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ID.4934
 
■投稿者:夏P(ナッピー)  MAIL
■投稿日:2018/03/25(日) 19:25
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注文の少ない料理店〜海神の場合〜
         







注文の少ない料理店

〜海神の場合〜







 ある昼下がりのこと。

「……どうしてお客様が来ないのですか」
「いや、僕に聞かれても……」
「もう昼を過ぎて久しいですよ! どうなっているんです!」

 喚き立てる森羅先輩は、今にもその身の丈ほどもある大剣を振り回しかねないので僕は冷や汗ものです。

「やはり立地条件が……こんな切り立った崖にある料亭に来ますかね、お客さんが」
「前を見れば森、振り返れば海! どちらも同時に景色を楽しめる最高のスポットではないですか!」
「それ何度も聞きました。確かに景色は素晴らしいかもしれませんが、立地が悪すぎると言っているんですよ森羅先輩。見てくださいよ、海も森も素晴らしい以上に怖いですよ。僕ら究極体や完全体はともかく、それ以下の皆さんは辿り着くまでに死にますよね……」

 背後の荒れ狂う海は少し前までメガシードラモンの縄張りだったし、前方の薄暗い森は獰猛な獣の巣窟。
 所謂天然の要塞という奴らしいです。開業に際してこの場所を選んだのは他ならぬ森羅先輩なわけですが、城や要塞ならともかく、少なくとも小洒落た料理店を出すのに相応しい場所だとは僕にはとても思えません。火曜○スペンスで最後の犯人との対決で使われそうですからね、この崖。

「青海君、営業をお願いします」
「それは無駄ですよ。もうここら一帯は人っ子一人、いやデジっ子一体いませんよ」
「何故ですか? 常連のハンギョモンさんは? 確かエビドラモン氏もいましたよね?」
「つい先日、揃ってこの店の悪口を言っていたので、僕が残らず駆逐しておきました」
「お、お客様アアアアアアアアア!?」

 森羅先輩が食材を獲ってくる森側はともかく、僕の領域である海側には少なくともまともな知性を持ったモンスターはいないはずです。
 彼女の言う通り、海側にも何体かの常連客はいました。ですが三日ほど前、少し離れた浅瀬に揃ってこの店の悪口を言っているのを見たので、思わず槍を投げ付けたら驚いて逃げていってしまいました。流石は我が槍、キングスバイトと言ったところですか。

「情けない連中です、威嚇を本気と受け取ってもう戻ってこないんですから」
「それ完璧に青海君の所為ですよね!? 常連の皆様になんてことをしてくれたのですかアアアアアアアアア!!」
「この店の悪口を言っていたのです、どうして僕が許せましょう」
「うっ……青海君は本当に真っ直ぐですよね……」
「いえ、お褒め頂くほどのことでは」
「褒めていませんからね!」

 言いつつ、ジト目――森羅先輩の顔は仮面に覆われているけどそんな気がする――で見られるも僕は無視しました。
 こんなことをしている場合じゃないんだけどなぁ。
 そう考えると嘆息してしまうのも無理はないんです。同じ高みに立つ者として、また先に究極体に到達した先輩として、森羅先輩のことは確かに尊敬していますが、少なくともこの世界、この時代に僕らが料理店を経営することに何の意味があるのか、その辺のところが僕にはわかりませんでした。
 僕もまだまだ、未熟なんでしょうか。




▲ ▲ ▲




 同じオリンポス十二神といっても、僕は森羅先輩を初めとする諸先輩方から見て末席に当たります。
 この大海を統べるべく、青海と名付けられたこの姿に進化を果たしたのはつい一年前。僕にとってはまさに夢にまで見た姿と力を得たわけですが、以降まともにその槍を振るう機会には巡り会っていません。この時代に究極体相当のモンスターが多くないのもあるでしょうが、少なくとも料理店の小間使いでは自らを満足させ得る強敵との対峙など夢のまた夢。先刻の常連客への狼藉は、そうして溜まった鬱憤から来ているのかもしれませんね。
 そんな風に自分を正当化してみたりします。
 さて、僕らオリンポス十二神は伝承によれば、彼の聖騎士団や七大魔王にさえ匹敵する戦力を有していると聞きます。とはいえ、当代に顕界しているオリンポスは末席の僕を含めても六体、仮想敵と見なした聖騎士や魔王が今も尚盤石の布陣で在るのなら、些か不安が残る頭数と言えましょう。
 先代の六体はかつて激しい戦いの末に命と引き替えに邪悪なる者を封じたとのことです。中でも先代最強と謳われたユピテルモンの力には、恐らく当代のオリンポスで僕の最も尊敬する陽炎先輩でも及ばないだろうと言われています。
 だからこそ、今は腕を磨くべきだと思うのです。未熟極まりない僕が筆頭であることは言うまでもありませんが、当代の強さが先代に及ばぬのであれば、個々の質を上げ、戦力の拡充を図らなければ、世界を中立に保つなどという僕らの使命を果たせるはずもない。来たるべき最後の危機デジタルハザードに備え、何者にも負けぬ力を有しておかなければ。
 そこで問題となるのが森羅先輩です。僕の直近の先輩に当たる彼女は、必然的に僕の指南役となってくれたのですが、平和主義者というか博愛主義者というか、僕らと同じく戦いを生業とする者として生を受け、その中でも頂点に近いとされる神人の姿を得ながら、戦いを好みません。それでいて、いざ戦うとなれば僕を片手で捻るぐらいに強いから始末が悪い。
 女性型らしい奔放さは陽炎先輩と並び、僕の尊敬する先輩である幻影ミラージュ先輩に近しいものがあると愚考していますが、同時に月光の如き禍々しさと冷酷さを内に秘める彼女と違い、森羅先輩は本当に単なる我が侭な女性といった印象でした。
 確か以前、一度だけ森羅先輩に問い質したことがありました。

『先輩はオリンポスとしての自覚が無いのではないですか?』

 若輩者からの愚弄にも等しいその言葉に、彼女は薄く破顔して。

『……かもしれませんね』

 自嘲するようにそう言いました。
 どこか遠くを見つめる森羅先輩の横顔を見て、僕は自分の質問を恥じたものです。きっとこの世界の誰にも各々の生き方があり、それは決して僕などが立ち入っていいものではなかったのでしょう。少なくとも一対一で戦って彼女に勝てない今の僕では、彼女に対する言など持てようはずがありません。
 それに。

『でも、私にはこれが合っているんですよ。ここは料理店です、いらしたお客様を笑顔に出来る場所です。……誰かの笑顔を見られるって、素敵なことだと思いませんか?』

 先輩の作る料理は、とても美味なんですよね。




▲ ▲ ▲




 その日は珍しく人間とそのパートナーが店にやってきました。
「いらっしゃいませー」
 実はその日まで、僕は人間というものを見たことがありませんでした。
 勿論、話としては知っています。僕らと絆で結ばれ、更なる高みへと導く異世界より来たる生命体。この世界が闇に覆われる度、叫びと嘆きに応えてその姿を現して闇と戦ったと言われる、数多の伝説に名を残す救世主。
 でも初めて見た人間の少女は、何ということはない、ただ小さく弱い生物にしか見えませんでした。
「その子が、あなたのパートナーですか?」
 注文を受けながら聞くと、少女は弾けるような笑顔で「うん!」と答えます。
「大変なことばかりだったけど、今まで二人で乗り越えてきたんだよねー!」
 その膝に座る幼年期に、彼女の言う“大変なこと”を乗り越えるだけの力があるとは正直思えませんでしたが、僕は話半分に「それは凄いですね」と返したのだけど、どうもそれは少女には見抜かれていたらしく、すぐに膨れっ面で「信じてないでしょ!」と言われてしまいました。
 お客様の笑顔を消してはならない、森羅先輩の教えです。またミスしてしまいました。

「こうなったら私とこの子の力、見せてあげるんだからぁ!」
「ほう、力……」

 興味が湧きました。森羅先輩は厨房で料理の提供には今しばらく時間が掛かりそうです。伝説に謳われる人間の力、この身で味わっておくのも悪くないでしょう。

「興味深いですね。僕は何もしません、全力の一撃でお願いします」

 断っておきますが、僕はマゾではありません。……多分。




▲ ▲ ▲




 切り立った崖の上、料理店を背後に僕は彼女達と対峙します。
 宣言通り、僕は手を出すつもりはありません。少女は「馬鹿にしてぇ!」と苛立ちを隠せない様子ですが、元より戦うつもりはありませんでした。その“大変なことばかり”を乗り越えてきたという彼女達の力が、世界の誰もが憧れる人間の力が、果たして如何ほどのものなのか見極めてみたかったというのが本音です。
 だから求めるのはただ一撃、人間と共に在るパートナーの攻撃が僕にどこまで通じるか。

「後悔しても遅いよ! 全力で行くんだからね!」

 ビシッと力強く僕を指差す少女の姿が眩しいです。……しかし彼女のパートナー、知らない間に先程と姿が変わっているような……?

「ゴマモン! 進化だよ!」

 瞬間、彼女のパートナーが光を放ち、その肉体を変質させていきます。
 なるほど、少女の掲げた聖なるデジヴァイスによる任意の進化。それは確かに僕らには不可能な奇跡、不可逆にして不可避の変態である進化を任意で制御できるとすれば、その奇跡は伝説として崇められるのも無理は無いでしょう。気付けば姿が変わっていたのも、幼年期から成長期に進化を果たしたということなのでしょうか。
 ただ、そうして進化を果たしたとしても所詮は成熟期、未熟とはいえ究極体である僕と相対するには些か力不足でしょうが。

「ゴマモン、ワープ進化――ヴァイクモン!」
「ワープ進化……!?」

 果たして姿を変えて君臨した白銀の獣人は、僕がこの姿に到達するより前、氷山地帯でやり合った部族の長と同じ姿をしていました。
 ヴァイクモン。クロンデジゾイド並の硬度を持つと言われた体毛と全てを破壊すると言われた破砕球ミョルニルを有し、ズドモンやイッカクモンで構成された軍団を率いて極寒の地を収める究極体。僕にとっては懐かしい顔でもあります。
 しかし、それ以上に。

「素晴らしい……!」

 僕は感嘆していたのです。
 勿論、ワープ進化なる現象のことは知っています。しかし成長期から究極体へ一気に三段階もの進化が行われるのを見るのは初めてでした。こんな普通では起こり得ない奇跡を実現してみせるのが、人間という存在の持つ力なのでしょうか。

「アークティックブリザード!」

 見惚れすぎて不意打ちで頬に破砕球を受けました。非常に痛かったです。




▲ ▲ ▲




 僕が彼女達、というより人間と出会うのはそれきりになりました。
 しかしそれ以降、何故かお客様の数は鰻登りです。どうも彼女達は乱暴に森林地帯を切り開きながらこの店まで辿り着いたらしく、天然のダンジョンめいていた森側に安全なルートが開拓され、そこを通ってお客様が来店するようになったようです。乱暴なことをするものだと思わず苦笑してしまいます。
 これには森羅先輩も大喜びです。

「人間様々ですね! この調子ならもっと来て欲しいぐらいですよ!」

 それに頷きながら、僕は多忙な日々を過ごしています。
 彼女達の姿には不覚にも憧れました。破砕球を叩き付けられた頬は未だに少しだけ痛みます。聞くところによれば、彼女達は邪悪な者を倒す為に旅をしているそうですが、あの奇跡があれば如何なる困難にも立ち向かっていけるのではないかと感じました。後世、救世主と語り継がれる存在とはあのような人間のことを言うのだなと、そんなことを思ったりもしています。
 とはいえ、一瞬見惚れただけで、僕は彼女達がどうなろうと別に何も関係ありません。

「なあ、知ってっか? 最近、選ばれし子供が負けたって話」
「聞いた聞いた。パートナー諸共死んだって聞いたぜ」

 別に、何も。









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