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ID.4882
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2018/02/15(木) 13:36
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それは悪魔の様に黒く 三話 前
         
放課後を竜美は持て余していた。正確には図書委員の仕事で残っていたのだが、受付にいるだけでそれ以上はない。

今頃、世莉と蘭と亜里沙は葵とかいう子と一緒にいるらしいのに、と建物の写真集を見ながら竜美は退屈さに欠伸をした。

今日の予報は夕方から雨、普段なら本を図書室で読む人も今日ぐらいは先に借りて読めばいいやと思ったらしい。放課後始まって十分でピーク、その後は誰も来ていなかった。

かといって、竜美に見える様にローダーレオモンが出てきたらそれは周りの人にも見えてしまうということ、今は誰もいないが、誰か来ないとも限らない。

そして実際そこに人は来た。

その女子生徒に竜美は見覚えがあった。隣のクラスの子ではあるが、基本的に誰かが側にいる。顔もよく愛想も良く成績も良く、それでいて妬まれる様な悪い印象も不思議と竜美にはなかった。たまに悪口を聞いてもその笑顔が媚びている様だとかそんなもので、そ明日悪口を言う側の言う、いわゆる本性とやらを見た人も誰もいない。白河 聖という名前に違わぬ聖人っぷりで知られていた。

聖が図書室の中を見て回って竜美以外いないのを確認すると、その後ろに天使が現れた。八枚の翼と美しい金の髪、目こそ仮面で見えないがその口元は穏やかに微笑んでいる。

「こんにちは、竜美ちゃん」

「こ、こんにちは、白河さん」

竜美が名字を呼ぶと知っててくれたんだねと聖は微笑んだ。

友好的な笑みを向けられたのにむしろ名前を知られていた事やその後ろに現れた天使の事もあって竜美は軽く身構えてしまったのだが、それが何故かわからないという様に聖は小首を傾げた。

「竜美ちゃんもいるよね?デジモン、それで、何か能力とかそういうのって手に入れてる?それともなにもなし?」

能力と言われて、竜美には思い当たるもの自体はあった。でもそれはもしかして単に珍しいだけのものなんじゃないかとも思っていた。

極端に陳腐な言い方をすると、記憶力が抜群にいい。空間把握能力が高い。そんな感じになる。

竜美は視界に入ったものの比率がわかり、形状が即座に把握できる。見たものを頭の中で上下左右どの角度からでも自在に動かす事ができる。そしてそれを引き出すのに時間がかかる事もあるがまず忘れない。

「え、いや……」

「んー……なんで嘘つくの?一応言うとね?私には嘘も見えるから駄目だよ?」

「えーと……」

嘘も見える。おそらくは何かの一環として嘘を視覚的に判別する事ができるということだろう。自分のそれがデジモンのそれならば、それに近いものかもしれない。だとしたらそれは本当に嘘がピンポイントで見える超能力の様なものではなく、例えば過去の経験した嘘をついていた時の顔のパターンを瞬時に参照して判断する様な、相手の細かい表情仕草などを読み取る感情の機微を感じ取る能力だったり、もっとシンプルに、微妙な変化を認識できる細かな変化に対しての高い認識能力だったり……

竜美は亜里沙の理屈のつけ難い能力を知らない。だから自分を参考に考えていたのだが、実際それはかなり近かった。
共感覚というものがある。音に色を認識したりするそうした能力。本来関係しない者に対して別のものが付随して見える様な能力。それに聖の持った能力はある意味では近かった。

聖の視界に入る竜美と共にいびつな歪んだグラフが見える。名前は頭の上に浮いているし、学年クラスや知る限りの情報が辺りに浮いて舞っている。

聖のそれは、わざわざ思い出したり考えたりするまでもなく、あらゆる対象に対して自分がわかっている情報が常に表示されるもの。常に数値や色でモニターされる。一言で言うならば自身の経験則の可視化。それが聖がデジモンを宿したことで得た能力。

「あの、そもそも何の用?」

「……露骨に話逸らすのはどうかと思うけど、まぁ、わかってしまうとわかっても見苦しく誤魔化しに来るよりいいよね」

私はその方が好きだよとほほ笑んで当然の様にカウンターの内側に入り隣の席に腰かけた。

「黒木 世莉さんとは縁を切った方がいいと思うな、私」

「へ?」

「ついてるデジモンってその人の本質を表すんだと思うの」

その言葉はいきなり竜美には受け入れがたい。その理屈で行くと機械でできたライオンが本質を体現しているという事になる。せめて血ぐらい通っていろよという話になってしまう。

「初めてエンジェウーモンの視界を奪って見た時思ったの。きっと竜美さんの本質は、ライオンみたいに勇猛で鋼鉄のように固い意志なんだろうなって」

「いや、そんなこと……」

あるわけがない、そう竜美は思った。イマジナリーフレンドだと勘違いするレベルでローダーレオモンはただいるだけだった。

自分もそうだ、頭がいい自覚はある。でも勉強に向いてない、努力に向いてない。

竜美という個人は怠惰だった。なんとなく生きている感じが拭えない、それを打破しようとも思えない。

もしデジモンが本質だというならば、ローダーレオモンはきっと、諦めの体現だろうと竜美は思った。

機械の獅子、そう言ってしまうのは簡単だが、特にその性質は壊す事にあるのは気づいていた。

鬣は削岩機で尻尾はトゲ付き鉄球、竜美がその姿を見て最初に連想したのは取り壊しだった。もちろん実際に取り壊しに削岩機もトゲ付き鉄球も使われるわけがない。でも、竜美にはそれがそう見えた。

精神を反映するというならばその人にとってのイメージというのは大きな意味がある。取り壊しが竜美から見たローダーレオモンならば、それが竜美の精神の内のローダーレオモンが反映した部分の象徴であるという事。

取り壊しとは諦めだ。そこにあるものを直すことを諦めること、直して伸ばしてより良いものにという事を、改善や努力を諦める事。

大きな体に生まれて、顔もどちらかといえば不細工で、隠しようがない顎の形や鼻の形なんかに可愛いなんて親からぐらいしか言われたことがなかった。だから可愛いとか綺麗とかも諦めた。

運動したらそれを活かせるとも言われたけれども体の大きさを活かせるスポーツはぶつかる事も多くて痛いのが嫌だったから諦めた。

頭がいいと言われても勉強というものをまともに続けられなくて諦めた。特に、勉強することに楽しみも見出せなかったし、やった方がいいのだろうなとは思ったが熱心になれるほどではなかった。

竜美は諦めた事でできている。

そもそも、それらは諦めてもいい程度のものだったとも言える。

周りから見てどうかはともかく、竜美にとってスポーツも勉強も向いていたとしても努力する理由に欠けたものだった。

可愛く見られたいと思う気持ちより努力する面倒さが勝って、勝ちたいと言う渇望よりも痛い事への怯えが勝ち、勉強すれば役に立つからやらなくちゃという義務感より苦痛を苦痛として受け入れる嫌悪が勝った。

「私はね、天使がついてるでしょ?導かなきゃいけないの。私は私の周りの誰かを良い方向に導かなきゃいけない。竜美ちゃん、数学の得点は高いよね?でも授業態度はどれも良くない……あんまり勉強してないよね?頭の良さだけでなんとかしてる感じだよね?」

聖の言葉に背筋が凍る。そんなに驚かないでよと聖は笑う。デジモンがいるんだからそんなの調べるのは難しい事ではないだろうと。

その考えに尚更竜美は怖くなる。可能かどうかではなくできるかできないかの話だ。

「私は人のステータスが整理できるから、竜美ちゃんも良い方向に導いてあげられるよ。だからね、悪魔の側にいなくても良いんだよ?私が引っ張ってあげられるから」

「それは……」

「それは?なんだろう?まるで、断りたいみたいに見えるけどもこれは私の見間違いだよね?」

竜美は、心底恐怖していた。聖のように経験則をより明確に見るようなことはできない、しかし、物を比率で見られる竜美は表情の変化には敏感で、表情の読み取りには何もない人よりは長けている。

だからわかってしまう。聖に悪意はない。

聖のこの圧は悪意から来るものではない。あぁこの人は良し悪しがわかってない、だから教えてあげなきゃ導いてあげなきゃ、可哀想な人だ救ってあげなきゃいけない人だ、私はこういう人を幸せになれるように導くべきなんだと、揺るぎない力強すぎる善意。

ある意味聖は聖人の様だと言えるだろう、その行動に悪意や害意はない。行動に嘘があることもあるがその気持ちに裏表はない。

ジャンヌ・ダルクはフランスを救えと言われたからフランスを救うべく立ち上がった。

そしてイギリス兵を殺す指揮を執った。

聖人とはその宗教において都合のいい功績を残す者だ。

聖のそれが踏みにじるのはその悪魔、つまりは世莉とレディーデビモン。

それが、聖の考えにおいて都合がいい。

わかっているのに竜美の口は動かない。嫌だと言えない。

いつも一緒にいる三人と聖は明確に違う。自信と自我が揺るがない。自分は絶対的に正しいのだと、ローダーレオモンのトゲ付き鉄球でもうち壊せる気がしない様な強すぎる自己肯定が後ろにある

無意識下でこの人は何も知らない人だとわかっていない人だと可哀相な人だと見下している。対等でないからその言葉は届かない。いや、そもそも聖に届く言葉はない。

竜美は知るはずもない事だが、デジモンに人間が食われる時、それは一方的なものではない。

返り討ちに遭うこともある。そして返り討ちにあった場合、そのデジモンの精神はその人間に汚染される。人の精神はデジモンの体にまで侵食して乗っ取れないから逆に言えば汚染するのが精いっぱいという事でもあるのだが。

そしてエンジェウーモンはすでに聖の一部だった。完全体になりそして食われた。影響されて得た強い自我、自身の為にという自我は汚染され聖が主であり自身はその一部なのだと、そう刻み付けられていた。

自身の内に巣くったデジモンは自分の鏡、それさえも聖の存在を揺らがすことはない。つまり、聖には自分自身の言葉さえも他人であれば届かない。

「それは要らない」

ローダーレオモンの前脚が、聖の顔面を押して竜美から引き剥がす。傷つくほど強くもないが機械の足は固く冷えている。

「私達は世莉を知っている、彼女は悪魔のようなものじゃない。私は竜美を知っている、勉強しろと強制される謂れもない。そして竜美は知っている、あなたの為には大抵いつだって竜美を傷つけて終わる」

ローダーレオモンはだからお前は要らないと冷めた目を向けた。

「物事は多面性があるからな、天はソドムとゴモラを滅ぼしたり洪水で人を滅ぼしたりするぐらいには残酷だ。ならその使いが当てられたお前も残酷さから当てられたのかもしれない」

ん?ソドムとゴモラでいいよなと竜美に確認するローダーレオモンに、亜里沙さんから聞いた気もするけどちょっと自信持って言えないと竜美は答える。

確認のやり取りの間にも恐怖はだいぶ和らいでいた。

「まぁ、同様に悪魔は契約に厳しいというからな、世莉の悪魔はその真面目さを反映してるかもとも言える」

エンジェウーモンにローダーレオモンの前脚を退けさせて聖はそうと呟く。

「……先に叩きのめさないとダメなのかな。痛い目に遭わないと私が正しくて自分が間違ってるって気づかないんだね」

エンジェウーモンがどこからか矢を出すと、ローダーレオモンは竜美を軽く咥えて受付カウンターから飛び出した。学校の中の物の形状は竜美が見た範囲は全部把握している。部活動の部室の位置も活動場所も、覚えている。

ローダーレオモンは竜美の脳から記憶に繋がっている。全ての長さが定規で測られたも同然の状態、機械の体の感覚は精密で、走れば走る程もどれくらい力を入れればどれだけ跳べるかスピードが出るか、曲がるにはどれだけの力が要るかもわかる。

つい昨日、あんな事があったばかりだ。騒ぎになる場所には来れないだろうと、しかし竜美の姿は見られないよう、人の少ない道を選んで駆け上がり、電子錠を解除して屋上に出た。

世莉さんに助けてもらいたい、と竜美はメッセージを打ちかけて止めた。向こうは明らかに世莉を意識している。呼んだら余計に困るかもしれない。でも、委員長の連絡先も知らないし、亜里沙と一緒にいるデジモンはまだ実体を持ててない。

世莉と一緒にいるとはわかっていたが、竜美は蘭に助けを求めるしかなかった。

メッセージを送って三分、どこにいるのといういう返信に屋上とメッセージを送ってさらにほんの数十秒。アニメで見たようなピンクの扉が屋上に忽然と現れて開いた扉の先に蘭がいた。

「こっち来て!急がないとこれ消えるから!」

その言葉に竜美とローダーレオモンは飛び込むように扉をくぐり抜けた。


スレッド記事表示 No.4882 それは悪魔の様に黒く 三話 前ぱろっともん2018/02/15(木) 13:36
       No.4883 それは悪魔の様に黒く 三話 後ぱろっともん2018/02/15(木) 13:38
       No.4886 な、なんて能力だってばよ……!夏P(ナッピー)2018/02/16(金) 23:46
       No.4891 この学校…ヤバイッ…!マダラマゼラン一号2018/02/17(土) 22:21
       No.4901 感想ありがとうございます。ぱろっともん2018/02/20(火) 21:55
       No.4911 それは悪魔の様に黒く 四話 前ぱろっともん2018/02/27(火) 23:15
       No.4912 それは悪魔の様に黒く 四話 後ぱろっともん2018/02/27(火) 23:20
       No.4915 真の主役登場夏P(ナッピー)2018/02/28(水) 21:02
       No.4927 感想ありがとうございます。ぱろっともん2018/03/13(火) 23:33