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ID.4668
 
■投稿者:Ryuto  HOME MAIL
■投稿日:2016/08/12(金) 00:00
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幾千のアポカリプス 覚醒矛盾“8/少女の真実”
         
 これがパラサイモンだ。
 またの名をメディア・ディーラーとも言い、破綻者集団アンノウンの黒幕とも呼ばれ、最近では樹有香と名乗っている。
 デジタル・モンスターの進化における最終段階・究極体にまで到達していながらも、単体の戦闘能力は成熟期と同じか、それにすら劣る。その代わりに、彼女――または、彼女たち――は、他のデジタル・モンスターに寄生し、宿主の行動から思考回路に至るまで意のままに操る特殊な能力を持っていた。
 弱肉強食のデジタルワールドにおいて、彼女は決して表舞台には現れなかった。彼女は常に、他の有力なデジタル・モンスターの背後で蠢いていた。ある時は究極体を操って領域を破滅させ、またある時には彼女が長い年月をかけて作り出した、同族によるネットワーク――パラサイモンのもう一つの武器――を活用し、戦争の結果をコントロールした。
 やがて、ユグドラシルの崩壊によりデジタルワールドのキャパシティに限界が訪れていることを悟った彼女は、選ばれし子供(メシア)システムに着目した。
 これを活用すれば、デジタル・モンスターはリアルモーメントへと顕現することができる。遠くない未来に新天地を求め、多くのデジタル・モンスターがこのシステムを活用することは容易に想像できた。長い歴史が示すように、需要があれば供給する者が現れる。そして、供給する者は事態を操ることができる。
 パラサイモンは、デジタル・モンスターをリアルモーメントに顕現させることを生業とするメディア・ディーラーとなった。
 彼女はデジタル・モンスターの見返りを求めない。媒体を供給することそれ自体が彼女にとっての益となる。
 リアルモーメントで起きた戦争は、パラサイモンにとってはただのおまけ、茶番だ。居場所を求めるデジタル・モンスターは、今や彼女の援助なしではリアルモーメントで生きることはできない。これまでがそうであったように、最後に勝つのは常に彼女だ。



●●8/少女の真実●●



 緑色の触手と、機械型デジタル・モンスターたちの乱戦はそれほど長くは続かなかった。総崩れになり、暴れ、倒れていく機械型デジタル・モンスターたちの間を走り抜け、丘岬アンナは掌を触手に向ける。白い光弾が何本かの触手を弾くが、その数倍の数の触手がまた現れ、彼女と拓人を襲う。シールズドラモンとリボルモンが、二人の死角に飛び込んでくる触手を攻撃するが、それにも限界があった。裏次元の大穴から伸びる触手は徐々にグラウンドに浸食し、アンナたちは逃げ場を失っていた。
 ふいに、グラウンドの中心で光を放つ大穴から、触手とは違う巨大な影が現れた。輝きの中で逆光になっていても、そのシルエットには見覚えがある。全身が機械で覆われたデジタル・モンスター、メタルエンパイアの首領が戻ってきた。
「……ムゲンドラモン……?」
 アンナだけではなく、拓人やシールズドラモンたちも、一瞬彼に目を奪われた。今の彼は半透明ではなく、はっきりと実体化している。魔法陣が発動した直後、彼は見えなくなり、有香とともに姿を消した。ほぼ同時に触手との乱戦になったため、はっきりと視認した訳ではなかったが……。
 彼はパラサイモンに勝利したのか? 樹有香の肉体を獲得し、裏次元の大穴から脱したのか?
「ムゲンドラモン、ねぇ、ムゲンドラモン! 有香……パラサイモンは!? 奴はどこ!?」
 両腕を翼に変化させ、目前に飛びかかってきた触手をものともせず、アンナはムゲンドラモンに接近した。機械竜の胸部の上に立ち、眼前で彼を問い詰める。機械竜の赤いカメラアイが、アンナを捉えた。
「ここよ」
 アンナの問いかけに答えた声は、合成された低い機械の音声ではなく、ついさっきまで魔法陣の中心にいた少女のものだった。同時に、機械竜の胸部のハッチが開き、その中から無数の触手が飛び出す。今度こそアンナは避けきれず、無数の触手に四肢と胴体を絡めとられた。
「っ!?」
「そんなに私が恋しかった?」
 機械竜の右肩に、背中から紫色の脚を生やした、白い髪の少女が腰掛けている。彼女は無数の脚をゆらゆらと遊ばせながら、腕を失った右肩から伸びる触手をアンナに近づけた。
「普段のあなたなら、不用心にムゲンドラモンに近づいたりしなかったんじゃない?」
 パラサイモンは有香の顔で笑った。触手を振り解こうとするアンナを楽しそうに見つめている。
「あんたが……殺した……!」
 シールズドラモンとリボルモンは拓人の両脇に立ち、それぞれ武器を構えていた。今すぐにでも二人の間に割って入り、アンナを解放したい。しかし、周りを触手で囲まれ、全身が兵器の塊であるムゲンドラモンまで寄生されていては、迂闊に手が出せない。
 拓人はアンナを見つめていた。彼女の眼には、視線だけで人を殺せそうなほどの怒りが籠っている。拓人は人生で一度も、ここまで激怒した人間を見たことがなかった。
 そして不思議だった。パラサイモンは何故、アンナにこれほどの怒りを抱かせたのか。
 パラサイモンは一体、誰を殺したというのか。
「うんうん、そうよね。私が憎いのよね」
「私が……私が、あんたを殺す……!」
「それは、どっちのあなたかしら? 私が殺した方? 中身の方?」
 怒りに満ちたアンナの瞳には、いつしか涙が浮かんでいた。
「アンナの代わりに、私があんたを殺してやる!」



 こうなってから、ずっと戦ってきた。
 私のことを一番よく知っているあなたは、死んでしまった。
 こんな有様だったから、私はひとりぼっちで生きていくしかないと思っていた。
 私は、本当のことを隠した。
 あなたの仇を討つために。
 でも、実際には私は、その倒すための敵に従っていた。
 私の復讐は、とっくに失敗していた。



「偶然って怖いわね」
 アンナの怒りの叫びは、拓人には理解できないものだったが、パラサイモンにとっては違うらしい。彼女は頷きながら、アンナと眼下に並ぶデジタル・モンスターたちを眺めていた。
「外見は参考にならない。今この場にいる、人間の形をした三人は全員、人間のものには見えない腕を持ってる」
 拓人はパラサイモンを睨んだ。
「何言ってんだ」
「事情を知らない人のために、ひとつ大事なことを教えてあげる。人間の肉体にデジタル・モンスターの身体の一部が現出するなんて、普通はあり得ないことなの」
 樹有香の右肩から生えた触手が、身動きの取れないアンナの、白い右腕をなぞる。アンナはうなり声を上げながら身体を捻ったが、触手から逃れることができない。
「イレギュラーが発生する原因は二つ。憑依したデジタル・モンスターが肉体を維持できないほど弱体化しているか」
パラサイモンは樹有香の眼を細め、拓人の右腕――包帯の巻かれた腕――をじっと見つめた。
「あるいは」
「言うな! やめろ!」
 アンナの怒声を、パラサイモンは意にも介さない。それどころか笑いを浮かべている。
「肉体の持ち主がとっくに死んでるか」
 何度も響いていた喚き声が、突然聞こえなくなった。代わりに聞こえてきたのは、すすり泣く音。触手に縛り上げられた少女は、顔を拓人たちとは反対の方向に傾け、小さく震えていた。
 拓人は、前日の戦闘で覚えた違和感の正体を知った。一年前にキメラモンと戦って傷つくまで、冥府の管理者の一部が自分の身体に現出することなどなかった。つい最近出会ったこの少女は違う。完全な状態のデジタル・モンスターが少女に憑依し、少女もその肉体を維持したまま、その力を使いこなしていた。
 普通の破綻者には、そんなことは不可能だ。
 だが、丘岬アンナは……。
「私ね、記憶力は良い方なの。アンナのことだってちゃんと覚えてるわ」
「この……!」
「あなたにとって命よりも大事なパートナー、かわいいかわいい丘岬アンナ。昔誰かが言ってたけど、死ぬ前に見せる顔が人間の本性なんですって。彼女が最期に、どんな顔してたか教えてあげましょうか?」
「ふざけるな!」
「ふざけてなんかいないわ。失われた命のことを想って仕事してるだけ」
 パラサイモンは憐れむような視線でアンナ――その肉体の中にいる相手――に語りかけた。
 ところで、とパラサイモンは付け加える。視線を拓人に移し、その右腕を指した。
「その腕、冥府の管理者よね?」
 心臓が跳ねる。パラサイモンの眼は、包帯に巻かれた腕の中を見通しているようだった。彼女と出会った時、拓人は確かにこの腕を晒した。まさかパラサイモンは、彼とも面識があるのか?
「ダークエリアから消えたことは知ってたけど、まさか人間に憑依してるとはね。あなたはアンナとは違うでしょう? 人間に化ける理由なんてないものね」
 それまでアンナに注がれていた嗜虐心の籠る視線が、今度は自分に向けられる。冷水を垂らされたような感覚が背中を襲った。
「冥府の管理者には昔からお世話になってたの。あなたのことを見てから、どうすべきか色々考えてはいたんだけど」
 有香の身体から生える触手の一本が、アンナの眼前に伸びた。それは彼女の小さな悲鳴を無視して、先端を後頭部にゆっくりと移動する。
「あなたたち二人で殺し合うって、面白そうじゃない?」
「ひっ……!」
 ゆらめいていた触手が、彼女の首に襲い掛かった。



 後頭部に、冷たく湿った軟体が急速に近づいてくるのを感じた。
 そしてそれが、どこか遠くから放たれ、肩を掠めた炎の矢によって弾け飛んだことも。
 目の前の少女は何が起きたか分からないという表情で、周囲を見渡していた。
 その間にも二発、三発と炎の矢が放たれ、その度に周囲で揺らめく触手を正確に射抜き、焼き切っていく。
 四本目の矢が放たれた直後には、自分を縛り上げていた触手から力が急に抜け、遂に身体が解放された。ムゲンドラモンの足元まで移動していたシールズドラモンによって受け止められる間にも、頭上を三本の矢が通り過ぎた。
「誰!?」
 有香の動揺する声など聞いたことがなかった。この一年間で、樹有香にとって初めて想定外の出来事が起きたに違いない。
 その原因は、視界の中にいた。
 グラウンドの端、粉々になった小屋の瓦礫の上に立った鎧武者の竜人が、身の丈を超える大きさの弓を構え、黒く燃える矢を構えていた。



 二本の菊燐の柄を連結すると、淡く輝く弦と黒い炎が纏わりついた矢が現れ、刃の先端と先端を繋ぐ。連結部分を握ったまま左の拳を標的へ向け、右手は左腕と高さを合わせ、弦を強く引く。左手の人差し指が標的を定め、右手から弦を解放する。
 菊燐を使ったもう一つの技・燐火撃。燃える矢が、今度は拓人とリボルモンの周囲で蠢いていた触手を貫通し、焼き切った。
「しぶといわね、ガイオウモン」
 数十メートル先で、ムゲンドラモンの肩の上にいる少女が竜人をようやく視認し、睨んだ。
「アンナ、逃げろ」
 竜人は次の射撃の準備をしながら、とても落ち着いた、普段と変わらない喋り方で呼びかけた。丘岬アンナ――少なくとも、そう呼ばれていた少女――は、シールズドラモンに抱えられたまま、身を乗り出すようにして叫ぶ。
「ガイオウモン!」
「逃がさない」
 またしても新たな触手が伸び、アンナたちに迫る。が、それも燐火撃によって即座に貫かれ、消滅する。
「……ちょっと。あなた、ねぇ」
「奴らを解放し、このくだらん穴を閉じろ」
 再び黒い炎が飛び、緑色の触手が根元から引き千切れる。パラサイモンが視線を竜人に戻せば、既に次の矢の発射体制が整っている。
 今度は二本同時に放つ構えをしている。
「この……!」
 腕から生える触手をガイオウモンに向けて伸ばす。一瞬で千切れ飛ぶ。
 裏次元の大穴から伸びる触手を動かす。貫かれ消滅する。
 何度やっても同じだった。どれかを動かす度、必ず貫かれる。
 そして十本以上の触手が貫かれた後、放たれた矢の内の一本が、まだ開いている裏次元の大穴に飛び込んだ。燃え盛る矢が、緑色の光の中で何かに突き刺さり、そこから生えていた数十本の触手とともに消えていく。黒い矢が大穴に潜んでいた同胞を即死させたことを、パラサイモンはすぐに理解した。
「あの中に居れば安全だとでも思ったか?」
 ガイオウモンは再び弦を引き、二本の矢を構えた。
「次は二匹殺す。その次は三匹だ。隠れてる二匹と、貴様の頭を同時にやってもいいが」
「……」
「もう一度言う。大穴を閉じろ」
 パラサイモンはしばらく何も言わずにガイオウモンを見つめていたが、彼の要求を呑む以外に被害を減らす方法を見つけられなかったのか、デジメンタル・プログラムの入った小瓶を握る触手を降ろした。直後、魔法陣から天に向かって伸びる光が輝きを失い、急速に消えていく。数秒後には、グラウンドに描かれた魔法陣の上には何もなくなっていた。
「ムゲンドラモンの身体から離れて、この場を去れ」
 二つ目の要求に、パラサイモンは顔をしかめた。
「そんなにいくつも従うはずないでしょ?」
「そうか? 臆病者ならそうすると思ったのだが」
 ガイオウモンは嘲るような視線でパラサイモンを見つめながらそう言ったが、アンナはその直後、彼が一瞬自分たちの方へと視線を移したことを見逃さなかった。僅かなアイコンタクトで分かる。彼は時間を稼いでいるのだ。自分たちを逃がすために。
「そうやって見誤ることが」
 何か重いものが、突然動いた音がした。寄生されたムゲンドラモンの、メガドラモンと同じ形をした右腕のツメが開く。その中にあるのは、既に発射準備の整ったミサイルだ。
「あなたの弱点よ!」
 何発ものミサイルが同時に発射され、それぞれ別々の軌道を描きながらガイオウモンへと迫る。例え二本の矢がそれぞれミサイルを貫いたとしても、残りを防ぐことはできない。一か八か、ガイオウモンは誘爆を狙い、最短ルートで飛んでくる二本のミサイルに向けて矢を放った。当たり前のように矢は命中し、二つの大きな爆発に続けていくつかの爆発が起きたが……誘爆を回避した残りのミサイルが彼に向かって飛ぶ。
 次の矢を構える時間はなく、ミサイルは彼に着弾した。



「逃げよう」
 アンナがガイオウモンを巻き込む大きな爆発を見たのと、背後にいる拓人の声を聞いたのは同時だった。
「でも……!」
「あいつが言ってただろう?」
 その言葉の主は、まさに今ミサイルの直撃を受けていた。次のパラサイモンの標的は自分たちに違いない。そして彼らに勝てる道理はなかった。そうなる前に、この校庭から逃げ出し、どこかへ身を隠す必要がある。
 アンナは自分を抱えたシールズドラモンと、その隣のリボルモンを見た。できることならば、彼らには拓人に反論して欲しかった。だが、二人の表情を見るに、そうした意見は期待できそうになかった。
「逃げるぞ。アンナ、立てるか?」
「シールズドラモン、後ろ!」
 アンナは巨大なショベルがシールズドラモンの頭上に向かって落下してくるのを見た。間一髪、それの直撃を回避したものの、地面を抉ったショベルは再び上昇し、彼の頭の高さに合わせる。それを左腕で動かしているのは、黄色いペイントが施されたマシーン型デジタル・モンスター、ケンキモンだった。ついさっきまで味方だったこの重機の背中には、何本かの触手と、八本の脚――いずれも、樹有香の身体から生えているものと同じもの――を持った、蜘蛛のような形をした単眼のデジタル・モンスターが寄生していた。
「既に大穴から抜け出してる奴がいたのか……!」
 寄生されているのはこのケンキモンだけではなかった。いつの間にかアンナたちの周囲では、メカノリモンやガードロモン、タンクモン……メタルエンパイアに所属するデジタル・モンスターが、砲塔やミサイルを彼女たちに向けて構えている。どのデジタル・モンスターにも、緑色の触手と紫色の寄生型デジタル・モンスターが纏わりついていた。
「私はさっき、逃がさないと言ったのだけれど」
 寄生されたメタルエンパイアのデジタル・モンスターたちの後ろで、ムゲンドラモンが重々しい音を響かせながら歩を進めてくる。彼に寄生するパラサイモンは、樹有香の声でそう言った。
「てめぇコラ、ふざけんなよパラサイモン! この裏切り者が!」
 シールズドラモンが叫んだが、パラサイモンは有香の白髪を左手で弄り、笑みを隠そうともしなかった。
「メタルエンパイアはムゲンドラモンの軍隊でしょ? そのムゲンドラモンは私と良好な共生関係を結んだの。つまり今、メタルエンパイアを裏切ろうとしてるのはあなたたちの方よ」
「舐め腐ったこと言いやがって……!」
「あなたはどうかしら、リボルモン? そこの二人の……まぁ、少なくとも人間の姿をしてる二人を引き渡してくれたら、あなたを迎え入れてあげるわ」
 撃鉄を起こす音を聞き、アンナはリボルモンを見た。このカウボーイ風のデジタル・モンスターは、普段は冗談か、自己陶酔的なことしか言わないが、今回は違った。
「申し訳ないが、お断りするよ」
「そう。じゃあ……残念だけど」
 パラサイモンの浮かべた表情は、その言葉とはほど遠かった。
「お別れよ」
 寄生されたデジタル・モンスターたちが攻撃態勢を取った時だった。タンクモンの大砲やメカノリモンのレーザーよりも早く、黒い影がアンナたちの目の前に落下した。
 歪な形状の二本の刀を握った竜人が立ち上がった時には、周囲の機械型デジタル・モンスターたちは既に悉く両断され、データの粒子となって消えていた。
 ガイオウモンが戻ってきた。アンナは表情が一瞬綻びかけたが、次の瞬間にはシールズドラモンに腕を引っ張られ、彼に何も呼びかけることができなかった。彼女の意思とは無関係に、視界の中で彼がどんどん小さくなっていく。
 拓人の言う通りになった。ガイオウモンはアンナに一瞥しただけで背中を向け、再び眼前に立つ巨大な機械竜に対して菊燐を構えただけだった。
「行け。ここは俺の戦場だ」



「大損害だわ。どう責任を取ってくれるのかしら」
 パラサイモンが言っているのは、空中に霧散し、もう見えなくなったマシーン型デジタル・モンスターたちのことか。彼らの死など、毛ほども気にしていないくせに。
「彼女を逃がしてあなたに何の益があるの?」
「俺ではなく、俺の憑依する人間にとって意味がある」
「朱鳥に? アンナは今まで彼女や私たちを騙して生きてきた奴よ?」
「それは俺を倒してから朱鳥に聞け。いずれにせよ、俺も貴様のような下種に従うつもりはない」
 パラサイモンはこの時、この究極体デジタル・モンスターに何らかのトリック――心理的なものと、彼女の能力の両方――を試みることができないか考えていた。彼の所属していた軍隊が滅び、戦友も敵の手に落ちたのだ。普通に考えれば、彼が冷静なままでいられるはずはない。
「あなた、元々はネイチャースピリッツの出身だったわね。メタリフェクワガーモンの策略で滅んだネイチャースピリッツ。これはあなたにとっても仇討ってことかしら?」
「それについては考えたが、どうやら俺は土地に対しては愛着を抱いてないらしい」
 この言葉に皮肉らしい響きは感じ取れなかった。
「いつまで口先の駆け引きに頼る気だ? やる気がないなら――」
 機械と銃砲が起動するいくつもの小さな音を聞き、ガイオウモンは周囲を確認した。彼の周りには再び、何十体もの機械型デジタル・モンスターが集まっている。この様子だと、既にシールズドラモンやリボルモン以外のメタルエンパイアの軍勢は、全てパラサイモンの支配下に堕ちたらしい。
「爆発のダメージを負ってるあなたが、どこまで戦えるか楽しみね」
「楽しみ?」
 ガイオウモンは右の菊燐を上段に、左の菊燐を中段に構えた。普段と同様にとても落ち着いた声で、同志だった相手に刀を向けている。
「戦いの楽しみ方など、貴様には永久に分かるまい」
 何十発ものミサイル、レーザー、大砲が放たれるのと同時に、ガイオウモンは跳んだ。
 先程浴びた爆発は、確かに彼にダメージを与えた。だが、炎の力は元々、彼の得意分野だ。熱は彼に力を与える。身体から炎が溢れ、纏った鎧の一部が剥がれ落ちた。
 機械型デジタル・モンスターに寄生したパラサイモンたちは、彼の回転切りの威力を見て学んだつもりらしい。ガイオウモンを囲んでいるとはいえ、刀が届かない距離までは近づかず、距離を取りながら砲撃してくる。恐らく彼女らは、今の状態では燐火撃を使用できないと踏んでいるのだろう。
 実に愚かだ。
 ガイオウモンは落下しながら両腕を交差させ、近づいてくるミサイルを刃で切り落としながら菊燐を再び合体させた。輝く弦を引き、三本同時に炎の矢を放つ。燐火撃が敵に命中するのを確認する前に、再び三本。彼が回転して着地した頃には、九体のマシーン型デジタル・モンスターが燐火撃に焼かれていた。続けてガイオウモンは合体させた菊燐を回転させ、着地点の近くにいた二体のメカノリモンを両断した。三体目のメカノリモンはレーザーを放つ前に腹部の赤いリニアレンズが貫かれ、そのまま次の砲撃に対する盾として扱われ消滅する。そして彼は、尚も射撃を続ける元同胞たちに躊躇せず燐火撃を放ちながら、身体を傾けて走った。
 狙いはただ一体、山脈のようにそびえ立ち、彼に胸部のミサイルポッドを向ける機械竜だ。

 これがガイオウモンだ。
 彼はかつて、ネイチャースピリッツ領内で名を上げた剣士だった。彼は生まれつき、グレイモン族――キメラモンの素材としてパーツが使われるほど強靭な種族――の中でも随一の戦闘能力を持ち、普通のデジタル・モンスターが一生で経験するそれとは比べものにならない数の戦いを潜り抜けてきた。
 ネイチャースピリッツが滅ぶ遥か前から、彼はより強い相手を求めていた。戦闘種族であるデジタル・モンスターは戦いこそが唯一の存在意義であり、それ以外のことを求めるデジタル・モンスターには何の価値もない。それが彼の哲学だった。
 この哲学は彼をアウトサイダーにした。軟弱な敵とくだらない勢力争いに辟易した彼は故郷を捨てた。そして戦いと強い相手を求め続けた結果、いつの間にか彼はダークエリアにいた。
 どうしてこの地に流れ着いたのかは分からないが、戦いで敗れ死んだわけではないことは確かだ。そしてそのダークエリアさえ、彼の欲求を満たすことはできなかった。そこに堕ち、裁きを待つデジタル・モンスターたちは、戦いを挑む価値すらない雑魚ばかり。辛うじて戦いを楽しむことができそうなこの地の支配者――冥府の管理者や、それを補佐するデジタル・モンスター――とは会うこともできない。やがて彼はそこにも見切りをつけ、まだ見ぬ新天地・リアルモーメントに生きがいを求めた。
 驚くべきことに、そこには彼の興味をそそる相手がいたのだ。
 これまでとは全く違う形で。

 機械竜のミサイルを回避し、菊燐の合体を解いて跳躍する。左手の刀を振るい、胸部の発射口を切り裂いたものの、直後にムゲンドラモンの左手の三本爪が、ガイオウモンの二の腕を切りつけた。
「ぐっ……!」
 身体に走る痛みを無視し、左の菊燐をもう一度振るう。超硬度の装甲が一瞬で裂け、ムゲンドラモンの左肘から下が切り落とされた。握力を失い、左手から刀がすっぽ抜けるが、それを拾う暇はない。
 機械竜の身体はガイオウモンの数倍の大きさを誇るが、それが弱点でもある。これほど間近では、彼のほとんどの兵器は目標を捉えられず、役に立たない。ガイオウモンはムゲンドラモンの左ひざを蹴り、さらに跳んだ。
 目標は、彼の右肩に座る少女。その中に巣食う寄生虫。彼女は焦った表情を浮かべ、肩から触手を伸ばしてガイオウモンに巻き付かせた。彼を絡みとることには確かに成功したが、それで動きを制御できるほどの力はパラサイモンにはなかった。ガイオウモンは右腕を振り上げる。
「待って――」
「待ったは無しだ」
 菊燐の一閃が、触手ごとパラサイモンの身体を走る。熱したナイフで切ったチーズのように、樹有香の首が傾き、根元から裂けていく。
 一センチにも満たない首の皮が残り、辛うじて彼女の頭と胴体は離れずに済んだ。
「酷いじゃない」
 垂れ下がった樹有香の顔は、笑っていた。
 機械竜の背中の大砲が、ガイオウモンに向けられている。それは既にエネルギーを充電し、光り輝いていた。
「――ムゲンキャノン」
 損害を厭わないゼロ距離射撃が、ガイオウモンの身体を焼き尽くす。その火力はガイオウモンの力を失わせ、宙雲朱鳥を身体の外側に引き摺り出すのに十分だった。
 力を奪われ、意識と肉体がリンクすると、強烈な痛みが朱鳥を襲う。何もできず、空中に放り出された朱鳥の肉体に、焦げついた有香の肉体から伸びる触手が纏わりついた。
「……!」
「代償はあなたね」
 緑色の触手が、朱鳥の背中に突き刺さった。















■buck number■
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“1/少女と少年” >>4575
“2/少女と握手” >>4621
“3/少女と取引” >>4626
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“5/少女とと鎧皇” >>4645
“6/少女と媒体売り” >>4656
“7/少女と皮袋” >>4661



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 サークル名は「East*Cycle」、スペースナンバーは東5ホール「つ28a」です。
 お時間ある方はお立ち寄り頂ければ……何卒よろしくお願いします。