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ID.4705
 
■投稿者:中村角煮 
■投稿日:2017/04/08(土) 01:20
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幾千のアポカリプス U.R.L/10(上)
         
最終話です。

前回までのお話
第一話>>4057
第二話>>4165
第三話>>4175
第四話>>4195
第五話(A)>>4415
第五話(B)>>4596
第六話>>4652
第七話>>4659
第八話>>4663
第九話>>4665

 初人は、アダムスハンズ・ヴァストの頂上で呆然とそれを見上げていた。
 それは、恐らくデジタル・モンスターだった。ハックモンだったころの記憶と合わせても、これほど馬鹿げたサイズのモンスターは見たことがない。
 まさしく巨人だ。
 三本の角があしらわれた白銀の兜。コートのようにも見える鎧。胸の中央では、紫色の宝玉が煌めいている。
 右腕にはウォーグレイモン。
 左腕にはメタルガルルモン。
 両腕は左右で意匠が異なり、肘から下はそれぞれ別のデジタル・モンスターの生首に見えた。それが初人の目には酷く禍々しく、そして厳かに映った。首の後ろと肩口を通って浮かぶ、コウモリの翼を繋げたような羽衣が、それを神々しく見せるのだ。
 見とれている自分に気が付く。すぐにそんな場合ではないと首を横に振った。
 ……ノワールが!
 自分のせいだ。シスタモン・ノワールは「喰われる」形で失われてしまった。あの場にいたのがノワール一人だったなら助かったかも知れない。明らかに彼女は攻撃の予兆を察知して行動していた。その行動の結果がこれだ。
 ノワールはそのわずかな機会を、回避ではなく初人を庇うことに使ったのだ。
 ……くそ、くそ……ッ!
 ブランも、ノワールも。結局自分にはどちらも守ることが出来なかった。親方に任されたのに、自分は期待を裏切る形でしか結果を残せなかったのだ。否、結果を残してすらいない。
 自分がやったことといえば、ノワールの教えられたとおりにハッキングを用いただけ。アダムスハンズ・ヴァストが無力化できたのは、ノワールの手柄でしかない。
「くっそぉおッ!」
 世界を救う中二病になってみせろと言われたのだ。ならば、初人は自分ができる形で結果を残すしかない。ノワールやブランが犠牲になった分も、自分が踏ん張らなければならない。
 だが、ノワールの仇をとろうにも、彼女を取り込んだウォーグレイモンは目の前で物言わぬ巨人になっている。まだ「生まれたて」だからか、動く気配はないのだが、この存在とどう相対すればいいのか、まるで想像がつかなかった。
『もしもーし』
 文字通り蟻と象ほども差があるのだ。体格差とか、そういう次元からかけ離れている。
『あれ? 聞こえてるよな? 初人くんやーい』
 何も出来ず、巨人と同じく呆然と立ち尽くす初人。
『もしもーーーしッ! 聞こえとるかぁあーーーッ!?』
「うわああああっ!?」
 そこでようやく、初人は首に提げたゴーグルから聞こえる声に気が付いた。返事をしながら――返事と言うには言葉になっていないただのリアクションだったが――慌ててゴーグルをかける。次いで、ゴーグルから聞こえたのはガンクゥモンの怒鳴り声だった。 
『絶望に浸ってる暇はねーぞ、初人!』
 まだ道はある。親方はそう言っているのだ。
「お、親方、俺……」
『また守れなかったとか下らないこと言っちゃうなら、さすがにワシでも呆れるぞ』
「……でも」
 ガンクゥモンの言葉に、何も言い返せない。そんな自分の表情を察して、通信先の親方は咳払いをして「いいか初人」と、そんな風に続けた。
『ワシはお前に自分の道を征けと言った。そこで立ち止まることが、ハックモンの――久文初人の道なのか?』
 お前の道は、そこで終わりなのか。
『お前の正体がデジタル・モンスターだろうがケツの青い人間の子供だろうが関係ない。ここまで歩いてきたことにもうすこし自信を持て。誇りを持て。立ち止まるために進んできたわけじゃないだろ』
 ガンクゥモンは初人に言い聞かせる。父が子にモノを語るように、頼もしい声で。
『初人は結構ビッグマウスなところあるからな、言うことは立派でも重圧に耐えきれず折れそうになるのはよくわかる――』
 いつだってそうだった。
 初めて戦うことになったときも。裏切ったノワールに会いに行くと決めたときも。ブランを失ってなお、もう一度「上」に行くと決めたときも、自分は親方の言うとおり見栄を切っていたように思う。それが、なりたい自分だったから。
 だからこそ、こうしてどうすればいいのか分からない状況に、初人はひどく脆いのだと自覚している。図星を突かれて、言葉を詰まらせる。
『だがな』
 続けられたガンクゥモンの声は、どこか誇らしげに弾んでいた。恥じることはないと、言葉の外から伝わってくる。
『――お前は折れそうになるたびに、しっかり立ち上がってきたじゃないか。何度だって、戦う決意を新たにしてきただろう』
 覚悟を繰り返す度に、初人は諦めないことを選んできた。
『たしかに力はまだ弱いかも知れない。だが、弱さを知ってなお立ち向かうその心は、決して弱くなんかないよ――お前は、強い』
「親方……っ」
 嗚咽混じりの言葉は、ほとんど声になっていない。いつのまにか頬が濡れていた。
 自分のせいだと責任を感じて重たく沈んでいた心が、親方の一言でふっと軽くなるのがわかる。
『な、泣くこたないだろ』
「だって親方……俺……!」
 自分自身が認められなかったことを、こうも簡単に誰かに認めて貰えるのが嬉しいだなんて思ってもみなかった。
『ふむ、なら泣きながらでいい、ワシの話を聞いてくれ』
 初人は黙って頷いた。見えているはずはないのだが、見計らったようなタイミングでガンクゥモンは「話」を始める。
『幸いにしてその「巨人」はまだ動く気配がない。だから、いまのうちにお前に出来ることを伝えようと思う』
 確かに、彼の言うとおり目の前の「巨人」はその見た目の凶悪性に反して、なにも事を起こす気配はない……というよりも、生命としての質感というものが感じられなかった。これでは物言わぬマネキンと同じだ。
「でもどうして、ここにいないのにそんなことわかるんだ?」
 その疑問を投げるために、初人は濡れた頬をマントでぬぐって、普段の調子を崩さないように努める。親方が通信の向こうでクスリと笑うのが聞こえた。
『いいや。お前のゴーグルを通してしっかり見えているぞ、その禍々しいデカブツが』
 なるほど、と初人は内心頷いて納得する。そういえばこのゴーグルは初人のあらゆる情報をガンクゥモンに送信しているのだ。バイタルだけではなく、視覚や聴覚も親方に把握されていることを思い出す。悪いことは出来ないな、と笑う。
「それで、俺に出来ることってなんなんだ」
 同時に、自分が失敗しそうなときは彼にフォローしてもらえると思うと、その頼もしさに勇気が湧いてきた。
『まず最初に言っておく。ノワールちゃんはどうやらまだ助かる』
「……っ、なんだって!?」
 思わず「下」に向かって食い入るように叫ぶ。ノワールが助かる。それが本当なら、確かにガンクゥモンの言うとおり絶望するのは早い。だが親方になぜそんなことがわかるのか。
『さっきゲンナイの一人から聞かされた。彼女は信用出来るし確実性も高い情報だ』
 ……まだ、助かる。
 胸の内で繰り返す。親方がそう言うなら、そうなのだろう。彼の言葉には不思議と勇気づけられる。このままじゃダメだ。世界を救うよりも、と言ってはいけないのだろうが。
「どうすれば、いい……!」
 初人はいますぐにでも、ノワールを助けずにはいられないのだった。そのためなら、いくらでも立ち上がる。目の前の巨人だって、怖くない。
『そいつの名はカオスモン――と、どうやらイグドラシルでは呼んでいるらしい。ワシも「そういう奴がいる」と聞いたことがあるぐらいで、初めてこの目で見たよ』
 それは親方曰く、デジタルワールドのバグのような存在なのだという。
『存在しえない者(バグ)と呼ばれるからにはそれなりの理由がある。通常、デジタル・モンスターにはデジコアがあるのはわかるだろ』
「うん」
 デジタル・モンスターとしての記憶が戻っている今なら、親方の説明は滞りなく理解ができる。この世界に来たばかりの時とは大違いだ。そう考えると、置かれている状況に対してすでに慣れている自分に気が付いた。初人が思っていたよりも、自分はずっと冷静なのかも知れない。
「それで?」
『奴にはそのデジコアが二つあるんだ』
「……えーと?」
『まぁなんだ。言ってしまえば、デジコアとは人間でいうところの心臓や脳の役割を果たしている。つまりカオスモンは一体でありながら二体のデジタル・モンスターだということだ』
 これは、プログラムとして徹底的に矛盾している。二つのプログラムがお互いを補完するようなものですらない。Aでありながら同時にBであり、そしてどちらでもないのが目の前にいる巨人だ。
 そこまでガンクゥモンの説明を聞き終えると、初人の中で一つの疑問が生まれる。
 疑問とは、カオスモンの矛盾についてだ。
「ちょっと待って。でも、このカオスモンはウォーグレイモンから『進化』……したんだよね。デジコアが二つあるっていうなら、もう一つはどこから来たっていうんだ」
 まさか進化の過程でデジコアが生まれたワケでも、ウォーグレイモンが元々二つもっていたわけでもあるまい。
 二体のデジタル・モンスターを象徴するように、確かにカオスモンの両腕にはウォーグレイモンとメタルガルルモンの頭部がある。
 しかしこの場合、デジコアは一つしかないはずだ。
 ウォーグレイモンが自分の目の前で蒼二才のデータを吸収する場面は確かに見た。しかし、あのメタルガルルモンはブランが命と引き替えに斃された――その時点で、奴のデジコアは停止したのだから。
「ま、まって……親方、まさか」
 そこで初人は先の光景を思い出す。おそらく進化に必要な情報量を得ようとしたのだろう、ウォーグレイモンがアダムスハンズの「核」を飲み込んだときのことだ――ノワールが自分を庇い、巻き込まれていたことを。そのとき「顎」のイメージが強すぎて、初人はてっきり彼女が捕食され命を落としたとばかり思っていた。
 だがその時、もし生命活動を維持したまま取り込まれ、進化の際になんらかの影響をあたえたのだとしたら。
 否。もしだとか、だとしたらだとか。初人の推測はもう「たられば」の域を超えている。そうだ。間違いない。
「二つのデジコアの片割れは、ノワールなのか」
『ああ。そしてノワールちゃんのデジコアはウォーグレイモンのそれと融合せずにカオスモンの中に残っている。だからこそ、この状況があるんだ』
 ノワールとウォーグレイモンの相反する意志がぶつかりあっているから、こうしてまだ動かないし――助けることが出来る。
『初人。まともにやり合わなくて良い。胸の中央にある核だけを狙え』
 核が、二つのデジコアを繋ぎ止めている。あれを砕けば、カオスモンは姿を維持できずに分離するはずだとガンクゥモンは言った。
『いいか。実質、アダムスハンズ・ヴァストを無力化できたいま。もう、ワシたちの「勝ち」は、ノワールちゃんを助けることだ』
 なるほど、シンプルでいい。
 核を砕けばカオスモンは消える。ノワールは助かる。世界も、助かる。
『アダムスハンズ・ヴァストが崩れるのは時間の問題だが、ワシはまだそっちに向かえない。今度こそ初人一人きりだ――出来るか?』
 出来るか。こう聞かれて「出来ない」なんて言えるほど、まだ腐っていない。
 希望が見えた初人は、迷うことなく宣言する。
「それが、俺にしかできないことなら」
 もちろんやってみせる、と。
『――いまさらながら、ワシはお前と友達になって良かったよ。最高だ』
 通信先の親方の笑顔が見えてくるような、快活な声だった。
 ……俺も、親方と会えて良かったよ。
 気恥ずかしくて、言葉には出さない。
 その代わり、決意を持って。
 覚悟を成して。
「カオスモン」
 初人はその名をいま一度、口にする。
『そうだ初人。それがお前が超える壁の名だ。よく刻んでおけ』
 見上げるようにカオスモンを睨み付けると、巨人の瞳が僅かに輝きを増すのが分かった。
 いよいよ動き始めるのだと、直感で理解した。

     ●

 幾千のアポカリプス U.R.L -Ugly Rise Limitation.-
10/混沌、それは醜悪なる意志の終端。

     ○

 ――冷たい場所。
 ノワールの意識がまず感じ取ったのは、その「空間」を支配している孤独だった。
 真っ暗な部屋だ。出口も窓もない。四方は白い壁で囲まれているが、明かりは四隅にある蝋燭だけだった。他に置いてあるものといえば、赤い絨毯の上にアンティーク調の椅子が二つ向かい合う形であるだけで、あとはなにもない。
 気が付けば、自分は椅子の一つに座っている。
「ッハ。最後の最後で詰めを誤ったらしいな」
 向かい側には「男」が座っていた。ウォーグレイモンの姿に戻る前の、人間の姿だった。
「完全に食い殺したつもりだが。よくもまぁここまで邪魔してくれたものだよ」
 ――咀嚼せずに丸呑みしたのはアナタのミスでしょう。私に非はないわ。
「まさかこんな結果になるとは思わなかったものでね。大体、貴様の言うように咀嚼してしまったら核が砕けていたよ――しかし。嗚呼、私はまたも失敗したんだな」
 ――あんまり、悔しそうじゃないのね。
「貴様も、あまり嬉しくなさそうだ」
 ――当たり前よ。まだ、世界は救われていないもの。それどころかこんな姿になってしまって……もしかしたら、私達が、世界を壊すかも知れない。
「ッハ、失敗した甲斐があるというものだ。是非そうなることを願うよ」
 ――前々から思っていたけれど。随分と前向きなのね、アナタ。いや、後ろ向きにポジティブというべきかしら。あなたはどうして悔しそうじゃないのよ。
「愚問だ。確かに私は策を失敗させたが、この姿だから計画が失敗するわけではないからな。むしろここまで失敗を重ねたからこそ、悲願の達成というたった一つの成功を噛み締められるというものだよ。悔しがる要素など何処にも存在しない」
 ――……。
「貴様はどうだ。かつて貴様が賭けた『世界の終焉』が実現するぞ」
 ――なにを聞きたいのか、さっぱりわからないわね。皮肉だと言うことはわかるけれど。
「どういう気分だと聞いている」
 ――最悪と言いたいところだけど。残念ながら私にはそんなことを言える権利、ないわ。
「ッハ、コウモリは結果に善し悪しを述べることすら権利が必要か。難儀なことだ」
 ――なにか勘違いしているようね。私は別に、私が侵した罪で束縛されているわけではないのよ。だって私は託したもの。
「ほう?」
 ――初人くんに、可能性のすべてを。託した以上は文句は言わない。もちろん、それで私の罪が消えたことにはならないけれど……それだけのこと。
「随分とあの化石を信頼しているな。だが、あの成長期(こども)に期待を掛けるほど虚しいこともあるまい」
 ――どういうことかしら。
「どういうこともなにも。貴様は見えないのか?」
 ――見えないって、なにが――。
 続きを言いかけたタイミングで、男が指を鳴らす。乾いた音が無機質に木霊すると「部屋」の風景が少しずつ変化を見せる。
「一心同体……とはいかずとも。同位体となった貴様も感じるものはあるだろう。この身体とハックモンの間にある圧倒的な力の差は埋めようがない」
 男とノワール、そしてお互いに座っている椅子だけが取り残されている。自分たちが宙に浮いているようにも見えるのは、周囲の景色が三六〇度全方向へと鮮明に映し出されているからだ。
「貴様が奴に託した可能性とやらは、無に等しい」
 彼が見ている光景。そして自分が目にした光景は、確かに男の言葉が状況を正しく捉えていることを証明していた。
 それはすなわち、久文初人の苦戦の様子だ。
 ……初人くん。
 ノワールはそれを見つめることしかできない。この身体(カオスモン)は既に、自分の意志とは無関係に動いているのだから。


スレッド記事表示 No.4705 幾千のアポカリプス U.R.L/10(上)中村角煮2017/04/08(土) 01:20
       No.4706 幾千のアポカリプス U.R.L/10(中)中村角煮2017/04/08(土) 01:21
       No.4707 幾千のアポカリプス U.R.L/10(下)中村角煮2017/04/08(土) 01:22
       No.4708 幾千のアポカリプス U.R.L/エピローグ「これからのキミへ」中村角煮2017/04/08(土) 01:23
       No.4709 さいごがき。中村角煮2017/04/08(土) 01:34
       No.4717 だからいい と だけどいい狐火2017/05/10(水) 20:49
       No.4721 未来へのステップは続いてく夏P(ナッピー)2017/05/11(木) 22:56