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ID.4697
 
■投稿者:Shot-A 
■投稿日:2017/03/26(日) 22:35
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デジモンアドバンス advance.15
         
         
※注意※


この作品は、以前この掲示板に投稿した連載作品「デジモンアドバンス season.A」および「デジモンアドバンス season.B」の続編です。
 この話以前のバックナンバーを掲載しますので未読の方はまずそちらを読んでからこのお話を読んでください。


「season.A」              「season.B」
1話 >>2932 2話 >>3093    6話 >>3690 7話 >>3924
3話 >>3227 4話 >>3288    8話 >>4060 9話 >>4264
5話 >>3365           10話 >>4265

「season.C」
11話 >>4588 12話 >>4618
13話 >>4642 14話 >>4675
















デジモンアドバンス advance.15――conclusion




ゆっくりと、静かに。じんわりと目の前が明るくなるような感覚から、自分が瞼を開けようとしているのだと気づく。いつもやっている事の筈なのに、やけに重たく感じられるその作業に意識を集中して、廻達巳はなんとか目を開けることに成功した。
それと同時に、自分の顔に纏わりつく物にも気づく。なにやらプラスチック製の透明な容器のようなものが口元に張り付いていて、自分はそれを通して息をしているらしかった。
本物を見るのは初めてだったが、達巳はそれがテレビドラマなどでよく見る酸素マスクというものなのだと理解した。

そして、そこから導き出される状況の異常性に考えが行き着くと同時に、仰向けに寝かされているらしい自分の目の前の物をようやく見据えるに至ったのだ。

「初めて見る天井だな……」

 自分の体がきちんと動くことを確認するように、ゆっくりと顔を横に向ける。宿泊していた客室ではない。ここから見える範囲にあるのは、いくつかの薬品のようなビンの入った棚と、自分の心拍をモニターしているらしい装置の画面ぐらいだった。窓のないところを見ると、恐らく地下だ。D.M.C側の施設の医務室のような場所だろうか。部屋はさほど大きくない様子で、達巳が寝ているベッドは壁際にあり、反対の端には出入口らしい扉があった。

すると、その扉が開いて誰かが入ってきた。

未だに目が本調子ではないのだろうか、遠くにピントが合わず達巳が目を凝らす。その人物はこちらの動きに気づいた様子で、その場に立ち止まってこう言った。

「廻さん……! 気が付いたんですか?」
「なんだ、空新か」

 部屋に入ってきた人物は、そのまま弾かれるように取って返して部屋を出て行った。
ようやく像の結ばれた姿と、聞き覚えのある声に得心した達巳は急に力の抜けた様子で仰向けに直ると目を閉じた。その動作だけで酷く疲れたような気がした。



「あれから三日ほど経っている」
「今回は、新聞とか朝飯とかは無しで?」
「食事は不可能だし、新聞は読むのに一苦労だろう」

 茶化すような言い方をする達巳に、ベッド際の壁にもたれかかった冴島は特に表情も変えずに答える。その視線の先には達巳の腕へ繋がった点滴のパックが吊るされていた。
 達巳は意識こそ戻ったがどうやら体力が心もとないようで、少し動いただけで強い疲労に襲われるようになっていた。しかし、それはおそらく一時的なもので、しっかり休めば後遺症などは残らないだろう。というのはこの施設のかかえるD.M.Cの医師の見立てだった。
ちなみにケレスモンに与えられた致命傷は、うっすらと跡を残して消えていたそうだ。

「今回の事は、大雨による大規模な土砂崩れとしか報道されていない。
幸いにも偶々この温泉に通じる道路が塞がってしまい、町が孤立したことで救助の手が遅れ、デジモンの痕跡が外部に漏れる事はなかった」
「……と、言う事になっているわけか。わざわざ道を塞いだのはD.M.Cの仕業だろ」
「そういうことだ」
「それで、俺は体力の戻るまでここで匿われるって事でいいのか?
 それまで島さんたちはここに留まるわけ? それとももう、俺は用済みだったりするのか?」

冗談めかした口調だが、達巳が何故そんな皮肉を言う理由を冴島は既に察していた。

「そうだな。先ず、達巳。お前が変わらず私に着いてくる気があるのかどうかだ」

 冴島はかぶっている帽子の鍔を少し上げるようにして、達巳の顔を見た。達巳はそれを見返すようなことは無かったが、なんとなく冴島から受けるプレッシャーのようなものを感じて居心地の悪そうな表情を浮かべた。

「やっぱり全部お見通しってわけか……」

 残念そうなため息が漏れる。達巳はわかっていたのだろう。今回、この場で行われるのは冴島から達巳への状況説明ではない事を。達巳から冴島へ、いったい彼が何を知ってしまったのかを白状させる事が、目覚めたばかりの病人を休ませておけない本当の理由なのだ。

「しみったれた医者しか会いに来ないし、嫌われたのかと思ったよ。
いや、元々好感度高いキャラじゃねーか……」
「……空新は、お前に会いたがっていたぞ」
「あいつが……?」
「自分が速やかに本隊と合流していれば、お前はああならずに済んだ筈だと言っていた」
「責任感じてんのかよ……バカだな。そもそも俺が遭難しなきゃ……」
「それと、思い出話が途中だとも言っていたな」

 これは達巳にも一瞬何の事だかわからなかったが、山道で交わした取り留めのない世間話の事を思い出すと思わず眉間を押さえたい衝動にかられた。しかし、今の彼にはそれすら叶わず、呆れたような顔をするしかない。


「細かい事を気にする奴だな……って、それはもういいや。後で本人に会ったときに話すから、本題に戻ろうぜ」

 達巳は煩わしそうにそう言った。それは決して空新と話す事に対してではなく、これから語らなければならない話題に対する億劫さから来るものだった。この場で語られる内容は後に、オンレコとオフレコの選別を経て他者に伝えられるだろう。
今の達巳はD.M.Cにとって最も危うい人物なのだ。




「そうだな。私の予想通りなら、達巳。君は全てを思い出している筈だ」
「いや、残念ながら……島さん、恐らくあんたが一番知りたいところはまだあやふやなままだよ」

 そう言われても冴島は、眉一つ動かしはしない。その表情はあるいは、達巳の言った事の真偽を量っているかのように見える。

「本当だって。母さんに関する事とか、イグドラシルの事とか、結構思い出せたんだけど。……多分まだ記憶のパーツが足りないんだ
 考えてみれば不自然だよな。今日までずっと、俺はスマホだって自由に使える環境にあったのに、デジモンに関わるようになってからも自分でそれを調べようとは思わなかった。 いや、調べて得た知識は全て消されていた」
「ああ……。そうだ、すまない」
「目が覚める前に、そのことについて考えてたんだ。変な言い方だけど、夢の中で考え事してたみたいな感じかな……。
 それでさ、俺に後付けの知識をなるべく入れないようにしてたのは、俺しか知らない事を思い出させるためだったんじゃないかって思ったんだけど、違うか?」

 達巳が横目で冴島に問うた。冴島は無言で目を閉じた。おそらくそれは首肯と同義なのだろう、達巳にはそう見えた。

「余計な知識を入れずに自分から全てを思い出すのを待つというのは、どちらかというと私のとりたかった方法だ。しかし、D.M.C上層部はあまり気長に待ってはくれなかった。だから私は強引な手段に出るしかなかったんだ。
 お前が身を守るためだけじゃなく、進んで戦闘に参加するようになれば恐らく……何かが起こる」
「そうだな……確かに状況は前に進んだよ」

 達巳は静かに納得した表情をしている。自分をわざと危険に晒した事に対して怒って抗議したりするつもりはないようだ。
少しの沈黙が訪れる。冴島がタイミングを計るように大きく息を吸うと、こう言った。

「一応言っておくが、この部屋にはカメラも盗聴器も仕掛けられていない。なんならジャミングもかけてある」

 冴島の言葉を受けて、達巳の死角からちょこちょこと這い出てきたのは騎士も使っていたサーチモンだ。背中のレドームを静かに回転させている彼は、確かに電波などを遮断するのを得意としている。
冴島が大真面目な様子でそれを用意したのかと思うと、達巳は呆れて笑うしかなかった。

「お前の言葉は私が責任を持って上に伝える。それが公式の記録となり、真実になる。
 ロージーにも協力してもらい、これだけは私の希望を通させてもらった」
「そりゃ気が利くな。でもさっきも言った通り、思い出してない事は話せねーよ」
「では具体的には、どこまでだ?」
「例えば、小さい頃の事とか……そうだな。妹は本当に小さかったから覚えてないかもしれないけど、あれは多分俺が5歳ぐらいのときだ。
 ――――母さんが死んだ」

 自分の母親の死を、達巳は呆気なく口にした。そうしなければそこで心にこみ上げる何もかもを全て発露してしまいそうで。そして一度そうしてしまったなら、それは止められないと解っていたから。この場では努めて冷静でいるために。彼は淡々と説明に徹した。

「その時は別に、母さんはデジモンと一緒になんていなかったし。俺も選ばれし子供としての力なんか全然無かった筈だけど。母さんが昔はデジモンと一緒に戦ったことがあるっていうのは、何となく聞いてた。
 もしかしたらいつかちゃんと話してくれるつもりだったのかもしれないけど、凄く優しい人だったから戦うのは嫌いだったのかもしれないし」

冴島からは言葉は無かった。達巳は先を促されているのだととって、話を続けた。

「もう一つ、思い出した事がある。
 母さんが死ぬ少し前、何度か一人の男の子が尋ねてきた事があった。
 多分、中学生ぐらいだったかな。いつも玄関先で追い返されてたけど、その時の母さんの話し方とか雰囲気とかが異様だったから記憶に残ってたんだと思う。つっても、今までは忘れてたんだけどな」

 長く言葉を発するのはまだ辛いのか、達巳が長めに息を吐いて台詞を中断した。
 それを気遣い、冴島が声をかけようと口を開いたタイミングだった。達巳がほんの少し語気を強めて言った。

「ダイチ君。て、呼ばれてたな。その子」

 冴島が出しかけた言葉を飲み込むように口を閉じた。彼は一瞬目を逸らしたが、すぐにその視線は再び達巳に向けられる。
 横になったままの達巳と視線がぶつかった。
 
「ああ、巴さんのところには何度かうかがった事がある」
「やっぱりアレは島さんだったのか。
 でも、あの時はよくわからなかったけど……。確か、選ばれし子供とか、デジモンとか、戦いがなんとかって言ってた筈なんだ。
 島さん、あんた――随分若いときからD.M.Cに居たんだな?」

 達巳は冴島に視線を投げかけ続けている。彼が今、殆ど唯一自由に動かせるそれを敢えて逸らそうとはしない。

「母さんが選ばれし子供としてD.M.Cに勧誘されてたっていうのは頷けるけど、だったらなんで中学生の子供を交渉に寄越したんだ?
 空新だって高校生だし、D.M.Cも人不足で若年雇用が多いのかもしれない。でも当時はD.M.Cも公の機関だったんだよな。
子を持つ親に子供を差し向けて同情をかおうとしたのかっても思ったけど、やっぱりおかしいよな」
「……」
「島さん、あんた何者なんだよ?」

 冴島は一旦達巳から視線をそらしてどう答えるべきか逡巡したようだったが、逆にそれが答えになってしまっていると気づいたのだろう。徐に帽子をとると、よりかかっていた壁から一歩前に出て言った。

「……私は、元選ばれし子供だ」



 温泉街の斜面の根元。川と木々に挟まれて奥まった場所に、D.M.Cの管理する観光ホテルのもう一つの入り口があった。そこは上階に設けられた一般客用のフロントとは違ってわざと目立たないように作られている。
こちらは普段、隊員たちが一般人の目に触れさせたくない装備や機材を出し入れするのに使われているのだが、本日は特別にお忍びの客を待つために解放されていた。

「しっかし、土砂災害の件も落ち着かねぇってのに。予定よりたった一日遅れのご到着とは」
「本来の目的はD.M.C側にあるのですから、当然でしょう」

 やれやれと言った風にぼやくロージーに対し、やや硬めの声色で空新が答える。

「そんなこと言ってお前、育ての親父が会いに来てくれるっていうんだからもうちょっと嬉しい顔してもいいだろう」
「私に会いに来るわけではありませんよ。それに、あの人が施設の長を兼任していたのは昔の事ですから。形だけの役職でしたし」
「そうだな。今は児童保護施設どころか、もっとお偉いところの長になっちまった」

 ロージーがそう言って顎を撫でたタイミングで丁度、一台の車が滑り込んできた。
お忍びというのは建て前なのかと思えるほど、見た目に高級車だとすぐ解るような黒塗りの車に空新の眉がやや寄せられた。
ロージーの傍らに控えていた従業員が車の後部座席に駆け寄る。ドアを開けた者に軽く手を上げて応えながら出てきたのは白髪の男性だ。
カッチリとスーツを着込んだ男性は、見た目にはおよそ社会の第一線を退いた風ながら、どこか迫力のある矍鑠とした雰囲気を漂わせている。誠実そうに整っていながら鬣のように見える髪型も、勢いと頼もしさを感じさせた。
男性はしっかりとした足取りで立ち上がると、ロージーの方を向いて頷き、続いて空新に向けて微笑んだ。




「元、選ばれし?」
「今はもう、選ばれし子供としての力は失っている。いや、あの力は捨てた。
 私は選ばれし子供である事から逃げたんだ」
「選ばれし子供じゃ無くなる方法があるってのか?」
「そういう事だ」
「じゃああんたは"見放されし子供"だな」

 一瞬、右上の虚空に視線を投げてから達巳はそう言うと、自分の言葉を馬鹿にするように笑った。


それと同時に、入り口ドアの隣の壁が派手に弾け飛んだ。

 まるでコント番組のセットの壁をぶち破ったかのような絵面だが、この部屋は地下なので壁は鉄筋入りのコンクリートで出来ている筈だ。スチロールほど軽くない破片は壁だった場所から遠くない所に散らばり、灰色の粉塵が部屋を満たした。
たまらず達巳が咳き込んだ。激しく呼吸すると未だに肋骨の辺りが痛んだ。

「そのネーミングは流石にいかがなものかと思うぞ」
「こっちは怪我人なんだからっ……うっ、げほっ……もうちょっと優しく登場してくださいよ!」

 灰煙の中からした声は達巳の予想通りだったのか、大して驚いた様子もなく彼は文句を言った。ふと、冴島の方を振り返ると既にガンデヴァイスを取り出して構えている。

「何処から入った!? 待て、明宮流! 達巳はまだ……」
「今、彼を連れて行けば、彼は彼の意志とは関係なくここを去った事に出来るでしょう?
 それにもう、貴方のやり方じゃ限界だと思いますよ? やっぱり達巳君には決定的なキーが必要なんです。この子は……デジタルワールドに来る必要がある」

ジッポーライターが変形したデジヴァイスを構えながら、明宮流は素早くベッドに駆け寄ると片手で達巳の体を持ち上げて肩に担いだ。そしてそのまま、自分が新しく開けた出入口から歩いて出て行こうとする。達巳の腕に繋がっていた点滴のチューブは迅速かつ乱暴に引き抜かれた。

「あだっ! ちょ、俺まだ首から下が上手く動かないんですよ!?」
「大丈夫だ。向こうにもそのぐらいの人間の面倒を見る設備は整えてあるさ」
「くっ……! 達巳を放せ!」

 冴島のガンデヴァイスが閃光を上げる。しかし彼の撃った弾は明宮流の手前で何かに阻まれて落ちた。粉塵の中に目を凝らすと、肉食恐竜の顔から脚だけが生えたようなデジモンがいつの間にか彼の護衛に回っていた。

「ガオスモンが痛がりもしない。模擬弾か何かですか? ……相変わらず優しいんですね」

 少し目を細めながらそう言って、明宮流は部屋を出て行った。



「侵入者だと!? 馬鹿野郎、警備は何してやがった!」
「それが、モニタールームを中心に殆ど昏倒させられていて……」
「くそっ……お前らそれでもプロか! 後で全員訓練追加だ!」

 客人と共に地下の廊下を歩いていたロージーの元に、一人のD.M.C隊員が持ち込んだ知らせは空新の表情を焦燥のそれへと変えた。
 ロージーに激を飛ばされた隊員が取って返した後、二人は申し訳なさそうに背後のVIPを振り返る。

「申し訳ありません、委員長。先日の事件以降、ワイルドセブンの動向には警戒していたんですが……」
「止めなさい。今は君に弁明や謝罪を求ている時ではない。
 直ぐに全力で対処にあたりなさい」
「りょ、了解しました!」

 ロージーは客人の前で直立の姿勢に直ると、その場を空新に任せて踵を返した。
残された空新は一瞬、不安げな表情を見せかけたが、すぐに気丈なD.M.Cとしての顔に戻って客人に向き直った。

「委員長、一先ず安全な所へお連れします。私に付いてきてください」
「待ちなさい、煤吏君。……いや、空新」

 名前を呼ばれた空新は、振り返りかけた姿勢のまま体を強ばらせた。

「他にだれもいない時ぐらいは、私をどう呼んでも構わないんだぞ」
「そういう訳にはいきません。こうしてD.M.Cに入っている以上、
貴方は私の上司であり、ここでは守るべきお客様なのですから」

 伏し目がちにそう言う空新を残念そうに見返すと、威風あるVIPはこう切り返した。

「そうか。では、改めて聞いてもいいかな?
 ……このような事態に置かれた場合、君はどうすべきだと思う?」
「ですから、先ほど委員長が仰られたように全力で事態を――」
「そういう事ではない。まったく、私を見くびってもらっては困るな。
 解りやすいように言い方を変えよう。君は今、何をすべきなのか。
いや、というより……君は、どうしたいのかね?」

 かけられた言葉の真意を測りかね、空新が客人の顔を見返した。しかし覗き込んだ筈の双眸は逆に、空新の心のうちを問いかけるように視線を返してくる。
 一瞬、自分の思考を覗かれたような違和感を覚え、空新は驚いた。だが直ぐに、幼いころから面倒を見てもらっているこの人に置いては、そんな気がしても当然かもしれないと思い直した。
 そして改めて、自分の取りたい行動を伝えるために元D.M.C児童養護施設長であり、現D.M.C委員長を務める男――泉純――の顔にもう一度向き合ったのだった。



 医務室を出てから6度目の角を曲がり、人を一人担いでいるとは思えない軽快さで明宮流は廊下をかける。

「お、おい! そっちは出口じゃなっ……っていうかなんでこんなグネグネ走ってるんですか?」
「勿論、追っ手の裏をかくルートを選んでいるからね。ここの見取り図を頭に入れるのも大変だったんだから、少しは褒めてくれてもいいんじゃないか? 達巳君」

 確かに先ほどから常に遠方で騒がしい声は聞こえているが、D.M.Cの集団に鉢合わせるような事はなく、少数と遭遇することはあっても相手は不意を突かれた反応をするため大した抵抗も受けずに突破できている。

「えぇ? あ、頭いいんですね……って、言ってる場合ですか!」

 ついノリで褒め言葉を口にしてしまった達己に笑顔で礼をいいつつ、明宮流はとある壁の前で立ち止まった。一定の範囲を軽く拳で叩くようにして何かを確認すると、デジヴァイスに収納していたデジモンを出現させて壁に攻撃するよう指示する。

「アタリだな。達己君、もうすぐ外に出られるぞ」

 破壊された壁の向こうは広めの空洞になっており、色とりどりのゴミ袋がうず高く集積されている。
 障害物ばかりで見通しの悪い中、明宮流は躊躇いなく中へ踏み入った。どうやら出口の場所は判っているようだが、室内のカーゴやコンテナの位置は多少日替わりらしく、やや回り道を強いられながらも足早に進んでゆく。
 しかし、とあるコンテナの間を抜けたところで突然何かが弾けるような音がして、明宮流は反射的にコンテナの陰に飛び込むようにして身を隠した。
 数秒の静寂を挟み、何者かの足音が達巳に向かって歩み始めたのが聞こえた。

「まさか、君が来るとはね。煤吏君」

 表情だけは諦めたような薄笑いを浮かべながら、明宮流はコンクリートの壁を伝う残響に向けて言葉を投げかけた。

「あえて誰も指示しないような、セオリーとは逆のルートを選びました。神抱明宮流、今までもこうして我々の追跡を逃れてきたようですが、今度は逃がすわけにはいきませんよ。廻さんを返してもらいます」

 ガンデヴァイスを構えた空新がゆっくりと明宮流の隠れるコンテナに向かって進んでくる。

「逃がすわけにはいかないか……。それは、D.M.Cの隊員としてかな?」
「詰まらない会話に付き合うつもりはありません。この狭い地下ならあなたの主力デジモンは展開できないはずです。大人しく投降しなさい」
「つれないな。確かに、ここでは君が有利だ。でも、だったら少しくらい質問に答えてくれたっていいじゃないか。
 君は個人的に言って、達己を取り戻したいのか? どうなんだ?」

 そう聞きながら、明宮流がコンテナの間を素早く移動する。
 すかさず空新が銃を向けるが、達巳を抱えた相手に迂闊に発砲は出来ない。その隙に彼はまた、別のコンテナの陰へと隠れてしまう。

「あなたのしている事は誘拐ですよ? 被害者を連れ戻そうとするのは当然の事です」
「では、達己君を取り戻すという行動はあくまで義務感から行っている事で、君の個人的な気持ちでは彼はどうなろうと知った事じゃないって事だね?」

 明宮流の台詞の、その語尾だけで彼がニヤリと笑ったのが空新にも判った。

「ちょっと明宮流さん。いったい何を話して……」
「いいから、達己君は黙っていたまえよ」

 槍玉にあげられた達巳が口を挟もうとしたが、意味ありげな表情の明宮流に口を塞がれてしまう。
 今度は答えに迷っているのか、空新からの返事はない。数秒の沈黙が流れ、明宮流が再び移動しようとしたところで、その場に4人目の人物の声が木霊した。

「久しぶりだな、明宮流君」
「その声……。もういらしてたんですか、泉委員長」

 しわがれた。という表現を使うにはまだ早い淀みの無い声の主を、数年ぶりであるにも関わらず明宮流はすぐに言い当てた。

「君の事だ、大方私が来るタイミングを狙っての侵入だったんじゃないか?
 私がここに来るとなれば、厳戒態勢がしかれるが、隊員の動きも読みやすいだろう」
「その隊員さんたちは何をしているんですかね? 大事なVIPをこんな危ないところに放り出して?」

 明宮流がまたコンテナからコンテナへと移動する。今度は銃口を向けられた気配もない。
まさか、要人の身を案じて戦闘を避けようというのか。明宮流の頭にそんな考えが過った瞬間、彼の腹部を強烈な痛みが襲った。
 思わず悶絶し、明宮流は膝を折る。起用にも達己の体を落とす事はなかったが、代わりにそこに手をかける者が居た。

「生身でこの力か……。最近の女子高生は怖いんだな……あぐっ……」
「単なる女子高生ではありませんので。廻さんは返してもらいますよ」

 明宮流の死角から忍び寄り、腹部に強烈な膝蹴りを見舞って見せた空新はやや息を荒げながら達己の体を引っ張る。しかしそれでもまだ、明宮流は達己を放そうとはしない。
 それを見た空新が今度は明宮流の顔面に蹴りを入れようとしたが、二撃目はきっちりガードされてしまった。ならば仕方ないと、空新がガンデヴァイスを取り出して明宮流に突きつける。

「まったく、真面な法治国家らしからぬシチュエーションだな。仮にも政府機関のする事じゃない」
「止めろ、空新! 明宮流さんを撃つな!」
「残念ながら貴方には射殺の許可が出ています。ここはD.M.Cの施設内ですので、何があっても全てが丸く収められる事になります」
「だろうな。それも――貴方の指示ですか? 泉さん!」

 明宮流は発言の途中で空新から視線を外し、彼方でこの会話を聞いているであろうD.M.C委員長に会話をふった。対して、含み笑いのような声が聞こえた後で、泉はこう答えた。

「いやいや、今回の行動に関して私は何も具体的な指示は出していない。ただ、思う通りにしたまえという許可を与えたのみだよ」
「はぁ、思う通りに。なるほど。
 達己君、愛しの彼女のお迎えだ。残念ながら今日の逃避行はお預けらしい」
「いや、明宮流さん。ちょっと意味わかんないんですけど……」

 明宮流が大げさに首を振りながら達己の体を放す。彼の肩に乗っていたそれを、空新が明宮流に銃口を突きつけたまま器用に担ぎ上げる。だが、達己の体は担ぎ上げられたそばから彼女の腕をすり抜けて、するすると宙に浮かび上がった。
 よもや、またしてもプライマリーハートの力なのか。咄嗟に空新が達巳の足首に飛びついた。達巳が小さな悲鳴を上げる。
 しかし、今の彼は以前のように光を放ってはいない。彼自身の意識も保たれている様子で、戸惑いの声が聞こえる。

 すると、天井に届きそうな程に持ち上がった達己の体が急角度で進行方向を変えた。まるでクレーンゲームに吊り上げられた縫い包みの如く、機械的な動きであらぬ方向へと飛んでゆく。

「うおっ、ど、どうなってんだコレ!?」
「しまった、まさか!」

 空新がそう叫んだがもう遅い。達己の体は一本釣りにされる鮭のように、とあるカーゴとコンテナの間で静止した。そこで空新の体にだけ別方向の力が加わり、達巳から引きはがされる。空新はそのまま一つのコンテナの上に投げ出された。
 この時、空新自身が何が起きているのか体験して理解し、そして思い出した。

 そしてやはり、達巳だけはまっすぐに落下し、その下に待ち構えていた赤い服の女性の腕へと着地した。その衝撃が病み上がりの体にこたえるのか、達巳は大きめの呻き声を漏らした。

「遅いぞ騎士。間を持たせるのに苦労したんだからな」
「煩い。こっちは地面の中を進んでいるんだぞ? 普通の待ち合わせと同じように言ってくれるなよ」

 はっとして空新が元居た場所を見ると、膝をついていた筈の明宮流の姿がない。空新が上方の達己に気を取られている間に、下方では明宮流も同様に逃げおおせていたのだ。そう、二人を奇術の如く操作したのは、目に見えないほどの蜘蛛の糸。赤い服の女、アルケニモンがまんまと部屋中に張り巡らせた仕掛けによるものだった。
 
 騎士の姿は見えないが、文字通りどこかで糸を引いているのだろう。空新は騎士の人を見下すような目付きを思い出して歯噛みし、走り出そうと一歩目を踏ん張った。
 だが、そのタイミングで部屋中を大きな衝撃が襲った。仕方なく姿勢を低く保ち、様子を伺う空新の目の前で部屋の壁や天井が無秩序に爆発を始める。

「荒っぽいけど、逃げるときはこういうのが一番確実なんだよね」

 スカした子供ような声のする方に目を向けると、いつの間にか壁際まで移動していたアルケニモンと達巳、そして騎士が壁に開けられた大きな穴から脱出しようとしているところだった。そしてまた、狙い澄ましたかのようなタイミングで爆発が起き、空新と三人の間の天井が崩れて分断される。

「待て! 丹崎騎士……私はまだっ!」

 空新が辛うじて握っていたガンデヴァイスをこめかみに押し当てる。しかし引き金を引くのと同時にすぐ側で爆発が起き、コンテナが大きく傾いた。弾丸はあらぬ方向へと飛んでゆき、彼女の体は弾き飛ばされる。
 そのままアスファルトの床へ叩きつけられた空新は全身の痛みに襲われながらも必死に上半身を起こした。

 そこで不意に激しい頭痛を覚え、思わず後頭部を押さえる。
 照明が落ちた暗い地下で判別できたのは、右手に触れたのが粘着質の流体だという事だけだった。

 そこで、彼女の意識は途切れている。

ID.4698
 
■投稿者:Shot-A 
■投稿日:2017/03/26(日) 22:40


慈愛的作者の後書き
ヒャッホーゥ! シュミレィション!

はい、どうもー。感想返信はまた後で。
感想ありがとうございます。


はい、感想、誹謗、中傷、告白、質問、誤字・脱字の指摘は大歓迎で受け付けております。
テンプレ+1です。


では、以下感想返信で。


>>夏Pさん

どうだっけなー。ウイルスだっけかー。忘れちまったな。
でもアイツ、元々色黒やん?

ケレスモンメディウムは美味しそうだよねぇ。

正直クラヴィスエンジェモンは資料探すのにめっちゃ苦労しました。
なんだよゼニスゲートって!? 詳細判らないからアニメに出てくれよ!

冴島さんは究極体を操るのが得意なフレンズなんだよ。
凄いじつりょく(下ネタ)なんだよ。

メイルバードラモン活躍させたかったんです。ただそれだけですこの編。


ではまた。次回をお楽しみ贄。

ID.4699
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2017/03/26(日) 23:00


君は感想(い)き延びることができるか
 そーいや前回で過去に知らない天井何か秘密があるようなことが匂わされてましたが、ていうか冴島さんが元選ばれし子供だったのは割とバレバレだったぜ姫ちゃんよりもな! そう考えると明宮流氏は加持さんみたいなポジションなんだろうか。
 デジタルワールドは絡んで来ないのかなと思ってましたが、なんかそっちの方面に進んでいきそうな予感。テイマーズ中盤を彷彿とさせる展開、さてさて組織もズェークトの諸君ばりに胡散臭くなってまいりました。
 それにしても今回殆どデジモン絡んでねーな年配者だからか、このおっさんなかなかに良いことを言う。思った通りに行動しろ……か。つまり愛か。普通の女子高生じゃないにしても、体術あり許可出てるにしても躊躇わず射殺に移れる空新ヤバない。やはり愛か。
 今回まともに出番あったデジモンはガオスモンだけ……? 何気にブラストモンといい、クロスウォーズ系のデジモンが積極的に出てくるのはナイスだ! でも組織のきな臭さが増してきてるから不穏でもある。

 次回もお待ちしています。