタの為ならなんだってしてあげるわ! 嫉妬の魔王、リヴァイアモンの名にかけてね!」
 ピンク色の体毛を棚引かせて乱杭歯が揺れる。ベルゼブモンは生温い息を鼻で笑ってあしらった。
「ッハ、好物としてメロメロ、だろ?」
「モチロンよ」
 爬虫類の濁った瞳が、茶目っ気たっぷりにウィンクした。正面にいるベルゼブモンとバルバモンからは全く見えていないが。
「いいぜ、認めてやる。俺ぁ針斗の奴が憎いよ。この俺を差し置いて、彩利センパイの側でナイト気取りのあの野郎が妬ましい」
 桐彦が嘗てリヴァイアサンに指摘された"嫉妬"。頑なに蓋をし続けてきたそれが今、ベリアルの言葉で噴出している。だからこそリヴァイアモンも全面協力の姿勢でいるし、バルバモンも針斗の排除目的で同調する。
「よくぞ言いました。貴方とも恋敵と言えるでしょうが、ここは我が終生のライバルであるあの小僧を仕留めるため、一時の同盟と行こうではありませんか! 幸い厄介な天使共も全滅しました! ここからは我々の時代だ!」
 歓喜に満ちたバルバモンの金切り声が、崩壊した区画を汚染する。
 木霊する叫声を背にして、3体のデジタル・モンスターは網目状に張り巡らされる地下洞に潜っていった。


○○○○○


 スラッシュエンジェモンと戦った公園で、ルイは地面に大穴を開けて地下洞への道を繋げた。目的地へは地上からのルートが存在せず、この大空洞からしか繋がっていないのだそうだ。
「成る程、この街自体が、ベリアルヴァンデモンの遊技場だったって訳か。
 新生したデジタル・モンスターが集まるように仕向け、予め用意したこの地下道でその魂を集める……。全く嫌らしい奴だよ。殺せば殺すほど、野郎が強化されるとはね」
「私は話に聞いただけだが、噂に違わぬ陰湿さだ。その上磐上に姿を顕さず後輩に干渉してくるだけとは、随分とまぁ」
 道すがら"ベール"――ベリアルヴァンデモンの企みを語った彼は、俺達がこれだけ悪し様に罵倒しても苦笑するだけだ。
「逐一ごもっとも。あの男は常温で頭が愉快に沸騰しているからな。私以上に、唯一神に対する恨み辛みに狂している」
 "頭が愉快に沸騰している"友とはいったい。突っ込みたい衝動に駆られるが、さてまあ暗喩の意図は理解はできるので何も言うことがない。
「正直迷惑な話だな。こう言ってはなんだが、私達のいないところで遣ってくれればいいもの――なんだ、地震、か……?」
 大きな地響きを感じた。俺の知らない巨大デジタル・モンスターがいない限り、リヴァイアモンが動いたのだろう。だが幸い、目的地――B.E.E.L社長室とは方向が違う。
「いえ、これは戦闘の余波ですね。結構遠くだとは思いますが……」
 人外の化け物にとって、距離など些末な問題だろう。俺だって、翼を出せば街の端から端まで10分足らずで行けると思う。そうなると、こちらに寄ってこない内に目的地に行くべきか。
「急ぎましょう。クラヴィスエンジェモンもいない今、さっさとベリアルヴァンデモンを問い詰めて、今後の方針を決めた方がいい」
「えっ、ちょ、ちょっと待て」
「悪いけどルイ。どうせ飛べるんだろ? 先輩は俺が抱えて動くから、急いでくれないか」
「や、やめろ。恥ずかしいだろう。急ぐのは分かったから、せめて背負うとかーー」
 柔らかな肢体を両腕で包み、か弱い抵抗を無視して抱き上げる。いわゆるお姫様だっこ状態だ。先輩の甘い香りが鼻腔をくすぐる……というか、抱き上げると借りてきた猫のようになって抵抗が止んだ。これはアレだろう。ルイがいるから建前上抵抗してるだけだな。この男の前でそんな事気にするまでもないだろう、とルイにアイコンタクトする。
「――いいだろう。お嬢さんもしっかり捕まっておきたまえ。無論彼なら、落とすことはおろか風に吹かれることもなかろうが、その方が、互いに高揚するだろう?」
「くっ」
 先輩の味方は誰もいなかった。観念したのか、両腕を俺の背中に絡めてくる。細腕の割に力強いが、今の俺には加わった力を微かにしか感じられない。
「じゃ、行くか。先輩は目を閉じててくださいね」
 背中に3対6枚の蝙蝠然とした翼を顕現させ、宙に舞う。よくよくベルフェゴールの記憶を辿ってみると、翼は出してさえいれば空中は自由に動けるようなのだ。内心「羽根も動かしたくねえのかよ……」と思いつつ、便利なのには違いなく。先輩に風が当たらないよう、彼女を翼でガードする。……ここで便利とか思う辺り、前からだけど、俺も随分毒されたな……。
「では飛ばすが、付いてこられるかね?」
「上等」
 ルイも同じく翼を出していた。背に5対10枚。白と黒――というか、天使と悪魔の翼だが、その枚数から、セラフィモンと兄弟だったというのがよく察せられる。
 翼を生やして尚黄金比を失わないその体躯が、入り組んだ地下通路を舞い踊った。分かれ道を微塵も迷わず選択し、上下に入り組んだ部分も、壁に電流の流れた狭い道も余裕で踏破する。
「これは――ベールの趣味だな」
「要するに電流イライラ棒じゃねーか!趣味が古いんだよ!」
「おい後輩、当たったら私やばくないか? なあ? 大丈夫かそれ?」
「ここは間欠泉か。下は毒沼の様だから、墜とされると危険だぞ?」
「なんでそんなもんがあるんだ!命懸けたアスレチックか!馬鹿か!」
「いや待て、神代では基本だったのかも――」
 その他、後ろから転がってくる大岩やぬちゃぬちゃする床に壁などなど、くっだらない(とはいえ一人で歩いて行ったら多分死んでた)無数のトラップをくぐり抜け、そして一段と開けたスペースに出た。開けた……どころかめっちゃ広い。野球できそうなぐらい広い。流石に誇張だけど。
「ここをこうしてだな」
 地に降り立ったルイが何やら壁をゴソゴソやっている。追従して俺も地面に降りるが、先輩は降ろしてあげない。
「降ーろーせー」「いーやーでーすー」
 とてもかわいい(かわいい)。なんて幸せなんだ。
「おお、出た出た。これが直通エレベータだ」
 ガォンガォン言いながら、行き止まりと思われた岩肌が動き、緑色の扉が現れる。
「いや凝りすぎでしょ秘密基地かよ――ん?」
 呆れ果てながら突っ込みを入れつつ。機械の稼働音と共に、俺の耳はもう一つ、『駆動音』も拾った。刹那放たれた殺気に、思わず先輩を抱きかかえたまま空中に退避する。
「きゃあっ!」
「ッチ――! すみませんね先輩。で、テメェ桐彦オイ、どういう了見だコラ」
 足元を走り抜けたのは、以前見たモンスターマシン。無防備なところを撥ねられれば、流石に俺でもかなり厳しいところだった。
「おやおや、お分かりにならない? 鈍感はいけませんよ少年」
「ご愁傷様ね。アンタのお友達は、アタシ達と手を組んだのよ♡ NTR? NTRってやつかしら? キャーッ♡」
「言ってろ。後でお前らもぶっ殺す」
 そして眼前に現れる2体のデジタル・モンスター。因縁深いバルバモンに、前回は桐彦と戦ったリヴァイアモン。三者から向けられる敵意は紛れも無く本物で、桐彦が俺の敵になったと言うことが嫌がおうにも理解できる。
「ほう。こうなったか」
「バルバモンはカタ嵌めてやるから順番待ってろ。リヴァイアモンはちょっと黙ってろ鬱陶しい。ルイなんか知ってるなこの野郎後で吐いて貰うからとりあえず貸し一つってことで先輩よろしく」
「承った。明星の名に懸けて」
「つ、つれないわねえ……」
「悪魔王の元なら、まあ良いでしょう。私も貴様に専念できるというもの!」
 先輩をルイの傍で守ってもらいつつ、魔王共に目下の優先度を叩き付ける。
「で、本気でどういうつもりだ。桐彦」
 目の前で炯々とした三つ眼で睨みつけてくる彼は、見た目上、最早完全なデジタル・モンスターと言ってよかった。ベルゼブブに呑まれたのか――そうであれば、まだよかったが。
「さて、な。自分の胸に聞いてみろ。事情が聞きたきゃまずはコイツら倒してからにしてもらおうか」
「渡部桐彦。その物言い、貴様よもや最後まで残るのが自分だと思っていらっしゃる?」
「あらあら当たり前じゃない。強欲だけのアンタとは格が違うのよこのコは」
 違う事は分かっていた。力だけ残して消え去ったと、他ならぬ彼の口から聞いていたから。
「そうかよ。協力してコイツら倒す訳には?」
「いかねぇな」
 不思議と動揺はない。
「デジタル・モンスターが死ぬと、蜘蛛の巣の中心で胡坐掻いてるクソ野郎が笑うだけだっつっても?」
「ダメだ」
 ダメか。そうか。
「決別か」
「あぁ。渡部桐彦は自分の意志で、真原針斗をぶっ殺す」
 思えば元から趣味の合わない奴だった。尤も、それは先輩もだが――惚れた腫れたに趣味は関係ないだろう。
「理由は?」
「さっき言った。俺とお前だけ残ったら教えてやるよ」
 いつかこうなる気はしていた。普通に生活していても、きっと別れの時は来ると。
「じゃあ――」
「じゃあ?」
 だがそれはいつかの事で、もっと平和的な筈だった。デジタル・モンスターなどに関与しなければ、きっとこうはならなかった。
 だから俺は――。

「お前ら全員、叩き潰してやるからかかってこいよ。ベルフェゴールの力、見せてやる」

 デジタル・モンスターの存在を、これまで以上に許しはしない。
――――――――――――――――――――――――――――――――

 な、難産だった……
 シリアたん御姫様抱っこして空飛びたいです! あとカリスマ金髪イケメン長髪と懇意になりたいです!!! クソ! 現実はクソだ!!

 あとアレ、あの死んだ奴の顔と名前にバッテンついてるの、また今度で……。死んだ奴多いから作った方が分かりやすいんだけど……。

ID.4703
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2017/03/27(月) 23:04


君は刻の感想を見る
 誰がピッピなのかはわかりませんが感想です。今回は多分超長いです。

 開幕から筆がノリノリだなァ! というわけで、世界観説明になると途端に饒舌になる奴らが多くて好きです。オイ待てすっかり忘れてたけどセラフィモンまた死んだな。ベリアルヴァンデモン様がこんなおいしいポジションに……アニメの醜態が嘘のようだ。しかし元々は七大魔王の一人と考えられていたヴェリアルヴァンデモン様のこと、実は干支に選ばれず自分をハメた鼠に憎しみを抱いた猫の如く、七大魔王の誰かに恨みを抱いていたりしたら燃える。何気に名前の由来まで触れられてる辺り、実は優遇枠なのかもしれない。
 デジモンワールドXで進化ワザを手に入れられるまで進められなかったため、個人的にデジモンストーリーでテイマーの案内役として現れた時に誰だお前は状態だったCVエンジェモンが天使族の最後の生き残りだったか……というか、七大魔王は割と生き残ってるのに天使族はゴミのように散って行って泣けます。魔王の中でもソッコーで死んだリリスモンとかいう奴がいた気がしますが思い出せません。チュートリアルボスか何かかアイツは。
 桐彦は「自力で魔王の力を制御した」という特大の闇堕ちフラグを抱えてたので、いずれ敵に回る展開が来るかなと思ってましたが、唆すのはてっきりルイの方だと思ってたんだけどなー。今までも描写で色々とそれを匂わされていましたが、闇へと誘うのはベリアル様の方だったか。そんな気はしてたけど、やっぱ先輩のこと好きだったんじゃんよーとかからかったらレオモンのように腹に風穴開けられるのでしません。振り切れる方向が短絡的かつ極端なのは若さか、暴食だけに悪いものでも食ったのだろうか。ベヒーモスの名前の由来にも触れてたけど、デジモンってカバ型いねーな……バトルフィールドが線路上だったら転倒事故を起こしてたに違いない。
 先輩が可愛いことは自明の理なので最早語りませんが、俺はどうしてもルイがシレッと隣にいるのは何かの罠な気がしてならない。不意打ちでキン肉ドライバーパラダイスロストされるんじゃないかと気が気ではないのです。ちゅーか、後輩が選ばれたのは偶然でも、その力を普通に使いこなしてる以上もう普通の人間じゃねーよな……なんか副作用とかありそうで怖い。
 ……ん? 旦那ァ!!
 まさかの復活、てっきり次の出番は「強欲ならとっくに死んだよ」だと思っていたので、出番&活躍があるとは想定外だぜ! 元がバルバモンとはいえ、戦力的には番組後半でもスピリットビーストが最大戦力だったフロンティアの電池四人組のような悲哀を感じますがこれは超・燃ゑる。ベルゼブモン桐彦は元よりリヴァイアモンより格下な感じが拭えないけど気にしたら負けだ!
 というわけで、親友だったはずの男との決闘が待つ! 燃える! しかしハッピーエンドが見えないな!!