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ID.4714
 
■投稿者:ENNE  HOME
■投稿日:2017/05/10(水) 19:59
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アシッド・ルースト・オール!≪06≫−1
         
 
 
 
 仮面の下へ表情を隠し、空へ舞い上がる。
 羽虫のように半透明な羽、青く太い4本の腕。内、腹から伸びた2本は中途半端な状態で後ろへ向いている。空を駆ける為、邪魔にならないような作りに見えた。
 自国の上空へ大挙として押し寄せた黒い大群。
 肉薄しても表情が解らない──ただ彼が理解しようとしなかっただけなのだが──それら。
 それ、と銘打った相手に慈悲など無い。と、彼は空を蹴りざま体を回転させる。
 まるで、竜巻のような。
 素早く力強く、周囲を巻き込み駆け抜ける。
 耳へ届く悲鳴、相手の体を切り裂く音、飛び散る血液データを五感で感じながらも、彼は纏う空気を変えず、目標を次へ移す。
 戦闘種・デジモンなのだから、戦うのは至極当然。
 しかし、彼は自国に於ける『騎士』だ。見てくれからは想像し難いにしろ、心は国と共にあり、治めるデジモンを敬慕し、全てを守る為に在る。寡黙に無心に敵を屠るのも、国の為、そこへ住まうデジモンを守る為に他ならない。

 襲撃に燃えるデジモンを次々と塵へ換える彼の隣、もう1体のデジモンが猛威を振るう。
 赤い仮面、黒い鎧。青い体は先のデジモンと似ていたが、僅かな隙間から見える目が彼の雄々しさをよく表していた。
 群がるデジモンを太い脚で薙ぎ払い、素早い動きで繰り返す。しかし、どれも塵へ換える程では無い。ほんの一瞬、意識を逸らすだけ。
 それで良かった。
 蹴りによって弾かれたデジモン達は、知らず一カ所へ集められ、互いに体の一部がぶつかる事に気が付いた。
 はっと我に返るも、
「──遅い!」
 はっきりと届く声、がしゃり、と構えられる照準、銃口。
 思わず吸い込まれてしまいそうな墨色の穴に、視線を向けた全員が息を呑んだ。
「『デスペラード・ブラスター』──ッ!」
 咆吼と共に放たれる無数の弾丸、火花は、固められたデジモン達を漏れなく蜂の巣にする。痙攣し悲鳴を上げる彼らは時間差こそあれ塵となり、辛うじて撃ち漏らされたデジモンも、待ち構えていたもう1体の騎士により、次々と首を掻き切られ絶命した。
 会話もアイコンタクトも無い、慣れた連携。
 動作を終えても、互いに労う様子は無い。
 まだ、終わっていないのだ。塵になったのはほんの一部に過ぎず、これから他の塊を潰しにかからねばならないのだから。


 が、そこは『騎士の国』。戦えるモノは、彼ら2体に留まらない。
「おぅあああ――ッ!」
 猛々しい雄叫びが、黒い塊の中心へ突き進んで行く。その姿はひとつやふたつには留まらず、10にも20にもなる。彼らは銘々に武器を持ち、或いは自身の肉体そのものを快刀とし、闇色の肉を解体して行く。処理が済めば、内から吐き出したエネルギー波で跡形もなく燃やし尽くした。
 デジモンは死を迎えれば、肉体を残さず塵と消える。しかし、騎士達はそれさえ許さないとばかり、それらを自らの手で屠って行ったのだ。


 更に。
「頃合いだな」
 先陣を切っていた赤い仮面のデジモンが、相方を振り返る。すると、彼もまた同じ思考へ至っていたのだろう、無言のまま頷きを返して来た。
「――散れッ!」
 どちらともない怒号は合図。
 その意味を正しく理解したデジモン達は、眼前の敵を倒した後、全速力で離脱する。次に倒される覚悟を薄く持っていたデジモン――敵、と呼んでいるそれらは――恐怖の表情を貼り付けたまま、飛び去って行く騎士の姿を視界の端へ捉えていた。それしか出来ない。それ程に、彼らの動きは予想外で俊敏だったのだ。
 敵というデジモン達は、知らず安堵する。が、ほんの一呼吸のみだ。
「――……え?」
 足下、下方。これから攻め込もうとしていた場所から上って来る圧迫感が、自然と彼らの視線を下ろさせた。
 引き寄せられて尚、頭の理解が追い付かない。眼下の街や城を全て飲み込むまでの光が溢れ、まるで獣のような唸り声を上げているというのに。圧迫感は自分達へ向けられた殺気であると僅か把握している筈なのに、思考は停止し体も動かせずにいた。
 周囲には、敵対した自分達の体を残す事を許さない他国の騎士。眼下に広がるのは、「彼」の国に牙を剥く全ての生存を容赦しないモノ。
 ああ、と思い出す。
 アレを放つモノもデジモンだ。ひとつの国を潰すべく集められた「仲間」の数に昂揚し、これなら絶対に任務を成し遂げられると芽生えた自信。――その陰で、いつしかすっかり忘れ去っていた存在こそ、これから潰したい国を守っている大元なのだ、と。
 正確には、自分達は国を潰す為に集められたのではない。
 彼を、彼(か)の存在、ただひとつを殺す為だけに募られた、
「――烏合の衆」
 ――無敵の、――……自分達は、なんだっけ?
「『ファイナル・エリシオン』――ッ!」
 その声と共に、多くのデジモンは思考を閉じた。視界も聴覚も、何もかもが消え果てた。





 100体程の群れだっただろうか。
 騎士国・イティアの上空に現れた黒い軍勢は、誓士達が視認して程なく消滅した。城下町を見下ろせる位置に到達した頃には塵さえ消え去り、元の青い空が広がっている。
 街の中央、ウイングドラモンでも余裕で降り立てる広場へ足を着けると、そこには見知ったデジモンが出迎えるように立っていた。
 深紅のマント、白い鎧。右手に槍、左手に大盾を携えた彼は、先にデジモンの群れを迎え撃っていたモノ達と違い、見るからに騎士と解る。
「よく来たな、セイジ、ソーコ」
 耳にするだけで背筋が伸びる、凜とした声。それなのに、誓士は少し不満げな返事をした。
「あー……無事、みてぇだな、デュークモン」
「お陰様でね」
 皮肉では無い単なる事実として、深紅の騎士は告げた。

 デュークモン。
 騎士大国・イティアを統治する、長的な存在だ。王とも呼べるのだが、本人は頑なに固辞し、あくまでも纏め役という位置に落ち着いている。
 強大な力を持ち、たくさんの物を守り続けて来た彼は、デジタルワールド中の幼年期・成長期デジモンの憧れ。姿を見た事の無いモノにさえ名が通る程だった。故に、理不尽な襲撃を食らう事も数え切れない程あったが、全て過去形。多くはデュークモンへ到達する以前に撃退され、運良く辿り着いたとて、真正面から打ち破られていた──数年前の1度を除いて、だが。

「あれくらいの勢力、キメラモンとかファラオモンに比べたら、どって事ねっすよー!」
「随分鍛錬を組んだゲコ……」
「デュークモンは鬼だったゲロ」
「うんうん」
 腕を組みながら、しみじみと頷き合うイティアの騎士達。そこへ、デュークモンが雰囲気も柔らかく語りかける。
「何を言う。あれくらいの事で音を上げるようなヤツは、騎士団にいないと信じてるよ」
 表情は面頬に隠れている為、正確には解らない。が、辛うじて覗く翡翠の目からは優しさが伝わって来る。
 この見てくれが優男ならば、大抵の女性は騙されていたかも知れない。惜しむらくは対象が全てデジモン、部下である事か。
 彼らは再度溜め息を吐き、薄ら笑いを浮かべた。
「これだよ。この、信用してるが故の鬼発言……!」
 思い出す鍛錬の日々は、どれも血反吐を吐くものだった。寧ろ、脳裏へ浮かべるだけで胸の奥が熱くなる。胸というか喉の奥というか。
 血反吐と吐瀉物が入り交じった地面、床。それぞれの顔は涙なんだか鼻水なんだか、よく解らない液体に塗れた経験も少なくない。
 何度、騎士団を退こうと思ったか。
 それでも心が死ななかったのは、デジモンとしてのプライド、騎士としての矜恃──などではなく。
 同じように、自分達以上に己を追い詰め、痛め付け、地面へ這い蹲りながらも立ち上がる『長』がいたから。壊滅の際へ追い遣られながら、国を建て直そうとする彼の姿があったからだ。

「お前達は、街へ被害が出ていないか確認してくれ。怪我人や損傷した箇所があれば対処を」
「了解っす」
「行くぞー」
 デュークモンからの簡潔な指示に、騎士のデジモン達が散って行く。擦れ違いざま、何体かのデジモンがメタルガルルモンに気付き、銘々に声をかけた。
「メタルガルルモンも、後でな。っつーか、マジで究極体になってやがんの!」
「煩いな、早く行け」
 苛立ちと、多少の気恥ずかしさを見え隠れさせながら、メタルガルルモンは吐き捨てる。
 その様子をまじまじと眺めていた誓士は、やがてデジモン達がいなくなった頃に小声で問いかけた。
「……手伝いに行きたきゃ構わねぇぜ?」
 君までそんな事を。
 言いかけた黒狼だったが、小さく唸りながら視線を外し、溜め息を吐く。決して諦めの為ではないそれは、
「いいんだよ。俺はもう騎士団に属してないし」
 未練も何もない、という表れでもあった。

 メタルガルルモンは、生まれこそはじまりの町。だが、流れに流れ、辿り着いたイティアで騎士として働いていた過去がある。
 何れ出会うだろうテイマーを守る為、強くなるひとつの手段として選んだ道は、結果間違いではなかった。勿論、ひとり旅を続ける選択もあったが、広い世界で戦える相手を得る確率よりも、常に研鑽を重ねられる確証を得た場所の方が、彼にとっては魅力的だったのだ。
 目論見通り、成熟期へまで進化を果たし、目標に据えるべくデジモンとも出会えた。蹂躙され、怒りを覚えられる程度には近しい仲間も。焼き潰され、取り乱してしまう程に愛着を持った国も。
 騎士国イティアを抜けたのは、2年も前の事。最初の旅、『闇』を封じた後だ。
 再会が叶わないかも知れないと思いながらも優先順位を変えられず、また、彼への脅威をひとつでも多く潰しておく必要があると心に決めた時。
 デュークモンにのみ、律儀に退役の意を伝えたものの、他の仲間とは顔も合わさなかった。当時のメタルガルルモンは他を顧みる余裕が皆無で、復興の一歩を踏み出した国の様子にまで気が回らなかった所為もある。
 実のところ、今回イティアへ足を踏み入れたのは2年振りだった。

 だから自分は関係ないと言い切るメタルガルルモンに、誓士はふーんと唸った。
「その割にソワソワしてね?」
「ッ、ッ!?」
 見た目からは解らない筈の浮付きは、流石にテイマーには伝わってしまっている。ポーカーフェイス、我関せずを必死に装っても、落ち着きを失った目線や足運びが、普段の黒狼とは違う事を知らしめていた。
 見覚えのあるような、それでいて懐かしくもある町並み。活気が戻った城下、物珍しそうに遠くから観察して来る成長期デジモン達。中には傍に人間を置くモノもいた。声をかけて来る気配は無いが──メタルガルルモンが少なからず威嚇をしている所為もある──それすら、なんだか酷く懐古を煽る。
 わざとらしく咳払いをし、唇を尖らせる黒狼。
「う、煩いよ」
「ふーん」
「へぇー」
 が、誓士に次いで届いた声が、瞬時に殺気を纏わせる。
「殺すぞグリフォモン」
「へぇー、って言っただけじゃん」
 なんなの、この扱いの差。
 相変わらずテイマーには激烈に甘いヤツだな、とグリフォモンは尻尾を振り回した。


 デュークモンは、見慣れた面子を一通り確認した後、初見の顔ぶれに目を留めた。心当たりがある、と声をかけた相手は、随分背の低いニンゲンだった。
「キミがエリアだな。初めまして、デュークモンだ」
「初めまして。……今回の事で、ご迷惑を」
 緊張の面持ちで頭を垂れようとする彼女を制止し、「気にする必要はない」と告げる。
 デュークモンは、自身がよく知る千歳や涙達とは違う雰囲気を持つ彼女に、幾ばくかの興味を向けた。性別を持たないデジモンでありながら、「女性」というモノを前にすると膝を折りたくなるのは、騎士デジモンだからだろうか。
 それでいて本来の目的を優先させる辺りが、真面目で堅い彼らしい。
「……ナミダからは何も説明を受けていないんだな?」
「え?」
 小首を傾げたエリアの反応を肯定と見做し、デュークモンは言葉を続けた。
「話は俺達の方から、という風に聞いている。まぁ、あちこちから話を聞くよりその方がいいって事さ」
「成る程、そうですね。……と、いう事は」
「お前は何か知ってんのか、デュークモン」
 エリアの言葉を継いだのは、誓士だ。
 いつの間にか、デュークモンの周囲には彼だけでなく、メタルガルルモンやグリフォモン、千歳達が集まっていた。エリアの背後へ立つクロルやボガート、彼らのパートナー達も一様に深紅の騎士を見詰めている。流石に巨躯のウイングドラモンからは見下ろされる形になっていたが、体格の差などデュークモンが戦く理由にはならなかった。
 寧ろ、エリアというニンゲンを取り巻く彼らの真摯さを微笑ましく思い──勿論、中心にいるエリアが不真面目という意味ではない──気が引き締まる。
 守りたいモノがあるのは、騎士やパートナーデジモンだけでは無い。互いにとって大事なものをも貴ぶ。その気持ちを垣間見、喜ばしいと思うのもまた、デュークモンが騎士のデータを組むデジモンだからなのだろう。
 しかし、と彼は肩を竦めた。
「まだ、全てとう訳にはいかないけどね。……まだ、言える程の情報がないんだ。そこは解ってくれ」
「……」
 思わず顔を見合わせたのは、誓士とエリアだ。
 涙も同じような事を言っていたのだ、断定するには材料が足りない、と。確かに、昨日の今日で状況が劇的に変わるとは思えず、こうして協力者が増えるだけでも僥倖だった。
 だが、両者の口ぶりからは、多少の情報は入って来ている事が窺い知れる。そして、デュークモンは開示できる物については話してくれる心積もりらしい事も解った。
 十分です、と頷いたエリアに、誓士も首を縦に振る。
「よろしくお願いします」
「頼むな、デュークモン」
「ああ。ジュンも城にいる、移動しよう」
 案内する、と踵を返したデュークモン。
 しかし、今一度頭上を見上げ、うむむと唸った。視線の先には、城下町へも影を落としてしまえる程のウイングドラモンが。
「……城内は無理だな。パイルドラモン、セイジ達を中庭へ案内してくれ。俺はジュンを呼んで来る」
「了解しました」
 デュークモンの指示と共に前へ出たのは、唯一この場へ残った「騎士」である。青い体に映える、黒い鎧と赤い仮面。たった今終わった戦いで、先陣を切って敵を殲滅せしめたデジモンの1体だ。
 深紅のマントを翻し、先に行っていてくれと飛び去るデュークモンを見送って、ボガートが訊ねた。
「ジュンって?」
 答えたのは、彼の近くにいた蒼子である。
「デュークモンのテイマーですよ。私達と同じ、デジメンタルなんです」
「そういえば、デュークモンと一緒じゃないのって珍しいんじゃない?」
 探しても見当たらない訳だ、と千歳。彼女は、不機嫌になったグリフォモンの首の付け根を撫でている。
「イティアはひとつの国で、デュークモンは『長』という立場ですからね。サポートに当たる潤が戦いに同行出来ない事も、ままありますよ」
 大変なのね、と頷く千歳。どんなヤツなんだろうな、と想像を巡らせるボガートを横目に、メタルガルルモンは進み出たデジモンを睨んでいた。
 睨む、というのは語弊か。彼の鋭い目は、ただ見詰めるだけでも殺気を込められているように感じるだけ、の筈だが。見慣れないデジモンが側へ来ると、例えデュークモンの側近で嘗ての仲間だったとしても、警戒してしまうのがメタルガルルモンの性格だった。
 しかし、
「……あっ」
 ややあって声を上げる。
 その様子に彼のデジモンは肩を落とし、苦笑した。
「気付いたか。久し振りだなメタルガルルモン」
「……ああ、あー、まぁね」
「仲間?」
 それにしては、おかしな態度だな。
 思わず誓士が問うと、メタルガルルモンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、溜め息と共に歯切れ悪く答えた。
「スナイモンだよ、セイジ」
「はっ!?」
 
 
 


スレッド記事表示 No.4714 アシッド・ルースト・オール!≪06≫−1ENNE2017/05/10(水) 19:59
       No.4715 アシッド・ルースト・オール!≪06≫−2ENNE2017/05/10(水) 20:01
       No.4716 アシッド・ルースト・オール!≪06≫−3ENNE2017/05/10(水) 20:04
       No.4722 勇気リンリン 元気ハツラツ夏P(ナッピー)2017/05/12(金) 00:16