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ID.4724
 
■投稿者:ぱろっともん 
■投稿日:2017/05/15(月) 21:16
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短編【私は人か?人だったのか?】
         
空は青くて、日差しは強く。吐く息は確か白いのに軽く汗ばむ様な日だった。

私は校門を通り抜け、学年毎に別れた自転車置き場の三列目、一年生を意味するそこの部分的にすいているところで止まる。ここは上にある桜の木から夏になると毛虫が落ちてくる事がある。その時に避けてそのまま惰性でみんな避け続けているのだ。

少し、喉が渇いた。しかし水筒の中身は暖かいほうじ茶で、もとめている系統はスポーツドリンクの様なザ、水分補給という飲み物だ。

校舎まで行けば自販機がある。一番安いのは70円の水か小さい缶コーヒーか、そんなとこだったか。あまり覚えていない。少し小さいサイズの80円のスポーツドリンクがあったのは校舎の自販機だったか体育館前の自販機だったか。時計を見れば始業の九時まで三十分近くある。両方見るのもありかもしれない。

考えていた私は後ろから来る男に気づかず、ドンっと強くぶつかられるまま地面に倒れた。手は間に合ったが背中に走った痛みに苦悶の声をあげてしまう。

パニックってこんな感じか。何か言ってる男の声も聞こえてる様で聞こえない。周りがうっすら白く靄がかかった様ですらある。頭も動いてるのに動いていない。

その男はクラスメイトの、確か上村とかいう男だった。その手には赤い何かが見えて、よく見るとそれは包丁だった。

まさか、私は刺されたのか。

そう認識すると急に背中から血が噴き出す感覚がした。

大丈夫だ私、大丈夫だ。朝の学校だぞ、登校してる生徒はいっぱいいる。みんな携帯も持ってる。そう大丈夫だ私。通報されてるし、学校のすぐ近くに消防署がある。

だから私は助かるはずだ。無理にでもそう考える。傷の深さなんて考えたら死にそうな気がするから。

だからなんで刺されたのかとか考える。傷の深さとかを考えないように。

上村との間にどんな接点があっただろうか、ふむ、そういえば私の親友に告白してきた男じゃなかったか。一人で断るのが怖いからと私も断るその場に一緒にいた。それで逆恨みか。絶対許さない。

とは言ってもこんな場所で刺した訳で間違いなく捕まるだろう。もし親友が変な罪悪感に駆られていたらスイーツバイキングでも連れて行ってもらおう。駆られていなかったら励ます為にスイーツバイキングでも行こう。違いは奢るか奢られるかだ。

それにしても救急車は来ない。コンクリートの粒が頬に食い込んでいるままだ。

立ち上がろうと力を込めようとしてるのに、できない。

視界がより霞んでいく。

なんだか眠い。





目を覚ますと天井が白かった。体を起こすと意外とあっさりと起き上がった。背中に痛みもない、でも左腕に痛みを感じた。

点滴針でも刺さってるのか。抜けない様に気をつけないといけないなと左腕のあるはずの場所を見ると、黄色い毛の生えた、なんだろう、獣っぽい腕があった。手は白いし指は三本で妙にぷっくりしてもいる。

細かい毛はあるけどプニプニしてそうだなと右手を持って行って触る。右手も同じ様な感じ、なのに確かに私が動かした様に動いているし、想像した様なプニプニとした感覚が手に伝わって来る。

現実に思考が追いつかない。

あ、そういえば服を着ている感覚がない。胸のあたりや首の周りを試しに触って見ると妙にふかふかとした毛があるだけだ。布がない。

とりあえず隠そうと布団を引き寄せて、ベッドの脇に置かれたテーブルに鏡が置いてあるのを見つける。

それを手に取ろうとして、顔がちらりと映ったのを見て手が止まった。

想像はしていた。右手で左手を触った辺りで。右手にも感覚が伝わってきたが触られた左手の感覚も当然あって、胸を触った時には毛が引っ張られている感覚もあったのだから。

だから薄々想像はしていたのだが、そこに私の面影はなかった。

黄色い毛で覆われた顔の表情はわかりにくく、白目が黒く黒目が青色の目はとても自分のものと思えない。

何を思っているのかすらわからなくて、とりあえず水を飲んで一息吐きたい。

水道は、少し離れたところにあって飲むには一度立ち上がる必要がありそうだ。

点滴のかかった棒は下に車輪が付いていて一応動かせそうだ。

裸足でもいいやとりあえず立とうと、ベッドの端まで行って足を見て気がつく。なんか足が変だ。

膝を曲げ伸ばししてみる。この感覚はあんまり変わらない、だけど脛が短く足が異様に長い。試しに足をついてみると、一応立って歩くのに支障はなさそうだ。

ふと歩こうとして、点滴の管に腕を引かれて転ぶ。尻餅はつかなかったけど尻と床の間に挟まれた尻尾が痛い。バランスがとりにくい体なのかもしれない。

水を飲まなくても冷静になるにはちょうど良かったかもしれないなぁとか思いながら立ち上がる事を放棄する。床のひんやり具合が心地よい。

でも病院は大体土足か、土足で歩く場所に寝転ぶのはなんか嫌だ。

寝た状態から起き上がろうとすると体が妙に軽いのがわかった。勢い余ってなんて事にはならないが違和感を覚えるには十分だ。

とりあえずベッドに座る。

さて、私は何故か変な生き物になっている。尻尾もなんかあるし、耳は縦に長いし、デフォルメした狐みたいな姿をしている。夢みたいだけど、それにしては意識がはっきりしてる気もするし、仮に夢だとしても夢なら夢で覚めて欲しい。

で、どうしようか。携帯もないし、服もない。でも点滴が刺されていてベッドに寝かされていてと人間扱いはされているっぽい。

ふと枕元を見るとナースコールもある。本当に普通の病院にいるみたいな感じ、お見舞いに行った病室でこんな感じの部屋を見たことがある。ちょっと先進的なデザインをしている様にも思うけど。

とりあえず歩くのはまだ不安がある。となるとナースコールを押すか、否かしかない。

押すか、押さないか。

迷っているとコンコンと扉がノックされて、さも当然と言うようにコスプレイヤーが入ってきた。

ファンタジーの作品に出てくるシスターのコスプレだろうか、服もゴスロリ風でなかなか決まっている。

まぁ、なんとなくわかっているのだ本当は。白いシスターっぽいフードには目と翼が付いていて、翼は少し動いている。なんと言うか、生きている服を着ている様に見える。なんと言うか、何かしらの人外なのだろう、今の私の様な。

「……蓮華ちゃんが起きてる!ナースコール押さなきゃ!」

「え、うわ、うん」

ナースコールを押すと、向こうからどうされましたかーと間延びした声がする。それ貸してと生きてるフードさんが翼をぱたつかせながら言うので、多少気迫に押されつつ渡す。

「起きてます!ベッドに腰掛けてます!」

わかりました。すぐ行きますねと言われてナースコールが切れる。

天使やらなんやら、ケンタウロスみたいなのだったりなんだったり、人外が三人ほどやってくる。医者一人看護師二人なのだとわかるのは白衣と名札があってこそだ。

ケンタウロスの背中に検査器具やらなんやらが乗せられている。右手には異質に見えるカバーと義手が付いている。

「自分の名前はわかりますか?」

名前、もちろん言えるはずだ。なのに出て来ない。あれ?と頭を抱えてみてやっと思い出す。

「蓮華……黒木 蓮華です」

「黒木 蓮華さん、ね……漢字はこれで合ってますか?」

カルテか何かの一部分を見せられる。そこには今の私の写真と名前との他に、種族という欄があってレナモンと書かれている。

それに頷くとうんうんとその天使の医者はカルテを見て、確認が終わると名乗り、ケンタウロスの背中の器具の準備を始めた。

「起きたばかりで悪いんですが、ちょっと幾つか質問させてね」

それから簡単に、意識とかそういう事に関する質問がされて、そして、私が一番知りたい事が聞かれた。

「どうしてここにいるかわかりますか?」

「わからないです」

私がきっぱりと答えると、カルテを確認し、看護師さんに一言二言耳打ちして何かを確認した。

「えーと……ショックだとは思いますが、家が爆破されたみたいですね」

「爆破」

思いがけない答えについ復唱してしまう。刺されたとかなんて話はなく、場所も学校じゃなく家。それは私の想像とあまりにも食い違い、あまりにも衝撃的。

「そちらも捜査は警察の方で進められている様で……とにかくあなたは救出されここに運ばれ、怪我は回復したものの意識がなく今に至ると……こうした事があった時に前後の記憶がないのはそう珍しいことではないですし、数日検査入院をして、異常がなければ退院できると思います」

「あ、はい……」

そう答えると医者は何かあったらナースコールを押してくださいと言ってあっさりと出ていってしまった。

謎が増えただけで終わってしまった。まぁ何はともあれだ、一つずつ整理していこう。きっとその方がいい。

つまり今解決すべきは、当然のようにここに残っているこのコスプレシスターだ。正直どうしたら解決なのかもよくわからないけど他に話を聞ける相手がない。

「あの……あなたは、その……誰ですか?」

「私は桜庭 聖奈(サクラバ セイナ)。蓮華ちゃんの、親戚になるのかな?多分」

今まで聞き覚えのない名前だ。なんならまず桜庭という名前に聞き覚えがない。

「それで、その……桜庭さんは何故ここに?」

「お父さんが様子を見ててくれって、これからいろいろ大変だろうからって」

肝心の父と母は何をしているのか。記憶通りの経緯なら殺人未遂、マスコミだなんだと色々と大事になってるせいで来れないのかもしれない。

自分の手のひらを自分で握ってみる。握っている感覚も握られている感覚もある、だというのにそれはとても自分のものと思えないし手の温度すらもよく伝わってこなくて体中の毛という毛をむしりたくなった。

まるで風邪をひいた時みたいな心細さから、私は少し気まずそうにしてた桜庭さんに話しかけた。

「……私ってどれぐらい寝て、ました?」

「爆破事件からは一週間ぐらいだから多分それぐらいかな?」

「その、爆破事件の詳細とかって……」

「私も詳しくは知らなくて……話聞いたのも三日後ぐらいで、どうやらお父さんも親戚だと知らなかったみたいだし……」

「そう……」

窓から吹き込むそよ風の音が聞こえる。

お互いに自己紹介をなんて話にもならないし、桜庭さんから見たらどこに地雷があるかもわからない。私としても何を聞けばいいのかわからない。

お互いに話すこともできず、そうなると私はもう考えたくなくとも考えないなんて事もできず私はふと最悪の想像に辿り着いてしまった。

何故これからいろいろ大変なのか、何故名前も聞いたことない様な親戚が来てるのか、そうして何故父さんも母さんも私の前に顔を出さないのか。まとめていったらもうそうとしか思えなくなっていった。

「……ね、ねぇ、桜庭さん。私のお父さんとお母さんってどうなったのか知ってる?」

「……え、と、その……」

その反応だけで察するに余りあった。

「死んでる?」

私が改めてそう聞くと桜庭さんはうんとか細い声を出した。

死体を見てないからか他の事があまりに現実離れしてるからか不思議と実感は沸かないし悲しみが伴わない。

「これからどうするって話は知ってる?」

「それは、うちで一緒に暮らすか、それともそういう施設に行くかなんだけど……あの、ゆっくり決めればいいからね?」

「じゃあこれからよろしく桜庭さん……いや、桜庭さんの家にいくなら聖奈さんって呼んだ方がいいのかな?」

「うん。こっちこそよろしくね、蓮華ちゃん」

握手しようと手を伸ばすと変わり果てた自分の手が改めて視界に映る。自分の手を見ると生きてるフードを被った不審な感じの格好の聖奈さんすらまともに見える、少なくともその手は私の知る人間の大きさで人間の指の数で人間の形だ。

握ると私の手がいかに大きく人間でないかがわかる。今握っているこの手こそが人間らしい手だから。

検査入院は一週間ほどかかるという事で。その間私は毎日来てくれた聖奈さんや看護師さん医者の先生にいろいろなことを聞いて少しでも把握しようと決めた。

「記憶喪失のパターンには一部の常識が抜け落ちたり偽物の記憶が挿し込まれる事もあるんです」

というのが、色々話を聞いたうちの一人、背中に六枚翼を生やし鉄仮面を被った主治医の先生の所見。そう思われるのは仕方ないぐらい私のわからない事知らない事は常識の様だった。

姿に関しては何がおかしいのと言われ、自分が人間である主張は受け入れられたけど聖奈さんにとっての人間は今の姿でも人間であの半人半馬でも六枚翼が生えていてもどう見ても四足歩行でも人間であると言い切られた。どうやら私と見えてるものは同じらしいのに差別的な思考はいけないと怒られ、ただ謝るしかできなかった。

私の両親の死亡証明書を見せてもらったり、私が住所を移したりする必要もあったこともあって自分の戸籍も調べてみた。すると両親の名前も本籍地も記憶通りだった。しかし顔は見覚えなんてある筈がない有様だった。うちの父はライオン頭なんかじゃないし、母は狐じゃない。母親似なのは一緒だけど。

この状況に耐えかねて私は聖奈さんに覚えている事を全部吐き出した。

聖奈さんはすぐさま医師を呼び、簡単に言うと記憶喪失という診断書が出され障害者認定すらされた。チップの内蔵されたカードの発行はとてもスムーズでまだ入院してるのに手元に届いた。

いくらいい人そうだったからって聖奈さんを信じすぎたかと思った。いや、実際私はこの世界では狂人同然だから当然の反応なのか。そう思った。

だが翌日、どこかからか持ってきたデータ達を持ってきて確かに私の発言はそれらしく聞こえて信じられると肯定してくれて、それは真剣に聞いていてくれたことがわかった。

話を聞いてみると。どうやらこの世界では学校に行く人と行かない人は結構分かれるらしいのだが、聖奈さんは特に歴史について学びたくて行ってるとかで結構興味の対象としても魅力的らしい。だから調べる手にも熱が入って念入りになって時間もかかったと。

そうして話をしたが、入院していてはわからないことも多いしとりあえず退院してから話をということになり、まずは慣れようという事になっていた。

この世界は私の知る世界とあまりに違う。

例えば、衣服はどうしても着ないのが恥ずかしかったので着たが病院の窓から見下ろせば裸の恐竜が歩いてたりした。どうやらここの人達にとっての服にお洒落以上の意味はな意味はないらしい。

院内を歩いている人の中にも裸の人はいて、なんでかと一度だけ看護師さんに聞いたら、なんで裸の人の割合が多いのかという意味に捉えられたらしく、院内感染のリスクを減らす為に、そもそも触れない厚着になるか、即座に洗える全裸になるか二極化するという話をしてくれた。ちなみに看護師さんは厚着を推奨しているらしく、私はそれに激しく同意した。

この世界で裸はそう珍しくなく当たり前の光景ですらある。

裸をじろじろ見てるというとなんだか変な感じに聞こえそうだけども、どうやら見てると生殖器がない、恥ずかしいものがないのだから隠してなくても恥ずかしくないという事らしい。ちょっと聞いてみたら強姦とかセクハラは通じたが猥褻物陳列罪とか露出狂とかの言葉は通じなかった。

服装のこともそうだが、皆外見が違うのは種族が違うとかいう事も聞いた。種族が違うってやっぱり人間じゃないのかと思えばそうではなく、この肉体はなんていうか肉体でしかないという話。この肉体が出始めた時にはデジタル技術社会の尖兵でもはや人じゃないとデジタルモンスターと呼ばれていたとかいう話を聞いて、そう呼ぼうとしたら差別用語だからやめようと諭された。

恋愛観とかもかなり違う。あまりホイホイ口に出したいわけじゃないけど、まぁその、生殖器とかがないので一般的には男女の恋愛が基本、みたいなのがない。性別の概念はあるけどみんな自称でしかなく、意味がないからか戸籍には性別の表記もない。

実は入院してすぐ気づいていたのだが最も慣れられそうにないのが、目を覚ました日の日付が2256年3月7日だった事。

私の記憶では刺された日は2017年11月の半ばだった筈だ。





「蓮華ちゃん?そろそろ行こう?」

「うん、玄関でちょっと待ってて?」

退院して約二ヶ月。5月になって暖かくなって来た事と大分生活になれた事が合わさってよく外出する様になった。

桜庭一家との関係は良好で、私のことを二人目の子供と見てる節すらあるぐらいに親切、私からできる事がない事を悔やむぐらいには居心地がいい。

私は私や両親を調べたいが個人情報なんて検索で調べることもできない。爆破事件に至っては確かにあったという事は調べがついたもののそれ以上は何もわからない。むしろ警察にこっちが尋ねられたぐらいだ。

仕方がないからまず私が確かに過去から来たらしい事を調べようと思った。

私の生きた記憶のある時代をそれこそ普通に教科書に載らないぐらいに細かく調べる。この時代を生きていた黒木蓮華がそうそう知り得ない事を、私が知っていたならばそれは、私がどういう存在かの証明になる。

違っていたならばもしかしたらそもそも未来ではなく別の世界という可能性も発生してしまうし、精神疾患の可能性も残るし、色々と困る事になるけれど。わからないよりは前進する。

そうした事を私達は話し合った事があって聖奈さんは美術館や博物館に誘ってくれる。もちろんネットに上がってるものも多いが、実際に見た事があるものが置いてある可能性もあるという考えだ。

とんでもなく発展したネット回線を通して体を美術館の玄関前に転送し、あまりに安いタダ同然の入館料を払って中に入る。

「ここの美術館はね、大体第二次世界大戦後からの百年に絞ったところだから、2017年前後も含まれるんだよ」

歴史を知るには絵画も資料なんだよという聖奈さんは美術史にもそれなりに明るいらしい。説明に頷きながらパンフレットを手に取る。

意外にも紙のパンフレットは現役だ。正確には木を伐採してつくる紙とは別物らしいけど、電子媒体にするとイタズラでハッキングされて数字がデタラメにされるとかが起こる為なのだとか。

「あ、この名前は見た事ある」

「どれ?見せて?」

なんとなく赤いオカッパ頭の記憶があるとその名前を指差すと、確か水玉模様なんかの同一モチーフで埋め尽くすのが特徴的な人で……とざっくりと作品について予備知識を教えてくれる。

その時を生きてた私よりも大分詳しいなとか思うけど、歴史的背景に興味が向いてる聖奈さんに作者の姿はあまりピンと来てないらしく、水玉だらけのその一角に辿り着きカラーの作者近影を見て悲鳴を上げそうになる様は面白かった。フードの耳がまるで漫画の様に跳ね上がって私の顎を叩いたのはちょっと痛かったが。

頭に生きたフード被ってゴスロリ服も体の一部な聖奈さんに驚かれる様を当時予想できた人は多分いないだろう。

こんな事思ってる私も狐が立って服を着ている様な姿なのだからなかなか滑稽かもしれない。

水玉だらけの一角を抜けて、前なら訳わからないの一言で通り過ぎてた様なところも見て回る。少しであれ理屈について話してくれる人がいると訳わからないが減って何を描いたものなのか、何を表したものなのかわかってくる楽しみを持てる。知識自慢だとうっとおしいけど聖奈さんはその距離感がうまい。

幾らか聞いた様な名前やテレビで見た様な作品もあって、大阪万博の関係は昔見た気もしたが、私が修学旅行で行った関西で見て覚えている様なものは歴史の教科書なんかにも載っていて、とても参考にはならなかった。

美術館を出た私達はすぐら近くの喫茶店で昼食を取る事にした。

あのかぼちゃの彫刻が、等と話をしているとふと聖奈さんがそれでどうだったかと聞いてきた。無論、私が過去から来た証明になり得るかという事についてだ。

「……私が自分で納得するには充分だけど 、逆に言えばそこまでなんだよね」

聖奈さんでも驚いた作者近影。その程度しかなく、それは偶然知りえてもおかしくない様な有名な作者でもある。私がやっぱりと納得する事はできても強い証明にはならない。

そう言えばそっかと少し残念そうに言われる。

「蓮華ちゃんが過去から来た事を証明するにはどうしたらいいんだろうね?」

ちゅるっと聖奈さんの口にスパゲッティの端が吸い込まれて行く。

「どうしたらいいのかな……」

ごろりと入っていたポテトにフォークを突き立てながら私は答えになってない答えを返す。

軽く沈黙ができて、それが気まずくて改めて状況とか経緯とか確認し合って、それでもやっぱりわからずまた黙る。

二人の皿からスパゲッティがなくなる頃になって、ふと、私達に対してふと刑事コロンボとかそんな感じのイメージの服を着た人が声をかけて来た。

「失礼、話が聞こえてしまってね。もしかしたら私は迷走する君達が先に進むべき道を指し示す事が出来るかもしれないと思ったのだけど、話を聞いてくれるかな?」

「それより病院に行ったらどうですか?サイボーグ型ですよね?脚とか生身が見えてますよ」

サイボーグ型の肉体はそう珍しくない、でも目の前のその人は長いコートやハンチングの下に見える顔や手首足など肉がむき出しの部分が所々にあり、相当な旧型かそれとも壊れかけなのではと疑う様な外見だった。

そしてそれ以前に不審者である。

「お気遣いありがとう、しかし心配はしなくていいよ。この体はアンドロモンという試作型のサイボーグの姿にあえて整えてあるだけだからね、あまり理解はされないのだが要は趣味で一見不健康そうな格好をしてるという事だ」

「えーっと、はっきり言うとそもそも急に話しかけられても困るので、どっか行って欲しいんですけど」

「なるほど、警戒心が強いのだね?なら……そうだ、私が長々と語ろうとも君は心の門を開いてはくれないだろうし覚えてもくれず、お互いの損しか見えない。しかしそれも無理はない、私が考えた事を答えだけ簡潔に言おうか」

その人はそう言って数秒間黙った。多分、言うことをまとめているのだろう、それだけ言ってくれたならばいなくなるならこっちもそれでいい。もし何かしらあったら即110番だ。

「君の、過去に遭遇した記憶のある事件を調べるといい。警察の図書館で調べてもらえるはずだよ」

それではこれで、よかったらもらってくれたまえと紙の名刺を二枚机の上に置いてその人、名刺によれば如月 青三(キサラギ セイゾウ)は去っていった。

もしかしたら発信機でもついてるのでは、盗聴するプログラムでも仕込まれてるのではと疑いこそしたものの、そういうのを調べるアプリをダウンロードして調べてみても特にそんなものはない、本当にただただ紙の名刺だった。

おそらくは趣味の一環なのだろうそれを見てると私はもしかして悪いことをしたのではという気がしてきた。今の時代はなんでも電子データにもできるようなものがほとんどで、そうできない紙の名刺は普通に考えたら不便な代物だ。印刷してくれるところもそうないだろうし、紙のノートの方が電子媒体よりも高い時代だ。

つまりそれは何も仕込んでないと一見してわかりやすく、過去から来たという私を信じたうえで馴染みがありそうなものを選んだ誠意だったのではないかと。

「……いい人だったのかもね」

聖奈さんがポツリと呟く、多分私と同じような事を考えたんだろう。

「……変な人だったのも間違いないけど」

警察の図書館を取り急ぎ検索して調べてみるとその利用法のところに私の目を引く一文があった。

閲覧する際には氏名等の記入が必要です。

たったそれだけではあったが、それこそ私が求めていたものでもある。閲覧履歴が残る、最早私の家だった場所にあったハードが壊れてしまって調べることすらできないネットと違い私が調べたかどうかもわかる筈だ。もしも私が調べていなくて、それでいて私の知っている情報と一致したのならば、客観性もある。

私がいた証明になりえる。


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