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ID.4997
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/06/01(金) 21:00
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それは悪魔の様に黒く 八話 上
         
「黒木さんを殺した犯人を突き止めて欲しいの」

そう言われて世莉は目を丸くした。なんとなく、本当になんとなくだが同じ名字のその人が慕われる様な人なのは理解した。それはそれとして何故自分にそれを聞いてこようと言うのか。

昨日初めて会った先輩、学校に来る用事なんておそらくないだろう先輩。

「……えと、井上先輩はなんで私に?」

「……男子生徒を頼るのはちょっと、アレだから」

なるほどと頷く。酒田先生は平気そうだったが、同年代の男子に対しては恐怖を抱いてもなんらおかしくない経緯の持ち主だ。

ふむ、と世莉は考える。ざっくりと頼れそうなのは三組だろうか。

委員長と葵のいる自警団チーム。ただ体格のいい委員長や長身の葵は恐怖を煽るかもしれないから却下。

次は聖。情報網もありそうだしどちらかといえば小柄で女性、一見良さそうだが、仲介したくとも世莉を目の敵にしている節があるから却下。

となると最後、真田だ。ここは嘉田の協力が得られないと戦力的な不安はあるが、真田の拠点とする喫茶店は信頼してるらしい酒田の目が届く範囲。もし真田が豹変してもマミーモンならばレディーデビモンと戦闘力は互角、嘉田や他の誰であっても協力があれば押さえ込めないことはないだろう。

ちらりと世莉は竜美の方を見た。まだ竜美は自分の席で帰る準備をしているところだったが、視線は確実に世莉と井上を捉えている。

言わないわけにはいかないらしい。

説明を聞いた竜美は真田にその話をしたらあとは任せるんだよねと世莉に確認し、世莉はたしかにそれに頷いた。

でも竜美は信じたと言いながら喫茶店までついてきた。結果的に当然のように世莉についてきた亜里沙と、一人にされると寂しくて死んでしまうとわざとらしく主張した蘭とを連れて五人で喫茶店に。

当然のようにすでにいた縁と竜美と蘭が相席し、世莉と亜里沙と井上が真田とマミーモンのいる席に詰めて座った。

「黒木 藤音さんを殺した犯人を突き止めて欲しいの」

そう言って井上が取り出したのは新聞や週刊誌の切り抜きに、ネットの記事や掲示板を印刷したものをまとめたファイルだった。

「……そうですか。理由を伺っても?」

「知りたい。じゃダメ……だよね」

「そうですね。何故知りたいのかを教えて欲しいです。昨日先生の話にもありましたしましそれが復讐を目的としたものなら受けません。先輩にはデジモンがいない。その黒木さんといるデジモンが強かったならばそれを殺したかもしれない相手もデジモンを連れていると見るべきだ」

真田はファイルを手に取りはしたが開かずに目の前に置き、その上に左手だけ置いた。

「……わからない。仲よかったわけでもないし、助けてもらいはしたけど話したりもほとんどしてないし、ただ、ただこうして生きてるのは黒木さんのおかげだから」

言葉にするのは難しかった。

影響された、だから調べようというのは理由のようで理由になっていない。知らなければ前に進めないというわけでもない。知らないままにこの一年を過ごしてきた。そのデジモンが側にいたなら発作が起きても死なないだろうと思っても、何もしないままにしかし前を向いて一年間を過ごしてきた。

理由をと考えると思い知らされる。自分には知らなきゃいけない理由がない。命を助けられたから、それがどうして知りたいに繋がるのか。言葉にできなかった。

「下手に首を突っ込まない方がいい。先生がそう言ったのはデジモンといる生徒相手だけではないでしょう。昨日の話を聞いて気が動転してるのでは?コーヒー一杯で治るならともかく、治らないならばまた日を改めて依頼して下さい」

真田にそう言われて井上はコーヒー一杯飲んで帰った。世莉達も駅近くまでは一緒に帰った。

「どうしたってこれは真田くんや先輩の答え待たなきゃいけないから手伝うなんてことはしないから」

そう言って四人一緒に電車に乗った。





「さてと……嘉田、少しいいか?」

「嫌だ。断ったけども調査はしたくて相手は自分よりも格上の可能性が高いから戦力が必要なのにみんな帰ったから私に頼むしかないんだろうけども嫌だ」

そこまで理解してるのにと歯噛みしている間に嘉田は常連のおじさんに呼ばれてはーいと高い声で応じながら真田の席から離れた。

「……あの、五浦くんは?」

縁が別の席から身を乗り出してそう声をかけると、真田は少し考えた。

何を考えたかといえば主に絵面だ。スペックとしては問題ないので既に良いとして、その上で絵面を考えていた。

真田はそれなりに男子高校生の体格だが筋肉質という程でもない。一方の五浦は変わりたいという気持ちでした筋トレのせいかそれなりに筋肉質、委員長の様なほぼプロレスラー体格と比べれば確かに細いがなかなかの体格をしている。

同級生で体格に少し差のあるコンビ、あくまで人の形のミイラと申し訳程度に二足歩行の形容し難いキメラ的な怪物。片方は小柄な小動物系ヒロインに片思い、それも怪物的な性質の強い方。

「……アリだな」

物語的にあり。しかも自分が探偵ということは仲が深まったきた辺りでホームズとワトソンの結婚前後のゴタゴタの様なそういう仲違いイベントも期待できる。そう真田は考え、でも実際仲違いするのは嫌だなと少し思った。そもそも仲違いするほど仲が良いわけでもないのは頭からは飛んでいた。

「……ところで連絡先持ってたかお前」

マミーモンに言われて真田があ、と呟くと縁はスマホの画面を二人に見せた。一分前に五浦に頼みたいことがあるというメッセージ、その直後に喫茶店に向かうという返信。

十五分後喫茶店に現れた五浦は私服だった。トートバッグに財布とスマホだけ入れて来た様だった。

縁が要領悪く説明するのを嘉田が隣から補足したりまとめたりするのを聞いて、五浦はなるほどと一つ頷いた。

「俺はやりたいと思う。何にしてもそいつがまだいるなら危険だ」

五浦に付いたデジモン、ディノビーモンも両手でそっとカップを掴んで飲む。縁は口はどこなんだろうとか思わなくもなかったが口のあるらしい位置に持っていったカップの中身は減っていたので、そこにあるんだろうとだけわかった。

「……うん。やるか」

五浦はやりたいと思ったわけではなかった。ディノビーモンもそうだ。でも、変わりたいとは願っている。薄情な人間でありたくない、良い人でありたいし情が深い人でありたい。やりたいわけではないがそうありたい。

「まぁ、とは言ってもやってもらう事は難しい事じゃない。まだあくまで調査の段階だ。調査する俺達が無防備になるのを守って欲しい。死者との対話となると流石に無防備にならざるを得ないからな」

「え、マミーモンお前そんな事できたのか」

「状態によるけどな、一年ぐらいしか経ってないなら話ぐらいは聞けるはずだ……正確な死亡現場でないといけないが、魂ってやつはそう簡単には消えやしない。物理どころか魂を宿してる筈の肉体ですら触れられないんだからな」

死んで三日以内ぐらいならワンチャン蘇生もできるとマミーモンが言うと、五浦はちらりとディノビーモンを見たがディノビーモンは首を横に振った。特にそんな感じの能力はなかった。

「さて、じゃあ行こうか」

あ、少し待ってと縁が言って嘉田の手を掴む。

「なに?」

「もしも二人から助けてって連絡来たら、ゆうちゃんも助けに、その、行って欲しいなぁって……」

「……んー、まぁそれなら私の体力も保つかもしれないけど」

「ゆうちゃんとザミちゃん、みんなでかかってやっと対抗できるぐらい強かったし、頼り甲斐あるし、そう約束してくれるだけでもすごく安心かなって……それに、もし今後委員長にバレたりしたら、更生しましたみたいなこと言わないと襲われるかもだし……」

嘉田は少し悩んだあとで縁の頭を数回撫でた。

「……まぁ、私とザミが強くて頼もしくてかっこいいのも確かだしね?付いては行かないけど助けてって呼ばれたら行くことにする。それでいい?」

こくこくと縁が頷いて、強羅の方に向けてパチっと一回ウィンクをした。一瞬意味を捉え損なった五浦だったがすぐに踏まえて一度咳払いをする。

「……嘉田さん達が後ろに控えてくれているならもう安心だな、な!」

五浦に振られてディノビーモンも頷いて百人力だとかなんとか言うと、見るからに嘉田の口角が上がって行く。五浦としては自分に嫌がらせをし続けていた相手な訳で苦手意識も恨みもあったが、頼もしいのは嘘じゃない。

「……お前どんだけ褒められるのに飢えてるんだよ」

真田が呆れた様に言うも口角が下がらなくなった嘉田には意味がない様だった。

まぁいいだろうと真田達は踏切に向かう。普段は真田はそこを通ることはないが近くに住んでいる真田には大体の事故の起きた時期さえわかればどの踏切かわかった。

しかし、その踏切に着いてすぐマミーモンは首を傾げた。

「ここにはいないな……少なくとも十数年ここで死んだ人間はいない。デジモンもいないな……」

まさかと思って真田が検索して調べる。そこに書いてあるのは間違いなく今真田達のいる踏切だった。

「……なぁ、死んでからここに投げ込まれた場合はどうなるんだ?死者はここにいるものなのか?」

五浦がそう問いかけるとマミーモンは首を横に振った。

「死ぬって事は例えるなら魂と体を繋ぎ止めるアンカーみたいなものが体から外れる事だ。体からってのがポイントで、アンカーがあるからアンカーが風化するまでは魂はそこに繋ぎとめられる。肉体を動かせば魂はそこに置き去りになる」

真田は他に何かわかる事はないのかというとマミーモンはやってみると這い這いになって線路の脇から供えられた花まで隅々まで調べ始めた。

「つまり、黒木 藤音はここに棄てられる前に死んでいた。実際の殺害現場は先生が見たという校内か……それとも先生に見られたから移動したのか……にしても魂の残滓みたいな肉体に着いていく残り香がないのはなんでだ……?」

マミーモンが虚空に向かって手を動かしたりしながら何かを呟いていると、ふとディノビーモンが指先だけ出して五浦の肩を叩いた。

五浦が振り向くと一人の生徒がいた。ニット帽にヘッドホンにマスク、ネックウォーマーにダウンと徹底した防寒をしていたがズボンから同じ高校の生徒であると察せた。

「……君達は、何をしている?」

マミーモンが花を一輪潰すのも構わずに急いで振り返ると、その顔を見てその生徒が一歩後ずさると、入れ替わるように目の前に一体のデジモンが現れた。

首長竜を思わせる形のそのデジモンは先手必勝とばかりに口を開くと甲高い声で鳴いた。

単に鳴くだけと五浦が首を傾げていると隣で真田がしゃがみこんで泣き出し、マミーモンもそこから一歩も動けずに目から滝のように涙を出しながらうずくまり出す。

「……ど、どうした?」

「わ、わがらない、だだ、ずごぐ悲じぐで……」

まともに発音もできないぐらいになっている真田に困惑しながら五浦はディノビーモンはと確認すると、何が起きているのかと平気そうに姿を現し、猛然と襲いかかった。

五浦は自分が薄情だと悩んでいたが、それは自覚していないだけで五浦の能力だった。外からの情報で感情が動かされないようにすることができる。そういう能力。

意識せず働いたそれが外のことに無関心にさせ、薄情にし、そして今は強制的に悲しみの感情を抱かせるそのデジモンの攻撃を防いでいた。ディノビーモンも五浦がそういう能力を持っているからか耐性があった。

それが予想外だったのだろう。首長竜は少し反応が遅れ、ディノビーモンの膝がその顎に綺麗に入った。

ただ、一緒にいる人間の反応も早かった。カバンの中から手榴弾のようなものを取り出してピンを抜くと五浦の足元に放り投げた。

パッとそこに視線を向けた五浦はすぐに目を閉じる事になった。手榴弾から吹き出た粉がむせさせたし涙も流させた。

ゲホゲホと咳き込み目を開くことができるようになった頃には真田の背中の上にその生徒が乗りかかっていて首元に折りたたみナイフを突きつけていた。

動くなとその生徒は五浦を脅す。

「……わかった」

冷静に五浦はそう答え、ディノビーモンもそのデジモンから離れた。真田の危機だというのに冷静な自分を五浦は薄情だと思ったがそれもまた能力の影響によるものだった。

「……君達は何をしていた?」

「黒木 藤音さんの件の調査だ」

「何故調査をしていた?」

「そこのやつは素人探偵をしていて、依頼を受けて調査していた。俺は臨時の助手だ」

「依頼人は誰だ?依頼人の依頼した理由は?」

それは、と受けようとして五浦は答えに詰まった。断ったけど調べたいという旨は聞いていたが依頼人の素性や理由は把握してなかった。

「依頼を受けた時に俺はいなかったからわからない。足元のそいつは知っている筈だ」

まだ謎の悲しみに涙を流し、撒き散らされた粉もうまく吐き出せずに呼吸がうまくできていなさそうな真田を五浦は指差した。

それは事実だったがその生徒はそれを勘ぐった。

「……こいつが回復するまで答えを待つことはできない。本当は知っているんじゃないか?」

知らない。そう答えても意味はない、知っている。そう答えたって本当は知らないのだからどうしようもない。五浦は詰みの状態に陥った。

「本当に知らないんだ。そいつから調査に行くが危険が伴うかもしれないからついてきてくれと頼まれた。殺した奴は強力なデジモンを連れているかもしれないと」

その言葉を聞いてその生徒はあからさまに顔を歪めた。

「……お前らが、お前らがその犯人と繋がりがあるんじゃないか?もしくは依頼したやつが犯人であるということはないか?調査ではなく証拠の隠滅が依頼内容じゃないか?」

その生徒は五浦よりも小柄だった。とても殴り合いで負ける気がしない体格差だった。でもその目は狂気じみていて危ないと五浦の理性は判断した。

なんとか誤解を解かないといけない、話を聞く限りどうやら真田が危惧していた犯人ではない。ではないのに話が通じない。

このままだと真田が危ない。下手をすると自分も危ない。

ディノビーモンから取っ組み合っても互角だったことが五浦には伝わってきていた。

ディノビーモンの方が速さでは優れていたが、純粋な総合力では負けている。奇襲で組みついた事でなんとか互角にできていた形だった。

「ねぇ、その話私も混ぜて?」

五浦はその声が聞こえたことに首を傾げた。五浦は友人が少ない、でもそんな五浦でも名前と顔と声までも覚えている。

「烈くんも航太くんも、井狩先輩も、無駄な争いはやめよう?」

白河 聖はエンジェウーモンを出さずに井狩先輩と呼んだ生徒の足元まで行くと、そこにうずくまる真田の首に当てられたナイフを掴んだ。

「……や、やめろ!」

「黒木先輩はあなたの凶行を止めたんじゃありませんでしたっけ?井狩先輩」

刺さるならまずは私にと聖はナイフの先端を自分の首に持って行って押し付けた。

「……刺さないよね。井狩先輩が本当はそういう人だから無闇に人を傷つけたいわけでないと知ってたから黒木先輩は止めたんだよね」

聖の背後から姿を現したエンジェウーモンは真田とマミーモンに向けて翼を広げて優しく片手を伸ばした。手の先から溢れた光に真田の涙は止まり、二度大きな咳をすると落ち着いた。

「彼等は井狩先輩とほぼ同じ立場の誰か……多分、昨日酒田先生にテストの結果報告をしていたのに今日も来ていた井上先輩からの依頼で動いていた。そうだよね、航太くん」

真田はこくこくと頷いた。姿勢が低かった分吸い込んだ粉が多かったのかある程度落ち着いたがまだ小さな咳をしていた。

「……井上さんが」

「さて、誤解も解けた事だし先輩のそのデジモンに中和する声を出してもらわないとね。気づいてますか?電車が止まってしまっているの。あの声が駅まで微かに届いて乗客や車掌が泣き出したり線路に飛び込んだり軽くパニックが起きてたから。駅の方は私のお友達が中和したけど声量も足りないし中心点にいたわけでもないからね」

人によっては自殺とかしちゃうかもと聖が言うとそのデジモンはすぐさまもう一度鳴いた。

「……悪かったよ。僕の供えた花を踏みにじったのを見てこいつらがひょっとしたらと思ったら抑えられなかった」

井狩がそう謝ると真田は大丈夫だと手を振り、五浦もそれに続いた。真田が赦してるのに自分が赦さないのもおかしいだろうと。実際ほとんど被害に遭ってたのは真田だ。

「ところで、連絡先交換しませんか?学年は同じですし」

ね?と聖は取り出したスマホを井狩に向けた。井狩の携帯の番号を聖はすでに把握していたが距離を詰めるのにわかりやすい。

電話番号は知っていてもだからといって全て知っているわけではない。聖の持っていた情報では彼は完全体を連れているか、失っている筈だった。

休んでいる間も学校に時折来ている時も彼はデジモンの姿を出さなかったから聖の情報網でも更新されないままになっていた。

今いる三体目の究極体。それも、多くの人に干渉する能力を持った究極体。

人との交流は少なく精神は不安定、それでいて他人に関心がないわけではない。どちらかといえば善良な質の様であるが激しやすい為周りが見えない凶行に出ることもある。

聖が抱いた印象は幾つかあれど、その行き着く先は一つだった。

彼を導かないといけない。彼が救われる様に幸せになれる様に導かないといけない。

「ねぇ、航太くん。私からも依頼していいかな?黒木 藤音先輩を殺した犯人探し」

「……言っとくけど、ケホッ、復讐とかさせるつもりならその依頼は受けない。探偵のいいところは依頼人を選べるところだ」

「復讐の為なんかじゃないよ。ケジメの為、藤音さんは影響与えた人が思っていたより多いみたいだから犯人はすでに罰を受けた。そう確定させることが救いになる人もいるかなって」

聖は嘘は吐かなかったが、わざと誤解を生む様に言った。

すでに罰を受けたという言葉を受けて真田はきっと委員長の凶行の事を思い出すだろう。聖はその際に犯人のデジモンも殺されたと考えているのではないかと捉えるだろうと。

それならば真田はその犯人がまだデジモンを生きて連れていた場合だけ隠せばいい。デジモンを失っていたらすでに罰は下されたと認識してくれるならば復讐の心配はない。

でも聖は復讐として戦わないだけで制裁は下す気でいた。

聖は救うべきものを救う為の犠牲は躊躇うべきではないと思っていた。犯人はもはや救われるべき誰かじゃない。聖にとって大切なのは救われるべき誰か、導かれて幸せになるべき誰かだから。

真田が隠しても聖が実際顔を合わせればわかる。見つけたかどうかもわかるし、質問していけばより詳細な情報だってわかる。

「……井狩先輩も復讐なんてしないですよね。したいかもしれないですけど、それをあの優しい黒木先輩がどう思うか」

聖は井狩の手を握ってそう囁いた。聖は自分の身長と黒木 藤音の身長の差がほぼないことを知っていた。

井狩は黙って頷いた。井狩の精神状態は揺らいでいて聖にすら本当にそうするかはわからなかったが今はそうさせただけで充分だった。聖が距離を詰められれば井狩は約束を破れなくなっていく。それで凶行を止めるストッパーが一つできたことになる。

「航太君、お願いしていいかな?……報酬は情報で」

「……わかった。でもくれぐれも復讐を煽ったりとかするなよ」

聖の情報網は特に人間関係を調べる時に強い。探偵として情報の入手経路の確保は生命線と言えなくもない。依頼は増えるだろう、世莉達と繋がったことで何もなく探偵と名乗ってるだけではなくなった。

「じゃあ、お願いするね」

聖はそのまま帰ろうとしたがある事を思いついてふと足を止めた。

「ねぇ航太君、条件をつけてもいい?」

「条件次第では。といっても監視役を付けさせろとかはやめてくれよ、特にあの平岡さんはやめて欲しい、嘉田とあまり会わせたくない」

しないよと聖は明るく笑い、でもとまっすぐ真田の目を見た。黒く大きな目は普通に見れば愛らしいのかもしれない一方で、真田には底知れない闇への入り口に思えた。

「……黒木さんをね?巻き込んで欲しいの」

「それはなんでだ?」

パッとそう問いかけたのはマミーモンの方だった。真田よりもデジモンのマミーモンの方がその感覚器の優れているのは理解している。実体を持っていない状態のデジモンよりも下手したら優れた感覚器かもしれない。

でも戦闘は不得手、調査に向いた能力もそれの他にはない。学内のみならばわからなくもないが、マミーモンはマスターの好意もあって実体を持って人のふりをして外に居られる。世莉のいるメリットは少ない。

「……うーん、多分説明しても理解できないかな。多分これが理解できるのは今この学校だと私ともう一人だけだと思うよ?」

聖は困ったように笑った。本当に、特に困っているわけでもなかったがそう対応しようと決めていたように困ったように笑った。

「わからないのに乗るのもな。こいつも女子の隣に座れないぐらいチキンだが俺もチキンなんだ」

「でもまぁ、あえてわかるように噛み砕いて言うなら、彼女が悪魔で私が悪魔が嫌いだからかな?」

それならわかる?と悪気もなさそうに言う聖に真田は怖いと感じた。

普通に考えれば訂正するならばそれが嘘でない限りは良く捉えられる方向に訂正する。でも聖はそうではなかった、さっきの言葉ととても繋がらないだろう単純な理由を思えば嘘だろう、しかしその理由はとても聖をよく見せるものではない。

聖から見た自分はおそらく好かれても嫌われてもどうでも良いという事だ。これから仕事をしようと頼もうとしている相手へ社交的であるはずの聖が取る態度としては不気味すぎて恐怖を感じる。

「……持ち帰って考える」

「駄目、今決めて?そうじゃないと井狩くんも安心して任せられないだろうし、駄目なら私もどうするか決めなきゃいけないから」

真田は仕方なく屈した。

怪しい案件ではあるが情報を得る術は欲しかった。果たしてこれは自分が望んだ探偵のあり方だったかと自問自答しても答えは考えるまでもない、違う。でも同時に探偵として望んだような事をする為には情報も要る。





駅前は地獄絵図とまではいかないもののパニックになっていた。理由は二つ、何が起きたかここ数分の記憶が一斉になかった事と、明らかに何かはあったからだ。

ロータリーには人も車もまばらだったから良かったものの車道に這い出ているサラリーマンがいたりホームでは三人ほどの女性が停まっている電車の下に入り込もうとしていた。

竜美はうずくまっていたがその手はホームへ向かっている井上の制服をしっかりと握りしめていた。

何が起きたか覚えていたのは蘭だけだった。

蘭は耐性があったわけではないが悲しみ自体にはたまたま強く何か他の悲しみを思い出して合わせて落ち込み狂ったようになってしまう事はなかった。謎の悲しみの困惑で足が止まるだけで、井上がホームに飛び込もうとするのを止めようとした竜美もちゃんと見えていた。

聖とエンジェウーモンがまず動いてすぐそばにいた女子生徒の方を向いて何かをした。治したらしいその生徒の背に隠れるほどの小ささのデジモンが歌い出した事でそこにいた全員の動きが止まった。そしてまた別の歌が始まった。

蘭はこれに聞き覚えがあった。蘭とエカキモンが襲われた後で聖といた女子生徒は蘭の方を見たが、聖がそこから離れるとまぁいいかとでも言うように視線を切った。

蘭は一瞬呼び止めようかとも思ったがその生徒はぽかんとしている人混みを無視してさっと電車に乗り込んでしまい、正気に戻った車掌やらが動き出すと駅は騒然とし出した為呼び止められた状況ではなくなってしまった。

そういえばバス停の方はどうだろう。世莉がいたはずだと蘭が見てみると世莉はベビーカーを母親に返しているところだった。無理心中狙いの飛び込みでもしようとしたのだろうか、それとも泣き崩れた母親の手から離れて一人手に動いてしまったのか。

世莉がふとスマホを見るとメッセージが一件。

真田からのそれの内容は話がしたい。電話をしてもいいかという内容。

一瞬電話をかけようかと思ったが世莉はその手を止めてそのまま喫茶店に向かった。

「今の攻撃のこともあるし向こうでも何かあったのかもね」

商店街のアーチをくぐり街路樹の脇を早足で通り抜けて世莉がその喫茶店に入ると嘉田がニコニコと笑っていらっしゃいませと言った後で真田の前に手を投げ出した。

何をしているのだろうかと疑問に思っていると声が聞こえてきた。

「百円」

「……俺は賭けるなんて言ってない」

「えと、私も百円……」

「俺もな」

「だから賭けるとか俺言ってないし」

賭けの対象にでもされていたらしいと気づいて世莉が帰ろうかと踵を返すと真田は違う違うと顔の前で大きくて手を横に振った。

「で、何の用?」

「……白河さんに依頼されて、その時に黒木さんを巻き込めって」

「……どんな依頼?」

「……黒木 藤音の死についての調査依頼。多分既に委員長にやられてるんだろうけどそれを確認しておくことで振り切れる人もいるんじゃないかって」

まぁいいけどと世莉は真田の前に座ってチーズケーキ奢ってと言った。

「チーズケーキ奢ってくれたら参加する」

コーヒーは自分で頼むからと世莉に言われて真田はメニューを一目見て苦笑した。

ここのチーズケーキは要望されたから置くようになったものの業務用の何ホールかまとめて買える冷凍で、コーヒーとセットでしか頼めない代わりに値段はコーヒー一杯よりも大分安い。それどころかこの喫茶店にそのチーズケーキより安いものはない。

「ありがとう。基本的には危険に巻き込んだりする気はない、巻き込めとは言われたけどがっつり巻き込むのは俺だって嫌だ。基本的には情報屋当たったり書き込みしたりは俺達でやるから俺達が当たったそうしたやつらから連絡があった時に聞き逃すことがないようにここに代わりにいて欲しい」

真田は巻き込めとは言われたがどう巻き込めとは言われてない。情報は捨て難いが言いなりは癪に触る。折衷案があんまり関係ない危険のなさそうな役割を与える事だった。

基本的に毎日バイトに来る嘉田という戦力もいて毎日長々と居座る常連もいることで人目につきやすい。

「わかった」

「あと、レディーデビモン用のコートなんだけど……」

ん?と世莉とレディーデビモンが首を傾げると真田は少し目を背けながらノートの切れ端を見せた。

「……女探偵の設定?」

マミーモンはマスターの好意でベージュのコートを着てハットを被ってこの店のマスコットとしている。設定上は真田もあくまで彼の助手の高校生として隣に座っている事になっている。

真田が店を空けてマミーモンもいないならば、レディーデビモンがその役割をという事なのは世莉もすぐに察しがついた。

「……えと、これはそもそも必要なの?」

レディーデビモンが小さな声で尋ねるとマミーモンは神妙に頷いた。

「信じ難い事だが、この前SNSで微妙にバズって土日にはそこそこ俺目当ての客が来る。マスターに場所を借りている以上これは譲れない……」

なるほどと世莉も神妙に頷いた。

確かにレディーデビモンは服装が破れたゴミ袋みたいである事を除けばとても美しい。左腕がとても人間としては見せられないがそもそもマミーモンの全部犬歯かのように尖った歯や肥大した腕でもいいのならば若干ファンタジー路線でいいのかもしれない。

「そこで、黒のロングコートを着てもらい、頭には包帯か、わざとらしすぎるぐらいにわざとらしく鹿撃ち帽子を。基本的には黒木さんが先生に何か御用ですか?とか話しを伺い、話を聞き終わったらレディーデビモンが耳元でボソボソと呟いて黒木さんが話す。というのがいい」

イメージとしてはなんか訳あり風の探偵とそれに懐いてしまった高校生という感じで、と細かく熱く語ってくる真田にちょっとついていくのは厳しいなと思いながら世莉はひとまず紙に書いてもらう事にした。

少年少女と探偵の組み合わせほど人の心を震わせるものはそうないのだと真田は熱く語る。ある程度同じ趣味であるはずのマミーモンは周りとの熱量の違いに気づいて静かにしていたが真田は気づかなかった。

最後には一応は同じ席に座っていた縁がうつらうつらするまで真田は熱く語り続けた。


スレッド記事表示 No.4997 それは悪魔の様に黒く 八話 上ぱろっともん2018/06/01(金) 21:00
       No.4998 それは悪魔の様に黒く 八話 下ぱろっともん2018/06/01(金) 21:18
       No.4999 それは悪魔の様に黒く 八話 あとがきぱろっともん2018/06/01(金) 22:08
       No.5002 エカキモンとは趣味が合いそうマダラマゼラン一号2018/06/03(日) 10:46
       No.5003 二つ〇を付けてちょっぴり大人さ夏P(ナッピー)2018/06/05(火) 22:39
       No.5005 換装変身ぱろっともん2018/06/10(日) 23:01